タイ語の技能実習と特定技能の書類|訳す対象と通訳者の業務範囲


この記事のポイント
- ✓タイ語話者が関わる技能実習・特定技能まわりの書類仕事を整理しました
- ✓通訳者が担ってよい範囲と資格者の独占業務との線引き
- ✓契約で確認すべき項目までを実務の順に解説します
タイ語ができる人に届く仕事のなかで、量がまとまって出るのが技能実習と特定技能まわりの書類です。訳す対象がはっきりしていて、同じ形式のものが繰り返し回ってくるため、一度入り込むと継続します。ただし、この領域には他の翻訳の仕事にはない注意点があります。書類の一部が行政手続に直結しており、誰がどこまで手を出してよいかに法律上の線が引かれているからです。
この記事では、タイ語で技能実習と特定技能に関わる仕事を受けるときに、実際に何を訳すのか、通訳者としてどこまで担ってよいのか、契約で何を確認すべきかを順に整理します。線引きの判断を自分だけで下さないための考え方も併せて示します。
この領域の仕事が安定して出る理由
技能実習と特定技能の制度は、外国人が日本で働くための枠組みです。制度の運用には、受け入れる企業、監理団体や登録支援機関、そして本人という三者が関わり、その三者の間で大量の文書が行き交います。
文書が多い理由は単純で、制度が「説明したこと」と「同意を得たこと」を記録として残すことを求めているからです。労働条件を説明した、住居の条件を説明した、安全教育を行った。これらを本人が理解できる言語で示した証拠が要ります。そのため、日本語で作られた文書をタイ語に訳す作業が、継続的に発生します。
実際の募集を見ると、この仕事の中身がよく分かります。
技能実習生のサポートスタッフ(総務・通訳補助)を募集します。異文化交流や国際協力に関心のある方を歓迎します。未経験者も歓迎で、先輩スタッフの補助から始められます。完全週休2日制で年間休日121日、残業月平均14時間程度とワークライフバランスが抜群です。過去3年で29名が正社員登用された実績があり、キャリアアップも目指せます。通訳・翻訳、生活・メンタル支援、行政・申請書類作成補助、その他総務業務を担当していただきます。... 出典: 求人ボックス
注目してほしいのは、業務の並びです。通訳と翻訳だけでなく、生活とメンタルの支援、行政と申請の書類の作成補助、そして総務の業務まで含まれています。この領域の仕事は、翻訳という単一の作業ではなく、複数の業務が束になっている。これが実態です。
在宅で受ける場合も、この構造は変わりません。訳すだけの依頼は少なく、内容の確認、本人への説明、企業への報告までが一続きの業務として発注されます。だからこそ、どこまでが自分の仕事なのかを最初に定義しておく必要があります。
外部の事業者として通訳と翻訳を請け負う形も広く行われています。
協同組合フォワードは、製造メーカー等が受け入れた外国人技能実習生の受け入れ実績を重ね、そこで培った経験をもとに外国人材の就労環境整備を、企業様にご支援します。工業系や建設、介護の通訳実績が多くあり、手順書や安全衛生などの翻訳の経験が豊富なため、技能実習や特定技能の通訳に強みがあります。 出典: forward.or.jp
工業系、建設、介護。この三つが挙げられているのは偶然ではありません。手順書と安全衛生の文書が大量に発生する分野だからです。訳す対象を知りたければ、この三分野の現場文書を思い浮かべると、実像に近づきます。
実際に訳す対象を分類する
回ってくる文書は、性質によって四つに分かれます。それぞれで求められる正確さの種類が違い、後で述べる業務範囲の線引きにも関わってきます。
現場の作業と安全に関する文書
作業手順書、機械の操作説明、安全教育の資料、危険箇所の掲示、点検表、保護具の使い方。量としてもっとも多く、継続性も高い領域です。
この分類の文書で求められるのは、用語の一貫性と、読み手が実際に行動できる分かりやすさです。文学的な美しさは不要ですが、同じ機械の同じ部位を、文書ごとに違う語で呼んでいると、現場で事故につながります。初回に用語の対応表を作り、以後はそれを基準にする。この習慣が、この領域での評価を決めます。
また、掲示物として使われる文書では、文字数の制約が出ます。壁に貼る注意書きを長い文にすると読まれません。意味を保ったまま短くする作業は、通常の翻訳とは別の技能です。この作業が入る案件は、文字数で数えると割に合わないことがあるため、作業費として別に見積もる必要があります。
労働条件と生活に関する文書
雇用契約の条件、給与の内訳、就業規則、寮の使用規則、ごみの分別、公共交通の使い方、病気になったときの連絡先。
