パートを掛け持ちして週40時間以上働きたいとき|勤務時間の上限と必要な手続き

中西 直美
中西 直美
パートを掛け持ちして週40時間以上働きたいとき|勤務時間の上限と必要な手続き

この記事のポイント

  • パートのWワークで40時間以上働きたい人向けに
  • 配偶者控除や106万円・130万円の壁との兼ね合い
  • 勤務先への手続きまでを2026年時点の制度で整理しました

「パートを掛け持ちして、週40時間以上働きたい。でも、それって法律的に大丈夫なんでしょうか」。このご相談、ここ数年で本当に増えました。しかも相談の入口はほぼ全員が「違法にならないか」なのに、話を聞いていくと、本当に迷っているのはそこではないんです。

多くの方が最後に立ち止まるのは、配偶者の扶養から外れるかどうか。つまり、時間の問題ではなくお金の問題です。週40時間以上働くこと自体は、条件さえ整えれば問題なくできます。むしろ難しいのは、「どこまで働くと手取りが減るのか」「どこを超えたら一気に働いたほうが得になるのか」を見極めることのほうです。

大丈夫ですよ。順番に整理すれば、必ず自分の答えが出ます。この記事では、労働時間の上限と通算のルール、割増賃金を誰が払うのかという実務の話、そして配偶者控除や社会保険の壁との兼ね合いを、2026年時点の制度に沿ってお伝えします。読み終わるころには、「自分は週何時間まで働くのが妥当か」を自分で計算できるようになっているはずです。

パートの掛け持ちで週40時間超えを目指す人が増えている背景

まず、あなたが特別なわけではありません。パートやアルバイトを掛け持ちして働く人は、この数年で明確に増えました。

背景は3つあります。1つ目は、物価上昇です。食料品や光熱費の値上がりが続き、これまでと同じ生活を維持するだけで世帯支出が数万円単位で増えました。「贅沢がしたい」ではなく「今と同じ暮らしを守りたい」から働く時間を増やす。相談に来られる方の動機は、圧倒的にこちらです。

2つ目は、1社あたりのシフトが増やせないという構造的な事情です。人手不足だと言われながら、実は「特定の時間帯だけ人が足りない」職場が多い。朝の2時間、夕方の3時間といった細切れの需要に対して、1人にフルタイムを渡せる職場は限られています。だからこそ、働き手の側が2社、3社と組み合わせて自分でフルタイムを作る形が現実的になりました。

3つ目は、扶養の枠内で働くことのメリットが以前より小さくなってきたことです。社会保険の適用範囲が段階的に広がり、「扶養内に収めるために働く時間を削る」という選択の合理性が、職場によっては薄れつつあります。それなら中途半端に抑えるより、しっかり働いて自分で社会保険に入るほうがいい。そう考える方が確実に増えています。

「40時間」という数字がなぜ気になるのか

多くの方が週40時間という数字にひっかかるのは、労働基準法が定める法定労働時間がまさに週40時間1日8時間だからです。学校でも職場でも、この数字だけは何となく耳に入っています。

ただ、ここで大きな誤解が生まれます。「週40時間を超えて働いてはいけない」と思い込んでしまうのです。正確には違います。法律が定めているのは、「週40時間を超えて働かせる場合には、決められた手続きと割増賃金が必要」というルールであって、40時間超えそのものを禁止しているわけではありません。

つまり、週40時間はあなたが超えてはいけない線ではなく、勤務先が手続きを踏まなければならなくなる線です。この違いを最初に押さえておくと、以降の話がぐっと理解しやすくなります。

求人市場から見た掛け持ちのしやすさ

求人情報サイトを見ると、「Wワーク歓迎」「掛け持ちOK」といった条件を明記した求人は珍しくなくなりました。特に飲食、小売、物流倉庫、清掃、介護補助といった分野では、短時間シフトを前提とした募集が常時出ています。求人検索エンジンの求人ボックスなどで条件を絞り込むと、掛け持ちを前提にした募集の多さが実感できるはずです。

