アスリートのセカンドキャリアの選び方


この記事のポイント
- ✓アスリートセカンドキャリアで迷っている方へ
- ✓引退後に起きやすい失敗パターン
- ✓選択肢を4つの型に整理する方法
アスリートセカンドキャリアと検索する人の多くは、「引退後に何をすればいいか」を知りたいわけではありません。本当に知りたいのは、「今の自分の経歴で、まともな条件の仕事に就けるのか」という一点です。この記事では、引退後に起きやすい失敗の構造、選択肢を4つの型に分けて整理する方法、無料で使える公的支援の使い方、資格の選び方、そして引退前から動くための具体的なステップを順に書きます。結論を先に言うと、セカンドキャリアの成否を決めるのは競技実績の大きさではなく、「引退してから動き始めたか、引退する前から動いていたか」の差です。
アスリートのセカンドキャリアが詰むのは引退後ではなく引退前
セカンドキャリアの話は、どうしても「引退後にどんな職業があるか」という職種カタログの話になりがちです。ただ、現場を見ていると詰まる原因はそこではありません。詰まるのは、引退を決める前の数年間に、競技以外の時間をまったく確保していなかったことです。
数字で見ると構造がはっきりします。日本のプロ野球は1球団の支配下登録が70人で、12球団あわせて最大840人しか席がありません。毎年新しく指名された選手が入るということは、ほぼ同じ人数が外に出ていくということです。サッカーやバスケットボールでも同じで、選手として食べていける期間は競技人生の一部でしかありません。多くの競技で、選手としての現役期間は10年前後、引退の平均年齢は20代後半から30代前半に集中しています。つまり、社会人としての残り時間は30年以上あるのに、キャリアの設計だけが後回しになっているという状態が生まれます。
もうひとつの構造的な問題は、履歴書に書ける情報の形式が競技と噛み合わないことです。企業の採用担当者は「どの会社で、何年、どの職務をしていたか」という枠で読みます。この枠に「全国大会出場」「リーグ戦通算◯試合」と書いても、担当者はそれを職務経験に翻訳できません。翻訳するのは応募者側の仕事です。ここを誰も教えてくれないまま就職活動に入るので、書類選考で落ち続けて自信を失う人が出てきます。
そして最後に、収入の断絶です。競技に集中していた期間は、遠征費や用具代を自分で負担していた人もいれば、契約金や年俸で一般の同年代より高い収入を得ていた人もいます。後者のほうが実は危険で、引退直後に生活水準を下げられず、貯蓄を短期間で使い切ってしまうケースがあります。生活費の水準を引退の1年前から段階的に下げておくだけで、選べる仕事の幅は大きく変わります。焦って最初に来た求人に飛びつく必要がなくなるからです。
引退前にやっておくべきことは、難しいことではありません。競技以外の時間を週に数時間確保する、自分の経歴を職務経験の言葉に書き換えてみる、生活費の下限を把握する。この3つだけです。引退という区切りを待たずに始められるものばかりで、しかも引退後に始めると2倍から3倍の時間がかかります。
引退後に起きやすい5つの失敗パターン
セカンドキャリアの失敗は、だいたい同じ形で繰り返されます。上位の記事でも触れられている典型例を、実務の視点で5つに分けて整理します。
競技の人脈だけで次を決めてしまう
一番多いのがこれです。所属していたチームの関係者、後援企業、地元のスポーツクラブ。声をかけてくれる人は競技の世界に多いので、そこから紹介された仕事をそのまま受けます。悪いことではありませんが、選択肢が1つしかない状態で意思決定しているので、条件の比較ができません。給与も職務範囲も「言われた通り」になり、数年後に「思っていた仕事と違う」と辞めて、今度は人脈も使い切っている状態で振り出しに戻ります。紹介はありがたく受けたうえで、必ず同時に2つ以上の選択肢を並べて比べる。これだけで結果が変わります。
「スポーツに関わる仕事」に絞り込みすぎる
競技を続けてきた人ほど、スポーツ業界の中で仕事を探します。しかしスポーツ業界の求人数は、他の産業と比べて桁が違います。指導者の席は競技団体やクラブの数に比例するので、需要は増えにくい構造です。結果として、低い待遇でも「好きなことだから」と受け入れてしまい、生活が成り立たなくなる。スポーツ業界を第一志望にするのは構いませんが、第二志望に全く別の産業を置いておかないと交渉力が生まれません。
