テディベア作家の収入は販売の場と値付けの考え方しだい

長谷川 奈津
長谷川 奈津
テディベア作家の収入は販売の場と値付けの考え方しだい

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この記事のポイント

  • テディベア作家の収入はどのくらいか
  • 販売単価・原価率・時給換算・販路別の手取りまで具体的に分解します
  • 委託販売契約の落とし穴

先日、テディベアを作って販売している方から相談を受けました。「イベントで3万円のベアが売れたのに、手元に残ったのは半分もなかった。この計算で本当に続けられるのか分からない」と。結論から言うと、テディベア作家の収入は「1体いくらで売れたか」ではなく「販路ごとに何%引かれ、材料費と制作時間がどれだけかかったか」でほぼ決まります。つまり、値札の数字と手取りは別物なんです。これ、知らない人が本当に多いんです。

この記事では、テディベア作家の収入がどのくらいになるのかを、販売単価・原価率・時給換算・販路別の控除率という4つの軸で分解します。あわせて、値付けの考え方、委託販売でトラブルになりやすい契約条項、転売されたときに主張できることとできないこと、そして確定申告が必要になるラインまで扱います。感覚論ではなく、数字と契約で考えられる状態にすることがゴールです。

テディベア作家の収入をマクロな数字で捉える

まず前提を揃えます。テディベア作家という職業は、公的統計に独立した職業分類として存在しません。日本標準職業分類でも「その他の製造・加工処理従事者」や「その他の技術者」に吸収されてしまい、平均年収を直接引ける公式データは存在しないんです。だから「テディベア作家の平均年収は〇〇円」と断言している情報を見たら、それは何らかの推計か、アンケートの一部を切り取ったものだと考えてください。

代わりに使える近似があります。ハンドメイド作家全体の収入分布です。各種のハンドメイド販売プラットフォームや作家向けアンケートで繰り返し観測されているのは、極端に偏った分布です。販売活動をしている登録者のうち、月商が1万円未満にとどまる層が最も厚く、全体のおおむね6割から7割を占めます。月商5万円を超える層は数%から十数%、月商20万円以上で生活を成り立たせている層は数%というのが、複数の調査に共通する形です。

この「月1万円の壁」と「月5万円の壁」は、実際に活動した人の記録にも生々しく残っています。

販売を始めて1ヶ月ほど経った時、作品は売れ始め月1万円ほどの収入を得られるようになった。「好きなことをして、お金を稼いでいる」その充実感に満たされ、私はハンドメイドに夢中になった。 出典: note.com

同じ書き手が、その後にこう続けています。

しかし、それでも趣味に毛が生えた程度の販売だったため、月1万円代から収入が増えることはしばらくなかった。 出典: note.com

ここが重要な分岐点です。最初の1万円は「作品が世の中に受け入れられた」という手応えとして到達しやすい。ところがそこから先は、作る量を増やすだけでは伸びません。1日は24時間しかなく、テディベアは1体あたりの制作時間が長い工芸だからです。つまり収入を伸ばす方法は「もっと作る」ではなく「1体あたりの単価を上げる」か「作品を売る以外の収益を足す」の2択に絞られます。この構造を最初に理解しているかどうかで、3年後の景色がまったく変わります。

テディベア特有の価格帯はどのあたりか

テディベアは、ハンドメイドの中でも単価が高く出やすいジャンルです。理由は3つあります。第1に、モヘアやアルパカといった素材そのものが高価であること。第2に、ジョイント(首や手足を可動させる関節構造)や顔の刺しゅうなど、機械では代替しにくい手仕事の比率が高いこと。第3に、コレクター市場が存在し、作家名で買われる文化が根づいていることです。

実際の流通価格を眺めると、初心者作家がイベントやオンラインで出す小型のベア(座高10cm前後)でおおむね5,000円から1万2,000円。素材にモヘアを使い、ガラスアイやコットンパールなどのパーツを組んだ中型(20cm前後)で1万5,000円から3万5,000円。作家名が知られていて、展示会やコンペで実績のある層になると5万円を超え、一点物では10万円台の値がつくこともあります。

