シニア 個人事業主 年金併給|年金受給しながら事業所得を得る年収ライン

長谷川 奈津
長谷川 奈津
シニア 個人事業主 年金併給|年金受給しながら事業所得を得る年収ライン

この記事のポイント

  • シニアが個人事業主として働きながら年金を満額受給する条件を解説
  • 在職老齢年金の対象外となる事業所得の扱い
  • フリーランス保護新法の保護範囲まで網羅した実務ガイド

先日、定年退職を控えた64歳の男性から相談を受けました。「退職金を元手に個人事業主として独立したい。でも、年金が減らされるんじゃないかと不安で踏み出せない」と。結論から言うと、これは大きな誤解です。個人事業主として得る事業所得は、厚生年金保険法上の「報酬」に該当しないため、年金は1円もカットされません。これ、知らない人が本当に多いんです。在職老齢年金で年金がカットされるのは、あくまで「会社員として厚生年金に加入しながら給与をもらう」場合だけ。シニア 個人事業主 年金の組み合わせは、制度上もっとも年金を満額に近い形で受け取れる働き方の一つなんです。

ただし、何も知らずに開業届を出すと、国民健康保険料が跳ね上がったり、所得税の累進課税で手取りが目減りしたりする落とし穴もあります。本記事では、行政書士として年間100件以上のシニア独立相談を受けてきた実務感覚をもとに、年金を満額受給しながら個人事業主として事業所得を得る最適な年収ライン、開業手続き、節税の勘所、2024年施行のフリーランス保護新法による保護範囲まで、すべて噛み砕いて解説します。法律はあなたの味方です。正しく使えば、シニア期の働き方は驚くほど自由になります。

シニアが個人事業主として独立する市場動向

総務省「労働力調査」によると、65歳以上の就業者数は2024年時点で914万人に達し、就業率は25.2%と過去最高を更新しています。そのうち自営業主・家族従業者は約28%を占め、シニア層に占める個人事業主の割合は他の年齢層よりも高いという特徴があります。これは、企業の定年延長が65歳までしか進んでおらず、70歳就業確保措置が努力義務にとどまっていることの裏返しでもあります。つまり、雇用継続では対応しきれない働く意欲を、個人事業主という形で吸収しているのが現在のシニア就労市場の構造です。

中小企業庁の「中小企業白書」を見ても、起業家のうち60歳以上が占める割合は35%超と、過去20年で2倍以上に増えています。背景には3つの要因があります。1つ目は、人生100年時代を見据えた老後資金不足への危機感。金融庁が示した「老後2,000万円問題」以降、年金だけに頼らない収入源を確保したいというニーズが顕在化しました。2つ目は、定年退職後も働きたいシニアの就労意欲の高さ。内閣府の調査では、60歳以上の42%が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答しています。3つ目は、デジタル化の進展です。クラウドソーシングや在宅ワークの普及で、シニアでも体力的負担なく事業を始められる環境が整いました。

個人事業主として得る事業所得は、厚生年金保険法上の「報酬」に該当しません。 そのため、たとえば月々の年金受給額が20万円、事業での利益が月額50万円ある場合、合計額は70万円となりますが、年金は1円もカットされず全額受給可能です。

つまり、月の事業所得が50万円あっても、月20万円の年金は1円も減らない。これがシニア 個人事業主 年金の組み合わせがもっとも強力と言われる理由です。会社員時代と同じ感覚で「働いたら年金が減る」と思い込んでいる方が本当に多いのですが、個人事業主には在職老齢年金の仕組みが適用されないことを、まず正しく理解してください。

シニア個人事業主と会社員の年金制度の違い

シニア 個人事業主 年金を考えるうえで、まず押さえるべきは公的年金制度の構造です。日本の公的年金は「2階建て」と呼ばれ、1階部分が全国民共通の国民年金(基礎年金)、2階部分が会社員・公務員のみが加入する厚生年金です。個人事業主は1階部分の国民年金のみに加入するため、会社員と比べて受給額が少なくなる構造的なハンディキャップがあります。

