退職金がないフリーランスの資金運用|小規模企業共済vs民間保険

織田 莉子
織田 莉子
退職金がないフリーランスの資金運用|小規模企業共済vs民間保険

この記事のポイント

  • 退職金がないフリーランスの資金運用方法を比較解説
  • iDeCoの使い分けと
  • 退職金に相当する資金を作るための具体的な戦略を紹介します

フリーランスには退職金がない。当たり前だけど、ちゃんと向き合っている人は少ない。

会計事務所時代に担当していた50代のフリーランスデザイナー、タカシさんの話。年収600万円20年以上稼ぎ続けていたのに、小規模企業共済もiDeCoも未加入だった。「来年から始めよう」を15年繰り返した結果、30代から月3万円の掛金を積み立てていれば約1,150万円になっていたはずの退職金がゼロ。節税効果まで含めると400万円以上の損失。

「来年こそ」は来ないんです。私が見てきた限り、例外はなかった。

会社員の退職金って実際いくら?

まず、フリーランスが「失っているもの」の金額を見てみましょう。

勤続年数 大企業の退職金(大卒) 中小企業の退職金(大卒)
10年 約300万円 約150万円
20年 約1,000万円 約500万円
30年 約1,800万円 約900万円
定年退職 約2,200万円 約1,100万円

※ 厚生労働省「就労条件総合調査」をもとにした概算値

大企業に定年まで勤めた場合は約2,200万円。この金額を自力で作らないといけないのがフリーランスの現実です。

「フリーランスは高収入だから貯められる」という声もありますが、私の体感だと全然そんなことはない。収入が不安定な月に「今月は掛金払えないな」となって、そのまま積み立てを止めてしまうパターンが本当に多い。だからこそ仕組みで強制的に積み立てることが必須なんです。

退職金の代わりになる4つの制度

制度比較一覧

制度 掛金上限(月額) 節税効果 引き出し 元本保証
小規模企業共済 70,000円 掛金全額控除 廃業・65歳以上で あり(共済金A・B)
iDeCo 68,000円 掛金全額控除 60歳以降 運用商品による
新NISA 300,000円 運用益非課税 いつでもOK なし
民間の個人年金保険 制限なし 保険料控除(上限あり) 契約期間満了後 商品による

小規模企業共済をもう少し深掘りする

小規模企業共済は、中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)が運営する、いわば「フリーランスのための退職金制度」。加入者数は約160万人で、個人事業主の間では定番の制度です。

掛金が全額所得控除になる

月額70,000円を上限に、掛金全額が所得控除。年間最大84万円の控除です。

課税所得 年間掛金84万円の場合の節税額
200万円 約126,000円
400万円 約252,000円
600万円 約252,000円
800万円 約277,200円

受取時にも退職所得控除が使える

廃業時や65歳以上で受け取る「共済金A」は退職所得扱い。退職所得控除が適用されます。

加入期間 退職所得控除額
20年 800万円
30年 1,500万円
40年 2,200万円

困ったときの貸付制度

掛金の範囲内で事業資金の貸付を受けられます。金利は0.9〜1.5%程度。カードローンの15%と比べたら雲泥の差で、フリーランスにとっては地味に心強い安全網です。

デメリットもちゃんと書く

  • 加入期間が20年未満で任意解約すると元本割れする
  • 廃業以外の理由で解約すると受取額が減る
  • 運用利回りは固定(予定利率1.0%)で、インフレに弱い

ありがちな失敗と賢いやり方

NG例: 知り合いのリク(28歳・動画編集フリーランス)は「節税になるから」と月額7万円の掛金で加入。でも収入の波が大きくて半年後に減額手続き。さらに3年後にキャッシュが苦しくなり任意解約。加入期間が短くて元本割れし、20%目減り。

OK例: 最初は月額1万円でスタート。収入が安定してきた2年目に3万円に増額。余裕のある月は前納制度を使って年払い。20年以上継続して元本保証の範囲で受け取る。

無理のない金額で始めるのが鉄則。いきなりMAXにするのはリスクが高すぎます。

民間の個人年金保険との比較

比較項目 小規模企業共済 個人年金保険
節税効果 掛金全額控除(年最大84万円) 最大4万円の控除
受取時の税制 退職所得控除 雑所得
掛金の変更 自由(1,000〜70,000円) 原則変更不可
貸付制度 あり 契約者貸付(金利高め)
運用リスク なし(固定利率) なし(定額型の場合)