この分類は、誤訳が本人の権利義務に直結します。給与から控除される項目、労働時間の数え方、休日の定義。これらを不正確に訳すと、後になって「聞いていない」という争いになります。労働条件の明示は労働基準法で定められた事項であり、その内容を本人が理解できる形で伝える必要があります。訳すときは、原文を要約せず、条件をそのまま移すことを優先してください。
生活に関する文書では、逆に説明が要ります。日本の制度や習慣をそのまま訳しても、背景が分からなければ伝わりません。この場合、原文にない補足を入れてよいかどうかを、依頼者に確認します。勝手に足すと、それは翻訳ではなく別の文書になります。
制度と手続きに関する文書
在留資格の説明、講習の記録、面談の記録、支援計画の内容、母国語での相談窓口の案内。特定技能では、受け入れ企業や登録支援機関が本人を支援する内容が定められており、その説明を本人が分かる言語で行うことが求められます。
この分類がもっとも慎重さを要します。制度の用語には、日常のタイ語に対応する語がないものが多く、訳語の選択そのものが解釈を含みます。「監理団体」「登録支援機関」「特定技能所属機関」といった語を、それぞれどう訳し分けるか。ここで訳語がぶれると、本人が誰に相談すればよいのか分からなくなります。
訳語を決めるときは、依頼元がすでに使っている訳語があるかを必ず確認してください。組織によって定訳が異なることがあり、途中から変えると混乱します。
面談と相談の記録
本人との定期面談、トラブルが起きたときの聞き取り、企業側との調整の記録。これは翻訳ではなく通訳の業務ですが、その内容を記録として文書化する作業がセットになることが多くあります。
この場面では、通訳者が「代弁者」になってしまう危険があります。本人が言いよどんだときに、通訳者が推測して補ってしまう。善意でやったことが、記録としては本人の発言と食い違うものになります。訳すのは本人が言ったことだけ、という原則を守ってください。補足が必要だと感じたら、「本人はこう述べました。なお、背景としてこういう事情がある可能性があります」と、事実と推測を分けて伝えます。
通訳者がやってよい範囲と、そうでない範囲
ここが、この領域でもっとも重要な部分です。結論を先に書くと、境目は自分で判断せず、依頼元と書面で確認してください。以下は、その確認をするための材料です。
関係する法律
この領域に関わる法律として、少なくとも次を知っておく必要があります。
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律。技能実習制度の枠組みと、監理団体や実習実施者の義務を定めています。
出入国管理及び難民認定法。在留資格に関する手続きの根拠となる法律です。
行政書士法。官公署に提出する書類の作成を業として行うことについて、資格者以外が行うことを制限する規定が置かれています。
弁護士法。法律事件に関する法律事務を報酬を得る目的で業として行うことについて、第七十二条に制限の規定があります。
社会保険労務士法。労働社会保険に関する法令に基づく申請書等の作成と提出代行について、資格者の業務が定められています。
これらの法律が、それぞれどの行為をどこまで制限しているかは、条文の解釈が絡みます。この記事で「この行為はしてよい」「この行為は違法だ」と断定することはできませんし、するべきでもありません。実務で判断が必要になったら、依頼元の担当者、監理団体、あるいは有資格者に確認してください。
実務での考え方
そのうえで、実務上の目安を示します。
訳すこと自体は、翻訳と通訳の業務です。日本語で書かれた文書をタイ語にする、面談での発言を訳す。この行為が問題になることは通常ありません。
一方で、申請書の記載内容を自分で判断して決める、書類一式を組み立てて官公署に提出する、制度上の争いについて本人に助言する。これらは、資格者の業務に触れる可能性がある領域です。
境目が見えにくいのは、その中間です。たとえば、本人が書いた申請書のタイ語の記述を日本語に訳して記入欄に書き写す行為。これは翻訳なのか、書類の作成なのか。あるいは、企業から渡された下書きを訳して本人に説明し、本人の了解を得て提出書類を仕上げる行為。この種の作業は、実務では日常的に発生します。
だからこそ、契約書に業務範囲を書き込んでください。「本業務は、指定された文書の翻訳および面談時の通訳とする。官公署に提出する書類の作成および提出は本業務に含まない」といった形で明記します。この一文があるだけで、後から範囲外の作業を頼まれたときに断る根拠ができます。
そして、範囲外の依頼が来たら、その場で受けずに依頼元に確認します。「この作業は契約の範囲外に見えますが、どなたが担当されますか」と聞くだけでよい。この確認は相手を疑う行為ではなく、双方の手続きを整える行為です。
