営業から事務職へ転職する方法|経験の翻訳と職種選びの手順

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
営業から事務職へ転職する方法|経験の翻訳と職種選びの手順

この記事のポイント

  • ✓営業から事務転職を考える人に向けて
  • ✓営業経験が効く事務職の種類
  • ✓職務経歴書での経験の翻訳方法

営業から事務転職を考えている人が最初に突き当たるのは、「本当に受かるのか」ではなく「受かったとして、これは逃げたことになるのか」という問いです。結論から言うと、逃げではありません。ただし、何も考えずに「事務職」とだけ書いて応募すると、まず通りません。理由は単純で、事務職は求人1件あたりの応募者数が最も多い職種のひとつであり、採用側は「営業が嫌になった人」を山ほど見ているからです。

この記事では、営業から事務への転職が難しいと言われる構造的な理由を先に押さえたうえで、営業経験のどこを切り出せば事務職の選考で評価されるのか、どの事務職なら営業出身が有利になるのか、そして在宅のバックオフィス業務という選択肢まで、順を追って整理します。

営業から事務への転職が起きている背景と市場の温度感

まず、あなただけが考えていることではない、という前提を共有しておきます。営業から事務への異動や転職は、景気の局面に関係なく一定量が発生し続けています。理由は3つあります。

1つめは、営業職の労働時間の偏りです。訪問型の営業は移動時間が労働時間に含まれ、顧客都合で終業時刻が動きます。残業が月40時間を超える状態が慢性化すると、生活設計そのものが立てられなくなります。実際に、note上で公開されている転職体験談には次のような記録が残っています。

人材派遣の営業を3年やった25歳のけんが、未経験でIT企業の営業事務に転職した話を聞いてきた。年収は330万→380万、残業は月60時間→月5時間。数字だけ見ても、生活がまるっと変わったのがわかると思う。 出典: note.com

この事例で注目すべきは、年収が下がっていない点です。営業から事務への転職は「年収が必ず落ちる」と語られがちですが、それは正確ではありません。落ちるのはインセンティブ比率の高い営業から、固定給中心の一般事務に移る場合です。営業事務や貿易事務のように、専門性が値段に反映される事務職を選べば、額面が維持されるケースは珍しくありません。

2つめは、業務のデジタル化です。受発注の処理、見積書の作成、契約書の管理といった仕事が紙からシステムに移った結果、事務職に求められるものが「速く正確に打てる」から「ツールを使って業務を設計できる」に変わりました。この変化は、営業として顧客と現場の間に立ち、注文から納品までの流れを一通り見てきた人にとって追い風です。処理の順番が頭に入っている人は、事務としての立ち上がりが速い。

3つめは、事務職の内部が細分化したことです。ひと口に事務と言っても、営業事務、貿易事務、経理事務、人事事務、法務事務、医療事務、総務と分かれており、それぞれ必要な知識が違います。逆に言えば、「事務職に応募する」という発想のままでは的を外します。自分の営業経験がどの事務に接続するのかを先に決めることが、転職活動の実質的なスタートになります。

正直なところ、転職サイトで「事務」とだけ検索して上から応募していくやり方は、最も効率が悪い方法だと考えています。応募先を絞れていない状態では志望動機が書けず、志望動機が書けない書類は読まれずに落ちるからです。

営業経験がそのまま効く事務職の種類

営業出身者が有利になる事務職と、不利になる事務職があります。境界線は「社外とやり取りがあるか」です。

営業事務(セールスアシスタント)

最も接続しやすいのがここです。見積書や注文書の作成、納期の確認、顧客からの問い合わせ一次対応、売上データの集計までが守備範囲になります。営業が何に困るかを体で知っている人が担当すると、頼まれる前に資料が出てくるため、現場での評価が早く立ちます。採用側も「元営業」を歓迎する求人が多く、募集要項に明記されていることもあります。

貿易事務

輸出入の書類作成、通関業者や海運会社とのやり取り、インボイスやパッキングリストの作成を担います。英語の読み書きが必要になる代わりに、一般事務より給与水準が高く設定される傾向があります。法人営業で契約書や納期交渉を扱ってきた人は、書類の意味を理解するのが速いので相性が良い。

