複数社の掛け持ちで在宅3Dモデリングがつまずくのは守秘義務

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
複数社の掛け持ちで在宅3Dモデリングがつまずくのは守秘義務

この記事のポイント

  • 3Dモデリングの掛け持ちを在宅で続けようとすると
  • 最初に壁になるのは技術力ではなく守秘義務です
  • 応募で落ちる申告の仕方

結論から書きます。在宅で3Dモデリングを複数社掛け持ちしようとして詰まる人の大半は、モデリングの腕が足りないのではありません。守秘義務まわりの取り扱いを軽く見て、応募段階で落ちるか、契約後に居づらくなるかのどちらかです。技術の話は探せばいくらでも出てきますが、掛け持ちの可否を決めているのは契約書の数行です。

「3Dモデリング 掛け持ち 在宅」と検索してこの記事にたどり着いた人は、たぶん一社目はもう持っています。そのうえで、稼働に空きが出た、単価が上がらない、一社依存が怖い、といった理由で二社目を探し始めた。ところが応募しても返事が来ない、面談で掛け持ちの話を出したら空気が変わった、あるいは契約書を読んだら掛け持ちを禁じているように読める条文があった。そういう局面のはずです。

この記事では、掛け持ちがうまくいかない理由を、市場の側と契約の側と自分の運用の側に分けて書きます。きれいごとは省きます。掛け持ちを勧める話でも、やめろという話でもなく、どこで詰まるかと、詰まったときにどう判断するかの話です。

在宅の3Dモデリングで掛け持ちが増えている構造

まず市場の側から押さえます。掛け持ちが増えているのは、働く側の意欲の問題ではなく、発注の形が変わったからです。

フルリモート前提の募集が普通になった

3DCGモデラーの募集要項を並べて見ると、在宅可、フルリモート可、副業可という表記が当たり前に並ぶようになりました。以前はスタジオに出社してワークステーションを使うのが前提でしたが、今は個人のPCで作業してデータだけをやり取りする形が主流です。募集の実物を見るとこの傾向がはっきり出ています。

【特徴】完全在宅/全国OK/在宅OK/残業月10時間以内/残業月20時間以内...【応募資格】Mayaを使用した3DCGモデリングの実務経験・Substance、Photoshopなど基本ツールの使用経験... 出典: 求人ボックス

完全在宅で全国から募集するということは、発注側から見れば地理的な制約が消えたということです。同時に、受注側から見ても一社に縛られる物理的な理由が消えました。移動時間がゼロなら、午前と午後で別の会社の仕事をしても物理的には成立します。掛け持ちが選択肢に入るのはこの構造変化の結果です。

掛け持ちは「増収」より「谷を埋める」ために選ばれている

ここは誤解されがちなので、はっきり書きます。掛け持ちしている在宅モデラーの多くは、収入を倍にしたくてやっているのではありません。案件の切れ目に発生する空白を埋めるためにやっています。

3Dモデリングの受注は波が激しい職種です。ゲームのアセット制作なら量産フェーズに一気に発注が来て、そのフェーズが終われば静かになります。映像案件なら納品の直前だけ死ぬほど忙しく、その前後は暇です。一社だけに依存していると、忙しい月と空いている月の差が3倍以上になることも珍しくありません。これを均すために二社目を持つ。動機としてはきわめて実務的です。

ただし、この「均す」という発想が、実は掛け持ちの最大の落とし穴でもあります。案件の波は各社バラバラに来ますが、繁忙期が重なる確率はそれなりに高い。年度末、大型タイトルのリリース前、展示会シーズンといった業界共通の山があるからです。二社の谷を埋めるつもりが、二社の山が重なって両方に迷惑をかける。この事故が起きたときに、掛け持ちしていること自体が信頼を失う原因になります。

求められるスキルの範囲は広がり続けている

もうひとつ、市場側の事情を押さえておきます。3Dモデリングの募集要項は、単純なモデリング技能だけを求めるものが減っています。XR領域の募集を見ると、モデリングは要件のひとつに過ぎません。

XR領域の3Dエンジニア募集です。3D表現を用いたリアルなコンテンツ開発、構造設計、実装、Shader開発、Plugin開発などを行います。最先端技術やユーザー体験を重視したプロダクト開発に携わり、エンジニアとして新しいチャレンジが可能です。C++、オブジェクト指向言語、3DCGソフトウェア開発、Shader開発、Git、チームリーダー経験が3年以上必須です。Unity、Unreal、XR知識、3Dモデリング経験なども歓迎します。フルフレックス制でリモート頻度も高く、平均残業時間は18時間です。 出典: 求人ボックス

