36協定はダブルワークにどう関わるか|時間管理の基本と会社への伝え方 2026

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
36協定はダブルワークにどう関わるか|時間管理の基本と会社への伝え方 2026

この記事のポイント

  • 36協定とはダブルワークにどう関わる制度なのか
  • 誰が締結して誰が届け出るのか
  • そして掛け持ち時にどちらの勤務先の協定が効くのかを

結論から書きます。36協定とは、ダブルワークをしている本人が結ぶものではなく、それぞれの勤務先が、その会社の労働者の過半数代表と結ぶ協定です。だから掛け持ちをしていても、あなたが自分で何かを締結したり届け出たりする必要はありません。ただし、あなたが「時間外に働かせてもらえるかどうか」は、そのとき働いている会社が36協定を持っているかどうかで決まります。ここが、ダブルワークで一番誤解されているポイントです。

「36協定とは ダブルワーク」で検索する方の多くは、次のどれかの状況にいます。副業を始めたい会社員で、本業の就業規則に「36協定の範囲を超える働き方は禁止」と書いてあって意味がわからない人。すでに掛け持ちをしていて、2社目のシフトを増やしたら店長から「うちは36協定を出していないから、この時間までしか入れられない」と言われた人。あるいは、人を雇う側になって、掛け持ちのアルバイトを採用したら自社の36協定はどうなるのかを調べている人。

この記事では、その協定そのものの仕組みに主題を置きます。何を定める協定なのか、誰が誰と結ぶのか、届出はどこにするのか、上限規制はどう効くのか。そのうえで、掛け持ちのときに「どちらの勤務先の協定が効くのか」という一番わかりにくい部分を、具体的なシフト例で解きほぐしていきます。労働時間の通算計算そのものの詳細には深入りせず、あくまで協定の効き方の話に絞ります。

36協定とは何を定める協定なのか

まず名前の由来から押さえます。36協定は「サブロク協定」と読み、労働基準法第36条に根拠があることからこう呼ばれています。正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定届」です。

労働基準法は、労働時間の原則を厳しく定めています。1日8時間、1週40時間。これを法定労働時間と呼び、この枠を超えて働かせることは原則として禁止されています。さらに、週に少なくとも1日の休日、または4週を通じて4日以上の休日を与えなければならないという法定休日のルールもあります。

つまり、原則だけで考えると、企業は従業員に残業をさせることも、休日に出勤させることもできません。ここで例外を作る唯一の手続きが36協定です。労使が協定を結び、所轄の労働基準監督署に届け出ることで、はじめて法定労働時間を超える労働と法定休日の労働が適法になります。

協定が「免罰」であって「命令権」ではないという性質

ここを取り違えている人が非常に多いので、はっきり書きます。36協定は、時間外労働をさせても労働基準法違反として罰せられなくなる、という効果しか持ちません。専門用語では「免罰的効力」と言います。

協定を届け出ただけでは、会社が従業員に「残業しろ」と命じる権利は発生しません。残業を命じるには、就業規則や労働契約に「業務上の必要がある場合は時間外労働を命じることがある」といった根拠規定が別途必要です。逆に言えば、36協定と就業規則の両方が揃ってはじめて、会社の残業命令に法的な裏付けが生まれます。

ダブルワークの文脈でこれが効いてくる場面があります。2社目のパート先で「今日は忙しいから1時間残って」と言われたとき、その会社に36協定があり、かつ雇用契約書や就業規則に時間外労働の定めがあれば、それは正当な業務命令です。どちらか一方が欠けていれば、断ってもペナルティを受ける筋合いはありません。もちろん現場の人間関係としては別の話ですが、法的な整理としてはそうなります。

協定に書き込まなければならない項目

36協定は、白紙に「残業させます」と書けば済むものではありません。協定届の様式に沿って、次の項目を具体的に定める必要があります。

定めるべき項目 内容の例
時間外労働をさせる必要のある具体的事由 月末の受注集中への対応、決算業務、機械トラブルへの対応など
業務の種類 経理、営業、製造、接客販売など
労働者の数 その業務に従事する人数
1日・1か月・1年の延長時間 1日5時間、1か月45時間、1年360時間など
有効期間 原則1年
休日労働をさせる必要のある事由・日数・始業終業時刻 月2回まで、9時から17時までなど

