行政書士は記帳代行を扱えるか|業務の線引きと依頼先の選び方


この記事のポイント
- ✓行政書士記帳代行について
- ✓税理士法と行政書士法の条文から業務の線引きを整理しました
- ✓記帳代行が独占業務に当たらない理由
行政書士記帳代行と検索する人が知りたいのは、たいてい次のどちらかです。行政書士に帳簿の記帳を頼んでよいのか、あるいは自分が行政書士として記帳代行を扱ってよいのか。結論から言うと、記帳代行そのものは税理士だけに認められた仕事ではありません。行政書士も扱えます。ただし、そこから先の確定申告書の作成、税務署とのやり取り、節税の相談は行政書士には認められていません。この線がどこに引かれているのかを、条文を2つ並べて確認すると一度で理解できます。以下では、根拠になる規定、実際にできることとできないこと、そして依頼先を選ぶときに何を見ればよいかを順に整理していきます。
結論。記帳代行は税理士の独占業務ではない
最初に結論を置いておきます。帳簿をつける作業の代行は、税理士だけに認められた仕事ではありません。これ、知らない人が本当に多いところです。
税理士に独占が認められているのは、税理士法が定める3つの仕事です。税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つで、これらをまとめて税理士業務と呼びます。記帳の代行はこの3つに含まれていません。
そして、税理士法は記帳代行を別の枠で扱っています。第2条の第2項がその規定です。
税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。 出典: laws.e-gov.go.jp
条文の書き方に注目してください。「税理士業務のほか」と書かれています。つまり、会計帳簿の記帳の代行は税理士業務そのものではなく、税理士が付随して行える仕事として位置づけられています。独占の対象は税理士業務の3つだけです。
この点は、独占を定めた条文を読むとはっきりします。税理士法第52条は「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない」と定めています。禁じられているのは税理士業務、すなわち税務代理と税務書類の作成と税務相談の3つであって、記帳の代行は書かれていません。
したがって、記帳代行そのものは税理士でない人も業として行えます。行政書士も、記帳代行を専門にする会社も、在宅で経理の実務を請け負う個人も、この作業を仕事にできます。ただし、その先にある税務の手続きに踏み込むと違法になります。線の位置を正確に知ることが、この話のすべてです。
行政書士の側の根拠はどこにあるか
次に、行政書士が記帳代行を扱える根拠を確認します。行政書士法第1条の3が業務の範囲を定めています。
条文では、行政書士は他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類、その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することを業とする、とされています。ここでいう「事実証明に関する書類」に何が含まれるかが鍵になります。
日本行政書士会連合会は、事実証明に関する書類を「社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書」と説明し、主なものとして具体例を挙げています。
「事実証明に関する書類」のうち、主なものとしては、実地調査に基づく各種図面類(位置図、案内図、現況測量図等)、各種議事録、会計帳簿、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表、申述書等があります。 出典: gyosei.or.jp
会計帳簿、貸借対照表、損益計算書といった財務諸表が、名指しで事実証明に関する書類として挙げられています。つまり、帳簿を作る作業は行政書士の業務の範囲に入るという整理です。
ここで、行政書士法第1条の3の第2項も押さえておく必要があります。第2項は「行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない」と定めています。つまり、書類の作成であっても他の法律で制限されているものは扱えません。税務署に提出する申告書は税理士法で制限されているため、ここに当たります。
なお、行政書士法第19条は、行政書士または行政書士法人でない者は、他人の依頼を受け報酬を得て業として第1条の3に規定する業務を行うことができないと定めています。ただし他の法律に別段の定めがある場合は除かれます。記帳代行が行政書士の独占になっているわけではないのは、この但し書きと、帳簿の作成を制限する規定が他にないことによります。
