資本金をいくらにするか|1000万円未満にする人が多い理由


この記事のポイント
- ✓会社設立資本金いくらにするか迷う人へ
- ✓資本金が決めているのは信用ではなく制度の分かれ目だ
- ✓定款認証手数料が変わる4つの線を
会社設立資本金いくらにするかで手が止まる人は多い。1円でも作れると聞いたが本当にそれでいいのか、多いほうが信用されるのか、いくらが普通なのか。結論から書くと、資本金の金額は信用の話ではなく、制度の分かれ目の話だ。金額がある線を超えると税金や手数料が変わる。その線がどこにあるかを知れば、決め方は「運転資金として必要な額を出し、線を踏まないところに置く」という単純な作業になる。この記事では、金額が変わる4つの線を条文と公開資料で確かめながら、決め方の手順まで並べていく。
1円から作れるが、1円にする人はいない
まず前提を押さえる。かつて株式会社には資本金1,000万円、有限会社には300万円という下限があった。会社法が施行されてこの下限がなくなり、いまは1円から会社を作れる。
ただし1円で作る人は、実際にはほとんどいない。理由は簡単で、資本金は会社が最初に持つ運転資金そのものだからだ。1円の会社は、会社の口座に1円しかない状態で始まることになる。そこから登記費用を払うことも、家賃を払うことも、仕入れをすることもできない。社長が個人のお金を貸し付けて回すことになり、帳簿の上では借入金が積み上がっていく。
もう1つの理由は、外から見えることだ。資本金の額は登記事項なので、登記事項証明書を取れば誰でも見られる。取引先が与信の確認をするとき、金融機関が口座開設の審査をするとき、資本金の額は必ず目に入る。金額の大小がそのまま信用になるわけではないが、極端に少ないと説明を求められる。
では、いくらにすればいいのか。その答えを出すために、金額が変わる線を先に見る。
1,000万円の線:消費税を2年間払わなくて済むかどうか
いちばん大きい線がここだ。設立してすぐの会社は、消費税の納税義務が免除される場合がある。その条件に資本金の額が入っている。
その事業年度の基準期間がない法人(社会福祉法人を除きます。)のうち、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上である法人(以下「新設法人」といいます。)は、その課税期間の納税義務は免除されません。 出典: nta.go.jp
基準期間とは、法人の場合は前々事業年度のことだ。設立1期目と2期目には前々事業年度がないので、基準期間がない。だから原則として消費税の納税義務が免除される。ところが、その期の始まりの日に資本金が1,000万円以上だと、この免除が使えなくなる。
同じ資料は、増資したときの扱いにも触れている。資本金を1,000万円未満で設立したあと、1期目の途中で増資して1,000万円以上になった場合、2期目は課税事業者になる。判定するのはその期の始まりの日なので、1期目の途中で増やしても1期目は免税のままだが、2期目から変わる。
ここで2026年の実務として押さえておきたいことがある。適格請求書発行事業者、いわゆるインボイスの登録をすると、資本金がいくらであっても納税義務は免除されない。取引先から登録を求められる事業なら、資本金を1,000万円未満にしても免税にはならない。逆に、消費者に直接売る事業や、取引先が免税事業者でも構わない事業なら、この線の意味は大きい。
つまりこの線は「必ず得をする」ものではなく、「インボイスの登録をしないなら効く」ものだ。自分の取引先がどちらなのかを先に考える。
1,000万円の線:赤字でも毎年かかる税金が変わる
同じ1,000万円のところに、もう1つ線がある。法人住民税の均等割だ。
均等割は、会社が赤字でも毎年かかる税金だ。金額は地方税法に標準税率が定められていて、資本金等の額で段階が分かれる。
| 資本金等の額 | 道府県民税の均等割 | 市町村民税の均等割(従業者50人以下) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 年額2万円 | 年額5万円 | 年額7万円 |
| 1,000万円超 1億円以下 | 年額5万円 | 年額13万円 | 年額18万円 |
資本金を1,000万円から1円でも超えた瞬間に、毎年の固定費が7万円から18万円に上がる。差は年11万円だ。これが会社を続けるかぎり毎年かかる。10年なら110万円になる。