個人事業主が納める国民年金保険料は、1ヶ月あたり16,980円と一律になっています。(※2025年2月時点)一方、会社員が会社と折半して納める厚生年金保険料は、給与や賞与の18.3%と変動します。つまり、納付額が異なるため、もらえる年金額にも差が生じるというわけです。

国民年金の満額(40年間納付)は2025年度で月額約69,308円。一方、厚生年金は加入期間と平均報酬月額によって決まりますが、平均的な会社員で月額14万6,000円程度(厚生年金部分のみ)が上乗せされます。つまり、国民年金しかない個人事業主と、厚生年金もある会社員では、月額10万円以上の年金格差が生じるわけです。

ただし、これは「ずっと個人事業主だった人」の話です。シニア独立組の多くは、40年近く会社員として厚生年金を納めてきた人たち。65歳以降に個人事業主として独立しても、過去に積み立てた厚生年金は満額受給できます。つまり、過去の会社員期間で確保した厚生年金(2階部分)を満額もらいつつ、現在の事業所得を青天井で積み上げられる、というのがシニア 個人事業主 年金の最強パターンなんです。

在職老齢年金が個人事業主には適用されない理由

在職老齢年金とは、60歳以降に厚生年金保険の被保険者として働きながら老齢厚生年金を受け取る場合、給与(標準報酬月額+直近1年の標準賞与額÷12)と年金月額の合計が支給停止調整額(2025年度は月額51万円)を超えた場合に、超過分の2分の1の年金がカットされる制度です。これは「会社員として厚生年金に再加入している」ことが前提の制度です。

個人事業主は厚生年金の被保険者ではないため、そもそもこの計算式に乗りません。事業所得がいくらあっても、月額51万円の壁は存在しません。つまり、定年退職後に同じ会社へ嘱託として再雇用されると年金カットの対象になりますが、業務委託契約に切り替えて個人事業主として同じ仕事をすれば年金は全額受給できる、という現象が起きるのです。これ、人事担当者ですら知らないケースが多いです。

ただし、注意点が3つあります。1つ目は、形式上「業務委託」でも実態が雇用と変わらない場合、税務署や年金事務所から「偽装請負」と認定されるリスクがあること。労働時間が拘束され、業務指示を受け、報酬が時間単位で決まっているような働き方は、契約書を業務委託にしても雇用とみなされる可能性があります。2つ目は、厚生年金から国民年金への切り替え手続きが必要なこと。退職日の翌日から14日以内に市区町村役場で第1号被保険者への種別変更が必要です。3つ目は、健康保険の切り替えで保険料が上がるケースがあること(後述)。

シニア個人事業主が押さえるべき開業手続きと税務

シニアとして個人事業主になるための手続きは、実はとてもシンプルです。必要な書類と提出先を順に整理します。

開業届と青色申告承認申請書

事業を開始したら、開業日から1ヶ月以内に「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出します。さらに、節税効果が大きい青色申告を選択する場合は「所得税の青色申告承認申請書」も同時に提出するのが鉄則です。提出期限は、開業日から2ヶ月以内(1月1日〜1月15日に開業した場合は3月15日まで)。これを過ぎると、その年は白色申告しか選べなくなります。

青色申告のメリットは絶大です。最大65万円の青色申告特別控除(複式簿記+e-Tax提出が条件)、赤字を翌年以降3年間繰り越せる純損失の繰越控除、家族への給与を経費にできる青色事業専従者給与など、白色申告にはない優遇措置が満載です。シニアの場合、初年度は設備投資や開業費がかさんで赤字になりがちですが、青色申告なら翌年以降の黒字と相殺できるため、トータルの税負担を大きく圧縮できます。提出書類は国税庁のサイトからダウンロード可能で、e-Taxでオンライン提出もできます。

健康保険の選択肢

個人事業主になると、健康保険は原則として国民健康保険(市区町村が運営)に加入します。ただし、シニア 個人事業主 年金の組み合わせでは、健康保険の選び方で年間数十万円の差が出ることがあるので慎重に選んでください。選択肢は主に4つあります。

