児童養護施設を辞めたいと思ったとき|出ていく前に切り分けておくこと

長谷川 奈津
長谷川 奈津
児童養護施設を辞めたいと思ったとき|出ていく前に切り分けておくこと

この記事のポイント

  • ✓児童養護施設を辞めたいと感じたとき
  • ✓子どもとの関係による消耗かを切り分ける方法を解説します
  • ✓宿直や残業の法的な扱い

児童養護施設を辞めたい。そう検索した方に、まずお伝えしたいことがあります。辞めたいという気持ちは1つでも、その中身は3種類に分かれます。労働条件が法律の枠を外れている状態、施設の体制に無理がある状態、そして子どもとの関係で消耗している状態。この3つは原因も対処も違うのに、混ざったまま「もう無理だ」になっている方が本当に多いんです。

結論から言います。切り分けをしないまま辞めると、次の職場でも同じところでつまずきます。逆に、切り分けができれば「辞める」以外の手が見つかることがあります。この記事では、法令の線引きがどこにあるのかを具体的に示したうえで、辞める前にやっておくこと、辞めるとしても後で効く手順、そして施設を変える場合と職種を変える場合の考え方を整理します。法律は、あなたの味方です。

辞めたい理由は、同じ顔をして3種類ある

最初に切り分けの作業をします。紙に書き出してみてください。ここ1か月で「もう無理だ」と思った場面を、思い出せるだけ挙げます。そのうえで、それぞれを次の3つのどれかに振り分けます。

1つ目は、労働条件の問題です。残業が終わらない、休みが取れない、宿直明けにそのまま日勤が続く、有給を申請しても通らない、手当が付かない。これらは法令に照らして白黒がつく領域です。つまり、あなたの頑張りや気持ちの問題ではなく、事業所が法律を守っているかどうかの話です。

2つ目は、施設の体制の問題です。相談できる上司がいない、引き継ぎの仕組みがない、その時間帯に職員が自分1人しかいない、判断の基準が人によって違う。法令違反ではないけれど、働き続けるのが難しい状態です。これは施設を変えれば解決することが多い領域です。

3つ目は、子どもとの関係で消耗している状態です。叱り方が分からない、暴言をぶつけられて立ち直れない、頑張っても手応えがない、自分が向いていないと感じる。この領域は、職場を変えても付いてきます。

現場からは、この3つが混ざった形で声が上がります。

児童養護施設で働きたいと思い、見学に行ったのですが、そこは退職者が多く、人がいないと聞きました。ボランティアで児童養護施設へ行った時、子供たちは「病んで辞める大人が多いよ」と話しているのを聞きました。実際どうですか?休みがない、残業が多い、子供との関係、などネットには書いてありますが具体的にはどうですか? 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

「休みがない、残業が多い、子供との関係」。この3つが並んでいるのが象徴的です。前の2つは制度で対処できる問題で、最後の1つは別の対処が要ります。まずここを分けてください。

労働時間と休日が、法律の枠に収まっているかを確認する

1つ目の切り分けから入ります。ここは数字で判断できるので、いちばんはっきりします。

時間外労働には上限規制があります。労使間で結ぶ36協定を結んでいても、原則は月45時間、年360時間まで。特別条項を付けた場合でも、年720時間以内、単月100時間未満、複数月の平均が80時間以内、という上限を超えることはできません。つまり、月100時間を超える残業は、どんな協定を結んでいても違法です。

現場では、こういう数字が語られることがあります。

児童養護施設の職員は休みが取れない、残業が200時間、メンタルが強くないと出来ないというのは本当ですか 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

月200時間の残業は、上限規制の2倍です。これが事実なら明確な法令違反で、我慢する話ではありません。ただし、ここで注意が要ります。児童養護施設の勤務には、時間外労働として計算されない時間が混ざっているからです。

それが宿直です。宿直や日直は、労働基準法第41条第3号にいう断続的労働にあたるものとして、労働基準監督署の許可を受けて実施されます。つまり、許可を受けた宿直の時間は労働時間・休憩・休日の規制の外に置かれ、通常の残業代ではなく宿直手当が支払われる仕組みです。これ、知らない人が本当に多いんです。

ただし許可には条件があります。宿直中の業務は、原則として定時的な巡視や緊急の文書対応など、ほとんど労働する必要のない業務に限られます。宿直中に通常の業務、たとえば記録作成や子どもの対応が連続して発生しているなら、それは断続的労働の実態を外れています。その場合、その時間は通常の労働時間として扱われるべきで、深夜22時から午前5時の時間帯であれば25%以上の深夜割増も付きます。

