眼科クリニックへ転職するという選択|前の職場との落差と、決め手

長谷川 奈津
長谷川 奈津
眼科クリニックへ転職するという選択|前の職場との落差と、決め手

この記事のポイント

  • ✓医師転職で眼科を選ぶとき
  • ✓大学病院や総合病院とクリニックでは1日の動き方も任される範囲もまったく違います
  • ✓実態に踏み込んで整理しました

先日、大学病院の眼科から地域のクリニックへ移った方の契約書を拝見する機会がありました。年収は上がっていたのですが、契約書には「管理医師として届出を行う」という一文が入っていて、本人はその意味をほとんど理解していませんでした。これ、知らない人が本当に多いんです。

医師転職で眼科を考えるとき、多くの人が最初に見るのは年収と勤務日数です。求人サイトを開けば、週4日から週5日で年収900万円から2,000万円という表示が並びます。ただ、その数字を並べて比べても、実際にその職場で何が起きるのかは1ミリも分かりません。

結論から言うと、眼科は「どの施設で働くか」によって、同じ専門医資格を持っていても任される範囲が大きく変わる診療科です。この記事では、眼科クリニックという職場の中で何が起きているのか、前の職場との落差はどこに出るのか、そして求人票のどこを見ればその落差を事前に読み取れるのかを、順に整理していきます。

眼科クリニックの1日は、前の職場と何が違うのか

大学病院や総合病院の眼科から移った人が最初に驚くのは、患者数の絶対量です。地域の眼科クリニックでは、1日の外来患者が60人から120人程度になることが珍しくありません。混雑する時期や花粉症のシーズンには150人を超える日もあります。

この人数を、医師1人か2人で回します。単純に割れば、1人あたりの診察時間は3分前後です。大学病院で1人15分かけて説明していた人にとっては、時間感覚がまったく別物になります。

ただ、これは手を抜いているという話ではありません。眼科クリニックの外来は、医師が診察室に座る前に、視力検査、眼圧測定、屈折検査、必要に応じてOCT(光干渉断層計)や眼底写真の撮影が終わっている状態で患者が回ってくる構造になっています。つまり、医師のところに来た時点でデータは揃っていて、医師は所見を確認して判断を下し、次の指示を出す役割に集中します。

この「前段が終わっている」という構造が、前の職場との最大の落差です。総合病院では医師が検査のオーダーを出してから結果が返るまでに時間差がありますが、クリニックでは検査から診察までが同じフロアの中で数分単位で完結します。

もうひとつ、朝の動き出し方が違います。多くの眼科クリニックは午前診療が9時開始で、8時30分には受付が動き始めています。医師の入り時間は8時45分前後という設定が多く、朝のカンファレンスや病棟回診がありません。前の晩に呼び出される可能性もほぼありません。この「呼ばれない」という点が、睡眠時間の回復という意味で最も大きな変化だという声をよく聞きます。

反対に、昼休みは長めに取られている一方で、その時間に手術やレーザー処置が入ることがあります。休憩時間が名目上2時間あっても、そのうち1時間が処置に充てられる運用になっていれば、実質の休みは1時間です。求人票の「休憩120分」という表記だけでは、この実態は見えません。

外来の回転を支えているのは検査体制である

眼科クリニックの働きやすさを決めているのは、実は医師の腕ではなく視能訓練士(ORT)の人数です。ここを見落とすと、転職後に「思っていたのと違う」となります。

視能訓練士は、視力検査、屈折検査、眼位検査、視野検査、OCT撮影などを担当する国家資格職です。この人数が十分に確保されているクリニックでは、医師は診察と判断に専念できます。一方で視能訓練士が1人しかいない、あるいは無資格の助手が検査補助に入っている施設では、医師が検査の指示出しから結果の確認まで細かく関与することになり、1人あたりの拘束時間が伸びます。

目安として、1日の外来が100人規模のクリニックであれば、視能訓練士が3人以上いると外来はスムーズに流れます。1人や2人で同じ人数を受けている場合、待ち時間が伸びて患者からの苦情が増え、その対応が医師に回ってきます。

