退職後に健康保険を任意継続する手続き


この記事のポイント
- ✓退職健康保険任意継続の申し出は退職日の翌日から20日以内
- ✓保険料の計算方法と上限
- ✓国民健康保険や家族の扶養との比べ方
退職日が決まったあと、次の仕事や失業給付より先に片づけないといけないのが健康保険の切り替えだ。退職健康保険任意継続という言葉にたどり着いた人が本当に知りたいのは、たいてい2つに絞られる。今の保険をそのまま続けたら保険料はいくらになるのか、そしていつまでに何を出せばいいのか。結論を先に書く。任意継続の申し出には退職日の翌日から20日という短い期限があり、これを1日でも過ぎると入れない。保険料は在職中に給与から引かれていた額のおよそ2倍になるが、上限があるため給与が高かった人ほど増え方は緩やかになる。ここでは申し込みの期限、保険料の出し方、国民健康保険や家族の扶養との比べ方、そして2年を待たずにやめるときの手続きまでを順に見ていく。
退職した翌日から、健康保険は3つの道に分かれる
会社員として入っていた健康保険は、退職日の翌日に資格がなくなる。ここで自動的に次の保険へ移ることはなく、自分で選んで手続きをしないといけない。選べる道は3つある。勤めていた会社の健康保険をそのまま2年間続ける任意継続、住んでいる市区町村の国民健康保険、そして家族が入っている健康保険の被扶養者になる道だ。
退職後の健康保険には、「健康保険任意継続」、「国民健康保険」、「ご家族の健康保険(被扶養者)」の3つの選択があります。毎月納める保険料などを比較の上、選択された健康保険にお手続ください。 出典: kyoukaikenpo.or.jp
手続き先はそれぞれ違う。任意継続なら住んでいる都道府県の協会けんぽ支部、国民健康保険なら市区町村の国民健康保険担当課、家族の扶養なら家族の勤務先だ。中小企業に勤めていた人の多くは協会けんぽ、大企業や業界団体の健康保険組合に入っていた人は組合が窓口になる。組合の場合は保険料の決め方や独自の給付が協会けんぽと違うので、退職前に組合の案内を取り寄せておくと後がすっきりする。
注意したいのは、手続きが遅れても医療費が全額自己負担のままになるわけではない点だ。国民健康保険は退職日の翌日にさかのぼって加入する扱いになるため、遅れて届け出ても空白期間はできない。ただし、その間に医療機関で全額払った分は、あとから療養費として請求し直す手間がかかる。手元に資格確認書が届くまでの数日間に受診の予定があるなら、窓口でその事情を伝えておくと精算の相談に乗ってもらえることが多い。
退職時に会社へ返すものも確かめておきたい。マイナ保険証を使っていた人は返すものがないと思いがちだが、資格確認書や高齢受給者証、限度額適用認定証が発行されている場合はすべて返却する。資格がなくなった日以降にうっかり使って受診すると、医療費を全額返すことになる。
任意継続に入れる条件と、20日という締め切り
任意継続は誰でも入れるわけではない。条件は2つで、どちらも満たさないといけない。1つ目は、退職日までに健康保険の被保険者期間が続けて2か月以上あること。転職を繰り返していて在籍が1か月半しかなかった、という場合は対象外になる。2つ目が締め切りで、退職日の翌日から20日以内に手続きを済ませることだ。
提出するのは「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」という1枚の書類で、住んでいる都道府県の協会けんぽ支部に出す。20日目が土日や祝日にあたるときは翌営業日まで延びる。郵送で出す場合は、消印ではなく20日以内に相手に届いている必要があるため、実質的には2、3日短く見ておいたほうが安全だ。退職日が月末に集中する日本の慣習だと、この20日は連休をまたぐことが多い。退職日が決まった時点で申出書を手元に用意しておき、退職日の翌日に投函するくらいの前倒しで動くのが現実的だ。
家族を一緒に被扶養者として続けたい場合は、資格取得と同時に手続きする。この際、被扶養者になる人に収入があるかどうかにかかわらず、生計を維持している関係を証明する書類の添付を求められることがある。必要な添付書類は支部によって案内が異なるので、申出書を取り寄せるタイミングで一緒に確認しておきたい。
この20日の期限は救済がほとんどない。病気で入院していたなど、やむを得ない理由が認められる例外はあるが、忙しかった、書類を用意できなかったという理由では通らない。退職の相談を受ける場面で一番多い行き違いが、この期限を「退職日から20日」と覚えていて1日ずれるケースだ。起算日は退職日ではなく、その翌日である。