「はじめからその値段だったのか」という疑問はよく出ます。答えは、ほとんどの場合ノーです。作家名で売れるようになるまでは、素材と技術に見合った価格を維持しつつ、購入者が納得できる説明を積み上げていく期間が要ります。この期間をどう設計するかが、後半で扱う値付けの本題になります。

収入を分解する4つの変数

テディベア作家の収入は、次の式にほぼ収まります。売上イコール(販売単価 × 販売点数)、手取りイコール売上マイナス(販路手数料+材料費+出展費+送料)。この式の各項目を1つずつ具体的に見ていきます。

販売単価をどこに置くか

単価は「原価から積み上げた金額」と「市場が受け入れる金額」の重なりで決まります。原価積み上げだけで値付けすると、たいてい高すぎるか安すぎるかのどちらかになります。安すぎるケースが圧倒的に多い。理由は自分の制作時間を時給換算していないからです。

たとえば座高20cmのモヘアベアを1体作るとします。材料費はモヘア3,000円前後、ジョイントとアイ、詰め物、糸で合計1,500円ほど。合わせて4,500円です。制作時間は型紙が確定している状態で12時間から20時間。仮に15時間とし、時給を最低賃金水準の1,100円に置くだけでも人件費は1万6,500円。原価だけで2万1,000円に達します。ここに販路手数料と利益を乗せれば、3万円という価格は「高い」のではなく「ぎりぎり成立している」水準だと分かります。

冒頭の相談者が「3万円で売れたのに半分も残らない」と感じたのは、人件費を原価に入れずに材料費だけを引いていたからです。つまり、残った金額の大半は本来自分の労働の対価であって、利益ではなかった。ここを混同すると、値上げのタイミングを永久に逃します。

制作時間と時給換算のリアル

テディベアの制作工程は、型紙作成、裁断、縫製、ジョイント組み込み、詰め物、顔付け、仕上げのブラッシング、撮影、出品作業に分かれます。見落とされがちなのが最後の3つです。撮影と出品文の執筆、質問対応、梱包発送まで含めると、1体あたり2時間から4時間の「作らない時間」が必ず乗ります。

つまり、実作業15時間のベアは、販売まで含めると18時間前後の仕事です。月に60時間を制作に充てられる兼業作家なら、月産は3体強が上限。単価2万円で全部売れて売上6万円、手数料と材料を引いた手取りは3万5,000円前後というのが現実的な計算です。これが「月5万円の壁」の正体です。壁は気合いではなく、時間という物理制約でできています。

だから収入を伸ばしたいなら、まず制作時間の内訳を1体分だけ記録してみてください。ストップウォッチで測るだけで構いません。どの工程に時間が溶けているかが見えると、型紙の共通化やパーツの先行仕込みでどこを削れるかが判断できます。感覚で「早く作る」と決意しても、時間は減りません。

材料費と原価率をどう管理するか

ハンドメイド全般で健全とされる原価率(材料費÷販売価格)はおおむね20%から30%です。テディベアはモヘアが高いため15%から25%に収まれば良好といえます。原価率が40%を超えているなら、価格が安すぎるか、素材の仕入れ方に改善余地があります。

仕入れで効くのは、まとめ買いと在庫回転の管理です。モヘアは色柄ごとにロットがあり、気に入った素材が再入荷しないことがよくあります。そこで買い込みすぎて在庫が数年寝る、という失敗は非常に多い。私が相談を受けた中でも、材料在庫が30万円分ほど滞留していて、実質の資金繰りが苦しくなっていたケースがありました。会計上は在庫(棚卸資産)なので経費にならず、売れて初めて費用になります。つまり、買った年に節税されるわけではないんです。ここは確定申告の項でもう一度触れます。