注目してほしいのは「具体的事由」の欄です。ここに「業務の都合」「繁忙時」のような漠然とした書き方をすると、労働基準監督署から補正を求められることがあります。どういう事情のときに、どの業務で、何人に、どれだけ時間外をさせるのかを具体的に書く。それが協定の作り方です。

そして有効期間は原則1年。つまり36協定は一度出したら永久に有効な書類ではなく、毎年締結し直して届け出る必要があります。この更新を忘れて、気づいたら無協定の状態で残業をさせていた、というのは中小企業でわりと起きるミスです。

誰が誰と締結するのか、労働者側の当事者

36協定の締結当事者は、使用者と、次のどちらかです。

事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があれば、その労働組合。ない場合は、労働者の過半数を代表する者、いわゆる過半数代表者です。日本では労働組合のない事業場が多数派なので、実務上は過半数代表者を選ぶケースが圧倒的に多くなります。

過半数代表者の選び方に厳しい要件がある

この過半数代表者の選出について、知らないうちに違法状態になっている職場が本当に多いです。要件は2つあります。

ひとつ、労働基準法第41条第2号に規定する監督または管理の地位にある者ではないこと。つまり管理監督者は過半数代表者になれません。部長が「代表として署名しました」というのは、その時点で協定が無効になり得ます。

ふたつ、協定を締結する者を選ぶという目的を明らかにしたうえで、投票、挙手などの方法で選出された者であること。会社が指名した人、社員親睦会の幹事が自動的に兼任している人、といった選び方は認められません。2019年施行の労働基準法施行規則改正で、この点はさらに明確化され、使用者の意向によって選出された者ではないことが規則上も要件になりました。

「過半数」の分母には誰が入るのか

ここがダブルワーク実務との接点です。過半数を数えるときの分母は、その事業場で働くすべての労働者です。正社員だけではありません。パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員、そして休職中の人も含みます。

つまり、あなたが本業を持ちながら週2日だけ働いているパート先でも、あなたは過半数を数える母数の1人としてカウントされます。掛け持ちだからカウント外、ということはありません。逆に言えば、掛け持ちの短時間労働者が多い事業場ほど、過半数代表者の選出手続きを丁寧にやらないと、後から協定の有効性が揺らぐリスクを抱えることになります。

派遣労働者の扱いも整理しておきます。派遣社員の36協定は、派遣元の事業場で締結されたものが適用されます。派遣先の協定ではありません。したがって派遣先で過半数を数えるとき、派遣スタッフはその分母に入りません。この点は、派遣と掛け持ちアルバイトを混同して数えてしまう事故が起きやすいところです。

届出はどこに、どのタイミングで出すのか

締結しただけでは効力は生じません。所轄の労働基準監督署長に届け出て、はじめて免罰的効力が発生します。

届出先は「事業場ごと」です。ここも誤解が多いところで、会社単位ではありません。本社と3つの支店があれば、原則として4つの事業場それぞれで協定を結び、それぞれの所轄署に届け出るのが原則です。ただし一定の要件を満たす場合には、本社で一括して届け出る「本社一括届出」という手続きも認められています。

タイミングは、時間外労働をさせる前です。3月末で有効期間が切れる協定を、4月に入ってから慌てて更新した場合、4月1日から届出日までの間に発生した残業は、法的には無協定下の違法な時間外労働ということになります。

電子申請という選択肢

近年は電子申請の環境が整備されました。e-Govを通じたオンライン申請が可能で、複数事業場の一括届出にも対応しています。紙で持ち込む必要がなくなったぶん、更新忘れの言い訳は成り立ちにくくなっています。行政手続きの総合窓口についてはe-Govから確認できます。

