支払督促を自分で申し立てる方法


この記事のポイント
- ✓支払督促を自分で申し立てる方法を
- ✓令和8年5月21日施行の改正民事訴訟法に合わせて解説
- ✓書面とオンラインの3つの入口
納品は終わっているのに入金がない。催促のメールには既読も返信もつかない。弁護士に頼むと費用のほうが請求額を上回りそうで、結局なにもできずに月日だけが過ぎていく。支払督促を自分で申し立てられないかと調べ始める人の多くが、この地点に立っています。結論から書くと、支払督促は代理人を立てずに本人が申し立てられる手続きで、裁判所に出向いて話をする場面もありません。ただし令和8年5月21日の改正民事訴訟法の施行で、費用の決まり方も申立ての入口も大きく入れ替わりました。古い解説記事がそのまま残っているので、ここでは裁判所が公表している現在の資料だけを根拠に、最初から最後までの道筋を追います。
支払督促とはどういう手続きか
支払督促は、簡易裁判所の裁判所書記官が、債権者の言い分だけを書類で確認して「払いなさい」という書面を出す手続きです。民事訴訟法382条は、金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、債権者の申立てにより支払督促を発することができると定めています。裏を返すと、お金を払えという請求でなければ使えません。納品物を返せ、ウェブサイトから記事を削除しろ、といった請求には使えない手続きです。
いちばん大きな特徴は、相手の話を聞かないことです。民事訴訟法386条1項は「支払督促は、債務者を審尋しないで発する」と書いています。訴訟なら相手に反論の機会を与え、証拠を並べ、期日を重ねますが、支払督促にはその工程がありません。申立書の記載から請求に理由があると読めれば、それで発付されます。だから早く、だから安い。裁判所のページも、この手続きの性格をはっきり書いています。
①書類審査のみなので、訴訟の場合のように審理のために裁判所に来る必要はありません。 ②債務者が支払督促に対し異議を申し立てると、請求額に応じ、地方裁判所又は簡易裁判所の民事訴訟の手続に移行します。 出典: courts.go.jp
相手が支払督促を受け取ってから2週間のあいだに異議を出さなければ、債権者の申立てで仮執行宣言が付きます。仮執行宣言が付いた支払督促は、相手の預金や給与を差し押さえる根拠になります。さらに仮執行宣言付きの支払督促を受け取ってから2週間が過ぎて異議が出なければ、民事訴訟法396条により、確定判決と同じ効力を持ちます。判決を取ったのと同じ位置まで、法廷に一度も立たずにたどり着けるわけです。
もうひとつ見落とされがちなのが、時効への効き目です。民法147条は、裁判上の請求と並べて支払督促を挙げ、その事由が終了するまでのあいだは時効が完成しないと定めています。取引先への報酬請求権は、民法166条1項1号により、権利を行使できると知った時から5年で時効にかかります。メールで催促を重ねているだけでは時効の完成を先送りする効果は限定的なので、期限が迫っているなら申立てそのものが有効な手段になります。
令和8年5月21日の改正で、自分でやるハードルが下がった
改正民事訴訟法が令和8年5月21日に施行され、支払督促の実務は三か所で変わりました。順に押さえておくと、古い解説に引きずられずに済みます。
一つめは郵便費用です。これまでは申立手数料とは別に、相手の人数に応じた切手を裁判所に納める決まりでした。「郵券」と呼ばれるあれです。この切手を何円分そろえるかで裁判所ごとに運用が違い、初めて申し立てる人がつまずく代表的な場所でした。現在は撤廃されています。裁判所のページは「従来必要であった郵便費用は、申立手数料に一本化されました」と明記しています。切手を買いに行く工程がまるごと消えました。
二つめは納め方です。申立手数料は原則としてペイジーによる電子納付になりました。インターネットバンキングか金融機関のATMから払えます。収入印紙を貼る作業も、原則としては過去のものになっています。
三つめは申立ての入口です。従来の紙の申立てと督促手続オンラインシステムに加えて、mints(ミンツ)と呼ばれる民事裁判書類電子提出システムからも申し立てられるようになりました。弁護士などの訴訟代理人には電子での申立てが義務づけられていますが、本人が自分で申し立てる場合は紙でもオンラインでも選べます。
この改正で何が起きたかというと、「自分でやる」と「専門家に頼む」の損得が動きました。切手の額面をそろえる、印紙を買う、平日に窓口へ行く。手続きそのものより周辺の雑務が重かったのが、それらが電子納付とオンライン提出に置き換わったからです。未払い1件あたりの回収額が数万円から数十万円という規模で動いているフリーランスにとっては、意味のある変化です。金額が大きく争いが複雑な案件で弁護士に頼む判断は変わりませんが、その線引きは未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】で費用の内訳とともに整理しています。