行政書士が扱えない3つの仕事
線の向こう側にあるのが、税理士業務の3つです。行政書士の資格だけでは扱えません。
1つ目は税務代理です。税務署などに対する申告、申請、請求、不服申立てについて、または税務署の調査や処分に関して税務署に対してする主張や陳述について、代理または代行することを指します。税務調査に立ち会って本人に代わって説明することは、この税務代理に当たります。
2つ目は税務書類の作成です。税務署に提出する申告書、申請書、請求書、不服申立書その他の書類を作成することを指します。所得税の確定申告書、法人税の申告書、消費税の申告書はここに含まれます。帳簿を作るところまでは扱えても、その帳簿から申告書を作る段階で線を越えます。
3つ目は税務相談です。税務署への申告等、税務代理における主張や陳述、申告書等の作成に関して、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることを指します。ここが最も誤解されやすい部分です。「この支出は経費になりますか」という質問に答えることは、課税標準の計算に関する相談に当たり得ます。無償で答えた場合でも問題になります。
実務では、帳簿を作る作業と税額を決める判断は隣り合っています。仕訳をどの勘定科目で立てるかを決める場面で、税務上の判断が混ざることがあります。だから、記帳代行を頼むときも受けるときも、税務の判断が必要になったら税理士に引き継ぐという取り決めを先に決めておく必要があります。
もう1つ注意しておきたいことがあります。行政書士が税理士の資格も持っている場合は、両方を扱えます。実際に両方の登録をしている人がいるため、看板に両方が書かれていることがあります。依頼する側は、どちらの資格に基づく仕事なのかを確認してください。個別の業務がどちらに当たるかの判断は事情によって変わるので、判断に迷う場合は税理士会または行政書士会に照会するのが確実です。
そもそも記帳代行とは何をする仕事か
言葉の中身を整理しておきます。記帳代行とは、事業者に代わって日々の取引を帳簿に記録する仕事です。具体的には次の作業で構成されます。
第1に、資料の受け取りです。領収書、請求書、通帳の写し、クレジットカードの明細、売上の集計表などを、月ごとに受け取ります。紙で受け取る形と、写真やデータで受け取る形があります。
第2に、仕訳です。受け取った資料の1件ずつについて、日付、金額、相手方、勘定科目を決めて帳簿に記録します。現金出納帳、預金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳といった帳簿に振り分けます。
第3に、照合です。通帳の残高と帳簿の残高が一致しているかを確かめます。ここでずれが出ると、原因を探す作業が発生します。実務で時間がかかるのは、この照合の部分です。
第4に、月次の資料の作成です。試算表を作って、その月の売上と経費と利益を示します。この資料があると、事業者は年度の途中で状況を把握できます。
第5に、年度末の整理です。1年分の帳簿をそろえ、決算に必要な資料を用意します。ただし、ここから申告書を作る作業は税理士の仕事です。
依頼する側から見ると、記帳代行に頼めるのは第1から第5までで、申告書の作成は別に税理士へ依頼するか、自分で行うことになります。この分担を知らずに「全部やってもらえる」と思って契約すると、年度末に困ります。
白色申告と青色申告で、求められる帳簿が違う
記帳代行の作業量と料金は、どちらの申告を選ぶかで変わります。国税庁の説明をもとに整理します。
白色申告の場合でも、記帳の義務があります。不動産所得、事業所得または山林所得のある人は、売上などの収入金額、仕入れや経費に関する事項について、取引の年月日、売上先や仕入先その他の相手方の名称、金額、日々の売上と仕入と経費の金額等を帳簿に記載します。ただし、1つ1つの取引ごとではなく、日々の合計金額のみをまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してもよいことになっています。
保存の期間も定められています。不動産所得、事業所得または山林所得のある人は、帳簿や書類を5年間、記帳制度に基づいて作成した帳簿については7年間、住所地や事業所などの所在地に整理して保存します。業務に係る雑所得のある人で、その年の前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える人は、現金預金取引等関係書類を5年間保存する必要があります。