一方で、事務職や専門職は「1社でフルタイム」を前提とした募集が中心です。ここが掛け持ちの難所で、時給の高い仕事ほど掛け持ちしにくく、掛け持ちしやすい仕事ほど時給が抑えられている、という逆転が起きています。だからこそ、時間を積み上げる戦略には限界があります。この点は記事の後半で詳しく触れます。

掛け持ちでも労働時間は通算される、という大原則

ここからが制度の話です。少し細かくなりますが、ここを飛ばすと後で必ず困るところなので、丁寧にお伝えします。

労働基準法には、労働時間は「事業場を異にする場合においても」通算する、という定めがあります。これは同じ会社の別の店舗という意味だけでなく、まったく別の会社で働く場合も含むと解釈されています。厚生労働省が公表している副業・兼業に関する考え方も、この通算を前提に組み立てられています。

具体例で見てみましょう。A社で週30時間、B社で週15時間働いたとします。合計は週45時間。このとき、A社単独でもB社単独でも法定労働時間内ですが、通算すると週40時間5時間超えています。この5時間分については、法律上は時間外労働として扱われます。

割増賃金は原則「後から契約した側」が負担する

では、その超過分の割増賃金は誰が払うのか。ここが実務でいちばんもめる部分です。

原則として、時間的に後から労働契約を結んだ勤務先が、通算して法定労働時間を超える部分について割増賃金を支払う義務を負います。先ほどの例で、A社が先、B社が後なら、B社が5時間分の割増賃金を負担することになります。割増率は原則25%以上です。

「え、後から雇ったほうが損じゃないですか」と思われたかもしれません。まさにそこが、掛け持ちを申告したときに勤務先が渋い顔をする理由です。後から採用する側は、あなたが他社で何時間働いているかによって人件費が変わってしまう。だから採用面接で「他に仕事をしていますか」「週に何時間ですか」と必ず聞かれるわけです。

ただし、この原則には現場での運用があります。1日の中で先に働いた側と後に働いた側という時間的順序で判断する考え方や、あらかじめ両社の労働時間の上限を決めておく簡便な管理方法も示されています。厚生労働省の副業・兼業に関するガイドラインでは、企業が負担を予見できるようにするための管理モデルが提示されており、実務ではこちらを採用する会社が増えています。制度の詳細は厚生労働省の公表資料で確認できます。

申告しないとどうなるか

「面倒だから、掛け持ちしていることは黙っておこう」。正直に言えば、そう考える方は少なくありません。私も相談の場で何度もその言葉を聞いてきました。

気持ちはよくわかります。でも、これはおすすめできません。理由は精神論ではなく、実害があるからです。

第一に、多くの職場は就業規則に副業・兼業の届出義務を定めています。届出をせずに働いていたことが後から発覚すると、就業規則違反として扱われます。悪質だと判断されれば処分の対象になり得ます。

第二に、労災が起きたときに困ります。掛け持ちしている人が業務中にけがをした場合、複数の勤務先の賃金を合算して給付額を計算する仕組みがあります。ところが、そもそも掛け持ちを申告していなければ、この合算の手続きがスムーズに進みません。いちばん助けが必要なときに、いちばん手間がかかることになります。

第三に、住民税の通知で結局わかります。多くの自治体では、複数の勤務先の給与を合算した金額をもとに住民税額を計算し、主たる勤務先に通知します。経理担当者が見れば、この人は他にも収入があるとすぐに気づきます。隠し通すことは実質的にできないと考えたほうがいいです。

「業務委託」なら通算されないという例外

ここは非常に重要なポイントです。労働時間の通算ルールが適用されるのは、あくまで「雇用契約」で働いている場合だけです。

つまり、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員といった雇われる働き方どうしを組み合わせると通算されますが、片方が業務委託契約であれば、その時間は労働時間として通算されません。フリーランスとして請け負う在宅ワークや、成果物単位で受注する仕事がこれにあたります。