費用はいくらかかるか
申立手数料は請求する金額(訴額)で決まります。裁判所が公表している手数料額早見表には、支払督促について「書面申立て」と「電子申立て」の2列があり、どちらにも郵便費用相当の定額分が含まれています。主なところを抜き出すと次のとおりです。
| 請求する金額 | 書面で申し立てる | 電子で申し立てる |
|---|---|---|
| 10万円まで | 3,200円 | 3,000円 |
| 30万円まで | 4,200円 | 4,000円 |
| 50万円まで | 5,200円 | 5,000円 |
| 100万円まで | 7,700円 | 7,500円 |
| 140万円まで | 8,700円 | 8,500円 |
| 200万円まで | 10,200円 | 10,000円 |
| 300万円まで | 12,700円 | 12,500円 |
| 500万円まで | 17,700円 | 17,500円 |
たとえば30万円の未払い報酬を電子で申し立てるなら4,000円です。同じ30万円を通常の民事訴訟で請求すると、書面申立てで5,500円、電子申立てで4,400円かかります。支払督促のほうが安く収まる設計になっているのは、書類審査だけで済む手続きだからです。
数字そのものより大事なのは、この費用が戻ってくる可能性があることです。民事訴訟法391条1項は、仮執行宣言を付けるとき「手続の費用額を併せて記録して」と定めています。つまり申立てにかかった手数料は、相手に負担させる額として支払督促に書き込まれます。回収できれば実質的な持ち出しはゼロに近づきます。逆に相手に支払能力がまったくない場合は、手数料も戻りません。そこの見極めは後で詳しく書きます。
なお訴訟費用を払う資力が乏しい場合には、支払いを猶予する「訴訟上の救助」という制度があります。ただし申立ての内容から勝ち目がないことが明らかなときは認められないことがあります。日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助による立替制度も別に用意されています。最新の金額は裁判所の手数料額早見表で確認してください。
申し立てられる請求と、申し立てられない請求
支払督促を使えるかどうかは、三つの条件で決まります。どれか一つでも欠けると、申立ては却下されます。
一つめは請求の中身です。前述のとおり、お金か代替物か有価証券の給付を求める請求に限られます。報酬の未払い、売掛金、貸付金、立替金、家賃。ここまでは問題なく入ります。損害賠償や慰謝料も金銭の請求なので対象にはなりますが、金額の根拠を書類だけで示しにくく、相手が争う確率も高いので向いていません。
二つめは相手の所在です。民事訴訟法382条ただし書は「日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限る」と条件を付けています。公示送達というのは、相手の居場所がわからないときに裁判所の掲示場に掲示して送達したとみなす方法のことです。支払督促ではこれが使えません。つまり相手の住所や営業所がわからない、あるいは書留を受け取らずに逃げ続ける相手には、この手続きは通りません。発注元の会社名しか知らず、住所は問い合わせフォームしか手がかりがないという状態だと、そもそも入口に立てないわけです。
三つめは申立先です。民事訴訟法383条1項により、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。自分の住まいの近くではありません。ただし同条2項1号に、事務所や営業所を持つ相手に対する請求で、その事務所や営業所の業務に関するものなら、その所在地を管轄する簡易裁判所にも申し立てられると書いてあります。取引先が支社や営業所を通じて発注していたなら、そちらを使えることがあります。
裁判所のページは、複数の相手をまとめて申し立てる場合の制限も注意しています。数人の債務者に対する支払督促は、それぞれの申立先が共通でなければ、ひとつにまとめて申し立てることはできません。元請けと発注担当会社の両方に請求したいとき、住所地の簡易裁判所が違えば別々に申し立てることになります。
オンラインの入口は2つある。フリーランスはどちらを選ぶか
自分で申し立てる人がいちばん間違えやすいのがここです。オンラインの入口は督促手続オンラインシステムとmintsの2つあり、扱える請求の種類が違います。