青色申告の場合は、帳簿の水準が控除の額に直結します。正規の簿記の原則、一般的には複式簿記によって記帳し、その記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付して、確定申告書を提出期限までに提出している場合に、原則として最高55万円の青色申告特別控除が受けられます。さらに電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告を行っている場合は、最高65万円の控除になります。これ以外の青色申告者は、最高10万円の控除です。
注意すべきは期限です。最高55万円または最高65万円の控除を受けるためには、その年の確定申告期限である翌年3月15日までに、正規の簿記の原則による記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を添付して申告書を提出する必要があります。期限を1日でも過ぎると、控除の額が10万円まで下がります。記帳代行を依頼する場合は、資料をいつまでに渡せば期限に間に合うかを最初に決めてください。
電子帳簿とインボイスで、記帳代行の中身が変わった
近年、記帳の実務が2つの制度の影響を受けています。依頼先を選ぶときの判断材料になるので、触れておきます。
1つは電子帳簿等保存制度です。電子データでやり取りした取引の情報を、電子データのまま保存することが求められる場面が増えました。メールに添付されて届いた請求書、サイトからダウンロードした領収書がこれに当たります。紙に印刷して保存する扱いから、データで保存する扱いへの移行が進んでいます。制度の詳しい内容は国税庁が特設のページで公開しているので、依頼する前に一度目を通しておくと、どういう形で資料を渡せばよいかが分かります。
青色申告特別控除との関係も押さえてください。令和4年分以後の最高65万円の控除を受けるには、その年分の事業における仕訳帳および総勘定元帳について優良な電子帳簿の要件を満たして電子データによる備え付けと保存を行い、一定の事項を記載した届出書を提出する必要があります。届出書を出していなければ、電子帳簿の要件を満たしていても65万円にはなりません。手続きの順番を間違えないでください。
もう1つは消費税の適格請求書等保存方式です。課税事業者の場合、受け取った請求書が登録番号のあるものかどうかで、仕入れの扱いが変わります。記帳の段階で請求書の区分が必要になるため、作業の手数が増えました。免税事業者であればこの影響は小さくなります。
依頼先を選ぶとき、この2つの制度への対応を確かめてください。使っている会計ソフト、データの受け渡しの方法、登録番号の確認をどちらが行うか。この3つを見積もりの段階で聞いておくと、後から追加の費用が出る事態を避けられます。
依頼先の選び方。4つの経路とそれぞれの向き不向き
記帳代行を頼める相手は4つあります。それぞれ向いている場面が違います。
1つ目は税理士です。記帳から申告まで一貫して任せられるのが利点です。年度末に別の相手を探す必要がありません。税務の判断が必要な場面でその場で答えてもらえます。一方で、記帳だけを安く頼みたい場合には、費用が見合わないことがあります。
2つ目は行政書士です。許認可の申請と帳簿の作成をまとめて頼める点が利点です。建設業、運送業、飲食業のように許認可が必要な事業では、決算の内容を許認可の更新に使う場面があります。同じ相手が両方を見ていると、資料の受け渡しが1回で済みます。ただし、申告は別に手配する必要があります。
3つ目は記帳代行を専門にする会社です。料金が明確で、月ごとの件数に応じた価格が示されていることが多いです。担当者が変わることがあるため、事業の内容を説明し直す手間が発生する場合があります。
4つ目は、在宅で経理の実務を請け負う個人です。件数が少ない事業では、この形が最も費用を抑えられます。仲介する会社が間に入ると手数料が引かれますが、直接つながる形なら同じ予算でより多くを頼めます。
どの経路でも確かめるべきは同じで、誰が税務の判断をするのかという1点です。税理士以外に依頼する場合、申告書を作る人を別に決めておかないと、年度末に手が止まります。行政書士や記帳代行の会社が提携している税理士を紹介する形もあるので、その有無を聞いてください。
許認可と決算書がつながる場面。行政書士に頼む意味はここにある
記帳代行を行政書士に頼む利点が最もはっきり出るのは、許認可を受けて事業をしている場合です。
