自宅で仕事をする社長の家賃|どこまで会社の経費にできるか


この記事のポイント
- ✓自宅を仕事場にしている役員の家賃を会社の経費にする方法は2つあります
- ✓持ち家なら会社に貸す形です
- ✓確定申告が必要になる条件
会社を作る前は個人事業主だった、という人がいちばん戸惑うのがこの論点です。個人事業のときは、自宅の家賃のうち仕事に使っている割合を経費にできました。同じことを法人でやろうとすると、話がまったく変わります。
結論から書きます。法人の場合、役員の自宅の家賃を会社の経費にする道は2つです。賃貸に住んでいるなら、会社が家主と契約して役員に貸す社宅の形にすること。持ち家、あるいは自分が借りている部屋の一部を仕事場にしているなら、会社がその部分を役員から借りて家賃を払う形にすること。この2つ以外に、会社が役員の家賃を肩代わりする正しい経路はありません。
そしてどちらの道を選んでも、金額の決め方と書類の残し方が問われます。この記事では、2つの道をそれぞれ見たうえで、按分の考え方、確定申告が必要になる条件、住宅ローン控除への影響までを順に整理します。
個人事業のときの「家事按分」は、法人にそのまま持ち込めない
まず、なぜ扱いが変わるのかを押さえます。
個人事業主の場合、事業主本人と事業は同じ人格です。だから自宅の家賃のうち仕事に使った割合を、そのまま事業の必要経費に振り替えられます。これを家事按分といいます。家賃を払ったのも自分、仕事をしたのも自分なので、割合で分ければ済みます。
法人になると、会社と役員は別の人格になります。役員が自分の名義で借りた部屋の家賃は、役員個人の支出です。会社の支出ではありません。だから、会社の帳簿に「家賃のうち3割」と書いても、それは会社が払っていない費用を計上していることになります。
つまり、会社の経費にするには、会社と役員のあいだに何らかの取引を作る必要があります。会社が家主から借りるか、会社が役員から借りるか。この2通りしかない理由は、ここにあります。
この違いを理解していないまま、個人事業のときと同じ処理を続けている会社があります。決算のときに指摘されると、その費用が経費から外れるだけでなく、役員に対する給与として扱われる可能性もあります。会社が役員個人の支出を肩代わりしたことになるからです。
道1:賃貸に住んでいるなら、社宅にするのが本筋
役員が賃貸物件に住んでいて、そこで仕事もしている場合、いちばん効果が大きいのは部屋全体を社宅にする形です。
仕組みはこうです。会社が家主と賃貸借契約を結び、その部屋を役員に貸します。役員は会社に一定額を払います。国税庁はこの一定額を賃貸料相当額と呼んでいて、この金額以上を受け取っていれば給与として課税されないとしています。
賃貸料相当額は、実際の家賃ではなく固定資産税の課税標準額から計算します。小規模な住宅なら、建物の課税標準額の0.2%、12円に総床面積を3.3で割った数を掛けた額、敷地の課税標準額の0.22%の合計です。小規模な住宅とは、法定耐用年数が30年以下の建物なら床面積132平方メートル以下、30年を超える建物なら99平方メートル以下の住宅を指します。詳しい計算式は役員に社宅などを貸したときにまとまっています。
この形が有利なのは、仕事に使っている割合を計算しなくてよいからです。部屋全体が社宅なので、按分という考え方が出てきません。実際の家賃と賃貸料相当額の差が、そのまま会社の負担になり、会社の経費になります。家賃の7割から9割が会社の負担になることも珍しくありません。仕事で使う割合が3割だからといって3割しか経費にできない、という話ではないわけです。
ただし条件があります。契約の名義が会社であること。国税庁は、入居者が直接契約している場合の家賃負担は社宅の貸与とは認められず、給与として課税されるとしています。すでに個人名義で借りている場合は、家主に法人契約への切り替えを相談する必要があります。更新の時期に合わせると話が進みやすくなります。
家主が法人契約に応じない場合は、この道は使えません。そのときは次に説明する形を検討することになります。
道2:自宅の一部を会社に貸して、家賃を受け取る
持ち家に住んでいる場合、あるいは家主が法人契約に応じない賃貸に住んでいる場合の選択肢がこちらです。