実務的に見て、ここは会社の規模で対応が二極化している印象があります。人事担当者を置いている企業は電子申請で毎年淡々と更新している一方、店舗数店の飲食業や小売業では、そもそも36協定という書類の存在自体が現場に共有されていないケースを何度も見てきました。掛け持ちで働く側としては、「この職場、36協定あるんだろうか」という疑問を持つこと自体が、自衛の第一歩になります。

上限規制の枠組み、原則と特別条項

2019年4月(中小企業は2020年4月)から、36協定で延長できる時間に罰則付きの上限が設けられました。それ以前は、大臣告示による限度基準はあったものの、特別条項を使えば実質青天井だったので、これは大きな転換点でした。

原則の上限

原則は、月45時間、年360時間です。1年単位の変形労働時間制で対象期間が3か月を超える場合は、月42時間、年320時間と少し厳しくなります。

この範囲内で協定を結ぶかぎり、追加の手続きはいりません。多くの事業場は、この原則の枠内で協定を作っています。

特別条項を付ける場合

臨時的に特別の事情があって、原則の上限を超える必要がある場合には、特別条項付きの36協定を結ぶことができます。ただし、こちらには4つの絶対的な上限がかかります。

720時間以内。時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満。時間外労働と休日労働の合計について、2か月から6か月までのどの平均をとっても月80時間以内。そして、月45時間を超えることができるのは年6か月までという回数制限です。

この4つはいずれも罰則付きです。超えれば、労働基準法違反として6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になり得ます。

区分 月の上限 年の上限 備考
原則 45時間 360時間 追加手続き不要
特別条項 100時間未満(休日労働含む) 720時間 45時間超は年6回まで
複数月平均 80時間以内(休日労働含む) 設定なし 2〜6か月のどの平均でも

なお、特別条項の「臨時的に特別の事情」も、具体的に書く必要があります。「業務が忙しいとき」では通りません。「予算・決算業務」「ボーナス商戦に伴う繁忙」「大規模なクレームへの対応」「機械トラブルへの対応」といった、どういう場面かが特定できる書き方が求められます。

上限規制の適用が猶予・除外されている業務

すべての業種に一律で適用されているわけではありません。建設事業、自動車運転の業務、医師については2024年4月から、それぞれ事情に応じた形での上限規制が適用されました。いわゆる2024年問題として物流業界で話題になったのは、この自動車運転業務への適用開始です。新技術・新商品等の研究開発業務については、現在も上限規制の適用が除外されています。

副業・兼業の受け入れ先としてよく登場する運送業やドライバー職を考えている場合、この業種別のルールが自分の働き方に影響することは知っておいて損はありません。厚生労働省の各種資料は厚生労働省のサイトから辿れます。

ダブルワークのとき、どちらの勤務先の協定が効くのか

ここからが本題です。掛け持ちで働いているとき、36協定は誰の、どこの協定が効くのか。

大原則、協定は事業場ごとに独立している

まず押さえてほしいのは、36協定はあくまで「その事業場と、その事業場の労働者との間の協定」だということです。A社の36協定は、A社があなたを働かせるときにしか効きません。B社があなたを働かせるときには、B社の36協定が必要です。

あなたがA社の36協定の枠内で働いていても、それはB社での就労を何ら適法化しません。逆も同じです。掛け持ちをしていても、A社の協定とB社の協定は互いに独立しています。

だから、掛け持ちをしている本人が「私は36協定を結ぶ必要があるのか」と心配する必要はありません。締結の当事者はあくまで各社の使用者と、その事業場の過半数代表者です。

では通算の話はどこで絡むのか

ややこしいのはここからです。労働基準法第38条第1項は、労働時間は事業場を異にする場合においても通算する、と定めています。この「事業場を異にする場合」には、事業主が異なる場合も含まれるというのが行政解釈です。

つまり、労働時間そのものは2社分を足し算して考えます。ところが、36協定は事業場ごとに独立している。この2つが組み合わさると、少し不思議な結論が出てきます。

具体的に見てみましょう。所定労働時間がA社で1日7時間、B社で1日2時間だとします。それぞれ単体で見れば、法定労働時間の8時間を超えていません。B社だけを見れば、2時間の勤務に36協定など必要ないように思えます。しかし通算すると1日9時間になり、法定労働時間を1時間超過します。

