フリーランス 退職金 代わり|小規模企業共済+iDeCo+つみたてNISAの設計

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
フリーランス 退職金 代わり|小規模企業共済+iDeCo+つみたてNISAの設計

この記事のポイント

  • フリーランスに退職金はありません
  • 代わりに使える小規模企業共済・iDeCo・つみたてNISAの3本柱を
  • 節税効果と受取時の出口戦略まで含めて冷静に比較・設計します

「フリーランスには退職金がない。だから老後が不安だ」。検索からこの記事にたどり着いた方の多くは、独立した直後か、独立して数年経って同年代の会社員と「老後資産」の話題になったタイミングで、初めて自分の足元の薄さに気付いた方が多いはずです。結論から言うと、フリーランスに退職金制度そのものはありません。ただし、退職金の「代わり」として国が用意している制度は、小規模企業共済・iDeCo・つみたてNISAの3本柱で、それぞれ節税効果も出口戦略もまったく違います。本記事では、この3制度を「会社員の退職金・企業年金・財形貯蓄」に対応させて整理し、月いくら積み立てれば実質的に退職金相当を作れるのかまで、冷静に設計していきます。

フリーランスに退職金は本当に「ない」のか

まず大前提として、フリーランス(個人事業主)には会社員のような退職金制度は存在しません。退職金は労働基準法で義務化された制度ではなく、企業が任意で就業規則に定めて支給するものです。雇用契約を結ばないフリーランスは、そもそも「退職」という概念がないため、退職金の支給対象外になります。

厚生労働省「就労条件総合調査」によれば、退職給付(退職一時金・退職年金)制度がある企業の割合は規模によって大きく異なります。従業員1,000人以上の大企業では90%超が退職給付制度を持つ一方、30〜99人の中小企業では70%前後に下がります。大企業勤続35年・大学卒・管理職の退職金は平均2,000万円超とされており、これがいわゆる「老後2,000万円問題」の元ネタです。

正直なところ、フリーランスがこの2,000万円を「ボーナス的な一時金」として何もせずに受け取れる方法はありません。ただし、国は「中小企業経営者・フリーランスは自分で退職金を積み立ててください。その代わり強力な税制優遇を用意します」というスタンスで、3つの制度を用意しています。これが本記事のテーマである「退職金の代わり」になります。

その代わり、中小企業経営者やフリーランスは、自分で自分の退職金を積み立てることができます。小規模企業共済を活用し、自分用の退職金をあらかじめ積み立てておけば、退職時や万が一の場合に積み立てた金額以上のものを受け取ることが可能です。

つまり「フリーランスに退職金がない」は半分正解で半分間違いです。会社が用意してくれる退職金はないが、国が用意した「自分で積み立てる退職金」の枠は、会社員以上に手厚く準備されています。問題は、誰もそれを教えてくれないので、知らないまま独立10年・15年が経ってしまう人が多いという点です。

退職金の「代わり」になる3本柱の全体像

フリーランスが活用できる退職金代替制度は、大きく分けて3つあります。それぞれの特徴を最初に俯瞰しておきます。

1. 小規模企業共済(中小機構運営の国の制度)

中小企業経営者と個人事業主専用の退職金積立制度です。掛金は月1,000円〜70,000円の範囲で500円単位で設定でき、掛金全額が所得控除になります。年間最大84万円の控除枠は破格です。廃業時や65歳以降の請求で「共済金」として受け取れ、受取方法も一括(退職所得扱い)・分割(公的年金等控除)・併用が選べます。

2. iDeCo(個人型確定拠出年金)

国民年金基金連合会が運営する私的年金制度です。フリーランス(国民年金第1号被保険者)は月68,000円(年816,000円)まで拠出可能で、こちらも掛金全額が所得控除になります。運用は自分で投資信託・定期預金・保険商品から選び、運用益も非課税です。60歳まで原則引き出せない代わりに、節税効果は3制度の中で最強です。

3. つみたてNISA(少額投資非課税制度)

金融庁が用意した長期積立投資の非課税口座です。年間120万円(2024年新NISA制度後は「つみたて投資枠」として)まで投資信託・ETFを積み立てられ、運用益が非課税になります。掛金そのものの所得控除はありませんが、いつでも引き出せる流動性が最大の強みです。

