男性の保健師という働き方|職場での役割と、キャリアの積み方


この記事のポイント
- ✓保健師の資格に性別の要件はありません
- ✓男性が保健師として働くための資格ルート
- ✓行政・産業・学校といった職場ごとの違い
「男性でも保健師になれますか」。この質問、本当に多いんです。
結論から書きます。なれます。保健師の資格要件に性別の定めはありません。根拠は保健師助産師看護師法です。同法が保健師の免許について定めているのは、保健師国家試験と看護師国家試験の両方に合格し、厚生労働大臣の免許を受けることであって、性別の条件はどこにも書かれていません。つまり、法律上の障壁はゼロです。
ただ、それでも不安になるのは分かります。実際に働いている人の大半が女性である職種ですし、周囲に前例が見当たらないと「本当に大丈夫なのか」と考えてしまう。この記事では、法律上の位置づけ、資格を取るまでの道筋、実際に働ける場所、そして男性が働くうえでの利点と注意点を、順番に整理していきます。
なお、資格制度や採用の条件は改正や運用の変更があります。最終的な確認は必ず、厚生労働省の公表資料や、受験を考えている学校、応募先の自治体の募集要項で行ってください。
法律上、男性が保健師になることに制限はない
まず、法律の話から整理します。ここを押さえておくと、周囲から何か言われたときにも揺らがなくなります。
保健師の業務と免許について定めているのは、保健師助産師看護師法です。この法律では、保健師を「厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者」として位置づけています。これは名称独占の資格です。つまり、保健師と名乗って保健指導を行うには免許が必要である、という定めです。
ここで、混同されやすい点を1つ補足します。同じ法律が扱う助産師については、条文上「女子」と明記されています。この違いがあるために、「保健師も女性限定ではないか」と誤解されることがあるのですが、保健師の条文にそうした限定はありません。制度が違うのだと理解してください。
法令の正確な条文を確認したい場合は、e-Govの法令検索で保健師助産師看護師法を引くのが確実です。孫引きの記事ではなく、原文を一度読んでおくと安心できます。
さらに、採用の場面についても法律の裏づけがあります。募集や採用にあたって性別を理由に差別的な取扱いをすることは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律で禁止されています。つまり、「保健師は女性のみ募集」という求人は、原則として認められません。
これ、知らない人が本当に多いんです。実際には性別で選考されているのではないかと感じる場面があったとしても、制度としてはそれを許していない。もし明らかに性別を理由とした取扱いを受けたと感じた場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部門が相談窓口になっています。窓口の場所や相談方法は厚生労働省の案内から確認できます。
法律はあなたの味方です。まずここを土台にしてください。
男性保健師の実際の人数と、現場で語られていること
法律上は問題がないとして、では実際にはどうなのか。
保健師は女性が大多数を占める職種です。市区町村や保健所に配置されている保健師の中で、男性は少数にとどまります。自治体によっては、採用実績が近年になって初めて生まれたところもあります。
これまで川崎市に勤めている保健師は女性でしたが、今年、市職員としてはじめて3名の男性保健師が誕生しました。そのおひとり、三島さんにお話を伺いました。一般的なイメージでは性別が固定化された印象のある保健師という職業の実際や、これから社会に出る中高生へのアドバイスについてお話してくださいました。 出典: scrum21.or.jp
政令指定都市であっても、市職員として男性保健師が採用されたのが近年になってからというケースがある。この事実は、2つのことを示しています。1つは、これまで男性が少なかったという現実。もう1つは、状況が現在進行形で変わっているということです。
自治体ごとの偏りも大きいようです。ある自治体では複数名が在籍している一方で、隣の自治体には1人もいない、ということが起こります。
三橋さん:多様性と言われている今日でも、男性保健師の数はまだまだ少ないと感じますね。茅ヶ崎は5人いるのでとても多い方だと思いますが、周囲の話を聞いていると1人いるかいないかというところもあります。 出典: public-connect.jp