経理事務

伝票起票、請求書の発行と消込、月次の締め作業などを担当します。ここは営業経験そのものより簿記の知識が問われる領域ですが、売掛金の回収に関わった経験がある営業は、入金と請求の突合という業務の意味を理解しやすい立場にいます。

人事事務、総務

採用の日程調整、入退社の手続き、備品管理、社内問い合わせ対応などを担います。社外の人と日常的に接する採用アシスタントは、営業の対人スキルが活きる代表例です。

一般事務

データ入力、ファイリング、電話対応、来客対応が中心です。応募が集中するため倍率が最も高く、そのうえ営業経験が差別化要因になりにくい。営業から事務転職を目指すなら、ここだけを狙うのは避けたほうが現実的です。

職種ごとの報酬水準を確かめるときは、職業分類ごとの年収や単価の相場をまとめたデータベースが参考になります。たとえば文書作成や編集に関わる仕事の相場は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっており、事務系の仕事と比べる際の物差しとして使えます。

転職難易度が高いと言われる3つの理由

難易度の話を、感覚ではなく構造で説明します。

第一に、求人数と応募者数の比率が悪い。 事務職は「未経験でも応募できる」と書かれた求人が多く、営業職、販売職、製造職など、あらゆる職種からの転職希望者が集まります。一方で、事務職は組織の中で人数が増えにくいポジションです。営業を10人増やせば売上が伸びる可能性がありますが、事務を10人増やしても売上は伸びません。需要が伸びにくく、供給が集中する。ここが難易度の正体です。

第二に、「消去法の志望動機」が透けて見える。 採用担当者が最も警戒するのは、「営業がつらいから事務に逃げた人」です。そういう人は、事務職の繁忙期に耐えられずにまた辞めると思われています。この警戒を解く方法はひとつしかなく、事務職の仕事内容を具体的に理解したうえで、自分がそこで何を担えるかを語ることです。「人と話すのが苦手だから」という理由は、電話対応と社内調整だらけの事務職では逆効果になります。

第三に、年齢と給与のバランスです。 事務職は年功で給与が上がりにくい職種であり、30代後半以降で未経験の一般事務に入ろうとすると、求人側の想定年収と応募者の希望年収が合わなくなります。ここを突破する方法も明確で、簿記や貿易実務のように値段の付く知識を持ち込むか、営業事務のように営業経験が加点される職種を選ぶかの二択です。

私自身、編集の仕事を始めた頃に「原稿を書くだけの仕事」だと思って入って、実際には請求書の作成、スケジュール表の管理、関係者への確認連絡が業務時間の半分を占めていたことがあります。事務作業を軽く見ていたわけではないのですが、量とタイミングの読みが甘かった。事務職は「静かな仕事」ではなく「締切が同時に複数走る仕事」です。ここを誤解したまま入ると、転職後に想定とのズレで苦しむことになります。

営業経験を事務の言葉に翻訳する

書類選考を通すうえで決定的なのが、この翻訳作業です。営業の実績をそのまま書いても、事務職の採用担当者には評価軸がありません。以下のように変換します。

営業での経験 事務職での評価ポイント
新規開拓のためのリスト作成 表計算ソフトでのデータ整理、重複排除、名寄せ
見積書、提案書の作成 書式の正確性、社内規定に沿った書類作成
受注から納品までの進行管理 納期管理、関係部署との調整、例外処理の判断
顧客からのクレーム一次対応 電話応対、事実確認、記録と報告の徹底
月次の売上報告資料の作成 集計業務、グラフ化、定例報告の運用
販売管理システムへの入力 基幹システムの操作経験、入力精度

職務経歴書に書くときは、左の列を右の列の言葉に置き換えたうえで、規模と頻度を添えます。「取引先50社を担当し、月間およそ120件の受注処理を販売管理システムに入力していた」という書き方なら、事務職としての処理量が伝わります。件数が正確に思い出せない場合は、1日あたりの平均から逆算して「おおむね」と添えれば問題ありません。