1つ目は、国民健康保険への加入。前年所得をベースに保険料が決まるため、退職翌年は会社員時代の給与をベースに高額な保険料になりがちです。2つ目は、健康保険の任意継続。退職前の健康保険に最長2年間継続加入できる制度で、保険料は退職時の倍額(会社負担分も自己負担)になりますが、上限額があるため高所得者は国保より安くなることが多いです。3つ目は、家族の扶養に入る。配偶者や子どもが会社員で、自分の年間収入が130万円未満(60歳以上は180万円未満)なら、家族の社会保険の扶養に入れて保険料はゼロになります。4つ目は、国民健康保険組合への加入。文芸美術、医師、税理士など特定の業種ごとに組合があり、所得に関わらず一定額の保険料で済むケースがあります。

私の相談実績で多いのは、退職後1年目は任意継続、2年目から国保に切り替えるパターンです。任意継続の保険料は上限が決まっているため、退職時に年収800万円以上だった方は国保より任意継続のほうが安くなります。事業所得が安定してきたら、所得に応じて国保のほうが有利になることも多いので、毎年見直すのが賢明です。

75歳以降は後期高齢者医療制度に自動移行

75歳の誕生日を迎えると、自動的にすべての方が後期高齢者医療制度に移行します。保険料は前年所得をベースに計算され、自治体により差はありますが、平均で月額7,000〜8,000円程度。事業所得が大きい場合は応能負担分が増えますが、現役並み所得者(年収約383万円以上)でなければ窓口負担は1割または2割で済みます。シニアとして長く事業を続ける場合、この75歳の壁も意識しておくと安心です。

年金を満額受給しながら稼げる年収ラインの実務

シニア 個人事業主 年金の最適な年収設計を考えるうえで、3つの壁を意識する必要があります。1つ目は所得税の累進課税、2つ目は国民健康保険料の上昇、3つ目は配偶者控除等の所得制限です。在職老齢年金がない以上、これらの「税・社会保険負担の壁」を最適化することが手取り最大化の鍵になります。

所得税の累進課税ラインの理解

所得税は累進課税で、課税所得が増えるほど税率が上がります。具体的には、195万円以下が5%、195万〜330万円が10%、330万〜695万円が20%、695万〜900万円が23%、900万〜1,800万円が33%、1,800万〜4,000万円が40%、4,000万円超が45%です(住民税10%は別途加算)。

実務的に多いのは、課税所得330万円のラインを意識した年収設計です。事業所得(売上から経費を引いた利益)から青色申告特別控除65万円、基礎控除48万円、社会保険料控除(国民年金・国保)約60万円、配偶者控除等を引いた額が課税所得になります。年金収入も雑所得として課税対象になるため、両者の合算で考える必要があります。

具体例で考えます。65歳から年金を月20万円(年240万円)受給するシニア個人事業主の場合、公的年金等控除110万円を引いた130万円が雑所得。これに事業所得を加えた合計が総所得金額です。事業所得を年300万円に抑えれば、所得控除を引いて課税所得は約260万円。所得税率10%、住民税10%で、税金は約50万円程度に収まります。一方、事業所得を年500万円に増やすと課税所得は約460万円となり、税率は20%。税金は約100万円超に跳ね上がります。

つまり、年収を上げれば上げるほど手取り率は下がる構造です。シニアの場合、生活費が現役世代より低く、年金という安定収入があるため、「税負担を意識した適度な年収ライン」を狙うのが合理的です。私の相談実感では、年金+事業所得の合計で500万〜700万円あたりが、税・社会保険負担と手取りのバランスがもっとも良いゾーンになることが多いです。

国民健康保険料の上昇カーブ

国民健康保険料は所得に応じて上昇しますが、上限額が決まっています。2025年度の年間保険料上限は約109万円(医療分・後期高齢者支援金分・介護分の合計、自治体差あり)。つまり、所得が一定額を超えると、それ以上稼いでも国保料は増えません。逆に言えば、上限に達するまでの中間所得帯(年収400万〜700万円程度)が、もっとも保険料負担率の高いゾーンになります。