販路ごとに引かれる率が違う

同じ3万円のベアでも、どこで売るかで手取りは大きく変わります。おおよその目安は次の通りです。

販路 手数料・費用の目安 3万円販売時の手取り目安
ハンドメイドマーケットプレイス 販売手数料 10〜12% 26,400〜27,000円
自分のネットショップ(決済のみ) 決済手数料 3.6〜6.6% 28,000〜28,900円
委託販売(雑貨店・ギャラリー) 掛率 30〜50% 15,000〜21,000円
作家イベント・即売会 出展料 5,000〜30,000円/回 出展料と売上点数次第
オーダーメイド直接受注 決済手数料のみ 28,000円前後

この表が示すのは単純な事実です。委託販売は掛率が重く、同じ作品でも手取りが半分近くまで落ちる場合がある。逆に、購入者と直接つながる販路ほど手取りが厚くなります。ただし直販は集客をすべて自分で背負うことになるので、単純に「直販が正解」とは言えません。露出を委託とイベントで作り、リピーターを直販に流す、という二層構造が現実的な設計です。

作品を売る場所を5つの軸で選ぶ

ハンドメイドマーケットプレイス

最初の販路として選ばれることが最も多い場所です。集客をプラットフォームが担ってくれるため、開設初日から不特定多数の目に触れます。手数料は10%前後で、委託販売に比べれば軽い。

弱点は競合の多さと、検索アルゴリズムへの依存です。新着順で流れていくため、出品タイミングと写真の質が売上を左右します。テディベアの場合、正面からの1枚だけでは伝わりません。横顔、後ろ姿、手のひらに乗せたサイズ比較、関節を動かした写真の4点は最低限そろえてください。サイズ感が伝わらないことによる「思ったより小さい」というトラブルは、返品理由として非常に多いです。

作家イベントと展示会

テディベアは実物を触って買われる商品です。毛足の質感、目の入り方、抱いたときの重心は、写真では伝わりません。だからイベントの成約率は高くなります。出展料は規模により5,000円から3万円程度、大型の専門展だと5万円を超えることもあります。

重要なのは、イベントを「その日の売上」だけで評価しないことです。名刺やSNSアカウントを渡し、次回作の案内先を増やす場と捉えると評価が変わります。実際、イベントで買わなかった人が半年後にオンラインで購入する動きは珍しくありません。1回の出展を単発の売上イベントとして精算するか、顧客リストを増やす投資として見るかで、続けられる年数が変わります。

委託販売とギャラリー

雑貨店やギャラリーに作品を置いてもらう形です。掛率(売価に対する店の取り分)は30%から50%が相場。重く見えますが、店の家賃と接客を肩代わりしてもらっていると考えれば妥当な水準ではあります。

ただし委託販売には法的な注意点が集中します。詳しくは契約の章で扱いますが、最低限「売れ残りの返却時期」「破損・紛失時の負担」「支払いサイト」の3点は、口約束ではなく書面で決めてください。これ、知らない人が本当に多いんです。

自分のネットショップとSNS直販

決済手数料だけで済むため手取りが最も厚い販路です。ショップ作成サービスを使えば専門知識なしで開設できます。課題は集客で、SNSからの導線がないと開店休業になります。

テディベアと相性が良いのは、制作過程を見せる発信です。裁断前のモヘアの色、顔付けの前後の比較、詰め物の量による表情の違い。工程の情報量が多い工芸なので、コンテンツに困りません。作品が完成してから宣伝を始めるのではなく、作っている最中から見せておくと、公開と同時に問い合わせが入る状態を作れます。

オーダーメイドと受注制作

「亡くなった祖母の着物でベアを作ってほしい」「ペットの毛色に合わせて」といった依頼は、単価が上がりやすく、値引き交渉も起きにくい領域です。メモリアルベアと呼ばれるジャンルで、3万円から8万円程度の価格帯が中心になります。

一方でリスクも高い。素材が一点物(形見の着物など)なので、失敗が許されません。制作前に「布の裁断は元に戻せないこと」「仕上がりのイメージ差は主観であること」「途中キャンセル時の材料費負担」を必ず書面で確認してください。ここを詰めずに受けて、完成後に「イメージと違う」と言われて泥沼になる相談を、私は何度も受けています。

