ITストラテジストの年収はどのくらいか|資格を取ったあとの働き方 2026


この記事のポイント
- ✓ITストラテジストの年収相場を
- ✓会社員・コンサル・フリーランスの働き方別に整理しました
- ✓試験の位置づけと有効期限
まず、安心してください。「ITストラテジスト 年収」で検索してこの記事にたどり着いた皆さんの多くは、たぶん次のどれかの状況にいるはずです。試験の受験を検討していて、それに見合うリターンがあるのか知りたい。すでに合格したけれど、社内の待遇が何も変わらず拍子抜けしている。あるいは、40代以降のキャリアの手札としてこの資格が使えるのか判断したい。
先に結論を書きます。ITストラテジストという資格そのものが年収を直接押し上げることは、ほとんどありません。ただし、この資格を持っている人が就いている「仕事の種類」は、日本のIT関連職種のなかで最も年収レンジが高い部類に入ります。つまり資格は報酬の源泉ではなく、報酬の高い椅子に座るための通行証に近いということです。この記事では、その通行証がどこまで効くのか、資格を取ったあとにどう動けば手取りが変わるのかを、できるだけ数字と構造で説明していきます。
私自身は43歳でメーカーを辞めてフリーランスになった人間で、いまは技術文書のライティングと品質管理のコンサルティングを兼業しています。上流工程に近い立場の方と仕事をする機会が多く、ITストラテジスト保持者の方の働き方も何人か近くで見てきました。その現場感も交えながら、良い面だけでなく厳しい面も正直に書きます。
ITストラテジスト試験とは何か、制度上の位置づけを正確に押さえる
年収の話をする前に、この資格が制度上どういう位置にあるのかを整理しておきます。ここを誤解したまま受験判断をすると、期待値がずれます。
情報処理技術者試験の高度区分にあたる国家試験
ITストラテジスト試験は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する情報処理技術者試験のうち、高度試験と呼ばれる区分のひとつです。基本情報技術者試験、応用情報技術者試験の上に位置づけられ、スキル標準ではレベル4に相当します。同じ高度区分にはプロジェクトマネージャ試験、システムアーキテクト試験、ITサービスマネージャ試験、システム監査技術者試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験などがあり、そのなかでITストラテジストは「経営戦略に基づいてIT戦略を策定し、事業に対する投資判断まで踏み込む人材」を対象としています。
これは民間の認定資格ではなく国家試験です。制度の根拠についても法律上の裏づけがあります。
情報処理技術者試験は、情報処理の促進に関する法律に基づいて実施される国家試験であり、情報処理に関する業務に従事する者の知識および技能の向上を図ることを目的として位置づけられている。 出典: e-gov.go.jp
つまり、ベンダーが自社製品の習熟度を測るために作った認定試験とは性格が違います。特定の製品や技術スタックに依存せず、経営とITをつなぐ設計能力そのものを問う試験だという点が、この資格の価値の中核です。
有効期限がなく、更新も年会費も不要
ここは受験を迷っている方に必ず伝えたい点です。ITストラテジスト試験を含む情報処理技術者試験の合格には、有効期限がありません。一度合格すれば、その資格は生涯有効です。更新講習も、登録手数料も、年会費も発生しません。
これは同じIT系の国家資格である情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)とはっきり異なります。登録セキスペは試験合格後に登録が必要で、登録を維持するためには定期的な講習の受講と費用の負担が続きます。この違いは長期のコスト計算に効いてきます。登録セキスペの年収と維持コストの考え方については、情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)の年収と将来性2026|取得メリットを解説で別途詳しく整理していますので、両方を検討している方は比較の材料にしてください。
ベンダー資格の多くも有効期限つきです。ネットワーク系の代表的な認定であるCCNA(シスコ技術者認定)は認定に期限があり、維持には再認定が必要になります。技術の陳腐化が早い領域では合理的な仕組みですが、逆に言えば取り続けるコストが一生ついて回ります。ITストラテジストは取り切りで済む。40代、50代で取得しても、そのあと維持のために時間もお金も奪われないという点は、地味ですが大きな利点です。
試験の構成と難易度
