翻訳会社を介さず個人翻訳者と契約する時の要点|守秘義務と納期条項 2026


この記事のポイント
- ✓個人翻訳者と契約する際の守秘義務(NDA)と納期条項の決め方を解説
- ✓翻訳会社を介さず直接依頼する際の費用相場
- ✓情報漏洩を防ぐ実務対応まで発注者目線でまとめました
海外案件の契約書や社内マニュアルを個人翻訳者に依頼したいけれど、機密情報をどう守ればいいか分からない。そんなご相談を最近よく受けます。結論から言うと、個人翻訳者と直接契約する場合でも、翻訳会社に依頼する場合と同等かそれ以上に、守秘義務(NDA)の内容を書面できちんと固めておけば情報漏洩のリスクは十分にコントロールできます。この記事では、個人翻訳者と契約する際に押さえるべき守秘義務の条項、納期条項の決め方、費用相場までを、発注者の立場から具体的に解説します。
個人翻訳者への発注が増えている背景
つまり、なぜ今「個人翻訳者に直接発注する」という選択肢が注目されているのか。まずはその市場背景から見ていきましょう。
近年、越境ECの拡大や海外拠点とのやり取りの増加により、契約書・マニュアル・製品仕様書などの翻訳需要は着実に増えています。経済産業省が公表している通商白書でも、中小企業の海外取引比率の上昇が繰り返し指摘されており、翻訳が必要になる場面は年々増加傾向にあります。
一方で、翻訳会社に依頼すると、コーディネーターの人件費や営業経費が上乗せされるため、実際に翻訳作業をする翻訳者に渡る金額よりも高い金額を発注者が支払うことになります。これ自体は悪いことではありません。品質管理やプロジェクトマネジメントの対価だからです。ただ、単発の文書翻訳や、継続的に同じ翻訳者に任せたい案件では、「間に入る会社がいない分、その分のコストを翻訳者への報酬や納期の融通に回せないか」と考える発注者の担当者様が増えているのが実感です。
個人翻訳者へ直接依頼する場合の相場感は、分野や言語ペアによって幅がありますが、一般的な実務文書(契約書・マニュアル・メール文面など)で英語から日本語なら1文字あたり8円〜15円程度、専門性の高い法務・医療・技術分野では15円〜25円程度が目安とされています。翻訳会社を経由する場合はここに20%〜40%程度のコーディネーション費用が上乗せされることが多く、直接依頼であればその分を翻訳者への適正な報酬や、発注者側の予算圧縮に充てられます。手数料0%で個人と直接つながれるマッチングサービスを使えば、中間マージンを省いた形で契約関係を構築できます。
つまり、直接契約は「安く済ませたい」という単純な話ではなく、「中間コストをどこに再配分するか」という設計の問題なんです。ここを見誤ると、安さだけを追求して品質やセキュリティ管理がおろそかになる、という失敗パターンに陥ります。
個人翻訳者と結ぶべき契約書の基本構成
これ、知らない人が本当に多いんですが、個人翻訳者との契約書は「業務委託契約書」と「秘密保持契約書(NDA)」を分けて作るケースと、1本の契約書にまとめるケースの両方があります。どちらでも法的な効力に差はありませんが、実務上は以下の項目を必ず盛り込んでください。
業務委託契約の必須項目
まず業務委託契約(または発注書)側に必要な項目です。
- 業務内容(翻訳対象の文書名・分野・想定文字数またはワード数)
- 納期(初稿提出日、フィードバック後の修正提出日)
- 報酬額と支払条件(単価・合計金額・支払期日・振込手数料の負担者)
- 検収条件(誰がどのような基準で完成物を確認するか)
- 著作権・翻訳成果物の権利帰属(通常は発注者に譲渡する条項を入れる)
- 契約不適合責任(誤訳や訳抜けがあった場合の修正対応の範囲)
このうち報酬の支払期日については、2024年施行のフリーランス保護新法により、業務委託を行う発注者(特定の要件を満たす事業者)は、成果物の受領日から60日以内に報酬を支払う義務があります。つまり、「検収に時間がかかったから支払いが遅れた」は正当な理由にはならないんです。個人翻訳者との契約でも、この期日を必ず契約書に明記しておきましょう。
秘密保持契約(NDA)の必須項目
次にNDA側です。翻訳対象の文書には、契約書の当事者名・金額・技術仕様・個人情報など、外部に漏れると事業上のダメージが大きい情報が含まれることがほとんどです。以下の項目を最低限押さえてください。
