経理代行の業務委託契約|守秘義務と損害賠償の範囲をどう定めるか 2026

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
経理代行の業務委託契約|守秘義務と損害賠償の範囲をどう定めるか 2026

この記事のポイント

  • 経理代行を業務委託契約で依頼する際
  • 守秘義務と損害賠償の範囲をどう定めればよいかを解説
  • 契約書に入れるべき条項

経理代行を外部に依頼したいが、通帳の写しや給与明細、取引先の情報まで渡すことになるため、守秘義務の取り決めが心配。そう感じている経営者や個人事業主は少なくありません。結論から言うと、経理代行を業務委託契約で依頼する際は「秘密保持契約(NDA)を業務委託契約とは別に、あるいは条項として明確に結ぶこと」「守秘義務の対象範囲と損害賠償の上限を契約書に明記すること」の2点が最優先です。この記事では、契約書に何を書くべきか、費用相場はいくらか、直接依頼と仲介会社経由でコストがどれだけ違うかを、具体的な数値とともに整理します。

経理代行の業務委託契約を取り巻く市場の現状

経理代行サービスの市場は、中小企業のバックオフィス業務効率化ニーズを背景に拡大を続けています。中小企業庁の調査でも、人手不足を背景に経理・総務などの間接部門をアウトソーシングする動きが継続的に取り上げられており、特に従業員10人未満の小規模事業者では、経理担当者を専任で雇用するコストに見合わないという理由から、外部委託を選ぶケースが増えています。

経理代行の料金相場は、業務範囲によって大きく変わります。記帳代行のみであれば月1万円3万円程度、給与計算や請求書発行まで含めると月3万円10万円程度が一般的なレンジです。年間契約でまとめる場合はさらに割引されることもありますが、いずれにせよ経理代行では「会社の売上、仕入れ、給与、取引先情報」という機密性の極めて高いデータを渡すことになります。この点が、経理代行の業務委託契約において守秘義務の条項が他の業務委託よりも重視される理由です。

実際、経理代行を検討する発注者の多くが最初に不安視するのはコストではなく、情報漏洩リスクです。ある調査記事では次のように指摘されています。

機密保持契約とは、依頼者である企業が保有する情報が、委託先である経理代行業者によって外部に漏洩されたり、不正に利用されることを防ぐために、守秘義務を課す内容を明記した契約です。この契約を結ぶことで、業務委託におけるリスクの軽減にもつながるでしょう。 出典: agent-accounting.net

つまり、守秘義務は「あったほうが安心」という付加価値ではなく、経理代行の業務委託契約における前提条件です。委託先が法人であるか個人事業主(フリーランス)であるかを問わず、この点は共通しています。

経理代行に依頼できる業務範囲を整理する

守秘義務の話に入る前に、まず「何を委託するか」を明確にしておく必要があります。業務範囲が曖昧なままでは、秘密保持の対象となる情報の範囲も定義できないためです。

経理代行に依頼できる主な業務は次の通りです。

・記帳代行(仕訳入力、帳簿作成) ・請求書発行、入金消込 ・支払い処理、経費精算 ・給与計算(勤怠集計、社会保険料計算を含む場合あり) ・月次試算表の作成 ・年末調整の補助、源泉徴収票の作成 ・税理士との連携窓口業務

これらのうち、給与計算は従業員の個人情報(マイナンバー、扶養家族の情報、給与額)を扱うため、記帳代行単体よりも守秘義務の水準を厳しく設定すべき業務です。委託する業務範囲によって、契約書に盛り込む秘密保持の粒度を変える必要があると考えてください。

業務範囲を曖昧にしたまま契約すると起きること

業務範囲が曖昧なまま契約を進めると、後になって「この業務は契約に含まれているのか」で揉めるケースが典型的です。特に経理代行では、月次の記帳だけを依頼したつもりが、税理士とのやり取りや年末調整まで期待され、追加費用の交渉で関係がこじれるという相談をよく耳にします。委託前に業務範囲表(スコープシート)を作成し、双方で合意した上で契約書に別紙として添付する方法が有効です。

取引条件として明示すべき5つの項目

経理代行の業務委託契約書には、最低限以下の5項目を明記してください。

  1. 業務範囲:委託する業務の具体的な内容(記帳のみか、給与計算まで含むか)
  2. 報酬と支払条件:月額固定か、作業量に応じた従量制か。支払いサイト(月末締め翌月末払い等)
  3. 契約期間と更新条件:自動更新か、都度更新か。解約予告期間(1ヶ月前通知が一般的)
  4. 秘密保持義務:対象となる情報の範囲、保持期間、返却・破棄の方法
  5. 損害賠償の範囲:情報漏洩や作業ミスが発生した場合の賠償上限、免責事項