建設業の許可を例にします。許可を受けている事業者は、毎事業年度の終了後に決算の内容を届け出る手続きがあります。この届出には、財務諸表を許可の様式に組み替えて作る作業が含まれます。会計の帳簿をそのまま出せばよいわけではなく、工事の原価をどう区分するか、完成工事高をどう示すかといった様式の決まりに合わせる必要があります。
ここで、帳簿を作った人と届出を作る人が別だと、同じ資料を2回説明することになります。帳簿を作った側は勘定科目の立て方を知っていますが、様式の決まりは知りません。届出を作る側は様式を知っていますが、その事業の取引の中身を知りません。この受け渡しで時間と費用が余分にかかります。
同じことが、運送業の事業報告、産業廃棄物の処理業の実績報告、介護や保育の指定に関わる報告にも当てはまります。いずれも決算の数字を様式に合わせて出す手続きです。帳簿を作る段階から様式を意識して勘定科目を立てておくと、年度末の作業が短くなります。
そして、許可の更新のときに決算の内容が要件に関わる場合があります。建設業では財産的基礎の要件があり、純資産の額や自己資本の水準が問われます。帳簿を作る段階でこの要件を意識していないと、更新の直前に数字が足りないことに気づく、という事態が起こります。
つまり、行政書士に記帳代行を頼む意味は、費用が安いことではなく、許認可の手続きと帳簿が同じ人の頭の中でつながることにあります。許認可のない事業であれば、この利点は働きません。自分の事業に許認可があるかどうかで、選ぶ相手が変わると考えてください。
料金の幅は何で決まるのか
見積もりの金額が相手によって大きく違う理由は、作業量の見積もり方にあります。決まるのは主に4つの要素です。
第1に、仕訳の件数です。通帳の入出金、カードの明細、現金の領収書の合計がそのまま作業量になります。件数が多い事業ほど高くなります。同じ売上でも、少額の取引が多い小売業と、件数の少ない受託の事業では件数が桁違いになります。
第2に、資料の形です。データで整理されて届く場合と、紙が封筒に入って届く場合では、手数が変わります。日付順に並んでいるか、重複がないか、裏書きのメモがあるか。この整理の度合いで、同じ件数でも作業時間が倍近く違います。料金表に「整理済みの場合」という条件が付いていることがあるのは、このためです。
第3に、消費税の扱いです。免税事業者か課税事業者か、課税事業者なら本則課税か簡易課税か。本則課税では1件ごとに税率と登録番号の確認が要るため、作業が増えます。
第4に、年度末の作業が含まれるかどうかです。月ごとの記帳だけの契約と、決算の整理まで含む契約では、年間の総額が変わります。月ごとの料金が安く見えても、決算の費用が別に立つ形があります。
依頼する側としては、見積もりを取るときに自分の側の数字を先に伝えてください。前の年の通帳の入出金の件数、領収書のおよその枚数、消費税の課税か免税か。この3つを伝えるだけで、見積もりの精度が上がり、後から金額が変わる事態を避けられます。数字が分からない場合は、直近3か月の通帳のページ数を数えて12か月に換算するだけでも目安になります。
依頼先との取り決めを文書にする
記帳代行の契約は、口頭のまま始まることが少なくありません。ここは文書にしておくべきです。根拠のある話なので、押さえておきます。
個人で働く人に業務委託を行う発注事業者には、業務委託をした際の取引条件の明示と、給付を受領した日から原則60日以内での報酬の支払いが義務づけられています。フリーランスと事業者の間の取引を適正化する法律が令和6年11月1日に施行されたことによるものです。記帳代行を個人に依頼する場合も、依頼する側が従業員を使用する事業者であればこの義務がかかります。
取り決めておく項目は6つです。作業の範囲、資料を渡す期限と受け取る形式、成果物として何をいつ受け取るか、報酬の額と支払期日、資料の保管と廃棄の方法、そして契約を終えるときのデータの引き渡しです。
とくに5つ目の資料の保管は見落とされます。記帳代行の相手が扱うのは、取引先の名称、金額、従業員の給与といった秘密の情報です。作業の後に紙をどう処分するか、データをどこに保存するかを決めておかないと、漏えいが起きたときの責任の所在が曖昧になります。
6つ目の引き渡しも重要です。会計ソフトのアカウントを相手の名義で作っていると、契約を終えたときにデータを取り出せなくなることがあります。アカウントは依頼する側の名義で作り、相手には作業のための権限だけを渡す形が安全です。この形にしておけば、相手が変わってもデータはそのまま残ります。
※契約書の文面そのものや、支払いを拒まれた場合の対応は事情によって変わります。判断に迷う場合は弁護士または最寄りの労働局の相談窓口に相談してください。
