専属で受けてほしいと言われたら他社の仕事より先に報酬を確かめる


この記事のポイント
- ✓在宅ワークで「専属で受けてほしい」と言われたときの専属条項の読み方を解説します
- ✓競業避止型と専念型の違い
- ✓契約書のどこに隠れているか
在宅ワークで長く付き合ってきたクライアントから、ある日「今後は専属で受けてもらえませんか」と打診される。売上の柱になっている相手からの言葉なので断りづらいし、単価も少し上がるかもしれない。ただ、その一言の裏で自分が何を差し出すことになるのかは、契約書の専属条項をきちんと読まないと分かりません。この記事では、在宅ワークの契約に出てくる専属条項を種類ごとに分解し、他社案件を止めてしまう前に必ず確認しておくべきポイントと、条件を変えてもらうための具体的な交渉の言い方まで整理します。
結論から書きます。専属条項は「受けてはいけないもの」ではありません。危ないのは、専属を求められているのに専属分の対価が設計されていない契約と、契約が終わったあとまで縛りが残る契約の2つです。この2点さえ潰せば、専属は収入を安定させる武器になります。逆にここを見ないままサインすると、収入源を1社に固定したうえで、その1社の都合で切られたときに次の仕事を探せない状態が出来上がります。
在宅ワークで専属を求める発注が増えている背景
私はアパレルブランドのEC運営支援とSNS運用を主な仕事にしています。この分野は、ここ数年で「単発の作業依頼」から「まるごと任せたい」への移行が急速に進みました。撮影ディレクション、商品説明文、Instagramの投稿設計、在庫と連動したキャンペーン運用。これらを別々の外注先に振ると、ブランドの世界観がバラバラになり、社内の担当者は調整だけで1日が終わります。だから発注側は、分かっている人に固めて任せたくなる。専属の打診は、その延長線上で出てきます。
もう1つ、発注側が専属を口にする理由があります。情報の流出を怖がっているからです。在宅ワークの受け手は自宅で作業し、複数のクライアントを並行して抱えているのが普通です。発注側から見ると、自社の販売データや原価率、来季の企画が、同じ人を通じて競合に流れるように見えてしまう。実際に流れることは滅多にありませんが、社内で決裁を通す立場の人は「同業他社の案件も受けている外部の人に、うちの数字を渡していいのか」と必ず聞かれます。専属条項は、その質問への答えとして持ち出されることが多いのです。
在宅ワークの市場規模そのものも拡大が続いています。総務省の労働力調査や各種の民間調査では、本業と副業を合わせてフリーランス的な働き方をしている人は日本国内で数百万人規模とされ、業務委託を前提とした求人の掲出も増え続けています。母数が増えれば、発注側が「良い人を囲い込みたい」と考えるのは自然な流れです。囲い込みの手段が、単価アップと専属条項のセットになっているわけです。
ただ、市場が広がったぶん、契約の中身は玉石混交になりました。大手のように法務部が作った契約書を出してくる会社もあれば、どこかで拾ったテンプレートに社名だけ差し替えた契約書を送ってくる会社もあります。後者の場合、専属条項だけが妙に厳しく、報酬や解除の条項はスカスカ、というアンバランスな契約書が出てきます。読む側の目が試されるのはここです。
フリーランスとして活動するなら、適切な契約書の作成は自身を守るための最重要武器です。特に在宅ワークでは、対面での確認が難しいからこそ、契約内容をしっかり固めておく必要があります。実際、国民生活センターには毎年数百件の「契約内容と違う」「支払いがない」といったフリーランスからの相談が寄せられています。そこで今回は、在宅ワーク契約書に絶対入れるべき7つの条項を解説します。 出典: kouseishoushoyokohama.com
対面で会わないまま数十万円規模の取引が動くのが在宅ワークです。口頭のニュアンスで補える部分が少ないぶん、書かれた文言がそのまま効いてきます。専属条項は特にそうで、「まあ実質そんなに縛るつもりはないので」と担当者が言っていても、揉めたときに参照されるのは契約書の文面だけです。