督促手続オンラインシステムは、支払督促だけのために長く運用されてきた専用システムです。東京簡易裁判所の裁判所書記官に対して申し立てる形を取れば、相手の住所地が他県でも利用できる特例があり、そこが強みでした。ただし扱える請求の種類が限定されています。システムのお知らせは、貸金、立替金、求償金、売買代金、通信料などに限ると明記したうえで、次の類型は使えないと書いています。請負代金(修理代金、工事代金などを売掛金として請求する場合を含む)、給料、賃料、損害賠償、過払金。
ここが重要です。フリーランスや副業で受けた仕事の報酬は、契約の形としては請負や委任にあたることがほとんどです。ウェブ制作の制作費、動画編集の編集費、記事執筆の原稿料。これらは請負代金として扱われる可能性が高く、請求書上「売掛金」と書いていても督促手続オンラインシステムは使えません。この場合はmintsか、紙の申立てを選ぶことになります。自分の請求がどちらに当たるか迷ったら、申立て前に督促手続オンラインシステムの対応類型の案内を読んでおくと、入力を終えてから弾かれる無駄が防げます。
mintsは、裁判所にインターネットで書類を出し、裁判所からインターネットで書類を受け取るための汎用システムです。支払督促に限らず民事訴訟でも使われます。利用にはアカウント登録が必要で、新規申立てフォームに入力すれば申立書を作れますし、申立ての内容をPDFで出すこともできます。請負代金を請求するフリーランスにとっては、実質的にこちらが電子申立ての入口になります。
もうひとつmintsを選ぶ実利があります。オンラインで送達を受ける旨を届け出ておくと、裁判所からの書類をオンラインで受け取れます。支払督促は期限の管理が命の手続きなので、郵便物の受け取りに在宅していなければならない状態から外れられるのは、在宅で働く人にとって小さくない差です。
申立ての流れを7つの段階で追う
全体像を先に入れておくと、どこで何日待つのかが読めるようになります。
第1段階は申立てです。申立書に当事者、請求の趣旨、請求の原因を書いて、管轄の簡易裁判所の裁判所書記官に出します。相手が法人なら登記事項証明書が1通必要です。法人の登記事項証明書は法務局の登記情報提供サービスや窓口で取れます。手数料はペイジーで電子納付します。
第2段階は書記官の審査です。書類の形式と、申立ての趣旨から請求に理由があると読めるかどうかが見られます。民事訴訟法385条1項により、要件を欠いていたり、請求に理由がないことが明らかなときは却下されます。却下の処分に不服があるときは、告知を受けた日から1週間以内に異議を申し立てられます。
第3段階は発付と送達です。支払督促が発付されると、債権者には発付通知が届き、相手には支払督促そのものが送達されます。ここで相手が受け取らないと先に進みません。民事訴訟法388条3項は、申し出た場所に相手の住所も営業所も就業場所もなくて送達できないときは書記官が債権者に通知すると定め、その通知を受けた日から2か月以内に別の送達場所を申し出ないと、申立てを取り下げたものとみなすとしています。この2か月は見落としやすい期限です。
第4段階は相手の2週間です。相手は支払督促を受け取った日から2週間以内に督促異議を申し立てられます。異議が出れば、そこから先は訴訟です。
第5段階は仮執行宣言の申立てです。異議が出なかった場合、債権者は仮執行宣言を申し立てます。申し立てられる期間は、支払督促が送達された日の翌日から起算して2週間目の翌日から30日以内です。民事訴訟法392条は、申立てができる時から30日以内に申し立てないと支払督促は効力を失うと定めています。ここを逃すと、それまでの手間と費用が消えます。カレンダーに入れるのはこの日付です。
第6段階は仮執行宣言の発付と送達です。書記官の審査を経て仮執行宣言が発付されると、双方に仮執行宣言付支払督促が送達されます。債権者には、同意があれば書面の送付で代えることもできます。送達が済めば、強制執行の申立てができます。
第7段階は確定です。相手は仮執行宣言付支払督促を受け取ってから2週間以内に限って督促異議を申し立てられ、この期間が過ぎれば異議は出せなくなります。異議が出なければ、支払督促は確定判決と同じ効力を持ちます。
申立てから確定までは、相手がまったく反応しなかった場合で2か月前後が目安になります。送達がうまくいかず場所を調べ直すと、そこから伸びます。
申立書に何を書くか
申立書の柱は三つです。当事者、請求の趣旨、請求の原因。文章のうまさは一切問われません。書類審査で通るかどうかは、事実が特定されているかどうかだけで決まります。
当事者の欄は、債権者と債務者の氏名または名称と住所を書きます。相手が法人なら、登記事項証明書に書かれているとおりの商号、本店所在地、代表者の氏名を写します。ここを請求書に書いていた屋号や略称で書くと、送達先が特定できずに戻ってきます。督促手続オンラインシステムを使う場合は、債務者が法人のときに代表者住所の入力が必須になっているので、代表者の住所がわからないとこのシステム自体が使えない点にも注意が要ります。