休日と有給についても確認しましょう。時間外の割増賃金は25%以上、法定休日の労働は35%以上、月60時間を超える時間外は50%以上です。年次有給休暇については、年10日以上付与される労働者に対して、使用者が年5日は時季を指定して取らせる義務があります。つまり「忙しいから有給は無理」は、事業所側の言い分として通りません。

自分の状態がこの枠に収まっているかを確かめるには、勤務実績を自分で記録するのが確実です。労働条件の相談先としては、各都道府県労働局や労働基準監督署に置かれた総合労働相談コーナーがあり、厚生労働省のサイト(https://www.mhlw.go.jp/ )から窓口を確認できます。※明確な未払いがある、退職を妨げられている、といった個別の事案は、労働基準監督署か弁護士に相談してください。ここで書いているのは一般的な枠組みの話です。

施設の体制に無理があるのか、を見分ける

2つ目の切り分けです。法令違反ではないけれど働き続けられない、という状態があります。

この職場の1日を思い出してください。朝6時台に子どもを起こし、朝食を出し、学校へ送り出す。子どもがいない午前中に洗濯、掃除、買い出し、記録、関係機関との連絡を詰め込む。午後3時を過ぎると子どもが帰ってきて、就寝までほぼ止まらない。この密度自体はどの施設も似ています。差が出るのは、そこに何人いるかと、判断を誰と共有できるかです。

体制の問題が出ているサインは、次のようなものです。困ったときに誰に聞けばいいかが決まっていない。同じ場面で職員ごとに対応が違い、子どもがそれを使い分けている。引き継ぎがメモ1行で、前日に何があったか分からないまま勤務に入る。事故やけがが起きたときの手順が共有されていない。小規模化した生活単位で、その時間帯に自分1人という状態が常態化している。

小規模化そのものは、子どもにとって良い方向の変化です。国は2017年に示された新しい社会的養育ビジョン以降、大舎制から小規模グループケアや地域小規模児童養護施設への移行を進めてきました。ただし、建物を分けただけで職員配置と相談体制を整えなかった施設では、働く側の孤立が一気に進みます。判断を1人で下し続けることが、この仕事でいちばん人を削ります。

体制の問題であるかどうかを見分ける質問は1つです。「同じ仕事を、別の施設でやったら楽になりそうか」。答えがはっきり「はい」なら、これは体制の問題です。施設を変えれば解決する可能性が高い。児童養護施設は全国に600か所前後あり、運営法人も方針も本当にばらばらです。1つの施設を見て業界全体を判断するのは、材料が少なすぎます。

なお、体制を内側から変えようとした人たちの記録も残っています。

児童養護施設普恵園(現:きずな)は戦後まもなく、法制定直後に開設された歴史ある施設です。しかし、1999年に経験のない施設長へと交代後から、児童の人権を認めないような運営や極端な営利主義など、「子どもを守れない」状況が生じたことから、私たちは労働組合を結成する決意をしました。 出典: jichiro.gr.jp

労働組合の結成は、労働組合法で保障された権利です。組合に加入したこと、結成したことを理由とする不利益な取り扱いは不当労働行為として禁止されています。1人でも加入できる合同労組もあります。※実際に動く前に、労働組合の相談窓口や弁護士に話を聞いてください。

子どもとの関係で消耗しているときの対処

3つ目です。ここは法律では解けません。でも、対処法はあります。

この職場に来る子どもは、大人への信頼が一度壊れた状態で入所しています。だから新しく入った職員はほぼ必ず試されます。わざと指示に従わない、暴言を吐く、その直後に甘えてくる。これは、この大人はどこで自分を見捨てるのかを確認する行動です。理屈で分かっていても、毎日ぶつけられれば削られます。

そして、削られる人ほど真面目です。相談の内容は、たいてい同じ形をしています。これまで人に怒りをぶつけずに我慢してきたので、子どもが何かしたときの叱り方や諭し方が分からない。我慢に慣れすぎて、どこからが怒っていい線なのか、自分が理不尽な扱いを受けているのかどうかも判断がつかなくなっている。そういう声です。

自分が理不尽な態度を取られているのかどうか分からない。この状態は危険です。感覚が鈍っているのではなく、判断の基準を自分1人で作ろうとして疲れきっているだけです。

現場で共有されている解き方は、基準を先に決めておくことです。人を傷つけること、自分を傷つけること、物を壊すこと。この3つは止める。それ以外は、その場で判断せずに職員間で相談する。この線を自分の外側に置くと、感情で反応しなくて済みます。そして止めるときは、行為だけを止めて人格に触れない。「その手を離して」とは言っても、「あなたはひどい子だ」とは言わない。