見積もりを比べるときに確かめる5項目
複数の相手から見積もりを取ったとき、金額だけを並べても比べられません。作業の範囲が違うからです。確かめる項目を5つに絞ります。
第1に、月あたりの仕訳の件数の上限です。料金が「月あたり100件まで」のように件数で区切られていることがあります。自分の事業の件数を数えてから比べてください。通帳の入出金、クレジットカードの明細、現金の領収書を合計した数が目安です。
第2に、資料の受け渡しの方法です。郵送か、持ち込みか、データで送るか。郵送なら送料と往復の日数がかかります。データなら、どの形式で送ればよいかを確かめます。写真で撮ったものをそのまま送れるかどうかで、手間が大きく変わります。
第3に、試算表の提供の有無と頻度です。月ごとに試算表が出る契約と、年度末にまとめて帳簿が出る契約では、事業の見通しの立てやすさが違います。融資を受ける予定があるなら、月ごとの試算表は必須です。
第4に、申告書の作成が含まれるかどうかです。含まれない場合、税理士への報酬が別にかかります。両方を合計した金額で比べないと、判断を誤ります。
第5に、契約を終えるときの資料の返却です。帳簿のデータをどの形式で受け取れるか、会計ソフトのアカウントはどちらが持つか。ここを決めていないと、依頼先を変えるときにデータが取り出せません。契約書に書いておくべき項目です。
この5項目を並べた表を自分で作って、相手ごとに埋めてください。書式の作り方に自信がないなら、ビジネス文書検定の出題範囲にある比較表や依頼書の型が参考になります。※税務や契約の個別の判断が必要な場面では、税理士または弁護士に相談してください。
依頼したあとに、自分の側でやること
記帳代行に頼んでも、事業者の側の仕事はゼロにはなりません。むしろ、ここを怠ると費用が上がります。
まず、資料を月ごとにそろえて渡すことです。3か月分をまとめて渡すと、作業が集中して割増の料金がかかる場合があります。月が変わったら前の月の資料を袋に入れる、という習慣を作ってください。
次に、使途が分からない支出に説明を付けることです。領収書だけでは目的が分からない支出は、記帳する側が判断できません。宛名のない領収書、現金で払った交通費、私用と業務が混ざる支出には、その場でメモを付けます。このメモがあるかどうかで、やり取りの回数が変わります。
そして、通帳と帳簿の照合の結果を確認することです。残高が合わないと連絡が来たとき、事業者しか分からない事情が原因のことがあります。個人の口座から事業の支払いをした、家族が立て替えた、といった事情です。放置すると年度末まで残り、決算の直前に慌てることになります。
最後に、保存の場所を決めることです。帳簿や書類は5年間または7年間の保存が必要です。記帳代行の相手が保存してくれるわけではありません。紙とデータの両方について、どこに残すかを決めてください。
これらを整えておくと、記帳代行の費用は下がります。作業の手数がそのまま料金になる仕事だからです。逆に言えば、資料の整理を自分で進めるほど、同じ予算でより深い分析を頼めるようになります。
自分でやるか、頼むかの判断基準
記帳代行に頼むかどうかは、費用だけで決めるものではありません。判断の材料を3つ挙げます。
1つ目は、作業にかかる時間と自分の仕事の単価の比較です。月の仕訳が100件で、慣れない人が手を動かすと5時間から8時間かかります。その時間を本業に充てたときに生む金額と、記帳代行の料金を比べてください。本業の時間あたりの単価が高い事業ほど、頼んだほうが合理的になります。
2つ目は、数字を自分で見る必要があるかどうかです。事業の状況を月ごとに把握して手を打ちたい場合、自分で記帳したほうが気づきが早いという面があります。他人に任せると、試算表が出てくるまで状況が見えません。ただし、これは試算表の提供を月ごとに受ける契約にすれば解決します。
3つ目は、続けられるかどうかです。記帳は毎月の作業です。1か月でも溜めると、翌月の負担が倍になります。繁忙期に手が止まる事業では、自分でやる前提を置かないほうが安全です。年度末にまとめて1年分を処理しようとすると、青色申告特別控除の期限に間に合わなくなる危険があります。
現実的な進め方としては、最初の1年は自分で記帳して仕組みを理解し、件数が増えた段階で頼む形があります。中身を知ってから任せると、見積もりの妥当性を自分で判断できるようになります。逆に、最初から任せる場合でも、勘定科目の立て方と試算表の読み方だけは自分で覚えてください。数字の意味が分からないまま帳簿を受け取っても、事業の判断には使えません。
