漫画・同人誌制作の実績の見せ方|出せない仕事をどう伝えるか


この記事のポイント
- ✓漫画・同人誌制作の実績の見せ方を
- ✓契約上の制約から整理しました
- ✓守秘義務や権利譲渡で公開できない仕事をどう伝えるか
漫画・同人誌制作の実績の見せ方で悩む人の相談を受けていると、ほとんどが同じ壁にぶつかっています。仕事はしている。でも、その仕事を人に見せられない。守秘義務がある、権利を全部渡した、そもそも公開前の企画だった。結果として、営業のたびに見せられるものが増えないという状態です。
結論から書きます。出せない仕事を無理に出す必要はありません。出せる範囲を契約から正確に切り分けて、その範囲で最大限に伝える。これが唯一の正攻法です。そして、出せる範囲は思っているより広いことが多い。理由は、多くの人が「たぶん駄目だろう」と自己判断で封印しているだけで、確認すれば公開できるケースがかなりあるからです。これ、知らない人が本当に多いんです。
この記事では、公開の可否がどこで決まるのかを法的な枠組みから整理し、出せない仕事を出せる形に変換する方法、許諾の取り方の文面、そして同人活動を実績として扱う考え方までを手順にします。
実績を出せない理由は、3つに分かれる
まず、なぜ出せないのかを分類します。原因が違えば対処も違うので、ここを混ぜると先に進めません。
1つ目は、秘密保持の取り決めがある場合です。NDA(エヌディーエー)を結んでいる、または契約書に守秘義務の条項が入っている。この場合、開示してはいけない情報の範囲が文面で決まっています。つまり、範囲外の情報なら出せる可能性があります。全部が禁止されているわけではありません。
2つ目は、著作権を譲渡している場合です。納品と同時に著作権が依頼者に移っているなら、その作品を自分の判断で複製したり公開したりすることはできません。ただし、この場合も「実績として紹介すること」が当然に禁止されるわけではなく、契約の書きぶりと依頼者の許諾次第です。
3つ目は、まだ公開されていない場合です。企画が進行中、リリース前、あるいは企画自体が中止になった。この場合の制約は時間の問題なので、公開時期が来れば出せるようになることがあります。中止案件でも、依頼者に確認すれば実績として扱える場合があります。
3つのうち、多くの人が最も広く自己規制しているのが2つ目です。著作権を渡したから何も言えない、と考えてしまう。つまり、権利の帰属と実績の紹介を同じものとして扱ってしまっているわけです。この2つは別の話です。
公開の可否は、契約のどこで決まるのか
法的な枠組みを整理します。堅い話に見えますが、ここを理解すると自己判断の精度が上がります。
秘密保持の条項
守秘義務の条項は、通常「本件業務に関して知り得た相手方の情報を第三者に開示してはならない」という形で書かれています。ここで対象になるのは、依頼者から提供された非公開の情報です。具体的には、企画の内容、社内の体制、未発表の商品情報などが該当します。
一方で、すでに公になっている情報は、多くの契約で守秘義務の対象から除外されています。「公知の情報」「公表された情報」といった除外規定が入っているのが一般的です。つまり、依頼者自身がWebサイトで公開した漫画であれば、その存在に触れること自体は守秘義務違反にならない可能性が高い。
ただし、制作者が関与したという事実を明かしてよいかは別問題です。契約に「本件業務の受託の事実を公表してはならない」という条項が入っていることがあります。この条項があるかないかを、まず確認してください。※契約書の解釈で判断がつかない場合は、弁護士にご相談ください。
著作権の譲渡と公表の関係
著作権を譲渡した場合、複製や公衆送信の権利は依頼者に移ります。つまり、納品した漫画の画像を自分のサイトに載せる行為は、原則として依頼者の許諾が必要になります。
ただし、実績の紹介には複製を伴わない方法もあります。「株式会社◯◯の採用パンフレット向けに、全8ページの漫画を制作しました」と文章で書くだけなら、著作物の複製は発生していません。この形なら、守秘義務の条項に抵触しない限り可能です。
もう1つ知っておきたいのが、著作者人格権です。著作権を譲渡しても、氏名表示権などの人格権は制作者に残ります。ただし、実務上は「著作者人格権を行使しない」という条項が契約に入っていることが多く、その場合クレジット表記を求めることは難しくなります。契約時にこの条項の有無を確認しておくと、後の見せ方が変わります。
クレジット表記の有無
クレジットが入っている仕事は、実績として最も扱いやすい形です。作品そのものに制作者名が記載されていれば、それは依頼者が公表を認めた事実になります。ポートフォリオでその作品を紹介することへのハードルは、大きく下がります。