同じ自治体に5人いる地域もあれば、1人いるかいないかという地域もある。つまり、応募先を選ぶときに「そこに男性保健師の前例があるかどうか」は、環境を推し量る材料になります。前例のある自治体は、受け入れの体制や周囲の慣れという点で、入りやすい可能性が高い。
では、実際に働いている方は職場でどう感じているのか。同じ取材では、次のように語られています。
女性保健師のほうが経験が長い方も多く、人数自体も多いので勢いに圧倒されてしまうということはあります(笑)が、男性だから大変とか、何かに気を使うといったことは特にないですね。逆に、男性だから何かがいいといったものでもないと思っています。強いて言えば、男性を相手にした保健指導とかだと、説明に入りやすいというか、何か男性保健師ならではの雰囲気等は出せているのかもしれないですね。 出典: public-connect.jp
ここで注目したいのは、「男性だから大変ということはない」という部分と、「男性を相手にした保健指導では説明に入りやすい」という部分の両方です。過度に不利でもなければ、過度に有利でもない。ただ、対象者との相性という点で活きる場面はある。冷静な自己評価だと感じます。
保健師の資格を取るまでの道筋
ここからは資格の話です。保健師になるには、看護師の資格が前提になります。ここを知らずに進路を考えている方が意外といます。
保健師の免許を得るには、保健師国家試験に合格したうえで、看護師国家試験にも合格している必要があります。保健師の試験だけに受かっても免許は交付されません。つまり、看護と保健の両方を修めることが要件です。
そのうえで、教育課程には主に次のルートがあります。
1つめは、看護系の4年制大学で、看護師の課程と保健師の課程を並行して履修する方法です。卒業年次に両方の国家試験を受験できるため、最短で資格に到達します。ただし、大学によっては保健師課程の履修に定員が設けられており、学内選抜を通る必要があります。この点は志望校の要項で必ず確認してください。
2つめは、看護師の資格を取得したうえで、保健師養成課程のある学校に進む方法です。大学の編入学、保健師助産師看護師の養成所、大学院の専攻など、複数の受け皿があります。すでに看護師として働いている方が保健師を目指す場合は、このルートが中心になります。
3つめは、看護系の大学院で保健師の課程を持つところに進む方法です。研究と実務の両方に関心がある場合の選択肢です。
どのルートでも、実習が必須になります。地域での家庭訪問、健康教育、産業保健の現場など、実習先での経験が資格の土台になります。実習期間は学校に通う必要があるため、働きながら取得する場合はスケジュールの調整が最大の課題になります。
なお、養成課程の定員や履修条件は年度によって変わります。募集要項は毎年更新されるため、数年前の情報をそのまま信じないでください。志望校に直接問い合わせるのが確実です。
注意点を1つ挙げておきます。保健師の資格を取っただけでは、保健師として働けるとは限りません。行政保健師になるには自治体の採用試験を通る必要がありますし、産業保健師には企業の採用枠を通る必要があります。資格は入口の条件であって、それだけで職が確保されるわけではない。ここは冷静に見ておいてください。
働ける場所は大きく4つに分かれる
保健師の職場は、性質がかなり異なります。どこを目指すかで、必要な準備も変わります。
行政保健師
市区町村や保健所、都道府県に地方公務員として勤務する形です。保健師と聞いて多くの人が思い浮かべるのがこれでしょう。
業務は幅広く、母子保健(乳幼児健診、家庭訪問)、成人・高齢者の健康づくり、精神保健、感染症対策、難病相談、地域包括ケアの調整などを担当します。異動があるため、数年ごとに担当領域が変わることが一般的です。
男性が働くうえで実感として語られやすいのは、精神保健や生活習慣病の保健指導、災害対応、地域の関係機関との調整といった領域です。一方、母子保健の家庭訪問では、訪問先の状況によって配慮が必要になる場面があります。ここは後の注意点の項で改めて整理します。
産業保健師
企業に所属し、従業員の健康管理を担う形です。健康診断の事後措置、保健指導、メンタルヘルスの一次対応、長時間労働者への面接勧奨、健康経営の施策づくりなどを担当します。
労働安全衛生法に基づく事業者の健康管理義務を、現場で支える役割と言い換えられます。制度の細かい要件は改正があるため、厚生労働省の資料で最新の内容を確認してください。
産業保健の分野は、対象者に男性が多い事業所が少なくありません。製造業、建設業、運輸業などでは、男性の従業員が中心になります。先ほどの引用にあった「男性を相手にした保健指導では説明に入りやすい」という感覚は、この領域でとくに活きる可能性があります。