正直なところ、この水準を掛け持ちの片手間で満たすのはかなり厳しい。掛け持ちが成立しやすいのは、作業範囲が明確に切られた案件です。キャラクターの量産、背景アセットの差し替え、既存モデルのリトポロジー、テクスチャの解像度違いの書き出しといった、仕様が固まっている工程。逆に、設計から関わる案件や、チームの意思決定に入る案件は、掛け持ちと相性が悪いという特徴があります。二社目を探すときは、ここの見極めを先にやったほうがいい。

掛け持ちで最初に壊れるのは守秘義務まわりです

ここからが本題です。掛け持ちが破綻する原因を順位づけすると、一位は守秘義務の取り扱いです。二位が稼働時間の見積もりミス、三位が単価の設定ミス。技術力は上位に来ません。

秘密保持契約の「第三者」に他のクライアントが入るという読み違え

秘密保持契約、いわゆるNDA(エヌディーエー)を交わすとき、多くの人は「他人に喋らなければいい」くらいの理解で署名します。これ、知らない人が本当に多い。条文の「第三者に開示または漏洩してはならない」という書き方の第三者には、あなたが掛け持ちしている別のクライアントも当然に含まれます。

具体的にどこで事故るか。よくあるのは次のような場面です。A社のキャラクターモデルを作っていて、その過程で作った便利なリグやスクリプトを、B社の案件でそのまま使う。あるいは、A社で使ったマテリアルの設定値をそのままB社に流用する。作った本人からすれば自分の技術ですが、A社の仕様書に基づいて作られたものであれば、A社の秘密情報を持ち出したと評価される余地があります。

さらに危ないのが、打ち合わせでの口が滑るパターンです。B社との定例で「他社さんだと最近こういう仕様が主流ですよ」と言ってしまう。善意のアドバイスのつもりでも、聞いた側は「この人はうちの情報も他所で喋るな」と受け取ります。守秘義務違反として法的に追及されるかどうか以前に、信頼の問題として即座に効いてきます。

競業避止の条項が掛け持ちそのものを禁じている場合

もうひとつ、契約書に紛れ込んでいて見落とされやすいのが競業避止条項です。つまり、契約期間中およびその後一定期間、同業他社の業務を受けてはならないという定めです。

業務委託契約でこの条項が入っているケースは、思っているより多い。特にゲーム会社や受託制作会社との契約では、「本契約期間中、甲の競合する事業を営む第三者のために、本業務と同種の業務を行ってはならない」といった書き方で入っています。この一文があると、掛け持ちは契約違反になります。

ここで注意してほしいのは、この条項がどこまで有効かという話とは別に、実務上は「書いてある以上、揉めたら不利」という点です。競業避止の有効性は、期間や地域や代償措置の有無で判断が分かれます。ただ、あなたが訴訟で争って勝てるかどうかと、その会社との仕事が続くかどうかは全く別の話です。契約書に競業避止があるなら、掛け持ちを始める前に発注者に確認する。これ以外の正解はありません。

なお、契約内容が一方的に不利な場合や、実際にトラブルになった場合は、弁護士や、フリーランス向けの相談窓口に相談してください。契約書の一文の解釈は、前後の条文と実際の運用で結論が変わります。

アセットと素材の持ち出しが一番危ない

3Dモデリング特有のリスクとして、データそのものが物理的に手元に残る点があります。納品後、ローカルに作業データが残る。バックアップにも残る。これは事故の温床です。

私が実際に見て「これはまずい」と思ったのは、ポートフォリオの更新でした。掛け持ち中のモデラーが、案件で作ったモデルの一部を自分の作品として個人サイトに掲載していた。本人は「未公開部分は消したから大丈夫」と考えていましたが、シルエットとトポロジーで元の案件が特定できる状態でした。公開前のタイトルだったので、これは深刻な事態になりかけました。