- 秘密情報の定義(翻訳対象文書そのもの、および翻訳の過程で知り得た情報全般)
- 目的外使用の禁止(翻訳作業以外の目的で使用・複製・第三者提供をしない)
- 保管方法(クラウドストレージの利用可否、パスワード管理、ローカル保存の禁止など)
- 秘密保持期間(契約終了後も一定期間、たとえば3年〜5年は義務が継続する旨)
- 情報の返却・破棄義務(納品後、原稿データや下訳データをいつまでに削除するか)
- 再委託の禁止または事前承諾(翻訳者がさらに別の人に一部を依頼しないか)
- 損害賠償条項(秘密保持義務違反があった場合の賠償責任)
通常、秘密保持契約書はお客様の側からご提供いただくものですが、依頼が初めてで契約書のご用意がない、契約書を作成したご経験がないといったケースもあるため、弊社では、最低限の内容を盛り込んだテンプレートもご用意しております。それをお客様に精査していただき、修正したものを使って契約を結ぶことも可能です。また、弁護士によるリーガルチェックも承っております。機密性の高いドキュメントを翻訳する必要が生じた場合は、ぜひ当社にご用命ください。 出典: techno-pro.jp
この引用にもあるように、NDAは発注者側が用意するのが基本です。個人翻訳者に直接依頼する場合、翻訳者側がひな形を持っていないことも多いため、発注者側でテンプレートを準備しておくとスムーズに契約が進みます。※契約書の細部(損害賠償額の上限設定や、専門分野特有の条項)は案件ごとに事情が異なるため、重要な契約や高額案件では弁護士に相談することをおすすめします。
再委託と外部翻訳者リスクへの注意
契約書を作る際にもう一つ見落とされがちなのが、「再委託」の問題です。翻訳会社に依頼した場合、実際に手を動かしているのは社員ではなく外部の登録翻訳者、というケースは珍しくありません。
ですから、さらに実務者との個別NDAが発生するのは余程特殊なケースだけでしょう。注意が必要なのは、比較的料金が安い翻訳会社の場合です。そのような会社は人件費を抑えるために、雇用せずに外部の翻訳者や校閲者と契約していることが少なくありません。もちろん外部の契約翻訳者や校閲者と翻訳会社の間で取り扱う原稿についての守秘義務契約は行っているはずですが、それが在宅での作業においてどの徹底されているかどうかは不確かなところがあります。外部の人材によって翻訳作業が行われているような翻訳会社に発注する場合は、NDAがどのように徹底されているか確認しましょう。 出典: 翻訳会社j.com
つまり、翻訳会社を経由しても「実際に誰が翻訳しているか」「その人とのNDAがどこまで徹底されているか」は、発注者側から見えにくいという構造があります。個人翻訳者に直接依頼する場合は、逆にこの点がクリアになります。誰が作業するかが最初から明確で、再委託の有無も契約書で「再委託禁止」または「事前承諾制」として明記できるからです。
これは、直接契約のセキュリティ面での隠れたメリットです。「安いから直接依頼する」だけでなく、「作業者が特定でき、情報の流れを追跡しやすい」という点も、発注者にとって直接契約を選ぶ合理的な理由になります。
原稿送付時に見落としがちな情報セキュリティの盲点
契約書の話に入る前段階、つまり「見積もり依頼」の時点ですでにリスクが発生していることがあります。
翻訳が必要な文書があるので、ネットで翻訳会社を探し、原稿を送付すると同時に見積もりを依頼した。無料の自動翻訳サイトに原稿をアップしてみた。そんなご経験はないでしょうか。実はいずれの行為も情報セキュリティの観点から危険かもしれません。場合によっては、重大な機密漏洩・個人情報漏洩に繋がるおそれもあります。 出典: techno-pro.jp
これ、本当によくあるケースです。契約書を締結する前に、見積もりの参考として原稿の一部や全文を送ってしまう。無料の自動翻訳ツールに機密文書を貼り付けて確認してしまう。こうした行為は、NDAの効力が及ばない状態で秘密情報を外部に出してしまうことを意味します。
個人翻訳者に依頼する場合の実務対応としては、次の順序を徹底してください。
- まず簡易NDA(見積もり用の秘密保持誓約)を先に締結する
- その後で原稿の一部(冒頭数百文字程度)を送り、見積もりを依頼する
- 本契約とNDAを締結してから、原稿全文を送付する