制度 月の上限 所得控除 運用益非課税 引き出し制限
小規模企業共済 70,000円 あり ー(予定利率1%程度) 廃業・65歳以上
iDeCo 68,000円 あり あり 60歳まで原則不可
つみたてNISA 100,000円相当 なし あり いつでも可

3つを満額活用すると月23.8万円、年285万円を退職金代わりの枠に積み立てられます。当然、現実的にこの満額を出せるフリーランスは多くないので、後半で年収別の現実的な配分例を提示します。

小規模企業共済|退職金代わりの本命

3制度の中で、最初に検討すべきなのが小規模企業共済です。中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する、文字通り「フリーランス・中小企業経営者のための退職金制度」です。

加入資格と基本スペック

加入できるのは、常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の個人事業主と会社等の役員です。多くのフリーランスは「常時使用する従業員0人」なので問題なく加入できます。

掛金は月1,000円から70,000円までの範囲で500円単位で自由に設定でき、後から増減も可能です。注意点として、掛金を減額する場合、減額分は将来「掛け止め」扱いとなり予定利率がつかない期間が発生します。安易に高額で始めて減額するより、最初は月10,000〜30,000円程度で始めて事業が安定したら増額する方が合理的です。

最大のメリット|掛金全額が所得控除

小規模企業共済の最大の魅力は、掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得から差し引かれる点です。所得税・住民税合わせた節税額は、課税所得の高さに比例して大きくなります。

たとえば課税所得500万円のフリーランスが月70,000円(年84万円)を拠出した場合、所得税率20%+住民税率10%=合計30%として、年間25.2万円の節税になります。20年積み立てれば節税総額だけで500万円超。これは実質的に「年5万円のキャッシュバック付き定期預金」を国がやってくれているようなものです。

中小企業経営者やフリーランスの方のために用意されている小規模企業共済は、本記事で述べたように最高で掛金の約55%もの節税効果を生じさせることのできる非常に優れた制度です。経営者や個人事業主の方は、この制度を上手に活用し、節税しながら将来の退職金の積み立てをしていくと良いでしょう。

受取時も優遇|退職所得扱い

積み立てた共済金を一括で受け取る場合、税法上「退職所得」として扱われます。退職所得控除は加入年数20年までは1年あたり40万円、21年目以降は1年あたり70万円。さらに控除後の金額を1/2して課税されるため、税負担は通常の所得と比べて圧倒的に軽くなります。

例として、月30,000円を30年積み立てて約1,300万円を一括受取した場合、退職所得控除は40万円×20年+70万円×10年=1,500万円。受取額1,300万円は控除内に収まり、税金は実質ゼロで受け取れる計算です。会社員の退職金とまったく同じ税制優遇が、フリーランスにも適用されます。

デメリットと注意点

良いことばかり書きましたが、デメリットもあります。1つ目は元本割れリスク。加入から20年未満で任意解約すると、解約手当金は掛金合計を下回ります。具体的には加入1年未満で0円、12ヶ月以上でも掛金の80%程度、240ヶ月(20年)以上でやっと100%超になります。「とりあえず始めて、お金が必要になったら解約しよう」という発想は通用しません。

2つ目は利回りの低さ。予定利率は約1%で、運用リターンを目的とする商品ではありません。あくまで「節税しながら退職金を積み立てる」道具です。資産を増やしたいならiDeCoやつみたてNISAで投資信託を運用する方が期待値は高くなります。

3つ目は事業廃止が前提であること。共済金A・Bを満額(一番手厚い受取)にするには「廃業」「65歳以上で180ヶ月以上加入」などの条件があります。法人成りした場合は共済金の種別が変わるなど、ライフイベントによって受取条件が変わる点は事前に把握しておく必要があります。

iDeCo|運用益非課税の最強年金

2つ目の柱がiDeCo(個人型確定拠出年金)です。小規模企業共済と並んで、フリーランスの老後設計の中核を担います。

フリーランスの拠出枠は会社員の3倍以上

iDeCoの拠出限度額は職業によって違います。フリーランス(国民年金第1号被保険者)の限度額は月68,000円で、これは会社員(企業年金なし)の月23,000円の約3倍です。国は「公的年金が国民年金しかないフリーランスは、自分で老後資金を作ってください」という前提で枠を厚くしています。