在宅の3Dモデリングで守秘義務を守るというのは、口を閉じることではなく、データの置き場所と消し方を設計することです。具体的には次の運用になります。

・クライアントごとに作業フォルダを物理的に分け、共有ストレージのアカウントも分ける ・納品後、契約で定められた保管期間を過ぎたら作業データを削除し、削除した日付を記録する ・ポートフォリオに載せるかどうかは、必ず書面で許諾を取る。口頭の「いいですよ」は残らない ・自作のスクリプトやリグは、案件に依存しない汎用部分だけを自分の資産として切り出しておく ・素材サイトから購入したアセットは、ライセンスが商用利用と再配布のどちらまで許すかを案件ごとに確認する

最後の項目は掛け持ちだと特に効いてきます。個人利用ライセンスで買った素材を、複数のクライアント案件で使い回すと、ライセンス違反になる場合があります。素材の請求書と利用範囲は、案件ごとに紐づけて記録しておくべきです。

応募して落ちるのは、掛け持ちの伝え方が悪いからです

二社目を探して応募しているのに通らない、という段階の話をします。作品の質が理由で落ちているケースももちろんありますが、掛け持ち特有の落ち方があります。

掛け持ちを隠して、稼働時間で矛盾するパターン

一番多い落ち方です。応募書類に現在の稼働状況を書かず、面談で「すぐに着手できます」「週40時間出せます」と答える。ところが職務経歴に現在進行形の案件が書いてある。発注側は当然「その案件はどうなるのか」と聞きます。ここで曖昧に答えると、その時点で信用の話になります。

発注側が知りたいのは、掛け持ちしているかどうかではありません。「自分の案件に、いつ、どれだけの時間を割いてもらえるか」です。だから答えるべきは稼働可能時間の実数と、その根拠です。「現在A社の案件を週20時間で受けており、そちらは来月中旬に納品予定です。御社には初月は週15時間、翌月以降は週30時間を確保できます」と数字で言えば、それだけで通過率は上がります。

稼働可能時間を盛って、初月で信用を落とすパターン

逆に、取りたいがために時間を盛る人もいます。これは応募には通りますが、続きません。掛け持ちの稼働見積もりで見落とされがちなのは、モデリング以外の時間です。

3Dモデリングの実作業以外に、確実に発生する時間があります。仕様の確認、リテイク対応、進捗報告、データの書き出しと検証、チャットの返信、定例のミーティング。一社あたり週3時間から5時間は見ておく必要があります。二社掛け持ちなら、それだけで週10時間近くが実作業以外に消える計算です。

私自身、編集の仕事を掛け持ちで受け始めたころ、この間接時間を完全に見落として痛い目に遭いました。稼働の見積もりを実作業だけで組んでいたので、二社目を受けた月に稼働が破綻して、片方の納期を遅らせてしまった。作業の腕とは関係のないところで信用を落とすというのは、こういうことです。

ポートフォリオに出せる作品がなくて落ちるパターン

守秘義務の話がここに戻ってきます。掛け持ち歴が長いほど、守秘義務の縛りで見せられない作品が増えます。結果として、応募時に出せるポートフォリオが古いものばかりになる。実務経験は積んでいるのに、証明できないという状態です。

対策は先回りするしかありません。案件を受けるときに、公開可否を契約段階で確認しておく。公開できない案件が続くなら、意図的に自主制作を挟んでポートフォリオ用の作品を作っておく。この自主制作は、実案件で使った技術のうち、案件固有の情報を含まない部分を再現する形で作ると効率がいい。

なお、モデリング以外の周辺スキルで実力を証明する手もあります。ネットワークやインフラの知識を証明するCCNA(シスコ技術者認定)のような資格は、リモートワークでの環境構築力の裏づけになります。書類作成やコミュニケーションの基礎を示したいならビジネス文書検定のような資格が、発注書や見積書のやり取りが発生する掛け持ち実務との相性が良い。作品が出せない期間の埋め合わせとして考える価値はあります。

契約書のどこを読めば掛け持ちの可否がわかるか

掛け持ちを始める前に読むべき条項を、優先順位順に並べます。契約書は全部読むのが理想ですが、時間がないなら最低限この4つです。

秘密保持条項

確認すべきは3点です。第一に、秘密情報の定義の範囲。「本業務に関して知り得た一切の情報」と広く書かれているのか、「秘密である旨を明示したもの」に限定されているのか。前者だと、案件で得たノウハウの大半が縛られます。第二に、義務の存続期間。契約終了後3年なのか、無期限なのか。第三に、成果物の公開可否が別に定められているかどうか。

