「他のクライアントと仕事するな」と言われた時|専属義務の強要と独禁法 2026

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
「他のクライアントと仕事するな」と言われた時|専属義務の強要と独禁法 2026

この記事のポイント

  • 専属義務 強要 独禁法の関係を解説
  • 発注者から「他のクライアントと契約するな」と言われたとき
  • それが独占禁止法上の優越的地位の濫用にあたるかどうかの判断基準と対処法を紹介します

発注元から「うちの仕事に専念してほしい」「他のクライアントとは契約しないでほしい」と言われた経験がある方は少なくないはずです。結論から言えば、専属義務そのものが即座に違法というわけではありません。ただし、その課し方や範囲によっては独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当する可能性があります。この記事では、専属義務 強要 独禁法というキーワードで検索している方が知りたいであろう「どこからが違法なのか」「強要されたらどう動くべきか」を、公正取引委員会の公表資料を踏まえて整理します。

専属義務をめぐる現状とフリーランスの立場

フリーランス人口は年々拡大しており、内閣官房の調査では日本国内のフリーランス人口は462万人前後と推計されています。働き方が多様化する一方で、業務委託契約における力関係の不均衡は依然として大きな課題です。特に、単一の発注元に業務量の大半を依存しているフリーランスほど、専属義務のような一方的な条件を飲まざるを得ない構造に陥りやすい傾向が見られます。

こうした状況を受けて、2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、発注事業者による優越的地位の濫用や不当な取引条件の押し付けに対する規制を強化しました。さらに公正取引委員会は、フリーランスとの取引に関する独占禁止法上の考え方を整理した報告書を公表し、専属義務を含む拘束的取引条件についても具体的な判断基準を示しています。

正直なところ、こうしたルールが整備されてもなお、「専属にしてくれないと今後の発注は難しい」という言い回しで事実上の専属を迫る発注者は一定数存在します。この種の圧力は表面上は業務委託契約の一条項に過ぎませんが、実態としては経済的な力関係を背景にした強要にあたるケースがあり、独占禁止法の適用対象となり得る点を正しく理解しておく必要があります。

専属義務とは何か

専属義務とは、フリーランスや個人事業主が特定の発注者以外の取引先と契約することを制限される契約条件を指します。契約書に明文化されているケースもあれば、口頭や暗黙の圧力によって事実上強制されているケースもあります。

具体的には、以下のような形で現れることが多いです。

・契約書に「本契約期間中、甲(発注者)の許可なく第三者と類似業務の契約を締結してはならない」と明記される ・「専属で受けてくれるなら単価を上げる」という誘導的な条件提示 ・「他社の仕事もしていると聞いた。今後の発注を考え直す」といった間接的な圧力 ・特定のプラットフォームや窓口以外での案件受注を禁止する条項

これらのうち、契約書に明記された専属義務は目に見える形で確認できるため対処しやすい一方、口頭やニュアンスによる圧力は証拠が残りにくく、フリーランス側が泣き寝入りしやすい構造になっています。

専属義務そのものは、業務の性質上、合理的に必要とされる場合には直ちに違法とはなりません。たとえば、機密性の高いプロジェクトで競合他社への情報流出リスクを避けるために、プロジェクト期間中に限定して競合案件を制限するようなケースは、目的と手段のバランスが取れていれば適法と判断される余地があります。問題となるのは、業務上の必要性を大きく超えて、フリーランスの経済的自由を過度に制約するケースです。

独占禁止法における優越的地位の濫用との関係

専属義務の強要が独占禁止法上問題になり得るのは、主に「優越的地位の濫用」という枠組みにおいてです。優越的地位の濫用とは、取引上優位な立場にある事業者が、その地位を利用して取引相手に不利益となる行為を強いることを指します。

公正取引委員会が公表した報告書では、専属義務について次のように整理されています。

専属義務については、その目的のために合理的に必要な(手段の相当性が認められる)範囲で専属義務を課すことは、ただちに独占禁止法上問題となるものではないとしつつ、下記の場合については独占禁止法上問題になりうると指摘しています(本報告書第6の3)。 出典: businesslawyers.jp