だからこそ、受注時にクレジット表記を交渉する価値があります。報酬の条件で譲る場面があっても、クレジットは残す。長期で見ると、クレジットのある実績は次の仕事を呼ぶ資産になります。仕事の種類ごとにクレジットの慣習は違うので、漫画・同人誌・イラスト制作のお仕事にまとめられている業務の内容を見ながら、どの領域なら名前を出しやすいかを把握しておくとよいです。
出せない仕事を、出せる形に変換する
原因の分類ができたら、次は変換です。丸ごと出せなくても、部分的には出せます。方法は4つあります。
抽象度を上げて書く
固有名詞を伏せ、業種と規模と内容だけを書く方法です。「大手の食品メーカー向けに、社内研修用の漫画を全16ページ制作」といった形にします。会社名が出ていなければ、守秘義務に触れにくくなります。
この方法の要点は、抽象化しても情報量を落とさないことです。業種、用途、ページ数、モノクロかカラーか、担当した工程。これらを具体的に書けば、読み手は制作者の力量を判断できます。「守秘義務のため詳細は書けません」とだけ書いて終わる人がいますが、それでは何も伝わりません。
ただし、抽象化しても特定されるケースには注意が必要です。業界内で1社しか該当しないような書き方は、実質的に開示しているのと同じです。「国内唯一の◯◯メーカー」といった書き方は避けます。
工程だけを見せる
完成品は出せなくても、その手前の工程なら出せる場合があります。ラフ、構図の検討案、採用されなかった別案。これらは納品物そのものではないため、権利の扱いが異なることがあります。
ただし、これも自己判断は危険です。ラフであっても、依頼者の企画内容が読み取れる状態なら守秘義務の対象になりえます。安全なのは、依頼者に確認したうえで出すこと。確認せずに出して問題になると、その依頼者との関係が終わります。
工程を見せる利点は、思考の過程が伝わることです。完成品だけを並べるより、なぜその構図にしたのかを説明できるほうが、依頼者にとっては判断材料になります。実績の点数が少ない段階では、この見せ方が効きます。
自主制作で代替する
出せない仕事と似た内容を、自主制作として作り直す方法です。実際の案件と同じ業種、同じ用途を想定して、架空の設定で1本作る。これなら権利も守秘義務も自分の管理下にあります。
手間はかかりますが、効果は高い方法です。しかも、実案件では通らなかった表現を試せるので、自分の幅を見せる場にもなります。営業の材料が足りないと感じている段階では、時間の使い道として合理的です。
作るときは、実案件の企画内容をそのまま流用しないでください。設定を借りると、守秘義務の観点で問題になる可能性があります。あくまで、業種と用途という一般的な枠だけを共有する形にします。
時期を置いて公開する
公開時期の制約なら、待てば解決します。リリース後3か月経過後は実績として公開可、といった取り決めを最初にしておく方法もあります。契約の段階で「公開の解禁時期」を決めておけば、後で交渉する必要がなくなります。
この取り決めは、依頼者にとっても不利益がありません。むしろ、制作者が実績として紹介することで、依頼者の広報にもなります。交渉の際は、この点を伝えると通りやすくなります。
許諾を取るときの聞き方
実は、多くのケースで最短の解決策は「聞くこと」です。契約書の解釈に悩むより、依頼者に確認するほうが早い。ところが、この確認を切り出せない人が多い。
聞き方は事務的で構いません。文面としては、こう書きます。「制作実績としてご紹介させていただきたく、公開の可否についてご確認をお願いいたします。掲載を希望する範囲は、御社名、用途、ページ数、および完成した誌面の一部です。ご都合の悪い項目がございましたら、除外いたします」。
この文面の要点は3つあります。1つ目は、掲載したい範囲を具体的に挙げること。「実績として使ってよいですか」という漠然とした質問は、相手が判断できないので保留されます。2つ目は、除外の余地を最初から示すこと。全部か無かの選択にすると、慎重な相手は無を選びます。3つ目は、依頼者側の利益に触れることです。実績紹介が依頼者の露出につながる場合、その点を添えると通りやすくなります。
聞くタイミングは、納品直後がよいです。仕事が終わって双方の印象が良い時期であり、担当者も内容を覚えています。数年後に突然連絡すると、担当者が異動していて誰も答えられない事態になります。
つまり、実績の公開可否は、案件が終わるたびに片付けておく作業です。まとめて後からやろうとすると、確認できない案件が積み上がります。
同人活動を実績として扱う
商業の実績が少ない段階では、同人活動を実績として見せる方法が有効です。この考え方は、業界内でも認識されています。