競業避止条項

前述のとおりです。「競合」の定義が書かれているかを確認してください。「同業他社」とだけ書かれている場合、3DCG制作会社すべてが該当すると読める余地があります。範囲が広すぎると感じたら、契約前に「特定のタイトルと直接競合しない案件は受けてよいか」を書面で確認する。口頭の合意は、担当者が変わった瞬間に消えます。

成果物の権利帰属と著作者人格権

3Dモデルの権利がどちらに帰属するか、そしてポートフォリオ掲載が可能かどうか。「著作権は納品と同時に発注者に移転する」と書かれているのが一般的ですが、そこに「ただし受注者は実績紹介のために利用できる」という但し書きがあるかどうかで、あなたの営業活動の自由度が変わります。掛け持ちで生きていくなら、この但し書きの有無は死活問題です。

再委託の禁止

掛け持ちの過負荷で、一部を知り合いに手伝ってもらう。これをやると再委託禁止条項に抵触します。3Dモデリングは工程を分けやすいので、つい人に頼みたくなる。ですが、無断の再委託は守秘義務違反と契約違反の両方に当たる可能性があります。手伝ってもらう必要が出た時点で、必ず発注者に相談してください。

なお、フリーランスとして受注する側の立場を守る法制度も整備が進んでいます。取引条件の明示義務や、報酬の支払期日に関するルールなど、発注者側に課される義務があります。制度の全体像は厚生労働省公正取引委員会の公表資料が一次情報として確実です。契約書を読むときは、契約書に書いてあることと、法律が発注者に課している義務の両方を見てください。

掛け持ちの運用で守秘義務を壊さない具体策

契約の話が終わったので、日々の運用の話をします。ここは技術というより習慣の設計です。

環境を分ける

理想は、クライアントごとにPCを分けることです。ただし3Dモデリング用のマシンは高価なので、現実的には次の順序で分離レベルを上げていきます。

・最低限:作業フォルダとクラウドストレージのアカウントをクライアントごとに分ける ・推奨:OSのユーザーアカウントを分け、ブラウザのプロファイルも分ける ・堅牢:仮想マシンまたは別ドライブでOSごと分ける ・完全:物理的に別のPCを使う

分けるべき理由は、うっかりを防ぐためです。同じデスクトップに両社のファイルが並んでいると、いつか間違ったファイルを間違った相手に送ります。この事故は、注意力ではなく設計で防ぐものです。

命名規則とファイルの取り扱い

ファイル名にクライアント名やタイトル名を入れるのは、便利ですが危険です。スクリーンショットを撮ったとき、画面共有をしたとき、ファイル名がそのまま漏れます。プロジェクトコードを割り当てて、対応表は別管理にするのが安全です。

書き出したデータの受け渡しも要注意です。個人のクラウドストレージに置いて共有リンクを配ると、リンクさえ知っていれば誰でも見られる状態になりがちです。クライアント指定のストレージがあるならそれを使い、無いなら期限付きリンクとパスワードを必ず設定する。

画面共有と配信とSNS

作業配信をしているモデラーは一定数いますが、掛け持ちを始めたら配信の運用は見直すべきです。画面の端に別案件のフォルダが映る、通知が飛んでくる、タスクバーにアプリ名が出る。配信中の事故はほぼこの3パターンです。

SNSも同様です。「今日は納品ラッシュで死んでる」程度の投稿でも、フォロワーに両社の関係者がいれば、稼働状況は推測されます。特に、片方の案件で遅延を出しているときに、もう片方の作業の楽しさを投稿するのは避けたほうがいい。感情的な反発を買います。

打ち合わせの記録

オンライン会議の録画とメモは、両社の情報が同じアプリの同じ場所に溜まります。会議ツールのクラウド録画は、保存先とアクセス権を確認してください。文字起こしの自動保存が有効になっていると、意図せず社外のサービスにデータが渡ることがあります。クライアントによっては、これ自体が契約違反です。

掛け持ちが続かない人の共通点

守秘義務を守り、契約も確認した。それでも掛け持ちが続かない人がいます。原因は管理の仕方にあります。

案件を本数で管理している

「今は2本受けている」という数え方をしている人は、遅かれ早かれ破綻します。3Dモデリングの1本は、内容によって工数が10倍違います。キャラクター1体のフルスクラッチと、既存モデルのテクスチャ差し替えでは、まったく別物です。管理すべきは本数ではなく、週あたりの確定作業時間です。