- 無料の自動翻訳サイトやオンラインの文字数カウントツールに機密文書を貼り付けない
特に4番目は、個人翻訳者だけでなく発注者側の担当者にも当てはまる注意点です。「文字数を数えるだけだから」と機密文書をオンラインツールに貼り付ける行為は、想像以上にリスクが高い行為です。
費用相場と契約形態の選び方
個人翻訳者への発注費用は、分野・言語ペア・納期の緊急度によって変動します。目安として以下のような相場感で予算を組んでおくと、見積もり比較の際に判断しやすくなります。
| 文書の種類 | 単価目安(日本語1文字あたり) | 納期の目安 |
|---|---|---|
| 一般的なビジネスメール・簡易資料 | 6円〜10円 | 1〜3日 |
| 契約書・利用規約などの法務文書 | 15円〜25円 | 3〜7日 |
| 技術マニュアル・製品仕様書 | 12円〜20円 | 5〜10日 |
| 医療・薬事関連の専門文書 | 18円〜30円 | 7〜14日 |
これに加えて、急ぎの案件では特急料金として20%〜50%程度の割増がかかることが一般的です。契約書には「通常納期」と「特急対応時の割増料金」を両方明記しておくと、後々の認識のズレを防げます。
契約形態については、単発の文書翻訳なら都度の業務委託契約(発注書ベース)で十分ですが、月に複数回依頼する予定がある場合は、基本契約書(NDAと取引条件を定めたもの)と個別契約書(案件ごとの内容・納期・金額)の二段階方式にすると、毎回NDAを結び直す手間が省けます。
契約書・資料作成の実務は専門知識が必要な領域
翻訳者との契約書だけでなく、発注業務全般では様々な種類の書類作成が発生します。見積書の様式統一や、契約条項のひな形整備など、契約書・資料・企画書作成のお仕事では、こうした書類作成を専門とする人材に依頼できる領域を紹介しています。翻訳者とのNDAひな形作成を、契約書作成の専門知識を持つ人材に一度整えてもらうという選択肢も検討する価値があります。
また、より広い意味でのビジネス文書・契約書の作成ノウハウについては、ビジネス文書・契約書作成のお仕事で、社内規程や取引先向け文書の整備方法をまとめています。契約書のテンプレートを一度きちんと作っておけば、翻訳者だけでなく他の外部人材との契約にも流用でき、長期的な業務効率化につながります。
情報セキュリティの観点では、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事で、機密情報の取り扱いに関わる業務全般の外注先の探し方を解説しています。翻訳データの保管方法やアクセス権限の設計に不安がある場合は、こうした専門領域の知見を借りるのも一つの手です。
翻訳者・編集者の報酬水準から見る適正価格の考え方
個人翻訳者への発注単価が妥当かどうかを判断する材料として、関連職種の年収・単価データも参考になります。著述家,記者,編集者の年収・単価相場では、文章を扱う職種全般の報酬水準がまとめられており、翻訳者の単価感覚とも重なる部分が多くあります。極端に安い単価を提示してくる翻訳者には、品質面での懸念や、実は経験の浅い人材である可能性も含めて、慎重に見積もりを比較することをおすすめします。
逆に、ソフトウェアのローカライズ翻訳(UIテキストやマニュアルの翻訳)を依頼する場合は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場にあるような技術系職種の単価感覚も参考にすると、専門性の高い翻訳案件の予算組みがしやすくなります。
資格の有無で翻訳者の実力を見極める視点
個人翻訳者を選ぶ際、資格の有無が絶対的な判断基準になるわけではありませんが、一つの目安として活用できます。ビジネス文書の作成能力を測る指標としてはビジネス文書検定があり、契約書のような形式的な文書を正確に扱えるかどうかの参考になります。
また、IT・技術系のマニュアル翻訳を依頼する場合は、翻訳者自身がその分野の技術知識を持っているかどうかも重要です。CCNA(シスコ技術者認定)のような技術資格を保有している翻訳者であれば、ネットワーク機器のマニュアルなど専門性の高い文書でも、用語の取り違えが少ないという利点があります。
契約書まわりで関連する実務知識