役員が自宅の一部を会社に貸し、会社がその対価として家賃を払います。会社にとっては地代家賃という費用になり、経費として扱われます。役員にとっては、その家賃が収入になります。
この形の要点は3つです。
1つめ、賃貸借契約を書面で結ぶこと。貸す範囲、家賃の金額、支払日、契約期間を書きます。口頭の合意だけでは、後から説明できません。
2つめ、会社が実際に役員へ家賃を振り込むこと。帳簿上だけの処理にせず、お金を動かします。
3つめ、金額が相場から離れていないこと。近隣の同程度の物件の相場と、実際に使っている面積の割合から説明できる金額にします。
すでに賃貸に住んでいる役員がこの形を使う場合は、もう一段の確認が要ります。部屋を又貸しすることになるので、賃貸借契約で転貸が禁止されていないかを見ます。禁止されている場合は家主の承諾が必要です。
按分の割合をどう決めるか
会社に貸す面積の割合をどう決めるかが、この道の中心になります。基準は自分で選べますが、選んだ理由を説明できることが条件です。
いちばん使われているのが床面積による按分です。総床面積のうち、仕事に使っている部屋の面積が占める割合を出します。70平方メートルの住まいのうち、14平方メートルの1室を仕事専用にしているなら20%です。専用の部屋があると説明しやすくなります。
部屋を専用にできない場合は、使用時間で按分する方法もあります。リビングの一角を平日の日中だけ使っているなら、1週間のうち何時間使っているかを計算します。ただしこの方法は、面積按分より根拠が弱くなりやすいところです。
廊下やトイレのような共用部分をどう扱うかも決めておきます。仕事用の部屋の面積だけで計算するのがいちばん説明しやすく、共用部分を含めると割合が上がるぶん、根拠を問われやすくなります。
決めた割合は、根拠とともに記録に残します。間取り図に仕事用の部屋を色分けして、面積と計算式を書き添えた紙を1枚作っておけば十分です。これがあるかないかで、後から聞かれたときの説明の速さが変わります。
割合を決めたら、その割合を家賃に掛けた金額が、会社が役員に払う家賃の目安になります。持ち家の場合は家賃という支払いがないので、近隣の相場を調べて、同程度の物件の家賃に割合を掛ける形で決めます。不動産情報サイトで似た条件の物件を探し、その賃料を印刷して残しておくと根拠になります。
会社に貸すと、役員側に確定申告が必要になる
ここが見落とされやすい部分です。会社から家賃を受け取ると、役員個人にその分の収入が発生します。
不動産の貸付けによる収入は不動産所得になります。国税庁の不動産収入を受け取ったときによれば、不動産所得の金額は総収入金額から必要経費を引いて計算します。必要経費にできる主なものとして、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費が挙げられています。
そして重要なのがここです。給与をもらっている人は、給与以外の所得が20万円以下なら確定申告をしなくてよい、という話を聞いたことがあると思います。ところが役員の場合、この扱いが適用されません。
しかし、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人(確定申告をすれば税金が還付される人は除きます。)は、確定申告をしなければなりません。 4 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人 出典: nta.go.jp
同族会社とは、ごく少数の株主で株式の大半を持っている会社のことで、中小企業のほとんどが該当します。その会社から資産の賃貸料を受け取っている役員は、金額がいくらであっても確定申告が必要になるということです。月1万円の家賃でも対象です。
この手間を面倒だと感じるなら、そもそも会社に貸さないという選択もあります。会社の経費が増える金額と、毎年の確定申告にかかる手間を比べて判断してください。
もっとも、必要経費を引いた結果、不動産所得がほとんど残らない、あるいは赤字になることもあります。持ち家であれば減価償却費や固定資産税を按分して引けるからです。その場合でも申告自体は必要です。