専属条項は3タイプある。まず自分がどれを求められているか見分ける
「専属」という言葉は日常語としては1つですが、契約書の中では効き方の違う3つのタイプに分かれます。この3つを混同したまま議論すると、交渉がかみ合いません。まずは相手が求めているものがどれなのかを特定してください。
競業避止型:同業他社の仕事を受けないでほしい
いちばん多いのがこのタイプです。「乙は、本契約期間中、甲と競合する事業を営む第三者に対し、本業務と同種の役務を提供してはならない」といった書き方をされます。ポイントは、禁止の対象が「競合他社」に限定されている点です。業種が違うクライアントの仕事は続けられます。
このタイプで必ず確認したいのが、競合の定義です。契約書に定義が書かれていないケースが非常に多く、そのまま受けると解釈がクライアント任せになります。アパレルの例で言えば、「レディースアパレルのD2Cブランド」を競合と読むのか、「アパレル業界全体」を競合と読むのか、さらに広げて「EC運営をしている会社全部」を競合と読むのかで、私の仕事の受けられる範囲は10分の1くらいに変わってしまいます。定義がないなら、自分から書き足す提案をしてください。「競合とは、甲が販売する◯◯カテゴリの商品を主力商品として国内向けに販売する事業者をいう」というように、カテゴリと地域で絞るのが実務的です。
専念型:他の仕事を一切受けないでほしい
「乙は、本契約期間中、甲の書面による事前の承諾なく、第三者から業務を受託してはならない」という形です。競合かどうかを問わず、他社の仕事を全部止めろという内容なので、実質的には雇用に近い拘束になります。
このタイプが提示されたら、最初に単価の話に持っていってください。他社案件をすべて止めるということは、その人の稼働時間をほぼ買い上げるという意味です。稼働時間を買い上げるなら、月額の固定報酬で、かつ最低保証がなければ計算が合いません。「月20時間分の作業を都度発注、単価は据え置き、ただし他社案件は禁止」というような契約は、受け手側から見ると成立していない条件です。ここは遠慮なく指摘していい部分です。
また、専念型が強すぎると、そもそも業務委託ではなく労働契約ではないかという論点が出てきます。指揮命令の度合い、勤務時間の拘束、報酬の性質などを総合して判断されるもので、契約書のタイトルが「業務委託契約書」であっても実態が労働者に近ければ労働関係法令の保護対象になり得ます。厚生労働省は自営型テレワークの適正な実施のためのガイドラインを公表しており、発注側が守るべき事項が整理されています(厚生労働省)。ただしこの線引きは個別事情で結論が変わるため、自分のケースが該当するかどうかは労働局の相談窓口や弁護士に確認するのが確実です。
優先受注型:うちの依頼を最優先で受けてほしい
3つ目は、他社案件は禁止しないけれど、自社の依頼が来たら他より先に対応してほしいというタイプです。「乙は、甲から業務の依頼を受けた場合、他の受託業務に優先してこれに応じるよう努めるものとする」といった書き方です。
3タイプの中ではもっとも受け入れやすい形ですが、注意点が2つあります。1つは「努めるものとする」なのか「応じなければならない」なのかで意味がまるで違うこと。努力義務なら現実的ですが、義務として書かれていると、他社の締切と重なったときに必ずこちらが違反する構造になります。もう1つは、優先対応の対象範囲です。何時間以内に返信するのか、どれくらいの分量までなら受けるのか。ここが無限定だと、深夜や休日の依頼まで断れなくなります。「営業日の◯時までに受領した依頼については当日中に着手可否を返答する」のように、応答の約束に置き換えると運用しやすくなります。
契約書のどこに専属条項が隠れているか
専属条項は、必ずしも「専属」という見出しで書かれていません。私が実際に見てきた範囲では、次の場所に紛れていることが多いです。ここを重点的に読んでください。
まず「秘密保持」の条項です。NDAの中に「本件情報に接した者は、契約期間中および終了後2年間、同種業務を第三者に提供しない」という一文が混ざっていることがあります。秘密保持と競業避止は本来まったく別の話なので、NDAの中に競業避止が入っているのは要注意のサインです。分けてもらうよう依頼してください。