保険料は在職中の2倍。ただし上限がある
在職中の健康保険料は、会社と本人が半分ずつ負担していた。退職して任意継続になると会社の負担分がなくなるので、給与明細に載っていた金額のおよそ2倍を自分で払うことになる。これが任意継続を敬遠する最大の理由だが、計算式を知っていれば実際の負担額は事前に出せる。
計算式は、退職時の標準報酬月額に住んでいる都道府県の保険料率をかけるというものだ。保険料率には子ども・子育て支援金率が含まれる。ここで効いてくるのが上限で、退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた人は、32万円として計算される。つまり月給が50万円あった人でも、任意継続の保険料は32万円相当で頭打ちになる。給与が高かった人ほど「2倍」より安く収まるのはこのためだ。
40歳から64歳までは介護保険料が上乗せされる。加入したあとに40歳になった場合はそこから介護保険料が加わり、65歳になれば外れる。この年齢による増減のほかは、都道府県の保険料率が変わったとき、標準報酬月額の上限が変わったとき、保険料率の違う都道府県へ引っ越したときを除いて、原則として2年間同じ金額が続く。在職中のように昇給で標準報酬月額が上がることはない。
納付の期限は毎月10日で、納付書か口座振替を選べる。ここは軽く扱わないほうがいい。納付期限までに納めないと、その時点で任意継続の資格がなくなる。うっかり忘れた、口座の残高が足りなかった、という理由でも資格は戻らず、国民健康保険に入り直すことになる。口座振替にしておくのが無難だ。
まとめて払う前納の制度もある。6か月分か12か月分を前もって納めると、年4パーセント(複利現価法による計算)の割引を受けられる。納め忘れによる資格喪失も防げるので、退職金などで一時的に手元資金があるうちに前納してしまう人は多い。前納できる区切りは4月から9月、10月から翌年3月、4月から翌年3月で、年度の途中で加入した人は資格を取得した月の翌月分からとなる。
納めた保険料の領収証書は捨てないこと。確定申告で社会保険料控除に使う大事な書類で、再発行はしてもらえない。独立して初めての確定申告をする人は、この一年分の領収証書が控除額を左右する。
任意継続で受けられる給付と、受けられない給付
医療機関の窓口で払う割合は、在職中と変わらない。69歳までは3割、70歳から74歳までは原則2割で、退職時の標準報酬月額が一定額以上あった人は3割になる。高額療養費や療養費、埋葬料といった給付も、原則として在職中と同じように受けられる。
任意継続の場合の医療費負担はこれまでと変わりません。69歳未満の人は3割、70歳から74歳までの人は2割(一定の所得がある人〈退職時の標準報酬月額が28万円以上〉は3割)です7)。 出典: manekomi.tmn-anshin.co.jp
一方で、見落とすと影響が大きいのが傷病手当金と出産手当金だ。傷病手当金とは、病気やけがで働けない間に健康保険から生活費の一部が出るお金のこと。出産手当金は出産で仕事を休んだ間に出るお金だ。任意継続では、この2つについて在職中から続けて受け取っている場合に限って、引き続き申請できる。退職してから、つまり任意継続になってから発生した病気やけが、出産については支給されない。
ここは選び方を左右する。療養のために退職する人が「任意継続にすれば傷病手当金がもらえる」と考えるのは誤りで、正しくは在職中に傷病手当金の受給が始まっていれば、退職後も条件を満たす限り受け取り続けられる、ということだ。退職日の前日までに連続して3日休み、退職日に出勤していない、といった条件が絡むので、療養中に退職を考えているなら退職日を決める前に協会けんぽの支部へ相談したほうがいい。
任意継続を続けている間に住所や氏名が変わったときは変更届、家族の被扶養者に増減があったときは異動届を出す。加入者本人が就職して新しい健康保険に入ったとき、後期高齢者医療制度に移ったとき、そして次に触れる自分から脱退を申し出るときは「資格喪失申出書」が必要になる。
国民健康保険とどちらが安いかを決める手順
任意継続と国民健康保険のどちらが安いかは、人によって逆転する。国民健康保険の保険料は前年の所得と世帯の人数、住んでいる市区町村の料率で決まるため、同じ収入でも自治体が違えば金額が違う。だから一般論で「任意継続のほうが得」と決めることはできず、必ず自分の数字で比べる必要がある。