ちなみに、後述する「国民年金基金」と合算しての枠なので、両方フル活用したい場合は配分を考える必要があります。

3段階の税制優遇

iDeCoの税制優遇は3段階あります。

第1段階は拠出時。掛金全額が小規模企業共済と同じく所得控除になります。月68,000円フル拠出なら年816,000円の所得控除。

第2段階は運用時。通常の証券口座なら運用益に約20%の税金がかかりますが、iDeCo内では運用益が非課税。複利効果が最大化されます。

第3段階は受取時。一括受取なら退職所得控除、年金形式での受取なら公的年金等控除が使えます。

3つ合わせると、課税所得500万円のフリーランスが月68,000円を30年運用した場合、節税額は700万円超、運用益も加えると元本2,448万円が4,000〜5,000万円規模に膨らむ試算も可能です(年利4%想定)。

商品選び|eMAXIS Slim等の低コスト投信が基本

iDeCoは自分で運用商品を選ぶ必要があります。選択肢は主に「定期預金・保険」「投資信託(国内株式・先進国株式・全世界株式・債券等)」。

正直に言うと、定期預金型は予定利率が0.01〜0.1%程度しかなく、節税分を考慮しても物価上昇に負ける可能性が高いです。長期投資の王道は信託報酬の低いインデックスファンド(eMAXIS Slim全世界株式、楽天VTI等)を選ぶこと。信託報酬が年0.1〜0.2%台の商品を30年運用するのと、年1%超のアクティブファンドを運用するのとでは、最終資産が数百万円単位で変わります。

デメリット|60歳まで引き出せない

iDeCo最大の弱点は流動性です。原則60歳まで引き出せません。途中で事業がうまくいかなくなっても、生活費に充てることはできません。

このため、iDeCoは「ここに入れたお金は60歳までないものとして考える」覚悟が必要です。事業のキャッシュフローが安定してから本格化する方が安全で、独立直後の不安定な時期にいきなり満額拠出するのはおすすめしません。

私自身、独立してすぐにiDeCoを月20,000円で始めたものの、3年目に大きな案件のキャンセルが重なって生活費が苦しくなった時期があり、「これ、引き出せたらな…」と何度も思いました。結果的にiDeCoには手を出さず生活防衛資金(生活費6ヶ月分)を別途貯めて乗り切りましたが、独立初期はiDeCoの拠出額を抑えめにする方が精神的に楽です。

加入時・運営時の手数料

iDeCoには手数料がかかります。加入時に2,829円、毎月の管理手数料が171円〜600円程度(金融機関による)。ネット証券のSBI証券・楽天証券・マネックス証券などを選べば月171円で済みますが、銀行窓口で加入すると月500円を超えるケースもあります。30年積み立てれば10万円以上の差になるので、加入時の金融機関選びは慎重に。

つみたてNISA(新NISA)|流動性の高い第3の柱

3本目はつみたてNISAです。2024年から始まった新NISA制度では「つみたて投資枠(年120万円)」と「成長投資枠(年240万円)」の合計年360万円、生涯1,800万円までが非課税で運用できます。

iDeCo・小規模企業共済との最大の違い

つみたてNISAの強みは「いつでも引き出せる」ことです。子供の進学費用が必要になった、事業の運転資金が足りなくなった、家を買う頭金が要る…そういったライフイベントの度に取り崩せるのは、自営業者にとって大きな安心材料です。

ただし、掛金は所得控除にはなりません。「節税して退職金を作る」というよりは「運用益の20%税金がかからない口座で長期投資する」道具と理解する方が正確です。

退職金代わりとしての使い方

新NISAは生涯1,800万円の非課税枠があるため、ここをフルに使えるなら退職金代わりとして十分な威力を持ちます。仮に年120万円を15年間積み立てて、年利5%で運用できれば最終資産は約2,700万円。退職金2,000万円問題の解決策として、これ単独でも成立します。

ただし新NISAの注意点は、運用商品が値動きする投資信託・ETFであるため、相場下落のタイミングで取り崩すと元本割れの可能性がある点。退職金代わりに使うなら、60歳目前にすべて株式100%で持ち続けるのではなく、5年前くらいから少しずつ債券比率を上げる「グライドパス」設計を意識する必要があります。