持ち家なら、家賃以外にも引けるものがある
自分で持っている家の一部を会社に貸す場合、役員側の不動産所得の計算で、いくつかの費用を必要経費にできます。ただし、すべて仕事に使っている割合で按分します。
固定資産税と都市計画税は、按分して必要経費になります。
建物の減価償却費も同様です。建物の取得価額をもとに、構造ごとに決められた年数で配分した金額のうち、按分した部分を引きます。土地は減価償却の対象になりません。
損害保険料、修繕費、管理費も按分の対象です。
住宅ローンがある場合は、利息の部分だけが必要経費になります。元本の返済は経費になりません。返済額のうちいくらが利息かは、金融機関から届く返済予定表で確認します。
ここで注意したいのが、これらは役員個人の不動産所得の計算で使うものであって、会社の経費ではないということです。会社が経費にできるのは、役員に払った家賃だけです。2つの計算を混ぜないようにしてください。
住宅ローン控除への影響を先に確かめる
持ち家で住宅ローン控除を受けている場合、この点を必ず先に確認してください。後から気づくと損失が大きくなります。
住宅ローン控除の適用要件には、床面積に関する条件が含まれています。国税庁の住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合によれば、床面積が50平方メートル以上であり、かつ床面積の2分の1以上を専ら自分の居住のために使っていることが求められます。
つまり、自宅の半分以上を会社に貸してしまうと、住宅ローン控除そのものを受けられなくなります。仕事用の面積を増やして経費を大きくしようとすると、控除を失うという結果になりかねません。
さらに、事業用に使っている部分については控除の対象から外れる扱いがあります。居住用の割合が高ければ全体について控除を受けられる場合もありますが、条件が細かいので、自分の状況に当てはまるかは税務署に確認してください。
住宅ローン控除の金額は年間で数十万円になることもあります。会社の経費を数万円増やすために、その控除を失うのでは本末転倒です。数字を並べて比べてから決めてください。
会社と役員の取引には、承認の手続きがいる
もうひとつ、税金とは別の話があります。会社法の話です。
会社法は、取締役が自分のために会社と取引をしようとするときは、株主総会において重要な事実を開示して承認を受けなければならないと定めています。取締役会がある会社では、株主総会ではなく取締役会の承認になります。
役員が自宅を会社に貸すのは、まさに「取締役が自己のために会社と取引をする」場面です。だから承認の手続きが必要になります。条文は会社法で確認できます。
手続きといっても難しいことはありません。株主総会か取締役会で、誰の所有する物件のどの部分を、月いくらで借りるのかを説明し、承認を得た旨を議事録に残します。株主が代表者1人だけの会社でも、書類としては作ります。
この議事録があると、税務の面でも役に立ちます。金額を決めた経緯と根拠が書面で残るからです。賃貸借契約書、按分の計算を書いた紙、そして承認の議事録。この3つがそろっていれば、説明に困る場面はほとんどなくなります。
家賃以外の費用はどう分けるか
自宅を仕事場にしていると、家賃以外にもいくつか費用が混ざります。
水道光熱費は、仕事で使った分を会社の経費にできる余地があります。ただし按分の根拠を示すのが家賃より難しい費目です。電気代なら仕事で使う機器の消費電力と使用時間から計算する、あるいは面積按分を準用するといった方法があります。水道代とガス代は、仕事との関係を説明しにくいので、含めないという判断をしている会社も多いところです。
通信費は、インターネット回線と携帯電話が対象になります。仕事専用の回線を引いているなら全額、兼用なら使用時間や用途で按分します。仕事用の携帯電話を会社名義で契約してしまうほうが、按分の議論が要らなくなるぶん簡単です。
駐車場は、仕事で車を使っているかどうかで変わります。営業で使っているなら按分の対象になりますが、私用が中心であれば会社の経費にはなりません。
町内会費や自治会費は、住むことに伴う費用なので、会社の経費にはしないのが一般的です。