手順は3つだ。1つ目、任意継続の月額を出す。退職時の標準報酬月額(32万円を超えるなら32万円)に、住んでいる都道府県の保険料率をかける。40歳以上64歳以下なら介護保険料率も足す。2つ目、市区町村の国民健康保険担当課に電話して、前年の所得と世帯構成を伝えて試算してもらう。窓口でもウェブの試算ツールでも構わない。3つ目、家族の健康保険に扶養として入れるかどうかを確かめる。
ここで必ず伝えるべきなのが、会社都合で辞めた場合の軽減だ。倒産や解雇など自分の意思によらない理由で離職し、雇用保険の受給資格者証にある離職理由コードが特定の番号に当たる人は、国民健康保険料の計算で前年の給与所得を100分の30として扱ってもらえる。つまり前年に給与所得が200万円あった人でも60万円とみなして計算される。この軽減が適用されると、国民健康保険が任意継続を大きく下回ることが珍しくない。試算を頼むときは「会社都合の離職です」と最初に言うこと。
試算を頼むときに用意しておくとよいのは、前年の所得が分かる資料だ。源泉徴収票か確定申告書の控え、それに世帯の家族構成が分かるもの。市区町村によってはウェブに保険料の早見表や試算ツールを出しているので、電話が繋がりにくい時期はそちらでおおよその額をつかんでおき、数字が近ければ窓口で確定させるという進め方でもいい。国民健康保険には所得が低い世帯の均等割と平等割を7割、5割、2割減らす軽減もあり、これは申請しなくても所得の申告さえ済んでいれば自動で当たる。退職して収入が途切れた年は、この軽減が効いて想像より安く収まることがある。
もう1つ、2年目の逆転も頭に入れておきたい。任意継続の保険料は原則2年間変わらないが、国民健康保険は前年の所得で毎年計算し直される。退職した年は前年の給与が高いので国民健康保険が高く出るが、独立や休養で収入が落ちた翌年は国民健康保険が一気に下がる。2年目の途中で国民健康保険へ切り替えると安くなる人は多い。
家族の扶養に入れるなら、そこが一番安い
配偶者や親が会社員で、その健康保険の被扶養者になれるなら、保険料の負担はゼロになる。被扶養者の保険料は追加で発生しないからだ。金額だけを見れば、これが三択の中で最も軽い。
条件は日本年金機構が示している。年間収入が130万円未満(60歳以上または障害のある人は180万円未満)で、同居しているなら収入が扶養する人の収入の半分未満、別居なら仕送り額未満であること。この年間収入は過去の実績ではなく、これから1年間の見込み額で見る。給与なら月額108,333円以下、雇用保険などの受給者なら日額3,611円以下が目安になる。
退職直後に引っかかりやすいのが失業給付の扱いだ。雇用保険の失業等給付は、この年間収入に含まれる。待期期間中は収入要件を満たしていれば扶養に入れるが、基本手当が日額3,612円以上で支給され始めた時点で扶養から外れる届出が必要になる。給付が終わったあとに改めて扶養に入り直す人も多い。退職前に年収が高かった人ほど基本手当の日額は大きくなるので、扶養と失業給付を同時に当てにする計画は立てないほうがいい。
配偶者の扶養に入る場合、20歳以上60歳未満なら国民年金の第3号被保険者になり、国民年金保険料の負担もなくなる。これは健康保険とセットで手続きするものなので、被扶養者の届出をするときに一緒に済ませる。手続きをするのは家族の勤務先で、本人が市区町村に出しに行くものではない。家族に「被扶養者異動届を会社へ出してほしい」と頼む形になるので、退職日が決まったら早めに伝えておきたい。
被扶養者として認められるかどうかの判断は、健康保険を運営している側が行う。同じ130万円未満という基準でも、独立して事業所得を得ている人の場合は、収入から必要経費のうち何を引いて判定するかが運営元によって異なることがある。開業してすぐの時期に扶養に入りたいなら、家族の勤務先を通じて、どの書類でどう判定されるのかを先に確かめるのが確実だ。見込みで入れると思い込んで手続きを進めると、あとから資格をさかのぼって取り消され、その間の医療費を返すことになりかねない。
2年を待たずにやめるとき、2年が終わるとき
任意継続の期間は2年間だが、途中で抜けることはできる。資格がなくなるのは、就職して他の健康保険に入ったとき、保険料を納付期限までに納めなかったとき、後期高齢者医療制度の対象になったとき、亡くなったとき、そして任意継続をやめたいと自分から申し出たときだ。
