スポーツ選手のセカンドキャリアを考える進め方


この記事のポイント
- ✓スポーツ選手セカンドキャリアの進め方を
- ✓先に測るべき3つの数字
- ✓引退前と引退後の作業の分け方
結論から書きます。スポーツ選手のセカンドキャリアで結果が分かれるのは、選択した職種ではなく、意思決定の順番です。職種を先に決めた人はほぼ失敗し、自分の条件を数字で測ってから職種を絞った人はうまくいきます。この記事では、立場別に異なる前提の整理、進め方を決める前に測る3つの数字、引退前と引退後で作業を分ける理由、強みの棚卸しの手順、そして無料で使える支援と資格への投資判断までを、順番通りに書きます。正直なところ、セカンドキャリアの記事は「こんな職業があります」というカタログで終わっているものが多く、進め方そのものを書いたものは少ないと感じています。
スポーツ選手のセカンドキャリアは立場によって全く別の話になる
最初に前提を分けます。同じ「スポーツ選手」でも、プロ契約の選手、企業のスポーツ部に所属する実業団の選手、学生アスリートでは、セカンドキャリアの意味がまるで違います。ここを混ぜて考えると、自分に関係のない助言を集めることになります。
プロ契約の選手は、引退と同時に職も収入も失います。雇用ではなく請負や委任に近い契約形態のケースもあり、その場合は雇用保険の対象にならないことがあります。つまり、引退後に失業給付が出ない可能性がある立場です。ここは契約書を確認しないと分かりません。確認せずに「たぶん出るだろう」と考えているのは危険です。
実業団の選手は、多くの場合その企業の社員として雇用されています。競技を引退しても、社員としては続けられる立場です。これは大きな優位性ですが、別の問題が発生します。競技に集中していた期間、同期の社員は実務経験を積んでいます。引退してから配属される部署で、10年分の経験差のある同期と並ぶことになります。ここで「自分は競技しかしてこなかった」と感じて辞めてしまう人がいる。辞める前に、その差が実際にどのくらい埋められるものかを測るべきです。実務の多くは3年で一通り回るので、10年の差が10年分の実力差になっているわけではありません。
学生アスリートは、就職活動の時期が競技の最盛期と重なります。競技を優先すると就職活動が遅れ、就職活動を優先すると競技の結果が落ちる。この二択に見えるのが辛いところですが、実際には「競技を続けながら就職活動の準備だけ進める」という第三の手があります。エントリーシートの下書きと自己分析は、シーズン中でも週に2時間あれば進みます。
自分がどの立場かを確定させてから読むと、この先の内容の取捨選択ができます。プロ契約の人は収入の断絶に備える章を、実業団の人は強みの棚卸しの章を、学生の人は時間配分の章を重点的に読んでください。
進め方を決める前に測る3つの数字
セカンドキャリアの相談を受けている人たちに共通しているのは、「何をしたいか」を最初に聞かれることです。この質問は答えられません。答えられないから止まります。先に測るべきは、やりたいことではなく数字です。3つあります。
1つめは、残り年数です。何歳で引退する見込みか、そこから何年働くのかを書き出します。仮に30歳で引退して65歳まで働くなら、セカンドキャリアの期間は35年です。競技人生が10年だったとすれば、その3倍以上の時間がある。この数字を見ると、「引退後すぐに正解の職業を見つけなければいけない」という焦りが少し落ちます。最初の3年を助走に使っても、残りは32年あります。
2つめは、月々の必要生活費です。家賃、光熱費、通信費、食費、保険料、返済。これを足した金額が、受け入れられる条件の下限になります。この数字を出していない人は、提示された年収が高いのか低いのか判断できません。判断できないから、なんとなく決めて後悔します。
3つめは、貯蓄が何か月分あるかです。必要生活費で貯蓄を割ると、無収入で耐えられる月数が出ます。この月数が交渉力そのものです。3か月分しかなければ、最初に来た内定を受けるしかありません。12か月分あれば、条件を比べて選べます。引退の予定が見えているなら、残りの期間で貯蓄を増やして生活費を下げる。それが最も効く準備です。
この3つを測ると、進め方が自動的に決まります。貯蓄が薄い人は、まず雇用で生活を固める。時間に余裕がある人は、興味のある分野で小さく経験を積んでから決める。残り年数が長い人は、資格や技能への投資が回収できる。数字が方針を決めるので、意志の強さに頼らずに進められます。
ここで一点、注意があります。測った数字が厳しい人ほど、測ることを避けたくなります。見たくない現実が出てくるからです。ただ、測らなければ手は打てません。貯蓄が2か月分しかないと分かった時点で、生活費を下げる、副収入を作る、実家に戻る、といった手が検討できます。測らないまま引退すると、その検討ができないまま追い込まれます。