請求の趣旨は、いくら払えという結論です。元本、遅延損害金、手続費用の三段構えで書くのが基本形です。遅延損害金は、契約書に利率の定めがあればその利率で、なければ民法の法定利率で計算します。契約書に書いていないなら、書いていないと正直に扱うのが安全です。
請求の原因は、なぜその金額を請求できるのかを時系列で書く部分です。いつ、誰と、どういう内容の契約をして、いつ納品または業務を終えて、いつ請求書を出し、支払期日がいつで、いくら未払いなのか。ここに書く事実は、あとで異議が出て訴訟に移ったときにそのまま主張の骨格になります。だから証拠と食い違わないように書きます。
実務で差がつくのは、契約書ではなく日々のやり取りのほうです。発注書のない案件でも、業務内容と金額と納期がメールやチャットで確定していれば、請求の原因は書けます。受注のたびに条件を文章で確定させる習慣があるかどうかで、いざというときの手間がまるごと変わります。書面の型そのものに不安があるならビジネス文書検定のような検定の出題範囲が、請求書や通知文の標準的な書き方を通しで確認する材料になります。
相手が異議を出したらどうなるか
支払督促の最大のリスクは、費用でも手間でもなく、異議です。相手は理由を書かずに「異議あり」と出すだけで足ります。内容の当否は問われません。
異議が出ると、民事訴訟法395条により、請求の価額に応じて、支払督促を発した簡易裁判所またはその所在地を管轄する地方裁判所に、支払督促を申し立てた時点で訴えの提起があったものとみなされます。つまり自動的に訴訟が始まります。政府広報のページも、この移行の仕組みを次のように説明しています。
相手方が異議申立てをした場合は、民事訴訟の手続きに移行します。民事訴訟は、紛争の対象となる金額が140万円以下の場合は簡易裁判所で、140万円を超える場合は地方裁判所で行われます。 出典: gov-online.go.jp
ここで効いてくるのが管轄です。支払督促は相手の住所地の簡易裁判所に申し立てる決まりなので、異議が出て訴訟に移ると、その裁判所で審理が始まります。相手が遠方の場合、期日のたびに移動する負担を負うのは債権者のほうです。督促手続オンラインシステムを使って東京簡易裁判所に申し立てた場合も、異議が出れば相手の住所地を管轄する簡易裁判所などに移ります。東京で申し立てたから東京で裁判ができる、とはなりません。
手数料も追加になります。手数料額早見表の注記は、督促異議の申立てにより訴訟事件に移行したときは、訴え提起の手数料額から支払督促の申立てで納めた額を差し引いて追納すると説明しています。支払督促でかけた費用が無駄になるわけではありませんが、訴訟の水準まで足りない分は払うことになります。
だから申立て前の見立てが要ります。相手が金額そのものを争っているのか、それとも払う意思はあるが資金が回っていないだけなのか。前者なら異議はほぼ確実に出ます。その場合は最初から訴訟や調停を選ぶほうが早く、支払督促を挟むぶんだけ遠回りになります。連絡が完全に途絶えていて、相手が手続きに関心を示していないケースこそ、支払督促の得意分野です。
支払督促のデメリットと、向かない場面
メリットの裏返しが、そのままデメリットになります。整理しておきます。
相手の言い分を聞かずに出す手続きなので、相手は異議を出すだけで簡単にそれを止められます。これが構造上いちばん大きい弱点です。異議を出すのに費用はかからず、理由も要りません。
送達できないと先に進みません。公示送達が使えないので、住所不明の相手には無力です。相手が引っ越して追えない、法人の登記上の本店に誰もいない。こういう状況では、先に住所を調べる作業が必要になります。
仮執行宣言を取っても、そこから自動でお金が入るわけではありません。差し押さえる財産を自分で特定して、強制執行を別に申し立てます。預金なら金融機関と支店、給与なら勤務先。相手の財産がどこにあるかわからないままでは、確定判決と同じ効力を持つ書面を手にしても現金になりません。
そして回収の見込みそのものです。相手に資産がなければ、手続きを完走しても回収はゼロです。手数料と時間だけが出ていきます。取引先の資金繰りが厳しいことがわかっているなら、支払督促より先に分割払いの合意を文書で取り付けるほうが、結果的に受け取れる額は大きくなることがあります。
向かない場面をまとめると、相手が金額や品質を争っている案件、相手の所在がつかめない案件、請求の根拠が口約束しかない案件、相手に支払能力がない案件の四つです。この四つに当てはまらないなら、支払督促は費用対効果の高い選択肢になります。
少額訴訟や民事調停との使い分け