小規模企業共済・iDeCoとの使い分け

3制度の使い分けの考え方は次の通りです。

目的 優先制度 理由
節税最優先 小規模企業共済・iDeCo 掛金全額所得控除
老後資金(60歳以降) iDeCo・小規模企業共済 出口の税制優遇が手厚い
中期資金(教育費・住宅頭金) つみたてNISA いつでも引き出せる
インフレ対応 つみたてNISA・iDeCo 株式投信で運用

国民年金基金・付加年金も忘れずに

3本柱に加えて、国民年金第1号被保険者だけが入れる「国民年金基金」と「付加年金」も検討対象です。

国民年金基金

国民年金基金は、フリーランスの公的年金に「上乗せ」できる年金制度です。月の掛金上限は68,000円ですが、これはiDeCoと合算枠なので両方フルにはできません。

国民年金基金は終身年金型もあり「死ぬまで年金が出る」安心感がメリット。一方、現在の予定利率は1.5%程度と低く、運用益を狙う商品ではありません。インフレに弱い点も含めて、iDeCoとの配分は要検討です。

付加年金

付加年金は、国民年金保険料に月400円を上乗せして納める制度です。受給時には「200円×納付月数」が年金額に加算されます。たとえば10年(120ヶ月)納付すると、生涯にわたり年24,000円が老齢基礎年金に上乗せされます。

何より優秀なのは、2年で元が取れる利回りの高さ。掛金48,000円(400円×120)に対し、毎年24,000円戻ってくるので2年で回収完了。3年目以降は完全に「もらい得」になります。月400円なので家計負担も軽微。国民年金基金との同時加入はできないため、どちらかを選ぶ必要があります。コスト効率を考えるなら、まず付加年金から検討するのが合理的です。

年収別|現実的な配分シミュレーション

ここまで制度を説明してきましたが、「結局、自分はいくら積めばいいのか」が一番気になるはずです。年商別の現実的な配分例を3パターン提示します。

年商400万円(経費差し引き後 所得300万円)の場合

独立2〜3年目のフリーランスを想定。可処分所得から考えると、退職金枠は月3〜4万円が現実的です。

制度 月額 年額 節税効果概算
小規模企業共済 20,000円 240,000円 約36,000円
iDeCo 10,000円 120,000円 約18,000円
つみたてNISA 10,000円 120,000円 運用益非課税
合計 40,000円 480,000円 節税54,000円+運用益

この配分なら年間54,000円の節税で、実質負担は年426,000円。30年継続すれば元本1,440万円+運用益で2,000万円超を狙えます。

年商800万円(所得550万円)の場合

独立5〜10年目で軌道に乗ったフリーランス。退職金枠は月8〜10万円まで広げられます。

制度 月額 年額 節税効果概算
小規模企業共済 50,000円 600,000円 約180,000円
iDeCo 30,000円 360,000円 約108,000円
つみたてNISA 20,000円 240,000円 運用益非課税
合計 100,000円 1,200,000円 節税288,000円+運用益

節税だけで年28.8万円戻ってくる計算で、実質負担は年91.2万円。これを20年続ければ元本2,400万円+運用益で3,500万円超のリタイア資金を作れます。

年商1,500万円超(所得1,000万円超)の場合

トップ層のフリーランス。退職金枠は3制度ともフル拠出が射程に入ります。

制度 月額 年額 節税効果概算
小規模企業共済 70,000円 840,000円 約344,000円
iDeCo 68,000円 816,000円 約335,000円
つみたてNISA 100,000円 1,200,000円 運用益非課税
合計 238,000円 2,856,000円 節税679,000円+運用益

節税効果だけで年68万円近く戻る計算。所得税率33%超のゾーンに入ると、節税は事実上の「公的キャッシュバック」として効きます。年商が安定しているなら、この配分を意識する価値は十分にあります。

退職金代わりを「作りやすい職種」と「作りにくい職種」

単価×安定性で見た退職金作りやすさランキング

第1グループはソフトウェア開発・AI関連。エンジニア系は月単価60〜100万円のフルリモート案件が継続的に流れており、退職金枠の上限拠出が現実的です。詳しくはソフトウェア作成者の年収・単価相場で職種別の単価レンジを公開しています。同じ開発系でも、AI実装に踏み込んだ案件は単価が一段高く、特にAIコンサル・業務活用支援のお仕事AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のような上流寄りの案件は年商1,500万円超のフリーランスが珍しくありません。退職金3制度満額(月23.8万円)の配分が射程に入る層です。