この整理から読み取れるポイントは2つあります。1つ目は、専属義務そのものの適法性は「目的の合理性」と「手段の相当性」という2軸で判断されるということ。2つ目は、この基準を満たさない専属義務は、独占禁止法上問題になり得る行為として明確に位置づけられているということです。

つまり、発注者が「なんとなく囲い込んでおきたい」「competitor に流れると困る」といった漠然とした理由だけで専属義務を課している場合、目的の合理性が疑わしくなります。また、目的自体は合理的であっても、期間や範囲が業務上必要な限度を大きく超えている場合は、手段の相当性の観点から問題視される可能性が高まります。

「正常な商慣習に照らして不当に」の考え方

優越的地位の濫用の判断では、「自己の取引上の地位が相手方に優越していること」を利用して、「正常な商慣習に照らして不当に」不利益を与えたかどうかが問われます。専属義務のケースに当てはめると、次のような要素が総合的に考慮されます。

・発注者への取引依存度(取引額のうちどの程度をその発注者に依存しているか) ・取引先変更の実質的な可能性の有無 ・専属義務を拒否した場合に被る不利益の程度(取引停止、単価引き下げなど) ・業界における同種の取引条件の一般性

たとえば、あるフリーランスエンジニアが売上の80%以上を単一の発注者に依存している状況で、その発注者から専属義務を課され、拒否すれば契約を打ち切られる可能性が高いと認識していた場合、優越的地位の存在が認定されやすくなります。一方で、業界内で複数の発注者候補が存在し、専属義務を拒否しても他の取引先に容易に切り替えられる状況であれば、優越的地位の認定は難しくなります。

この「取引先変更の容易性」という視点は、フリーランス側にとって非常に重要な示唆を含んでいます。特定の発注元に業務のほとんどを依存する働き方は、収入の安定という短期的なメリットがある一方で、専属義務のような不利な条件を突きつけられたときの交渉力を著しく弱めるリスクを抱えています。

独占禁止法上問題となりうる具体的な行為類型

公正取引委員会の考え方を踏まえると、専属義務に関連して独占禁止法上問題となり得る典型的なパターンは以下の通りです。

目的が不明確、または競争制限的な専属義務

業務上の合理的な必要性を説明できないまま、「うちだけの仕事にしてほしい」と一方的に要求するケースです。特に、発注者が競合他社への人材流出を防ぐことのみを目的としており、フリーランス側の業務内容とは無関係に専属を求める場合、目的の合理性が疑われます。

過度に長期・広範囲な制限

必要な範囲を超えて、契約終了後も一定期間にわたり同業他社との取引を禁止するような条項は、手段の相当性を欠くと判断されやすくなります。競業避止義務としての側面が強くなるほど、フリーランスの職業選択の自由を過度に制約するものとして問題視されます。

専属義務の対価が不十分、または一方的な条件変更

専属を条件に単価を上げると約束しておきながら、実際には据え置きや減額を行うケースや、専属義務のみを一方的に押し付けて経済的な見返りを全く用意しないケースは、優越的地位の濫用の典型例として挙げられます。

拒否した場合の不利益をちらつかせる行為

「専属にしてくれないなら、次の案件は他の人に頼む」といった発言で取引継続を人質に取る行為は、たとえ契約書に明文化されていなくても、実質的な強要とみなされる可能性があります。口頭でのやり取りであっても、メールやチャットのログが残っていれば重要な証拠となります。

フリーランス新法との関係

2024年11月に施行されたフリーランス新法は、独占禁止法や下請法(下請代金支払遅延等防止法)を補完する形で、フリーランスとの取引の適正化を目的としています。フリーランス新法では、発注事業者に対して取引条件の明示義務や、報酬支払期日の設定などが義務付けられており、専属義務のような取引条件についても、書面等での明示が求められます。

