人間ドック通訳の仕事内容と、未経験から医療通訳の現場に入る道


この記事のポイント
- ✓人間ドック通訳の仕事内容を
- ✓受付から結果説明までの流れに沿って解説します
- ✓厚生労働省の医療通訳育成カリキュラム基準が示す受講条件と研修の時間
人間ドック通訳は、外国人の受診者が日本の医療機関で人間ドックや健康診断を受けるときに、受診者と医療スタッフの間に入って言葉をつなぐ仕事です。語学が得意で、医療や健康の分野に関心がある人にとって、通訳の経験を生かせる働き方の1つです。
ただ、「英語が話せるから」「中国語ができるから」という理由だけで務まる仕事ではありません。人間ドックには、前日からの食事の制限、検査の順番、検査後の過ごし方など、受診者に正確に伝えなければならない指示がいくつもあります。言い間違いが受診者の体の負担や、検査のやり直しにつながる場面もあります。
この記事では、人間ドック通訳の仕事内容を受付から結果説明までの流れに沿って整理したうえで、厚生労働省が示している医療通訳者に必要な知識と研修の基準、民間の認定試験、在宅でもできる遠隔通訳という働き方、そして未経験から医療通訳の現場に入るまでの段取りを順に解説します。
人間ドック通訳が求められる背景
外国人が日本で人間ドックを受ける場面は、大きく2つに分かれます。
1つは、日本に住んでいる外国人が、勤め先の健康診断や自分の意思で人間ドックを受ける場面です。日本の健康保険に加入している人も多く、受診の手続きは日本人とほぼ同じですが、問診票の記入や検査の指示を日本語で理解するのが難しい人がいます。
もう1つは、海外から日本の人間ドックを受けに来る場面です。日本の検査の細かさや設備を目当てに、旅行と組み合わせて受診する人がいます。こうした受診者は日本の健康保険に入っていないため、費用は全額自己負担になり、受診の手配も専門の事業者を通すことが多くなります。
厚生労働省は、医療機関を受診する外国人患者の増加を受けて、受け入れの体制づくりに取り組んでいると説明しています。医療通訳者の育成のための基準やテキストの公開、医療機関に医療通訳者やコーディネーターを配置するための支援、希少な言語に対応した遠隔通訳の仕組みづくりなどがその例です。
医療機関の側も、通訳の質を重視するようになっています。外国人の受け入れを案内しているある健診施設は、同伴する通訳者について次のように説明しています。
通訳者については、原則として医療通訳士の資格を保有するか、医療通訳の経験がある方の通訳のみしか認めていません。日本語力だけで医療通訳を認める場合がありますが、あくまでも病院の判断になりますのでご理解ください。 出典: imsgroup.jp
この案内から分かるのは、医療の場での通訳には、語学力に加えて医療通訳としての知識や経験が求められているということです。家族や知人が通訳を務めることも認められる場合はありますが、それは医療機関の判断次第です。仕事として人間ドック通訳を受けるなら、医療通訳としての準備が前提になると考えておきましょう。
人間ドックの流れと、通訳が担う場面
人間ドック通訳の仕事を具体的に思い描くために、一般的な人間ドックの流れに沿って、通訳が関わる場面を整理します。検査の項目や順番は医療機関やコースによって違うため、ここでは代表的な例として読んでください。
受診の前:予約と事前の案内
人間ドックは、受診日の前から準備が始まります。多くの医療機関では、前日の夕食の時間や内容、当日の朝の飲食の制限、普段飲んでいる薬の扱いなどについて、事前に案内があります。便の検査がある場合は、検査の容器を受け取り、決められた日に採取して持参します。
通訳者がこの段階から関わる場合は、医療機関が出した案内を受診者の言語で正確に伝えます。特に、飲食の制限や薬の扱いは、伝え方を誤ると検査ができなくなったり、体に負担がかかったりするため、医療機関の指示を一字一句確認しながら訳すことが大切です。案内の内容に不明な点があれば、通訳者の判断で補わず、必ず医療機関に確認します。