もう1つ。すでに眠れない、食欲がない、出勤前に涙が出る、という状態が2週間以上続いているなら、切り分けの前に医療機関にかかってください。この段階で「向いていないから辞める」と決めるのは、判断力が落ちた状態での決断になります。休職という選択肢もあります。傷病手当金は、健康保険の被保険者が病気やけがで働けない場合に、要件を満たせば支給される制度です。辞めてから気づく人が多いのですが、在職中に手続きを始めたほうが選択肢は広くなります。

辞める前に残しておくと、後で効くもの

切り分けの結果どうするにせよ、今のうちにやっておくと後で効くことがあります。

1つ目は勤務実績の記録です。出勤時刻と退勤時刻、宿直の日、休憩が取れたかどうかを、手帳でもスマートフォンのメモでも構わないので毎日残します。未払い賃金を請求する場合、賃金請求権の消滅時効は当面3年とされています。つまり、過去にさかのぼって請求できる余地があるということです。ただし、請求するには「実際に働いた時間」を示す資料が要ります。タイムカードの写しやシフト表があれば保管しておいてください。

2つ目は就業規則と雇用契約書の確認です。退職の申し出は何日前と書かれているか、有給の残日数は何日か、退職金規程はあるか。社会福祉法人であれば、退職手当共済制度に加入している施設が多く、勤続年数に応じた給付があります。これを知らずに辞めた人が実際にいます。

3つ目は、自分がやってきたことの棚卸しです。担当した子どもの年齢層、施設の形態、記録として書いてきた内容、関わった関係機関。これは次の職場の面接でそのまま使えます。個人情報は絶対に持ち出せませんが、自分が何をやってきたかを言語化しておくことは持ち出しではありません。

期間の定めのない雇用契約の場合、退職の申し入れから2週間が経過すれば契約は終了する、というのが民法の原則です。就業規則に「3か月前に申し出ること」と書かれていても、それを理由に退職そのものを拒むことはできません。もっとも、子どもの生活を引き継ぐ職場ですから、現実には引き継ぎの期間を取って辞めるほうが後味が良い。※有期契約の場合は扱いが変わるので、契約書を持って相談窓口へ行ってください。

辞めるのではなく、働き方を変えるという道

ここが本題かもしれません。辞めたい理由が労働条件や体制にあるなら、この仕事自体を手放さなくていい可能性があります。

まず、施設を変える。前述のとおり、施設ごとに運営方針も体制もばらばらです。大舎制は複数の職員が同じフロアにいるので相談しながら進められます。小舎制や地域小規模児童養護施設は家庭に近い関わりができる代わりに、1人で判断する密度が上がります。いま消耗しているのが孤立であれば、大舎制に移るだけで負荷が変わります。

次に、勤務形態を変える。常勤で宿直込みのローテーションが生活と噛み合わなくなったなら、非常勤や派遣で時間帯を固定する契約に切り替える道があります。学習支援の非常勤、夕方から夜だけのアルバイト、逆に宿直専従という募集もあります。紹介予定派遣で施設の雰囲気を確かめてから直接雇用に移る形も選べます。収入は下がりますが、続けられる形にすることが最優先の局面はあります。

そして、職種を変える。子どもの生活を直接担当する立場から、事務、栄養、調理、看護といった裏方に移る人がいます。同じ施設の中で異動する例もあります。現場を知っている事務職は、措置費の請求でも子どもの状況を理解して書けるので重宝されます。

最後に、児童福祉の外に出る。児童養護施設で身につけた技術は、思っているより広く通用します。記録を書く力、関係機関と調整する力、感情の高ぶった相手と話す力。これらは他分野でも希少です。福祉分野の収入水準を横に並べて確認したい方は、職種別の賃金構造を整理した介護職員の年収・単価相場が比較の出発点になります。保育士資格をお持ちなら、勤務先ごとの収入差をまとめた保育士の年収・単価相場のほうが近い比較です。医療職の方であれば看護師の年収・単価相場で、施設勤務と病院勤務の差を確認できます。

人の話を聞いて整理し、次の一歩を一緒に決める。児童養護施設の職員が毎日やっているこの作業は、国家資格として体系化されています。受験ルートと学習範囲をまとめたキャリアコンサルタントを見ておくと、現場で身につけたものに名前が付きます。実際に相談を受ける仕事がどう成り立っているかは、職場・転職・キャリア相談のお仕事に業務の流れが整理されています。