契約書の実務対応について、より広い視点で知っておきたい情報として、AI契約書レビューツールの精度比較|法務コストを半分にする最新ITでは、契約書チェックにAIツールを活用する方法を紹介しています。個人翻訳者とのNDAや業務委託契約書の内容確認にも応用できる考え方です。
海外クライアントとのやり取りが発生する場合は、海外クライアントとの英文契約書テンプレート|必須条項と注意点で、英文契約書に特有の必須条項を確認しておくと、翻訳者に依頼する原稿自体の契約書としての完成度も高まります。
士業との顧問契約の考え方という点では、社労士のフリーランス独立|顧問契約の営業法も、継続的な業務委託契約の設計を考えるうえで参考になる内容です。
私の体験談。安さだけで選んで痛い目を見たケース
これは私自身が事務所の資料翻訳を外部に依頼した際の話です。海外の行政書類のフォーマットを参考にしたくて、英文の書式サンプルを翻訳してもらう案件を、価格の安さだけで比較して発注したことがあります。結果、納品された訳文の専門用語が明らかにおかしく、法律用語を一般的な意訳に置き換えてしまっていて、そのまま使えば誤解を招く内容になっていました。
このとき学んだのは、「安いから」という理由だけで契約相手を決めると、修正のやり取りに余計な時間がかかり、結局は割高になるということです。それ以降は、必ず簡単なトライアル翻訳(数百文字程度の有償または無償の試訳)を依頼してから本契約を結ぶようにしています。専門分野の文書であれば、なおさらこのステップを省略しないことをおすすめします。
運営者から見た直接契約という選択肢の本質
フリーランス・在宅ワーク市場を長く見てきた運営者の立場から言えば、翻訳者と発注者の関係が長続きするケースには共通点があります。それは、単発の作業依頼で終わらせず、「この人になら安心して次も任せられる」という信頼関係を、契約書という土台の上に築いているという点です。
中間マージンが乗らない直接取引では、同じ予算でも発注者はより多くの分量を依頼でき、翻訳者側は手取りが厚くなります。この構造は、単に「安く済む」という話ではなく、双方にとって予算配分の自由度が上がるという意味を持ちます。運営者として見てきた限りでは、この余裕分を「次回の割引」ではなく「継続発注の約束」や「フィードバックの丁寧さ」に還元している発注者ほど、結果的に良い翻訳者との長期的な関係を築けている印象があります。契約書とNDAという形式的な土台をきちんと整えることは、こうした信頼関係を築くための最初の一歩なのです。
法律や契約は難しく感じるかもしれませんが、正しく理解して使えば、発注者と受注者の双方を守ってくれる仕組みです。法律はあなたの味方です。
よくある質問
Q. 個人翻訳者とのNDAは自分で作ってもいいですか?
基本的な項目(秘密情報の定義・使用目的・保管方法・保持期間・違反時の対応)を押さえれば自作でも問題ありません。ただし高額案件や重要な機密文書を扱う場合は、弁護士によるチェックを受けることをおすすめします。
Q. 翻訳会社より個人翻訳者の方が情報漏洩リスクは高いですか?
一概には言えません。翻訳会社でも実際の作業は外部の登録翻訳者が行うケースが多く、再委託の実態が見えにくいという課題があります。個人翻訳者への直接依頼は、作業者が明確な分、NDAの範囲を追跡しやすいという利点があります。
Q. 見積もり依頼の段階で原稿を送っても大丈夫ですか?
本契約前に原稿全文を送るのは避けてください。先に簡易NDAを締結してから原稿の一部を送り、見積もりを依頼する順序がおすすめです。無料の自動翻訳サイトに機密文書を貼り付ける行為も避けましょう。
Q. 個人翻訳者への報酬支払いに期限はありますか?
2024年施行のフリーランス保護新法により、対象となる業務委託では成果物の受領日から60日以内に報酬を支払う義務があります。契約書に支払期日を明記し、検収の遅れを理由に支払いを先延ばしにしないよう注意してください。
無料で案件を掲載する
入力は3分ほど。掲載料も取引手数料も0円です。@SOHOに登録しているフリーランス・副業ワーカーから、早ければ当日中に最初の応募が届きます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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