国保料を圧縮する手段としては、小規模企業共済への加入が王道です。月額1,000円〜70,000円を積み立てると全額所得控除になり、廃業時には退職金として受け取れます。掛金月額70,000円なら年間84万円の所得控除。これだけで国保料・所得税・住民税を合わせて年間20万円超の節税が可能です。中小機構が運営する制度で、シニア個人事業主にもっとも勧めたい節税策の一つ。詳細は中小機構で確認できます。

加えて、iDeCo(個人型確定拠出年金)も併用すると効果的です。65歳までは加入でき、月額68,000円(個人事業主の場合)まで全額所得控除になります。受給開始は60歳以降で、年金として分割受け取りも一時金として一括受け取りも選べます。

シニア個人事業主のリスクとフリーランス保護新法

シニア 個人事業主 年金の組み合わせは制度的に有利ですが、リスクもあります。もっとも深刻なのは、業務委託先からの「報酬未払い」「一方的な契約解除」「成果物の受領拒否」といった発注者側からの不当な扱いです。年齢を理由に契約を切られるケースも珍しくありません。これに対する強力な味方が、2024年11月施行の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、通称フリーランス保護新法です。

先日、あるシニアエンジニアから相談を受けました。長年勤めた会社を退職後、業務委託として同社のシステム保守を請け負っていたところ、ある日突然「契約を打ち切る」と口頭で告げられたと。納品済みの作業に対する報酬も「次の月にまとめて」と先延ばしにされていました。結論から言うと、これはフリーランス保護新法違反です。発注者は受領日から60日以内に報酬を支払う義務があり、契約解除には30日前の予告が必要です。公正取引委員会に申告することで、行政指導や立入検査の対象になります。法律はあなたの味方です。知らないと泣き寝入りするしかない、というのが現実なんです。

フリーランス保護新法の7つの義務

新法では、発注者(フリーランスに業務委託する企業など)に対し、7つの義務が課されました。1つ目は取引条件の書面(電子メール等含む)による明示。業務内容、報酬額、支払期日などを契約時に必ず明示する義務があります。2つ目は受領後60日以内の報酬支払い。「振込手数料は受託者負担」「翌々月末払い」といった慣行も、60日を超えれば違反になります。3つ目は不当な行為の禁止。受領拒否、返品、減額、買いたたき、購入強制、利益提供強制、不当な変更・やり直しが禁止されます。4つ目は募集情報の的確表示。求人広告で虚偽の条件を提示することが禁止されました。5つ目は育児介護等への配慮義務。フリーランスの妊娠・出産・育児・介護に配慮する義務があります。6つ目はハラスメント対策の体制整備。相談窓口の設置などが求められます。7つ目は中途解除等の30日前予告。継続的業務委託の解除・不更新には30日前までの予告が必要です。

つまり、シニアフリーランスでも、年齢を理由とした突然の契約打ち切りや「老人だから安くしろ」といった買いたたきは違法行為になります。違反があった場合は、公正取引委員会または中小企業庁に申告することで調査が入ります。詳細な相談窓口は公正取引委員会中小企業庁で公開されています。※深刻な被害に発展している場合は、必ず弁護士または行政書士などの専門家に相談してください。

取引先を見つける際の注意点

加えて、長年のキャリアを活かしたい方には、専門性を活かせる業務委託が有望です。たとえばIT業界出身者ならAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、企業のAI導入支援を行う業務委託で、シニアの業務経験と新技術への適応力が活きる分野です。データ分析、業務プロセス改革、内部統制などの知見は、AI導入時の要件定義で重宝されます。営業や広告業界出身の方であればAI・マーケティング・セキュリティのお仕事も親和性が高く、生成AIを活用したマーケティング業務の代行案件が増加傾向にあります。