資格を先に取ろうとする
「未経験だから資格を取ってから」と考えて、学費のかかるスクールに入る人が多いです。ここは後の章で詳しく書きますが、資格は仕事を得るための手段であって、順番を間違えると時間とお金の両方を失います。資格を取り終わる頃に、その資格が必要な仕事に興味がなくなっていた、というのは珍しい話ではありません。
現役時代の評価基準を職場に持ち込む
競技の世界は、結果が数字で出て、上下関係がはっきりしていて、指示が明確です。一般の職場はその逆で、評価基準は曖昧、指示は不完全、成果が出るまでの期間が長い。ここで「やれと言われたことは全力でやるのに評価されない」という不満が溜まります。実際に必要なのは、指示されていないことを自分で見つけて提案する動き方です。競技で言えば、コーチに言われた練習をこなすのではなく、自分の弱点を自分で見つけて練習メニューを組んでいた時期の動き方に近い。その経験がある人は、この壁を早く越えます。
引退の発表から就職活動開始までの空白が長い
引退後に数か月から1年、何もしない期間を作ってしまうパターンです。体も心も疲れているので休みたい気持ちはわかります。ただ、この空白は面接で必ず聞かれます。「この期間は何をしていましたか」に答えられないと、そこで評価が止まります。逆に、空白の期間にアルバイトでも業務委託でも何かしら手を動かしていれば、その話がそのまま面接の材料になります。休むなら期間を決めて、1か月なら1か月と区切ることです。
選択肢を4つの型に分けて整理する
セカンドキャリアの選択肢を職種名で並べると数百通りになり、かえって決められません。決めやすくするには、収入の入り方と時間の縛りで4つの型に分けます。
型1 企業に就職する
雇用契約を結んで働く形です。毎月決まった額が入り、社会保険と雇用保険に入れます。引退直後に生活基盤を固めたい人には最も合理的な選択です。狙いやすいのは営業職、人事や採用の職種、小売やサービス業の店舗運営、物流や製造の現場管理です。いずれも「体力がある」「継続して数字を追える」「チームで動ける」という競技経験が翻訳しやすい領域です。年収の目安を知りたいときは、職種ごとの全国平均を確認しておくと交渉の基準になります。事務系の職種であれば総合事務員の年収・単価相場に都道府県別の相場までまとまっているので、提示された条件が市場のどのあたりにあるかを確認できます。
型2 指導者やトレーナーとして競技に残る
学校の部活動指導、クラブチームのコーチ、パーソナルトレーナー、整骨院や治療院での施術。競技経験が最も直接的に活きる型です。ただし、雇用が非常勤や業務委託になりやすく、収入が不安定になりがちです。パーソナルトレーニングのセッション単価は1回5,000円から10,000円程度が相場で、固定客が付くまでの期間をどう食いつなぐかが最大の課題になります。スポーツやトレーニングの指導を業務委託で請ける場合の仕事の内容と進め方はスポーツ・ダンス・トレーニング指導のお仕事にまとまっており、オンラインでの指導や動画を使った指導など、対面以外の受け方も整理されています。
型3 自分で事業を持つ
治療院の開業、スクールやクラブの運営、飲食店、物販。裁量は最大ですが、初期投資と固定費のリスクを全部自分で負います。競技で培った突破力が活きる場面もありますが、事業は突破力より継続の設計で決まります。開業を考えるなら、少なくとも1年は同じ業種で働いて、原価と集客の実態を見てから決めたほうがいい。ここを飛ばした開業の失敗を、私は業界を変えて何度も見てきました。
型4 業務委託で複数の収入源を持つ
1社に雇われず、複数のクライアントから仕事を受ける形です。オンラインで完結する仕事が増えたので、この型は以前よりずっと現実的になりました。指導の記録をまとめる文章作成、スポーツ関連のSNS運用、動画編集、オンラインでの相談業務など、競技経験を素材として使える仕事が実際にあります。収入は最初小さいですが、雇用と違って上限がなく、掛け持ちができます。前章で触れた「引退前から動く」を実行するとき、この型が最も相性がいいです。現役のうちから週に数時間で始められるからです。