このうち、経理代行特有の重みを持つのが4番目と5番目です。次の章で詳しく解説します。

秘密保持の実務:何を、どこまで取り決めるべきか

守秘義務条項を作る際、多くの発注者が「秘密保持契約書のひな形をそのまま使えばよい」と考えがちですが、経理代行では一般的なNDAよりも踏み込んだ取り決めが必要です。理由は、経理代行が扱う情報が「事業計画」のような抽象的な機密情報ではなく、「銀行口座の残高」「取引先ごとの取引額」「従業員の給与額」という、具体的かつ実害に直結する情報だからです。

秘密保持契約(NDA)は業務委託契約と別に結ぶべきか

経理代行を依頼する際、秘密保持契約(NDA)を業務委託契約書の一条項として組み込むか、別紙・別契約として独立させるかは実務上悩ましい点です。結論としては、委託期間が6ヶ月以上の継続契約であれば、秘密保持契約を独立した文書として作成することを推奨します。理由は、業務委託契約自体が終了・解約された後も、秘密保持義務だけは一定期間(一般的に2年5年)存続させる必要があるためです。1つの契約書にまとめると、契約終了時に秘密保持義務まで一緒に失効すると誤解されるリスクがあります。

実際に経理代行サービスを提供する事業者側でも、この考え方が採用されています。

このような守秘義務を順守するため、経理代行のご契約をいただく際に必ず結んでいただいているのが、「秘密保持基本契約書」です。 出典: ideaconsulting.net

つまり、業務委託契約とは別に秘密保持基本契約書を用意することは、経理代行業界では一般的な実務であり、発注者側から要求しても不自然ではありません。むしろ、この提案に難色を示す委託先は、社内の秘密情報管理体制が整っていない可能性があるため、選定段階での判断材料にもなります。

秘密保持の対象範囲をどう定義するか

契約書に「業務上知り得た一切の情報を秘密として扱う」とだけ書くのは避けてください。範囲が広すぎて、委託先の対応能力を超えた義務を課すことになり、実効性のない条項になりがちです。代わりに、以下のように具体的にカテゴリを列挙する方法が実務的です。

・会計帳簿、試算表、決算書等の財務情報 ・取引先の名称、取引条件、取引金額 ・従業員の給与、賞与、社会保険料等の人事情報 ・銀行口座番号、クレジットカード情報等の金融情報 ・その他、書面またはメールで「秘密情報」と明示して開示した情報

このように列挙することで、委託先も「何を厳重に管理すべきか」を具体的に把握でき、結果として実効性の高い秘密保持体制につながります。

保持期間と情報の返却・破棄

秘密保持義務の存続期間は、契約終了後2年5年とするのが一般的です。永久とする契約書も見かけますが、実務上は執行が難しく、委託先が難色を示すことも多いため、まずは3年程度を目安に交渉するとまとまりやすくなります。

また、契約終了時には「預かった資料・データを返却または破棄し、その旨を書面で証明すること」という条項を入れておくべきです。クラウド会計ソフトを使っている場合は、アカウントの権限剥奪のタイミングと手順も契約書に明記しておくと、委託終了時のトラブルを防げます。

再委託の禁止、または事前承諾の義務化

経理代行では、受託者がさらに別の業者やフリーランスに業務の一部を再委託するケースがあります。再委託先が秘密保持義務を負わないまま情報にアクセスすると、情報漏洩のリスクが一気に高まります。契約書には「再委託する場合は事前に発注者の書面による承諾を得ること」「再委託先にも同等の秘密保持義務を課すこと」を明記してください。この条項が抜けている契約書は、想定以上に多く見られます。

損害賠償の範囲をどう定めるか

秘密保持義務と並んで重要なのが、情報漏洩や作業ミスが発生した場合の損害賠償条項です。ここを曖昧にしたまま契約すると、実際にトラブルが起きたときに「どこまで賠償してもらえるのか」で争いになります。

損害賠償の上限を設定するかどうか

委託先(特に個人事業主)にとって、無制限の損害賠償責任は事業継続を脅かすリスクになるため、契約交渉では「損害賠償額は月額報酬の6ヶ月分を上限とする」といった上限設定を求められることがあります。発注者としては上限なしを希望するのが自然ですが、上限を設けないと契約自体が成立しない、あるいは委託先が保険でカバーできる範囲を超えるため受託を断られる、というケースも実際にあります。