もうひとつ有効なのが、業務の改善経験です。「見積書のテンプレートを作り直して作成時間を1件あたり15分短縮した」といった話は、事務職の選考で強く効きます。事務職の採用は、処理できる人ではなく、処理の仕組みを整えられる人を求める方向に動いているからです。

書類の構成そのものに不安がある場合は、職務経歴書の型と書き分けを解説した職務経歴書の書き方完全ガイド|転職成功率を上げるコツ【2026年版】が土台になります。営業から職種を変える場合は、実績の羅列ではなく「担当業務」と「使用ツール」を前に出す構成のほうが読まれます。

営業から事務へ転職するときに役立つ資格

資格は万能ではありませんが、未経験の職種に移るときは「この人は本気で準備した」という証拠として機能します。費用対効果の高い順に並べます。

日商簿記3級および2級。 経理事務を狙うなら実質的な必須条件です。3級は独学でも2か月から3か月で到達でき、2級は250時間前後が目安になります。営業事務や一般事務であっても、2級まで持っていると応募先の選択肢が目に見えて広がります。

MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)。 表計算ソフトのスペシャリストレベルまで取ると、関数とピボットテーブルが使えることの証明になります。実務では「使える」ことが当たり前とされる一方、面接では証明手段がないため、履歴書に書ける形にしておく価値があります。

ビジネス文書検定。 社外文書の形式、敬語、文書管理の基本を問う検定です。事務職に必要な書式の知識を体系的に押さえられるので、営業で自己流に書類を作ってきた人ほど穴が埋まります。試験範囲や受験の流れはビジネス文書検定の資格ガイドで確認できます。

貿易実務検定。 貿易事務を狙う場合のパスポートです。C級から始めれば独学でも届きます。英語力はTOEICのスコアで別途示すのが一般的です。

ITパスポートおよびネットワーク系の資格。 事務職の求人でも、社内システムの運用に関わるポジションでは技術寄りの知識が評価されます。ネットワーク機器を扱う職場を視野に入れるならCCNA(シスコ技術者認定)のような認定が加点材料になります。事務から情報システム部門に移る動線を作りたい人には現実的な選択肢です。

資格を取る順番でよく失敗するのが、「とりあえず簡単なものから」という選び方です。応募したい職種を先に決め、その職種の求人票に実際に書かれている資格名を取る。この順序を逆にすると、時間だけが減ります。

メリットとデメリットを正面から並べる

転職後に後悔する人の大半は、メリットだけを見て決めています。両方を並べます。

メリットとして最も大きいのは、時間の予測可能性です。 事務職は始業と終業の時刻が動きにくく、顧客都合で予定が崩れることが少ない。育児や介護、資格の勉強と両立したい人にとって、この安定は年収差を埋めるだけの価値があります。次に、ノルマからの解放です。営業の精神的負荷の中心は、達成できるかどうかが自分の努力だけでは決まらない点にあります。事務職の評価軸は、正確さと速さと調整力に移ります。そして、勤務地が固定されるため、移動と天候に振り回されなくなります。

デメリットは3つあります。 ひとつめは、給与の伸びしろが小さいこと。インセンティブがない分、昇給は定期昇給に依存します。ふたつめは、成果が見えにくいこと。ミスがなければ何も言われず、ミスがあれば指摘される構造なので、承認欲求を仕事で満たしてきた営業出身者はここで戸惑います。みっつめは、繁忙期の密度です。月末月初、決算期、年末調整の時期には、営業時代とは種類の違う忙しさが来ます。しかも締切は自分で動かせません。

もうひとつ、見落とされがちなデメリットがあります。事務職は組織の中で、人員削減の対象になりやすい職種です。業務のシステム化が進むほど、単純処理は減ります。ここへの備えは、入社後に「処理する人」で止まらず、「処理の流れを設計できる人」へ移ることです。具体的には、入力作業の自動化、書式の標準化、マニュアルの整備といった仕事に手を挙げること。営業出身者は業務全体の流れが見えているので、この移行が比較的やりやすい立場にいます。