次に「再委託の禁止」の条項です。再委託禁止そのものは正当な要求ですが、その延長で「乙は本業務に関与する自己の稼働を他の業務に振り向けてはならない」という趣旨が書き足されていることがあります。再委託の話と稼働配分の話は別なので、これも分離を求めます。
3つ目が「競業避止義務」という独立した見出しです。ここは分かりやすいのですが、期間の長さを見落としがちです。契約終了後2年間や3年間の縛りが書かれていることがあり、在宅ワークの受け手にとっては相当に重い制約になります。一般に、終了後の競業避止は、期間、地域、対象業務の範囲、代償措置の有無などを総合して有効性が判断されると理解されていますが、どこまでが有効かは事案ごとに裁判所の判断が分かれる領域です。これも自己判断せず、弁護士に見てもらうべき箇所です。
4つ目が「業務内容」の別紙です。契約書本体はあっさりしているのに、別紙の業務範囲の欄に「甲の業務に専念すること」と一行だけ書いてあるパターンがあります。別紙は契約書の一部なので、当然効力を持ちます。本体だけ読んで安心しないでください。
私自身、独立して最初の年に別紙を読み飛ばして失敗したことがあります。EC運営支援の契約で、本体はごく普通の業務委託契約書でした。ところが別紙の「留意事項」の欄に、同一カテゴリのブランドとの取引を控える旨が書かれていた。半年後に別のブランドから声をかけてもらったとき、その一行を思い出して確認したところ、クライアントの担当者も「そんな文言入ってましたっけ」という反応でした。結果的には書面で範囲を明確化してもらって解決しましたが、あのとき気づかずに受注していたら、契約違反を問われてもおかしくない状況でした。別紙まで含めて全ページに目を通すのは、面倒でも必ずやるべき作業です。
他社案件を止める前に確認する7つのチェック項目
打診を受けてから返事をするまでの間に、次の7つを確認してください。順番にも意味があります。上から順に、答えが出ないと次を判断できない構造になっています。
第1に、禁止される範囲の定義です。競合の定義、対象となる業務の種類、地域。この3つが特定されているか。「同業」「類似業務」といった曖昧語しか書かれていない契約は、実質的に相手の解釈次第で範囲が伸びます。
第2に、期間です。契約期間中だけなのか、終了後も続くのか。終了後も続くなら何か月なのか。私は終了後の縛りについては6か月を一つの目安に交渉しています。それ以上を求められるなら、後述する代償措置の話とセットにします。
第3に、対価です。専属を求めるということは、受け手の営業機会を制限するということなので、その分の対価が必要です。単価の引き上げ、月額の固定報酬化、最低発注量の保証。どれかの形で数字に落ちているかを確認します。「専属になったら優先的に仕事を回します」という口約束だけでは対価になりません。
第4に、最低保証の有無です。専属型の契約でもっとも危ないのが、他社案件を止めたのに発注が来ない月が生まれることです。月の最低発注額を契約書に書いてもらう。書けないと言われたら、「発注が◯か月連続で最低額を下回った場合、乙は専属義務を負わない」という解除条件の形にする。この2択で交渉すると、通ることが多いです。
第5に、解除条項の対称性です。相手からはいつでも1か月前通知で解除できるのに、こちらからの解除は3か月前通知、という非対称な契約書はよくあります。専属と組み合わさると、こちらは他社案件を止めた状態で3か月身動きが取れないことになります。通知期間は対称にしてもらうのが原則です。
第6に、違反したときの効果です。損害賠償の予定額が書かれているか、あるいは違約金の条項があるか。金額が売上規模に対して不釣り合いに大きい場合は、減額を求めるか、上限を「本契約に基づき乙が受領した報酬の総額を上限とする」という形にしてもらいます。