「パートを2つ掛け持ちして週45時間」だと勤務先に負担が生じますが、「パートで週30時間、在宅の業務委託で週15時間」なら、労働時間の通算という論点そのものが発生しない。これは掛け持ちで時間を増やしたい人にとって、かなり実務的な意味を持つ違いです。

もっとも、契約書の名前が「業務委託契約書」であればいいという話ではありません。実態として指揮命令を受け、勤務時間や場所を細かく指定され、業務の進め方に裁量がないのであれば、実質的に雇用と判断される可能性があります。名前ではなく働き方の実態で判断される、と覚えておいてください。

ここが本当の分かれ道。配偶者控除と扶養の壁をどう考えるか

さて、ここからが本題です。労働時間の話は制度を知れば解決しますが、多くの方が最後まで迷うのは、扶養との兼ね合いです。

私がカウンセリングでよくお伝えしているのは、「壁は1つではなく、性質の違う壁が並んでいる」ということ。ここを一緒くたにしてしまうから、混乱するんです。壁には大きく分けて、税金の壁と社会保険の壁があります。この2つは全く別物です。

税金の壁は「なだらかな坂」だと考える

まず税金のほうから。税金の壁は、超えた瞬間に手取りが激減するようなものではありません。

配偶者本人にかかる所得税は、収入が増えた分に対して段階的にかかります。2025年の税制改正で基礎控除や給与所得控除の見直しが行われ、所得税がかからない範囲は従来より広がりました。以前は「103万円」という数字が有名でしたが、この課税最低限は引き上げられています。正確な金額は改正内容や適用年によって変わるため、実際に計算する際は国税庁の最新情報を確認してください。

住民税については、所得税とは別に自治体ごとの非課税限度額が設定されています。所得税がかからなくても住民税だけかかる、という帯があるのはこのためです。金額は自治体によって差があるので、お住まいの市区町村の案内を見るのが確実です。

そして、世帯側で気にされることが多いのが配偶者控除・配偶者特別控除です。ここも誤解が多いところで、「妻の収入が一定額を超えると、夫の控除がゼロになって世帯の手取りが激減する」というイメージを持っている方がいます。実際にはそうなりません。

配偶者控除の要件から外れても、配偶者特別控除という仕組みがあり、収入の増加に応じて控除額が段階的に減っていきます。がくんと落ちるのではなく、少しずつ減る設計です。しかも減り方は緩やかで、働いて増えた収入が控除の減少額を下回ることは基本的にありません。

つまり、税金の壁は「越えても損はしないが、増えた収入の一部が税金に回る」という性質のものです。壁というより坂道だと思ってください。

社会保険の壁は「段差」。ここだけは要注意

問題は社会保険のほうです。こちらは坂道ではなく、はっきりとした段差があります。

配偶者の健康保険の被扶養者から外れると、自分で健康保険料と厚生年金保険料(または国民健康保険料と国民年金保険料)を負担することになります。この負担が年間で数十万円規模になるため、収入が少し増えただけでは手取りがかえって減る区間が生まれるのです。

社会保険には、大きく2つの入口があります。

1つは、勤務先で社会保険に加入する要件を満たすパターン。いわゆる「106万円の壁」と呼ばれてきたものです。従来は、週の所定労働時間が20時間以上、月額賃金が8.8万円以上、雇用期間の見込み、学生でないこと、そして勤務先の企業規模、という複数の要件で判定されてきました。このうち企業規模の要件については段階的な撤廃が決まっており、対象となる職場は今後さらに広がります。制度の最新の適用範囲は日本年金機構で確認できます。

もう1つは、勤務先で加入しないけれど被扶養者の認定基準を超えるパターン。こちらが「130万円の壁」です。年収の見込みが基準を超えると、配偶者の健康保険の被扶養者ではいられなくなり、自分で国民健康保険と国民年金に加入することになります。