面接や見学の際には、視能訓練士の人数と、常勤か非常勤かを必ず確認してください。求人票には書かれていないことがほとんどですが、聞けば答えてもらえます。答えを渋られる場合は、それ自体が情報です。

検査機器の構成も、働き方に直結します。OCT、視野計、角膜内皮細胞計測装置、眼軸長測定装置のうち、どれが院内にあるか。眼軸長測定装置がなければ白内障手術の術前計測が外部委託になり、手術の計画立案に別の段取りが必要になります。

この点については、眼科の転職事情をまとめた資料にも次のような指摘があります。

症例経験を多く積んできた専門医であれば、合併症治療のために一般病院からの求人もあります。 屈折矯正手術(レーシック)をはじめ先端技術が日々導入されている領域だけに、医療機関によって設備や導入機器が異なり、取り扱う症例も違ってくるので、転職時には事前確認しておきたいところです。医療機関が望むスキルがあれば、高額報酬もあり得ます。 出典: dr-agent.job-medley.com

設備が違えば扱う症例が変わり、扱う症例が変わればその職場で身につく技術が変わります。年収の数字より先に、この確認をしてください。

手術日がある職場と、ない職場でまるで別の仕事になる

眼科クリニックは、大きく分けて「外来のみ」と「外来プラス手術」の2つに分かれます。求人票の表記でいえば、「外来のみ」「外来・手術」「外来・レーザー治療・オペ」といった書き分けがされています。この1行の違いが、その職場での働き方をほぼ決めます。

外来のみのクリニックでは、1週間の予定が毎日ほぼ同じ形で繰り返されます。午前診、昼休み、午後診という流れが月曜から土曜まで続き、変化が少ない代わりに予定が立てやすい。子どもの送り迎えや介護の都合で時間を固定したい人にとっては、この安定性が最大の価値になります。

手術日があるクリニックでは、週のうち1日か2日が手術枠になります。典型的なのは白内障の日帰り手術で、1日に10件から20件を連続でこなす体制です。1件あたりの執刀時間は10分前後で、その間に次の患者の準備が並行して進みます。

手術日の当日は、朝の点眼開始から術後の確認まで、クリニック全体がその日のためだけに動きます。外来を縮小するか、別の医師が外来を受け持つかのどちらかです。つまり、手術日がある職場では医師が複数いる前提の体制になっていることが多く、医師1人だけの体制で手術日も設けているクリニックは、その日の外来が止まるか、非常勤医師を入れているかのどちらかです。

ここで注意したいのは、手術の執刀を自分がするのか、それとも術前術後の管理だけなのかが求人票からは読み取れないことです。「外来・手術」と書かれていても、実際には院長が全件執刀し、転職者は術前検査と術後診察を担当するという運用は珍しくありません。手術症例を積みたくて移ったのに、執刀の機会がほとんどないという食い違いは、この確認漏れから生まれます。

面接では「年間の手術件数」と「執刀者の内訳」を具体的に聞いてください。年間1,000件の白内障手術を行っている施設でも、そのうち転職者に回ってくるのが50件なのか300件なのかで、3年後の技術はまったく違うところに着地します。

常勤、非常勤、管理医師で背負うものが変わる

ここからは契約の話です。眼科の求人には「管理医師」という言葉が頻繁に出てきます。求人票で「※管理医師」と付いている案件は、年収が200万円から400万円ほど上乗せされていることが多いのですが、この上乗せには理由があります。

管理医師とは、医療法上の管理者として保健所に届け出る医師のことです。つまり、その施設の医療安全、院内感染対策、従業者の監督、診療録の管理といった責任が、法律上その人の名前に紐づきます。何かあったときに行政の窓口になるのも管理医師です。

これは単なる肩書ではありません。医療法第10条は、病院または診療所の開設者に、臨床研修等修了医師に管理させることを義務づけています。つまり、管理医師は法令上の義務を負うポジションです。年収の上乗せは、その責任に対する対価と考えたほうが実態に合っています。