投稿 ログイン 会員登録 同人活動は立派な"商業実績の種"!魅せ方ひとつでチャンスが広がる なか|マンガ編集者 2025年4月5日 07:19 「まだ商業経験はないけど、同人で活動してます」 出典: note.com
同人活動が実績になる理由は明確です。1冊の本を完成させるという行為には、企画、構成、作画、入稿データの作成、進行管理のすべてが含まれています。依頼者が知りたいのは、締切までに完成させられるかどうかです。頒布実績は、その証明になります。
見せ方には工夫が要ります。同人誌をそのまま並べるのではなく、制作の情報を添えます。総ページ数、制作にかかった期間、使用したソフト、印刷所への入稿形式。これらを書くと、趣味の作品ではなく制作物として読まれます。
一次創作か二次創作かも区別しておきます。二次創作の場合、企業への営業資料に載せる際は注意が必要です。権利元のガイドラインの範囲内で行われた活動であっても、企業側が扱いに慎重になることがあります。二次創作は作画力の証明として使い、企画力の証明には一次創作を使う、という分け方が実務的です。
同人誌の制作工程を体系的に説明できると、それ自体が信頼につながります。
「自分の作品を一冊の本にしてみたい」「同人誌を作りたいけど、原稿の作り方や印刷の流れがわからない」そんな初心者の方に向けて、同人誌制作の基本から応用までを丁寧に解説します。手順や注意点をご紹介しますのでぜひ作り方を参考にしていただき、同人誌制作に挑戦してみてください。 出典: publish.n-pri.jp
つまり、同人誌制作には確立された工程があり、その工程を回せることは職業的な能力として説明できるということです。「趣味でやっています」ではなく「企画から入稿まで一貫して担当しています」と書く。同じ事実でも、伝わり方がまったく違います。
ポートフォリオの並べ方
出せる材料が集まったら、次は並べ方です。ここでも判断の基準を決めておきます。
点数は絞ります。多ければよいというものではありません。見る側は最初の数点で判断するので、最も強い作品を先頭に置きます。6点から10点程度で、方向性が伝わる構成にするのが実務的です。
順番は、狙う仕事に近いものから並べます。企業案件を取りたいなら、企業向けの制作を先頭に。同人の表紙依頼を受けたいなら、表紙作品を先頭に。全部を平等に並べると、何が得意なのかが伝わりません。
各作品には説明文を添えます。書く項目は、用途、担当した工程、制作期間、仕様(ページ数、色、判型)、そして工夫した点です。特に「工夫した点」が重要で、ここに制作者の判断が現れます。「読者が通勤中にスマートフォンで読むため、1ページあたりのコマ数を減らしました」といった記述は、絵の技術とは別の能力を示します。
公開できない案件は、リストとして別枠に置きます。「守秘義務により誌面は掲載できませんが、以下の分野で制作実績があります」と書き、業種と用途を箇条書きにする。誌面が出せなくても、経験の幅は伝わります。
説明文の書き方に迷う場合は、ビジネス文書の型を押さえておくと構成が安定します。事実と所見を分けて書く作法はビジネス文書検定の出題範囲と重なるので、目次を眺めるだけでも書き方の骨格が作れます。
受注の段階で、実績化の条件を組み込む
ここまでは、すでに終わった案件をどう扱うかの話でした。より効くのは、受注の段階で実績にできる条件を仕込んでおくことです。後から交渉するより、契約前に決めるほうがはるかに通ります。
盛り込みたい項目は3つです。第1に、制作実績としての掲載可否と、掲載できる範囲。第2に、公開の解禁時期。リリース後3か月経過後は掲載可、といった形で日付の基準を決めます。第3に、クレジット表記の有無と表記の形です。
依頼者側から見ても、この取り決めに不利益はほとんどありません。むしろ、制作者が実績として紹介すれば依頼者の露出が増えます。交渉のときは「掲載の際は御社の告知にもなる形で書きます」と伝えると、話が前に進みやすくなります。断られた場合も、断られたという事実が分かっているだけで、後から悩まずに済みます。
見積書や発注確認のメールに、この3項目を定型で入れておくのが実務的です。毎回考えるのではなく、テンプレートに組み込んでしまう。条件確認の一部として自然に流れるので、切り出す心理的なハードルもなくなります。
なお、企業案件では、担当者が実績掲載の可否を単独で決められないことがあります。広報や法務の確認が必要な場合、回答に時間がかかります。だからこそ、納品の直前ではなく、契約の段階で聞いておくほうが確実です。
制約を逆に強みとして伝える
出せない仕事が多い状態を、弱みとしてだけ捉える必要はありません。伝え方によっては、信頼の材料になります。