具体的には、案件ごとに「今週の確定作業時間」と「今週の予備時間」を書き出して、合計が自分の上限を超えていないかを毎週見る。リテイクの発生を見込んで、予備時間は全体の20%ほど確保しておくのが現実的です。

修正回数の上限を決めていない

3Dモデリングのリテイクは、際限なく発生し得ます。「もう少しかっこよく」「イメージと違う」といった主観的な指示は、何度でも来ます。掛け持ちしていると、片方のリテイクが延々続いて、もう片方の時間を食い潰す。

契約時に修正回数の上限と、上限を超えた場合の追加費用を決めておく。これは発注者に不利な条件ではなく、双方にとって進行を予測可能にする条件です。「修正は納品後2回まで、それ以降は1回あたり別途見積もり」と明記しておくだけで、無限リテイクの多くは止まります。

単価を時間で割っていない

案件の良し悪しを総額で判断していると、掛け持ちの取捨選択を誤ります。判断すべきは時間あたりの単価です。総額30万円でも、実労働が200時間かかれば時間あたり1,500円です。総額12万円40時間なら時間あたり3,000円。掛け持ちで削るべきは、前者です。

職種ごとの単価水準を知りたいなら、公的な統計をベースにした資料を見ておくといい。当サイトでは職種別の年収と単価の相場をまとめており、ソフトウェア作成者の年収・単価相場では開発系職種の水準を、著述家,記者,編集者の年収・単価相場では制作系職種の水準を確認できます。3Dモデリングそのものの数字ではありませんが、近接する職種の水準を知っておくと、自分の単価が市場から見て高いか低いかの当たりがつきます。

やめどきをどう見極めるか

掛け持ちを畳む判断の話です。感情ではなく数字で決めてください。

見るべき数字は3つです。ひとつ目は、直近3ヶ月の時間あたり単価の推移。下がり続けているなら、案件の質ではなく自分の見積もりが崩れています。ふたつ目は、納期遅延の回数。2社のうちどちらかで2回以上遅延を出しているなら、掛け持ちの容量を超えています。3つ目は、実作業以外に消えている時間の割合。全稼働の30%を超えたら、管理コストが利益を食っています。

このうち2つが当てはまったら、片方を畳む。畳むときは、契約書の解約条項に従って、予告期間を守って通知します。突然消えるのは最悪の選択です。3DCGの制作現場は狭く、モデラーの評判は会社をまたいで伝わります。ここで丁寧に終われるかどうかが、次の案件に直結します。

畳んだあとに一社に戻るのは、後退ではありません。稼働を一本化して単価交渉に集中したほうが、時間あたりの手取りが増えることは普通にあります。掛け持ちは目的ではなく手段です。

直接取引の構造が掛け持ちの前提を変える

20年この市場を運営してきた立場から見て、掛け持ちに関する認識で一番変化したのは、仲介の位置づけです。以前は、案件を得る経路が実質的に制作会社からの下請けしかなく、掛け持ちは「元請けに隠れてやること」でした。今は発注者と直接つながる経路が普通にあり、掛け持ちは前提として合意できるものになっています。

そして運営者として見てきた限りでは、長く掛け持ちを続けている人ほど、案件の数を増やすことにではなく、一社ごとの関係の密度に時間を使っています。仕様の確認を先回りする、修正の意図を先に言語化しておく、進捗を聞かれる前に出す。こういう「この人に任せると楽だ」という状態を作った人が、結果的に継続案件を持ち、稼働の谷が浅くなっている。谷が浅くなれば、掛け持ちの必要性そのものが減ります。

もうひとつ、額面と手取りの話をしておきます。中間マージンが乗る経路では、発注者が出した金額の何割かが仲介に落ちます。手数料0%の直接取引が効くのは、単価が上がるからではなく、同じ予算で発注者はより多くの工数を頼めて、受け手は同じ作業で手取りが厚くなるからです。掛け持ちで時間が足りない人にとって、これは「働く時間を増やさずに手取りを増やす」唯一の現実的な方法になります。運営していて実感するのは、掛け持ちを卒業していく人の多くが、この経路の切り替えを通っているということです。