掛け持ちで決定的に重要な「合算されるもの・されないもの」

ここが、パートの掛け持ち特有の落とし穴です。私が相談を受けていて、いちばん誤解が多いところでもあります。

被扶養者の認定基準、つまり130万円のほうは、すべての収入を合算して判定します。A社で年80万円、B社で年60万円なら、合計140万円として扱われます。「1社ごとに130万円未満だから大丈夫」ということにはなりません。ここを勘違いしたまま働き続けて、後から扶養から遡って外され、医療費の返還を求められるケースがあります。

一方で、勤務先で社会保険に加入するかどうかの判定、つまり週20時間以上や月額賃金といった要件は、原則として勤務先ごとに判定します。A社で週15時間、B社で週15時間、合計30時間という働き方をしても、どちらの会社でも週20時間に届かないため、どちらでも社会保険には加入しません。

この2つの違いを整理すると、こうなります。

判定の種類 掛け持ちの扱い 結果として起きること
勤務先での社会保険加入(週20時間等) 勤務先ごとに個別判定 分散させると加入要件を満たさない
被扶養者の認定(年収基準) すべての収入を合算 合計額が基準を超えれば扶養から外れる
所得税・住民税 すべての収入を合算 確定申告で精算する
労働時間の法定上限 雇用契約どうしは通算 週40時間超は割増賃金の対象

この表を見て、ある事実に気づかれたでしょうか。時間を分散させて掛け持ちすると、勤務先の社会保険には入れないのに、年収の合計は扶養の基準を超えてしまう、という状態が起こり得ます。

これがいちばん損な形です。厚生年金にも会社の健康保険にも入れないまま、国民健康保険と国民年金を全額自己負担することになる。将来受け取る年金も増えません。

損をしないための考え方は2つに1つ

だからこそ、週40時間以上働きたいと考えているなら、方向性ははっきり2つに絞られます。

1つ目は、いずれか1社で社会保険の加入要件を満たすように時間を寄せること。週20時間以上をメインの勤務先で確保し、残りをサブに回す形です。こうすればメイン先で厚生年金と健康保険に入れます。保険料は労使で折半なので、同じ保障を自分で全額払うより負担が軽く、将来の年金額も増えます。傷病手当金など、健康保険の給付が受けられるのも大きな違いです。

2つ目は、扶養の範囲に確実に収まるよう、年収の合計を管理すること。ただし、この場合は週40時間という目標とは両立しません。時給1,200円で週40時間働けば、年収は240万円前後になります。扶養に収めるという発想とは、そもそも桁が違うのです。

つまり、「週40時間以上働きたい」と思った時点で、実質的には1つ目の道を選ぶことになります。扶養を気にしながら週40時間を目指すのは、方向の違う2つの目標を同時に追いかけている状態です。ここに気づくと、迷いがすっと消える方が多いです。

「扶養から外れるのが怖い」という気持ちは、とても自然なものです。長く扶養の中で働いてきた方ほど、外に出ることに漠然とした不安を感じます。でも、その不安の中身を一つずつ言葉にしていくと、「保険料が高そう」「年金がどうなるかわからない」といった、調べれば答えの出ることばかりだったりします。不安は正体がわかると、ずいぶん小さくなりますよ。

週40時間以上で働くときの収入イメージを具体的に持つ

数字にしてみると、判断はもっとはっきりします。ここでは扶養から外れて自分で社会保険に加入する前提で、ざっくりした収入イメージを置いてみます。

時給1,200円で週40時間、月に173時間ほど働くと、月の額面はおよそ20万円台前半になります。ここから健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税が引かれます。社会保険料の負担はおおむね額面の15%前後が目安で、税金を含めた控除の合計は20%前後になることが多いです。手取りは16万円から17万円程度、というイメージです。

ここに週5時間の残業相当が加わると、割増分を含めて月に2万円台の上乗せになります。ただし、この上乗せ分にも社会保険料と税金がかかりますから、手取りベースでの増加はもう少し小さくなります。