現実的な落とし所としては、「故意または重過失による情報漏洩の場合は上限なし」「軽過失による損害は月額報酬の一定倍数を上限とする」という二段階の設計が実務でよく使われます。この設計であれば、委託先の予見可能性を確保しつつ、悪質なケースでは発注者を保護できます。

損害賠償責任保険への加入を条件にする

個人事業主に経理代行を委託する場合、賠償資力(実際に賠償金を支払える経済力)が法人に比べて限られることがあります。この点をカバーする方法として、業務委託契約の条件に「フリーランス向けの損害賠償責任保険への加入」を含めることを検討してください。保険料は業務内容にもよりますが、月2,000円5,000円程度から加入できるプランもあり、発注者・受託者双方にとって安心材料になります。

損害賠償と秘密保持義務違反の関係を明記する

契約書によっては、秘密保持義務違反と一般的な業務ミス(計算間違い等)を同じ損害賠償条項でまとめて処理しているケースがあります。しかし、情報漏洩は取引先や従業員の信用問題に直結する重大なリスクであるのに対し、単純な計算ミスは再作業で是正できることが多く、性質が異なります。契約書では「秘密保持義務違反の場合の損害賠償」と「業務遂行上の過失による損害賠償」を項目として分けて記載することを推奨します。

経理代行を委託する際の選び方と注意点

守秘義務と損害賠償の条項が整っていることを前提として、委託先を選ぶ際には以下の点も確認してください。

セキュリティ体制の確認

委託先がどのようなセキュリティ対策を講じているかは、契約書の条項だけでなく実態としても確認すべきです。具体的には、パソコンの持ち出しルール、データの暗号化、クラウド会計ソフトのアクセス権限管理、私物端末の業務利用の可否などを事前にヒアリングしてください。ある調査記事では、セキュリティ対策をしている会社を選ぶ際のポイントとして、こうした実務レベルの確認が推奨されています。

実績と対応範囲の確認

経理代行は「記帳のみ」から「決算補助まで」と対応範囲に幅があります。委託先の実績が自社の業界・規模と近いかどうかも確認材料になります。特に、業種特有の会計処理(建設業の工事進行基準、飲食業の日次売上管理等)がある場合は、その業種の経験があるかを事前に確認してください。

見積もりの内訳を必ず確認する

料金の総額だけでなく、内訳(記帳○件まで、給与計算○名まで、それを超えた場合の追加料金)を必ず確認してください。ここで筆者自身の失敗談を1つ紹介します。初めて経理代行を外注した際、複数社から見積もりを取り、総額だけを比較して最も安い業者を選んだことがあります。しかし契約後、従業員数が想定より多かったために追加費用が発生し、結果的に最も高い見積もりを出していた業者よりもコストがかさんでしまいました。見積もりは総額ではなく、単価と前提条件(何名まで、何件まで)を必ず突き合わせて比較すべきだと痛感した経験です。

経理代行の依頼手順:契約までの流れ

実際に経理代行を委託するまでの一般的な流れは以下の通りです。

  1. 業務範囲の洗い出し:自社で何を委託したいかを整理する(記帳のみか、給与計算まで含むか)
  2. 委託先候補の選定:複数社(または複数のフリーランス)から見積もりを取得する
  3. 秘密保持契約の締結:本格的な資料開示の前に、まず秘密保持契約(NDA)を結ぶ
  4. 業務委託契約の締結:業務範囲、報酬、契約期間、損害賠償の範囲を明記した契約書を交わす
  5. 業務開始とオンボーディング:会計ソフトのアカウント発行、資料の引き渡し方法の確認
  6. 月次の運用開始:定例の報告フォーマット、確認事項の連絡ルールを固める

このうち、ステップ3の「秘密保持契約を先に結ぶ」という順番は見落とされがちです。見積もりの前提として過去の帳簿を見せる必要がある場合、正式な業務委託契約の前にNDAだけを先に締結しておくと、情報開示のリスクを最小限にできます。

直接依頼と仲介会社経由のコスト差

経理代行を依頼する際、仲介会社(代理店)を通す方法と、フリーランスの経理担当者に直接依頼する方法があります。仲介会社を通す場合、仲介手数料として報酬の20%前後が上乗せされることが一般的です。つまり、フリーランスへの直接依頼であれば、この中間マージンが発生しない分、同じ予算でより多くの業務を依頼できる、あるいは同じ業務範囲であればより安く依頼できるという構造になります。