引退前にやること、引退後にやることを分ける
進め方の設計で一番効くのが、この分離です。引退前にしかできないことと、引退後でもできることを分けて、前者を優先します。
引退前にしかできないことは4つあります。競技団体やリーグの支援窓口を使うこと、チームメイトやスタッフから紹介先を聞くこと、在籍している立場で企業の話を聞くこと、そして収入があるうちに貯蓄と学習に投資することです。どれも、辞めた後では条件が悪くなります。特に競技団体の支援は、現役の選手を対象にしているものが多く、引退後は対象外になります。
引退後でもできることは、履歴書の作成、求人の閲覧、面接の練習、ハローワークでの相談、技能の学習です。これらは時期を問わず同じ品質でできます。だから、引退前の限られた時間はこちらに使わないほうが効率がいい。
この分離ができていない人は、現役のうちに履歴書を書き始めて、支援窓口に問い合わせないまま引退します。順番が逆です。現役のうちは人に会い、情報を集め、引退後に机の上の作業をする。これで使える資源が最大になります。
アスリート向けの支援を掲げている会社の案内には、こう書かれています。
アスリートが記録を残すように、ビジネスの場でもやりがいを感じる機会は様々あります。(株)エイジェックスポーツマネジメントにご相談下さい。一緒に考え、カタチになるようサポート致します! 出典: agekke-sp.co.jp
こうした窓口は、引退の意思が固まってから連絡するものだと思われがちですが、実際は「引退を考え始めた」段階で問い合わせて構いません。むしろその段階のほうが、選択肢を並べる時間が取れます。相談したから引退しなければならない、という話ではありません。
引退の時期が自分で選べない競技もあります。契約を更新されない形で終わる場合、通知から実際の離脱までが短い。だからこそ、通知が来る前に準備を終えておく必要があります。準備しておいて更新されたなら、それは何も失っていません。準備していなくて更新されなかったときだけ、取り返しがつかなくなります。
通用する強みの棚卸しを手順化する
セカンドキャリアの相談で最も時間がかかるのが、強みの言語化です。ここを感覚でやると「コミュニケーション能力があります」で止まります。それでは通りません。手順にします。
第1段階 出来事を20個書き出す 競技生活の中で起きたことを、良いことも悪いことも20個書きます。「ケガから復帰した」「レギュラーを外された」「後輩の指導を任された」「練習メニューを自分で組んだ」「遠征の手配をした」。評価はしません。事実だけ書きます。
第2段階 それぞれに「誰と」「どのくらいの期間」「どんな判断をしたか」を足す 「後輩の指導を任された」なら、「1年生8人を対象に、2年間、週3回の基礎練習の内容を自分で決めて実施した」と書き換えます。ここで初めて職務経験の形になります。
第3段階 相手が読める言葉に置き換える 「基礎練習の内容を自分で決めて実施した」は、企業の言葉では「未経験者向けの育成計画の立案と実行」です。「遠征の手配をした」は「宿泊と移動の手配、予算管理」です。この置き換えができると、書類選考の通過率が変わります。
第4段階 職種と突き合わせる 書き換えた項目を、求人票の仕事内容と並べます。一致するものが多い職種が、自分にとって近い職種です。「やりたいこと」ではなく「重なりが多いこと」から入るのが、最短経路です。
この作業は1人でやると必ず甘くなります。競技を知らない人に読んでもらって、意味が分からないところを指摘してもらってください。書類の型そのものは転職サイトおすすめ比較【2026年版】|年代・職種別の選び方に年代別と職種別の使い分けまで整理されているので、どのサービスに登録して添削を受けるかを決める段階で読むと迷いません。
棚卸しをすると、意外な発見があります。競技の実績そのものよりも、その周辺でやっていた雑務が評価されることが多い。備品の管理、後輩の面倒、スケジュールの調整。競技者本人は「本業ではない」と思っている部分に、企業が欲しがる経験が詰まっています。
無料で使える支援を順番に並べる
進め方の中で、費用の順に支援を並べます。無料から始めて、必要になったら有料を検討する。この順番を守るだけで、無駄な出費が消えます。
最初はハローワークです。職業相談、履歴書と職務経歴書の添削、面接練習、求人紹介がすべて無料です。さらに公共職業訓練は、テキスト代などの実費を除けば受講料がかかりません。介護、IT、経理、溶接、建設機械。分野は地域で違いますが、未経験から技能を得る公的な経路として整備されています。雇用保険の受給と組み合わせられる訓練もあるので、窓口で自分が対象になるかを確認してください。制度の全体像は厚生労働省の案内で確認できます。