試験は年に1回、春期に実施されます。構成は4部制です。午前Iが多肢選択式、午前IIが分野を絞った多肢選択式、午後Iが記述式、午後IIが論述式、いわゆる小論文です。すべての区分で基準点を超えないと合格になりません。
合格率はおおむね15パーセント前後で推移しています。ただしこの数字は実感より難しく感じられるはずです。理由は受験者層にあります。この試験は実務経験のある社会人がほとんどで、記念受験の比率が低い。母集団のレベルが高いなかでの15パーセントですから、体感的な難易度は数字以上です。
最大の関門は午後IIの論述式です。制限時間内に2000字から3000字程度を手書きで書き切る必要があり、しかも「自分が携わった事例に基づいて、経営課題からIT戦略を導いた過程を説明せよ」といった問われ方をします。知識の暗記では突破できません。事前に自分の職務経験を棚卸しして、複数のパターンで論述できるよう準備しておくことが必須になります。
なお、他の高度区分にすでに合格している場合や、応用情報技術者試験に合格している場合は、一定期間、午前Iが免除されます。免除制度を使えるうちに連続して受験するのが効率的です。
ITストラテジストの年収相場をレンジで捉える
ここからが本題です。ただし最初に注意点をひとつ書いておきます。「ITストラテジストの平均年収は何円」という単一の数字を求めても、あまり意味がありません。この資格は特定の職業に対する業務独占資格ではないため、資格保持者がどの職種に就いているかで報酬が大きくばらつくからです。
資格保持者が就いている職種のレンジ
ITストラテジストの資格が評価されるポジションは、大きく分けて次の4つです。それぞれの年収レンジをおおまかに示します。
| 働き方 | 年収レンジの目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 事業会社の情報システム部門・DX推進部門 | 600万円〜900万円 | 安定性が高い。上限は会社の給与テーブルに依存 |
| SIer・ITベンダーの上流工程 | 650万円〜1,000万円 | 提案・要件定義まで担うと評価が上がる |
| ITコンサルティングファーム | 800万円〜1,500万円 | 成果報酬色が強く、上下の振れ幅が大きい |
| 独立・フリーランス | 案件単価に依存(月額80万円〜180万円が中心帯) | 稼働と単価の掛け算。営業力と人脈が直結 |
この表を見て「思ったより幅がある」と感じた方が多いはずです。そのとおりで、同じ資格を持っていても、事業会社の情報システム部門にいる方とコンサルティングファームにいる方では、年収が倍近く違うことも珍しくありません。
参考までに、IT系職種全般の求人給与を横断的に集計しているサービスとしては求人ボックスの給料ナビなどがあり、職種別の掲載給与レンジを確認できます。実際の求人票に書かれた金額の集計なので、業界団体の平均値よりも肌感に近い数字が拾えます。
厚生労働省が運営する職業情報の提供サイトでも、システムコンサルタントや情報処理技術者に関する職業情報が公開されています。制度側の統計と求人側の実額の両方を見ておくと、相場観の解像度が上がります。公的な統計は厚生労働省のサイトから確認できます。
資格手当と一時金の実態
「合格したら手当がつくのか」という質問はよく受けます。実態を正直に書くと、次のようになります。
大手SIerや通信系企業では、高度区分の合格に対して合格報奨金を支給する制度を持っているところが多くあります。金額は企業によりますが、一時金として5万円から30万円程度、月次の資格手当として5000円から2万円程度というレンジが一般的です。年間に換算すると6万円から24万円といったところで、正直に言えば、これだけを目当てに数百時間を投下するのは割に合いません。
一方で、事業会社の情報システム部門や中小のIT企業では、そもそも資格手当の制度自体が存在しないケースも多い。合格しても社内では何も起きなかった、という声を聞くのはこのパターンです。
ではなぜ取る価値があるのか。理由は手当ではなく、配置と転職市場にあります。公共系や金融系の大規模案件では、提案時に「高度区分の有資格者を体制に何名配置する」ことが加点要素や要件になる場合があります。つまり、有資格者は上流の体制表に載る。体制表に載るということは、単価の高い工程にアサインされるということです。この経路の方が、月1万円の手当よりはるかに大きく年収に効きます。
なぜ資格だけでは年収が上がらないのか
ここは厳しい話になりますが、避けて通ると判断を誤るので書きます。
資格は「入口の証明」であって「成果の証明」ではない