支払督促だけが選択肢ではありません。政府広報のページは、手続きの選び方をこう説明しています。
どの手続きを利用するかは、利用者自身が選ぶことができます。例えば、話合いによる円満な解決の見込みがあれば「民事調停」で、また、紛争の対象となっている金額が60万円以下であれば「少額訴訟」で、といった選び方が考えられるでしょう。 出典: gov-online.go.jp
少額訴訟は、請求額が60万円以下の金銭の支払いを求める場合に使える簡易裁判所の手続きです。原則として1回の期日で審理を終えて判決が出ます。支払督促と違うのは、こちらは自分の住所地を管轄する簡易裁判所に起こせる場合があること、そして相手の言い分を聞いたうえで判断が出ることです。相手が争ってくることが読めていて、金額が60万円以下なら、最初から少額訴訟のほうが早く終わります。
民事調停は、調停委員が間に入って話し合いで解決する手続きです。相手と関係を続けたい場合や、分割払いの条件を詰めたい場合に向いています。成立した調停調書も、確定判決と同じように強制執行の根拠になります。継続取引のある発注元に対して、今後も仕事を受けたいが未払いだけは解消したい、という状況ならここが現実的です。
三つの使い分けを一言でいうと、連絡が途絶えているなら支払督促、金額が60万円以下で争いがあるなら少額訴訟、関係を壊さずに条件を決め直したいなら民事調停です。どれを選んでも最終的な効力の強さは変わりません。変わるのは、そこにたどり着くまでの時間と手間です。
仮執行宣言を取ったあと、実際に回収するまで
仮執行宣言付支払督促は、それ自体が「債務名義」と呼ばれる、強制執行の根拠になる書面です。ただし裁判所がこれを持って相手の口座からお金を引き出してくれるわけではありません。差し押さえたい財産を自分で特定して、強制執行を別に申し立てます。ここから先は支払督促とは別の手続きで、申立先も簡易裁判所ではなく地方裁判所になります。
現実的に狙いやすいのは、預貯金債権と給与債権、そして売掛金債権です。預貯金を差し押さえるなら、金融機関名と支店名まで特定して申し立てる必要があります。取引のときに振込をしてもらった履歴が残っていれば、相手の口座情報はそこからわかります。請求書に自分の口座を書いて振り込んでもらう取引をしているなら、入金明細に相手の金融機関名が残っているはずです。過去に一度でも振込を受けたことのある相手なら、この情報は手元にあります。
相手が法人で、その法人がさらに別の会社から売掛金を受け取っている場合は、その売掛金を差し押さえる方法もあります。ただし取引先を特定できていることが前提です。どこにも財産が見つからないときのために、財産開示手続や第三者からの情報取得手続という制度も用意されていますが、いずれも債務名義を持っていることが条件なので、順番としては支払督促を確定させたあとになります。
ここまで読んでわかるとおり、支払督促のゴールは「書面を手に入れること」であって「入金されること」ではありません。相手に差し押さえられる財産があるかどうかを、申立ての前にできる範囲で見積もっておくと、途中で心が折れずに済みます。
申立ての前にやっておく3つの準備
手続きに入る前の準備で、通るかどうかの半分が決まります。
一つめは証拠の固定です。発注のやり取り、納品の記録、請求書、支払期日の記載。この四つが揃っていれば、請求の原因はそのまま書けます。チャットツールの履歴は、無料プランだと一定期間より前が読めなくなることがあるので、未払いが発生した時点でスクリーンショットかエクスポートで手元に落としておきます。異議が出て訴訟に移った場合、必要になるのはここです。
二つめは相手の正確な情報です。法人なら登記事項証明書を取り、商号、本店所在地、代表者名を確認します。個人事業主なら、契約書や請求先に書かれた住所が現住所かどうかを確かめます。郵便が戻ってくる状態のまま申し立てると、送達できずに2か月の期限を数えることになります。
三つめは催告です。申立ての前に、支払期日と金額を書いた書面で一度きちんと請求しておくと、相手がその時点で払ってくることがあります。この一通で解決すれば、手数料もかかりません。書面の残し方についてはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに、発注書や契約書で最低限そろえておく項目が整理されています。取引条件を書面で確定させる義務は発注側にあり、それが守られていない取引ほど未払いが起きやすいという関係も見えてきます。
そして、手続きに使う時間の価値を一度だけ計算しておくことを勧めます。未払い額が3万円で、申立てから確定まで自分の作業時間が合計で10時間かかるなら、その10時間で別の仕事を受けたほうが手元に残る額は大きいかもしれません。職種ごとの単価水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場やソフトウェア作成者の年収・単価相場で確認できます。回収そのものより、同じことを二度起こさない体制づくりに時間を配るほうが、長い目で見た収支は良くなります。