この金額は標準税率なので、自治体によって上乗せされていることがある。東京都は23区内の法人について都が市町村民税相当分もあわせて課税する形を取っている。実際の金額は本店を置く自治体の公式ページで確認する。
ちなみに、均等割の基準になるのは資本金そのものではなく「資本金等の額」だ。資本金に資本準備金などを加えた金額で判定される。払い込んだ金額の半分までを資本準備金に回して資本金を小さくする方法があるが、均等割の判定には資本準備金も含まれるので、この方法では均等割は下がらない。消費税の判定は資本金の額で行うので、そちらには効く。ここは混同しやすいところなので、金額を動かす前に税務署か税理士に確認してほしい。
1億円の線:中小企業向けの扱いを受けられるかどうか
次の線は1億円だ。設立したばかりの会社には縁遠い金額だが、線の意味は知っておくと判断が楽になる。
法人税の税率は、資本金1億円以下の普通法人なら、所得のうち年800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.2%になる。1億円を超えると、すべての所得に23.2%がかかる。
法人事業税にも線がある。資本金1億円を超えると外形標準課税の対象になり、所得ではなく給与や資本金の額をもとにした税金がかかるようになる。赤字でも課税されるので、負担の性質が変わる。
法人住民税の法人税割にも線がある。東京都は、資本金または出資金の額が1億円以下で、かつ法人税額が年1,000万円以下の法人に標準税率を適用する不均一課税を行っている。23区内に事務所がある場合、標準税率は7.0%、超過税率は10.4%だ。
このほか、中小企業向けの補助金や税制の優遇は「資本金1億円以下」を条件にしているものが多い。資本金を増やすときは、この線を超えると失うものがあることを頭に入れておく。
100万円と300万円の線:定款の認証手数料が変わる
株式会社を作るときだけの線だが、設立費用に直接効くのでここも見ておく。定款を公証人に認証してもらう手数料は、公証人手数料令で資本金の額によって段階が分かれている。
| 資本金の額 | 認証手数料 |
|---|---|
| 100万円未満 | 3万円(一定の条件を満たすと1万5千円) |
| 100万円以上 300万円未満 | 4万円 |
| 300万円以上 | 5万円 |
1万5千円になる一定の条件とは、発起人が全員自然人で3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける、取締役会を置かない、の3つをすべて満たすことだ。1人で株式会社を作る人の多くはこの条件に当てはまる。
資本金を100万円未満にすれば認証手数料は3万5千円安くなるが、会社の運転資金が100万円を切ることになる。設立費用を数万円節約して運転資金を削るのは、順番としては逆だ。この線は「たまたま100万円前後で迷っているなら、100万円未満に寄せると少し安い」という程度に受け取っておく。
なお合同会社は定款の認証そのものが不要なので、この線は関係ない。
資本金が増えると、登録免許税も増える
設立登記のときに払う登録免許税は、資本金の額に比例する。株式会社の設立登記は資本金の額の1,000分の7で、計算した額が15万円に満たないときは15万円になる。合同会社は同じ率で、下限が6万円だ。
つまり株式会社なら資本金が2,143万円くらいまでは登録免許税が15万円で変わらない。合同会社なら857万円くらいまでが6万円だ。この範囲に収まっているうちは、資本金を増やしても登記の費用は変わらない。
ここまでの線を並べると、多くの人が資本金を1,000万円未満にする理由が見えてくる。消費税の免除が使える可能性があり、均等割が年7万円で済み、登録免許税も下限のままだ。1,000万円を超えて得られるものは、外から見たときの見え方だけになる。
では、いくらにするか
線が分かったので、決め方に入る。考える順番は3つだ。
順番1 運転資金として必要な額を出す
いちばん大事なのがこれだ。資本金は会社が最初に持つ現金なので、売上が入るまでの期間を回せる金額が必要になる。
目安として使われるのが、固定費の3か月から6か月分だ。家賃、通信費、ソフトウェアの利用料、外注費、そして役員報酬と社会保険料。これらを月額で足して、3倍から6倍する。