通訳の資格そのものについても触れておきます。通訳に関する国家資格としては、通訳案内の業務に関わるものがあります。全国通訳案内士は、報酬を得て外国人に旅行に関する案内を行う業務に関わる資格で、技能実習の通訳とは適用される場面が異なります。この領域の仕事に必須の資格があるわけではありませんが、資格制度がどの業務を対象としているかを知っておくと、自分の立ち位置を説明しやすくなります。他言語での通訳の水準を測る仕組みとしては、ハングル能力検定のような言語別の検定が、実務水準をどう段階分けしているかの参考になります。タイ語には同等の広く通用する検定が国内にないため、力を示す言葉を自分で用意する必要があります。
タイ語で訳すときに実際に詰まるところ
制度の話とは別に、タイ語という言語の側で起きる問題があります。ここを知らないと、作業時間の見積もりが狂います。
第一に、表記の統一です。タイ語には語と語の間に空白を入れない書き方があり、どこで区切るかによって読みやすさが大きく変わります。掲示物のように短い文を並べる文書では、区切り方を決めておかないと、同じ文書のなかで見た目がばらつきます。依頼元に既存の文書があれば、その書き方に合わせるのが基本です。
第二に、敬語と丁寧さの水準です。日本語の原文が事務的な文体で書かれていても、タイ語でそのまま事務的に訳すと、読み手にきつく響くことがあります。逆に丁寧にしすぎると、指示としての強さが弱まり、安全に関する注意が伝わらなくなります。文書の目的によって、どちらに寄せるかを決めてください。安全に関する掲示は、丁寧さより明快さを優先します。
第三に、数字と日付です。年の表記が西暦か仏暦かで食い違うことがあります。日本の書類は西暦か和暦で書かれているため、タイ語に訳すときにどちらの表記を使うかを決めておく必要があります。給与の金額、労働時間、休日数といった数値は、訳し終えたあとに数字だけを拾って原文と突き合わせる工程を必ず入れてください。文章として読み返すのとは別の回として実施します。
第四に、フォントと表示です。タイ文字は声調記号や母音記号が上下に付くため、フォントによっては行間で切れます。納品先の環境で崩れると、内容が正しくても差し戻しになります。使うフォントを決め、PDFに書き出して崩れないことを確認してから納品してください。
第五に、地域差です。同じタイ語でも、地域や世代によって使う語が変わります。技能実習で来日する人の出身地域には偏りがあるため、依頼元に「これまでどの地域の方が多いか」を聞いておくと、語彙の選び方の参考になります。ただし、公式な文書では標準的な書き言葉を使うのが原則です。
受注から納品までの実務の流れ
この領域の案件は、通常の翻訳より前後の工程が長くなります。流れを把握しておくと、見積もりの精度が上がります。
最初に、原稿の状態を確認します。日本語の原文がWordで来るのか、PDFなのか、紙をスキャンした画像なのか。画像の場合、文字の読み取りから始まるため、作業時間が大きく変わります。既存の訳文がある場合は、それを見せてもらいます。過去の文書と訳語がずれると、現場が混乱します。
次に、用語の確認をします。訳語が決まっていない語、複数の訳し方がある語を一覧にして、依頼元に投げます。この段階で確認しておくと、納品後の修正が激減します。逆に、確認せずに自分で決めて訳すと、後から全面的な差し替えになることがあります。
訳出に入ります。ここは通常の翻訳と同じですが、この領域では「読み手が行動できるか」を基準に判断します。手順書であれば、その通りに動けるか。注意書きであれば、危険が伝わるか。原文の直訳が目的ではありません。
訳し終えたら、三回に分けて見直します。一回目は数字だけ、二回目は固有名詞と用語だけ、三回目は文章として通して読む。この分け方が、見落としをいちばん減らします。
納品時には申し送りを添えます。訳語の選択で迷った箇所、原文に不明瞭な部分があった箇所、表記の統一をどう決めたか。この三点を短くまとめるだけで、依頼元の確認作業が楽になります。そして、この申し送りが次の依頼につながります。
納品後、現場で使われたあとに修正の依頼が来ることがあります。「実習生から意味が分かりにくいと言われた」という種類の指摘です。これは誤訳ではなく、伝わり方の問題です。この種の修正は、無償で対応する範囲か、有償かを最初に決めておいてください。決めていないと、際限なく直し続けることになります。
契約で確認する項目
この領域の仕事を受けるときは、通常の翻訳より確認すべき項目が増えます。