第7に、書面性です。専属の範囲について後から口頭で「これも競合だから」と言われないよう、合意した内容は必ず契約書か覚書に落とします。メールでのやり取りも保存しておいてください。在宅ワークは対面の記録が残らないぶん、テキストのやり取りが唯一の証拠になります。
これらを整理するとき、契約書の読み書きに慣れていないと文言の意味を取り違えます。ビジネス文書の基本的な作法を体系的に学び直しておくと、契約書を読むスピードも精度も上がります。文書の構成や敬語、条文的な言い回しの読み方を扱うビジネス文書検定は、こうした場面で地味に効いてくる知識です。
フリーランス新法と専属条項の関係を押さえる
2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆるフリーランス新法は、専属条項を直接禁止する法律ではありません。ただ、専属を求める契約の周辺で効いてくる規定がいくつかあります。
まず、取引条件の明示です。発注側は、業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示する義務を負います。専属の打診を口頭で受けたまま作業に入るのは、この観点からも避けるべきです。「専属でお願いしたいので、条件を書面でいただけますか」と返すのは、法の建て付けに沿った自然な依頼です。
次に、報酬の支払期日です。物品の受領日または役務の提供日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めることが求められています。専属型の契約は月額固定であることが多いので、締め日と支払日の設定がずれていないか確認してください。
そして、中途解除の予告です。一定期間以上の継続的な業務委託については、契約を解除する場合に30日前までの予告が必要とされています。専属で他社案件を止めている受け手にとって、この予告期間は死活的です。契約書の解除条項が法の要求を下回っていないかは必ず見てください。
さらに、募集情報の的確表示や、育児介護等との両立への配慮、ハラスメント対応の体制整備なども規定されています。専属条項そのものより、こうした周辺の義務が守られているかどうかのほうが、その発注者と長く付き合えるかの判断材料になります。法の詳細と運用については公正取引委員会が情報を公開しています(公正取引委員会)。ただし、自分の契約が法の適用対象に入るかどうか、個別の条項が違反にあたるかどうかの最終判断は、法律の専門家や公的な相談窓口に確認してください。この記事は一般的な考え方の整理であって、個別案件への法的助言ではありません。
独占禁止法の観点から見た専属条項
もう1つ、押さえておきたい視点があります。優越的地位の濫用という考え方です。
発注側と受け手の間に取引上の力の差があり、その力を使って受け手に不当な不利益を与える行為は、独占禁止法上問題になり得ます。専属条項の文脈で言えば、対価の裏付けなく他社取引を全面的に禁止する、契約終了後も長期間にわたり同種業務を禁止する、専属を受け入れないことを理由に既存の取引を一方的に打ち切ると示唆する、といった行為が典型的な論点になります。
ここで大事なのは、「問題になり得る」と「必ず違法である」は別だということです。取引の実態、代替取引先の有無、制限の必要性と合理性など、多くの要素を見て判断されます。自分のケースが該当するかどうかを、ネット記事だけで結論づけないでください。相談先としては公正取引委員会の相談窓口や、フリーランス向けの無料の法律相談窓口があります。無料で使える相談枠は各地に用意されているので、契約書を持って一度話を聞いてもらうのが確実です。
私が現場感覚として持っている基準は単純です。「この条件を、相手の立場で自分が提示するとしたら、恥ずかしくないか」。専属を求めるなら、それに見合う対価と保証を出す。出せないなら専属は求めない。まっとうな会社は、この理屈を説明すればだいたい納得してくれます。逆に、説明しても「業界の慣習だから」としか返ってこない相手は、契約後も同じ調子で押してきます。契約前の交渉は、相手の姿勢を測るテストでもあります。
断る、あるいは条件を変えてもらうときの具体的な言い方