下請法とフリーランス新法の役割分担について詳しく知りたい方は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストで発注書・契約書に記載すべき必須項目を整理しているので参考にしてください。専属義務のような不利な条件を口頭で押し付けられている場合、まずは契約条件を書面で明示させることが、後の交渉や相談の第一歩になります。

フリーランス新法では、発注事業者による優越的地位の濫用行為に対して、公正取引委員会や中小企業庁が是正指導や勧告を行う仕組みも整備されています。専属義務の強要が疑われる場合、独占禁止法とフリーランス新法の両方の枠組みで相談できる可能性がある点は覚えておくべきポイントです。

専属義務を強要されたときの具体的な対処法

実際に専属義務を強要されていると感じた場合、感情的に対立するのではなく、段階を踏んで対応することが望ましいです。

証拠を残す

メール、チャット、契約書の該当条項など、専属義務を求められたことが分かる記録は必ず保存してください。口頭でのやり取りであっても、その後に「先日のお話の確認ですが」という形でメールを送り、相手からの返信で内容を裏付ける方法が有効です。

業務上の必要性を確認する

発注者に対して、専属を求める理由を具体的に確認しましょう。「機密保持のため」「品質担保のため」など、業務上の合理的な理由が示されるのであれば、その必要性と制限の範囲が釣り合っているかを検討します。理由が曖昧なまま強要される場合は、独占禁止法上のリスクが高い取引条件である可能性を疑うべきです。

取引依存度を下げる

専属義務を拒否しづらい根本的な原因は、多くの場合、単一の発注元への依存度の高さにあります。仲介手数料が実質0円で企業と直接契約できるサービスを併用するなど、収入源を分散させることで、交渉力そのものを底上げできます。特定の発注者に依存しない体制を作ることが、専属義務の強要に屈しないための最も現実的な防御策です。

相談窓口を利用する

公正取引委員会には「フリーランス取引適正化に関する相談窓口」が設置されており、下請法や独占禁止法に関する相談を受け付けています。中小企業庁のフリーランス・トラブル110番も併せて活用すると、法的な観点からのアドバイスを得やすくなります。相談は匿名でも可能なケースが多いため、まずは事実関係を整理した上で問い合わせてみることをおすすめします。

職種別に見る専属義務のリスクと働き方の選択肢

専属義務のリスクは職種によっても濃淡があります。たとえば、企業のAI導入支援やDX推進を担うような専門性の高いポジションでは、複数のクライアントを掛け持ちすることが業務の質の向上につながる場合も多く、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように幅広い業種の課題に触れられる働き方が推奨される分野もあります。同様に、マーケティングやセキュリティ領域でも、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように複数の現場を横断する経験がスキルの市場価値を高めるケースが少なくありません。

一方、システム開発の分野では、案件によっては機密保持の観点から一定期間の専属契約が業務上合理的とされることもあります。アプリケーション開発のお仕事を検討する際は、専属義務が課される可能性がある案件かどうかを事前に確認し、対価や期間が妥当な範囲に収まっているかをチェックする姿勢が重要です。

報酬水準の目安を把握しておくことも、専属義務の対価が適正かどうかを判断する材料になります。ソフトウェア作成者の年収・単価相場著述家,記者,編集者の年収・単価相場のような相場データを参照し、自分が提示されている条件が市場水準と比べて見合っているかを確認しておくと、専属義務を受け入れるかどうかの判断材料になります。

契約知識を補強するための資格という選択肢

専属義務を含む契約条件を正確に読み解き、対等な立場で交渉するためには、契約文書やビジネス文書を扱うスキルそのものを底上げすることも有効です。ビジネス文書検定のような資格は、契約書や発注書の文言を正確に理解し、不利な条件を見抜く基礎力を養う上で役立ちます。またIT分野で専属義務が課されやすいネットワークエンジニアリングの領域では、CCNA(シスコ技術者認定)のような技術資格を取得しておくことで、特定の発注者に依存せずスキルを武器に交渉できる立場を築きやすくなります。