業務範囲は先に述べたとおりです。翻訳と通訳に限るのか、書類の作成補助まで含むのか。含む場合、誰の指揮のもとで行うのか。
守秘義務も必ず入れます。扱う文書には、本人の氏名、在留資格の番号、給与の金額、健康に関する情報が含まれます。個人情報の取り扱い方法、保管期間、業務終了後の消去方法を決めておいてください。外部の翻訳サービスに原文を貼り付ける行為が禁止されている場合もあるため、使用してよいツールも確認します。
責任の範囲も決めます。訳文に誤りがあった場合の責任をどこまで負うのか。翻訳の誤りが手続きの差し戻しにつながった場合、その損害をどう扱うのか。過大な責任を負う条項が入っていないかを確認し、必要なら修正を求めてください。
支払条件も忘れずに。継続的に業務委託で仕事を受ける立場については、取引条件の明示や報酬の支払期日に関するルールが定められています。制度の内容は公正取引委員会の情報で確認できます(公正取引委員会)。書面で条件を残すことは、自分を守るだけでなく、依頼側の手続きも整えます。
報酬が支払われないという事態が起きたときの手順も、知識として持っておくと安心です。未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】では、報酬が回収できないときにどういう手段があるかが整理されています。実際に使う場面が来ないのが理想ですが、手順を知っているかどうかで、交渉の落ち着きが変わります。
労務まわりの制度に踏み込む必要が出てきた場合は、有資格者に相談する道筋も知っておいてください。社労士の開業ガイド|独立1年目の収入と集客方法【2026年版】では、労働社会保険の手続きを扱う専門家がどのような業務を担っているかが分かります。自分の業務範囲を説明するとき、誰の領域と隣り合っているのかを把握していると、話が早くなります。
単価と稼働の考え方
この領域の報酬は、文書の翻訳と、面談の通訳で数え方が変わります。
文書は文字数で数えるのが基本です。安全衛生や手順書は専門用語の密度が高く、一般的なビジネス文書より高い単価が設定されるのが通例です。ただし、同じ企業の文書を継続して受けると、用語集が蓄積して作業時間が縮みます。二回目以降の実質の時給が上がる構造なので、初回に用語集を丁寧に作る投資は回収できます。
面談の通訳は時間で数えます。オンラインで行われることが増えており、1時間単位での依頼が一般的です。ただし、面談の前に資料を読み、終了後に記録をまとめる時間が必ず発生します。この準備と事後の作業を稼働に含めるかどうかで、実質の時給が大きく変わります。見積もりの段階で明示してください。
短い依頼が多い領域でもあるため、最低料金の設定が要ります。200文字の掲示文を一枚訳す依頼でも、内容の確認、訳出、見直し、納品の連絡までで30分以上は消費します。文字単価だけで受けると採算が取れません。一件あたりの最低額を決めて、料金の説明に書いておいてください。
収入の水準を測る物差しとしては、職種別の統計が参考になります。著述家,記者,編集者の年収・単価相場では、言葉を扱う職種の年収分布が確認できます。技術文書を扱う方向に進むなら、ソフトウェア作成者の年収・単価相場も見ておくと、IT関連の文書を扱うときの相場観がつかめます。
案件の谷を埋める方向としては、映像と音声の領域があります。安全教育の動画に字幕を付ける、研修の録画を書き起こすといった仕事は、この領域の延長線上にあります。映像翻訳・字幕・通訳のお仕事では、この種の仕事がどう発注されるかがまとまっています。文書の依頼が薄い時期に、映像の案件で稼働を埋める組み立てができます。
企業が外国人材の受け入れ業務を効率化するために、AIの仕組みを導入する動きも出ています。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事には、業務にAIを組み込む支援や、情報の取り扱いを整える仕事が集まっています。個人情報を大量に扱う現場を知っている人がこの領域に関わると、実務に合った設計ができます。少し離れた分野になりますが、教育用の動画や研修教材の制作では音声の制作も発生します。作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事のような制作の仕事と組み合わせて稼働を作っている人もいます。
なお、収入が増えると税と社会保険の手続きが必要になります。制度の詳細は国税庁の情報で確認できます(国税庁)。副業として始める場合、確定申告の要否や経費の扱いを最初に押さえておいてください。専門家の関わり方を知りたい場合は、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】で、会計の専門家がどのような業務を扱っているかが分かります。