ITストラテジストが評価するのは、経営課題を出発点にしてIT投資の方向性を描ける思考の型です。試験に合格したということは、その型を持っていることの証明になります。しかし発注側が最終的に対価を払うのは、型ではなく成果です。
具体的には、次のような問いに答えられるかどうかで報酬が決まります。どの業界のどんな規模の企業で、どういう経営課題に対して、どんなIT戦略を提案し、その結果として何がどう変わったのか。この問いに実例で答えられる人は、資格の有無にかかわらず高く評価されます。逆に、資格はあるが実例が語れない人は、書類選考は通っても面談で止まります。
私が現場で見てきた限りでは、合格後に年収が明確に動いた方には共通点がありました。合格を「勉強の終わり」ではなく「棚卸しの機会」として使っていたことです。論述試験の準備で自分の職務経験を構造化して書き出す作業を、そのまま職務経歴書と提案資料の素材に転用していた。試験勉強で作った論述のストックが、そのまま転職や案件獲得の武器になっていたわけです。逆に、参考書の暗記だけで合格した方は、合格証書は手に入れたものの語れる素材が増えていないので、その後が伸びにくい。
年収が動く3つの条件
資格取得後に報酬が実際に変わるかどうかは、次の3つのどれかを満たしているかでほぼ決まります。
1つ目は、業界知識の深さです。ITストラテジストの仕事は、経営課題からITの打ち手を導くことです。したがって「その業界の経営課題を理解しているか」が価値の源泉になります。製造業の生産管理、金融のリスク管理、医療の診療報酬、物流の配車最適化。ドメイン知識のない戦略提案は、一般論の域を出ません。IT側のスキルよりも、むしろこちらの方が希少性を生みます。
2つ目は、意思決定層と直接話した経験です。役員会や経営会議で説明した経験があるかどうかで、任される仕事の高さが変わります。部長止まりで完結する仕事と、経営に対して投資判断を仰ぐ仕事では、報酬水準が明確に違います。
3つ目は、実装まで見届けた経験です。戦略を描いただけで現場が動かなかった案件と、実際にシステムが稼働して業務が変わった案件では、語れる説得力がまったく違います。上流だけを渡り歩いてきた人より、下流の泥臭さを知っている人の方が、最終的に信頼されます。この点で、アプリケーション開発のお仕事のような実装側の経験を持っていることは、上流に上がったあとにむしろ効いてきます。開発の現場感覚を持った戦略担当は、絵に描いた餅を出さないからです。
資格を取ったあとの働き方4パターンを具体的に見る
年収レンジの表で示した4つの働き方を、もう少し掘り下げます。どこに身を置くかで、同じスキルでも手取りが変わるからです。
パターン1: 事業会社の情報システム部門・DX推進部門
自社のIT戦略を内側から担う道です。年収レンジは600万円から900万円程度が中心で、大手事業会社の管理職クラスになれば1000万円を超えることもあります。
利点は安定性です。事業会社のIT部門は景気の波を受けにくく、労働時間もコンサルティングファームに比べれば穏やかです。家庭の事情で無理が効かない時期には、この選択は合理的です。
一方で、上限は会社の給与テーブルに規定されます。どれだけ成果を出しても、非IT企業の情報システム部門は「コストセンター」と見なされがちで、営業部門より高い給与テーブルが用意されていることは稀です。年収の伸びしろを求めるなら、この構造を理解したうえで動く必要があります。
なお近年は、この領域で生成AIの活用推進を担当する枠が急増しています。全社のAI活用方針を策定し、部門ごとの業務にどう落とし込むかを設計する役割です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、こうした業務活用支援がどんな依頼として市場に出ているかが整理されています。ITストラテジストの試験範囲である経営戦略とIT投資の考え方は、この領域とほぼ完全に重なります。資格の射程が最も伸びている分野だと言っていいでしょう。
パターン2: SIer・ITベンダーの上流工程
提案、要件定義、グランドデザインを担う道です。年収レンジは650万円から1000万円程度。
ここでは資格が最も直接的に効きます。前述したとおり、公共系や大規模案件では有資格者の配置が加点や要件になることがあり、体制表に名前が載ること自体が価値になるからです。社内でも上流アサインの優先度が上がりやすい。
ただし注意点があります。多重下請け構造の下層にいる場合、資格を取っても単価が上がらないことがあります。元請けと下請けの間で単価が決まっているため、個人のスキルが価格に反映されにくいのです。この構造から抜け出す方法については、SES脱出→フリーランスのロードマップ2026|年収を1.5倍にする具体的手順で、契約形態の変え方まで含めて手順を整理しています。同じ仕事をしていても、契約の位置が変わるだけで手取りが変わるという話です。