いずれの費目も、按分の根拠を残しておくという原則は同じです。割合を決めた理由を1枚の紙にまとめておけば足ります。
消費税の扱いを間違えない
もうひとつ押さえておきたいのが消費税です。処理を間違えると、後から修正が面倒になります。
国税庁は住宅の貸付けを非課税としています。一戸建てのほかマンション、アパート、社宅、寮なども住宅に含まれます。
ただし、非課税になるのは住宅として貸す場合です。契約で住宅用に使うことが明らかにされているもの、あるいは契約に用途の記載がなくても実際に住宅として使われていることが明らかなものが対象になります。つまり、自宅の一部を事務所として会社に貸す場合は、住宅の貸付けには当たらないと整理されるのが通常です。
この違いは、役員が消費税の課税事業者かどうかにも関係します。範囲の詳細は住宅の貸付けの案内で確認できます。判断に迷う場合は、契約書を作る前に税務署か税理士に相談してください。
金額を大きくしすぎるとどうなるか
経費を増やしたいという動機から、按分の割合や家賃の金額を実態より大きくしたくなる場面があります。ここで何が起きるかを見ておきます。
会社が役員に払う家賃が、近隣の相場や実際の使用状況から見て高すぎると判断されると、その超えている部分は家賃ではなく役員に対する給与として扱われる可能性があります。
給与として扱われると、2つの問題が同時に起きます。ひとつは、その部分が定期同額給与などの型に当てはまらなければ、会社の経費から外れること。もうひとつは、役員側で給与として課税されることです。会社では経費にならず、個人では課税される。いちばん損な形になります。
もうひとつ、毎月の金額が動くことにも注意が要ります。会社が継続して役員に与えている利益は、その額が毎月おおむね一定であることが前提になっています。月によって家賃の金額を変えていると、そこを問われる余地が生まれます。家賃は年単位で固定し、変えるなら契約を結び直すという運用にしてください。
適正な範囲に収めるには、根拠を数字で示せる状態にしておくことです。近隣の相場を調べた資料、面積の按分を示した図、そのどちらもが数十分で用意できます。
書類として何を残すか
ここまでの内容を、残すべき書類の形で整理します。
社宅の形を選んだ場合は、会社名義の賃貸借契約書、賃貸料相当額の計算過程を書いた紙、固定資産税の課税標準額の根拠、社宅規程、そして給与からの天引きが分かる給与明細です。
自宅を会社に貸す形を選んだ場合は、役員と会社のあいだの賃貸借契約書、按分の根拠を示した間取り図と計算式、近隣の相場を調べた資料、承認を得た株主総会か取締役会の議事録、そして家賃を振り込んだ記録です。
どちらの形でも、毎年見直す項目があります。社宅なら固定資産税の課税標準額、自宅を貸す形なら近隣の相場と使用状況です。年に1回、決算の前に確認する時間を取っておくと、数年分をまとめて直す事態を避けられます。
書類を作る作業そのものは、慣れれば1日で終わります。問題は、それを毎年続けられる体制があるかどうかです。
数字を入れて、会社と個人の両方を見る
抽象的な説明だけでは判断できないので、具体的な金額で並べます。
賃貸に住んでいて、家賃が月12万円、住まいの床面積が60平方メートル、そのうち12平方メートルの1室を仕事専用にしている、という状況を考えます。按分の割合は20%です。
自宅の一部を会社に貸す形を選ぶと、会社が役員に払う家賃は12万円の20%で月2万4,000円になります。年間で28万8,000円が会社の経費になります。役員側では、この28万8,000円が不動産所得の収入になります。賃貸なので減価償却費はなく、必要経費にできるのは家主に払っている家賃のうち按分した部分です。つまり収入と経費がほぼ同額になり、不動産所得はほとんど残りません。それでも確定申告は必要です。
同じ部屋を社宅にする形を選ぶと、まったく違う数字になります。仮に賃貸料相当額が月3万5,000円と計算されたとします。会社が家主に12万円を払い、役員から3万5,000円を受け取るので、会社の負担は月8万5,000円、年間で102万円が会社の経費になります。役員側に不動産所得は発生しないので、確定申告も要りません。
差は大きいです。会社の経費で年間73万円ほど違い、しかも確定申告の手間もありません。賃貸に住んでいるなら、まず社宅の形を検討すべきだと言えるのはこの理由です。
