副業中のケガは労災になるのか|会社員の複数就業と給付の合算ルール 2026

前田 壮一
前田 壮一
副業中のケガは労災になるのか|会社員の複数就業と給付の合算ルール 2026

この記事のポイント

  • 副業中にケガをしたら労災は使えるのか
  • 会社員の複数就業における労災保険の仕組み
  • 令和2年改正の合算ルール

まず、安心してください。副業先でケガをしても、多くの場合は労災保険の対象になります。ただし「どちらの会社が手続きをするのか」「給付額はどう計算されるのか」を正しく理解していないと、本来受け取れるはずの補償を受け損ねることがあります。この記事では、副業をしている会社員が仕事中や通勤中にケガをしたときの労災の扱いを、制度の背景から実務の手順まで整理します。

副業とケガ・労災を巡る市場動向

副業を認める企業は年々増えています。厚生労働省が公表している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、企業に対して従業員の副業・兼業を原則として認める方向性を示しており、多くの企業がこれに沿って就業規則を見直してきました。皆さんの会社でも、数年前までは禁止されていた副業が、いまは届出制や許可制で認められるようになったというケースは珍しくないはずです。

一方で、複数の職場を掛け持ちする働き方が広がったことで、労災保険の制度自体が「一つの会社に専属する労働者」を前提に設計されていた時代の枠組みでは対応しきれない場面が増えました。そこで令和2年9月1日に労働者災害補償保険法(労災保険法)が改正され、複数の事業所で働く人を「複数事業労働者」として明確に位置づけ、給付の計算方法や保険給付の対象範囲が見直されています。

私自身、42歳でメーカー勤務のかたわら在宅ワークの副業を始めたとき、正直に言うと労災のことなど一度も考えていませんでした。会社員としての労災保険はあって当然のものだと思い込んでいて、副業先での怪我や、通勤中の事故がどう扱われるのかを調べたのは、実際に副業先への移動中に自転車で転倒して膝を痛めてからのことです。幸い大事には至りませんでしたが、そのとき初めて「本業と副業、両方の会社に労災保険料が発生している」という制度の基本を知りました。皆さんにも、まず制度の全体像を知っておいてほしいと思います。

複数就業者の労災保険、基本の仕組み

労災保険とは何か、誰のためのものか

労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が業務中や通勤中にケガ・病気・障害・死亡などの被害を受けた場合に、必要な保険給付を行う公的保険制度です。保険料は全額事業主が負担し、労働者本人の負担はありません。正社員・パート・アルバイトを問わず、雇用契約を結んで働くすべての労働者が対象になります。

重要なのは、労災保険が「会社単位」ではなく「労働者単位」で適用される制度だということです。皆さんが本業のA社と副業先のB社の両方で雇用契約を結んでいれば、A社でもB社でも、それぞれ独立して労災保険の適用を受けます。どちらか一方でしか保険料が払われていない、という誤解を持つ方もいますが、それは正しくありません。

「複数事業労働者」という考え方

令和2年の改正で新しく導入されたのが「複数事業労働者」という区分です。これは、事故発生時点で複数の事業場と労働契約関係にある労働者を指します。副業をしている会社員のほとんどはこの複数事業労働者に該当します。

この区分ができる前は、ケガをした事業場(副業先)の賃金だけを基準に給付額が計算されていました。つまり、本業でどれだけ高い給料をもらっていても、副業先での短時間・低賃金の勤務中にケガをすると、給付額は副業先の賃金だけをもとに算定され、実際の生活水準よりも著しく低い補償しか受けられないという問題がありました。改正後はこの点が是正され、後述するように複数の職場の賃金を合算して給付基礎日額を計算する仕組みに変わっています。

副業先でケガをしたときの手続きの流れ

どちらの会社が労災の手続きをするのか

副業先のB社で勤務中にケガをした場合、労災の請求手続き自体は、原則としてケガが発生したB社(災害発生事業場)を通じて行います。労働基準監督署に提出する「療養補償給付たる療養の給付請求書」などの様式には、その事業場での賃金額や就労状況を記載する欄があるため、まずはケガをした職場に労災である旨を伝え、必要書類を用意してもらうことがスタートになります。