産業保健師を目指す道筋については、看護師が産業保健師を目指すための資格と採用のポイント【2026年版】に、必要な準備と選考で見られる点がまとまっています。行政とは求められる力が違うので、目指す前に読んでおくと方向が定まります。
学校保健師
大学や専門学校の保健室、学生相談の部門に所属する形です。学生の健康管理、健康診断の運営、感染症対策、心身の相談対応を担当します。小中高の養護教諭とは資格の位置づけが異なるので、混同しないでください。養護教諭になるには教員免許が必要です。
病院・施設の保健師
医療機関で、退院支援、地域連携、健診部門、人間ドックの保健指導などを担当する形です。臨床の知識をそのまま活かしやすい領域です。
病院の看護師から他の職種に移る選択肢の全体像については、病院看護師からの転職先|一般企業・保健師・訪問看護の選択肢で比較されています。保健師だけを見て決める前に、他の選択肢と並べて見ておくと判断しやすくなります。
行政と産業、それぞれの一日の流れ
働く場所の違いは、一日の過ごし方に一番よく表れます。イメージを具体的にしておきましょう。
行政保健師の場合、朝は庁舎に出勤して、その日の訪問予定と相談予約を確認するところから始まります。午前は乳幼児健診の会場に入る、あるいは家庭訪問に出る。午後は窓口や電話での相談対応、関係機関との会議、健康教室の準備といった業務が入ります。夕方に記録をまとめて終業、という流れが基本形です。
特徴は、予定どおりに進まないことが日常だという点です。緊急性の高い相談が入れば、その日の計画は組み替えになります。感染症の発生、虐待が疑われる通報、精神保健に関する緊急の対応。こうした割り込みが入る前提で動くため、優先順位を素早く判断する力が求められます。
もう1つの特徴は、扱う年齢層と課題の幅が広いことです。午前に乳児の発達を見て、午後に高齢者の介護予防を担当する、ということが普通に起こります。異動によって担当領域が変わるため、数年ごとに新しい分野を学び直すことにもなります。飽きにくい一方で、専門を1つに絞りたい人には向きません。
産業保健師の場合は、事業所の勤務時間に沿った動きになります。朝は健康診断の結果データの整理や、面接指導の準備から始まることが多い。午前から午後にかけて、保健指導や面談の枠が入ります。長時間労働者への面接勧奨、休職者の復職に向けた面談、メンタル不調の相談などが主な内容です。
会議も少なくありません。衛生委員会、人事部門との打ち合わせ、産業医との連携。健康施策を企画して社内に提案する場面もあります。行政と比べると、対象者が「その会社の従業員」に限定される分、同じ人と長期的に関わることになります。
この「継続して関わる」という点が、行政との大きな違いです。行政は地域全体が対象で、関わりが一時的になることも多い。産業保健は、同じ人の健康状態を年単位で追いかけます。どちらの関わり方が自分に合うかは、実習や見学の段階で感じ取れる部分があります。
なお、どちらの職場でも記録と文書作成の比重は高くなります。相談記録、訪問記録、報告書、計画書、健康教育の資料。臨床の看護記録とは書き方の作法が違うため、ここに慣れるまで時間がかかったという声はよく聞きます。
資格取得までの、現実的な計画の立て方
置かれている状況によって、取り方は変わります。3つのパターンに分けて整理します。
高校生・大学進学前の場合
最短ルートは、保健師課程を持つ4年制の看護系大学に進学することです。在学中に両方の課程を履修し、卒業年次に看護師と保健師の国家試験を受ける形になります。
ここで注意したいのが、保健師課程が選択制になっている大学が多いという点です。学年の途中で成績や面接による選抜があり、全員が履修できるとは限りません。志望校を選ぶ段階で、保健師課程の定員と選抜方法を必ず確認してください。「保健師も取れる大学」と書かれていても、実際には限られた人数しか進めないケースがあります。
また、大学によっては保健師課程を大学院に置いている場合もあります。学部で取れるのか、進学が前提なのか。ここは入学前に確認すべき最重要事項の1つです。
看護学生・新人看護師の場合
すでに看護の道に入っている場合、臨床を数年経験してから保健師課程に進むという選択肢が現実的です。
実際、この順序には利点があります。臨床経験があると、保健指導の場面で説得力が変わりますし、採用選考でも経験が評価されます。特に産業保健師では、臨床経験が実質的な前提として扱われることが少なくありません。
一方で、働きながらの取得は簡単ではありません。保健師課程には実習が必須で、平日の日中に長期間拘束されます。通信教育だけで完結する形は用意されていないため、就労との両立には休職や退職を伴うことが多い。貯蓄と生活の見通しを立ててから動いてください。