この最後の「やめたいと申し出る」経路があることは、意外と知られていない。以前は自分の意思では抜けられず、保険料をわざと滞納して資格を失わせるという不自然なやり方が語られていたが、今は資格喪失申出書を出せば正規の手続きで抜けられる。2年目に国民健康保険のほうが安くなったら、申し出て切り替えればいい。
2年が満了したあとは、就職していなければ国民健康保険に入るか、家族の扶養に入ることになる。満了の時期は決まっているので、満了する月の少し前に市区町村の窓口で国民健康保険の保険料を試算してもらい、切り替えの手続き日を決めておくと空白ができない。
資格を失ったあとは、発行されている資格確認書をすみやかに返す。返したあとにうっかり使うと、かかった医療費を全額返すことになる。国民年金についても、扶養から外れる、あるいは厚生年金に入らない状態が続くなら、第1号被保険者としての加入手続きが別に必要になる。健康保険の手続きだけで終わったつもりにならないことだ。
申し出てから使えるようになるまでの流れ
書類を出してから実際に保険が使えるようになるまで、何がどう届くのかを知っておくと不安が減る。まず申出書を支部に出すと、内容が確認され、保険料の納付書が送られてくる。初回の保険料を納めると被保険者としての取り扱いが確定し、資格情報のお知らせや、必要な人には資格確認書が届く。
初回の保険料には期限があり、指定された日までに納めないと最初からなかったことになる。20日以内に申出書を出しても、初回の納付を忘れたら加入は成立しない。申出書を出したあとは、納付書がいつごろ届くのか、初回の納付期限はいつなのかを支部に確認しておきたい。郵便の事情で納付書の到着が遅れることもあるので、1週間たっても届かなければ問い合わせたほうがいい。
この間に医療機関にかかる必要が出たら、マイナ保険証が使えるかどうかで対応が変わる。使える場合はオンラインで資格が確認できるようになるまで少し待つ必要があり、その間に受診したときは、いったん全額を払っておいて、あとから療養費として請求し直す形になる。急ぐときは受診前に支部へ電話して、資格を証明する書類を出してもらえないか相談するのが早い。
2年目以降も手続きが必要かというと、基本的には不要だ。保険料を納め続けている限り、更新の申請をしなくても任意継続は続く。ただし引っ越しをしたときは住所変更の届出が要る。保険料率は都道府県ごとに違うため、他県へ引っ越すと保険料そのものが変わる。転居のときは市区町村の住所変更とは別に、協会けんぽの支部にも届け出ることを忘れないようにしたい。
退職日を月末にするか月の途中にするかで変わること
退職日をいつにするかは、健康保険と厚生年金の保険料の負担に直結する。仕組みとしては、健康保険も厚生年金も「資格を失った日が属する月の前月まで」の保険料がかかる。資格を失う日は退職日の翌日なので、3月31日に退職すると資格喪失日は4月1日となり、3月分の保険料まで会社を通じて納めることになる。一方、3月30日に退職すると資格喪失日は3月31日で、その月は資格喪失月にあたるため、3月分の健康保険料と厚生年金保険料は発生しない。
月末の1日前に辞めれば1か月分が浮くように見えるが、そう単純ではない。会社の保険を抜けた3月分は、国民年金の第1号被保険者としての保険料や、国民健康保険料が自分にかかってくる。厚生年金は将来の年金額に反映されるので、1か月分の記録が減ることも意味する。手取りの月額だけで判断せず、翌月以降の負担も合わせて見てほしい。
もうひとつ、退職日をまたいで有給休暇を消化する場合、最終出社日ではなく在籍の最終日が退職日になる。任意継続の20日の起算点はこの在籍最終日の翌日なので、最終出社から数週間空いているときは、いつが退職日なのかを人事に書面で確認しておくと間違えない。離職票や資格喪失証明書に書かれた日付が正式な退職日になる。
医療費が高額になりそうなときの扱い
任意継続でも国民健康保険でも、1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた分が戻ってくる高額療養費の仕組みは使える。高額療養費とは、同じ月にかかった医療費の窓口負担が上限を超えたとき、超えた分があとから払い戻される制度のこと。入院や手術の予定があるなら、退職後の保険をどちらにするかと合わせて、この上限額がいくらになるかを確かめておきたい。