受付と問診票
当日は、受付で本人確認と保険の確認を行い、問診票を提出します。問診票には、これまでにかかった病気、手術の経験、飲んでいる薬、アレルギー、女性の場合は妊娠の可能性など、検査の安全に関わる項目が並んでいます。
問診票の通訳は、人間ドック通訳の中でも特に神経を使う場面です。病名や薬の名前は、国によって呼び方が違うことがあります。受診者が母国で処方された薬の名前を言っても、日本では別の名前で売られていることもあります。通訳者は、受診者の言葉をそのまま伝えたうえで、分からない部分は分からないと医療スタッフに伝え、確認を促します。
各種の検査
人間ドックでは、身長や体重、血圧の測定、採血、尿検査、心電図、胸のエックス線、腹部の超音波検査、視力や聴力の検査、胃の検査など、多くの検査を順番に受けます。
検査の場面で通訳が担うのは、主に検査中の指示を伝えることです。「息を吸って、止めてください」「体を右に向けてください」「楽にしてください」といった短い指示を、検査のタイミングに合わせて伝えます。エックス線の撮影室のように通訳者が中に入れない場所では、事前に指示の内容を伝えておく、ガラス越しに合図を決めておくといった工夫が必要です。
胃の検査は、通訳の役割が大きい検査の1つです。バリウムを飲む検査では、検査中に体の向きを何度も変える指示が続きます。また、検査後にバリウムを体の外に出すための下剤の飲み方や、水分のとり方の説明があります。胃カメラの検査では、鎮静剤を使う場合に、検査後しばらく休むことや、当日は車の運転を控えることなどの注意が伝えられます。こうした検査後の注意は、受診者が帰宅した後の安全に関わるため、確実に理解してもらえたかを確認しながら伝えます。
女性の受診者が乳がんや子宮がんの検診を受ける場合は、通訳者の性別に配慮が求められることがあります。医療機関や派遣元の方針を事前に確認しておきます。
医師による結果の説明
検査が終わると、当日に分かる範囲の結果について、医師から説明を受けることがあります。数値の意味、再検査や精密検査が必要かどうか、生活の中で気をつけることなどが伝えられます。
この場面では、医師の説明を正確に、省いたり付け加えたりせずに伝えることが通訳者の役割です。受診者から「これは悪い病気ですか」と聞かれても、通訳者が自分の考えで答えてはいけません。質問はそのまま医師に伝え、医師の答えを訳します。医療の判断は医師が行い、通訳者は言葉の橋渡しに徹するという線引きは、人間ドック通訳でも変わりません。
結果報告書の翻訳
人間ドックの結果は、後日、報告書として届くことが多くあります。報告書を受診者の言語に訳してほしいという依頼が、通訳とは別に寄せられることもあります。これは話し言葉の通訳ではなく、書かれた文書を訳す翻訳の仕事です。医学用語や検査の基準値が並ぶ文書なので、通訳とは別の準備と時間が必要になり、料金も分けて考えるのが一般的です。
厚生労働省が示す医療通訳者の役割と知識
医療通訳者にどのような力が求められるかについては、厚生労働省が公開している「医療通訳育成カリキュラム基準」が参考になります。この基準は、医療通訳者を養成する機関や、医療通訳者を雇ったり派遣したりする機関が、研修を行うときに使うことを想定して作られたものです。
基準では、医療通訳者の役割について、次のように説明しています。
医療、保健分野における必要な関連知識や語彙、能力と技能を持ち、診療等の場面において、言葉の媒介者として、話し手の意図を正確に理解して、聞き手にその内容を忠実に伝え、対話者間の効果的なコミュニケーションを可能にする 出典: 厚生労働省 医療通訳育成カリキュラム基準、医療通訳テキスト