社会人経験を経て目指す場合
看護の資格を持たないところから始める場合、看護師の資格取得から積み上げることになります。期間は長くなりますが、道は開かれています。
このルートで重要なのは、年齢の要件を先に確認しておくことです。行政保健師の採用試験には年齢の上限が設けられていることが多く、資格を取り終えた時点で受験できる自治体が限られる、という事態が起こり得ます。社会人経験者枠を設けている自治体もあるので、目指す段階で複数の自治体の募集要項を比べておくと、計画の精度が上がります。
産業保健師については、年齢の上限を明示しない求人も多く、社会人としての経験が評価される場面があります。前職での業務知識、たとえば人事や労務の経験があれば、産業保健の現場で直接活きます。
おすすめできる進み方は、目的によって変わる
地域全体の健康づくりに関わりたいなら行政保健師、働く人の健康を継続して支えたいなら産業保健師、という分け方が基本になります。
安定性を最優先するなら行政、専門性を深めて評価を受けたいなら産業保健、というのが実感に近い整理です。ただし、行政から産業へ、産業から行政へ移る人もいます。最初の選択が最後の選択ではありません。
正直なところ、保健師は求人数が多い職種ではないので、「どちらか一方しか見ない」という進め方は機会を狭めます。並行して情報を集め、条件の合うほうから入る。この柔軟さを持っておくほうが、結果的に希望に近づきやすくなります。
男性であることがメリットになる場面
「男性ならではの強みはありますか」と聞かれることがあります。過大に語るつもりはありませんが、実際に活きる場面はあります。
1つめは、対象者が男性の場合の保健指導です。生活習慣病の指導、禁煙や飲酒に関する相談、メンタルヘルスの初期対応など、話しづらさを感じる方が一定数います。同性のほうが話しやすいと感じる対象者にとっては、選択肢が増えることになります。前掲の取材でも「説明に入りやすい」という表現で語られていました。
2つめは、選択肢が増えること自体の価値です。保健指導は、担当者との相性で成果が変わります。男性の保健師がいる職場では、対象者が担当者を選べる余地が生まれます。組織としての対応力が上がる、と言い換えられます。
3つめは、父親への支援です。育児期の相談は母親に向けたものが中心になりがちですが、父親側の相談の受け皿は不足しがちです。育児休業を取得する男性が増えている状況を考えると、この領域は今後広がる可能性があります。
4つめは、災害時や身体的な負荷のかかる業務です。避難所の運営支援、被災地での巡回、重量物の扱いを伴う場面など、人手の性質として求められることがあります。ただし、これを前面に出すと「力仕事担当」に固定されるリスクもあるので、バランスは必要です。
5つめは、少数であること自体が記憶に残るという点です。地域の関係機関、企業の担当者、対象者からは覚えられやすい。関係づくりの入口としては有利に働く面があります。
ただし、これらはあくまで「場面によっては活きる」という話です。前掲の取材でも「男性だから何かがいいといったものでもない」と語られていました。性別を強みの中心に据えるのではなく、専門性を土台にしたうえで、活きる場面では活かす。この順序が健全だと考えます。
注意しておきたい点とデメリット
良い面だけを書くのはフェアではないので、注意点も整理します。
母子保健の家庭訪問での配慮
行政保健師の業務には、乳児のいる家庭への訪問が含まれます。訪問先が母親のみの在宅である場合、対象者側が男性の訪問に不安を感じるケースがあります。
自治体によっては、訪問の際に2人で伺う運用、事前に担当者の性別を伝える運用など、配慮の仕組みを設けているところがあります。応募前に、その自治体がどのような運用をしているかを確認しておくとよいでしょう。これは差別の話ではなく、対象者の安心を確保するための実務上の設計です。
相談できる同性の先輩が少ない
職場に男性保健師が自分だけ、という状況は珍しくありません。業務上の相談は同僚にできても、キャリアの悩みや、男性であることに関連する場面での立ち回りについて、経験者に聞けないことがあります。
対策としては、他自治体や他企業の男性保健師とつながる場を持つことです。職能団体の研修会、地域の連絡会、オンラインのコミュニティなど、外に接点を作っておくと孤立を防げます。
更衣室や当直の設備
女性が大多数の職場では、施設の設計が女性中心になっていることがあります。更衣室、仮眠室、当直の運用など、細かい部分で調整が必要になる場合がある。面接や見学の際に確認しておくと、入ってから困りません。