持ち家の場合は社宅の形が使えないので、自宅を会社に貸す形になります。ただし持ち家なら、役員側の不動産所得の計算で減価償却費や固定資産税を按分して引けるため、所得が抑えられます。場合によっては赤字になり、他の所得と通算できることもあります。
数字はあくまで一例です。賃貸料相当額は固定資産税の課税標準額で決まるので、物件によって大きく変わります。自分の物件で計算し直してください。
登記上の本店を自宅にしている場合
自宅を会社の所在地として登記しているケースは非常に多いところです。ここでよくある誤解を解いておきます。
登記上の本店が自宅であることと、家賃を経費にできることは別の話です。登記は住所を公示する手続きであって、会社がその場所を借りているという契約の代わりにはなりません。本店を自宅で登記していても、賃貸借契約がなければ会社の経費にはなりません。
逆に、本店を別の場所で登記していても、実際に自宅で仕事をしているなら、その部分を会社に貸す形をとれます。登記と契約は独立しています。
ただし、賃貸物件を本店として登記する場合は、契約上の用途に注意が必要です。住居専用として借りた物件を事業の本拠地にすると、賃貸借契約に違反する可能性があります。契約書の用途の欄を確認し、必要なら家主の承諾を得ておいてください。分譲マンションでは管理規約で事業利用が制限されていることもあります。
郵便物の受け取りと、来客の扱いも実務上の論点です。自宅の住所が登記簿に載ると、誰でも取得できる登記事項証明書に住所が記載されます。それを避けたいという理由で、バーチャルオフィスや事務所を借りる会社もあります。その場合の費用は会社の経費になりますが、自宅の家賃を経費にする話とは切り離して考えてください。
勘違いしやすい5つの点
相談事例を見ていると、つまずく箇所はほぼ共通しています。
1つめ、契約書を作らずに会社の帳簿へ家賃を計上しているケースです。役員と会社のあいだに契約がなければ、支払いの根拠がありません。
2つめ、家賃を実際に振り込んでいないケースです。帳簿に未払金として残したまま何年も経っていると、実態がないと見られます。
3つめ、按分の割合を根拠なく決めているケースです。仕事で使う割合を50%としているのに、専用の部屋がひとつもない、という状態は説明が難しくなります。
4つめ、承認の手続きを踏んでいないケースです。役員が会社と取引をするには承認が必要です。議事録がないと、会社法の面でも税務の面でも根拠が弱くなります。
5つめ、住宅ローン控除への影響を確認していないケースです。会社の経費を数万円増やすために、数十万円の控除を失うという結果になりかねません。
どれも、契約書と根拠の紙と議事録の3点を最初にそろえておけば防げます。作業としては半日で終わる内容です。
家族が所有する家に住んでいる場合
役員本人ではなく、配偶者や親が所有する家に住んでいるという状況もよくあります。この場合の扱いを整理します。
所有者が家族であれば、会社と契約を結ぶ相手はその家族になります。役員ではない家族が会社に部屋を貸し、会社が家賃を払う形です。この場合、役員が自分のために会社と取引をするわけではないので、前に説明した承認の手続きが必ず必要になるとは限りません。ただし、役員の配偶者との取引は実質的に利益が相反すると見られる余地があるため、念のため議事録を残しておくほうが安全です。
家族側では、受け取った家賃が不動産所得になります。その家族が給与をもらっている人で、他に所得がなければ、給与以外の所得が20万円を超えるかどうかで申告の必要が変わります。ただし、同族会社の役員の親族で一定の要件に当たる人は、金額にかかわらず申告が必要になる場合があります。自分が対象になるかは税務署に確認してください。
注意したいのは、家族が役員本人と生計を一にしている場合の扱いです。個人事業の世界では、生計を一にする親族に支払う地代家賃は必要経費にならないという決まりがあります。法人の場合は会社と個人が別人格なので、この決まりがそのまま当てはまるわけではありません。ただし、金額が相場から離れていれば、その部分が役員に対する給与や贈与として問題になる可能性があります。