節税効果は小規模企業共済が圧倒的に有利。個人年金保険の控除は最大4万円ですが、小規模企業共済は掛金全額(最大84万円)が控除対象。もはや比較にならない差です。

退職金が入った直後は、銀行の「高金利」「特別プラン」に飛びつく人が多い。でも見るべきは金利ではなく、条件と手数料。退職金の運用は冷静な判断が必要。 — 出典: 退職金運用の注意点(PRESIDENT)

この指摘、退職金に限らず資金運用全般に当てはまりますよね。

2,000万円を作る具体的なプラン

30歳から60歳までの30年間で2,000万円を作る想定です。

モデルプラン

制度 月額掛金 30年後の見込み額
小規模企業共済 30,000円 約1,150万円(予定利率1%で運用)
iDeCo 20,000円 約1,000万円(年利4%想定)
合計 50,000円 約2,150万円

月5万円で30年後に約2,150万円。これに30年間の節税効果を加えると実質リターンはさらに大きくなります。

30年間の節税効果(課税所得400万円の場合)

制度 年間の節税額 30年間の累計
小規模企業共済 約108,000円 約324万円
iDeCo 約72,000円 約216万円
合計 約180,000円 約540万円

約540万円の節税。積み立てた金額とは別に、これだけ手元に残るお金が増える。

退職金戦略で一番大事なこと

早く始めること

複利は時間が味方。「来年から」ではなく「今月から」が最善の戦略です。冒頭のタカシさんの15年間の先延ばしが、どれだけの損失になったか思い出してください。

制度を組み合わせること

小規模企業共済・iDeCo・新NISAを組み合わせてリスク分散する。ひとつの制度に全額突っ込むのはやめましょう。

収入を増やすこと

掛金を捻出するには、そもそもの収入を増やすのが根本的な解決策。@SOHOの年収データベースで自分の職種の収入相場を確認して、アップの余地がないか考えてみてください。

→ フリーランスの年収データを職種別に確認する

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な資金運用の判断はご自身の責任で行ってください。

経営セーフティ共済との併用で節税効果を最大化

小規模企業共済とiDeCoの組み合わせに加えて、もう一つ忘れてはならないのが「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」の活用です。本来は取引先の倒産に備える制度ですが、節税効果と資金プール効果を両立できる優れた制度として、フリーランスの間で再評価されています。

経営セーフティ共済の特徴は、掛金を「全額損金算入」できる点にあります。月額5,000円から200,000円まで自由に設定でき、年間最大240万円を所得から控除できます。さらに、40ヶ月以上加入すれば100%返戻されるため、実質的に「ノーリスクの節税ツール」として機能します。

制度名 年間掛金上限 控除区分 解約時の戻り
小規模企業共済 84万円 所得控除 加入20年以上で全額
iDeCo 81.6万円 所得控除 60歳以降に受取
経営セーフティ共済 240万円 必要経費 40ヶ月以上で全額
新NISA(つみたて枠) 120万円 運用益非課税 いつでも引出可
新NISA(成長投資枠) 240万円 運用益非課税 いつでも引出可

これら4制度を最大限活用すると、年間で約405万円分の所得圧縮効果(経営セーフティと小規模企業共済・iDeCoの合算)と、年間360万円の非課税投資枠が確保できます。年収1,000万円規模のフリーランスであれば、所得税・住民税合わせて年間100万円以上の節税効果も実現可能です。

ただし、経営セーフティ共済は本来「取引先倒産時の借入制度」が主目的であるため、純粋な退職金代替としては機能しません。解約時には「益金算入」となるため、解約タイミングを赤字決算の年に合わせるなどの戦略的活用が前提となります。

中小企業庁が運営する制度として、信頼性と安全性は極めて高い水準にあります。

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。掛金月額は5,000円から200,000円まで5,000円単位で自由に選択でき、加入後の増額・減額も可能です。掛金は税法上、法人の場合は損金、個人事業主の場合は必要経費に算入できます。 出典: chusho.meti.go.jp

実務的な活用法として、以下の戦略パターンが現実的です。

第一は「節税優先型」です。年間所得が500万円を超えるフリーランスが、経営セーフティ共済に月10万円・年120万円を投入。これだけで年間約30万円規模の節税効果が得られ、40ヶ月後には全額が事業資金として戻ってきます。