パターン3: ITコンサルティングファーム
年収レンジは800万円から1500万円程度と、選択肢のなかで最も高い水準です。パートナークラスになればさらに上があります。
ただし、この道は誰にでも勧められるものではありません。稼働時間が長く、成果に対する要求水準が高い。プロジェクトごとに客先も業界も変わるため、常に新しいドメインを短期間でキャッチアップし続ける体力が要ります。40代以降で家庭に事情がある方が未経験から飛び込むと、報酬以上のものを失いかねません。
逆に、特定業界での実務経験が長い方が、その業界特化のコンサルタントとして入る形なら、年齢はハンデになりません。むしろ現場を知っていることが強みになります。この場合、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のような領域横断の案件で、業界知識とIT戦略の両方を持つ人材として重宝されます。
パターン4: 独立・フリーランス
案件単価は月額80万円から180万円が中心帯です。上流のIT戦略コンサルティング案件では、これより上のレンジもあります。
ただし、フリーランスの年収を計算するときは、額面をそのまま受け取らないでください。ここが会社員との最大の違いです。
まず、稼働できない月があります。案件の切れ目、体調不良、家族の事情。会社員なら有給休暇で吸収できるものが、そのまま収入減になります。年間の稼働率を10か月と見積もるのが現実的なところです。
次に、社会保険料の全額自己負担があります。厚生年金から国民年金に変わることで将来の受給額も下がります。さらに、経費として認められない支出も出てきます。
そして最も見落とされがちなのが、仲介手数料です。エージェント経由で案件を取る場合、支払われる報酬から一定割合が引かれます。月額100万円の案件でも、手数料が20パーセントなら手元に残るのは80万円です。年間にすれば240万円の差になります。この点は後半でもう一度触れます。
40代・50代でITストラテジストを取る意味はあるのか
ここは私自身が当事者だった話なので、正直に書きます。
私が会社を辞めたのは43歳のときでした。住宅ローンはまだ20年残っていて、子どもは中学と小学校。妻には「大丈夫なの」と何度も聞かれました。あのとき唯一の支えになったのは、退職の1年前から在宅で仕事を受け始めていて、収入がゼロからのスタートではなかったことです。
同じことが資格にも言えます。40代、50代でITストラテジストを取る価値は、若手とはまったく違うところにあります。
若手にとっての意味と、中高年にとっての意味は逆
20代、30代の技術者にとって、この資格は「これから上流に行きます」という意思表示です。実務経験がまだ足りないぶん、ポテンシャルの証明として機能します。
対して40代以降の方にとっては、逆です。すでに持っている実務経験を、外部の第三者機関が「この人の考え方は体系立っている」と保証してくれる装置になります。20年の実務経験は、社内では通用しますが、社外に出た瞬間に「それはあなたの会社での話でしょう」と見られます。国家資格は、その経験に共通言語のラベルを貼ってくれます。
そして有効期限がないという特性が、ここで効いてきます。50歳で取得しても、70歳まで働くなら20年使えます。更新コストがゼロなので、取得にかかった時間が減価しません。維持費のかかる資格を50代で取るのとは、投資の性質が根本的に違います。
論述試験は中高年に有利という現実
もうひとつ、実務的な話をします。午後IIの論述試験は、経験の蓄積がある人ほど有利です。「自分が携わった事例を挙げて論じよ」という設問形式である以上、引き出しの数がそのまま得点力になります。若手が参考書の事例を借りて書くのに対し、経験者は自分の言葉で書けます。採点者は現場の文章とテンプレートの文章を見分けます。
ただし落とし穴もあります。経験が豊富な方ほど、設問が求めていることではなく、自分が語りたいことを書いてしまう傾向があります。書きたい武勇伝ではなく、設問の要求に沿った構造で書く。これは訓練が必要です。文書の構造を整える力そのものを鍛えたい方には、ビジネス文書検定のような、文書の型を学ぶ資格の勉強が意外に効きます。私自身、技術文書のライティングを本業にするようになってから、論理構造の型を意識的に学び直した経験があります。何を先に置き、何を根拠として添えるか。この順序の設計だけで、同じ内容でも伝わり方がまるで変わることを実感しました。