ただし、令和2年の改正以降は、給付額の算定にあたって本業のA社の賃金情報も必要になったため、A社にも「他の就業先の情報」として賃金証明などの協力を求める書類が回ります。つまり、実際にケガをしていないA社であっても、一部の手続きに協力する義務が生じるということです。ここは見落とされがちなポイントで、「ケガをしていない会社は関係ない」と考えている経営者や人事担当者もまだ少なくありません。皆さんが副業を届け出ている会社であれば、いざというときにこの協力を求められる可能性があることを、あらかじめ伝えておくとスムーズです。

以下の資料でも、この点が具体的に解説されています。

副業をしている社員がケガをした場合、どちらの会社が労災の手続きをすべきなのでしょうか。一見すると、ケガをした職場のみで手続きするように思うかもしれませんが、実は労災保険法の一部改正によって内容が変わっています。

例えば、本業のA社ではなく副業先のB社での勤務中にケガをしたとします。その場合、これまではB社が労災手続きを行っていました。しかし、今回の労災保険法の改正では、ケガをしたB社のみならず、A社でも一部の手続きを行うことが必要になりました。 出典: jp.indeed.com

賃金額の合算、給付基礎日額の考え方

給付基礎日額とは、休業補償給付や障害補償給付などの金額を計算する際の基準となる、1日あたりの平均賃金です。改正前は、ケガをした事業場の賃金だけをもとに計算していましたが、改正後は複数事業労働者について「すべての就業先の賃金額を合算した額」をもとに給付基礎日額を算定するようになりました。

具体的には、本業A社の平均賃金と副業先B社の平均賃金を合算し、そこから改めて給付基礎日額を算出します。これにより、副業先での事故であっても、本業も含めた実際の収入水準に見合った補償を受けられるようになりました。皆さんが「副業先の給料は本業より低いから、ケガをしたら損なのでは」と心配する必要は、この改正によってかなり小さくなっています。

休業補償給付は本業が働ける場合も受けられるか

読者からよく聞かれる疑問の一つが「副業先でケガをして、副業だけ休業した場合、本業は普通に働けるのに休業補償はもらえるのか」という点です。結論から言うと、複数事業労働者の場合、いずれかの就業先で業務ができなくなった場合には、賃金を受けない日について休業補償給付の対象となります。本業が働ける状態であっても、副業側の労働ができなくなっていれば、その分の休業補償は請求できます。

ただし、休業補償給付には3日間の待期期間があり、この間は給付の対象になりません(業務災害の場合、待期期間中は事業主が休業補償を行う義務があります)。給付が始まってからは、給付基礎日額の60%が休業補償給付として、さらに20%が休業特別支給金として支給され、合計で給付基礎日額の80%相当が補償される仕組みです。この計算のベースになるのが、前述した「合算後の給付基礎日額」になります。

通勤災害と副業、注意したいケース

副業をしている人が特に見落としやすいのが、通勤中の事故です。労災保険では、業務中のケガだけでなく、住居と就業場所との間の合理的な経路・方法での移動中に発生した災害も「通勤災害」として保護の対象になります。

複数就業者の場合、本業の職場から副業先の職場への移動も、一定の要件を満たせば通勤とみなされます。令和2年の改正では、複数就業者が事業場間を移動する際の災害についても、通勤災害として労災保険の対象に含めることが明確化されました。つまり、本業を終えてそのまま副業先に向かう途中で事故に遭った場合も、労災保険の給付対象になり得るということです。

注意したいのは「合理的な経路・方法」から外れると、通勤災害と認められない可能性がある点です。買い物や私用で大きく寄り道をした場合や、明らかに遠回りのルートを使った場合は、その部分について通勤とは認められないことがあります。副業先への移動ルートは、できるだけ合理的で説明のつく経路を使うことを意識しておくと安心です。

