タイ語の単価の相場


この記事のポイント
- ✓タイ語 翻訳 単価がどう決まるのかを
- ✓受け取る側の視点で整理しました
- ✓文字単価と時間単価の数え方
タイ語ができるので翻訳の仕事を受けたい。でも、いくらで受ければいいのか分からない。この相談、本当に多いんです。
先日も、タイ語で商品説明文を訳す依頼を受けた方から相談がありました。「1件500円でどうかと言われたのですが、これは妥当ですか」と。話を聞くと、1件あたりの文字数は800文字。時間にして1時間以上かかる作業でした。
結論から言うと、この案件は文字単価に直すと極端に低い水準です。ところが、依頼を受けた方はそれに気づいていませんでした。理由は単純で、「1件いくら」という提示のされ方をしたからです。
タイ語の単価がわかりにくいのは、相場が存在しないからではありません。数え方が複数あって、どの物差しで測っているかが提示の時点で曖昧になっているからです。この記事では、その物差しを全部並べます。自分の値付けの根拠を持てるようになるはずです。
タイ語の単価が英語より高くなりやすい理由
まず、市場の構造から見ていきましょう。ここを理解しておくと、なぜ自分の単価を安売りしてはいけないかが分かります。
翻訳の難易度に応じて、1文字(1ワード)あたりの単価が変わるケースはよく見られます。タイ語の利用者は6,000万人程度とされており、ややマイナーな言語といえます。翻訳者の人数も少なく、翻訳の難易度が高いことも特徴です。 出典: crowdworks.jp
ここに書かれている「翻訳者の人数も少なく」という部分が、単価を支えている実体です。
英語の翻訳者は日本に大勢います。だから単価は需給で押し下げられます。タイ語はそうではありません。日本語とタイ語の両方を実務水準で扱える人は限られており、しかも案件は確実に存在する。この構造が、1文字あたりの水準を英語より高い位置に置いています。
ですから、英語の翻訳単価を基準に自分の値付けをするのは間違いです。これ、知らない人が本当に多いんです。英語の相場を見て「じゃあ自分も同じくらいで」と提示してしまうと、市場の水準より低い金額を自分から言ってしまうことになります。
もうひとつ、難易度の話も押さえておいてください。タイ語は単語の間にスペースを入れません。文字数のカウント方法が英語のようなワード単位に馴染まず、原文の分量を測る作業自体に手間がかかります。声調記号や母音記号が上下に付く表記も、レイアウトの調整作業を発生させます。この「作業としての重さ」は、単価に反映されて然るべきものです。
単価の数え方は4種類ある
提示された金額を評価するには、どの物差しで測られているかを見分ける必要があります。実務で使われるのは主に次の4つです。
文字単価
原文または訳文の文字数に単価をかける方式です。翻訳案件で最も一般的です。
ここで必ず確認すべきなのが、原文と訳文のどちらで数えるかです。日本語からタイ語に訳す場合、訳文であるタイ語の方が文字数が多くなる傾向があります。原文基準か訳文基準かで、同じ作業でも報酬が変わります。
見積もりの段階で「原文の日本語の文字数を基準に」と明記してもらってください。これを曖昧にしたまま進めると、納品後に金額でもめます。
ワード単価
タイ語から日本語に訳す場合に使われることがあります。ただしタイ語は単語を分かち書きしないため、ワード数の算出には専用のツールが必要です。依頼側と受注側で数え方が食い違いやすい方式なので、採用する場合はカウント方法を先に合わせておきましょう。
時間単価
作業時間に対して支払われる方式です。翻訳より、通訳、チェック作業、問い合わせ対応で使われます。
時間単価の落とし穴は、待機時間の扱いです。オンライン通訳で「1時間の会議」と言われても、実際には接続の準備、事前資料の読み込み、終了後の確認まで含めて拘束されます。何時から何時までが報酬の対象かを、契約時に確認してください。
案件単価(1件いくら)
冒頭の相談がこの形でした。作業のまとまりに対して固定額を払う方式です。
この方式そのものが悪いわけではありません。問題は、1件あたりの分量が事前に確定していない場合です。「商品説明文1件500円」という契約で、実際には1件が800文字あることも、150文字で済むこともある。分量の上限を決めずに受けると、事実上の青天井になります。
案件単価で受けるときは、必ず「1件あたり何文字まで」という上限を入れてください。上限を超える分は文字単価で別途、という形にしておけば、どちらに転んでも損をしません。
ミニマムチャージという仕組みを知っておく
翻訳業界には、少量の依頼に対する最低料金の仕組みがあります。これは依頼する側の記事でよく説明されるのですが、受ける側にとっても重要な話です。