※ 実際に管理医師として届け出た後にトラブルが生じた場合、責任の所在について争いになることがあります。開設者(法人)と管理医師の責任分担について不安がある場合は、契約前に弁護士や医療法務に詳しい専門家に相談してください。

非常勤の場合は、責任の範囲がぐっと狭くなる代わりに、契約の形態に注意が必要です。非常勤医師の契約には「雇用契約」と「業務委託契約」の2種類があり、どちらで結ぶかによって社会保険の扱い、源泉徴収の有無、確定申告の必要性がすべて変わります。

業務委託契約の場合、報酬から源泉徴収されるものの社会保険には加入しません。複数のクリニックで非常勤を掛け持ちする働き方であれば業務委託のほうが合理的なこともありますが、その場合は自分で国民健康保険と国民年金に入る必要があります。手取りの計算を年収の数字だけでしてしまうと、後から差額に驚くことになります。

常勤で1つの施設に勤める場合は、退職金制度の有無、賞与が年収に含まれているかどうかを契約書で確認してください。「年収1,500万円」と書かれていても、賞与込みなのか別なのかで実際の入り方が変わります。契約書に賞与の記載がなければ、それは年俸を12分割で支払うという意味です。

年収の幅が900万円から2,500万円まで広いのはなぜか

求人サイトを眺めると、眼科の常勤求人は年収900万円から2,500万円という広い幅で出ています。同じ診療科でこれだけ開きがあるのは、報酬を決めている要素が複数あるからです。

ひとつめは、手術の有無です。白内障手術を執刀できる医師は、外来のみを担当する医師より高く評価されます。硝子体手術ができる医師はさらに上で、求人票に「硝子体できる医師」と特記される案件は年収1,200万円以上から始まることが多くなります。

ふたつめは、管理医師かどうかです。前の節で触れたとおり、責任に応じた上乗せがあります。年収1,600万円から2,000万円台の案件には管理医師の条件が付いていることが多く、これは純粋な診療能力に対する報酬ではありません。

みっつめは、立地です。都市部の駅前クリニックは応募が集まるため、相場は抑えめになります。反対に、地方で眼科医が不足している地域では、同じ業務内容でも年収が300万円以上高く設定されることがあります。求人票で富山、新潟、愛媛といった地方の案件が年収1,500万円以上で出ているのは、この需給の反映です。

よっつめは、勤務日数です。週4.0日、週4.5日、週5.0日という表記の幅が求人票によく出てきますが、これは0.5日ごとに年収が変わる設計になっています。週4日と週5日で年収差が200万円前後というのが、よくある刻み方です。

つまり、年収の数字だけを並べて比較することには意味がありません。「週5日、手術あり、管理医師、地方」の2,000万円と、「週4日、外来のみ、都市部」の1,100万円は、比べる土俵が違います。自分がどの条件を受け入れられるかを先に決めてから、その条件の中での相場を見るという順番でないと、判断を間違えます。

なお、費用の話も併せて押さえておきたいところです。転職エージェントを使う場合、医師側の費用負担は原則ありません。費用は採用する医療機関が支払う成功報酬で、相場は理論年収の20%から30%程度とされています。この構造上、エージェントは年収が高い案件を勧める動機を持っています。これも知っておいて損はありません。

求人票のどこを見れば、その職場の実態が分かるか

求人票は限られた文字数で書かれているため、書いてあることより「書いていないこと」に情報が詰まっています。読むときのチェックポイントを具体的に挙げます。

まず、「当直」の記載です。眼科クリニックであれば当直はないのが普通ですが、病院の眼科求人では「当直1〜2回/月」「当直免除相談可」といった記載が出てきます。「相談可」という表現は、免除が確定していないという意味です。契約書に免除が明記されていなければ、後から「相談したが認められなかった」という結果になり得ます。

次に、「オンコール」の有無です。求人票で「当直・OCなし」と書かれているOCはオンコールの略です。当直はないがオンコールはある、という職場は実在します。夜間に電話で呼び出される可能性があるかどうかは、生活の質を大きく左右するので必ず確認してください。