4つの型は排他的ではありません。型1で生活を固めながら、型4を週末に走らせる。型2で指導を続けながら、型4でオンライン教材を作る。この組み合わせが現実には一番強い。1つに絞らないことがリスク管理になります。
無料で使える支援をどこまで使い倒せるか
セカンドキャリアの支援には、費用がかかるものと無料のものがあります。まず無料で使えるものを全部使い切ってから、有料を検討するのが順番です。
公的な支援の中心はハローワークです。求人紹介だけでなく、職業相談、履歴書と職務経歴書の添削、面接の練習まで無料で受けられます。さらに公共職業訓練は、テキスト代などの実費を除けば受講料が無料です。介護、IT、経理、建設機械の操作など、分野は地域によって違いますが、未経験から資格や技能を得るための最短経路として設計されています。制度の詳細は厚生労働省の案内で確認できます。
競技団体やリーグが用意している支援もあります。プロ野球選手会やJリーグ、各競技の連盟が、引退予定選手向けの就職説明会やセミナーを開いています。在籍している間は使えるのに、辞めた後は使えなくなるものが多いので、引退を考え始めた時点で問い合わせるべきです。
民間のアスリート専門エージェントも無料で使えるものがあります。人材紹介の仕組みでは、求職者ではなく採用する企業側が費用を負担するため、登録と相談は無料になります。アスリート向けの支援を掲げている会社の案内には、こう書かれています。
経験を活かしてできることはないか、どうやって履歴書を書くか、こんなビジネスに挑戦してみたいなど、まずは現在のお悩みや再就職のご希望などをお聞かせください。個人カウンセリングや応募書類の作成などを通し、再就職を手厚くサポートします。専任エージェントの中には元スポーツ選手も在籍。私たちといっしょに現在・将来のビジョンを形にしていきましょう! 出典: agekke-sp.co.jp
ここで注意したいのは、無料の理由を理解して使うことです。紹介会社の収益は企業からの成功報酬なので、紹介が決まることが会社の利益になります。担当者が善意で動いていても、構造として「早く決めてほしい」という圧力はかかります。だから紹介会社は2社以上に登録して、同じ経歴をどう評価されるかを比べる。1社の評価を自分の市場価値だと思い込まないことが大事です。
有料のサービスを検討する基準は明確です。無料の相談を複数使ったうえで、「自分に足りないのは情報ではなく技能だ」と分かったときだけ、お金を払う価値があります。逆に、進路が決まっていない段階で高額なスクールに入るのは、順番が逆です。
キャリアの相談そのものを仕事にする道もあります。引退後に自分が支援を受ける立場から、支援する立場に回る人は実際にいます。相談業務がどういう内容で、どんな形で依頼が来るのかは職場・転職・キャリア相談のお仕事で確認できます。自分が通ってきた道だからこそ書ける言葉には価値があります。
資格は取ってから考えると必ず失敗する
資格の話は必ず出てきます。そして、ここで一番多くの人が時間とお金を落とします。順番を逆にすればいいだけなので、はっきり書きます。
正しい順番は、まず行きたい仕事の求人を20件読むことです。求人票の「必須要件」の欄に資格名が書かれているかを確認する。書かれていなければ、その資格は入口では要りません。書かれていれば、それは取る価値があります。求人を読まずに「この業界なら役に立ちそう」で選ぶと、必要のない資格に半年と数十万円を使うことになります。
トレーナーや治療系の国家資格は、その典型です。柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師は、専門学校に3年通う必要があります。時間も学費もかかりますが、これらは名称独占かつ業務独占の資格なので、持っていないと施術ができません。つまり「資格が無いと仕事ができない」側の資格です。取るなら覚悟を決めて取る価値があります。収入の見通しについては、専門学校の情報にこう書かれています。