第二は「危機対応型」です。コロナ禍のような不測の事態に備えて、月5万円程度を継続的に積み立て、いざ事業環境が悪化した際の生活資金・運転資金として活用する設計。掛金の10倍まで無利子で借り入れできる制度も活用すれば、最大2,400万円の借入が可能となり、危機対応力が大幅に高まります。

第三は「出口戦略型」です。事業承継・廃業のタイミングに合わせて解約することで、退職所得(小規模企業共済)と通常所得(経営セーフティ共済の解約金)を分散して受け取り、税負担を平準化する設計。複数年にわたる出口戦略を組むことで、最終的な手取り額を最大化できます。

老後資金に必要な金額の現実的な試算

「老後2,000万円問題」が話題になりましたが、フリーランスの場合、必要な老後資金は会社員以上に大きくなる傾向があります。具体的な金額を把握しないまま積立を始めると、目標が曖昧になり、長期継続のモチベーションが続きません。

老後資金の必要額は、以下の3要素で決まります。

第一は「予想される老後の生活費」です。総務省の家計調査によると、高齢無職世帯(65歳以上)の月平均消費支出は約26万円となっています。趣味・旅行・医療費・介護費などを含めた「ゆとりある老後」を望む場合は、月35〜40万円程度の支出を想定すべきです。

第二は「予想される収入」です。フリーランスの場合、国民年金のみで月6.6万円程度(満額受給時)。これでは生活費の25%程度しかカバーできません。会社員と比較した収入ギャップは月15〜25万円規模となり、これを自助努力で埋める必要があります。

第三は「想定される老後の年数」です。日本人の平均寿命は男性81歳・女性87歳で、健康寿命との差を考えると、65歳時点で20〜30年の老後期間を想定すべきです。この期間を月15万円のギャップで計算すると、3,600〜5,400万円の不足となります。

老後の生活水準 月額生活費 国民年金との差額 30年間の必要総額
最低限の生活 15万円 8.4万円 約3,000万円
標準的な生活 26万円 19.4万円 約7,000万円
ゆとりある生活 35万円 28.4万円 約10,200万円
余裕ある生活 45万円 38.4万円 約13,800万円

この数字を見ると、「2,000万円」は最低限の生活でも明らかに不足する水準であることがわかります。標準的な生活を望むなら7,000万円規模、ゆとりある生活なら1億円超の準備が必要です。

ただし、これらの数字は「現役時代と同水準の生活」を維持する前提です。実際には、老後は住宅ローン返済が終わっていたり、子どもの教育費がかからなくなっていたりするため、現役時代の70〜80%程度の支出で生活できるケースが多くあります。また、老後も完全引退ではなく、月10〜20万円程度の収入を維持する「半引退ライフ」を選択することで、必要な老後資金を大幅に圧縮できます。

総務省の家計調査では、高齢者世帯の収支構造の実態が継続的に公表されています。

高齢者夫婦無職世帯における消費支出は月平均で約25万円、可処分所得は約22万円となっており、月3万円程度の不足が発生している。30年間で約1,000〜2,000万円の取り崩しが必要となるが、これは公的年金以外の収入源(就労収入・資産取り崩し)によって補填する必要がある。フリーランス・自営業者は厚生年金がない分、より大きな自助努力が求められる。 出典: soumu.go.jp

このデータを踏まえた現実的な目標設定として、以下の3段階が推奨されます。

第一段階は「最低限プラン」で、65歳時点で3,000万円の確保。月3〜5万円の積立を30年間継続することで達成可能。 第二段階は「標準プラン」で、65歳時点で5,000万円の確保。月7〜10万円の積立、または月5万円の積立+年200万円程度の継続収入で達成可能。 第三段階は「ゆとりプラン」で、65歳時点で7,000万円以上の確保。月10万円超の積立または高い運用利回りの確保が必要。

目標額は人それぞれですが、まずは自分の希望する老後生活を具体的にイメージし、そこから逆算して月々の積立額を決めることが、長期継続の最大の動機となります。

公的年金の繰下げ受給による収入最大化戦略

退職金準備と並行して活用したいのが、公的年金(国民年金・厚生年金)の「繰下げ受給」制度です。これは原則65歳から受給できる年金を、66歳から75歳までの間で1ヶ月単位で繰下げることができ、繰下げ1ヶ月につき0.7%増額される制度です。