大事なのは、額面の増え方と手取りの増え方が一致しないことを、最初から織り込んでおくことです。「あと3時間増やせば月1万円増える」と考えて働き始めると、給与明細を見たときに落胆します。そうではなく、控除後にどれだけ残るかで計画を立てる。この習慣がつくと、働き方の判断がずっと冷静にできるようになります。

そして、もう一つ忘れないでいただきたいのが、社会保険料は消えるお金ではないということです。厚生年金の保険料は将来の年金額に反映されますし、健康保険に加入していれば、病気やけがで長期に働けなくなったときに傷病手当金という制度が使えます。扶養の中にいると、この給付は基本的に受けられません。目先の手取りだけを見て損得を語ると、この部分が抜け落ちてしまいます。

週40時間以上働きたいときの実務手順

方針が決まったら、あとは順番に手続きするだけです。私が相談の場でお伝えしている順番をそのまま書いておきます。

手順1. 就業規則の副業規定を両社で確認する

まず、いま働いている勤務先の就業規則を確認します。副業・兼業について、禁止なのか、許可制なのか、届出制なのかを見てください。多くの職場は届出制または許可制です。全面禁止という規定が残っている職場もありますが、その規定が実際にどこまで有効かは、本業への支障の有無などによって判断が分かれます。

確認したいのは、届出の様式があるか、誰に提出するか、何を書く必要があるか、の3点です。総務や店長に「掛け持ちを考えているのですが、手続きを教えてください」と聞けば済みます。聞くこと自体が不利になるのではと心配される方がいますが、届出制の職場で黙って始めるほうがよほどリスクが高いです。

手順2. 労働時間の上限を両社に伝える

次に、それぞれの勤務先に、もう一方での勤務時間を伝えます。ここで曖昧にすると、後から割増賃金の負担でもめます。

伝え方はシンプルで構いません。「A社で週30時間働いています。こちらでは週15時間以内で調整したいです」。この一言があるかないかで、勤務先側の受け止め方がまるで違います。管理する側からすると、いちばん困るのは「知らないうちに法定時間を超えていた」という状態だからです。

このとき、シフトの申告方法もあわせて決めておくと安心です。月ごとにシフトを共有するのか、変更があったときだけ連絡するのか。ルールを決めておけば、毎回気を遣わずに済みます。

手順3. 社会保険の手続きを確認する

メインの勤務先で社会保険の加入要件を満たすなら、勤務先が手続きをしてくれます。あなたがやることは、必要書類を出すことと、配偶者の勤務先で被扶養者から外れる手続きをしてもらうことです。この2つは同時期に進めないと、健康保険証が二重になったり空白ができたりします。

もし2社ともで社会保険の加入要件を満たす場合は、「二以上事業所勤務届」という届出が必要になります。この場合、両社の報酬を合算して保険料が計算され、それぞれの会社が報酬額に応じて負担します。手続きは自分で行う必要があるので、加入要件を両方で満たしそうなときは、早めに年金事務所に相談してください。

手順4. 雇用保険と労災の扱いを知っておく

雇用保険は、原則として主たる賃金を受ける勤務先1つでのみ加入します。2社で同時に加入することはできません。どちらが主たる勤務先かは、賃金の多いほうで判断するのが一般的です。

なお、65歳以上の方については、2つの事業所の労働時間を合算して雇用保険に加入できる仕組みがあります。1社では週20時間に届かなくても、2社合計で満たせば申し出により加入できるというものです。該当しそうな場合はハローワークで確認してください。

労災保険は雇用保険と違い、働いているすべての勤務先で自動的に適用されます。しかも、複数の勤務先で働いている人がけがや病気をした場合、給付の基礎となる金額は全事業場の賃金を合算して算定されます。これは掛け持ちする人にとって、かなり心強い仕組みです。ただし前述のとおり、掛け持ちの事実を申告していることが前提になります。