第2グループはライティング・編集・コンテンツ制作系。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、相場は文字単価1〜5円、月収30〜80万円が中央値。エンジニアより単価は低いものの、案件の継続性は安定しており、月5〜10万円の退職金枠は十分作れます。

第3グループはアプリ・Web開発系。アプリケーション開発のお仕事に代表される案件群は単価が高めで、退職金代わりの積み立てに回せる余裕資金が大きくなります。

資格で単価を底上げして退職金原資を増やす

「退職金枠に回す余裕がない」というフリーランスは、まず単価を上げる方向で考えることもできます。

たとえばインフラ系ならCCNA(シスコ技術者認定)を取得すれば、ネットワーク構築・運用保守案件への参画が可能になり、月単価が10〜20万円アップするケースもあります。事務系・編集系の方も、ライティングだけでなくビジネス文書検定のような資格で「文書品質を担保できる人材」としての差別化が可能で、企業の社内文書監修・教育コンテンツ制作のような単価の高い案件にアクセスしやすくなります。

単価が月10万円上がれば、その分まるごと退職金代わりに回せます。「節約して捻出する」より「単価を上げて捻出する」方が、フリーランスの場合は時短にもなって合理的です。

関連記事で「退職金代わり」の理解をさらに深める

退職金代わりの設計をより具体化したい方は、関連する解説記事も参照してください。小規模企業共済と役員退職金の「二階建て」活用についてはフリーランスの退職金戦略2026|小規模企業共済と役員退職金の二階建て活用で詳しく整理しています。また、小規模企業共済と民間の保険商品をリスク・リターンで比較したい方には退職金がないフリーランスの資金運用|小規模企業共済vs民間保険が参考になります。さらに公的年金も含めた4つの方法での老後資金確保策はフリーランスの年金と退職金対策|老後資金を確保する4つの方法【2026年版】に詳しくまとめてあります。

退職金代わりの設計で失敗しないための実務ポイント

3制度を組み合わせる際に、現場でよく見る失敗パターンと対策を整理します。

失敗1|小規模企業共済を満額で始めて減額する

事業好調時に月70,000円で始めて、不調期に減額するパターン。前述の通り、減額した分は「掛け止め」扱いになり、その分の予定利率が事実上ゼロになります。最初は月20,000〜30,000円で始めて、3年連続で増額しても問題ない年商になってから上げる方が安全です。

失敗2|iDeCoで定期預金を選んでしまう

「投資は怖いから」と定期預金型を選ぶ方が一定数いますが、これは長期的には機会損失です。iDeCo口座内の定期預金は予定利率0.01〜0.1%程度で、年171円の口座管理手数料すら回収できない可能性があります。最低でも信託報酬0.2%以下の全世界株式・米国株式インデックスファンドを選ぶ方が、長期では合理的です。

失敗3|つみたてNISAを「やめる」つもりで始める

新NISAは「いつでも引き出せる」が強みですが、これは諸刃の剣です。「相場が下がったら一旦やめよう」と考えていると、本来の長期積立効果が得られません。新NISAは「20年は触らない」覚悟で機械的に積み立てるのが基本戦略です。

失敗4|国民年金保険料の未納

意外と多いのが、節税策に夢中になりすぎて国民年金保険料そのものを未納にしてしまうパターン。国民年金は老齢基礎年金の根幹であり、未納期間があると将来受給額が大幅に減ります。優先順位としては「国民年金保険料 → 小規模企業共済 → iDeCo → つみたてNISA」の順で固めるのが王道です。

失敗5|手取りを度外視した過剰拠出

節税にハマって所得控除を最大化した結果、手取りが赤字でクレジットカード払いを使ってしまうケースも見たことがあります。退職金代わりは「老後のための仕組み」であって、現在の生活を圧迫しては本末転倒。家計の生活防衛資金(生活費6ヶ月分)を別途確保した上で、無理のない範囲で積み立てるのが鉄則です。