書類と面接を通すための実務的なコツ

ここからは具体的な進め方です。

応募先を3層に分ける。 本命(営業事務、貿易事務など経験が加点される職種)、対抗(経理事務など資格で勝負する職種)、練習(一般事務)の3層に分け、練習から先に応募します。面接は場数で精度が上がるので、本命を最初に受けるのは損です。

志望動機は「事務職を選んだ理由」ではなく「その会社の事務職を選んだ理由」で書く。 扱っている商材、取引先の業種、受注の流れに触れたうえで、自分の営業経験がどこで接続するかを書きます。求人票に書かれた業務内容を1行ずつ読み、自分がすでに経験している項目に印を付ければ、材料は自然に集まります。

退職理由は事実だけを短く述べ、次の話に移る。 残業時間やノルマの話を長く語ると、不満の人という印象が固定されます。「業務量の管理が難しい状態が続いたため、より安定して成果を積み上げられる環境を選びたいと考えました」程度に収め、続けて事務職で何をしたいかを話す。時間配分は退職理由に2割、志望動機と貢献の話に8割が目安です。

電話対応への不安を先回りして打ち消す。 事務職の面接では、電話応対の経験を必ず聞かれます。営業として日常的に電話をかけていた人は、ここが強い。「1日あたり30件前後の架電と受電を3年続けていた」と具体的に言えるだけで、一般事務志望の未経験者とは差がつきます。

入社後の学習計画を持っていく。 「入社後3か月で販売管理システムの操作を習得し、6か月で月次集計を任せていただけるようにしたい」といった計画を示すと、消去法で来た人ではないことが伝わります。

応募先の探し方そのものを見直したい場合は、年代別と職種別の使い分けを比較した転職サイトおすすめ比較【2026年版】|年代・職種別の選び方を先に読んでおくと、無駄な登録を減らせます。事務職は求人の掲載媒体によって職種の偏りが大きく、貿易事務や経理事務は特定の媒体に集中する傾向があります。

志望動機の型と、そのまま使える書き出し

志望動機で落ちる人の共通点は、主語が自分の都合になっていることです。「安定した環境で働きたい」「腰を据えて長く働きたい」は、応募者側の希望であって、採用する側の利益ではありません。型としては、次の順番で組み立てると崩れません。

最初に、応募先の業務内容に触れる。次に、自分の営業経験のどの部分がそこに接続するかを述べる。最後に、入社後に何を担いたいかを具体的に書く。この3段構成を守るだけで、読み手の評価は変わります。

営業事務を志望する場合の書き出しは、たとえば次のようになります。「貴社の受注から納品までの流れが、前職で担当していた法人向けの受注業務と近いと感じました。前職では取引先およそ50社の受注処理と納期調整を担当し、営業担当者が商談に集中できるよう、見積書と納品書の作成を先回りして進める運用を作りました。貴社でも、営業部門の処理負荷を引き受ける立場として貢献したいと考えています」。

経理事務を志望する場合は、資格の取得状況と数字への向き合い方を前に出します。「前職では売掛金の回収状況を営業担当として毎月確認しており、入金と請求の突合が滞ると後工程に影響が出ることを実感してきました。現在は日商簿記2級の取得に向けて学習を進めており、処理する側として正確な計上に関わりたいと考えています」。

貿易事務であれば、書類の正確さと期限管理の経験を結び付けます。「前職で契約書と納期の管理を担当し、書類の不備が納品全体を止める場面を何度も見てきました。貿易実務では書類の正確さが通関の可否に直結すると理解しており、その責任を担える職種として志望しています」。

いずれの例も、共通しているのは「営業がつらかった」という話が一切入っていない点です。退職理由は別の質問で聞かれます。志望動機の欄で触れる必要はありません。

なお、20代で職種を変える場合は、応募先の選び方そのものが結果を左右します。未経験や第二新卒向けの求人がどこに集まっているかを整理した20代の転職サイトおすすめ5選|未経験・第二新卒向けを先に確認しておくと、事務職の求人が多い媒体に絞って動けます。

転職活動を3か月のスケジュールに落とす

事務職の選考は、営業職の選考よりも1社あたりの期間が長くなる傾向があります。書類選考に時間がかかり、適性検査やタイピングテストが挟まることもあるためです。在職中に進めるなら、3か月を1単位として設計してください。