次が競技団体とリーグの支援です。就職説明会、キャリアセミナー、個別相談。在籍している期間に使えるものが多いので、優先度は高い。窓口の存在を知らないまま引退する選手がかなりの割合でいます。所属先の担当者に「引退後の支援はありますか」と一度聞くだけで済む話です。
3つめが人材紹介会社です。求職者は無料で使えます。費用は採用する企業側が負担する仕組みだからです。アスリート専門を掲げる会社は、競技経験を職務経験に翻訳する部分を代わりにやってくれるので、棚卸しが苦手な人には向いています。ただし、紹介が決まることが会社の収益になる構造なので、2社以上に登録して評価を比べてください。1社の評価を自分の市場価値と思い込むのは危険です。
4つめが有料のサービスです。ここに進んでよいのは、無料の相談を複数使って「足りないのは情報ではなく技能だ」と確定した後だけです。逆の順番で高額なスクールに入った人を何人も見ています。進路が決まる前の学習は、ほぼ回収できません。
相談する側から相談される側に回る道もあります。自分が通ってきた経路を、後から来る選手に対して支援するという仕事です。どんな依頼があり、どう進めるのかはキャリア・副業・人生相談のお仕事にまとまっています。競技の内側を知っている人にしか書けない助言には、実際に需要があります。
資格とスキルへの投資をどう判断するか
資格の判断基準は1つだけです。目指す職種の求人票に、その資格名が必須要件として書かれているか。書かれていれば取る、書かれていなければ後回しにする。これで9割の判断がつきます。
トレーナーや治療系の国家資格は、書かれている側の代表です。柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師は専門学校に3年通う必要があり、学費も時間もかかりますが、持っていなければ施術ができません。収入の見通しについては、専門学校の情報にこう書かれています。
一般的な給与統計を参考にすると、資格取得後の勤務者の年収は300万円~500万円前後からのスタートとなるのが標準的です。 しかし、ここからがアスリート経験者の見せ所です。スポーツ現場での実績を積み、特定の競技に強いトレーナーとして認められたり、独立してスポーツ特化型の治療院を経営したりすることで、800万円~1,000万円を超えるキャリアを築く方も多く存在します。 出典: spo-ken.ac.jp
つまり、勤務だけで終わらせるか、独立や複数の収入源に広げるかで結果が大きく変わる領域です。3年の学費を投じる前に、その先の広げ方まで想定しておく必要があります。
一方、事務系や企画系を目指すなら、資格よりも操作技能です。表計算ソフトの関数とピボットテーブル、文書作成、基本的な会計の理解。この3つが揃っていると、未経験でも書類が通ります。会計の基礎を短期間で証明したいなら日商簿記3級が現実的で、学習期間は2か月から3か月が目安です。経理職に限らず、営業でも企画でも数字の話が通じるようになるので、投資対効果が高い資格だと考えています。
IT系の職種を視野に入れるならITパスポートが入口になります。技術者向けというより、IT を使う側の共通言語を揃える試験です。エンジニアを目指さなくても、社内システムの話が分かる人材として評価されます。
投資の判断で見落とされがちなのが、回収期間です。前の章で測った残り年数が長い人は、3年の学費でも回収できます。50代で引退する人が同じ投資をすると回収が難しい。年数によって最適な選択が変わるので、一般論で「この資格がおすすめ」と言われても、そのまま受け取らないことです。
失敗する人の共通点と、うまくいく人の共通点
進め方の話をするなら、失敗の形も具体的に書いておくべきです。相談の現場で繰り返し見る失敗は4つに集約されます。
ひとつめは、選択肢を1つしか作らないことです。 競技関係者からの紹介で次が決まる人が多いのですが、紹介が1つだけの状態では条件の比較ができません。給与、職務範囲、勤務地、教育の有無。比べる相手がいないと、提示された条件が妥当かどうか判断できません。紹介はありがたく受けたうえで、必ず別の経路で1つ以上の候補を並べる。これだけで交渉の余地が生まれます。
ふたつめは、スポーツ業界の中だけで探すことです。 指導者の席はクラブや競技団体の数に比例するので、需要が増えにくい構造です。求人数そのものが他の産業と桁が違います。結果として、待遇が低くても「好きな分野だから」と受け入れてしまい、数年で生活が成り立たなくなる。スポーツ業界を第一志望にするのは構いませんが、第二志望に別の産業を置いておかないと断る力が生まれません。