また、ミニマムチャージ(最低依頼料金)の有無によって料金が変わることもあります。通常であれば、文字単価15円で400文字のタイ語翻訳を依頼すると翻訳費用は6,000円です。しかし、ミニマムチャージを1万円に設定している依頼先の場合、上記の条件で翻訳を依頼するとミニマムチャージが適用されるため、翻訳費用は1万円となります。少量のタイ語翻訳を依頼する場合は、ミニマムチャージの有無によって料金が変わるので注意しましょう。 出典: crowdworks.jp
つまり、翻訳会社は少量の案件に対して最低料金を設定しているということです。これは受ける側にとって、そのまま参考にできる考え方です。
なぜ最低料金が必要かというと、翻訳の作業時間は文字数に比例しないからです。100文字の翻訳でも、依頼内容の確認、用語の調査、納品形式の調整、請求書の発行という工程は同じだけ発生します。文字数だけで金額を決めると、少量案件を受けるほど時給が下がります。
ですから、個人で受ける場合も最低受注金額を決めておいてください。3,000円なのか5,000円なのかは、皆さんの状況によります。ただ、決めていない人と決めている人とでは、1年後の疲弊度がまったく違います。
翻訳の品質管理の仕組みそのものについては、JTF翻訳品質認証が業界の品質基準を体系的に扱っています。認証の中身を知っておくと、自分がどの水準の作業まで引き受けるのかを言語化しやすくなり、料金設定の根拠にもなります。
分野によって単価は大きく変わる
同じタイ語でも、扱う文書の種類で水準は変わります。ここは値付けの重要な軸です。
一般文書と観光関連
もっとも競合が多い領域です。観光案内、飲食店のメニュー、SNSの投稿文、簡単な商品説明。専門知識がなくても訳せるため、単価は低めに落ち着きます。
入口としては悪くありませんが、ここに留まり続けると単価は上がりません。分野を移す設計を、最初から持っておくべきです。
ビジネス文書と契約関連
契約書、社内規程、取引条件書。単価は一般文書より上がります。ただし、ここには注意が必要です。
契約書を訳すことと、契約内容について助言することは別の行為です。訳文を納品したあとに「この条項は不利ではないか」と聞かれても、法的な助言にあたる可能性がある回答は避けてください。弁護士法に関連する定めがあります。「訳文の内容についてのご判断は、弁護士にご確認ください」と返すのが正しい対応です。訳す仕事と助言する仕事の線を引いておくと、自分を守れます。
技術文書と製造関連
タイには日系の製造拠点が多く、この分野の需要は安定しています。作業手順書、品質管理文書、設備のマニュアル。専門語彙が要求されるぶん、単価は上がります。
工場での勤務経験や駐在経験がある方は、この分野に入りやすいです。経験を単価に変換できる、数少ない領域です。
医療と法務
最も単価が高く、最も責任が重い領域です。誤訳が人の身体や権利に直結します。
医療通訳の案件では、専門の認定を求められることが増えています。単価だけを見て安易に入る領域ではありません。求められる水準を確認してから判断してください。
特許と知的財産
翻訳のなかでも際立って単価が高い分野です。フリーランスの特許翻訳|高単価ニッチ翻訳の始め方に、この分野の入り方と求められる知識がまとまっています。言語を問わず、特許翻訳は専門性で単価が決まる典型例なので、分野を移す方向を考えるときの参考になります。特許翻訳のフリーランス|単価相場・必要スキル・案件獲得法【2026年版】には単価の水準そのものも整理されています。
タイ語以外の言語で、分野による単価の差がどう出るかを知りたい方は、中国語翻訳の副業ガイド|需要が高いジャンルと単価の目安が参考になります。アジア言語という点で構造が近く、需要の高い分野の見つけ方が共通しています。中国語検定(中検)1級のような上位資格が単価にどう効くかという点も、タイ語に置き換えて考えられます。
翻訳する方向で単価が変わる
見落とされやすい軸をもうひとつ。訳す方向です。
日本語からタイ語への翻訳は、タイ語がネイティブの訳者に有利です。自然なタイ語を書けるかどうかが問われるからです。
タイ語から日本語への翻訳は、日本語がネイティブの訳者に有利です。読みやすい日本語に落とせるかが問われます。
この構造上、自分の母語側に訳す方向の方が、単価を高く設定しやすくなります。両方向を同じ単価で受けている方は、一度見直してみてください。得意な方向に単価を寄せ、不得意な方向は受注量を絞る。この整理だけで、時間あたりの収入は改善します。
なお、日本語に訳す仕事は日本語の表現力そのものが商品です。文章を扱う職種全体の報酬水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっており、自分の訳文にどれだけの値をつけるべきかを考える材料になります。技術系の文書を扱う場合はソフトウェア作成者の年収・単価相場の水準も見ておくと、専門性の対価がどう評価されているかが分かります。