「言葉の媒介者」とは、医師と受診者のどちらの側にも立たず、話された内容をそのまま相手に届ける役割のことです。人間ドックの場面で言えば、医師の指示や説明を省いたり付け加えたりせず、受診者の訴えも自分の解釈を交えずに伝えることを指します。
同じ基準は、医療通訳者が持つべき知識として、母語と対象言語の両方での医療や保健に関する基礎知識と用語の理解、日本の医療制度の基礎知識、健康や医療に関わる文化や社会の違いへの理解を挙げています。また、倫理として、すべての通訳利用者に対して中立で公平な態度をとること、職務上知り得た情報の秘密を守りプライバシーに配慮すること、自分の専門的な能力や語学力の限界を自覚して適切に判断することなどを挙げています。
人間ドック通訳では、受診者の病歴や検査結果という、もっとも人に知られたくない情報に触れます。秘密を守ることは、技術以前の前提です。
研修の目安:受講の条件と時間
医療通訳育成カリキュラム基準は、医療通訳者を育てる研修の受講条件や時間の目安も示しています。未経験から医療通訳を目指す人にとって、どの程度の準備が必要かを知る手がかりになります。
基準が挙げる受講の条件は、原則として20歳以上であること、母語で大学入学に相当する語学力と高校卒業程度の知識があること、対象の言語で高度な会話や議論ができることなどです。対象の言語の力の目安としては、ヨーロッパ言語共通参照枠と呼ばれる国際的な語学力の物差しでB2以上が示されています。日本語の場合は日本語能力試験のN1、中国語の場合はHSK5級または中国語検定2級以上が目安とされています。
研修の時間は、50単位以上(1単位は90分)とされています。内訳は、通訳の理論と技術が20単位以上、医療通訳に必要な知識が20単位以上、倫理とコミュニケーションが10単位以上です。通訳の理論と技術のうち、実際に通訳をしてみる実技は10単位以上行うこととされています。
修了の条件としては、8割以上の履修、履修記録の提出、研修中に作った用語集の提出、レポートの提出、そして筆記試験と模擬通訳の試験で一定以上の評価を得ることが挙げられています。
| 項目 | 基準が示す内容 |
|---|---|
| 受講の条件 | 原則20歳以上、対象言語は国際的な物差しでB2以上が目安 |
| 研修の時間 | 50単位以上(1単位90分) |
| 内訳 | 通訳の理論と技術20単位以上、医療の知識20単位以上、倫理とコミュニケーション10単位以上 |
| 修了の条件 | 8割以上の履修、用語集とレポートの提出、筆記試験と模擬通訳の試験 |
この基準は、医療通訳者になるための法律上の資格を定めたものではありません。ただ、医療通訳者を養成する機関の講座の多くが、この基準を下敷きにしています。講座を選ぶときは、この基準に沿った内容と時間になっているかを確かめると、比べやすくなります。
民間の認定試験で知識と技能を示す
医療通訳には、医師や看護師のような国家資格はありません。その代わりに、民間の団体が知識と技能を認定する試験を実施しています。
その1つが、一般財団法人日本医療教育財団が実施する医療通訳技能認定試験です。この試験には、医療機関などで専門的な通訳業務にあたっている人向けの「医療通訳専門技能認定試験」と、ボランティアなどで基礎的な通訳にあたっている人や、これから医療通訳者を目指す人向けの「医療通訳基礎技能認定試験」の2種類があります。合格者には、それぞれ「医療通訳専門技能者」「医療通訳基礎技能者」の称号が与えられます。
試験の日程や対象の言語、受験の条件は年度によって変わるため、受験を考えるときは日本医療教育財団の公式サイトで最新の案内を確認してください。
資格は、医療機関や派遣元に自分の力を示す材料になります。先に紹介した健診施設の案内のように、通訳者に資格か経験を求める医療機関もあります。未経験から始める人にとっては、経験の代わりに知識と技能を示せる手段として、資格の意味は大きいと言えます。