たとえば固定費が月30万円なら、90万円から180万円が目安になる。ここに設立費用の20万円前後と、開業のときに買う備品の代金を足す。売上が入るまでの期間が長い業種なら、6か月分に寄せる。
この計算をすると、1人で始める小さな会社の資本金は、おおむね100万円から300万円の範囲に落ち着くことが多い。
順番2 許認可の条件を確認する
事業によっては、許認可を取るために資本金や自己資本の下限が定められている。建設業、労働者派遣、旅行業、人材紹介、古物商の一部など、業種ごとに条件が違う。
条件のある事業なのに資本金が足りないと、設立後に増資することになる。増資には登記が必要で、登録免許税と手間がかかる。許認可が要る事業を始めるなら、設立前に所管の官庁の公式ページで金額の条件を確認して、最初からその額以上で作る。
順番3 外から見たときの見え方を考える
同じ100万円でも、業種によって印象が変わる。設備がいらない受託の仕事なら、資本金100万円でも違和感はない。一方、在庫を抱える事業や、大きな工事を請ける事業では、資本金が事業の規模と合っていないように見える。
ただし、見え方のために運転資金を超える金額を積むのは本末転倒だ。資本金は会社の中に置いておく現金であって、見せ金ではない。金額で不安になるなら、資本金を増やすより、事業計画と取引実績で説明できる状態を作るほうが効く。
資本金は使ってよいお金だ
よくある誤解を先に解いておく。資本金は会社の口座に置いたまま動かしてはいけないお金ではない。事業のために使ってよい。
資本金として払い込んだお金は、会社の資産になる。それを使って仕入れをしても、家賃を払っても、機材を買っても構わない。登記のあとに残高がゼロになっていても、登記が無効になることはない。
ただし、社長が個人的に使うのは別の話だ。会社のお金を社長が私的に使えば、会社が社長に貸し付けたか、給与を払ったかのどちらかとして処理することになる。資本金は会社のお金であって、社長のお金ではない。ここだけは切り分けておく。
払い込みの手順も押さえておく。株式会社の設立では、発起人個人の口座に資本金を振り込み、その通帳のページの写しを払込証明書として登記に添付する。会社の口座はまだないので、個人の口座を使う。振り込みは定款を作った日より後の日付で行う。振込人の名前が記帳されるように、自分の口座から自分の口座へ振り込む形にするのが確実だ。
あとから変えるときのコスト
資本金は設立後に変えられる。ただし、どちらにも手間と費用がかかる。
増やす場合、増資の手続きをして登記を変更する。登録免許税は増加した資本金の額の1,000分の7で、3万円に満たないときは3万円になる。増資そのものは難しくないが、増やしたことで1,000万円を超えると、消費税と均等割の扱いが変わる。
減らす場合は、増やすより面倒だ。債権者に対する公告と個別の通知が必要で、異議を申し立てる期間として1か月以上を置かなければならない。官報への公告には掲載料もかかる。資本金を減らして均等割を下げようとしても、手続きの費用と時間を考えると、数年分の差額が消える。
だから、最初に決める金額が実質的に長く続く。悩んだら、運転資金として必要な額を出して、1,000万円未満に収める。これが多くの会社が取っている形だ。
資本金と創業融資は、切り離せない関係にある
設立と同時に融資を考えているなら、資本金の額はもう1つ別の意味を持つ。融資の審査で自己資金として見られるからだ。
創業のときの融資は、まだ決算書がない。過去の実績で判断できないので、代わりに見られるのが事業計画と自己資金だ。自己資金とは、これまで自分で貯めてきたお金のことを指す。資本金として払い込んだお金は、その自己資金がそのまま会社に入った形になるので、審査の材料になる。
ここで注意したいのが、お金の出どころを説明できるかどうかだ。通帳に毎月少しずつ積み上がってきた形跡があれば、自分で貯めたものだと分かる。一方、設立の直前にまとまった金額が一度に入っている場合、どこから来たのかを聞かれる。親族からの援助なら、贈与なのか借入なのかをはっきりさせておく。借りたお金を自己資金として見せると、説明が食い違ったときに信用を失う。
だから、融資を視野に入れているなら、通帳の履歴が残る形で資本金を準備する。設立の半年前から少しずつ貯める、という動き方ができるなら、それがいちばん強い。タンス預金をまとめて入金する形は、金額が同じでも説明の材料にならない。