たとえば、1日7時間の所定労働時間の企業で働いている労働者を、1日2時間の所定労働時間の条件で雇用した場合を考えてみましょう。1日2時間の所定労働時間であれば、通常は36協定の締結は必要ありません。しかし、この場合、ダブルワークになるため、労働時間を通算しなければなりません。通算された所定労働時間が1日9時間となり、法定労働時間を超えることになります。このような場合、36協定を締結していなかったり、適切な割増賃金を支払っていなかったりすると、違法になるので注意が必要です。 出典: hrnote.jp

この例で36協定が必要になるのはB社です。理由は、時系列で後から労働契約を結んだ側、つまり通算して法定労働時間を超える部分を担っている側が、その超過分の責任を負うという整理だからです。B社の店長からすれば「うちはたった2時間しか使っていないのに、なぜうちが36協定を出さないといけないのか」となりますが、法の建て付けはそうなっています。

所定労働時間か、実労働時間か

もうひとつの分岐があります。所定労働時間の通算では超えないのに、実際に働いた時間で超えてしまうケースです。

まず所定労働時間を通算してみると、1日8時間以内に収まっているので、この時点で法定労働時間を超えることは確認できません、しかし、実際にA社で1日6時間、B社で1日3時間労働させた場合、通算した1日の労働時間が9時間となり、法定労働時間を超えることになります。この場合、労働時間を延長させたA社が時間外労働に対する割増賃金を支払わなければなりません。 出典: hrnote.jp

この場合、責任を負うのは所定を超えて働かせたA社側です。順番のルールを整理すると、こうなります。

所定労働時間の段階で通算超過が生じるなら、後から契約した側の責任。所定は収まっているのに、実労働時間で超過が生じるなら、実際に所定を超えて延長させた側の責任。この2段構えで判定します。

だから「ダブルワークでは常に2社目が悪者」というのは正確ではありません。1社目で予定外の残業が発生して超過したなら、それは1社目の責任です。

掛け持ち労働者が確認すべき現実的なポイント

以上を踏まえて、掛け持ちで働く側が実際に確認すべきことを整理します。

1つ目、2社目の勤務先が36協定を届け出ているかどうか。届け出ていない事業場では、通算して法定労働時間を超える働かせ方は違法になります。つまり、あなたが働ける時間の上限が実質的に制約されます。シフトを増やしたいのに増やせない理由が、ここにあることは多いです。

2つ目、それぞれの勤務先に他社での就労を申告しているかどうか。通算の管理は使用者の義務ですが、使用者は本人の申告がなければ他社の労働時間を知りようがありません。労働者が申告していない状態で超過が生じた場合、使用者の責任が問えるかどうかは事案によりますが、少なくとも自分の身を守る観点では申告しておくのが無難です。

3つ目、割増賃金の支払い元。時間外労働に対する25%以上の割増賃金は、上の判定ルールに従って責任のある側が支払います。給与明細に割増分が反映されているかは、掛け持ちしている人ほど確認してほしいところです。

管理モデルという行政が示した簡便法

通算管理は現実には煩雑です。そこで、行政は「管理モデル」という簡便な運用方法を示しています。

考え方はこうです。副業先での労働時間の上限をあらかじめ設定しておき、本業側と副業側でそれぞれの枠を決める。その枠の中で働くかぎり、日々の相互確認をしなくても、通算した時間が上限規制の範囲に収まるように設計しておくというものです。副業先は自社の労働時間すべてを時間外労働として扱い、割増賃金を支払います。

この方式なら、企業は毎日相手先に労働時間を問い合わせる必要がなくなります。副業を認める企業が増えている中で、実務が回るようにするための工夫だと理解すればいいでしょう。ただし、この方式を採用するかどうかは各社の判断であり、すべての職場で使われているわけではありません。