ただし、直接依頼の場合は、仲介会社が担っていた「契約書の整備」「トラブル時の仲裁」「委託先の与信確認」といった機能を発注者自身が代替する必要があります。この記事で解説している秘密保持契約や損害賠償条項の整備は、まさにこの部分に該当します。契約書をしっかり整えることができれば、直接依頼のコストメリットを安全に享受できます。

業務委託契約書のひな形を探している場合は、フリーランスの業務委託契約書テンプレート|最低限入れるべき10項目で契約書に最低限必要な10項目を確認できます。また、発注者向けにチェックリスト形式で契約書の作り方を解説した業務委託契約書テンプレート|発注者向けチェックリスト付き【2026年版】や、業務委託契約書の作り方|発注者向けテンプレート付きも、経理代行の契約書を自作する際の参考になります。

独自データから見る経理代行委託の実務

20年この市場を見てきた立場から言えば、経理代行の委託で長く良好な関係が続くケースには共通点があります。それは、契約書の条項を細かく詰めることだけに時間を使うのではなく、「この人になら会社の数字を任せられる」という信頼関係の構築に発注者自身が時間を投資している点です。秘密保持契約や損害賠償条項は最低限の防波堤であり、それだけで信頼関係が生まれるわけではありません。

もう1つ、運営者として見てきた中で気づくのは、額面よりも手取りの構造が長期的な関係の質に直結するという点です。仲介会社を通した経理代行では、報酬の一部が仲介手数料として差し引かれるため、受託者側の手取りは目減りします。一方、発注者がフリーランスに直接依頼し、中間マージンが発生しない構造であれば、同じ予算でも受託者の手数料0%の手取りは厚くなり、結果として業務への責任感や継続意欲にも良い影響を与えることが多いというのが、長年この業界を見てきた実感です。双方にとって得をする構造をどう作るかは、単価交渉のテクニックというより、契約設計そのものの問題だと考えています。

経理代行の委託先を探す際、専門職としてのスキルを持つ人材とマッチングする方法もあります。例えばソフトウェア作成者の年収・単価相場のように、経理代行と連携して会計システムの構築・改修まで依頼したいケースでは、隣接する職種の単価相場を把握しておくと予算感を掴みやすくなります。また、契約書の文言を整える際には著述家,記者,編集者の年収・単価相場のような専門職の相場も参考に、契約書の作成自体を専門家に依頼するかどうかの判断材料にできます。

さらに、経理代行の業務範囲が広がり、社内文書の整備まで含める場合はビジネス文書検定を持つ人材を選定基準に加える方法もあります。ITシステムとの連携が必要な場合にはCCNA(シスコ技術者認定)のような技術資格を持つ人材との連携も視野に入れると、経理代行の枠を超えたバックオフィス全体の効率化につながります。

経理代行の業務委託契約は、単に「安いか高いか」だけで判断するものではありません。守秘義務の範囲、損害賠償の上限、再委託の可否といった条項を1つずつ詰めていくことが、結果的に長期的なコスト削減と情報漏洩リスクの回避につながります。契約書の整備に時間をかけることは面倒に見えますが、経理という会社の根幹に関わる情報を預ける以上、避けて通れないプロセスだと考えてください。

よくある質問

Q. 経理代行の秘密保持契約は必ず業務委託契約と別に結ぶべきですか?

必須ではありませんが、契約期間が6ヶ月以上の継続契約であれば別文書での締結を推奨します。業務委託契約が終了しても秘密保持義務だけは一定期間存続させる必要があるためです。

Q. 損害賠償額に上限を設けないと契約できませんか?

上限なしを希望しても、個人事業主の場合は賠償資力の問題で難色を示されることがあります。故意・重過失は上限なし、軽過失は月額報酬の一定倍数までとする二段階設計が現実的な落とし所です。

Q. フリーランスに直接依頼すると守秘義務の管理は不安になりませんか?

契約書で秘密情報の範囲、保持期間、再委託の可否を明記すれば、法人委託と同水準の管理は可能です。仲介会社が担っていた契約整備の役割を発注者自身がカバーする形になります。

Q. 経理代行の秘密保持義務はどのくらいの期間続けるべきですか?

契約終了後2年から5年程度が一般的な相場です。永久とする契約書もありますが、実務上の執行可能性を考えると、まずは3年程度を目安に交渉するとまとまりやすくなります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月12日最終更新:2026年7月26日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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