資本金を厚くすれば融資が通るわけではないが、自己資金がまったくない状態よりは話が進めやすい。運転資金として必要な額を出したうえで、無理のない範囲で払い込む。借りてまで資本金を積むのは、順番として逆になる。
払い込みでつまずきやすい3つのところ
資本金の払い込みは、手順そのものは単純だが、細かいところで登記が止まることがある。よくある3つを挙げる。
1つめは、振り込みの日付だ。払い込みは定款を作成した日より後に行う。定款の日付より前に入金していると、その入金は資本金の払い込みと認められない。振り込む前に定款の日付を確認する。
2つめは、振込人の名前だ。誰が払い込んだのかが通帳に残っている必要がある。自分の口座に自分でお金を移すとき、窓口やATMで入金の扱いにすると振込人の名前が記帳されないことがある。同じ銀行の別口座から振り込む、別の銀行から振り込む、といった形にすると名前が残る。
3つめは、添付する書類の形だ。払込証明書には、通帳の表紙、表紙の裏の名義が分かるページ、振り込みが記帳されたページの写しを添える。ネットバンキングしか使っていない場合は、口座名義と金融機関名、振込内容が分かる画面を印刷して代えることが多い。求められる形は法務局によって細かい違いがあるので、迷ったら管轄の法務局に電話で確認するのが早い。
株式会社と合同会社で、資本金の考え方は変わるか
会社の形が違っても、資本金の考え方はほとんど同じだ。消費税の1,000万円の線も、法人住民税の均等割の線も、どちらの形にも同じように効く。運転資金として必要な額を出す、という決め方も変わらない。
違うのは3つだ。1つめは定款の認証で、合同会社は認証が不要なので、100万円と300万円の線が関係ない。2つめは登録免許税の下限で、株式会社が15万円、合同会社が6万円だ。3つめは、出資した人の扱いだ。株式会社では出資した人が株主になり、経営は取締役が行う。合同会社では出資した人が社員と呼ばれ、原則として経営にも関わる。
合同会社で1人が全額を出資するなら、その人が唯一の社員になり、代表社員として会社を動かす。資本金の額が持ち分の割合を決めるので、複数人で出資するなら、あとで揉めないように割合と権限を定款で決めておく。
設立費用だけを見れば合同会社が軽いが、資本金の金額そのものは会社の形で決めるものではない。事業を回すのに必要な現金がいくらか、という問いの答えは、どちらの形でも同じになる。
1年目に資本金が尽きそうになったら
資本金を運転資金として使っていけば、売上が立つまでは減り続ける。想定より入金が遅れて、残高が心もとなくなることはよくある。そのときに取れる手は3つある。
1つめは、社長が個人のお金を会社に貸し付ける方法だ。役員借入金として処理し、会社に余裕が出たら返してもらう。増資と違って登記がいらないので、費用も時間もかからない。いちばん現実的な手になる。金額と日付を帳簿に残しておけば、返すときに困らない。
2つめは、増資する方法だ。資本金が増えるので外から見たときの数字は良くなるが、登記の費用がかかり、1,000万円を超えると税金の扱いが変わる。急ぎの資金繰りには向かない。
3つめは、借入だ。日本政策金融公庫の創業融資や、信用保証協会の保証が付いた金融機関の融資が主な選択肢になる。申し込みから入金までに時間がかかるので、残高が尽きてから動くのでは間に合わない。固定費の2か月分を切ったあたりで相談を始めるくらいが目安になる。
どの手を取るにせよ、毎月の入出金を把握していないと判断できない。会計ソフトと口座を連携させて、月末の残高見込みが分かる状態にしておく。資本金をいくらにするかで悩んだ時間より、この仕組みを作る時間のほうが、あとで効いてくる。
出資する人が複数いるときに決めておくこと
1人で全額を出すなら、資本金の額を決めればそれで終わる。複数人で出す場合は、金額のほかに決めることが3つ増える。
1つめは、誰がいくら出すかだ。出した金額の割合が、株式会社なら議決権の割合になる。半分ずつにすると、意見が割れたときに何も決まらなくなる。共同で始める場合でも、どちらかが過半数を持つ形にしておくほうが動きやすい。3分の2を超えて持てば、定款の変更のような重い決議も単独で通せる。
2つめは、出せない人がどう関わるかだ。お金は出せないが働くという人を、出資者として扱うか、役員や従業員として扱うかで話が変わる。出資していない人に持ち分を渡すと、あとから金銭で解決できなくなる。労力の提供は報酬で報いる、というのが揉めにくい形だ。