求人数そのものが多くない
保健師の採用枠は、看護師と比べて明らかに少なくなります。行政保健師は自治体ごとの採用人数が限られており、産業保健師も企業の規模によっては欠員が出たときにしか募集が出ません。
つまり、資格を取ってもすぐに希望の職場に入れるとは限らない。取得と就職の間にタイムラグがあることを前提に、計画を立ててください。
収入面での変化
臨床の看護師から保健師に移る場合、夜勤手当がなくなる分、収入が下がることがあります。勤務時間や休日の条件は改善する一方で、額面は減る可能性がある。ここは家計の見通しと合わせて判断する必要があります。
年収と待遇をどう見るか
年収の考え方を整理します。
行政保健師は地方公務員なので、給与は各自治体の給与条例に基づいて決まります。基本給は経験年数と学歴に応じた級と号給で決まり、地域手当、扶養手当、住居手当などが加算される仕組みです。つまり、個人の交渉で決まるものではなく、制度として決まっている。この透明性は利点です。
具体的な金額は自治体ごとに条例で定められており、多くの自治体が給与や定員の状況を公表しています。応募を検討している自治体名と「給与」で検索すれば、公表資料にたどりつけます。求人サイトの推定額ではなく、この一次情報を見てください。
産業保健師の場合は、企業の給与体系に従います。事業所の規模、業種、担当する範囲によって幅が出ます。健康経営の推進役として企画から関わるポジションと、健診の事後措置を中心に担当するポジションでは、求められる力も待遇も変わります。
夜勤手当がなくなる点は、先ほど触れたとおりです。臨床で夜勤を多く入れていた方ほど、額面の差を感じやすい。ただし、時間あたりで考えると評価は変わります。生活リズムが安定し、休日が読めるようになることの価値を、金額だけでは測れません。
もう1つ、長期の視点も入れてください。行政保健師は勤続年数に応じて給与が上がる設計であり、退職金や年金の面でも安定しています。一方で、大きく跳ねることは少ない。産業保健師は企業次第で幅が大きく、健康経営の中核を担うポジションに就けば評価が上がる余地があります。どちらが良いかではなく、どちらの形が自分の計画に合うかで選んでください。
採用で見られるポイントと、転職の進め方
採用選考で何が見られるのかを整理します。
行政保健師の採用は、自治体の職員採用試験を通る形になります。多くの場合、教養試験または専門試験、論文、面接という構成です。受験資格に年齢の上限が設けられていることが多く、この上限は自治体によって差があります。社会人経験者枠を設けている自治体もあるので、募集要項を複数の自治体で比べてみてください。
面接で見られるのは、専門知識よりも「地域の課題をどう捉えているか」です。志望する自治体の高齢化率、健康課題、実施している事業を事前に調べておくと、話に具体性が出ます。公表されている健康増進計画や地域福祉計画は、自治体のサイトで読めます。
産業保健師の採用では、これまでの臨床経験をどう業務に接続できるかが問われます。たとえば循環器や糖尿病の病棟経験があるなら、生活習慣病の保健指導に直接つながります。精神科の経験があれば、メンタルヘルスの一次対応で活きます。経験を「そのまま書く」のではなく、「応募先の業務にどう使えるか」に翻訳して書くのがポイントです。
転職活動の進め方としては、行政と企業を並行して見るのが現実的です。行政の採用は年に1回程度と時期が固定されているのに対し、企業の募集は通年で不定期に出ます。行政の試験を待つ間に企業の求人を見ておく、という形が無理のない進め方になります。
なお、退職や転職の際には、雇用契約の内容と就業規則を必ず確認してください。退職の申し出の時期、有給休暇の残日数、競業に関する定めなど、後からもめる点はある程度決まっています。契約書を読んで分からない箇所があれば、都道府県の労働相談窓口が無料で相談を受け付けています。深刻な争いになりそうな場合は、弁護士に相談してください。この判断は早いほうが選択肢が残ります。
副業やツールを含めた、キャリアの広げ方
保健師の資格と経験は、本業以外にも活かせます。
公務員の場合は、副業に関して法律と各自治体の規則で制限があります。原則として営利企業への従事には許可が必要であり、無許可で行うと処分の対象になります。つまり、「やってよいかどうか」を自分で判断せず、必ず所属の人事部門に確認してから動いてください。ここは注意点として強調しておきます。
企業に勤める産業保健師の場合は、就業規則の定めによります。副業を認めている企業も増えていますが、届出が必要なケースが大半です。保健師が取り得る選択肢の全体像は、保健師の副業事情|行政・産業保健以外の選択肢【2026年版】に整理されています。制度上の制約と、実際にできることの範囲が分かります。