資格を活かして実際に収入を動かす手順
「取ったあと何をすればいいのか」に具体的に答えます。順番が重要です。
ステップ1: 論述の素材を職務経歴書に転写する
試験勉強で作った論述のストックは、そのまま職務経歴書の素材になります。合格した直後、記憶が新しいうちにやってください。課題、打ち手、結果という構造で3本から5本の事例を文章化しておくと、その後の転職活動でも案件面談でも、そのまま使えます。
ステップ2: 社内で上流の仕事を取りに行く
いきなり外に出る必要はありません。まず社内で、要件定義や企画に関わるポジションに手を挙げます。資格があることは、上司に対して配置転換を交渉する材料になります。ここで実績を作ってから外に出るほうが、リスクが低い。
ステップ3: 副業で小さく市場価値を試す
これが私が最も勧めたいステップです。いきなり独立せず、本業を続けたまま、外部の仕事を小さく受けてみる。IT戦略の助言、システム導入の相談対応、要件定義の支援。稼働時間の短いスポット案件から始められます。
なぜこれが重要かというと、社内評価と市場評価は一致しないからです。社内で高く評価されていても市場では平凡なこともあれば、その逆もあります。実際に外部から仕事を受けてみて初めて、自分のどのスキルに値段がつくのかが分かります。私も退職の1年前から在宅で仕事を受け始めましたが、意外だったのは、自分が武器だと思っていた技術知識よりも、「難しい内容を関係者に分かるように説明できること」の方が高く評価されたことでした。市場に出さないと、これは分かりません。
ステップ4: 収入の柱が複数になってから判断する
本業だけ、あるいは独立後の1社だけに依存する状態は、どちらも危険です。副業でも独立後でも、複数の取引先を持つことが安定につながります。私が独立を決断できたのも、退職前の段階で外部の収入がある程度積み上がっていたからです。ゼロからの独立ではなかった。これが皆さんに一番伝えたいことです。準備さえすれば、40代からでも遅くありません。
他資格・他スキルとの組み合わせで価値が跳ねる
ITストラテジスト単独よりも、組み合わせで希少性が生まれます。
技術系の資格と組み合わせる
ネットワークやセキュリティの実装レベルの知識があると、戦略提案の解像度が上がります。「クラウド移行を推進します」という提案に、ネットワーク構成やセキュリティ要件まで踏み込んで具体性を持たせられるかどうかで、提案の説得力が変わります。前述のCCNA(シスコ技術者認定)のようなインフラ系の認定や、セキュリティ領域の国家資格を併せ持つ人は、戦略と実装を橋渡しできる人材として重宝されます。
業界資格と組み合わせる
異業種の国家資格とIT戦略の組み合わせは、さらに希少です。たとえば建設や不動産の領域では、業界固有の資格を複数持つことで独立の選択肢が広がる構造があります。この考え方は測量士・土地家屋調査士のダブルライセンス戦略2026|年収と開業の可能性で詳しく扱っていますが、資格を掛け算で捉える発想はIT領域でもそのまま通用します。金融、医療、製造といったドメインの資格や実務経験とITストラテジストを組み合わせると、代替の効かないポジションが作れます。
発信力・文章力と組み合わせる
見落とされがちですが、書ける人は強い。IT戦略の仕事は、最終的に文書で意思決定者を動かす仕事です。提案書、投資稟議、報告書。これらの質が受注率と評価を決めます。技術系ライティングの市場相場については著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種としての水準が確認できますが、専門知識を持つ人が書く技術文書は、一般的なライティングとは別のレンジで評価されます。
運営者として見てきた市場の実感
ここからは、フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場からの観察を書きます。
長く続く方には、はっきりした共通点があります。単発の作業を積み上げるのではなく、「この人に任せると楽だ」という関係を作ることに時間を使っていることです。技術力が飛び抜けている方が長く残るとは限りません。むしろ、レスポンスが読める、前提を確認してから動く、悪い報告を早く上げる。こうした地味な信頼の積み重ねが、継続的な依頼につながっています。ITストラテジストのような上流の仕事はとくにそうで、経営に近い意思決定に関わる以上、能力より先に信頼が問われます。
もうひとつ、額面と手取りの話です。運営者として見てきた限り、フリーランスの収入で最も効くのは単価そのものより「間に何段入っているか」です。仲介が複数入る構造では、依頼者が支払った金額と受け手が受け取る金額の差が大きく開きます。依頼者は高く払っているのに、受け手は薄い。この構造では両方が損をします。