通訳と映像翻訳は数え方が別
翻訳とは別の物差しを使う仕事があります。
通訳は時間単価です。半日、1日という単位で提示されることが多く、拘束時間で決まります。オンライン通訳が増えたことで在宅での対応も可能になりましたが、事前準備の時間が報酬に含まれるかどうかは案件ごとに違います。資料の読み込みに数時間かかる会議もありますから、ここは必ず確認してください。
映像翻訳は分単価です。映像の尺1分あたりでいくら、という数え方をします。字幕には文字数制限があり、限られた文字数に収める技術が要求されるため、通常の翻訳とは別の技能が必要です。映像翻訳・字幕・通訳のお仕事に、字幕制作の工程と納品形式がまとまっています。分単価がどのくらいの作業量に対応するのかを知っておくと、提示額の妥当性を判断できます。
タイのコンテンツが日本で配信される機会は増えており、この領域の需要は伸びています。翻訳より単価の計算が読みやすいのも特徴です。
提示額から手取りを逆算する
ここが最も重要な部分かもしれません。提示された単価と、実際に手元に残る金額は違います。
源泉徴収
翻訳の報酬は、支払う側が法人などの場合、所得税の源泉徴収の対象になることがあります。10.21%が差し引かれた金額が振り込まれる形です。差し引かれた分は確定申告で精算されるので最終的に損をするわけではありませんが、振込額が見積もりより少なくて驚く方が多いので、先に知っておいてください。
消費税
事業として報酬を受け取る場合、報酬に消費税が加算されるのが原則です。見積書に消費税の扱いを明記していないと、税込か税抜かで認識がずれます。「10円」と言われたとき、それが税込なのか税抜なのかで、受け取る金額は変わります。
仲介手数料
クラウドソーシングやエージェントを経由すると、報酬から一定の割合が差し引かれます。この差は年間で見ると相当な金額になります。
手数料0%で直接契約できる場に案件があるなら、同じ発注額でも手元に残る金額が変わります。単価そのものの交渉に労力を使う前に、どういう経路で受けているかを見直す方が効果が大きいことは、覚えておいて損はありません。
実質時給を出す
最後に、必ずやってほしい計算があります。提示された報酬から上記を差し引いた金額を、実際にかかる時間で割ることです。
かかる時間には、翻訳作業だけでなく、依頼内容の確認、用語の調査、見直し、納品、請求書の作成、修正対応まで含めてください。この計算をすると、見た目の単価が高い案件が実は割に合っていない、ということが分かります。
機械翻訳の普及で、単価はどう動いたか
避けて通れない話をします。機械翻訳の精度が上がったことで、翻訳の仕事の形が変わりました。
タイ語についても、日常的な文章であれば機械翻訳がある程度の水準で出力します。その結果、案件の一部が「ゼロから訳す仕事」から「機械の出力を人が直す仕事」に置き換わりました。ポストエディットと呼ばれる作業です。
この作業の単価は、通常の翻訳より低く設定されるのが一般的です。ゼロから訳すより早く終わる、という前提があるからです。
ただし、ここに落とし穴があります。タイ語の機械翻訳は、分野によって出力の質が大きく振れます。一般的な文章なら手直しは軽く済みますが、専門文書や、原文の日本語が曖昧な場合、機械の出力は使い物にならないことがあります。そうなると、直すより訳し直した方が早い。それなのに単価はポストエディットの水準のまま、という状態が生まれます。
ですから、ポストエディットの案件を受けるときは、必ずサンプルを見せてもらってください。実際の出力を見て、手直しの量を確認してから金額を決める。「機械翻訳の修正なので安く」という提示を、内容を見ずに受けないことです。
もうひとつ、機械翻訳が普及したことで価値が上がった作業もあります。最終的な品質を保証する立場の仕事です。翻訳会社が自社の強みとして掲げているのも、まさにこの部分です。
タイ語はアミットが最も得意とする言語の一つで、各分野に精通した専門性の高い翻訳者が揃っており、各案件に最適な訳者が翻訳することで、質の高い翻訳物を提供しています。アミットの豊富な経験と、蓄積されたノウハウに基づく高品質翻訳サービスは、お客様からの信頼も厚く、90%以上のリピーター率を誇ります。 出典: amitt.co.jp
ここで訴求されているのは「各分野に精通した専門性」と「最適な訳者を当てる」という点です。機械が置き換えにくいのは、分野の理解と、責任を持って品質を保証することです。単価を守りたいなら、この2つを自分の商品にしてください。
見積書に何を書くか
金額の認識のずれは、見積書の書き方で防げます。項目を分けて書くだけで、あとのトラブルが激減します。
書くべき項目は次のとおりです。
翻訳の対象と分量。「日本語原文3,000文字」のように、何を基準に数えたかを明記します。