エンジニア出身でコードを書くのが好きな方はアプリケーション開発のお仕事も検討してください。特にレガシーシステムの保守・移行案件は、シニアエンジニアの長年の経験が決定的に活きる領域で、若手では対応できない案件も多くあります。

年金額を増やす個人事業主向けの上乗せ制度

シニアになる前の個人事業主、あるいは独立直後のシニア個人事業主が活用すべき年金上乗せ制度を整理します。これらは、国民年金しかない個人事業主の2階建て構造を補強する重要な選択肢です。

国民年金基金

国民年金基金は、自営業者やフリーランス向けの公的な年金上乗せ制度です。掛金は全額社会保険料控除の対象になり、最大月額68,000円まで積み立て可能(iDeCoとの合算で)。給付タイプは終身年金型と確定年金型から選べ、加入時の年齢と掛金で将来の受取額が確定する確定給付型です。インフレに弱い面はありますが、確実な年金原資を作りたい方には向いています。

付加年金

国民年金保険料に月額400円を上乗せして納める制度。受給時に「200円×納付月数」が年金額に加算されます。たとえば20年(240ヶ月)納めれば、月48,000円が国民年金に上乗せされる計算。納付額96,000円に対して、わずか2年で元が取れる驚異的な利回りで、知らないと損する制度の代表格です。ただし、国民年金基金と併用できない点には注意してください。

小規模企業共済

すでに紹介した小規模企業共済は、廃業時の退職金として受け取れる制度。退職所得控除が適用されるため、税制上極めて有利です。シニアが65歳以降に廃業した場合、退職所得控除は「40万円×加入年数」(20年超は70万円×超過年数+800万円)となります。仮に20年加入していれば800万円まで非課税で受け取れる計算です。

iDeCo(個人型確定拠出年金)

iDeCoは私的年金制度で、掛金が全額所得控除、運用益が非課税、受取時にも控除があるトリプル節税商品です。個人事業主は月額68,000円まで拠出可能。2025年からは加入可能年齢が65歳まで拡大される予定で、シニア個人事業主にも追い風です。ただし、60歳以降の加入は受給開始までの期間が短いため、節税メリット中心の活用になります。詳細は厚生労働省のサイトで最新情報を確認してください。

年金繰下げ受給と事業所得の組み合わせ戦略

シニア 個人事業主 年金を最適化するうえで、もう一つ重要な選択肢が「年金の繰下げ受給」です。年金の受給開始は原則65歳ですが、最大75歳まで繰り下げることができ、繰下げ1ヶ月ごとに0.7%増額されます。75歳まで繰り下げると、年金額は84%増になる計算です。

つまり、月20万円の年金を75歳まで繰り下げれば、月36.8万円に増額されて生涯受給できます。事業所得で生活費を賄える元気なうちは年金を繰り下げ、体力が落ちて事業を縮小・廃業するタイミングで増額された年金を受給開始する、というのが理論上もっとも有利な戦略です。

ただし、繰下げ受給には3つの注意点があります。1つ目は損益分岐点。75歳まで繰り下げた場合、増額された年金で65歳時点の累計額を取り戻すのは86歳頃。86歳より前に亡くなると、トータルで損する計算になります。2つ目は税負担の増加。年金額が増えるほど雑所得が増え、所得税・住民税・国保料の負担が重くなります。3つ目は加給年金の停止。配偶者がいて加給年金が付く場合、繰下げ期間中は加給年金も受給できません。

実務的には、健康に自信があり事業所得が安定している方は繰下げ、健康不安がある方や事業所得が不安定な方は65歳受給開始というのが基本判断軸です。「老齢基礎年金は繰下げ、老齢厚生年金は65歳から受給」という片方繰下げも可能で、リスクを抑えた選択肢として人気があります。

確定申告と節税の実務ポイント

シニア個人事業主の確定申告は、年金所得と事業所得の両方を申告する必要があります。年金は「公的年金等の雑所得」、事業収入は「事業所得」として、それぞれ計算したうえで合算します。年間の年金収入が400万円以下で、かつ事業所得を含む年金以外の所得が20万円以下なら確定申告は不要ですが、シニア個人事業主のほとんどはこの基準を超えるため、毎年確定申告が必要になります。