みっつめは、引退から活動開始までの空白が長いことです。 体も心も疲れているので休みたいのは当然ですが、この空白は面接で必ず聞かれます。答えられないとそこで評価が止まります。休むなら1か月と期間を決める。その間にアルバイトでも委託でも何か手を動かしていれば、それが面接の材料になります。
よっつめは、現役時代の評価軸を職場に持ち込むことです。 競技の世界は結果が数字で出て、指示が明確で、上下関係がはっきりしています。一般の職場はその逆で、評価は曖昧、指示は不完全、成果が出るまでの期間が長い。ここで「言われたことは全力でやるのに評価されない」という不満が溜まります。必要なのは、指示されていないことを自分で見つけて動くことです。競技で言えば、与えられた練習をこなす段階ではなく、自分の弱点を自分で見つけて練習を組んでいた段階の動き方に近い。
では、うまくいく人の共通点は何か。3つあります。第一に、数字を測ってから動いていること。第二に、競技の外に知り合いがいること。第三に、報酬の小さい仕事を最初に受けることを嫌がらないことです。3つめが特に効きます。実績のない段階で条件のよい仕事は来ないので、そこを受け入れて最初の1件を作った人が、半年後には選べる立場になっています。逆に、最初から条件で選ぼうとした人は半年たっても1件目がありません。
セカンドキャリアのメリットを挙げるなら、競技と違って評価基準が1つではないことです。競技では記録やタイムという単一の軸で順位が付きますが、仕事の評価軸は複数あります。速さ、正確さ、対応の丁寧さ、継続性。どこかで上位に入れる可能性があるという点で、競技より公平な世界だと考えています。
学生アスリートと若年での引退に固有の進め方
20代前半で競技を離れる場合、進め方が少し変わります。残り年数が長く、投資の回収期間が十分にあるからです。
学生アスリートの場合、最大の制約は時間です。競技と就職活動が同じ時期に重なるので、どちらかを削るしかないように見えます。ただ、就職活動を構成要素に分解すると、シーズン中にできるものが見つかります。自己分析と経験の書き出しはいつでもできる。業界の情報収集も移動時間で進む。企業の説明会と面接だけが時間の縛りを受けます。だから、シーズン中は前者を進めておき、オフに入ったら後者に集中する。この配分なら競技を落とさずに進められます。
若年で引退する人が有利なのは、未経験の職種に入れることです。20代であれば、企業は経験ではなく伸びる余地を見ます。3年の実務経験がある人と並べられたとき、競技で培った継続力と目標管理の経験が評価の材料になります。逆に30代後半以降の引退だと、未経験の職種に入るハードルは上がります。年齢によって戦い方が変わるので、若いうちに引退した人は選択肢の広さを活かすべきです。
一方で、若年の引退に固有の落とし穴もあります。「競技で燃え尽きたから、次は何も考えたくない」という状態に入ることです。競技に全部を賭けてきた人ほど、目標を失った時期が長引きます。ここで有効なのは、大きな目標を立てないことです。3年後の理想像を考えるのではなく、今月やることを1つ決める。求人を20件読む、相談窓口に1件連絡する、この程度から始めて構いません。小さく動くと、動いているうちに次の関心が出てきます。
もう一点、若年で引退する人に伝えたいのは、競技を続けた期間が空白ではないということです。履歴書の書式上は「大学卒業後、競技に専念」と1行で終わってしまいますが、そこには目標設定、計画立案、実行、修正のサイクルを何年も回した経験が詰まっています。前の章で書いた棚卸しの手順を踏めば、その中身を相手が読める形にできます。1行で終わる経歴を、20行の職務経験に書き換える作業です。
収入を1本足にしないための業務委託の使い方
進め方の最後に、収入の構造の話を書きます。雇用1本に絞るのは、実は最もリスクの高い選択です。
理由は単純で、その1本が切れたときに収入がゼロになるからです。競技でそれを経験したばかりの人が、同じ構造をもう一度作るのは合理的ではありません。雇用で生活を固めるのは正しい。ただ、そこに小さな2本目を足しておくと、次に何かが起きたときの選択肢が残ります。
2本目として現実的なのが業務委託です。オンラインで完結する仕事が増えたので、平日の夜と週末で回せるものがあります。競技経験者が入りやすいのは、指導や解説に関わる仕事、競技団体やクラブの情報発信の代行、データの整理や入力、動画の編集です。
たとえばデータの整理や文字起こしは、特別な資格が要らず、納期を守れば評価されます。仕事の内容と進め方はデータ入力・文字起こし・分類のお仕事で確認できます。単価は高くありませんが、「納期を守って対価を受け取った」という実績が残るので、最初の1件としての価値があります。