1か月目は、棚卸しと絞り込みに使います。 最初の1週間で、これまで担当した業務を箇条書きで全部書き出します。商談や提案だけでなく、見積書の作成、在庫の確認、請求処理の依頼、社内システムへの入力、クレーム対応の記録まで、事務的な作業を漏らさず拾う。ここで拾えた量が、そのまま職務経歴書の材料になります。次の2週間で、求人票を最低30件読みます。応募するためではなく、事務職の求人にどんな言葉が使われているかを知るためです。「受発注業務」「売上計上」「請求書発行」「電話応対」といった定型句が繰り返し出てくるので、そのうち自分が経験済みのものに印を付ける。残り1週間で、狙う職種を2つに絞ります。

2か月目は、書類作成と資格の着手です。 職務経歴書は1度書いて終わりにせず、職種ごとに2種類作ります。営業事務用は「営業の業務を理解していること」を前に出し、経理事務用は「数字の正確さと期日管理」を前に出す。同じ経歴でも並べ替えるだけで読み手の印象は変わります。資格は、この時期に申し込みまで済ませてください。申し込んでいれば、面接で「受験予定です」と言えます。取得済みでなくても、準備中であることは十分に伝わります。

3か月目が応募の本番です。 練習枠から応募を始め、面接を2社か3社経験してから本命に出します。在職中であれば、面接は有給の半日を使って午前と午後に1社ずつ入れるのが効率的です。ここで大事なのは、落ちた面接の質問を全部メモに残すこと。事務職の面接で聞かれることは会社が変わってもほとんど同じなので、3社受ければ想定問答がほぼ完成します。

在職中の転職活動で最もよくある失敗は、応募先を増やしすぎて選考の管理ができなくなることです。同時に進めるのは5社までにして、1社ごとに求人票と自分の書類を紐づけて保存しておいてください。面接直前に求人票を読み返せない状態は、そのまま不合格につながります。

転職した後、最初の3か月で何をするか

内定を取ることより難しいのが、入社後の立ち上がりです。営業から事務に移った人がつまずく場面は、だいたい決まっています。

ひとつめは、質問のタイミングです。 営業の現場では、判断を自分で下してから報告する文化の会社が多い。ところが事務職では、勝手な判断が処理の誤りに直結します。請求書の日付をひとつ動かすと、締めの月が変わり、売上計上の期がずれる。入社直後は、判断を自分で完結させず、必ず確認を通す習慣に切り替えてください。「自分で考えてから聞く」ではなく「聞いてから処理する」が正解になる期間があります。

ふたつめは、処理の速さを急ぎすぎることです。 営業出身者は成果を早く出そうとして、処理量で存在感を示そうとします。しかし事務職で評価されるのは量ではなく、誤りの少なさです。最初の1か月は、1件あたりの処理時間が同僚の倍かかってもかまいません。自分なりのチェック手順を作り、それを守ることのほうが先です。速さは3か月目から付いてきます。

みっつめは、前職との比較を口に出してしまうことです。 「前の会社ではこうしていた」という発言は、改善提案のつもりでも、否定として受け取られます。改善したい点が見えたら、最低3か月は手元にメモして貯めておく。業務の全体像が見えた段階で、「この作業を月末にまとめると重複が減りませんか」という形で出せば、同じ内容でも通ります。

そして、3か月を過ぎたあたりから、営業出身であることが武器になり始めます。事務の現場には、営業が何に困っているかを知らないまま処理をしている人が一定数います。あなたは、その困りごとを経験として持っている。「この資料は商談の前日までに必要になるはずなので、締切を1日前倒しにしましょう」といった提案は、営業を経験した人にしか出せません。この時点で、あなたは「営業から逃げてきた人」ではなく、「営業と事務の両方が分かる人」になります。

在宅のバックオフィス業務という第三の選択肢

ここからは、市場を長く見てきた立場からの観察です。

営業から事務への転職を「正社員の事務職へ移る」という一本道で考えている人が多いのですが、ここ数年で明確に増えたのが、業務委託で事務作業を請け負う働き方です。受発注処理、請求書発行、データ入力、顧客対応のメール返信、日程調整といった業務が、社外の在宅ワーカーに切り出されるようになりました。背景には、企業側が繁忙期だけ人手を増やしたいという事情と、フルタイムの採用が難しくなったという事情の両方があります。