内容としては、健康や医療分野の記事執筆や監修が代表的です。健康情報は正確さが厳しく問われる領域で、資格と実務経験のある人が書く原稿には継続的な需要があります。執筆や編集の仕事の水準感は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認できます。
文書作成の力を客観的に示したい場合は、ビジネス文書検定のような資格が説明材料になります。保健師の業務は、報告書、計画書、健康教育の資料といった文書作成の比重が高い職種でもあるので、この方向の学習は本業にも還元されます。
ツールという観点では、保健指導の記録管理、健診データの集計、健康教育の資料作成といった業務で、表計算や統計の基本操作が日常的に必要になります。データを扱う力があると、事業の効果を数字で説明できるようになり、企画の場面で発言力が変わります。
さらに踏み込んで、健康管理システムの導入や運用に関わる場面も増えています。医療現場でもAIの活用検討が進んでおり、業務の流れを整理して運用ルールを作る仕事が出てきました。この領域の依頼内容はAIコンサル・業務活用支援のお仕事で確認できます。企画やセキュリティ寄りの案件はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事、システムを作る側の案件はアプリケーション開発のお仕事にまとまっています。
技術側の相場観を知っておきたい場合はソフトウェア作成者の年収・単価相場が参考になりますし、ネットワークの基礎を証明するCCNA(シスコ技術者認定)のような資格は、医療情報システムに関わる部署で評価されることがあります。保健師がシステムを作る側に回る必要はありませんが、現場を知る人間が要件を定める側にいる価値は年々上がっています。
市場を長く見てきた立場からの観察
20年この市場を見てきた立場から言うと、少数派の側に立つ職種で長く続いている人には、共通した振る舞いがあります。
自分の属性を主題にしないことです。「男性保健師として」を前面に出し続ける人よりも、専門性の話を続けて、必要な場面でだけ属性が活きる形にしている人のほうが、結果として長く残っています。属性は説明の材料にはなりますが、看板にすると賞味期限が来ます。
そしてもう1つ、運営者として見てきた限りでは、資格職の方が本業以外の仕事を受けるとき、間に何段も入る形か、直接つながる形かで、続き方がまったく違いました。間に人が増えるほど、依頼の意図が薄まり、同じ予算から差し引かれる分が積み重なります。直接つながる形なら、依頼する側は同じ予算でより多く頼めますし、受ける側の手取りも厚くなる。手数料0%という条件が意味するのは、金額の大小ではなく、同じ働きに対する手取りの質が変わるということです。
保健師のように、公的な制度と専門知識の両方を扱える人材は、実は本業以外でも重宝されます。制度の説明を正確に書ける人は限られているからです。ただし、公務員の方は副業の制限が厳格である点を、もう一度確認しておいてください。所属の規則を確認せずに始めるのが、いちばん避けたい進め方です。
最後に、いま進路を考えている方へ。男性であることを理由に保健師を諦める必要は、制度上まったくありません。人数が少ないことは、確かに孤立しやすさという課題を生みますが、同時に、覚えられやすさと、役割を作れる余地の大きさでもあります。
加えて、進路の相談をするときは、相手を選んでください。周囲の「男性は珍しいから難しいのでは」という感想は、根拠のある情報ではありません。確かめるべきは、志望する自治体や企業の募集要項に何が書かれているか、養成課程の要項に何が書かれているか、その2点だけです。制度が認めていることを、周囲の印象で諦めるのはもったいない。
資格を取るまでの期間は短くありませんが、その間に積み上げた臨床の経験は、保健師になったあとの土台としてそのまま活きます。遠回りに見える時間が無駄になることは、この職種に関してはほとんどありません。
そして、迷ったときは制度の原文にあたってください。人の意見は揺れますが、条文は動きません。法律はあなたの味方です。
よくある質問
Q. 男性でも保健師の国家試験を受けられますか?
受けられます。保健師助産師看護師法には保健師の性別要件はなく、男女どちらも受験できます。ただし免許の交付には、保健師国家試験と看護師国家試験の両方に合格していることが必要です。助産師については条文上「女子」と定められているため混同されやすいのですが、保健師とは制度が異なります。
Q. 男性保健師は実際にどのくらいいますか?