手順5. 年末調整と確定申告の段取りを組む

年末調整は、主たる勤務先1社でのみ行います。ここに扶養控除等申告書を提出します。もう一方の勤務先には提出しません。

そして、2社以上から給与を受け取っている場合、原則として確定申告が必要になります。主たる勤務先以外の給与が年間20万円を超える場合が代表的な基準です。ただし、この基準は所得税に関するもので、住民税については金額にかかわらず申告が必要になる点に注意してください。

確定申告と聞くと構えてしまう方が多いのですが、給与だけであれば、源泉徴収票を2枚用意して入力するだけです。作業時間としては1時間もかかりません。国税庁の確定申告書等作成コーナーやe-Taxを使えば、計算は自動で行われます。会計ソフトを使う場合は、freeeマネーフォワードといったサービスにも給与所得の入力機能があります。

見落としがちな注意点と、体力面の現実

制度の話が続きましたので、ここからは実際に掛け持ちを始めた方が直面する現実の話をします。カウンセリングの現場で、いちばん相談が多いのはむしろこちらです。

移動時間は労働時間に入らない

A社の勤務が終わってB社へ移動する時間。これは原則として労働時間に含まれません。つまり、賃金は発生しません。

片道30分の移動を週5日続けると、月におよそ10時間が無賃で消えます。時給換算すれば決して小さくない額です。掛け持ちの職場を選ぶときは、時給の差だけでなく、移動時間と交通費を含めた実質の時給で比べてください。時給が50円高くても、移動に往復1時間かかる職場なら、近い職場のほうが有利なことは珍しくありません。

「休憩なしで連続勤務」になりやすい

A社を17時に上がり、18時からB社。この間に食事をとる時間はほとんどありません。1日の勤務時間の合計が長くなっても、それぞれの職場では法定の休憩付与義務を満たしているため、合計で見ると休憩が極端に少ない日ができてしまいます。

これは制度の隙間で、法律で守られにくい部分です。だからこそ、自分でシフトを組むときに意識的に間隔を空ける必要があります。私が相談を受けた方の中には、平日の掛け持ちをやめて土日にまとめる形に変えたことで、体調も気分もずいぶん安定した方がいました。同じ週40時間でも、詰め方によって身体への負担はまったく違います。

有給休暇はそれぞれの勤務先で発生する

意外と知られていないのですが、年次有給休暇は勤務先ごとに発生します。A社で半年勤務すれば、A社の労働日数に応じた日数の有給がもらえます。B社でも同じです。掛け持ちだから有給がない、ということはありません。

パートタイムの場合は、週の所定労働日数に応じて比例付与されます。週2日勤務でも、条件を満たせば有給は発生します。申請していない方が本当に多いので、ぜひ確認してみてください。

いちばん多い相談は、実は「疲れが抜けない」

制度の相談として来られた方が、話しているうちに本題として語り始めるのは、たいてい体調と気持ちのことです。

「休みの日に何もする気が起きない」「家族と話す時間がなくなった」「眠っても疲れが取れない」。掛け持ちを始めて数か月経った方から、こうした言葉を聞くことがよくあります。

これは怠けているのではなく、回復の時間が構造的に足りていない状態です。人は働いた分だけ休まないと元に戻りません。週40時間働くこと自体は多くの人がやっていることですが、それを2つの職場に分けると、通勤、着替え、仕事モードの切り替えといった目に見えない負荷が2倍になります。同じ40時間でも消耗の度合いが違うのは、そのためです。

対処法はシンプルです。週に1日、完全に予定を入れない日を作ること。この1日を「余った日」ではなく、最初にカレンダーに書き込む「予約済みの日」として扱ってください。順番を変えるだけで、守れるようになる方が多いです。

私自身、独立した当初は仕事を詰め込みすぎて、休みを「余った時間」として扱っていました。その結果、余りは一度も発生しませんでした。休みは確保するものであって、余るものではない。これは、失敗して初めてわかったことです。