独自データ考察

フリーランス・在宅ワーク市場を20年近く見てきた運営者の視点から言えば、専属義務のトラブルが表面化するのは、契約締結時ではなく、業務が軌道に乗り始めた数ヶ月後であることが圧倒的に多いという実感があります。発注者側からすれば「このフリーランスは優秀だから他社に取られたくない」という心理が働き、それが専属義務という形で現れます。フリーランス側からすれば、安定収入を得られている状況で強く拒否しづらいという心理的な力学も働きます。この双方の心理が噛み合ってしまうことで、専属義務が「なんとなく既定路線」として固定化されていく構造がよく見られます。

長く安定して活動を続けているフリーランスほど、単発の業務をこなすだけでなく、複数の発注者との間で「この人になら任せられる」という信頼関係を並行して築いています。専属義務を受け入れて一社に依存するのではなく、複数の取引先を持ちながらも、それぞれの発注者に対して高い専門性と対応力を発揮することで、結果的にどの発注者からも重宝される立場を作り上げているケースが目立ちます。

運営者として見てきた限りでは、中間マージンが発生しない直接契約の仕組みは、この力学を是正する上で大きな役割を果たします。仲介手数料がかからない分、発注者は同じ予算でより多くの依頼を出せる余地が生まれ、受注者は同じ業務量でも手取りが厚くなります。この構造は、フリーランスが特定の発注者一社に依存せざるを得ない状況を緩和し、専属義務のような不利な条件を提示された際にも「他に選択肢がある」という心理的な余裕を持てるようにする効果があります。額面の報酬だけでなく、手取りがどれだけ厚くなるかという視点は、専属義務の強要に対抗する上での実務的な武器になり得ると考えています。

契約や法務まわりのコストを見直すことも、フリーランスとしての交渉力を高める一助になります。たとえば法人化を検討している方であれば、本店移転・役員変更登記の報酬相場|オンライン申請とプロへの依頼比較【2026年最新】のように、契約主体そのものを整備するコストの相場観を持っておくことも、専属義務の交渉を含む取引条件全体を見直すきっかけになります。また確定申告や記帳の負担を軽減して契約交渉に充てる時間を確保したい方には、税理士の副業ガイド|確定申告代行・記帳代行で稼ぐ方法【2026年版】で紹介されているような外部リソースの活用も選択肢の一つです。

専属義務の強要は、契約書の一条項という体裁を取っていても、その実態は取引上の力関係を利用した独占禁止法上の問題行為である可能性があります。目的の合理性と手段の相当性という2つの基準に照らして冷静に条件を見極め、必要であれば公正取引委員会などの相談窓口を活用しながら、特定の発注者に依存しない働き方を築いていくことが、長期的にフリーランスとして安定して活動を続けるための現実的な処方箋だと言えます。

よくある質問

Q. 専属義務の契約は一律で違法になりますか?

一律に違法とはなりません。業務上の目的が合理的で、制限の期間や範囲が必要最小限にとどまっている場合は適法と判断される余地があります。目的が不明確、または制限が過度に広い場合に独占禁止法上問題になり得ます。

Q. 口頭で専属を求められただけでも証拠になりますか?

口頭のやり取りだけでは証拠として弱いため、後日メールやチャットで「先日お話しした内容ですが」と確認を取り、相手からの返信で裏付けを残す方法が有効です。日頃から発注者とのやり取りを記録しておくことをおすすめします。

Q. 専属義務を断ると契約を切られそうで怖いです。どう対応すべきですか?

まずは業務上の必要性を発注者に確認し、対価や期間が妥当かを検討してください。同時に、他の発注者との取引を並行して持っておくことで、拒否した場合のリスクを実質的に下げられます。公正取引委員会やフリーランス・トラブル110番への相談も選択肢です。

Q. 専属義務についてどこに相談すればいいですか?

公正取引委員会のフリーランス取引適正化に関する相談窓口や、中小企業庁が運営するフリーランス・トラブル110番が利用できます。下請法やフリーランス新法の観点からのアドバイスも受けられるため、事実関係を整理した上で問い合わせるとスムーズです。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月8日最終更新:2026年7月18日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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