具体的には、70歳まで5年繰下げると42%増、75歳まで10年繰下げると84%増となります。フリーランスとして65歳以降も就労収入が見込める場合、年金受給を遅らせて将来の年金額を大幅に増やす戦略が極めて有効です。

繰下げ年齢 年金増額率 月額(満額時) 年額 損益分岐年齢
65歳(基準) 0% 6.6万円 79万円 -
67歳 16.8% 7.7万円 92万円 78歳
70歳 42% 9.4万円 113万円 81歳
73歳 67.2% 11.0万円 132万円 84歳
75歳 84% 12.1万円 146万円 86歳

繰下げ受給の最大のメリットは「終身で増額が続く」ことです。長生きすればするほど、繰下げの効果は積み重なります。日本人の平均寿命の延伸傾向を考えれば、健康寿命に問題がない方は積極的に繰下げを検討する価値があります。

注意点として、繰下げ期間中は当然ながら年金収入がゼロになるため、その間の生活資金を別途確保する必要があります。小規模企業共済の解約金やiDeCoの一時金、新NISAの取り崩しなど、複数の資産源を組み合わせて「年金受給開始までのつなぎ資金」を準備する設計が重要です。

厚生労働省では、繰下げ受給を含む年金制度の選択肢について継続的に情報提供を行っています。

老齢年金の繰下げ受給制度は、65歳以降に年金受給開始を遅らせることで、年金額を増額する制度です。1ヶ月繰下げるごとに0.7%増額され、最大75歳まで繰下げることで84%増額されます。65歳以降も就労を継続する場合や、配偶者の年金受給状況を考慮した選択により、生涯年金額の最大化を図ることができます。 出典: mhlw.go.jp

繰下げ受給の判断は、「健康状態」「経済状況」「家族構成」「相続戦略」など複数の要素を踏まえた総合的な意思決定となります。50代後半に入ったら、ファイナンシャルプランナーや社労士と相談して、自分にとって最適な受給開始年齢をシミュレーションしておくことを強く推奨します。

逆に、健康状態に不安がある場合や、早期に資金が必要な場合は「繰上げ受給(60歳から受給可能で1ヶ月0.4%減額)」という選択肢もあります。65歳まで5年繰上げると24%減額されますが、5年早く受給開始できるため、トータルの生涯年金額が逆転する可能性もあります。

退職金準備と公的年金の活用を組み合わせた総合戦略を持つことで、フリーランスでも会社員以上に充実した老後を実現することが可能です。重要なのは、20〜30代のうちから「老後の収入源を複数化する」発想を持ち、計画的に資産形成を進めることです。

よくある質問

Q. 小規模企業共済とiDeCoはどちらを優先すべきですか?

まずは小規模企業共済を優先することをおすすめします。理由は、iDeCoが60歳まで引き出せないのに対し、小規模企業共済は廃業時に受け取れる柔軟性があるからです。フリーランスとしての収入が安定してきたら、iDeCoも追加するのが理想的です。

Q. 小規模企業共済とはどのような制度ですか?

国の機関(中小機構)が運営する、フリーランスや個人事業主、中小企業役員のための「退職金制度」です。廃業時や老後の生活資金を積み立てる目的で利用され、掛金の全額が所得控除になるため非常に高い節税効果を得られます。

Q. 小規模企業共済とiDeCo、両方加入してもデメリットはないですか?

基本的にはメリットが上回りますが、注意点は「出口」です。両方を同じ年に「一時金」として受け取ると、退職所得控除の計算上で合算されてしまい、税負担が増える場合があります。受け取り時期を5年以上空けるなどの工夫が必要です。また、どちらも原則として長期間資金が拘束されるため、直近で使う予定のある教育資金や住宅購入資金まで回してしまわないよう注意してください。

Q. 小規模企業共済は途中で掛金の金額を変更できますか?

はい、可能です。月額1,000円から70,000円の範囲内で、500円単位で増額や減額の手続きができます。資金繰りが苦しい時は解約するのではなく、最低額の1,000円に減額して継続することをおすすめします。

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織田 莉子

この記事を書いた人

織田 莉子

FP2級・フリーランス経理サポーター

会計事務所で10年間の実務経験を経て独立。フリーランスの確定申告・節税・資金管理を専門に、お金にまつわる記事を執筆しています。

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