依頼元をどう見つけるか
この領域の依頼元は、大きく三つに分かれます。
一つ目は、監理団体と登録支援機関です。実習生や特定技能の外国人を受け入れる企業を支援する立場にあり、文書の翻訳と面談の通訳を外部に出しています。件数が安定しており、一度入ると継続します。タイ語話者を受け入れている団体を探し、直接問い合わせるのが早い方法です。
二つ目は、受け入れ企業そのものです。製造業や建設、介護の事業者が、自社で使う手順書や社内文書の翻訳を依頼します。単価は高くなりやすい一方、依頼の頻度は団体経由より不規則です。
三つ目は、翻訳会社です。監理団体や企業から受注した案件を、登録翻訳者に流す形です。応募の手続きが整っており、実績がない段階でも入りやすい経路です。ただし、間に一層入るぶん、受け取る額は下がります。
どの経路から入るにしても、応募のときに示すべきものは同じです。どの方向の翻訳ができるか。どの分野の語彙に強いか。週にどれだけ稼働できるか。連絡がつく時間帯はいつか。この四つを冒頭に書いた応募文は、それだけで読まれます。
あわせて、翻訳サンプルを用意しておいてください。手順書、注意喚起の掲示、生活案内の三種類を、それぞれ400字程度で作ります。素材は、自治体が公開している多言語の生活情報など、著作権の問題が起きないものを選びます。この領域では、文学的な訳文より、現場で使える訳文が評価されます。サンプルもその方向で作ってください。
在宅ワーク市場を運営してきた立場からの観察
ここからは、在宅の仕事のマッチングを長く運営してきた側から見た話です。
この領域で長く続いている方に共通するのは、訳す速さでも語彙の広さでもありませんでした。共通していたのは、確認を怠らないことです。訳語が確定していない語を見つけたら、そのまま訳さずに一覧にして依頼元に投げる。業務範囲の外に見える依頼が来たら、その場で受けずに聞く。この習慣を持っている人は、依頼元から「安心して任せられる」と評価され、単価の交渉でも有利になります。二十年この市場を見てきて、慎重さが評価に変わるのは、この領域がいちばん顕著でした。
もう一つ、経路の違いが手取りに効きます。技能実習と特定技能まわりの仕事は、監理団体、人材の紹介事業者、翻訳会社と、間に入る層が重なりやすい構造をしています。層が薄いほど、依頼者が払う額と受け手が受け取る額は近づきます。同じ予算で依頼側はより多くの文書を頼めて、受け手の手取りは厚くなる。この二つが同時に起きるのが直接取引の構造です。継続する仕事だからこそ、経路の差は年単位で大きな金額になります。
最後に、この領域に関わる方へ一つ。訳す相手は、日本語が分からないまま日本で働いている人です。訳文の質が、その人の安全と権利に直接つながります。用語をひとつ丁寧に確認する手間が、現場の事故を一件減らすことがある。この重みを理解している人の仕事は、依頼元にも本人にも伝わります。そして結果として、その仕事は長く続きます。
よくある質問
Q. タイ語で技能実習まわりの仕事を受けるとき、何を訳すことが多いですか?
作業手順書や安全教育の資料といった現場の文書がもっとも量が出ます。次いで雇用条件や寮の規則など生活に関わる文書、制度や支援計画の説明文書、面談の記録が続きます。工業、建設、介護の分野で手順書と安全衛生の文書が集中する傾向があります。
Q. 通訳者が申請書類を作成してもよいのですか?
官公署に提出する書類の作成を業として行うことについては行政書士法などに制限の規定があり、この記事で可否を断定することはできません。契約書に業務範囲を明記し、範囲外に見える依頼が来たら受ける前に依頼元や有資格者に確認してください。
Q. この分野に必要な資格はありますか?
必須の資格はありません。通訳に関する国家資格としては通訳案内の業務に関わるものがありますが、適用される場面が異なります。タイ語には国内で広く通用する検定がないため、翻訳サンプルや用語対応表など、力を示す材料を自分で用意する必要があります。
Q. 報酬はどのように数えるのが一般的ですか?
文書は文字数、面談の通訳は時間で数えます。専門用語の密度が高いため一般的なビジネス文書より単価は上に置かれます。短い依頼が多い領域なので最低料金の設定が必要です。面談では資料の読み込みと記録作成の時間を稼働に含めるかを明示してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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