3つめに、診療の中身を示す語です。「コンタクト診療」「屈折矯正」「専門外来」「病棟管理」「救急対応」といった語が並んでいるかどうかで、その職場で何をするかが読み取れます。「一般外来・病棟管理・オペ・救急対応」と書かれていれば、それは病院勤務であり、クリニックの働き方とは別物です。

4つめに、「新規オープン」という語です。新規開院のクリニックは設備が新しく、人間関係のしがらみがない反面、患者数がゼロから立ち上がるため、経営が安定するまでの間に運営方針が変わることがあります。年収の保証期間が何年なのかを契約書で確認してください。

5つめに、「関連クリニックとの兼務あり」という記載です。これはグループ内の複数拠点を行き来する勤務形態を意味します。移動時間が勤務時間に含まれるのか、交通費はどう扱われるのかが契約の論点になります。

そして、募集の背景です。前任者がなぜ辞めたのかは、求人票には絶対に書かれていません。面接で「このポジションはいつから空いていますか」「前任の先生はどのくらい在籍されていましたか」と聞くと、多くの場合は正直に答えてもらえます。在籍期間が1年未満で交代が続いているなら、その理由を掘る価値があります。

こうした確認事項を面接の場で漏れなく聞くには、事前に質問を文書化しておくのが確実です。聞きにくい項目ほど、紙に書いて順番を決めておくと、当日に言いそびれることがありません。契約や条件交渉の場面でも、そのメモがそのまま確認の記録になります。

辞めるときと、将来の開業に関わる条項を先に読む

眼科は、勤務医を経て自分で開業する医師が多い診療科です。外来の設備が比較的コンパクトにまとまり、日帰り手術を組み合わせれば診療所の規模でも経営が成り立つからです。だからこそ、眼科クリニックの契約書には、他の診療科ではあまり見かけない条項が入っていることがあります。転職の段階では開業を考えていなくても、ここは読んでおいてください。

近隣での開業を制限する条項

「退職後2年間は、当院から半径5km以内で眼科診療所を開設しない」。こうした一文を競業避止条項と呼びます。クリニック側からすれば、勤務していた医師が近くで開業して患者さんが移ってしまうことを防ぎたい、という事情があります。

つまり、この条項は将来のあなたの選択肢を縛る可能性があるということです。ただし、書かれていればそのまま全部有効になるわけではありません。退職後の競業を制限する取り決めは、職業選択の自由との関係で、制限する期間の長さ、地域の広さ、対象となる業務の範囲、そして制限に見合う代償が支払われているかといった点から、合理的な範囲かどうかが判断されます。範囲が広すぎる条項は、争いになったときに効力が認められないことがあります。

とはいえ、署名した時点では「そういう約束をした」という事実が残ります。争えば無効になるかもしれない、という見通しで署名するより、署名の前に範囲を狭めてもらうほうがずっと安全です。期間を短くする、距離を狭める、管理医師として勤めた場合に限る。こうした修正の相談は、契約前なら普通に受け付けてもらえることが多いんです。

※具体的な条項の有効性については、個別の事情で判断が分かれます。開業の予定がある方は、署名の前に弁護士に契約書を見てもらってください。

退職の予告期間

契約書に「退職の6か月前までに申し出ること」と書かれている場合があります。期間の定めのない雇用契約であれば、民法上は申し入れから2週間で契約を終了できるとされています。一方で、医師が1人か2人の眼科クリニックでは、後任が見つかるまで外来を閉じるわけにいかないという事情があり、長めの予告期間を求められるのが実情です。

ここで気をつけたいのは、1年契約や3年契約のような期間の定めがある契約です。期間の途中で辞めるには、やむを得ない事由が必要とされています。契約期間を何年にするかは、年収の条件と同じくらい重要な項目です。

手術を担当していた患者さんの扱い

白内障手術を執刀した患者さんは、術後しばらく経過を見る必要があります。退職が決まったとき、術後管理中の患者さんを誰に引き継ぐのか、手術予定が入っている患者さんをどうするのか。ここが契約書に書かれていることはまずありませんが、面接で「前任の先生が辞めるときは、手術の予定をどう調整しましたか」と聞いておくと、そのクリニックの引き継ぎの考え方が分かります。