記帳の仕事を受ける側から見た市場
ここからは、在宅の仕事と業務委託の市場を20年にわたって見てきた運営者の立場からの観察です。
経理の実務を在宅で請け負う人は、この10年で確実に増えました。会計ソフトがブラウザで動くようになり、資料を写真で受け渡せるようになったことで、事務所に通わなくても仕事が成り立つようになったからです。一方で、単価の競争も起きています。仕訳の件数だけで料金を示すと、数字の勝負になります。
長く続いている人は、件数ではない部分で選ばれています。資料の受け取り方を相手に合わせて設計する、質問をまとめて1回で聞く、税務の判断が要る場面を早い段階で見つけて税理士に渡す。こうした段取りの部分が評価されています。運営者として見てきた限り、これは業種を問わず共通する型です。単発の作業を安く受ける人より、この人に任せると楽だという関係を作った人のほうが、結果として長く続いています。
手取りの話もしておきます。仲介する会社が間に入る形では、依頼者が払った金額から手数料が引かれた残りが手取りになります。手数料0%で直接つながる形が意味を持つのは、金額の大小ではなく、同じ件数でも手取りが厚くなるという質の部分です。記帳のように件数と時間が比例する仕事では、この差がそのまま働く時間の長さに跳ね返ります。
技能の広げ方についても触れておきます。記帳の実務に近い仕事として、業務の手順を整理して改善を支援する仕事があります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、どういう課題がどういう形で依頼されるかが整理されています。帳簿を見る仕事は、事業のお金の流れを最も細かく見る仕事です。そこで気づいた無駄を手順の改善として提案できるようになると、受けられる仕事の幅が変わります。
事業の内容を説明する文書を書く仕事も隣接しています。著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種ごとの水準を確かめておくと、記帳と文書作成を組み合わせたときの収入の見通しが立てやすくなります。単価の上げ方の考え方は、Webライターが文字単価を上げる方法【2026年版】|1円→5円のステップにある実績の示し方と交渉の順番がそのまま使えます。件数で売るのではなく、任せられる範囲で売る形に変えていくのが要点です。
最後に、依頼する側にも受ける側にも共通する注意を1つ書いておきます。税務の判断に踏み込む相談は、資格のある人に渡してください。無償の助言であっても問題になり得ます。線の位置を知っていることは、相手を断るための知識ではなく、安心して仕事を任せ合うための知識です。※個別の事案については、税理士または行政書士に直接相談してください。法律は、条件を確かめた人の側に立ちます。
よくある質問
Q. 行政書士に記帳代行を頼んでも違法になりませんか?
違法にはなりません。税理士に独占が認められているのは税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つで、会計帳簿の記帳の代行はこの3つに含まれていません。日本行政書士会連合会も、会計帳簿や財務諸表を事実証明に関する書類として挙げています。ただし確定申告書の作成は行政書士には依頼できません。
Q. 行政書士が確定申告書を作ってくれないのはなぜですか?
税務署に提出する申告書の作成は、税理士法が定める税務書類の作成に当たり、税理士だけに認められているからです。行政書士法にも、他の法律で制限されている書類の作成は行えないという規定があります。帳簿の作成までを行政書士に頼み、申告書は税理士に依頼するという分担になります。
Q. 白色申告でも帳簿をつける必要がありますか?
必要です。不動産所得、事業所得または山林所得のある方には記帳の義務があります。ただし1件ずつではなく日々の合計金額のみをまとめて記載するなど、簡易な方法で記載してよいことになっています。帳簿や書類は5年間、記帳制度に基づいて作成した帳簿は7年間の保存が必要です。
Q. 記帳代行の見積もりは何を比べればよいですか?
月あたりの仕訳の件数の上限、資料の受け渡しの方法、試算表が出る頻度、申告書の作成が含まれるかどうか、契約を終えるときのデータの返却方法の5つです。とくに申告書の作成が含まれない場合は税理士への報酬が別にかかるため、合計額で比べてください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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