一般的な給与統計を参考にすると、資格取得後の勤務者の年収は300万円~500万円前後からのスタートとなるのが標準的です。 出典: spo-ken.ac.jp
一方で、事務職や企画職を目指すなら、必要なのは資格よりも操作技能です。表計算ソフトで関数とピボットテーブルが使えるかどうかは、面接で必ず確認されます。ここを証明したいならMOS Excel(Microsoft Office Specialist)のような操作技能の認定が実務に直結します。学習期間が短く、費用も専門学校と比べて桁が小さい。未経験で事務系に入るときの最初の1枚として現実的です。
指導や相談を仕事にしたい人には、キャリア支援の国家資格という選択肢があります。キャリアコンサルタントは登録制の国家資格で、養成講座の受講が受験の前提になります。ここで使えるのが教育訓練給付制度です。一般教育訓練給付は受講費用の20%(上限10万円)、専門実践教育訓練に指定された講座なら受講費用の50%(年間上限40万円)が支給され、資格を取って就職すると追加給付が受けられます。対象講座かどうかで負担が大きく変わるので、申し込む前に確認してください。
資格選びで最後に確認してほしいのは、更新の有無と費用です。更新に講習と費用がかかる資格は、取ったあとも維持コストが続きます。その仕事を長く続ける前提が無いなら、更新のない資格を選ぶほうが合理的です。
引退の12か月前から始める7つのステップ
ここからは手順です。引退の時期が見えている人は12か月前から、すでに引退している人は今日から、同じ順番で進めてください。
ステップ1 生活費の下限を出す(1週間) 家賃、光熱費、通信費、食費、保険料を書き出して、月に最低いくら必要かを確定させます。この数字が、受けられる仕事の条件の下限になります。出さないまま就職活動をすると、提示額の判断ができません。
ステップ2 競技経験を職務経験の言葉に翻訳する(2週間) 「キャプテンを3年」ではなく「20人のチームで、練習計画の立案と、監督と選手の間の情報共有を担当」と書き換えます。「毎日5時間練習」ではなく「目標から逆算した週間計画を自分で作り、3年間継続」と書く。数字と、担当した役割と、期間を必ず入れます。この作業の型は職務経歴書の書き方完全ガイド|転職成功率を上げるコツ【2026年版】に業種別の書き方までまとまっているので、白紙から悩むより先に読んだほうが早いです。
ステップ3 気になる求人を20件読む(1週間) 応募はまだしません。読むだけです。必須要件、歓迎要件、給与、勤務地、仕事内容を表にします。20件読むと、自分に足りないものが具体的に見えます。ここで初めて、資格や技能の学習を判断できます。
ステップ4 無料の相談を3か所で受ける(1か月) ハローワーク、競技団体の支援窓口、アスリート専門の紹介会社。同じ経歴を3か所に見せて、評価の違いを見ます。1か所だけだとその評価が正しいかどうか判断できません。
ステップ5 小さく稼ぐ経験を1件作る(2か月) 業務委託でもアルバイトでもいいので、競技以外で報酬を受け取る経験を1件作ります。金額は小さくていい。重要なのは、納期を守って対価を受け取るという取引の経験です。この1件があると、面接での説得力が変わります。
ステップ6 足りない技能を1つだけ埋める(3か月) ステップ3で見えた不足のうち、1つに絞って学習します。同時に3つやろうとすると全部中途半端になります。表計算、文章作成、動画編集のどれか1つ。3か月でひとつ、実務で使える水準にします。
ステップ7 応募と並行して収入源を2本にする(3か月) 本命の応募を進めながら、ステップ5で作った委託の仕事を継続します。就職が決まってもすぐには辞めない。副業として続けられるなら、雇用の1本足を避けられます。
この7ステップは全部で約12か月です。短縮したいなら、ステップ3と4を並行させるのが一番効きます。順番を入れ替えていいのはそこだけで、ステップ1と2を飛ばすと全体が崩れます。
在宅の業務委託で小さく試すという第3の道
「就職か、指導者か」の二択で考えている人に、もう一つの入口を書きます。在宅でできる業務委託を、引退前から小さく始める方法です。