一方で、資格を持っているだけで仕事が入るわけではありません。人間ドック通訳の現場で信頼されるのは、検査の流れを理解し、指示を正確に伝え、受診者の不安に配慮できる人です。資格の勉強と並行して、実際の健診の流れを学んでおくことが大切です。
人間ドック通訳の働き方
人間ドック通訳の仕事は、いくつかの働き方で受けられます。それぞれの特徴を整理します。
医療機関に雇われる
外国人の受け入れに力を入れている病院や健診施設の中には、医療通訳者を職員として雇っているところがあります。決まった施設で働くため、検査の流れや医師の話し方に慣れやすく、通訳の質を高めやすい働き方です。一方で、求人の数は多くなく、対応する言語が限られることもあります。
医療通訳の派遣元に登録する
医療通訳者を医療機関に派遣する団体や事業者に登録し、依頼があるたびに現場に出向く働き方です。地域の国際交流の団体が医療通訳の派遣を行っていることもあります。登録の条件として、研修の修了や試験の合格を求めるところが多くあります。
受診の手配を担う事業者と組む
海外から人間ドックを受けに来る人の場合、受診の予約や通訳の手配、滞在中の案内までを、専門の事業者がまとめて引き受けることがあります。こうした事業者と組んで、受診の当日に同行する通訳者として働く形もあります。
遠隔通訳で在宅から受ける
電話やビデオ通話を使って、離れた場所から通訳をする遠隔通訳という働き方もあります。厚生労働省も、夜間や休日の相談窓口や、話す人の少ない言語に対応するための遠隔通訳の仕組みづくりを進めています。遠隔通訳であれば、自宅から通訳業務を受けることも可能です。
ただし、人間ドックの検査中の通訳は、受診者のそばで指示を伝える場面が多く、遠隔通訳だけで全体をこなすのは難しいことがあります。遠隔通訳は、問診や結果の説明、電話での事前の案内など、会話が中心の場面に向いています。
在宅で遠隔通訳を受ける場合は、自宅の環境も仕事の質を左右します。周りの音が入らない部屋、安定した通信回線、相手の声を聞き取りやすいヘッドセットは最低限そろえておきたいものです。また、受診者の病歴や検査結果を話す場面もあるため、家族に会話が聞こえない場所で通訳を行い、画面やメモを人に見られないようにするなど、秘密を守るための工夫が欠かせません。
未経験から医療通訳の現場に入るまでの段取り
未経験から人間ドック通訳を目指す場合、次のような順番で準備を進めると無理がありません。
- 自分の語学力を確かめる。対象の言語で、健康や体調について具体的に話せるか、相手の説明を正確に理解できるかを確認する
- 医療の基礎を学ぶ。体の仕組み、主な病気の名前、検査の種類と目的を、日本語と対象の言語の両方で覚える
- 医療通訳の講座を受ける。厚生労働省の基準に沿った講座で、通訳の技術と倫理を学ぶ
- 認定試験を受ける。基礎的な試験から始め、自分の到達度を確かめる
- 派遣元や地域の団体に登録する。研修やボランティアの機会があれば参加し、現場の経験を積む
- 健診の場面に特化した準備をする。人間ドックの検査の流れ、前日の注意、検査後の注意を、対象の言語で説明できるように練習する
このうち、6番目の準備は、人間ドック通訳ならではのものです。健診で使う表現は、ある程度決まっています。「前日の夜9時以降は食事をしないでください」「検査の後は水を多めに飲んでください」といった定型の表現を、自分の言葉ですぐに出せるように練習しておくと、当日の通訳が安定します。
用語集を自分で作ることも大切です。厚生労働省の基準でも、研修中に用語集を作って提出することが修了の条件の1つになっています。健診で出てくる検査の名前、体の部位、症状の表現を、日本語と対象の言語で並べた表を作り、新しい言葉に出会うたびに書き加えていくと、仕事の質が上がっていきます。