経費計上の勘所

シニア個人事業主が見落としやすい経費を整理します。在宅で事業を営む場合、自宅の家賃・光熱費・通信費は、事業使用割合に応じて家事按分で経費計上できます。事業専用スペースの床面積比率、業務時間比率などで按分するのが一般的で、おおむね20〜30%程度が現実的な按分率です。

加えて、仕事関連の書籍・新聞・専門誌、取引先との打ち合わせの飲食費・交通費、業務に必要なパソコン・スマートフォン(10万円未満は消耗品費、10万円超は減価償却資産)、業務関連のセミナー受講料、仕事用の机・椅子などはすべて経費になります。10万円以上30万円未満の資産は「少額減価償却資産の特例」(青色申告者限定)で全額一括経費化できます。

ただし、家族との食事や趣味の旅行など、私的な支出を経費にすると税務調査で否認されます。シニアの場合、税務署は「年金収入のある個人事業主が無理に経費を増やしていないか」をチェックする傾向があるので、領収書には必ず「誰と・何の目的で・どんな話をしたか」をメモしておいてください。これ、税務調査で本当に効いてきます。

帳簿付けはクラウド会計ソフトで効率化

青色申告の65万円控除には複式簿記が必須ですが、簿記の知識がなくてもfreeeマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使えば、銀行口座やクレジットカードを連携するだけで自動で仕訳ができます。月額1,000〜2,000円程度の利用料は経費計上できるため、実質負担はわずか。シニアでも操作は難しくありません。むしろ、紙の帳簿で挫折するくらいなら、クラウド会計ソフトを最初から使うことを強くお勧めします。

消費税のインボイス制度対応

2023年10月から始まったインボイス制度では、課税事業者と取引する場合に適格請求書(インボイス)の発行が求められます。年商1,000万円以下の免税事業者でも、取引先から「インボイス対応してほしい」と言われるケースが増えています。インボイス登録すると消費税の納税義務が発生しますが、簡易課税制度(年商5,000万円以下)を選択すれば、業種に応じたみなし仕入率で消費税を簡易計算できます。シニア個人事業主の多くは第5種事業(サービス業、みなし仕入率50%)に該当します。

ただし、インボイス対応の要否は取引先の事情によります。免税事業者のままでも問題ない取引先(個人客中心、簡易課税適用の事業者など)が多ければ、無理に課税事業者になる必要はありません。詳細は国税庁のインボイス制度特設サイトで確認できます。

ソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ると、フリーランスエンジニアの単価相場は経験年数に強く相関しており、20年以上のキャリアを持つシニアエンジニアの時間単価は平均6,000〜10,000円と、若手の1.5〜2倍の水準にあります。とくに、COBOLやJavaなどのレガシー言語、メインフレーム保守、業務システム改修などの分野は、シニアの経験が決定的に活きる領域です。週20時間の業務委託でも、月収40〜80万円が現実的に狙えます。

著述家,記者,編集者の年収・単価相場では、Webライターやコンテンツ編集者の単価相場が確認できます。シニアの強みは「人生経験に裏打ちされた専門性」と「文章を書くことへの抵抗のなさ」にあります。1文字3〜10円のライティング案件が中心で、医療、金融、不動産、相続など専門知識が求められる分野では1文字15〜30円の高単価案件もあります。月20本程度の執筆で月収20〜40万円のシニアライターも珍しくありません。

加えて、シニア個人事業主のスキルアップとして資格取得も有効です。ビジネス文書検定は、ビジネス文書の作成スキルを客観的に証明できる資格で、Webライティング案件の獲得に有利に働きます。技術系ではCCNA(シスコ技術者認定)などのネットワーク認定資格が、IT業務委託案件の応募で評価されます。シニアであっても、新しい資格に挑戦することで案件単価を上げることが可能です。