3つめは、抜けるときの決め方だ。共同で始めた会社は、誰かが抜ける場面が必ず来る。そのときに持ち分をどうするかを、始める時点で文書にしておく。株式会社なら、株式の譲渡に会社の承認が必要という定めを定款に入れておくのが基本になる。これがないと、面識のない相手に株式が渡ってしまうことがある。
資本金の金額を決める作業に比べて、この3つは後回しにされやすい。しかし会社が続かなくなる原因は、資本金が足りなかったことよりも、この3つを決めていなかったことのほうが多い。金額を決めたら、同じ日に割合と抜け方も決めておく。
資本金の額は、登記されて誰にでも見える
最後に、資本金の額が外にどう見えるかを整理しておく。
資本金は登記事項なので、誰でも登記事項証明書を取れば確認できる。取引先が与信の確認をするとき、金融機関が口座を開くとき、入札に参加するとき、資本金の額は必ず見られる。
見られるからといって、大きくすればよいわけではない。見る側が確かめたいのは、この会社が支払いをきちんとできるかどうかだ。資本金の額はその判断材料の1つにすぎず、決算の内容や取引の実績のほうが重く見られる。設立直後は決算がないので資本金しか見えないが、1期を終えれば決算書が材料になる。
むしろ気をつけたいのは、資本金の額と事業の内容が合っていない場合だ。大きな工事を請ける会社の資本金が10万円だと、この規模の仕事を回せるのかという疑問が出る。逆に、パソコン1台で完結する事業の資本金が5,000万円あると、なぜそれだけ積んだのかという別の疑問が出る。事業の規模に見合った金額であることが、いちばん自然に見える。
判断に迷ったら、同じ業種の会社の登記を見てみるといい。法務局で登記事項証明書を取れば、相場の感覚がつかめる。数社見れば、自分の会社がどのあたりに置くべきかは分かる。
よくある5つの誤解
誤解1は、資本金が多いほど信用されるというものだ。金額だけを見て取引を決める相手はいない。見られているのは、事業の内容と取引の実績と、決算の中身だ。
誤解2は、資本金を1円にすれば節税になるというものだ。資本金の額で変わるのは均等割と消費税の判定で、1円でも100万円でも均等割は年7万円で同じだ。1円にしても得はない。
誤解3は、資本金は口座に置いておかなければならないというものだ。事業のために使ってよい。
誤解4は、資本金を半分まで資本準備金にすれば均等割が下がるというものだ。均等割の判定は資本金等の額で行うので、資本準備金に回しても合計は変わらない。消費税の判定には効くので、目的を取り違えないようにする。
誤解5は、資本金は現金でなければならないというものだ。パソコンや車のような財産を出資する現物出資という方法もある。ただし手続きが増えるので、金額が小さいうちは現金で払い込むほうが早い。
20年この市場を見てきた運営者の観察
在宅ワークと業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、資本金の金額で悩んでいる時間が長い人ほど、事業計画が固まっていないことが多い。
必要な運転資金が分かっていれば、資本金はその数字で決まる。決まらないのは、月にいくら出ていくのかと、いつ売上が入るのかが見えていないからだ。運営者として見てきた限りでは、資本金の額そのものが事業の成否を分けた例は見たことがない。分けているのは、入金までの期間を持ちこたえられるかどうかだ。
もう1つ気づくのは、入金の早さを改善したほうが、資本金を積むより効くということだ。取引の形を変えれば、同じ売上でも手元に残る金額とタイミングが変わる。間に業者が入る取引は、支払いのサイクルが長く、マージンの分だけ受け手に残る金額も薄くなる。発注者と直接つながる形なら、手数料0%のぶんだけ手取りが厚くなり、依頼する側も同じ予算でより多く頼める。長く続いている人ほど、単発の作業を追うのではなく、この人に任せると楽だと思われる関係を作っていて、その関係が入金の安定につながっている。
資本金を100万円増やすかどうかで悩むより、毎月決まって入ってくる取引を1つ増やすほうが、会社の資金繰りは楽になる。
職種のデータから見える、必要な資本金の違い
いくら必要かは、何を売る会社かで変わる。職種ごとの仕事の中身と収入データを並べると、その差が見えてくる。