転職先として現実的に見える範囲

施設を離れると決めた場合に、どこへ行く人が多いのかを整理します。ここを知らないまま辞めると、選択肢を狭く見積もってしまいます。

いちばん近いのが、同じ社会的養護の枠内にある別の施設です。乳児院、児童自立支援施設、母子生活支援施設、自立援助ホーム、児童心理治療施設。どれも児童福祉法に基づく施設で、児童養護施設で積んだ経験がそのまま評価されます。中でも自立援助ホームは、義務教育を終えて働きながら暮らす若者を支える場で、定員が少なく、関わり方が濃くなります。子どもの生活を丸ごと背負うことに疲れた方には合いませんが、1人ずつ深く関わりたい方には向いています。母子生活支援施設は、子どもだけでなく母親も支援の対象になるため、関わりの中心が大人へ移ります。

次に近いのが、通いの子ども支援です。放課後等デイサービス、児童発達支援、学童保育、児童館。いずれも夕方までに終わることが多く、宿直がありません。生活リズムが崩れることに耐えられなくなった方が移る先として、実際に選ばれています。ただし、通いの支援は保護者との関係が業務の中心に入ってきます。毎日の送り迎えで顔を合わせ、家庭の状況を聞き取り、連絡帳を書く。施設では距離があった保護者対応が、こちらでは日常になります。この違いを確認せずに移ると、別の疲れ方をします。

行政側へ移る道もあります。児童相談所の児童福祉司や児童心理司、市区町村の子ども家庭支援の窓口、スクールソーシャルワーカー。施設の中から見ていた仕組みを、外側から動かす立場になります。多くは公務員採用や会計年度任用職員の枠なので、募集時期が限られます。社会福祉士や精神保健福祉士の資格が要件になっていることが多いため、在職中に取得しておくと選べる幅が広がります。

福祉の外に出る人も一定数います。よく選ばれるのは、人材系の会社でキャリア支援や採用支援をする仕事、医療機関や福祉施設の事務、企業の相談窓口、そして文章や記録を扱う仕事です。これは意外に思われるかもしれませんが、児童養護施設の職員は毎日ケース記録を書いています。事実と解釈を分けて、時系列で、第三者が読んで分かるように書く。この訓練を受けた人は、報告書や議事録を任せられる人材として普通に通用します。

どの方向に行くにしても、在職中にやっておくと有利なことが2つあります。1つは資格です。実務経験の年数が要件に入る資格は、辞めてしまうと積み上がりません。社会福祉士の受験資格を実務経験ルートで狙っている方は、必要な年数を確認してから退職時期を決めてください。もう1つは、関係機関とのつながりです。学校、児童相談所、医療機関、地域の支援団体。名刺を交換した相手がどの分野にいるかを整理しておくと、転職活動で情報が入ってきます。

辞めた後の手続きで、損をしないために

退職の前後で手続きを踏み外すと、金銭的にも時間的にも損をします。順番に押さえます。

離職票は、失業給付の手続きに必要な書類です。退職後に事業所がハローワークへ手続きをして、そこから交付されます。手元に届くまで2週間前後かかることがあるので、退職時に「いつごろ発行されるか」を確認しておいてください。ここで重要なのが離職理由の記載です。自己都合と会社都合では、失業給付の受給開始時期と給付日数が変わります。長時間労働が続いていた、ハラスメントがあった、といった事情がある場合は、自己都合と書かれていても異議を申し立てられます。その際の根拠になるのが、先ほど書いた勤務実績の記録です。

失業給付については、自己都合で退職した場合の給付制限期間が2025年4月から原則1か月に短縮されています。以前は2か月でした。これ、知らない人が本当に多いんです。制度は変わるので、退職を考えた時点でハローワークの最新の案内を確認してください。

健康保険は、退職の翌日に資格を失います。選択肢は3つで、前の健康保険を任意継続する、国民健康保険に入る、家族の扶養に入る、のいずれかです。任意継続は退職日の翌日から20日以内という期限があり、これを過ぎると選べません。国民健康保険の保険料は前年の所得で決まるため、退職直後は高く感じられることがあります。どちらが安いかは自治体の窓口で試算してもらえます。

年金も同じ日に切り替わります。厚生年金から国民年金の第1号被保険者になる手続きを、市区町村の窓口で行います。収入がない期間は保険料の免除や納付猶予を申請できます。未納のまま放置すると、将来の年金額だけでなく障害年金の受給要件にも響くので、必ず申請してください。

社会福祉法人に勤めていた方は、退職手当共済制度の給付も確認します。福祉医療機構が運営する制度で、勤続年数に応じた退職手当が支給される仕組みです。施設が加入していれば、退職時に施設経由で請求します。自分から聞かないと案内されないことがあるので、事務担当者に確認してください。