守秘義務を守っている事実は、それ自体が職業的な信頼につながります。ポートフォリオに「守秘義務のため誌面は掲載できませんが、以下の分野で制作実績があります」と書いてある人は、次の依頼者から見れば「自分の企画も守ってくれる人」に見えます。逆に、明らかに公開してはいけない未発表の企画を載せている人は、警戒されます。
つまり、出せない仕事の扱い方そのものが、制作者の姿勢を示す情報になっているということです。これ、意外と見られています。企業の担当者から「他社の未発表企画を載せていないので安心して相談できた」という話を聞くことがあります。
伝え方の工夫としては、守秘義務の存在を淡々と書くことです。「機密性の高い案件を継続的に担当しています」と書けば、隠していることが不利にならず、むしろ経験の質を示す表現になります。逆に「見せられないので信用してください」という書き方は、判断材料を放棄しているので避けます。
そのうえで、公開できる作品を最低でも数点は用意します。守秘義務の説明だけでは、絵柄も構成力も伝わりません。自主制作でよいので、公開できる作品を意図的に作っておく。制約がある人ほど、この準備の価値が高くなります。
やってはいけない見せ方
法務の相談を受けていて、実際に問題になった見せ方を挙げます。
1つ目は、許諾なく誌面を掲載することです。「公開されている作品だから大丈夫」と考える人がいますが、著作権を譲渡している場合、複製の権利は依頼者にあります。公開されている事実と、自分が複製してよい権利は別です。
2つ目は、担当していない工程まで自分の実績として書くことです。作画のみ担当した案件で「企画から制作まで担当」と書くと、事実と異なる記載になります。発覚したときの信頼の失い方が大きく、法的にも問題になりえます。担当範囲は正確に書きます。
3つ目は、企業のロゴや商標を無断で並べることです。「取引実績」としてロゴを一覧表示するサイトを見かけますが、ロゴの使用には通常、権利者の許諾が必要です。社名をテキストで書くのと、ロゴ画像を使うのは扱いが違います。
4つ目は、二次創作の作品を商用の営業資料に無条件で載せることです。権利元のガイドラインは、多くの場合、非営利の同人活動を想定した範囲で許容を示しています。それを商業的な営業に使う場合、想定の範囲を超える可能性があります。※判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。
5つ目は、中止になった企画を完成したかのように書くことです。制作した事実は書けますが、リリースされたかのような記載は避けます。「企画の都合で公開には至りませんでしたが」と一言添えれば、正確かつ誠実な記載になります。
実績がゼロの段階で、最初の1件を作る
実績がまったくない状態から始める場合の手順も書いておきます。
最初にやるのは、想定する依頼者を決めることです。企業向けの説明漫画なのか、同人誌の表紙なのか、SNS向けの短編なのか。対象が決まらないと、作るべきものも決まりません。全方位に見せられる作品を作ろうとすると、誰にも刺さらないものができます。
次に、その対象向けの作品を自主制作で作ります。架空の企業を設定して採用漫画を作る、架空の作品設定で表紙を作る。実案件でないことは明記します。「自主制作」と書いてあることで信頼が下がることはありません。むしろ、想定を立てて作れることの証明になります。
3点そろえば、営業の材料としては足ります。同じ方向性で3点あると、偶然ではなく再現性があることが伝わります。1点だけだと、たまたまうまくいったのか判断できません。
そして、最初の案件を受けたら、必ず公開の可否を確認します。ここで確認する習慣をつけておくと、実績が積み上がる速度がまったく違ってきます。海外の依頼者と取引する場合も、実績公開の可否は提案の段階で確認するのが標準的な作法です。この進め方はUpworkの使い方ガイド|日本人フリーランスが海外案件を取る方法に流れが整理されており、条件確認の型として参考になります。
実績の置き場所を分ける
実績の見せ方は、置き場所によって最適な形が変わります。同じ内容を全部の媒体に同じ形で置くのは効率が悪いです。
自分のサイトやポートフォリオサービスには、詳細版を置きます。説明文をしっかり書き、担当工程や仕様まで記載する。ここは、興味を持った人がじっくり読む場所です。
SNSには、画像を中心に置きます。説明は短く、視覚で判断してもらう。ここで拾われた人が、詳細版を見に来る流れになります。ただし、公開の許諾を得ていない誌面をSNSに載せないよう、投稿前に確認する習慣が必要です。
提案時に送る資料には、その案件に近いものだけを抜き出します。全部を送ると読まれません。3点程度に絞り、なぜこの3点を選んだのかを一文添える。選んだ理由を書けること自体が、案件を理解している証明になります。