開発の仕事は、必要な設備が少ない。パソコンと開発環境があれば始められるので、資本金の中心は入金までのつなぎ資金になる。単価の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっているが、1件あたりの金額が大きいぶん、支払いサイトが長い案件に当たると手元の現金が必要になる。どんな案件があるかはアプリケーション開発のお仕事を見ると具体的につかめる。
書く仕事は、さらに設備が軽い。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると単価の幅は広いが、1件あたりが小さく件数が多いぶん、入金が分散して資金繰りは読みやすい。資本金は少なめでも回りやすい業種だと言える。
コンサルティングのように人と会うことが仕事の中心にある業種は、移動費と資料作成の費用が先に出る。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような業務では、契約から報酬の支払いまでの期間が長くなりやすいので、つなぎ資金を厚めに見る。毎月のツール利用料が前提になる領域もある。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事を見ると、業務に必要なサービスの契約が固定費として積み上がることが分かる。この固定費の3か月から6か月分が、そのまま資本金の目安になる。
資格が事業の前提になる分野もある。経営の支援を事業にするなら中小企業診断士、医療機関向けの事務代行なら医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)のように、資格が受注の条件になることがある。取得の費用が設立前にかかるなら、その分も見込んでおく。
補助金を使う予定があるなら、資本金の額が条件に入っていないかを先に見る。中小企業向けの制度は資本金1億円以下を条件にしているものが多いので、設立直後の会社なら問題になることは少ない。設備の導入を考えているなら介護・福祉事業所のDX化2026|IT導入補助金で介護記録を完全デジタル化、働き方の整備ならテレワーク 助成金 2026、車両に関わる事業なら送迎バス安全装置の設置補助金2026|介護施設の義務化対応と申請手順が参考になる。補助金は後払いが基本なので、立て替える資金を資本金に含めて考える必要がある。
資本金の額は、運転資金として必要な額を出し、制度の線を踏まないところに置けば決まる。税率や手数料は改正で動くので、実際に決める前に国税庁とe-Gov法令検索、それに本店を置く自治体の公式ページで今の内容を確認してほしい。金額や事情によって結論が変わる部分は残るので、最終的な判断は税務署か税理士に確認するのが確実だ。
よくある質問
Q. 資本金はいくらにするのが一般的ですか?
固定費の3か月から6か月分を目安に出すと、1人で始める小さな会社では100万円から300万円の範囲に落ち着くことが多いです。金額の大小が信用に直結するわけではなく、売上が入るまで会社を回せる現金を持っているかどうかが実務上の基準になります。
Q. なぜ資本金を1,000万円未満にする人が多いのですか?
設立1期目と2期目の期首に資本金が1,000万円以上だと、消費税の納税義務の免除が使えなくなるためです。加えて、法人住民税の均等割が標準税率で年7万円から年18万円に上がります。この2つを避けられるので、1,000万円未満に収める会社が多くなります。
Q. 資本金は使ってしまってもよいのですか?
事業のために使って構いません。資本金として払い込んだお金は会社の資産になるので、仕入れや家賃、機材の購入に充てられます。登記のあとに残高が減っていても問題ありません。ただし社長が個人的に使うと、会社からの貸付けか給与として扱われるので切り分けが必要です。
Q. 資本金はあとから変更できますか?
できますが費用がかかります。増資は登記が必要で、登録免許税は増加した資本金の額の1,000分の7、3万円に満たないときは3万円です。減資は債権者への公告と個別の通知が必要で、異議を申し立てる期間として1か月以上を置くうえ、官報の掲載料もかかります。最初に決める金額が実質的に長く続きます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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