厚生労働省は、医療通訳と観光通訳の連携を学ぶ講座も開いています。2026年9月28日に募集が公表された令和8年度の通訳養成講座は、医療通訳か観光通訳の経験があり、令和6年度と令和7年度を通じて10件以上の実務経験がある人などを対象に、オンラインと実地で行われます。申込の締め切りは2026年10月9日(金)です。未経験の人がすぐに受けられる講座ではありませんが、経験を積んだ後に、海外からの受診者の案内まで視野を広げる道があることは知っておいて損はありません。
健診でよく出る表現と、訳すときの注意
人間ドック通訳では、同じような表現が何度も繰り返されます。よく出る表現を場面ごとに整理し、訳すときに気をつけたい点をまとめます。
飲食と薬の指示
「何時以降は食べないでください」「水は少量なら飲んでも構いません」「普段飲んでいる薬は、医師の指示どおりにしてください」といった指示は、受診の前日と当日の朝に集中します。ここで気をつけたいのは、時刻と量の伝え方です。「夜」が何時を指すのか、「少量」がどのくらいかは、言語や文化によって受け取り方が違います。医療機関の指示に具体的な時刻や量が書かれていれば、それをそのまま数字で伝えます。書かれていなければ、通訳者が推測で補わず、医療機関に確認します。
体の動きの指示
「息を大きく吸って、止めてください」「横向きになってください」「腕を上げてください」といった短い指示は、検査の流れの中で素早く伝える必要があります。長い文に訳すと、受診者が動くタイミングを逃します。対象の言語で、短く、はっきり伝わる言い方を事前に決めておくと、検査がスムーズに進みます。
症状や体調を聞く質問
「どこか痛いところはありますか」「最近、体重が大きく変わりましたか」「家族に同じ病気の人はいますか」といった質問は、問診の中心です。受診者の答えは、本人の言葉のまま医師に伝えます。たとえば受診者が「胃が重い感じがする」と言った場合、通訳者が「胃もたれです」と言い換えると、医師が受け取る情報が変わってしまいます。本人の表現をできるだけ忠実に訳し、医師が追加で質問できる余地を残すのが基本です。
結果の説明に出てくる言葉
結果の説明では、「基準値の範囲内です」「経過観察です」「精密検査をおすすめします」といった言葉が出てきます。経過観察とは、今すぐ治療は必要ないが、次の健診などで変化を見ていくという意味です。こうした言葉は、日本の健診に特有の言い回しで、直訳すると意味が伝わらないことがあります。用語集に、それぞれの言葉の意味を対象の言語で説明する文を用意しておくと安心です。ただし、説明はあくまで医師の言葉の範囲にとどめ、通訳者が病状の重さを判断して付け加えることはしません。
当日の動き方の一例
人間ドック通訳の当日の動き方を、一例として紹介します。医療機関や派遣元によって段取りは違うため、実際には事前の打ち合わせで確認してください。
受診の開始より前に医療機関に到着し、受付の担当者に通訳者として来たことを伝えます。受診者と合流したら、本人の確認をしたうえで、その日の流れを簡単に説明します。受付と問診票の確認を済ませ、検査が始まったら、受診者と一緒に検査室を回ります。
検査と検査の間には、待ち時間があります。この時間に次の検査の内容を伝えておくと、受診者の不安が和らぎ、検査室での指示も伝わりやすくなります。待ち時間は、受診者との雑談の時間にもなりますが、検査の結果や病気について、通訳者の意見を言うことは避けます。
すべての検査が終わり、医師の説明があれば通訳を行います。最後に、検査後の注意や、結果の報告書がいつどのように届くかを確認し、受診者に伝えて終了です。派遣元によっては、終了後に通訳の記録や報告書の提出を求められることがあります。記録には、受診者の個人情報を必要以上に書かないように気をつけます。
1件の人間ドックは、午前中から昼過ぎまでで終わることが多いものの、検査の混み具合や追加の検査によって延びることもあります。次の予定を詰めすぎないようにしておくと、慌てずに対応できます。