なぜこれを推すかというと、失敗の損失が小さいからです。就職は入社してから合わないと分かると、やり直しに数年かかります。開業は資金を失います。業務委託は、1件やってみて合わなければやめるだけで、失うのは費やした時間だけです。しかも、やった経験は職務経歴として残ります。
競技経験者が入りやすい分野は、意外と広い。指導内容を文章にまとめる仕事、競技団体やクラブのSNS運用、練習動画の編集、オンラインでの相談や指導、スポーツ関連の記事の執筆。共通しているのは「その競技を実際にやっていた人でないと書けない、話せない内容がある」ことです。競技の内側の言葉を持っているのは、明確な強みです。
コーチングやメンタリングをオンラインで請ける形は特に相性がいい。競技で後輩を指導していた経験がそのまま活きます。どんな依頼が来て、どう進めるのかはメンタリング・コーチングのお仕事で確認できます。教える相手がアスリートでなくても、目標から逆算して習慣を作る手伝いは同じ構造です。
個人で教える仕事の収入水準を知りたいときは個人教師の年収・単価相場が参考になります。全国平均と都道府県別の相場が出ているので、提示された報酬が妥当かどうかを判断できます。指導単価の交渉をするときに、市場の水準を知っているかどうかで結果が変わります。
私自身、別の業界の話ですが、最初の委託案件は報酬が小さく、作業量のほうが多かった。それでも受けたのは、実務の写真撮影の段取りや納品の作法を、机の上では絶対に学べないと分かっていたからです。案の定、初回は指示の解釈を間違えて作り直しになりました。ただ、その失敗があったから2件目からは確認の順番を変えられた。小さく始める価値は、報酬ではなく失敗できることにあります。
もう一つ、実務に入って気づいたことがあります。依頼する側が本当に困っているのは、技術の高さではなく「任せたら最後まで持っていってくれるか」でした。競技で3年、5年と同じ目標に向かって続けた経験のある人は、この点で最初から評価されます。技術は後から追いつきますが、続ける習慣は後から作るのが難しい。ここは競技経験者の明確なメリットです。
引退直後に必ず発生する手続きと、お金の守り方
職種の話とは別に、引退した月から必ず発生する事務手続きがあります。ここを知らないまま数か月放置して、本来受け取れたはずのお金を取り逃がす人がいるので、順番に書きます。
まず雇用保険です。プロ契約で雇用保険に入っていた場合、離職後にハローワークで求職の申し込みをすると基本手当の対象になります。離職の理由が契約満了や会社都合なら待期の7日間の後から受給が始まり、自己都合退職の場合は待期の後にさらに給付制限の期間が入ります。受給には求職活動の実績が必要なので、申し込みだけして放置すると支給されません。逆に言えば、就職活動をしながら受け取れる制度なので、動いている人が得をする設計です。制度の内容は厚生労働省の案内で確認できます。
次に健康保険です。チームの健康保険から抜けると、選択肢は3つあります。1つめは前の保険を任意継続する方法で、原則2年間続けられますが、これまで事業主が負担していた分も自分が払うため保険料は概算で2倍になります。2つめは国民健康保険に入る方法で、保険料は前年の所得で決まります。現役時代の収入が高かった人は、引退した年の国民健康保険料が想像以上に高くなるので注意が必要です。3つめは家族の被扶養者になる方法で、収入の条件を満たせば最も負担が小さい。どれが有利かは前年の所得で変わるので、市区町村の窓口で任意継続との保険料を比べてから決めるのが確実です。
年金も切り替えが必要です。厚生年金から国民年金の第1号被保険者になり、保険料は月額17,000円前後です。収入が減って払えない時期は、免除や納付猶予の申請ができます。未納のまま放置すると将来の受給額が減るだけでなく、障害年金の対象からも外れる場合があるので、払えないなら必ず申請してください。詳しい要件は日本年金機構で確認できます。
最後に税金です。業務委託で収入を得る場合、給与と違って源泉徴収だけで完結しないため、自分で確定申告をします。年間の所得が一定額を超えれば申告が必要になり、経費として認められるものを記録していないと払いすぎになります。委託で仕事を受け始めた日から、通信費や機材費、交通費の領収書をまとめておくだけで負担が変わります。申告の手順は国税庁の案内に沿えば個人でも進められます。