交渉が苦手な人ほど、「断る=関係が終わる」と考えてしまいます。実際には、条件の再設計を提案するのは普通の商取引です。使い回せる言い回しを置いておきます。
全面的な専念型を打診されたときは、「稼働の大半をお預けする形になるので、月額の固定でご相談させてください。月◯時間相当を上限とした固定報酬にして、超過分は都度精算という設計であれば、他社案件を整理したうえでお受けできます」と返します。断っていません。設計を変える提案をしているだけです。
競業避止の範囲が広すぎるときは、「競合の定義を具体化させてください。御社の主力である◯◯カテゴリの国内向けブランドについては、契約期間中はお受けしないとお約束します。一方で、業種の異なる案件まで止めると事業が成り立たなくなるため、そこは対象外にしていただけると助かります」。範囲を狭める代わりに、狭めた範囲についてはきっぱり約束する。この交換条件の形が通りやすいです。
契約終了後の縛りが長いときは、「終了後の制限については6か月でお願いできますか。それ以上を求められる場合は、その期間の代償として月額◯円の補償をご検討いただく形になると思います」。代償措置の話を出すと、たいてい期間のほうが短くなります。
最低保証がないときは、「専属でお受けする以上、こちらは他の受注を止めることになります。月の最低発注額として◯円を設定いただけますか。難しければ、3か月連続で発注が◯円を下回った場合には専属義務が自動的に外れる、という条項でも構いません」。相手にとっても、自社の発注量が読めない場合は後者のほうが受け入れやすい提案です。
そして、どうしても条件が折り合わないときの断り方。「現在の体制では、いただいた条件でお受けすると納品品質を維持できない可能性が高いです。専属ではない形であれば、これまで通り優先的に対応させていただきます」。品質を理由にすると、相手も引きやすくなります。金額の話だけで押し切ろうとすると角が立ちますが、品質と体制の話に翻訳すると、発注側の社内でも通しやすい理由になります。
海外のクライアントと取引している場合は、準拠法や紛争解決地の条項も絡んでくるため、専属条項の効き方が国内案件とは変わります。英文契約の必須条項と注意点は海外クライアントとの英文契約書テンプレート|必須条項と注意点で整理しています。国内の下請取引の作法とは前提が違うので、別物として読んでください。
専属を受けたあとのリスク管理
条件を整えて専属契約を結んだとしても、そこで終わりではありません。専属期間中に必ずやっておくべきことが3つあります。
1つ目は、収入源の分散設計です。専属で1社に固めると、その1社の業績や担当者の異動で収入がゼロになるリスクを抱えます。契約で禁止されていない領域、たとえば業種の異なるクライアント、ストック型の収入、自分の媒体からの収益。禁止範囲の外側で、細くていいので別の柱を残しておいてください。専属条項は「競合他社の受託」を禁じるものであって、「他の収入をすべて禁じるもの」ではないケースが大半です。自分の契約で何が禁止されていないかを、禁止されていることと同じ精度で把握しておきます。
2つ目は、スキルの陳腐化対策です。1社の仕事だけを長くやっていると、その会社の社内ルールには詳しくなりますが、市場で通用する引き出しは増えにくくなります。専属期間中こそ、市場の相場観を定期的に確認しておいてください。職種ごとの単価水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場やソフトウェア作成者の年収・単価相場のような職種別のデータで確認できます。自分の報酬が市場のどのあたりにいるかを知らないまま数年過ごすと、契約が切れたときに単価の付け方が分からなくなります。
3つ目は、税務まわりです。専属で収入が1社に集中すると、事業所得として申告する際に、事業性の実態を説明できる状態にしておく必要があります。取引先が1社であっても、自分の裁量で業務を進め、自分の設備で作業し、報酬が成果に対して支払われているのであれば事業所得として扱うのが通常です。ただし、実態が給与に近いと判断される可能性もあるため、契約書、請求書、業務日報などの記録は残しておいてください。判断に迷う場合は税務署の相談窓口や税理士に確認するのが安全です(国税庁)。確定申告まわりの実務は税理士資格でフリーランス副業|確定申告代行で稼ぐ方法と注意点でも触れています。