人間ドック通訳で気をつけたいこと
人間ドック通訳の仕事には、医療の場ならではの注意点があります。
医療の判断をしない
もっとも大切なのは、通訳者が医療の判断をしないことです。受診者から「この数値は大丈夫ですか」「再検査は受けたほうがいいですか」と聞かれることはよくあります。親切心から自分の知識で答えたくなりますが、それは通訳者の役割ではありません。質問は必ず医師や看護師に伝え、その答えを訳します。
分からないことを分かったふりをしない
通訳中に知らない言葉が出てきたときは、正直にその場で確認します。医療の場では、あいまいな訳が受診者の誤解につながります。医療通訳育成カリキュラム基準が倫理の1つとして、自分の能力の限界を自覚して適切に判断することを挙げているのは、このためです。
受診者の不安に配慮する
人間ドックを受ける人の多くは、体調に大きな問題を感じているわけではありません。それでも、慣れない国の医療機関で、言葉の分からない検査を受けるのは不安なものです。検査の前に流れを簡単に説明しておく、待ち時間に次の検査の内容を伝えておくといった配慮が、受診者の安心につながります。
秘密を守る
受診者の病歴、検査結果、体のことは、通訳者が知り得るもっとも重い秘密です。通訳が終わった後も、家族や知人を含めて誰にも話さないこと、メモを取った場合は適切に処分することを徹底します。
体調を整えて臨む
医療機関には、体の弱っている人も訪れます。医療通訳育成カリキュラム基準も、感染予防と体調の管理を通訳者に求められる力の1つとしています。自分の体調がすぐれないときは無理をせず、派遣元に早めに相談します。
人間ドック通訳に向いている人
人間ドック通訳は、語学が得意な人なら誰でも向いているというわけではありません。現場で求められる資質を整理しておくと、自分に合うかどうかを判断しやすくなります。
1つ目は、正確さを何より大事にできる人です。会話の通訳では、多少言葉を言い換えても意味が通じれば問題になりにくいものです。しかし医療の場では、食事の時刻や薬の扱い、検査後の注意のように、少しのずれが受診者の負担につながる情報が多く含まれます。自分の訳が正しかったかを振り返り、迷ったら確認する姿勢が欠かせません。
2つ目は、自分を前に出さずにいられる人です。医療通訳者は、医師と受診者の会話を成り立たせるための存在であり、会話の主役ではありません。受診者に頼られると、つい自分の考えを伝えたくなりますが、そこで踏みとどまれるかどうかが、信頼される通訳者とそうでない通訳者の分かれ目になります。
3つ目は、学び続けられる人です。医療の用語や検査の方法は、少しずつ変わっていきます。医療通訳育成カリキュラム基準も、自分の通訳を振り返り、能力の維持と向上を図ることを、医療通訳者に求められる力の1つとしています。講座を1度受けて終わりにせず、用語集を更新し続けることが、長く仕事を続ける土台になります。
4つ目は、異なる文化に敬意を持てる人です。健康や体についての考え方、医師との接し方、肌を見せることへの抵抗感などは、国や地域によって違います。受診者の背景を尊重しながら、日本の医療機関のやり方を伝える橋渡しができる人は、現場で重宝されます。
報酬の考え方と、働き方の組み合わせ
人間ドック通訳の報酬は、雇われるのか、派遣元に登録するのか、事業者と組むのかによって大きく変わります。また、対応する言語、拘束される時間、事前の準備や報告書の翻訳を含むかどうかでも違います。報酬の額は依頼先ごとに決められているため、登録や契約の前に、時間単位の報酬、交通費の扱い、待ち時間の扱い、キャンセルになったときの扱いを必ず確認しておきましょう。
人間ドックは平日の午前中に行われることが多く、1件の通訳は数時間で終わることが一般的です。そのため、人間ドック通訳だけで生計を立てるより、ほかの通訳や翻訳の仕事と組み合わせて働く人が多い分野です。たとえば、平日の午前は健診の通訳、午後は医療に関する文書の翻訳、夜は遠隔通訳の待機といった組み合わせ方があります。