就業規則との関係、副業が禁止・許可制になっている理由

「うちは副業禁止だから」と言われて諦めた経験がある人は多いはずです。この背景にも36協定と労働時間通算の話が絡んでいます。

企業が副業を制限したがる理由は、大きく分けて4つあります。労務提供上の支障が生じる懸念、業務上の秘密が漏洩する懸念、競業により自社の利益が害される懸念、そして自社の名誉や信用を損なう行為の懸念です。裁判例上、この4つに該当しない副業を一律に禁止することには合理性が認められにくいとされています。

そこに労働時間通算の問題が加わります。従業員が他社で働いた時間まで自社が管理し、場合によっては自社が割増賃金を負担することになる。企業側から見れば、これは無視できないコストとリスクです。だから多くの企業は、全面禁止ではなく「事前届出制」「許可制」という形をとります。届け出てもらえば通算管理ができるからです。

就業規則の「36協定の範囲を超える働き方は禁止」という条項の意味

副業規程にこういう文言があって混乱した人もいるでしょう。これは要するに、「他社での労働と通算した結果、自社の36協定で定めた延長時間の枠を突破するような働き方はしないでください」という意味です。

自社の協定が月45時間の枠なら、通算後の時間外労働がその枠を食い潰さないようにしてほしい、という要請です。会社としては、協定の枠を超えた瞬間に自社が労働基準法違反の当事者になるので、当然の予防措置と言えます。

副業を申告するときに伝えるべき情報

会社に副業を届け出るとき、何を書けばいいのか。実務的には次の情報が求められることが多いです。

副業先の事業内容と自分が担当する業務内容。これは競業や秘密漏洩の観点からの確認です。副業先での労働契約の形態、つまり雇用契約なのか業務委託なのか。ここは決定的に重要で、雇用契約でなければ労働時間の通算対象になりません。そして雇用の場合は、所定労働日、所定労働時間、始業終業時刻。

正直なところ、ここで「業務委託ならそもそも通算されない」という事実は、もっと知られていいと思います。副業を制度として認めていても、雇用型の副業だけは通算管理の手間から難色を示す企業は珍しくありません。逆に、業務委託や請負での在宅ワークであれば、労働時間管理の論点が発生しないぶん、社内の承認は通りやすい傾向があります。この点は後段でもう一度触れます。

36協定違反になるとどうなるか

罰則の話も整理しておきます。

36協定を締結していない状態で時間外労働や休日労働をさせたり、正しい額の割増賃金を支給していなかったりすると、労働基準法違反になります。このような場合、労働基準法に則り、6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金といった罰則が課せられる恐れがあります。副業を導入したり、ダブルワークしている労働者を受け入れたりする場合、あらかじめ36協定違反になっていないかチェックすることが大切です。 出典: hrnote.jp

罰則の対象になるのは使用者であって、働いている本人ではありません。掛け持ちをしている労働者が処罰されることはありません。ここは安心していい部分です。

ただし、実害は別の形で及びます。労働基準監督署の是正勧告が入れば、勤務シフトは即座に見直されます。「今月から週の勤務を減らしてほしい」と言われるのは、働く側にとっては収入減です。また、企業名が公表される事案になれば、その職場自体の存続に影響することもあります。

近年は労働基準監督署の臨検も、長時間労働に照準を合わせたものが増えています。特に、時間外労働が月80時間を超える労働者がいる事業場は重点監督の対象になりやすい。掛け持ちで長時間働いている人がいる職場は、通算の観点から見れば潜在的なリスクを抱えていることになります。

割増賃金の未払いという形での不利益

もうひとつ、掛け持ち労働者に直接効いてくるのが割増賃金の未払いです。通算して法定労働時間を超えているのに、どちらの会社も25%増しの割増賃金を払っていない、という状態は珍しくありません。

これは会社側が通算ルールを知らないだけ、というケースもあれば、そもそも他社での就労を把握していないケースもあります。前者なら指摘すれば直りますし、後者なら申告すれば解決に向かいます。いずれにしても、放置すると自分の受け取るべき賃金が目減りしたままになります。