値付けの考え方をアップデートする

原価積み上げ法の限界

原価に利益を乗せる方式は分かりやすい反面、作家の成長を価格に反映できません。技術が上がって制作時間が短くなると、原価が下がって価格も下がることになる。これは明らかにおかしい。熟練したから安くなる、という逆転が起きます。

だから原価積み上げは「これ以下では絶対に売らない下限」を出すための計算だと考えてください。上限は市場が決めます。同サイズ・同素材で活動している作家の価格帯を20人分ほどリストにして、中央値を確認する。自分の位置がその中でどこにあるべきかを、技術・実績・世界観の独自性から判断します。

安売りが招く構造的な問題

安く出せば売れます。ただし売れた瞬間に、次の値上げが難しくなります。既存客は前回の価格を覚えているからです。8,000円で買った人に、次作を2万5,000円で出すと「便乗値上げ」と受け取られかねません。

回避策は2つ。1つは、シリーズや素材でラインを分けること。定番のミニベアは8,000円のまま維持し、モヘアの一点物を別ラインとして2万5,000円で立ち上げる。価格が違う理由が素材と工程で説明できれば、納得されます。もう1つは、値上げの理由を事前に告知すること。「次回作から素材をドイツ製モヘアに変更するため価格を改定します」と説明があれば、購入者は理解します。黙って上げるのが最も反発を招きます。

値上げに踏み切るタイミング

判断材料は3つあります。1つ目、公開後24時間以内に売り切れる状態が3回以上続いている。これは需要が価格を上回っているサインです。2つ目、オーダーの待ち行列が2ヶ月以上溜まっている。3つ目、材料の仕入れ価格が上がっている。特に3つ目は近年の輸入素材の価格上昇で全作家に共通する事情なので、説明のハードルが低い。

ちなみに、価格改定の告知に法的な義務はありません。ただし、すでに受注済みの作品については、契約成立時の価格が適用されます。つまり、注文を受けたあとで一方的に値上げすることはできません。「材料が値上がりしたので追加で払ってください」は、原則として通らない。受注時に「素材価格の変動により、着手前に金額を再提示する場合があります」と条件を明記しておけば対応可能になります。※ 個別の契約内容によって結論が変わるため、高額のオーダーで争いになりそうなときは弁護士に相談してください。

作品販売以外で収入を積み増す方法

作品単体の販売だけで収入を伸ばすには、制作時間という天井があります。そこで、時間を再利用できる収益源を足すのが定石です。

ワークショップと教室

作り方を教える形です。1回3時間で参加費6,000円、定員6名なら売上3万6,000円。材料費と会場費を引いても、同じ3時間で1体を作るより効率が良くなる場合があります。継続講座にすれば月謝収入として安定します。

注意点は、教えることと作ることが別スキルである点です。自分が無意識にやっている工程を言語化できないと、参加者は再現できません。最初は少人数で試して、つまずくポイントを記録してからカリキュラムを固めるのが安全です。

キットと型紙の販売

一度作れば繰り返し売れる商品です。型紙のPDF販売、材料一式のキット販売はテディベア分野で確立された市場があります。単価は型紙で1,500円から3,000円、キットで5,000円から1万2,000円程度。

法的に押さえておくべきは、型紙の権利です。型紙そのものは著作物として保護されにくい領域があり(実用品の形状は著作権の保護対象になりにくい)、無断複製を完全に止めるのは難しい。ただし、型紙に添付する解説書や写真は明確に著作物です。販売時に「型紙で作った作品の販売可否」を利用条件として明記しておくと、後の紛争を減らせます。「商用利用可・作家名の表記を条件とする」といった形が実務では多く使われています。

発信とコンテンツからの収入

制作過程の動画、技法の解説記事、書籍の執筆。テディベアは工程が美しく、映像との相性が良いジャンルです。すぐに大きな金額にはなりませんが、作品の販売価格を押し上げる効果があります。作家名で買われる市場では、認知そのものが価格の一部だからです。