時間を積み上げる以外の選択肢を持っておく

ここまで、掛け持ちで週40時間以上働くための制度と手順をお伝えしてきました。最後に、少し違う角度からの話をさせてください。

時間を売る働き方には、はっきりとした天井があります。1日は24時間しかなく、そのうち働ける時間には身体的な限界があるからです。週40時間を50時間にすることはできても、その先はどこかで必ず頭打ちになります。

だからこそ、掛け持ちを検討している段階で、片方を「時間に縛られない仕事」に置き換える可能性も一緒に考えてほしいのです。先ほど触れたとおり、業務委託であれば労働時間の通算対象になりません。勤務先に割増賃金の負担が発生しないため、掛け持ちの話を切り出すときのハードルも下がります。

在宅で受注できる仕事の広がり

在宅の業務委託と聞くと、特別なスキルが必要だと思われるかもしれません。実際には、事務経験や日常的なパソコン操作の延長で始められる仕事も存在します。

たとえば、Excelの関数やマクロを扱える方であれば、業務効率化を請け負う仕事につながる可能性があります。事務職の経験を単価に結びつける考え方については、VBAエキスパートで事務系副業の単価アップ|Excel自動化案件の始め方で、資格の活用方法と案件の探し方を具体的に整理しています。関連する資格としてVBAエキスパートの内容も確認しておくと、学習の道筋が見えやすくなります。

まったく経験がないところから始める場合は、準備の順番を知っておくことが遠回りを防ぎます。在宅ワークを未経験から始める方法|必要なスキルと準備【2026年版】では、必要な機材、最初に身につけるべきスキル、最初の受注までの流れがまとめられています。

そして、在宅で働き始めた方が最初につまずくのは、実は集中力の管理です。職場と違って、家には家事も家族もあります。在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックでは、時間管理の技法だけでなく、環境と体調から集中を組み立てる方法が紹介されています。

単価の相場を知ってから選ぶ

在宅の仕事を検討するとき、いきなり案件を探すより先に、その分野の単価相場を知っておくほうが判断を誤りません。相場を知らないまま応募すると、極端に安い条件を「こんなものか」と受け入れてしまうからです。

文章を書く仕事に興味があるなら、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で、公的統計に基づいた収入水準の目安が確認できます。技術系に踏み込むならソフトウェア作成者の年収・単価相場が参考になります。どちらも、時給換算したときに掛け持ちのパートと比べてどうか、という視点で見てみてください。

分野そのものを検討する段階であれば、アプリケーション開発のお仕事AI・マーケティング・セキュリティのお仕事といったガイドで、どんな業務があってどんなスキルが求められるのかを俯瞰できます。企業のAI活用を支援するAIコンサル・業務活用支援のお仕事のように、ここ数年で新しく生まれた領域もあります。ネットワークの基礎を体系的に学ぶならCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が入口になります。

もちろん、いますぐ在宅の仕事に切り替えましょうという話ではありません。ただ、選択肢を1つしか持っていない状態と、2つ持っている状態では、目の前の仕事に対する気持ちの余裕がまるで違います。それだけでも、知っておく価値はあります。

掛け持ちで働く人のデータから見えること

実際に掛け持ちを検討している人が、どんなことで悩んでいるのか。公開されている相談の内容を見ると、傾向がはっきりと見えてきます。

パートで1日8時間、週5で働いてます。(本業) 最近、Wワークを始めました。 本業終わりに副業... 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

この相談が象徴的なのは、すでに1社でフルタイム相当の時間を働いている人が、さらに掛け持ちを始めているという点です。つまり、「週40時間まで働きたい」ではなく「週40時間ではまだ足りない」という段階の相談が現実に存在しているということです。

こうした相談に共通しているのは、時間の上限に関する質問から始まって、途中で税金と社会保険の話に移り、最終的に「結局どこまで働けばいいのか」に行き着くパターンです。制度の質問に見えて、実際は生活設計の相談なんです。

そして、これらの相談を読んでいて気づくのは、時間を増やす方向でしか解決策を検討していない方が多いことです。時給を上げる、単価の高い仕事に移る、時間に縛られない収入源を持つ。こうした選択肢が最初から視野に入っていないケースが目立ちます。