上限額は年齢と所得の区分で決まる。令和8年8月に区分ごとの金額が見直され、70歳未満で年収がおおよそ370万円から770万円の区分は、月85,800円に医療費の1パーセントを加えた額が上限となり、あわせて年間の上限も新しく設けられた。以前から広く出回っている「80,100円+1パーセント」という数字は現在のものではないので、古い解説を鵜呑みにしないほうがいい。
会社都合で辞めて国民健康保険の軽減を受ける場合、前年の給与所得を100分の30として扱う取り扱いは、保険料だけでなく高額療養費の自己負担限度額の判定にも及ぶ。つまり軽減が効くと、上限額の区分そのものが下がり、医療費の負担も軽くなる。療養が必要な状態で退職する人にとっては、保険料の差額以上に効く論点だ。
入院が決まっているなら、窓口での支払い自体を上限額までにとどめる手続きもある。マイナ保険証を使えば別途の認定証がなくても限度額までの支払いで済むことが多く、そうでない場合は限度額適用認定証を事前に取り寄せる。任意継続に切り替えたばかりの時期は資格確認書が届くまで日数がかかるので、入院予定があるなら申出書を出すときに支部へその旨を伝えておきたい。
任意継続をめぐってよくある思い違い
在職中と同じ保険を続けるという言葉から、会社にいたときの扱いがそのまま続くと考えてしまう人は多い。実際には切り替わる部分がいくつもある。
まず、健康診断や人間ドックの補助だ。会社が独自に上乗せしていた健診補助や、健康保険組合の保養所、スポーツ施設の割引といった付加的なサービスは、退職すると使えなくなるものが多い。協会けんぽの一般的な健診は任意継続でも対象になるが、会社が費用を持っていた人間ドックは自己負担になる。退職前に健診を済ませておくほうが金銭的には合理的だ。
次に、被扶養者を増やしても保険料が変わらない点。任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額をもとに決まるので、あとから家族を被扶養者に加えても保険料は上がらない。一方、国民健康保険は加入する人数に応じた均等割があるため、世帯の人数が増えるほど保険料が上がる。家族が多い世帯で任意継続が有利になりやすいのは、この違いがあるからだ。
そして、保険料が「あとから安くなる」ことは基本的にない。国民健康保険には所得が下がったときの減免や、災害にあったときの減免があるが、任意継続の保険料は退職時の標準報酬月額で固定されるため、独立後に収入が落ちても下がらない。収入が大きく減る見通しなら、2年目に国民健康保険へ切り替える選択肢を早めに検討したほうがいい。
退職して独立する人が押さえておく順番
退職して会社員に戻らず、業務委託や個人事業として働き始める場合、健康保険の選択は単独では決められない。同じ時期に国民年金の切り替え、住民税の納付、そして初年度の確定申告が重なってくるからだ。
順番としては、退職日の翌日から20日以内に健康保険を決めて出す、これが最優先。次に国民年金の第1号被保険者への切り替えを市区町村で行う。国民年金保険料は令和8年度で月額17,920円で、収入が少ない時期なら免除や納付猶予の申請もできる。住民税は前年の所得に対してかかるため、退職した年の6月以降にまとまった額の納付書が届く。この3つを見込まずに任意継続の保険料だけで資金計画を立てると、独立1年目の夏に資金が細る。
20年にわたって在宅とフリーランスの市場を見てきた運営者の立場から言うと、独立直後につまずく人の多くは、案件が取れないからではなく、固定費の見積もりが甘いところから崩れている。会社員時代は保険料も年金も住民税も給与から自動で引かれていたので、手取りの感覚しか持っていない。独立するとこれが全部、自分で払う支出として目の前に出てくる。任意継続を選ぶか国民健康保険を選ぶかで月に数千円から1万円強の差が出ることもあり、その差額は初年度の資金繰りでは決して小さくない。
同時に、独立後の収入の作り方でこの負担感は変わる。中間マージンが乗らない直接取引なら、依頼する側は同じ予算でより多くの仕事を頼めるし、受ける側は同じ仕事量で手取りが厚くなる。手数料0%の強みは、単価が跳ね上がることではなく、同じ売上でも手元に残る額が違うという質の差にある。保険料や年金を自分で払う立場になると、その差が毎月の現金として効いてくる。長く続いている人ほど、単発の作業を数でこなすのではなく、繰り返し頼まれる関係づくりに時間を使っている。
保険料を払い続けられる収入設計から逆算する
任意継続を選ぶにせよ国民健康保険を選ぶにせよ、月々の保険料は固定費として2年近く続く。だから「どちらが数千円安いか」だけで考えるより、その固定費を無理なく払える収入の柱を作るほうが効く。退職後の働き方を決めるときは、自分のスキルがどの相場帯で評価されるのかを先に確かめておきたい。