もうひとつ、家族が所有する家を無償で会社に使わせているというケースもあります。この場合、会社は費用を払っていないので経費は発生しません。会社が得ている利益を収入として計上する必要があるかは、状況によって判断が分かれるので、処理の前に確認してください。
帳簿にどう書くか
会計処理を整理します。単純な処理ですが、科目を決めておかないと担当者が迷います。
会社が役員に払う家賃は、地代家賃という費用の科目で処理します。支払った日付で計上します。給与とは別の取引なので、給与の科目に混ぜてはいけません。混ぜると、定期同額給与の金額がずれて見えます。
支払いは振込にします。現金で渡すと記録が残りにくく、実際に払ったことを示しにくくなります。毎月同じ日に同じ金額を振り込む設定にしておけば、通帳だけで説明できる状態になります。
社宅の形を選んだ場合は、家主への支払いが地代家賃、役員から受け取る金額が受取家賃などの収益、あるいは地代家賃のマイナスです。どちらの方法でも結果は同じですが、毎期同じ方法にします。
水道光熱費や通信費を按分している場合は、按分した金額だけを会社の費用として計上します。全額を計上して後から差額を戻すという処理にすると、按分の根拠が見えにくくなります。
役員側の処理も必要です。不動産所得の計算では、収入と必要経費を記録した帳簿が求められます。青色申告を選んでいるなら記帳の要件もあります。会社の帳簿と個人の帳簿は別なので、両方を用意してください。
処理そのものは毎月数分で終わります。決めるべきは科目と金額と支払日で、それを最初に決めてしまえば、あとは同じ作業の繰り返しになります。
税務調査で見られるのは3点
この論点について調査が入った場合、確認されるのはほぼ次の3点です。
1つめ、契約書があるか。役員と会社のあいだの賃貸借契約書、あるいは会社名義の賃貸借契約書です。貸す範囲と金額、支払日が書かれているかを見られます。
2つめ、実際にお金が動いているか。会社の通帳と役員の通帳、あるいは給与からの天引きの記録です。契約書の金額と一致しているかを照合されます。
3つめ、金額の根拠があるか。按分の割合をどう決めたのか、近隣の相場をどう調べたのか。社宅の形なら、賃貸料相当額の計算過程と固定資産税の課税標準額の根拠です。
この3点がそろっていれば、説明はすぐ終わります。逆に、どれかが欠けていると、金額が妥当かどうかの議論に入ることになり、時間がかかります。
もうひとつ、水道光熱費や通信費を按分している場合は、その根拠も同じように問われます。家賃と同じ割合を使っているなら、そう決めた理由を書いておけば足ります。
書類は、作った年の分だけでなく毎年分を残します。按分の割合や相場が変わっていないかを年に1回確認して、その確認の記録も一緒に保管しておくと、数年分をまとめて説明する場面でも困りません。
固定費を増やす前に、変動費で試す
在宅ワークや業務委託の市場を20年見てきた立場から言うと、自宅を仕事場にしている会社が次に迷うのは、事務所を借りるかどうかです。
自宅を仕事場にしている段階では、家賃の負担は生活費と一体なので、会社の固定費としてはほとんど増えません。ここで事務所を借りると、毎月の固定費が一段上がります。しかも賃貸借契約は数年単位なので、売上が落ちても簡単には解約できません。
運営者として見てきた限りでは、立ち上がりの時期に苦しくなる会社は、この順番を早まっています。人を増やす前に場所を借り、場所の分だけ固定費が上がったところで入金の遅れが重なる。場所は仕事を生みません。
自宅を仕事場にしたまま、人に頼む部分を業務委託で回せば、費用は仕事量に応じて動かせます。場所を借りる判断は、その仕事が毎月あると確認できてからでも遅くありません。
そして、外に仕事を出すときの経路も結果を変えます。仲介の手数料が乗ると、同じ予算で頼める量が減り、受ける側の手取りも薄くなります。手数料0%の直接取引が意味を持つのは、金額の大小よりも、依頼する側と受ける側の双方が続けやすい条件になるという点です。長く続く人ほど、単発の作業を積み上げるのではなく、この人に任せると楽だという関係を作ることに時間を使っています。
相場を見ながら、どこに費用を置くかを決める