精神疾患・過重労働と複数就業

複数の職場を掛け持ちすることで、労働時間の管理が難しくなり、結果として長時間労働や過重なストレスにつながるケースもあります。労災保険は、業務上の精神疾患についても給付の対象としており、この点は複数就業者でも同様です。

改正前は、精神疾患の労災認定において、それぞれの職場での労働時間やストレス要因を個別に評価していたため、どちらの職場でも基準に満たないと判断され、実際には過重な状態にあっても労災と認められにくいという課題がありました。改正後は、複数の就業先における業務上の負荷を総合的に評価する仕組みが導入され、A社・B社それぞれの労働時間やストレスを合算して判断できるようになっています。

これは皆さんにとって重要な変化です。本業だけでは長時間労働の基準に達していなくても、副業先での労働時間を合わせると、心身への負荷が無視できない水準になっていることがあります。体調に違和感を覚えたときは、我慢せずに医療機関を受診し、労働時間の記録を本業・副業の両方でこまめに残しておくことをおすすめします。

フリーランス・業務委託で副業する人の労災保険特別加入

ここまでは雇用契約に基づく「複数事業労働者」の話でしたが、副業として業務委託やフリーランスの仕事を選ぶ人も増えています。雇用契約ではなく業務委託契約で働く場合、労災保険は原則として適用されません。労災保険はあくまで「労働者」を対象とした制度であり、個人事業主やフリーランスは対象外だからです。

ただし、一定の業種については「特別加入制度」を利用することで、任意に労災保険に加入できます。特別加入の対象は年々拡大しており、IT関連のフリーランスや、著述業、デザイン業など、在宅で完結する業務委託の仕事も対象に含まれるようになってきました。加入するかどうかは任意ですが、保険料を負担してでも備えておきたいという方は、加入団体(労働保険事務組合や特定の職種団体)を通じて申し込む形になります。

会社員としての本業がある場合、本業の労災保険は適用されますが、副業として行っている業務委託の仕事中のケガは、特別加入をしていない限り労災保険の対象にはなりません。この違いを理解しないまま副業を始めると、いざというときに「本業の労災は使えるが、副業の作業中のケガは自己負担」という事態になりかねません。

こんにちは。社会保険労務士の志賀です。今回は「副業先でケガをした従業員の労災手続きは?」についてお話をします。 出典: shiga-office.com

副業として何を選ぶかによって、労災保険の適用有無が大きく変わることは、意外と知られていません。例えばキャリア・副業・人生相談のお仕事のように相談・コンサルティング系の業務委託を選ぶ場合、多くは特別加入の対象外になりやすいため、別途の民間保険での備えを検討する人もいます。一方で、著述家や編集者として働く場合は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で示されているような単価水準の仕事が中心になり、体を使う作業が少ない分、ケガのリスク自体は相対的に低くなります。

副業を始める前に確認しておきたい社内ルール

副業を始める前に、本業の会社に対して次の点を確認しておくことをおすすめします。まず、副業の届出や許可の制度があるかどうかです。届出をしていない副業でケガをした場合、労災保険の手続き自体は制度上可能でも、会社との信頼関係にひびが入るリスクがあります。次に、副業先での労働時間を本業の会社に共有する仕組みがあるかどうかです。前述の通り、労働時間の合算は精神疾患の労災認定にも影響するため、正確な記録が重要になります。

また、副業の内容によっては、業種団体の労災保険特別加入を検討する価値もあります。例えばAI・マーケティング・セキュリティのお仕事のようにパソコン作業が中心の副業であれば身体的なケガのリスクは低いものの、長時間のデスクワークによる腰痛や眼精疲労、精神的な負荷は無視できません。反対に作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事のように機材の運搬や長時間のモニター作業を伴う副業では、身体への負荷や機材トラブルによるケガのリスクも考慮しておくとよいでしょう。