翻訳の仕事と組み合わせる場合は、文章を書く力も問われます。結果報告書や案内文の翻訳は、正確さに加えて、読み手にとって分かりやすい文章になっているかが評価されます。文章を扱う仕事の収入の目安は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で、公的統計をもとに整理されています。
運営者の視点:信頼される通訳者は「準備」で差をつけている
フリーランスと在宅ワークの市場を20年見てきた運営者の立場から言えば、通訳や翻訳のような専門職で長く仕事が続く人は、当日の腕前以上に、事前の準備に時間をかけています。人間ドック通訳で言えば、受診するコースの検査項目を事前に確認し、使いそうな表現を整理しておく人ほど、医療機関からも受診者からも再び声がかかっています。
もう1つの実感は、依頼者と直接つながる関係の強さです。医療通訳のように信頼が前提の仕事では、同じ通訳者に続けて頼みたいという声が多く聞かれます。仲介の手数料が乗らない直接の取引では、同じ予算でも依頼者は事前の打ち合わせや報告書の翻訳まで含めて頼みやすくなり、受け手の手取りも厚くなります。手数料0%で直接やり取りできる場は、継続して指名されることが多い専門職ほど、双方にとって使いやすい環境になります。
人間ドック通訳は、語学の力だけでなく、医療の知識、通訳の技術、倫理の3つがそろって初めて務まる仕事です。未経験からでも、厚生労働省の基準に沿った講座で学び、認定試験で力を確かめ、地域の団体や派遣元で経験を積むという順番を踏めば、現場に入る道は開けます。報告書や案内文の書き方を磨きたい人は、文書作成の基本を問うビジネス文書検定の範囲も参考になります。まずは自分の語学力と医療の知識の現在地を確かめるところから始めてみてください。
よくある質問
Q. 人間ドック通訳に必要な資格はありますか?
医療通訳には国家資格がなく、資格がなくても通訳はできます。ただ、医療機関によっては、同伴する通訳者に医療通訳の資格か経験を求めるところがあります。日本医療教育財団の医療通訳技能認定試験には専門と基礎の2種類があり、未経験から目指す人が知識と技能を示す手段になります。
Q. 医療通訳の研修はどのくらいの時間が必要ですか?
厚生労働省の医療通訳育成カリキュラム基準では、研修を50単位以上(1単位90分)としています。内訳は通訳の理論と技術が20単位以上、医療通訳に必要な知識が20単位以上、倫理とコミュニケーションが10単位以上で、実技は10単位以上行うこととされています。
Q. 人間ドック通訳は在宅でもできますか?
電話やビデオ通話を使う遠隔通訳であれば、自宅から通訳業務を受けられる場合があります。ただし、検査中は受診者のそばで指示を伝える場面が多いため、遠隔通訳は問診や結果説明、事前の案内など会話が中心の場面に向いています。結果報告書の翻訳も在宅で受けやすい仕事です。
Q. 受診者から検査結果について質問されたら、通訳者が答えてもよいですか?
通訳者が自分の判断で答えることは避けます。数値の意味や再検査の必要性は医師が判断することなので、質問はそのまま医師や看護師に伝え、その答えを訳して受診者に届けます。分からない言葉が出てきたときも、その場で確認して正確に伝えることが大切です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
石井 ゆかり@SOHO編集部
フリーランスフィットネストレーナー
大手フィットネスクラブでトレーナーを務めた後、オンラインフィットネスで独立。在宅ワーカーの健康管理やウェルネス系のコンテンツを手がけています。
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