掛け持ちの形態別、36協定が関わるかどうかの早見

ここまでの整理を、働き方の形態別にまとめます。

掛け持ちの形態 労働時間の通算 36協定の関係
雇用 + 雇用(正社員 + アルバイト等) 通算される 両社それぞれの協定が問題になる
雇用 + 業務委託(在宅ワーク等) 通算されない 委託側に協定は不要
雇用 + 個人事業(自営) 通算されない 自営部分に協定の概念なし
雇用 + 会社役員 通算されない 役員は労働者ではない
派遣 + アルバイト 通算される 派遣元の協定とバイト先の協定

この表を見てもらうとわかるとおり、労働時間通算と36協定の論点が発生するのは、両方が「雇用契約」である場合に限られます。片方が業務委託や請負であれば、そもそも労働基準法上の労働時間ではないので、通算の対象外です。

社会保険についても触れておきます。複数の事業所で雇用され、それぞれで社会保険の加入要件を満たす場合には、二以上事業所勤務届を提出して、報酬を合算したうえで保険料を按分する手続きが必要になります。この手続きの詳細は日本年金機構で確認できます。一方、業務委託での副業収入は、社会保険の算定基礎には入りません。同じ「副業」でも、契約形態によって手続きの重さがまったく違うのが実情です。

契約形態の見極め方

「業務委託だから通算されない」という整理は正しいのですが、契約書のタイトルが業務委託になっていれば自動的に通算対象外になる、というわけではありません。実態として指揮命令を受け、時間的・場所的な拘束があり、業務の諾否の自由がないなら、労働者と判断される可能性があります。いわゆる偽装請負の問題です。

判断の材料になるのは、仕事の依頼を断る自由があるか、業務の遂行方法について具体的な指揮命令を受けるか、勤務場所と時間が拘束されているか、他人による代替が可能か、報酬が労働時間に対して支払われているか、といった要素です。

在宅で成果物を納品する形の仕事は、これらの基準に照らして労働者性が否定されやすい類型です。だから副業として選びやすい。ライティング、デザイン、開発、事務代行といった職種が副業の定番になっているのは、税制や自由度の話だけでなく、この労働時間管理の論点を回避できるという構造的な理由もあります。

私がシフトの壁にぶつかったときのこと

少し個人的な話をします。編集の仕事を始めた頃、私は週3日の契約で編集プロダクションに勤めながら、知り合いの紹介で別の制作会社の校正業務を手伝っていました。どちらもアルバイト扱いの雇用契約でした。

最初の数か月は問題なく回っていたのですが、繁忙期に入って両方の稼働が増えたとき、後から入った制作会社の担当者から「今週はこれ以上入れられない」と言われました。理由を聞いても「規則で」としか返ってこない。当時の私は納得できず、単に人を減らしたいだけではないかと疑ったこともあります。

後になって、その会社は36協定を出していない事業場だったことを知りました。私が本業側で週の所定を使い切っていたので、制作会社側で少しでも上乗せすると通算で法定労働時間を超え、無協定のまま働かせることになってしまう。担当者は正しく判断していたわけです。

このとき学んだのは、掛け持ちの制約は必ずしも会社の都合ではなく、法の枠組みが理由であることが多い、ということでした。そして同時に、雇用同士の掛け持ちは、稼働を増やそうとした瞬間に必ずこの壁にぶつかるという構造も理解しました。以降、私は本業以外の仕事を業務委託で受けるように切り替えました。これは節税のためではなく、単純に働ける時間の上限に縛られたくなかったからです。

業種別に見た36協定の実情

もう少し実態に踏み込みます。36協定の締結状況は、業種と企業規模で大きな差があります。

労働時間管理がシステム化されている大企業では、協定の更新も届出も年次業務として組み込まれています。一方、従業員数十人規模の小売業、飲食業、介護事業所などでは、協定はあるものの現場に周知されておらず、シフト管理と協定の枠が連動していないケースを何度も見てきました。掛け持ちのスタッフが多い業種ほど、この乖離が起きやすいという傾向があります。