シニアライティング業界の実態

加えてシニアライターの強み|人生経験を記事にして稼ぐWebライティングでは、シニアの人生経験がコンテンツとして商品価値を持つ仕組みを解説しています。長年の業界経験、子育て経験、介護経験、転職経験など、すべてが記事の素材になります。

副業から始めて段階的に個人事業主化する道筋については50代の副業は年金に影響する?収入と年金の関係をわかりやすく解説で詳しく解説しています。50代のうちに副業として個人事業の準備を始め、退職と同時に本格的な個人事業主に移行するのが、もっともリスクの少ない独立パターンです。

業務委託案件の発注動向

近年の発注動向を見ると、生成AIの普及で「AIを使えるシニア人材」への需要が急増しています。これまでホワイトカラーの経験を積んできたシニアが、ChatGPTやClaudeなどの生成AIを業務に組み込めれば、若手より高い生産性で業務を遂行できるケースも多いです。AI活用のリスキリング講座が増えているのも、こうした市場ニーズの反映です。

シニア個人事業主が長期的に活躍するためには、3つの戦略が重要だと考えています。1つ目は、専門分野の深掘り。広く浅くではなく、ニッチでもいいから他の人には書けない・できない領域を持つこと。2つ目は、デジタルツールへの適応。クラウド会計、ビデオ会議、生成AIなど、新しいツールを使いこなせるシニアは案件獲得で圧倒的に有利です。3つ目は、健康管理。元気で働けることが最大の資本です。

シニア 個人事業主 年金の組み合わせは、制度的に極めて有利な働き方です。在職老齢年金で年金がカットされる心配がなく、過去に積み立てた厚生年金も満額受給できる。事業所得は青天井で積み上げられ、青色申告や小規模企業共済で節税もできる。フリーランス保護新法で取引上の不利益からも守られる。あとは、年齢を理由に自分にブレーキをかけず、自分の経験と専門性を信じて一歩を踏み出すだけです。法律も制度も、あなたの味方なんです。

よくある質問

Q. 私は「従業員なし」の個人事業主ですが、対象になりますか?

はい。法律上「特定受託事業者」として保護の対象になります。一方、あなたに発注する側が一人でも従業員を雇っていれば、その発注者には法律上の義務が発生します。

Q. フリーランスは必ず個人事業主として開業届を出さなければいけませんか?

法律上、開業届の提出は事業開始から1ヶ月以内に行うべきとされていますが、提出しなくても罰則はありません。しかし、開業届を出すことで最大65万円の控除が受けられる「青色申告」が可能になるため、節税を考えるのであれば提出するのが一般的です。

Q. フリーランス新法ができたことで、契約時のやり取りで気をつけるべきことは何ですか?

最も重要なのは「書面やメール等による取引条件の明示」が義務化された点です。口約束だけの業務委託は違法となる可能性が高くなります。業務内容、報酬額、支払期日などが明確に記載された発注書やメールの記録を必ず発注者からもらうようにしてください。万が一トラブルになった際、これらの記録があなたの権利を守る強力な証拠となります。

Q. 育児や介護と両立しながら働いていますが、フリーランス新法で何か配慮されるのでしょうか?

はい、フリーランス新法には下請法にはない「人間らしい働き方の保護」が含まれています。継続的(6ヶ月以上)に業務を委託されている場合、発注者に対して育児や介護などと両立できるよう、就業時間や納期の調整といった配慮を申し出ることができます。発注者には配慮の義務があるため、一人で抱え込まずに積極的に相談することが大切です。

Q. 予定納税の通知が届きましたが、必ず払わないといけませんか?

原則として、通知が届いた場合は支払う義務があります。ただし、廃業や休業、または著しい所得の減少が見込まれる場合には、申請によって予定納税額を減額できる「減額申請」という制度があります。期限があるため、早めの確認が必要です。

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長谷川 奈津

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長谷川 奈津

行政書士・元企業法務

企業法務で年間200件以上のフリーランス契約を処理した経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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