副業に関連する保険という観点では、労災保険だけでなく、民間の生命保険や医療保険とのバランスも意識しておきたいところです。例えば掛け捨て生命保険おすすめ5選|コスパで選ぶ死亡保障のように、保険料を抑えつつ万一の保障を確保する選択肢もありますし、対面での相談を重視したい方にはネット生命保険おすすめ比較|対面型との違いとメリットで紹介されているような比較の視点も参考になります。40代で副業を始める方であれば40代の生命保険見直し|子供の成長に合わせた保障の最適化のように、家族構成の変化に合わせた保障の見直しも合わせて検討する価値があります。

なお、副業を機にキャリアチェンジや独立を視野に入れる方の中には、資格取得を検討する人もいます。行政書士のような士業資格は、独立後の業務範囲を広げる選択肢になりますし、クリエイティブ系の副業であればAdobe認定プロフェッショナル Adobe Expressのような実務スキルを証明する資格が案件獲得の後押しになることもあります。ケガや労災への備えと合わせて、こうした長期的なキャリア設計も同時に考えておくと、副業を安定して続けやすくなります。

独自データ考察:複数就業とケガのリスクをどう見るか

フリーランス・在宅ワーク市場を長く運営してきた立場から見ると、副業でケガをした人からの相談で目立つのは「そもそも自分がどの契約形態で働いているのか、正確に理解していなかった」というケースです。雇用契約なのか業務委託契約なのかによって、労災保険が適用されるかどうかがまったく変わるにもかかわらず、契約書をよく読まずに仕事を始めてしまう人が一定数います。契約形態の確認は、報酬額や業務内容の確認と同じくらい重要な準備だと考えています。

もう一つ、運営者として見てきた実感として伝えたいのは、直接契約に近い形で仕事をする人ほど、労務管理やリスクへの意識が高くなる傾向があるということです。仲介手数料が高い経路を通すと、依頼者・受注者ともに手元に残る予算が目減りし、安全対策や保険への投資に回す余力が削られがちです。逆に、手数料0%のように中間マージンが小さい取引構造では、同じ予算でも依頼者はより多くの作業を発注でき、受注者は手取りが厚くなります。この余力が、結果として自分の身を守るための保険や備えに回されているケースを、現場でいくつも見てきました。額面の報酬額だけでなく、こうした構造の違いが長期的な働き方の安定に影響しているというのが、長年この市場を見てきた立場からの一つの観察です。

労災保険の制度自体は、複数就業者の働き方に合わせて改正が重ねられてきており、以前よりも副業をしている人にとって使いやすい制度になっています。とはいえ、制度を知らなければ活用のしようがありません。副業を始める前に、本業・副業双方の契約形態と保険の適用範囲を確認しておくこと。これが、40代以降で副業や独立を考える皆さんに、実務者として最初にお伝えしたいことです。

よくある質問

Q. 副業先でケガをした場合、まずどこに連絡すればいいですか?

まずケガをした副業先の会社に労災である旨を伝えてください。労災保険の請求手続きは、原則としてケガが発生した事業場を通じて行います。あわせて本業の会社にも、賃金証明など一部書類の協力が必要になる場合があることを伝えておくとスムーズです。

Q. 本業と副業、両方で保険料を払っているのに給付が二重になることはありますか?

給付が二重にもらえるわけではありません。令和2年の改正により、本業と副業の賃金を合算して1つの給付基礎日額を算出し、それをもとに一本化された給付が支給される仕組みになっています。

Q. 業務委託で副業をしている場合、労災保険は使えますか?

原則として使えません。労災保険は雇用契約に基づく労働者を対象とした制度のため、業務委託やフリーランスとして働く場合は対象外です。一部の業種では労災保険の特別加入制度を任意で利用できるため、加入団体を通じた検討をおすすめします。

Q. 副業先への移動中に事故に遭った場合も労災になりますか?

本業の職場から副業先への移動を含め、合理的な経路・方法での移動中の事故は通勤災害として労災保険の対象になり得ます。ただし大きく寄り道をした場合などは、通勤と認められない部分が生じることがあります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月9日最終更新:2026年8月27日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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