介護業界は特に顕著です。訪問介護でヘルパーとして複数の事業所に登録している人は珍しくなく、その全員について労働時間を通算管理するのは実務的にかなり重い。だから管理モデルの活用が推奨されているのですが、浸透度には差があります。

飲食・小売のアルバイト掛け持ちも同様です。学生や主婦層の掛け持ちが常態化している一方、店舗側が他店での勤務時間を把握する仕組みは、ほとんどの場合ありません。結果として、法的には通算超過が発生しているのに、誰もそれに気づいていないという状態が生まれます。

在宅ワーク系の職種が持つ構造的な優位

ここまで見てきたとおり、雇用型の掛け持ちには時間管理の制約が常につきまといます。一方、成果物ベースの在宅ワークは、この制約の外側にあります。

需要面でも、在宅で完結する専門職の裾野は広がり続けています。たとえばAI導入の相談や業務プロセスへの落とし込みを支援する仕事は、業務委託で受けやすい典型例です。どのような業務内容と単価感なのかはAIコンサル・業務活用支援のお仕事にまとまっています。同じくAIとマーケティング、セキュリティを横断する領域の仕事も、企業側が正社員採用しきれず外部委託に流れやすい分野で、こちらはAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で概要が確認できます。

開発系では、業務システムやモバイルアプリの受託が引き続き安定した需要を持っています。案件の種類や求められる技術範囲についてはアプリケーション開発のお仕事が参考になります。いずれも、時間ではなく成果に対して報酬が支払われる形態なので、36協定や労働時間通算の論点が発生しません。

単価の相場感を掴んでおくことも、契約形態を選ぶ判断材料になります。開発系の職種であればソフトウェア作成者の年収・単価相場に統計ベースの水準がまとまっており、文章を扱う仕事なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安になります。時給換算で考えると、雇用でシフトを増やすより、委託で単価の高い仕事を1件受けたほうが同じ時間で手取りが多い、という逆転はしばしば起きます。

独自データから見た、掛け持ちの働き方の変化

在宅ワークの求人と応募のデータを長く見てきた立場から、ここ数年の変化について整理します。

まず明確なのは、雇用型の掛け持ちから業務委託型の副業へという流れです。以前は「もう1つバイトを増やす」という発想が主流でしたが、現在は「本業は雇用のまま、追加の収入源は委託で持つ」という組み合わせを選ぶ人が増えています。この記事で説明してきた労働時間通算の制約が、その一因であることは間違いありません。

もうひとつは、時間ではなくスキルで区切る発想への移行です。雇用の掛け持ちは、突き詰めれば時間を切り売りする働き方です。1日は24時間しかなく、法定労働時間の壁もある以上、増やせる収入には物理的な天井があります。一方、専門性で単価を上げる方向には、その天井がありません。

20年この市場を見てきた立場から言えば、長く安定して仕事を続けている人ほど、稼働時間を増やす方向ではなく、同じ時間でより高い価値を出す方向に投資しています。具体的には、資格取得やツール習得よりも、依頼者の業務を理解して「この人に任せると自分が楽になる」という関係を作ることに時間を使っている。単発の作業を安く速くこなす人より、業務の背景を理解して提案までしてくれる人のほうが、結果として継続的に依頼を受けています。

そしてもうひとつ、契約経路の違いが手取りに与える影響も無視できません。仲介手数料が乗る取引では、依頼者が支払った金額の一部が中間で削られます。手数料0%の直接取引であれば、依頼者は同じ予算でより多くの仕事を頼めますし、受け手は同じ仕事でより厚い手取りを得られます。これは金額の大小の話ではなく、報酬の性質の話です。運営者として見てきた限りでは、この差が積み重なることで、数年後の働き方の選択肢そのものが変わってきます。