現場から見た、未払いが起きる取引と起きない取引
20年この市場を見てきた立場から言えば、未払いが起きるかどうかは、相手の規模でも業種でもなく、取引の始まり方でほぼ決まります。金額と納期と成果物の範囲を、着手前に文章で確定させている取引では、支払いが止まることがほとんどありません。逆に「とりあえず進めてください、金額はあとで」で始まった取引は、途中で担当者が替わった瞬間に宙に浮きます。支払督促という強い手続きが用意されていても、それを使わずに済む設計のほうが、受け手にとってははるかに得です。
もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、中間に何社も挟まる取引ほど未払いの発生率が上がります。理由は単純で、誰が支払義務を負っているのかが受け手から見えなくなるからです。元請けは支払ったと言い、間に入った会社は連絡がつかない。この構図になると、支払督促の申立先を決める段階で止まります。仲介の層が薄く、依頼者と受け手が直接つながっている取引では、請求先が最初からひとつしかありません。手数料0%の直接取引が効くのは、同じ予算で依頼側はより多く頼め、受け手は手取りが厚くなるという金額面だけではなく、もめたときに誰に請求すればいいかが最初からはっきりしているという点でも効いてきます。
在宅ワーク求人サイトに掲載される案件を長く見ていると、未払いのトラブルが集中するのは、業務の範囲が曖昧なまま単価だけが先に決まっている仕事です。逆に、成果物の定義がはっきりしている領域ほど、支払いをめぐる争いが起きにくい傾向があります。たとえばAI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように、納品物や報告書の形が業界慣行として固まっている分野では、何をもって完了とするかで揉める余地が小さくなります。案件を選ぶ段階で「完了の定義が書けるか」を一つの基準にすると、回収の心配をする場面そのものが減ります。
支払督促は、使わずに済むならそれがいちばん良い手続きです。それでも入金が止まったときに、自分の手で動かせる現実的な選択肢が用意されていることは知っておく価値があります。費用は数千円から、相手が反応しなければ2か月ほどで確定判決と同じ効力に届く。この事実を知っているかどうかで、催促のメールを書くときの姿勢も変わります。
よくある質問
Q. 支払督促は弁護士に頼まず本人だけで申し立てられますか?
できます。支払督促は書類審査だけで進むため、裁判所に出向いて話をする場面がありません。申立書に当事者、請求の趣旨、請求の原因を書いて、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に出せば手続きが始まります。弁護士などの訴訟代理人には電子申立てが義務づけられていますが、本人が申し立てる場合は書面でもオンラインでも選べます。
Q. 支払督促の費用はいくらかかりますか?
請求する金額で決まります。令和8年5月21日から郵便費用が申立手数料に一本化されたため、切手を別に用意する必要はなくなりました。30万円までなら電子申立てで4,000円、書面申立てで4,200円、100万円までなら電子で7,500円、書面で7,700円です。手数料は原則としてペイジーによる電子納付になります。
Q. 相手が異議を申し立てたらどうなりますか?
自動的に民事訴訟へ移ります。請求額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円を超えるなら地方裁判所で審理されます。移行先は相手の住所地を基準に決まるため、遠方の相手だと期日ごとの移動負担が生じます。手数料も訴え提起の額まで追納が必要です。相手が金額を争う姿勢を見せているなら、最初から訴訟や調停を選ぶほうが早く終わります。
Q. フリーランスの報酬でも督促手続オンラインシステムを使えますか?
使えないことが多いです。督促手続オンラインシステムは貸金、立替金、求償金、売買代金、通信料などに限られ、請負代金は対象外と明記されています。制作費や編集費、原稿料は請負代金として扱われる可能性が高いため、mintsか書面での申立てを選ぶことになります。請求書に売掛金と書いていても扱いは変わらないので、申立て前に対応類型を確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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