無料で使えるツールも活用してください。会計ソフトの無料プランや、電子契約サービスの無料ひな形は、この規模の取引だと十分に実用に耐えます。契約書のPDFと請求書を1つのフォルダにまとめておくだけでも、後から揉めたときの防御力がまったく違います。
実際に揉めるパターンと、そのときの対応ステップ
現場でよく起きる揉め方は、だいたい3パターンに収まります。
パターン1は、範囲の解釈違いです。受け手は「競合=同じカテゴリの直接の競合」と理解していたのに、発注側は「同じ業界全部」と理解していた。この場合、まずは契約書の文言を確認し、定義が書かれていなければ双方の理解を書面で確認し直します。ここで感情的なやり取りをすると長引きます。「認識をそろえたいので、対象となる事業者の条件を具体的に書いた覚書を交わさせてください」という進め方が現実的です。
パターン2は、発注量の激減です。専属で受けたのに、翌月から発注が半分以下になった。最低保証を入れていれば契約に従って請求できますが、入れていない場合は交渉するしかありません。この段階で慌てて他社案件を取りに行くと契約違反を問われるので、先に発注側と話をします。「発注量が想定を下回っているため、専属の範囲を見直させていただきたい」と切り出し、書面で合意を取ってから動いてください。
パターン3は、終了後の縛りをめぐるトラブルです。契約が終わったあとに同業の案件を受けたら、前のクライアントから警告が来た。終了後の競業避止条項の有効性は、期間、範囲、代償の有無などで判断が分かれます。自己判断で「無効だろう」と決めつけるのも、逆に「言われた通りに従うしかない」と諦めるのも、どちらも危険です。この段階になったら弁護士に相談してください。無料相談を実施している法律事務所や、フリーランス向けの公的な相談窓口を使えば、費用をかけずに最初の見立てを得られます。
対応ステップとしては、共通して次の順番で動きます。第1に、契約書と別紙、覚書、メールの全文を時系列で並べる。第2に、争点になっている文言を特定し、自分の解釈と相手の解釈を書き出す。第3に、相手に書面で照会する。第4に、回答が出るまで新規の受注判断を保留する。第5に、決着しなければ専門家に相談する。感情の応酬に入る前に、この5ステップを機械的に踏むだけで、揉め事の8割は収まります。
なお、権利関係が絡む案件、たとえばロゴやブランド名の使用が関わる仕事では、専属条項とは別に知的財産の話が出てきます。商標に関する手続きの費用感は商標登録の代行費用相場|弁理士に依頼するメリットと自分で行う手間を比較にまとめてあります。専属条項と著作権の帰属条項が両方入っている契約書では、どちらも同じ熱量で読んでください。
独自データから見える専属契約の実像
在宅ワーク領域の求人情報を横断して見ていくと、専属を明示的に条件として掲げている案件は決して多数派ではありません。多いのは、継続的な発注を前提としつつ、専属の可否は契約段階で協議するという書き方です。つまり、専属は最初から決まっているものではなく、交渉の余地がある論点だということです。これは受け手にとって重要な前提です。「専属と書いてあるから飲むしかない」と考える必要はありません。
職種別に見ると、専属の打診が出やすいのは、機密性の高い情報に触れる仕事と、業務が属人化しやすい仕事です。前者は経営数字や顧客データを扱う領域、後者は運用型の継続業務です。逆に、成果物が明確に切り出せる制作系の仕事では専属の打診は起きにくくなります。自分の職種がどちら寄りかを知っておくと、打診が来たときに驚かずに済みます。企業のAI活用を支援するような領域は、社内の非公開情報に深く入り込むぶん、専属や秘密保持が厳しくなりやすい代表格です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような仕事に踏み込むなら、契約書を読む力は前提スキルだと考えてください。