職種横断で見たときの3Dモデリング掛け持ちの位置づけ

最後に、当サイトが掲載している職種ガイドの構成から、3Dモデリングの掛け持ちがどのあたりに位置するかを整理します。

在宅ワークの職種を、掛け持ちのしやすさで並べると、明確な傾向が出ます。掛け持ちしやすいのは、作業単位が小さく、成果物の受け渡しが非同期で完結し、機密性が比較的低い仕事です。逆に掛け持ちしにくいのは、機密性が高く、チームの意思決定に入る必要があり、同期的なコミュニケーションが多い仕事です。

3Dモデリングは、この軸で言うと中間よりやや「しにくい」側にあります。作業単位は切り分けやすいのですが、機密性が高い。未公開タイトルのアセットを扱う以上、守秘義務の縛りは強くなります。だからこの記事は、時間管理の話ではなく守秘義務の話を先に置きました。

参考までに、掛け持ち適性が高い側の職種として、当サイトのAIコンサル・業務活用支援のお仕事では、企業のAI導入を支援する業務の内容と必要スキルを解説しています。相談ベースで成立する分、稼働の切り分けがしやすい類型です。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事では、分析や運用の実務がどう発注されているかを扱っており、成果物ベースで区切りやすい仕事の例として参考になります。逆に、掛け持ちしにくい側の代表としてアプリケーション開発のお仕事を見ると、チームでの継続開発が中心になるため、3Dモデリングと似た制約が出やすいことがわかります。

契約面の知識を補強したい人は、発注書や契約書のチェックポイントを整理したフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが実務的です。取引条件の明示がどこまで義務なのか、何を書面で残すべきかを確認できます。掛け持ちで複数の契約を並行管理するなら、この整理は先にやっておくべきです。

事業として本腰を入れる段階になったら、法人化や登記まわりの費用感も無関係ではなくなります。本店移転・役員変更登記の報酬相場|オンライン申請とプロへの依頼比較【2026年最新】では、手続きを自分でやる場合と専門家に頼む場合のコスト比較を扱っています。また、確定申告や記帳を含めた事務の外注を考えるなら、税理士の副業ガイド|確定申告代行・記帳代行で稼ぐ方法【2026年版】が、依頼される側の視点から相場感を掴むのに役立ちます。掛け持ちで案件数が増えるほど、経理の手間は比例して増えるので、どこまで自分でやるかの線引きは早めに決めたほうがいい。

掛け持ちがうまくいくかどうかは、モデリングの腕ではなく、契約を読む力と、環境を分ける設計と、時間を数字で見る習慣で決まります。順番を間違えなければ、掛け持ちは十分に成立する働き方です。

よくある質問

Q. 契約書に競業避止の条項があると、掛け持ちは絶対にできませんか?

条項があるなら、無断で始めるのは避けてください。有効性は期間や範囲、代償措置の有無で判断が分かれますが、争って勝てるかどうかとその会社との仕事が続くかどうかは別問題です。実務上の正解は、掛け持ちを始める前に発注者へ書面で確認し、競合しない案件なら受けてよいという合意を残すことです。判断に迷う条文があれば弁護士に相談してください。

Q. 掛け持ちしていることを応募時に伝えると不利になりますか?

伝え方次第です。発注側が知りたいのは掛け持ちの有無ではなく、自分の案件にいつどれだけ時間を割いてもらえるかです。「現在1社を週20時間で受けており、御社には初月週15時間、翌月以降週30時間を確保できます」と数字と根拠で答えれば、むしろ計画性の評価につながります。隠して稼働時間が矛盾するほうが確実に不利です。

Q. 掛け持ちの案件をポートフォリオに載せてもいいですか?

契約書の成果物の権利帰属条項と秘密保持条項を確認してください。「著作権は発注者に移転する」とだけあり実績紹介の但し書きがない場合、無断掲載は違反になり得ます。口頭の許可では後で担当者が変わると残らないので、必ず書面で許諾を取ってください。公開できない期間が続くなら、案件固有情報を含まない自主制作を挟んでおくのが現実的です。

Q. 掛け持ちをやめる判断はどこでつければいいですか?

数字で決めてください。直近3ヶ月の時間あたり単価が下がり続けている、どちらかの案件で納期遅延が2回以上出ている、実作業以外の時間が全稼働の30%を超えている。この3つのうち2つが当てはまったら片方を畳む段階です。畳むときは契約の解約条項に従って予告期間を守り、丁寧に終わらせてください。制作現場は狭く、評判は会社をまたいで伝わります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年3月8日最終更新:2026年8月12日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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