提示された年収が妥当かどうかを確かめたい方は、公的な統計をもとに年齢別の分布をまとめた医師の年収・単価相場と見比べてください。条項で自由を制限される分だけ条件が上乗せされているのか、それとも相場並みの条件で制限だけが付いているのかが見えてきます。

眼科という診療科の入り口が、今どうなっているか

眼科への転科や、専門医資格取得前の入職を考えている場合、市場の入り口の状況を知っておく必要があります。この点について、眼科の求人動向をまとめた資料には次のような記述があります。

眼科専門病院は少なく、コンタクト関連の募集も減少傾向でありながら、人気の高い診療科です。これから技術を磨きたいという医師にとっては競争率が高く、専門医資格を取得していない若手医師にとって入職は狭き門であることが現実です。その場合は、日帰り手術などを行う診療所で技術を磨くという方法もあります。 専門医資格を取得し、手術経験を積んだ後であれば、眼科専門病院に限らず幅広い医療機関からの募集があります。例えば、糖尿病や循環器疾患などの眼合併症治療のため、一般病院や脳神経外科の専門病院でもニーズがあります。 出典: dr-agent.job-medley.com

ここで押さえておきたいのは、入り口の狭さと、資格取得後の選択肢の広さが対になっているという点です。専門医を取る前の段階では選べる職場が限られますが、取得後は一般病院や他科の専門病院まで需要の範囲が広がります。

実際、求人票を見ると「専門医をお持ちでない先生もご相談可能」と特記されている案件が一定数あります。これは裏を返せば、特記がない案件の多くは専門医が前提だという意味です。この特記がある案件は、駅前のコンタクトレンズ診療を中心としたクリニックであることが多く、年収は1,080万円前後から設定されています。

コンタクト診療中心の職場は、業務の型が決まっていて習得が早い一方、手術症例は積めません。ここを技術習得の場と考えると期待が外れます。逆に、生活のリズムを優先したい時期の選択肢としては合理的です。何を取りに行くのかを自分で決めてから選ぶことが重要です。

この「何を取りに行くか」の設計は、年収の見方にも直結します。手術症例を積む職場とコンタクト診療中心の職場では、同じ眼科でも数年後に提示される条件が変わります。目先の額面だけで比べず、その職場で身につく技術が次の交渉材料になるかどうかで判断してください。

前の職場との落差を、どう受け止めるか

大学病院や急性期病院からクリニックへ移った人が、半年ほど経って口にすることがいくつかあります。

ひとつは、症例の幅が狭くなったという感覚です。大学病院では稀な疾患や難症例が集まりますが、地域のクリニックに来るのは白内障、緑内障、糖尿病網膜症、ドライアイ、結膜炎といった日常的な疾患が中心です。学術的な刺激という点では、確実に落ちます。

ふたつめは、研究や教育から離れることです。論文を書く時間もカンファレンスもなくなり、後輩を指導する機会も消えます。この喪失感は、転職前に想像しているよりも大きいという声をよく聞きます。

みっつめは、経営を意識する場面が増えることです。クリニックは事業体であり、患者数と収益が直結します。管理医師になれば、その数字を見る立場に置かれます。診療の判断に経営の視点が入ってくることに違和感を覚える人もいます。

一方で、得られるものも明確です。時間が読めること。夜に呼ばれないこと。休日が休日として成立すること。家族と過ごす時間が確保できること。この4つは、前の職場では手に入らなかったものです。

私が契約の相談を受けていて感じるのは、転職でうまくいく人は「失うもの」を先に言語化しているという点です。年収が上がることや時間が増えることは誰でも数えますが、失う側を数えていない人は、半年後に後悔の形でそれと向き合うことになります。