たとえば開発系の経験がある人なら、ソフトウェア作成者の年収・単価相場で、正社員の年収だけでなく業務委託としての単価の目安まで把握できる。文章を書く仕事に寄せるなら、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が、編集や執筆でどのくらいの水準が現実的かを示している。どちらも公的統計をもとにした相場で、退職前の給与と比べれば、独立後にどれだけ稼働すれば同じ生活水準を保てるかが逆算できる。
仕事の種類そのものを広げたいなら、案件の中身から探すのが早い。生成AIの導入や社内展開を手伝うAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、事業会社側の知見をそのまま持ち込める領域で、会社員として企画や情報システムに関わっていた人と相性がいい。発注が安定しているのはアプリケーション開発のお仕事で、既存システムの改修や運用保守まで含めると、在宅で長期の契約になりやすい。
空白期間を資格取得に充てるという選択もある。ネットワークの実務を証明したいならCCNA(シスコ技術者認定)が、インフラ系の案件で書類選考を通す材料になる。事務や編集寄りの仕事に進むならビジネス文書検定のように、実務の作法をそのまま示せる資格のほうが効く。いずれにしても、任意継続の2年間という区切りは、次の働き方を固めるための猶予として使える期間だ。
独立後の経費の扱いについては、個人事業主の保険料は経費にできる?仕訳と確定申告の方法に整理がある。健康保険料や国民年金保険料は経費ではなく社会保険料控除として扱うなど、初年度に間違えやすい論点がまとまっているので、確定申告の前に一度通して読んでおきたい。保障を厚くする方向に関心があるなら、30代の生命保険おすすめ|子育て世代の保障設計が、公的保険で足りない部分をどう埋めるかという視点で書かれている。
最後に、制度の金額や要件は年度で変わる。保険料率も標準報酬月額の上限も、国民年金保険料も毎年見直されている。この記事に書いた数字は執筆時点で全国健康保険協会と日本年金機構の案内を確認したものだが、実際に申し込む前には必ず自分が住んでいる都道府県の支部と市区町村の窓口で、その時点の金額を確かめてほしい。個別の事情によって扱いが変わる論点も多く、窓口で名前と状況を伝えて聞くのが結局いちばん早い。
よくある質問
Q. 退職してから20日を過ぎてしまった場合、任意継続はもう選べませんか?
原則として選べません。任意継続の申し出は退職日の翌日から20日以内と決まっており、この期限を過ぎると受け付けてもらえません。その場合は市区町村の国民健康保険に加入するか、家族の健康保険の被扶養者になる道を選びます。国民健康保険は退職日の翌日にさかのぼって加入する扱いになるため、無保険の期間はできません。
Q. 任意継続の保険料は具体的にどう計算しますか?
退職時の標準報酬月額に、住んでいる都道府県の保険料率(子ども・子育て支援金率を含む)をかけて出します。退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた場合は32万円で計算するため、給与が高かった人ほど負担の増え方は緩やかです。40歳から64歳までは介護保険料が上乗せされます。
Q. 任意継続と国民健康保険、どちらが安いですか?
人によって逆転するので、必ず自分の数字で比べます。国民健康保険は前年の所得と世帯人数、市区町村の料率で決まるためです。倒産や解雇で離職した人は、国民健康保険の計算で前年の給与所得を100分の30として扱う軽減があり、これが適用されると国民健康保険のほうが大きく安くなることがあります。
Q. 任意継続の途中で国民健康保険に切り替えられますか?
できます。任意継続をやめたい旨を申し出たときは資格がなくなる事由のひとつとされており、資格喪失申出書を提出すれば正規の手続きで抜けられます。任意継続の保険料は原則2年間変わらない一方、国民健康保険は毎年前年の所得で計算し直されるため、収入が下がった2年目に切り替えると安くなる人がいます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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