文章で情報を届ける仕事の相場感を知りたい場合は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。職種別に年収レンジと単価水準を整理したデータで、コンテンツ制作を副収入に組み込むときの目安として使えます。同じく、動画で発信する場合の収益構造は動画編集者の年収・収入|副業とフリーランスの違いを解説で、副業とフリーランスの違いを含めて具体的に整理されています。

お金のトラブルを防ぐ契約と法律の知識

ここからは私の本業に近い話です。作家の収入は、作ることより「回収すること」で削られます。

委託販売契約で必ず確認する5項目

委託販売は、法律上は販売委託契約にあたります。口約束でも成立しますが、揉めたときに証拠が残りません。最低限、次の5点を書面かメールで残してください。

1つ目、掛率と売価の決定権。売価を店が勝手に下げられる契約になっていないか。値引き販売されると、他の販路との価格整合が崩れます。2つ目、支払いサイト。売れてから何日以内に入金されるか。60日を超えるサイトは資金繰りを圧迫します。3つ目、破損・盗難時の責任。店舗内で作品が破損した場合、誰が負担するか。「委託品の管理は店舗の責任とし、破損時は売価の◯%を補償する」といった条項がないと、泣き寝入りになります。4つ目、返却時期と返却送料。5つ目、店舗が閉店した場合の在庫の扱い。

3番目は特に重要です。ある作家さんから、展示中に来店客が作品を落として毛が抜け、店から「お客様のことなので当店では負担できません」と言われた、という相談を受けたことがあります。契約書に管理責任の記載がなかったため、交渉に時間がかかりました。つまり、条項が1行あるかないかで、数万円の作品が丸ごと損失になるかどうかが変わります。

転売と二次流通に対して何が言えるか

自分の作品が、納品直後に倍の価格で転売されている。この相談は年々増えています。感情としては当然許しがたい。ただし法的には、いったん販売した物品の所有権は購入者に移り、それを転売する行為自体を禁止することは原則としてできません。消尽(しょうじん)といって、適法に譲渡された物については権利者の権利が及ばなくなるという考え方があるためです。つまり「転売するな」と一方的に言っても、法的な強制力は生まれにくい。

対抗手段はあります。1つは、販売時に転売禁止を特約として合意すること。契約自由の原則により、当事者間の約束としては有効になり得ます(違反した場合は債務不履行の問題になります)。2つ目は、作家名や作品名を無断で使って販売されている場合。これは不正競争や商標の問題になり得ます。3つ目は、作品写真の無断使用。写真は著作物なので、転売者が自分の撮った写真を使わずに作家の公式写真を流用していれば、著作権侵害を主張できます。

現実的な運用としては、「二次流通時にも作家名の表記をお願いします」「転売時のご連絡をお願いします」といった依頼ベースの記載にとどめ、法的に争うより顧客との関係で解決する方が費用対効果は高いことが多いです。※ 継続的・組織的な転売で実損が大きい場合は、弁護士に相談してください。

フリーランス保護新法はテディベア作家に適用されるか

2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス保護新法)は、従業員を雇っていない個人事業者が、従業員を使用する事業者から業務委託を受ける場合に適用されます。ポイントは「業務委託」であることです。

つまり、企業やショップから「このデザインでベアを50体作ってください」と依頼を受けた場合、これは業務委託にあたり、法の保護対象になります。発注者には、書面等による取引条件の明示義務、そして受領日から60日以内の報酬支払義務が課されます。受領後に「イメージと違うから払えない」は、支払い拒否の正当な理由になりません。

一方、自分で作った作品をマーケットプレイスで一般消費者に売る行為は、業務委託ではなく物品の売買です。この場合は新法の対象外で、民法や消費者関連法のルールで処理されます。委託販売も、店舗が仕入れるのではなく販売を委託される形態なので、業務委託にあたるかは契約の実質で判断されます。この線引きは分かりにくく、誤解している方が本当に多いところです。法令の条文や解説は法務省公正取引委員会の公表資料で確認できます。