女性が大多数を占める職種で、男性は少数にとどまります。自治体による偏りも大きく、複数名が在籍している市がある一方で、1人もいない自治体もあります。政令指定都市でも近年になって初めて男性職員を採用した例が報じられており、状況は少しずつ変わってきています。
Q. 男性が保健師として働くときの注意点は何ですか?
母子保健の家庭訪問では、対象者の安心に配慮した運用が必要になる場合があります。複数名での訪問など、自治体ごとに仕組みが異なるので応募前に確認してください。また職場に同性の先輩がいないことも多いため、他の自治体や企業の保健師とつながる場を外に持っておくと孤立を防げます。
Q. 保健師として働きながら副業はできますか?
公務員として働く行政保健師の場合、営利企業への従事には許可が必要で、無許可の副業は処分の対象になります。必ず所属の人事部門に確認してから判断してください。企業に勤める産業保健師は就業規則の定めによりますが、届出を求められるのが一般的です。自己判断で始めないことが大切です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
関連記事
カテゴリから探す

クラウドソーシング入門
クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド
職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク
副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス
フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

お金・税金
確定申告・節税・経費・ローンなどお金の知識

スキルアップ
プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング
サービス比較・おすすめランキング

AI活用
職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド
市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド
クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア
転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

薬剤師の転職・求人
薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人
介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人
保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人
医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険
生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人
無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース
バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

法律・士業
契約トラブル・士業独立開業・フリーランス新法

シニア・50代
シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ
サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック
暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス
経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材
フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方
子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金
個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド
SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方