20年この市場を見てきた立場からの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、長く安定して働き続けている人には、共通する特徴があります。それは、作業時間を売るのではなく、「この人に頼むと楽だ」という関係を作ることに時間を使っていることです。

新しい案件を探し続けている人と、同じ相手から継続して依頼を受けている人とでは、同じ収入でも消耗の度合いがまるで違います。前者は毎回ゼロから信頼を築き直さなければならない。後者は、説明の手間も、条件交渉の時間も、年々減っていきます。時間あたりの実質的な報酬は、後者のほうが確実に高くなっていきます。

もう一つ、運営者として見てきた限りで確かなことがあります。仲介者が入って中間マージンが引かれる取引と、依頼者と受け手が直接やりとりする取引とでは、同じ予算でも動く金額が違うということです。中間で引かれる分がなければ、依頼する側は同じ予算でより多くの仕事を頼めますし、受ける側の手取りは厚くなります。手数料0%という条件が意味を持つのは、金額の大小ではなく、「働いた分がそのまま手元に残る」という感覚が、続ける気力に直結するからです。

掛け持ちで週40時間を積み上げている方ほど、この差は大きく効いてきます。時間を限界まで使っているからこそ、1時間あたりに残る金額の違いが、そのまま生活の余裕の違いになるからです。

判断の順番を間違えないために

最後に、この記事でお伝えしてきたことを、判断の順番として並べておきます。

最初に決めるのは、扶養の中にとどまるのか、外れて自分で社会保険に入るのか。週40時間以上を目指すなら、答えは後者です。ここが決まらないと、他のすべてが決まりません。

次に、社会保険をどこで掛けるかを決めます。メインとなる勤務先で加入要件を満たすように時間を配分する。ここを曖昧にしたまま時間を分散させると、いちばん損な形になります。

そのうえで、労働時間の通算と割増賃金の話を両社に共有します。隠さずに伝えることが、結果として自分を守ります。

そして、時間を積み上げる以外の選択肢を、並行して少しずつ試しておく。週に2時間でも構いません。時間を売る働き方の天井が見えている以上、別の入口を持っておくことは、いつか必ず効いてきます。

焦らなくて大丈夫です。全部を今日決める必要はありません。まずは就業規則を確認するところから、始めてみてください。

よくある質問

Q. パートを掛け持ちして週40時間を超えても違法になりませんか?

違法ではありません。労働基準法は週40時間超を禁止しているのではなく、超える場合に手続きと割増賃金を求めています。ただし雇用契約どうしは労働時間が通算されるため、超過分の割増賃金は原則として後から契約した勤務先が負担します。両社に勤務時間を申告しておくことが必要です。

Q. 週20時間ずつ2社で働けば、社会保険には入らずに済みますか?

勤務先での社会保険加入は勤務先ごとに判定するため、どちらも要件未満なら加入しません。ただし配偶者の被扶養者かどうかは全収入を合算して判定します。合計年収が基準を超えると扶養から外れ、勤務先の社会保険にも入れないまま国民健康保険と国民年金を全額自己負担する形になり、最も不利です。

Q. 掛け持ちの場合、確定申告は必要ですか?

2か所以上から給与を受けている場合は原則として確定申告が必要です。主たる勤務先以外の給与が年間20万円を超えるかどうかが所得税の代表的な基準ですが、住民税は金額にかかわらず申告が必要です。年末調整は主たる勤務先1社だけで行い、扶養控除等申告書もそこにのみ提出します。

Q. 掛け持ち先の一方を在宅の業務委託にすると、何が変わりますか?

業務委託は雇用契約ではないため、労働時間の通算対象になりません。勤務先に割増賃金の負担が生じないので、掛け持ちの相談もしやすくなります。ただし契約書の名称ではなく実態で判断されるため、指揮命令や時間拘束が強い働き方だと雇用とみなされる場合があります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月10日最終更新:2026年8月3日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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