単価と算出方法。「原文1文字あたり12円」という形で、原文基準か訳文基準かが分かるように書きます。
最低受注金額の適用有無。分量が少ない案件では、この行があることで説明が要らなくなります。
納期。作業日数ではなく、日付で書きます。「5営業日」と書くと、いつから数えるかで解釈が割れます。
修正対応の範囲。何回まで、どこまでの修正が単価に含まれるかを明記します。
消費税の扱い。税抜金額と消費税額を分けて書きます。
支払期日。納品からの日数ではなく、具体的な日付で合意しておくのが確実です。
これらを書いた見積書は、それ自体が契約条件の提示になります。相手が承諾すれば、条件が固まります。口頭やチャットだけで進めた案件が揉めやすいのは、この工程を飛ばしているからです。
案件をどこで受けるかで、単価は変わる
同じ作業でも、受注経路によって金額が変わります。経路ごとの特徴を整理しておきます。
翻訳会社から受ける場合、単価は比較的安定していますが、会社の取り分が乗るため、最終的な依頼主が払っている金額よりは下がります。かわりに、営業をしなくても案件が回ってくる利点があります。
クラウドソーシングで受ける場合、案件を見つけやすい反面、価格の競争が起きやすく、システム利用料が差し引かれます。実績を作る段階では有効ですが、ここに留まると単価が上がりません。
依頼主と直接契約する場合、中間の取り分がない分、同じ予算でも受け取る金額が厚くなります。そのかわり、契約や請求の実務を自分でやる必要があります。この記事で契約条項の話を丁寧にしているのは、直接契約に移る方が増えているからです。
現実的な進め方は、実績を作る段階と、単価を上げる段階で経路を変えることです。最初から直接契約だけを狙うと案件が見つからず、いつまでも仲介経由だと手取りが薄いままになります。
契約の段階で必ず確認しておくこと
法務の観点から、単価と同じくらい重要な条項をお伝えします。単価が良くても、ここが抜けていると回収できません。
まず支払期日です。2024年11月に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、いわゆるフリーランス保護新法では、発注事業者は給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めることとされています。つまり、「納品から90日後に支払い」のような条件は、この法律の対象となる取引では認められません。法律はあなたの味方です。
次に修正回数です。翻訳では「表現が気に入らない」という理由の修正依頼が発生します。無制限に応じると、実質的な時給が際限なく下がります。「修正は2回まで、それ以降は別途お見積もり」と最初に書いておいてください。
3つ目にキャンセル料です。着手後に案件が中止になることがあります。作業した分の報酬をどう扱うかを決めておかないと、まるまる無償になります。
4つ目に納品物の権利です。訳文の著作権の扱いと、実績としてサンプルに使ってよいかどうか。守秘義務がかかる案件では公開できませんから、ポートフォリオに載せられる案件かどうかを最初に確認しておきましょう。
この4点を書面にしておくだけで、トラブルの大半は防げます。契約書という形でなくても、メールでのやり取りが残っていれば証拠になります。
タイ語ならではの、分量を数える手間
単価を決める前に、そもそも分量をどう数えるかという問題があります。タイ語ではここが一手間かかります。
タイ語は単語の間にスペースを入れず、文の切れ目にだけスペースを置きます。そのため、一般的な文書作成ソフトの単語数カウント機能は、タイ語の文章を正しく数えられません。1つの文全体を1単語として数えてしまうこともあります。
文字数であれば数えられますが、今度は声調記号や母音記号を1文字として数えるかどうかで結果が変わります。ソフトによって挙動が違うため、依頼側と受注側で数字が食い違うことが起きます。
実務上の対処はふたつです。ひとつは、日本語側の文字数を基準にすること。日本語からタイ語に訳す案件でも、タイ語から日本語に訳す案件でも、日本語の文字数を共通の物差しにすれば、双方が同じ数字を見られます。
もうひとつは、数え方を見積書に明記することです。「Microsoft Wordの文字カウント機能によるタイ語の文字数」といった形で、使ったツールまで書いておく。これだけで、あとから数字がずれる余地がなくなります。
数え方でもめると、金額の話が感情的な話にすり替わります。最初に物差しを合わせておくのが、いちばん平和です。
単価が低い案件を、どう断るか
断り方の話をしておきます。ここが苦手な方が本当に多いんです。
まず、断ることは失礼ではありません。条件が合わないという事実を伝えるだけです。相手も仕事として提示しているので、条件が合わなければ次を探すだけのことです。