指導を業務委託の形で続ける道もあります。対面のパーソナル指導だけでなく、オンラインでのフォームの確認や練習計画の作成など、場所に縛られない受け方が増えています。内容はスポーツ・ダンス・トレーニング指導のお仕事にまとまっています。指導単価を決めるときは、市場の水準を知っておくべきです。個人で教える仕事の相場は個人教師の年収・単価相場で全国平均と地域別の水準が確認できます。営業職を軸に考えている人ならその他の営業職業従事者の年収・単価相場も見ておくと、提示された条件の妥当性が判断できます。
私自身、編集の仕事を始めた頃に、受けた案件の単価が低いまま2年続けてしまった経験があります。相場を調べなかったからです。調べた後で気づいたのは、自分の作業の質ではなく、交渉していなかったことが原因だったということ。相場を知らないと交渉できません。これは競技の世界でも同じで、自分の市場価値を把握していない選手が不利な契約を結ぶ構図と重なります。
2本目を作るときの注意点は、時間の配分です。雇用の仕事に支障が出るほど詰め込むと、本体を失います。週に5時間から10時間が現実的な上限だと考えています。
20年市場を見てきた立場からの観察
在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた立場から、進め方に関する観察を2つ書きます。
1つめは、続く人と続かない人の差です。技術の高さではありません。続く人は、依頼者の手間を減らす動き方をしています。質問をまとめて一度に投げる、納品時に気づいた点を1行添える、期限の前日に進捗を送る。この3つをやる人は、次の依頼が来ます。逆に、完成度は高いのに連絡が遅い人は、品質に関係なく依頼が減ります。競技の世界で、自分の役割の周辺まで拾っていた選手は、この動き方が自然にできます。指示されたことだけを完璧にこなす訓練を積んできた人は、ここで最初つまずきますが、意識すれば数か月で変わります。
2つめは、手取りの構造です。仲介の手数料が乗る取引では、依頼者が支払った金額と受け手が受け取る金額が一致しません。中間マージンが乗らない直接の取引なら、依頼者は同じ予算でより多く頼めて、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%の仕組みが効いてくるのは、単価の大小の話ではなく、双方が無理をしなくて済むという構造の話です。引退直後で収入を積み上げたい時期には、この差が生活の余裕に直結します。
長く市場を見てきて分かったのは、セカンドキャリアで差がつくのは意思の強さではなく、手順を持っているかどうかだということです。強い意志で頑張っても、順番が間違っていれば結果は出ません。逆に、数字を測り、引退前と引退後の作業を分け、強みを棚卸しして、無料の支援から順に使うという手順を踏めば、特別な才能は要りません。
この記事で書いた手順のうち、今日できるのは数字を測ることだけです。残り年数、必要生活費、貯蓄の月数。紙とペンで30分あれば終わります。そこから始めてください。測った数字が、次に何をすべきかを教えてくれます。
よくある質問
Q. プロ契約の選手は引退後に失業給付を受けられますか?
契約形態によって変わります。雇用契約で雇用保険に加入していれば対象になりますが、請負や委任に近い契約の場合は加入していないことがあります。「たぶん出るだろう」と考えず、契約書と給与明細で雇用保険料が控除されているかを確認してください。
Q. 実業団の選手が引退後に社内で働く場合、同期との経験差は埋まりますか?
多くの実務は3年ほどで一通り回るため、10年の在籍差が10年分の実力差になるわけではありません。ただし待遇や昇進は在籍年数に連動するため、そこは差が残ります。競技で培った継続力を実務で示せば、数年で評価は追いつきます。
Q. セカンドキャリアの準備は引退の何年前から始めるべきですか?
情報を集める行動は、引退を考え始めた時点から始めて構いません。競技団体やリーグの支援は在籍中しか使えないものが多いため、在籍しているうちに人と会って情報を集め、履歴書作成などの机の上の作業は引退後に回すのが効率的です。
Q. 引退後すぐに正社員で就職すべきですか、業務委託から始めるべきですか?
貯蓄が何か月分あるかで決まります。生活費の3か月分程度しかなければ、雇用で生活を固めるのが先です。12か月分の余裕があれば、業務委託で複数の分野を試してから絞る進め方ができます。どちらを選んでも、2本目の収入源を小さく持つことを勧めます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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