直接取引の場合、この差が生まれません。手数料0%の直接取引では、依頼者は同じ予算でより多くを頼めるようになり、受け手は同じ仕事で手取りが厚くなる。金額の大小の話ではなく、支払われたお金が誰にどう届くかという構造の話です。長く市場を見てきて実感するのは、この構造の差が、1年、2年と続くうちに、生活の余裕としてはっきり現れてくるということです。上流の仕事は単価が高いぶん、手数料の絶対額も大きくなります。月額100万円の案件で手数料が20パーセントなら年間240万円。これは資格手当を何十年分も上回る金額です。年収を考えるなら、単価を上げる努力と同じくらい、契約の経路を見直す価値があります。
職種データから読み解くITストラテジストの立ち位置
最後に、職種ごとの報酬データという客観的な視点から、この資格の位置づけを整理します。
在宅ワークとフリーランスの職種別データを見ると、IT関連職種のなかでも報酬水準には明確な階層があります。実装中心の職種と、要件定義や設計を含む職種、さらに経営課題の解決まで担う職種では、単価の帯が段階的に上がっていきます。ソフトウェア作成者の年収・単価相場で確認できるように、開発職の相場には幅がありますが、その上限付近にいるのは実装だけをしている人ではなく、要件の定義や技術選定の判断まで担っている人です。
ここに、ITストラテジスト試験の価値を考えるヒントがあります。この試験が問うているのは、まさにその「判断する側の思考」です。何を作るかを決める人と、決められたものを作る人では、市場が支払う対価が違う。当たり前のようですが、この境界を意識してキャリアを設計している人は、実は多くありません。
そしてもうひとつ、データから見えるのは、需要の伸びが最も大きいのが「AI活用をどう業務に落とすか」を設計できる人材だということです。ツールを使える人は増えました。しかし、経営課題からAI活用の優先順位を決め、投資対効果を説明し、組織を動かせる人は依然として不足しています。AIコンサル・業務活用支援のお仕事の領域で求められているのは、まさにこの能力です。ITストラテジストの試験範囲は20年以上前から「経営戦略とIT投資」を問い続けてきましたが、その問いがいま最も高い値札をつけられている、というのが2026年時点の市場の状況です。
冒頭に書いたとおり、資格そのものが年収を上げるわけではありません。ただ、資格を取る過程で身につく「経営課題からITの打ち手を導く型」と、それを外部に証明できる国家資格という肩書き。この2つを、実務経験と契約の経路という現実的な条件と組み合わせたときに、初めて手取りが動きます。順番を間違えなければ、40代からでも十分に間に合う道です。
よくある質問
Q. ITストラテジスト試験に有効期限や更新はありますか?
ありません。情報処理技術者試験の合格は生涯有効で、更新講習も年会費も不要です。この点は登録が必要な情報処理安全確保支援士や、再認定が必要なベンダー資格と大きく異なります。維持コストがゼロなので、40代や50代で取得しても投資が目減りしないという利点があります。
Q. 資格を取れば年収は上がりますか?
資格単独で自動的に上がることはほとんどありません。資格手当は月5,000円から2万円程度、合格報奨金も一時金で5万円から30万円程度が一般的です。年収が動くのは、上流工程へのアサインや転職、独立といった配置の変化を伴う場合です。資格は高い椅子に座るための通行証と考えるのが実態に近いです。
Q. フリーランスとして独立した場合の単価はどのくらいですか?
IT戦略や上流工程の案件では、月額80万円から180万円が中心帯です。ただし額面をそのまま年収と考えるのは危険で、稼働できない月、社会保険料の全額自己負担、仲介手数料を差し引く必要があります。年間の稼働を10か月程度で見積もり、手数料の割合も含めて手取りで計算してください。
Q. 未経験からでもITストラテジストは取得できますか?
制度上は誰でも受験できますが、実務経験がないと午後IIの論述試験がかなり厳しくなります。自分が携わった事例に基づいて2,000字から3,000字を論じる形式のため、語れる経験の蓄積がそのまま得点力になるからです。まずは応用情報技術者試験に合格して午前I免除を得つつ、上流工程の実務経験を積むルートが現実的です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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