伝え方は簡単です。「ご依頼の分量ですと、当方の単価では合計2万円となります。ご予算に合わない場合は、分量を減らすか、納期を延ばす形でご相談いただければ調整の余地があります」。
このように、断るのではなく条件を提示する形にすると、関係が切れません。相手が予算を持っていれば通りますし、なければそこで終わります。どちらでも問題ありません。
やってはいけないのは、条件が合わないまま受けてしまうことです。一度その金額で受けると、次も同じ金額を前提に話が来ます。最初の1件で決まった単価は、あとから上げるのが非常に難しい。この構造を知っている人は、最初の提示を慎重に扱います。
そしてもうひとつ。安い案件を受け続けていると、良い条件の案件が来たときに時間が空いていません。断ることは、次の機会を取りに行くための準備でもあります。
運営者として見てきた、単価が上がる人の共通点
在宅の仕事を長く見てきた立場から、観察を書いておきます。
単価が上がっている人は、値上げの交渉が上手いわけではありません。値上げを交渉しなくてよい状態を作っています。
具体的には、扱える分野を絞って深くしています。「タイ語の翻訳ができます」ではなく「タイの製造業向けの品質管理文書を扱っています」と言える状態にする。こうなると、比較対象になる人がほとんどいなくなります。比較されなければ、価格競争は起きません。
もうひとつ、単価とは別の価値を提供しています。訳文を納品するだけでなく、原文の分かりにくい箇所を指摘する。用語集を作って共有する。次に依頼が来そうな文書を先に提案する。こうした働きかけをしている人は、発注側から「この人に任せると楽だ」と思われます。20年この市場を見てきた立場から言えば、長く続いている方は例外なくこの型です。
そして、間に何社も挟まる形の契約は、受ける側の手取りを確実に薄くします。発注側が同じ予算を出していても、途中で差し引かれる分だけ、働く人の手元に残る金額は減る。直接つながる形なら、発注側は同じ予算でより多く頼めて、受ける側の手取りは厚くなります。この構造は、単価表のどこにも書かれていませんが、年間の収入には確実に効いてきます。
翻訳以外にも語学を使う仕事はあります。英語・多言語翻訳のお仕事には多言語案件の発注のされ方が、翻訳・ライティングレッスンのお仕事には教える側に回る形の仕事がまとまっています。単価の物差しが違う仕事を複数持っておくと、収入の波を平らにできます。
自分の単価表を作る
最後に、実際に手を動かす部分をまとめます。
分野ごとに単価を分けて書き出してください。一般文書、ビジネス文書、技術文書。方向も分けます。日本語からタイ語、タイ語から日本語。そして最低受注金額を1つ決めます。修正回数の上限も決めます。
この表を持っていると、提示された条件を即座に評価できます。「その条件では受けられません」と言えるようになります。断れる人だけが、良い条件の案件に手を挙げる余裕を持てます。
単価は交渉で決まるものではなく、準備で決まるものです。表を1枚作るところから始めてください。
よくある質問
Q. タイ語の翻訳は英語より単価が高いのですか?
高くなりやすい構造があります。日本語とタイ語の両方を実務水準で扱える人が限られているためです。ただし分野によって差が大きく、観光や一般文書は競合が多いため水準は下がります。英語の相場を基準に自分の単価を決めると、市場より低い金額を自分から提示することになりかねません。
Q. 1件いくらの案件はどう判断すればよいですか?
1件あたりの文字数の上限を必ず確認してください。上限を決めずに受けると、分量が膨らんだときに実質時給が下がります。「1件あたり何文字まで、超過分は文字単価で別途」という形にしておけば、どちらに転んでも損をしません。
Q. 最低受注金額は設定すべきですか?
設定をおすすめします。翻訳の作業時間は文字数に比例せず、依頼確認、用語調査、納品、請求書の発行という工程は少量案件でも同じだけ発生するためです。翻訳会社がミニマムチャージを設けているのも同じ理由で、個人が受ける場合も同じ考え方が使えます。
Q. 報酬の支払いが遅い場合、法律上の決まりはありますか?
2024年11月施行の特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律では、発注事業者は給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めることとされています。この法律の対象となる取引かどうかは契約の形で変わるため、判断に迷う場合は弁護士にご確認ください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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