この4つは、引退した直後の1か月から2か月に集中して発生します。転職活動と並行すると抜けるので、引退が決まった時点で手続きの一覧を紙に書いておくといい。手続きを終えてから就職活動に集中するほうが、結果として早く決まります。
市場を20年見てきた立場からの観察
在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた立場から、セカンドキャリアについて2つだけ書きます。
1つめは、長く仕事が続く人の共通点です。単発の作業をこなすのが上手い人ではなく、「この人に任せると自分の手間が減る」と依頼者に思わせる人が続きます。具体的には、確認の質問を先にまとめて投げる、納品のときに次の提案を1行添える、期限の前日に進捗を送る。技術的には誰でもできることですが、実際にやる人は少数です。競技の世界で、チームの中で自分の役割の周辺まで拾っていた人は、この動き方が自然にできます。逆に、言われたことだけを完璧にやる訓練を受けてきた人は、ここで最初つまずきます。訓練の内容が違うだけなので、意識すれば変えられます。
2つめは、手取りの話です。仲介の手数料が乗る取引では、依頼者が支払った金額と受け手が受け取る金額に差が出ます。同じ金額の仕事でも、中間マージンが乗らない直接の取引なら、依頼者は同じ予算でより多く頼めて、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%の仕組みが効いてくるのは、金額の大小の話ではなく、双方が無理をしなくて済むという質の話です。引退直後で収入を積み上げたい時期には、この差が生活の余裕に直結します。
観察を続けてきて確信しているのは、セカンドキャリアで差がつくのは競技実績の大きさではないということです。全国大会に出た人が必ず成功するわけでもなく、無名のまま引退した人が必ず苦労するわけでもありません。差がつくのは、引退という区切りを待たずに小さく動き始めたかどうか、そして自分の経験を相手が読める言葉に翻訳する作業をやったかどうか。この2つだけです。
どちらも今日から始められます。求人を20件読むところからでいい。読み終わったときには、「引退後に何をすればいいか」という漠然とした問いが、「この要件を満たすには何が足りないか」という具体的な問いに変わっています。そこまで来れば、あとは埋めるだけです。
よくある質問
Q. 競技実績が全国大会レベルではない場合、セカンドキャリアで不利になりますか?
実績の大きさより、経験を職務の言葉に翻訳できているかで評価が変わります。採用側が見るのは「目標から逆算して計画を立て、継続できたか」「チームの中でどんな役割を担ったか」です。数字と役割と期間をセットで書ければ、競技レベルに関係なく伝わります。
Q. 引退後にまず何から手をつければよいですか?
生活費の下限を計算することと、気になる求人を20件読むことの2つです。下限の金額が分かると条件の判断ができ、求人を読むと自分に足りない技能が具体的に見えます。この2つを終える前に資格の勉強やスクールの申し込みをすると、順番を間違えます。
Q. セカンドキャリアの相談は無料でできますか?
できます。ハローワークの職業相談と書類添削、公共職業訓練の受講は無料です。競技団体やリーグの支援窓口、アスリート向けの人材紹介会社も、費用は採用する企業側が負担する仕組みなので登録と相談は無料です。有料のサービスは、無料の相談を複数使ったうえで検討してください。
Q. 資格は引退前に取っておいたほうがよいですか?
目指す仕事の求人票に必須要件として資格名が書かれている場合だけ、先に取る価値があります。書かれていなければ、資格より操作技能や実務経験を優先したほうが早いです。柔道整復師など業務独占の資格は例外で、その仕事をするなら取得が前提になります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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