そして、住まいの問題です。施設の職員は職員寮や借り上げ住宅に住んでいることがあります。退職と同時に退去期限が来るため、転職先を決めるより先に住まいの確保が必要になる場合があります。※退去の猶予期間は法人ごとに違うので、退職を申し出る前に就業規則と寮の規程を確認しておいてください。ここを見落として、次を決める時間が足りなくなった方を何人も見ています。

市場を見てきた立場からの、ひとつの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から、はっきり言えることがあります。福祉の現場を離れた方の多くは、仕事が嫌になったのではありません。働き方の選択肢が1つしかないと思い込んだまま、力尽きています。そして数年後、別の入り口から戻ってくる方を何度も見てきました。

運営者として見てきた限りでは、長く続く人ほど、単発の作業を追いかけるのではなく「この人に任せると楽だ」という関係を少しずつ作っています。これは施設の中でも、外の仕事でも同じです。中間業者が入らない直接取引の仕事は、依頼者から見れば同じ予算でより多く頼めて、受け手から見れば手取りが厚くなります。その厚みが、次の選択をする時間を生みます。

私自身の話を少しだけ書きます。独立して相談を受け始めた頃、私は労働時間の相談が来ると、条文と判例を並べて説明していました。上限規制はこうです、割増賃金の計算はこうです、と。それで相手が動けると思っていたんです。でも、実際には何も変わらないことが多かった。後になって分かったのは、相談に来る方の大半が、すでに判断力が落ちるところまで削られていたということでした。正しい情報を渡しても、それを使って行動する余力が残っていない。だから今は、まず何が起きているかを分けて書き出す作業から一緒にやります。切り分けは、次の一手を決めるためというより、自分の状態を外から見るための作業です。この順番を変えただけで、相談の結果がはっきり変わりました。

もう1つ、失敗から学んだことがあります。以前、就業規則に退職は3か月前と書かれていた方に、民法の原則を説明して「2週間で辞められます」とだけ伝えたことがありました。法的にはその通りです。でもその方の職場は子どもの生活を引き継ぐ現場で、急に抜けると担当していた子が不安定になる状況でした。結局その方は引き継ぎを終えてから辞めましたが、私の説明は現場の事情を無視していた。法律は権利の下限を示すものであって、どう使うかは働く人が決めることです。以来、条文を伝えるときは必ず「使うかどうかはあなたが決めていい」と添えるようにしています。

最後に、私が相談を受けていて毎回お伝えしていることを書きます。辞めるかどうかを、いちばん消耗している日に決めないでください。切り分けの作業をして、労働条件の問題なら証拠を残す、体制の問題なら別の施設を見る、関係の問題なら人に話す。この順番を踏んだ後の決断は、たいてい後悔しません。法律も制度も、あなたを守るために作られています。使っていい仕組みです。

よくある質問

Q. 児童養護施設の残業が月100時間を超えています。これは違法ですか?

時間外労働の上限規制では、36協定に特別条項を付けた場合でも単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間以内を超えることはできません。ただし労働基準監督署の許可を受けた宿直の時間は断続的労働として別扱いになります。宿直中に通常業務が連続している場合は労働時間として扱われるべきなので、勤務実績を記録したうえで労働基準監督署に相談してください。

Q. 有給休暇を申請しても「人がいないから」と断られます?

年10日以上の有給が付与される労働者については、使用者が年5日は時季を指定して取得させる義務があります。つまり忙しさは取得させない理由になりません。まず就業規則と有給の残日数を確認し、書面やメールで申請して記録を残してください。それでも取得できない場合は、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談する方法があります。

Q. 辞めたい理由が子どもとの関係のときはどうすればいいですか?

職場を変えても付いてくる領域なので、まず対処を試してください。止める基準を先に決めておく方法が現場で共有されています。人を傷つける、自分を傷つける、物を壊す、この3つは止め、それ以外は職員間で相談する。行為を止めても人格には触れない。なお、眠れない状態が2週間以上続いているなら、判断の前に医療機関を受診してください。

Q. 退職を申し出たのに「3か月は辞められない」と言われました?

期間の定めのない雇用契約であれば、退職の申し入れから2週間が経過すれば契約は終了するのが民法の原則です。就業規則に3か月前と書かれていても、それを理由に退職そのものを拒むことはできません。ただし有期契約の場合は扱いが異なります。雇用契約書を持って労働基準監督署か弁護士に相談してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月27日最終更新:2026年9月17日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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