ここがポイントで、手数料132万円が浮けば、そのまま小規模企業共済(月7万円・年84万円)とiDeCo(月4万円・年48万円)のフル拠出に回せます。さらに小規模企業共済とiDeCoで節税効果が約40万円戻ってくるため、実質負担はほぼゼロで退職金代わりの枠を埋められます。

つまり、手数料を下げることは単に「手取りが増える」だけでなく「退職金代わりの原資をフルに作れるかどうか」の分水嶺になります。年商400〜800万円のフリーランスが「退職金代わりに月10万円も出せない」と諦めているケースの多くは、実は手数料に削られて出せないだけです。手数料の構造から見直せば、月10万円どころか月20万円拠出も十分可能になります。

「制度を知っているか」と「使えているか」の差

年商400万円層の典型的なパターンは「国民年金は払っている。小規模企業共済もiDeCoも名前は知っているが、まだ加入していない」。一方で年商800万円超の層は、ほぼ全員が3制度のうち最低2つを満額に近い水準で活用しています。

退職金代わりの制度は「年商が増えたら入る」のではなく「入っているから手取り効率が良くなり、結果として年商が増える」という側面があります。所得控除と運用益非課税は、入っていない人と入っている人で年単位で数十万円のキャッシュフロー差を生み出すからです。

副業からフリーランスに本格移行する段階の方も、独立準備の一環として「開業届の提出」「青色申告の届出」と並行して、「小規模企業共済の加入」「iDeCoの加入」を最初の3ヶ月以内に終わらせておくのが、確定申告で必ず効いてきます。確定申告時に「あの時加入しておけば10万円戻ってきたのに」と悔やむフリーランスを毎年見ていますが、加入手続き自体は中小機構の公式サイト経由で1ヶ月程度で完了します。

最後に冷静に整理すると、フリーランスに退職金はないが、退職金の代わりに使える3制度(小規模企業共済・iDeCo・つみたてNISA)と、付加年金・国民年金基金を合わせれば、会社員の退職金2,000万円どころか、それを大きく上回るリタイア資金を作ることが可能です。重要なのは「制度を知ること」より「今月から始めること」。月20,000円の小規模企業共済からでも、30年後には大きな差になります。退職金がないのではなく「自分で作る退職金の方が、税制上は会社員より有利」というのが本当のところです。

公的機関・関連参考情報

本記事の内容に関連する公的機関や信頼できる情報源は以下の通りです。最新情報は公式サイトで確認してください。

よくある質問

Q. 小規模企業共済とiDeCo、両方加入してもデメリットはないですか?

基本的にはメリットが上回りますが、注意点は「出口」です。両方を同じ年に「一時金」として受け取ると、退職所得控除の計算上で合算されてしまい、税負担が増える場合があります。受け取り時期を5年以上空けるなどの工夫が必要です。また、どちらも原則として長期間資金が拘束されるため、直近で使う予定のある教育資金や住宅購入資金まで回してしまわないよう注意してください。

Q. 小規模企業共済とiDeCoはどちらを優先すべきですか?

まずは小規模企業共済を優先することをおすすめします。理由は、iDeCoが60歳まで引き出せないのに対し、小規模企業共済は廃業時に受け取れる柔軟性があるからです。フリーランスとしての収入が安定してきたら、iDeCoも追加するのが理想的です。

Q. iDeCoと小規模企業共済、付加年金はすべて併用できますか?

はい、すべて併用可能です。フリーランス(第1号被保険者)の場合、iDeCoと付加年金の掛金合計は月額最大68,000円まで、それに加えて小規模企業共済を最大70,000円まで積み立てることができます。

Q. フリーランスが法人化した場合、これらの制度はどうなりますか?

法人化すると小規模企業共済は引き続き加入できますが、iDeCoの上限額が月23,000円に下がります(企業年金がない場合)。国民年金基金と付加年金は加入できなくなります。ただし、法人化すれば厚生年金に加入できるため、年金面ではメリットもあります。税金の仕組みについてはフリーランスの税金完全ガイドも併せてご覧ください。

Q. 小規模企業共済とはどのような制度ですか?

国の機関(中小機構)が運営する、フリーランスや個人事業主、中小企業役員のための「退職金制度」です。廃業時や老後の生活資金を積み立てる目的で利用され、掛金の全額が所得控除になるため非常に高い節税効果を得られます。

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朝比奈 蒼

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朝比奈 蒼

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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