法律はあなたの味方ですが、味方であることを知らないと使えません。取引の形態が「注文を受けて作る」なのか「作ったものを売る」なのかを意識して分けておくだけで、主張できる範囲が変わります。

確定申告と経費の考え方

副業として作家活動をしている給与所得者の場合、給与以外の所得(収入から必要経費を引いた金額)が年間20万円を超えると確定申告が必要になります。専業で活動している場合は、基礎控除の範囲を超えれば申告が必要です。所得税の具体的な取り扱いは国税庁の情報で確認してください。

経費にできるのは、材料費、道具代、出展料、送料、梱包資材、撮影機材、作業用に使うスペースの家賃按分、講習会の受講料などです。注意したいのが在庫の扱いで、期末に売れ残っている材料や完成品は棚卸資産として計上され、その年の経費になりません。つまり、年末に材料をまとめ買いしても節税にはならないんです。これも本当に誤解が多い。

売上の記録は、販路が増えるほど煩雑になります。マーケットプレイスの入金明細、イベントの現金売上、委託先からの精算書、直販の決済入金。手作業で集計すると必ずどこかが抜けます。会計ソフトを使って口座と連携させておくのが結局いちばん早い。freeeマネーフォワードといったクラウド会計サービスは個人事業者向けのプランがあり、確定申告書の作成まで一気通貫で進められます。

インボイス制度については、取引先が企業やショップで、相手が仕入税額控除を必要とする場合に登録を検討することになります。購入者が一般消費者中心であれば、登録の必要性は低いのが通常です。売上規模と取引先の構成で判断が変わるので、迷ったら税理士に相談してください。

収入が伸びる作家は何をしているか

20年市場を見てきた立場からの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えることがあります。長く収入を保っている人は、単発の受注を追いかけていません。「この人に頼むと安心だ」という関係を、時間をかけて作っています。テディベア作家も例外ではなく、収入が安定している方は、購入者の名前と過去の購入履歴を覚えていて、次に何を作れば喜ばれるかを把握しています。リピート率が高い作家ほど、価格交渉に消耗しない。値引き交渉が発生するのは、たいてい初回接触の相手だからです。

もう1つ、運営者として見てきた限りで確実に言えるのは、手取りの厚さが継続年数を決めるということです。同じ売上でも、中間に入る事業者のマージンが乗るかどうかで、作家の手元に残る金額はまったく違います。仲介の手数料0%で直接つながる形が広がった分野では、依頼する側は同じ予算でより多くを頼めるようになり、受ける側は1件あたりの手取りが厚くなる。この双方が得をする構造は、抽象的な理屈ではなく、実際に長く続いている人たちの取引履歴に現れています。委託販売の掛率40%とオーダー直受注の決済手数料3.6%の差は、年間に均せば数十万円の差になります。作品の質を変えずに手取りを増やせる余地が、販路の選び方の中にまだ残っているということです。

他ジャンルと比べて見えてくること

テディベア作家の収入構造は、他の在宅・フリーランス職種と比べると特徴がはっきりします。制作時間が長く、単価は高く、単位時間あたりの上限が低い。この形は翻訳や動画編集といった知識労働型とは対照的です。

たとえば翻訳者の年収・収入|在宅フリーランスの稼ぎ方と単価相場を見ると、単価が文字数や分量で決まり、処理速度を上げれば収入が線形に伸びる構造だと分かります。一方、ドローン副業の始め方|資格・収入・案件の種類をまとめて解説は、機材投資と資格が参入障壁になる代わりに1件あたりの報酬が高い型です。テディベアはこの中間で、参入障壁が技術にあり、投資は素材と時間に集中します。

技術職の相場を横に置くと視野が広がります。ソフトウェア作成者の年収・単価相場には職種別の年収レンジと単価水準がまとまっており、在宅で成立する職種の中でテディベア制作がどの位置にあるかを相対的に把握できます。専業で生活を組み立てるなら、作品販売だけで年収を確保するより、教室やキット販売、他分野の在宅ワークを組み合わせて収入源を分散させる方が現実的な設計になります。