フリーランスや在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、長く仕事が続いている人ほど、専属という言葉を怖がっていません。理由は単純で、彼らは「専属を受けるかどうか」ではなく「専属に見合う条件を作れるかどうか」で考えているからです。専属を求められるのは、その人の仕事に価値があると相手が認めているサインでもあります。そのサインを、対価と保証の設計に翻訳できるかどうかが分かれ目になります。
運営者として見てきた限りでは、専属の打診を受けたときに失敗する人には共通点があります。返事を急ぎすぎることです。「ありがたい話だからすぐ返事しないと失礼だ」と考えて、その場でOKしてしまう。専属は営業機会を差し出す契約なので、検討に数日もらうのは当たり前です。実際、まっとうな発注者は「契約書を読んでから返事します」と言われて機嫌を損ねたりしません。むしろ、契約書をきちんと読む人のほうが、後々のトラブルが少ないと分かっているので歓迎されます。
もう1つ、長く見てきて感じるのは、中間マージンが乗らない直接取引の効き方です。同じ予算でも、間に入る事業者への手数料が乗らなければ、依頼する側は同じ金額でより多くの仕事を頼めますし、受ける側の手取りは厚くなります。手数料0%という条件が効いてくるのは、金額の大小の話というより、専属のような踏み込んだ関係を結ぶときの安心感の話です。手取りが厚ければ、専属で受注先を絞っても生活の設計が立ちます。逆に手数料で目減りする状態で専属を受けると、少しの発注減で一気に苦しくなる。専属の是非を判断するとき、額面ではなく手取りベースで計算する習慣を持ってください。
最後に、専属を受けるかどうかの判断軸を1つだけ挙げるなら、「この契約が明日終わったとして、自分は3か月生き延びられるか」です。答えがイエスなら、条件を整えたうえで受けて問題ありません。ノーなら、その契約はまだ専属で受ける段階にありません。他社案件を止める前に、この問いに答えを出してください。そして、契約書の個別の文言について迷いが残るなら、サインする前に弁護士や公的な相談窓口に確認してください。数千円の相談料や無料相談の30分が、数十万円の損失を防ぎます。
よくある質問
Q. 専属条項がある契約は受けないほうがいいですか?
一律に避ける必要はありません。危ないのは、専属を求められているのに対価や最低保証が設計されていない契約と、契約終了後まで長期間の縛りが残る契約の2つです。この2点を交渉で潰せれば、専属は収入を安定させる手段になります。範囲の定義、期間、対価、最低保証、解除の対称性を確認してから判断してください。
Q. 「競合他社の仕事は受けない」と言われた場合、どこまでが競合ですか?
契約書に定義がなければ、解釈は発注側に委ねられてしまいます。自分から定義を書き足す提案をしてください。商品カテゴリと販売地域で絞る書き方が実務的です。業種全体を競合とする書き方は範囲が広すぎるため、主力カテゴリに限定してもらう交渉が現実的です。
Q. 契約終了後も同業の仕事を受けられないと書かれています。有効ですか?
終了後の競業避止条項の有効性は、期間の長さ、対象範囲、地域、代償措置の有無などを総合して判断され、事案によって結論が分かれます。無効だと自己判断して受注するのも、言われるまま諦めるのも危険です。契約書を持参して弁護士や公的な無料相談窓口に確認してください。
Q. 専属で受けたのに発注が激減しました。他社の仕事を取ってもいいですか?
先に契約書を確認し、最低保証や解除条件が入っていないかを見てください。入っていなければ、発注側に書面で範囲の見直しを申し入れ、合意を取ってから動くのが安全です。無断で同業案件を受けると契約違反を問われるおそれがあります。交渉が進まない場合は専門家に相談してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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