20年この市場を見てきた立場から言えば、こうした業務で長く続いている人に共通するのは、作業の速さではありません。「この人に渡すと、こちらが考えなくて済む」という関係を作っている点です。頼まれた通りに処理するだけの人は、単価の安い相手に置き換えられます。一方で、渡された依頼の前後を読んで「この件は先方の締日が先なので順番を入れ替えます」と言える人は、依頼が途切れません。営業として顧客の都合を読んできた人は、この振る舞いが最初からできます。

もうひとつ、額面ではなく手取りで考える視点を共有しておきます。仲介手数料が差し引かれる形で仕事を受けると、同じ業務量でも手元に残る金額が変わります。依頼する側から見ても、中間マージンが乗らない手数料0%の直接取引なら、同じ予算でより多くの業務を頼めます。受け手の手取りが厚くなり、依頼側の発注量が増えるという関係が成立する。この構造は、金額の多寡ではなく、続けられるかどうかに効いてきます。長く続いている在宅ワーカーほど、単価の交渉より、手数料の構造と支払いサイトを先に確認しています。

業務委託の事務作業は、正社員の事務職に移る前の実務経験づくりとしても機能します。受発注処理や請求書発行を半年経験していれば、職務経歴書に書ける実務になります。「営業経験しかない未経験者」から「事務実務の経験者」に立場が変わるので、書類選考の通過率が変わります。

在宅で請け負える業務の種類を具体的に見ておくと、自分の経験がどこに接続するか見当が付きます。たとえば企業のAI活用を支援する業務の内容はAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、マーケティングやセキュリティ領域の仕事はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事にまとまっています。いずれも事務処理の延長線上にある業務が含まれており、営業として顧客の業務フローを見てきた人が入りやすい領域です。

最後に、判断の順番を整理しておきます。まず、自分が避けたいのは「営業という職種」なのか「今の会社の運用」なのかを分ける。前者なら職種を変える意味があり、後者なら同じ営業職で会社を変えるほうが年収も経験も守れます。次に、事務職の中から接続できる職種を1つか2つに絞る。そのうえで、その職種の求人票に書かれた資格を取り、営業経験を事務の言葉に翻訳して書類を作る。この順番で進めれば、事務職の倍率の高さは、あなたにとっての障害ではなくなります。

よくある質問

Q. 営業から事務職への転職で、年収は必ず下がりますか?

必ず下がるわけではありません。インセンティブ比率の高い営業から固定給中心の一般事務に移る場合は下がりやすい一方、営業事務や貿易事務のように専門知識が評価される職種を選べば、額面が維持される例もあります。年収を優先するなら、資格で値段の付く経理事務や貿易事務を狙うのが現実的です。

Q. 面接で退職理由を聞かれたとき、残業やノルマの話はしてよいですか?

事実を短く述べる分には問題ありませんが、長く語ると不満が中心の人という印象が残ります。退職理由は全体の2割程度に収め、残りの時間を「事務職で何を担いたいか」「入社後にどう立ち上がるか」に使ってください。具体的な学習計画を添えると、消去法で来た人ではないことが伝わります。

Q. 事務職への転職で、いちばん先に取るべき資格はどれですか?

応募したい職種によって変わります。経理事務なら日商簿記3級から2級、貿易事務なら貿易実務検定C級、営業事務や一般事務なら表計算ソフトのスペシャリスト資格とビジネス文書検定が優先です。求人票に実際に書かれている資格名を確認してから決めると、時間を無駄にしません。

Q. 未経験でも事務の実務経験を先に作る方法はありますか?

業務委託で受発注処理、請求書発行、データ入力、日程調整といったバックオフィス業務を請け負う方法があります。半年ほど継続すれば職務経歴書に書ける実務になり、「営業しか経験がない人」から「事務実務の経験者」に立場が変わるため、書類選考の通過率が上がります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月9日最終更新:2026年10月13日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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