収入源を分散させるという選択

作家活動を続けるうえで、収入をすべて作品販売に依存させないことは、妥協ではなく戦略です。制作の閑散期や体調不良の時期に収入がゼロになる構造は、精神的に作品にも影響します。売れる作品を作らなければならないという圧力が強すぎると、作りたいものが作れなくなる。

在宅で並行できる仕事は選択肢が広がっています。事務作業やライティング、デザイン補助のような業務は、時間の調整がききます。近年はAI関連のスキルを求める案件も増えており、AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、業務効率化の支援がどのような仕事内容と報酬形態になるかが整理されています。同様にAI・マーケティング・セキュリティのお仕事は、専門性を軸に在宅で受けられる領域の全体像をつかむのに役立ちます。作家活動と両立させながら、技術を積み上げたい方にはアプリケーション開発のお仕事のような分野も選択肢になります。

事務やビジネス文書のスキルを整えておくと、委託先や企業とのやりとりでも役立ちます。見積書や請求書、契約書の読み書きに不安があるなら、ビジネス文書検定の内容は実務にそのまま使えます。IT分野に足を伸ばすならCCNA(シスコ技術者認定)のような技術資格が、在宅案件の入口として機能します。

数字で自分の現在地を確認する

最後に、実務的な確認方法をひとつ。今月の活動を次の4つの数字で書き出してみてください。総売上、材料費、販路手数料と出展費の合計、そして制作に使った総時間。手取りを総時間で割れば、実質の時給が出ます。

この数字は残酷ですが、必ず改善の方向を教えてくれます。時給が500円なら、価格が低すぎるか工程に無駄があるか販路が重いかのいずれかです。1,500円を超えていれば、その水準を維持したまま点数を増やす方向に進めます。3,000円を超えているなら、値付けと販路の設計は成功しています。次はブランドとして名前を積み上げる段階です。

テディベア作家の収入は、才能で決まる部分よりも、計算と契約で決まる部分の方がずっと大きい。手を動かす前に数字を握り、売る前に条件を書面にしておく。この2つを習慣にするだけで、続けられる年数は変わります。法律も会計も、あなたの作品を守るための道具です。

よくある質問

Q. テディベア作家は月にどのくらいの収入になりますか?

制作時間の長さから上限が決まります。兼業で月60時間を制作に充てられる場合、単価2万円のベアを月3体販売して売上6万円、材料費と手数料を引いた手取りは3万5,000円前後が現実的な水準です。専業で作品販売のみに依存する場合は、単価3万円以上のラインを確立するか、教室やキット販売を組み合わせる設計が必要になります。

Q. テディベアの値段はどうやって決めればよいですか?

材料費に自分の制作時間を時給換算した人件費を加え、そこに販路手数料と利益を乗せた金額を「下限」として計算します。座高20cmのモヘアベアなら材料4,500円、制作15時間で時給1,100円換算すると原価は約2万1,000円です。上限は同サイズ・同素材の作家20人分の価格を調べ、中央値と自分の実績から判断します。

Q. 委託販売で気をつけるべき点は何ですか?

掛率が30〜50%と重いことに加え、契約条件の詰めが甘いとトラブルになります。売価の決定権、支払いサイト、店舗内での破損や盗難時の責任負担、売れ残りの返却時期と送料、店舗閉店時の在庫の扱いの5点は、口約束ではなく書面かメールで残してください。特に破損時の管理責任の条項がないと、損失を全額かぶることになります。

Q. テディベアの販売で確定申告は必要になりますか?

給与所得がある方は、作家活動の所得(収入から必要経費を引いた額)が年間20万円を超えると申告が必要です。材料費や出展料、送料、梱包資材は経費になりますが、期末に残っている材料や完成品は棚卸資産となりその年の経費になりません。年末のまとめ買いは節税にならないので注意してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月1日最終更新:2026年9月6日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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