スキルの入り口をどこに置くか

とはいえ、いきなり高単価の専門職に移行できる人ばかりではありません。段階を踏むなら、汎用性の高いスキルから固めるのが現実的です。

ビジネス文書の作成能力は、事務代行、ライティング、営業サポートなど幅広い在宅業務の土台になります。体系的に学ぶならビジネス文書検定のような資格が入り口として機能します。技術系に振るなら、ネットワークの基礎知識は運用保守やインフラ系の案件で評価されやすく、CCNA(シスコ技術者認定)は求人票で名指しされることも多い資格です。

時間の使い方そのものの設計

在宅ワークを掛け持ちに組み込む場合、時間の使い方の設計も成果を左右します。本業と家事の合間に作業時間を確保している人がどうスケジュールを組んでいるかは、在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開に具体例がまとまっています。実際に手を動かす時間の質を上げる方法については、在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックで、作業環境や休憩の取り方まで含めた工夫が紹介されています。

案件そのものの探し方も、初期段階では大きな差になります。どこで、どういう条件の仕事を探すのが安全かという基本は在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説に整理されています。身元がはっきりしない相手からの依頼や、着手前に費用を求めてくる案件には近づかない。この原則は、掛け持ちで時間が限られている人ほど徹底すべきです。

制度を知ることが選択肢を増やす

最後に、この記事の主題を整理し直します。

36協定は、あなたが結ぶ協定ではありません。各事業場の使用者と過半数代表者が結び、労働基準監督署に届け出るものです。その効果は、法定労働時間を超える労働と法定休日労働を適法にすること。上限は原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間、月100時間未満、複数月平均80時間以内、月45時間超は年6回まで。

掛け持ちの場面では、労働時間が2社分通算される一方、36協定は事業場ごとに独立しています。だから「通算すると超えるのに、2社目には協定がない」という食い違いが生じ、シフトが制約されたり、割増賃金の責任の所在が問題になったりします。責任の所在は、所定の段階で超えるなら後から契約した側、実労働で超えるなら実際に延長させた側、という2段構えで判定します。

そして、この論点がまるごと発生しないのが、業務委託や請負での仕事です。労働時間の通算対象外なので、36協定の枠に縛られません。時間ではなく成果で報酬が決まるぶん、専門性を高めれば収入の天井も上がります。

制度を知ることの価値は、正しく守ることそのものよりも、自分の選択肢の輪郭が見えるようになることにあると考えています。「なぜかシフトを増やしてもらえない」で終わるのと、「雇用同士の掛け持ちには構造的な上限がある。だから別の形態を検討しよう」と考えられるのとでは、その後の3年で到達する場所がまるで変わります。

よくある質問

Q. ダブルワークをしている本人が36協定を結ぶ必要はありますか?

ありません。36協定は使用者と、その事業場の労働組合または過半数代表者が締結し、労働基準監督署に届け出るものです。掛け持ちの労働者が個人で締結したり届け出たりする手続きは存在しません。ただし、勤務先が協定を届け出ていない場合、通算して法定労働時間を超える働き方はできないため、シフトの上限が実質的に制約されます。

Q. 副業先が36協定を出していない場合、どうなりますか?

その勤務先では、通算して1日8時間・週40時間を超える働かせ方ができません。本業で所定時間を使い切っている人の場合、副業先での勤務時間が大きく制限されることになります。無協定のまま超過させると使用者側が労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になり得ます。罰則の対象は使用者であり、働く本人ではありません。

Q. 業務委託での副業でも36協定は関係しますか?

関係しません。労働時間の通算は労働基準法上の労働者、つまり雇用契約を結んでいる場合にのみ適用されます。業務委託や請負で成果物を納品する働き方は通算の対象外なので、36協定の枠に縛られません。ただし契約書の名称ではなく実態で判断されるため、指揮命令や時間的拘束が強い場合は労働者と扱われる可能性があります。

Q. 36協定の上限時間はどれくらいですか?

原則は月45時間、年360時間です。臨時的な特別の事情がある場合に特別条項を付けられますが、その場合でも年720時間以内、時間外と休日労働の合計が月100時間未満、2か月から6か月のどの平均でも月80時間以内、月45時間を超えられるのは年6回までという4つの上限が罰則付きでかかります。

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監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月9日最終更新:2026年8月2日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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