これは医師に限った話ではありません。会社を辞めて独立した方の相談でも、まったく同じ構造の失敗を何度も見てきました。得るものだけを紙に書いて、失うものを書かない。その紙を持って契約書にサインしてしまう。契約書は、後から「そういうつもりではなかった」と言っても覆せません。だからこそ、サインの前に両方を書き出す時間を取ってほしいと思っています。

市場を長く見てきた立場からの観察と、次の一歩

フリーランスや在宅の仕事の市場を20年近く運営してきた立場から言えば、職種を問わず、長く続く人には共通点があります。単発の仕事をこなす能力ではなく、「この人に任せると手間が減る」という関係を作ることに時間を使っている点です。

医療の現場でも、これは同じように働きます。眼科クリニックで長く重宝される医師は、手術が速い人というより、スタッフが動きやすいように指示を出せる人です。視能訓練士や受付との連携が滑らかであれば、同じ患者数でも現場の疲弊はまったく違います。この「任せると楽になる」という評価は、転職市場では数値化されませんが、職場での居心地と契約更新の条件に確実に反映されます。

もうひとつ、運営者として見てきた限りで言えることがあります。仲介が間に入る取引では、依頼する側が払った金額と、働く側が受け取る金額の間に必ず差が生まれます。この差が小さいほど、依頼する側は同じ予算でより多く頼めるようになり、受け取る側は手取りが厚くなります。金額そのものより、この「手取りの厚さ」という質のほうが、長く働くうえでは効いてきます。医師の転職でも、エージェント経由と直接応募で最終的な条件が変わることがあるのは、同じ構造です。

眼科は、診療科の中でも働き方の選択肢が広い領域です。手術を軸に技術を積む道、外来を軸に生活のリズムを整える道、管理医師として運営に関わる道。どれを選んでも成立します。だからこそ、他人の求人票と比べるのではなく、自分が何を取りに行くのかを先に決めてから探すことが決め手になります。

臨床経験は、常勤の枠の外でも活かせます。医療の知識を持つ人が執筆や監修、相談対応といった形で関わる仕事は着実に増えています。看護師におすすめの在宅ワーク5選|臨床経験を活かす副業【2026年版】では、臨床の現場で培った知識をどう別の形に変換していくかが具体的な職種ごとに整理されています。医師の立場でも、考え方の枠組みとしてそのまま使えます。

契約書に署名する前に、もう一度だけ確認してください。勤務日数、手術の執刀機会、管理医師の有無、当直とオンコール、賞与の扱い、そして辞めるときの手続き。この6つが書面に明記されていれば、あとから争いになる余地はほとんど残りません。法律は、条件を書面にした人の味方です。

よくある質問

Q. 眼科クリニックの常勤医師の年収相場はどのくらいですか?

求人票では週4.0日から週5.0日で年収900万円から2,000万円という提示が中心です。手術を執刀する場合や管理医師を兼ねる場合は1,600万円から2,500万円の案件も出ます。外来のみ、都市部、週4日という条件では1,000万円台前半が現実的な水準です。条件をそろえずに数字だけ比べても意味がありません。

Q. 眼科専門医の資格がなくても転職できますか?

可能です。求人票に「専門医をお持ちでない先生もご相談可能」と特記された案件が一定数あり、コンタクトレンズ診療を中心とした駅前クリニックに多く見られます。ただし手術症例は積めないため、技術習得を目的とするなら日帰り手術を行う診療所を選ぶ必要があります。

Q. 求人票の「外来・手術」と書かれていれば執刀できますか?

書かれていても執刀できるとは限りません。院長が全件執刀し、転職者は術前検査と術後診察のみを担当する運用は珍しくありません。面接で年間の手術件数と執刀者の内訳を具体的に確認してください。年間件数が多くても、自分に回る件数が少なければ技術は積めません。

Q. 管理医師になると何が変わりますか?

医療法上の管理者として保健所に届け出るため、医療安全や院内感染対策、従業者の監督、診療録の管理といった責任が法律上その人に紐づきます。年収は200万円から400万円ほど上乗せされますが、それは責任に対する対価です。開設者との責任分担に不安があれば、契約前に医療法務に詳しい専門家へ相談してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月10日最終更新:2026年9月15日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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