事務所を借りる代わりに、同じ金額を人に使うとどうなるか。判断の材料になるのが職種ごとの相場です。
開発を外に出す場合の水準は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場に職種別の数字が並んでいます。事務所の年間家賃と並べて比べると、どちらが事業を前に進めるかが見えてきます。
資料や文章の作成を任せたい場合は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安です。契約書や社内規程のような定型の文書は、形式が決まっている分だけ外に出しやすい作業にあたります。
どういう案件が実際に出ているかを見ておくと、外注できる範囲の感覚がつかめます。業務の流れを整理して自動化まで設計する領域ならAIコンサル・業務活用支援のお仕事、集客や情報の管理まで含めて見てもらうならAI・マーケティング・セキュリティのお仕事、社内の仕組みを自前で作るならアプリケーション開発のお仕事が近い領域です。
個人側の税金の扱いを押さえておきたい場合は、確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツに控除の考え方が整理されています。役員として受け取った資金をどう置くかであれば、【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオが長期の視点を示しています。職種ごとの収入差を俯瞰したい場合はUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】が参考になります。契約書や議事録の作成を担当者に任せる体制を作るなら、ビジネス文書検定のような基準を目安にする方法もあります。
自宅の家賃を会社の経費にするという話は、金額としては月数万円の世界です。それでも押さえておく価値があるのは、ここで作る書類の形が、会社と役員のあいだの他の取引にもそのまま使えるからです。契約書を作り、根拠を残し、承認の議事録を残す。この3点を一度やっておけば、次の取引で迷いません。
よくある質問
Q. 個人事業のときと同じように、家賃を按分して経費にできますか?
できません。法人では会社と役員が別の人格なので、役員個人が払った家賃を会社の帳簿に按分して載せることはできません。会社の経費にするには、会社が家主と契約して役員に貸す社宅の形にするか、役員が自宅の一部を会社に貸して会社が家賃を払う形にするかの、どちらかの取引を作る必要があります。処理を間違えると役員への給与として扱われる可能性があります。
Q. 賃貸と持ち家では、どちらの方法が有利ですか?
賃貸なら社宅の形が有利です。部屋全体を社宅にできるため按分の計算が要らず、実際の家賃と賃貸料相当額の差がそのまま会社の負担になります。家賃の7割から9割が会社の負担になることもあります。持ち家の場合は自宅の一部を会社に貸す形になり、仕事に使っている割合だけが対象です。ただし賃貸でも家主が法人契約に応じない場合は、貸す形を検討することになります。
Q. 自宅を会社に貸すと確定申告が必要になりますか?
必要です。同族会社の役員がその会社から資産の賃貸料を受け取っている場合は、金額の大小にかかわらず確定申告の対象になると国税庁が定めています。給与以外の所得が20万円以下なら申告不要という扱いは適用されません。中小企業のほとんどは同族会社にあたるため、月1万円の家賃でも申告が必要になります。
Q. 住宅ローン控除を受けていても、自宅を会社に貸せますか?
貸せますが、影響を確認してから決めてください。住宅ローン控除の要件には、床面積の2分の1以上を専ら自分の居住のために使っていることが含まれます。半分以上を会社に貸すと控除そのものを受けられなくなります。事業用に使う部分は控除の対象から外れる扱いもあるため、増える経費と失う控除額を数字で比べてから判断してください。条件が細かいので税務署にも確認を取ることをおすすめします。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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