隣接する職種と組む企画では、自分の担当範囲を明確にした実績が特に役立ちます。音や動画が絡む案件で、どこまでを自分が担当したのかがはっきりしていると、依頼者は体制を組みやすくなります。作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事にまとめられている業務の内容を把握しておくと、共同制作の実績を説明する際に工程の切り分けが正確になります。
独自データの考察
在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、実績の見せ方で差がつくのは点数ではなく説明の精度です。作品を大量に並べている人より、5点に絞って各作品の狙いと担当範囲を書いている人のほうが、依頼につながっています。依頼者が知りたいのは絵の上手さだけではなく、自分の課題を任せられるかどうかだからです。
運営者として見てきた限り、長く続いている制作者は、案件が終わるたびに公開の可否を確認する習慣を持っています。これを毎回やっている人は、数年で見せられる実績が着実に増えます。やっていない人は、仕事量は同じでも見せられるものが増えず、営業のたびに同じ古い作品を出すことになります。差は能力ではなく、確認という5分の作業を習慣にしているかどうかです。
取引の形も実績の残り方に影響します。仲介を何段も経由する取引では、最終的な発注元が誰なのか分からないまま作業だけをすることがあり、実績として説明できる情報が手元に残りません。手数料0%の直接取引では、依頼者と直接やり取りするため、用途も掲載先も把握できます。同じ予算で依頼者はより多くを頼め、制作者は手取りが厚くなるうえ、実績として語れる情報も残る。この違いは、数年単位で見ると営業力の差として現れます。
職種を横断して見ると、実績の見せ方が確立している分野があります。文章の仕事では、署名記事とそうでない記事の区別が慣習として共有されており、署名の有無を条件交渉に含める文化があります。この分野の働き方は著述家,記者,編集者の年収・単価相場に整理されており、クレジットを条件として扱う考え方は作画の仕事にも移植できます。
最後に、実績の整理は定期的な作業として予定に組み込んでください。3か月に1回、その期間に終えた案件を洗い出し、公開の可否を確認し、掲載できるものを追加する。この作業を続けていると、営業が必要になったときに慌てて材料を探す必要がなくなります。実績は勝手に積み上がるものではなく、積み上げる作業をした人にだけ残るものです。法律はあなたの味方ですが、権利を確認して記録に残すのは自分の仕事です。
よくある質問
Q. 守秘義務がある案件は、実績として一切書けないのですか?
書けないとは限りません。守秘義務の対象は依頼者から得た非公開の情報であり、多くの契約では公になっている情報が除外されています。会社名を伏せ、業種と用途とページ数だけを書く形なら問題にならないケースが大半です。ただし「受託の事実を公表しない」という条項がある場合は別なので、契約書を確認してください。
Q. 著作権を譲渡した作品は、ポートフォリオに載せられませんか?
画像を掲載する行為は複製にあたるため、原則として依頼者の許諾が必要です。一方、文章で「どの業種向けに何ページ制作した」と書くだけなら複製は発生しません。掲載したい場合は納品直後に許諾を求めるのが確実で、掲載範囲を具体的に挙げて可否を尋ねると回答をもらいやすくなります。
Q. 実績の公開許諾は、どのように依頼すればよいですか?
掲載したい範囲を具体的に挙げて尋ねます。社名、用途、ページ数、誌面の一部といった項目を並べ、「ご都合の悪い項目は除外します」と添えます。全部か無かの形にすると慎重な相手は断るため、除外の余地を示すのが要点です。タイミングは納品直後がよく、担当者が内容を覚えているうちに済ませます。
Q. 同人誌を実績として使ってもよいですか?
使えます。1冊を完成させる行為には企画、構成、作画、入稿データ作成、進行管理が含まれ、締切までに完成させられる証明になります。総ページ数、制作期間、入稿形式などを添えて記載すると、趣味の作品ではなく制作物として読まれます。二次創作は作画力の証明に使い、企画力は一次創作で示すと整理しやすくなります。
Q. 実績がゼロの状態では、何から始めればよいですか?
想定する依頼者を1つに決め、その対象向けの作品を自主制作で3点作ります。方向性のそろった3点があると、偶然ではなく再現性があることが伝わります。自主制作であることは明記して構いません。そして最初の案件を受けたら、必ず納品時に公開の可否を確認する習慣をつけてください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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