小説・シナリオ制作の実績の見せ方|出せない仕事をどう伝えるか


この記事のポイント
- ✓小説・シナリオ制作の実績の見せ方を
- ✓公開できる仕事と公開できない仕事の切り分けから
- ✓守秘義務がある案件の伝え方
小説・シナリオ制作の実績の見せ方でつまずくのは、書いたものを並べればいいと思ってしまうからです。結論から言うと、発注者が実績を見るときに確認しているのは作品の出来ではありません。「この人に頼んだら、指定した条件どおりのものが出てくるか」という再現性です。だから、公開できない仕事が多くても、見せ方さえ設計すれば実績は成立します。
この仕事は、ゴーストライティングや権利譲渡が前提の案件が多く、書いたものをそのまま公開できないケースが日常的に発生します。この記事では、出せる仕事と出せない仕事をどう切り分けるのか、出せない仕事をどう伝えるのか、そして実績がまだ少ない段階でどう見せるのかを、順に整理します。
発注者が実績で確認しているのは、作品ではなく再現性
まず、見せ方を考える前に、見る側の視点を押さえます。発注者が実績を見るとき、頭の中にあるのは次の四つです。
一つ目、うちの案件と同じ型の仕事をしたことがあるか。二つ目、指定した分量とフォーマットを守れるか。三つ目、修正のやり取りが成立する相手か。四つ目、納期を守るか。この四つのうち、作品そのものの完成度で判断されるのは一つ目の一部だけです。残りは、実績の「書き方」で伝わります。
つまり、抜粋を並べるだけのポートフォリオは、四分の一の情報しか渡していないことになります。実績一件ごとに、どういう条件で、どういう工程で、自分がどの範囲を担当したのかを添える。この情報のほうが、文章そのものより発注の判断材料になります。
実際、クラウドソーシングのポートフォリオを見ていると、条件が書かれている実績とそうでない実績では、伝わる情報量がまるで違います。制作実績の記載例としては、こうした簡潔な形が多く見られます。
SNSやWEBメディアで読まれる小説(恋愛・夢小説・感動ストーリー)の執筆・シナリオ制作を行いました 出典: lancers.jp
この一文には、媒体、ジャンル、担当領域という三つの情報が入っています。作品の中身を一切出さずに、案件の型が伝わる。これが、出せない仕事を伝えるときの基本形です。
在宅で受注できる書き仕事の分類は書籍・小説・シナリオ制作のお仕事に整理されています。自分の実績がどの型に属するのかを先に分類しておくと、ポートフォリオの並べ方が決まります。
出せる実績と出せない実績を、正しく切り分ける
多くの書き手は、出せない実績を実際より多く見積もっています。契約の内容を確認せずに「たぶん出せない」と自己判断しているケースが、かなりあります。
契約書のどこを読むか
確認すべき条項は三つです。秘密保持条項、著作権の譲渡条項、そして実績公表に関する条項です。
秘密保持条項は、何を秘密とするかの定義を読みます。「本業務を通じて知り得た情報」とだけ書かれている場合、成果物そのものが秘密情報に含まれるのか、それとも発注者の内部情報を指すのかは、条文の書き方によります。公開済みの作品であれば、既に世に出ている以上、その存在自体は秘密ではないという整理が成り立つ場合もあります。
著作権の譲渡条項は、実績公表とは別の話です。著作権を譲渡していても、「自分が執筆した」という事実を述べることまで禁止されているとは限りません。ただし、譲渡した成果物の本文を無断で自分のポートフォリオに転載するのは、複製権の問題になります。ここは切り分けが必要です。
実績公表に関する条項が明記されていれば、話は簡単です。可なら出せる、不可なら出せない。書かれていない場合は、発注者に確認するのが安全です。
許可を取るための、一通のメール
確認は、身構えるほどのことではありません。定型文を持っておけば、送信まで数分で終わります。
「先日ご依頼いただきました◯◯の件につきまして、制作実績として公開させていただくことは可能でしょうか。公開する場合の記載範囲は、御社名を伏せた形で『動画向けシナリオ制作/全5話』程度の記載を想定しております。本文の転載は行いません。ご都合が悪いようでしたら、記載を控えますのでお知らせください」。
この文面のポイントは三つあります。記載する範囲を具体的に示していること、本文の転載をしないと明言していること、断りやすい逃げ道を用意していること。この三つが揃っていると、許可が出る確率は明らかに上がります。
この確認は、断られる前提で身構えるほどのものではありません。「社名も出して構いません」と返ってくることもあれば、社名を伏せた形なら問題ないと条件つきで許可が出ることもあります。聞かなければ公開できる実績はゼロのままですが、聞けば何らかの形で出せる案件は一定数あります。案件が終わるたびに送る習慣にしておくと、実績表が自然に埋まっていきます。
納品時にまとめて聞くのが最も通りやすい
確認を送るタイミングは、納品直後が最適です。案件が無事に終わり、相手の心証が良い状態だからです。半年経ってから急に連絡すると、担当者が変わっていたり、そもそも案件を思い出してもらえなかったりします。
さらに良いのは、受注時点で条件として確認しておくことです。条件を詰める段階で「制作実績としての公開可否」を項目に入れておけば、後から交渉する必要がなくなります。業務上の確認文の型を体系的に扱うビジネス文書検定の出題範囲は、こうした依頼文や照会文の構成をルール化しており、定型文づくりの参考になります。
出せない仕事を、どう伝えるか
許可が得られない案件でも、伝え方はあります。要点は「情報を減らすのではなく、抽象度を上げる」ことです。
抽象化して書くための四項目
出せない案件は、次の四項目に分解して書きます。媒体の種類、ジャンル、分量と工程、自分が担当した範囲。
たとえば、企業名も作品名も出せない案件であれば、「BtoC向けアプリ内で配信されるショートストーリー/恋愛ジャンル/全12話・各3,000字前後/プロット作成から本文執筆、監修対応まで担当」という書き方になります。固有名詞はゼロですが、案件の型はほぼ完全に伝わります。
この書き方の利点は、発注者が自分の案件と照らし合わせやすいことです。作品を読ませなくても、「うちと同じ規模の案件をやっている」という判断ができます。
秘匿の理由を、一行だけ添える
「守秘義務のため、詳細は非公開とさせていただいております」。この一文は、必ず添えてください。書かないと、実績が薄いのか、隠しているのかが読み手に伝わりません。
そして、この一文にはもう一つの効果があります。守秘義務を守る書き手だという証明になるのです。発注者にとって、自分の案件も同じように守られるという安心材料になります。実績が出せないことは、伝え方次第で信頼の材料に変わります。
数で見せる
個々の案件が出せない場合、集計して見せるという手があります。「動画向けシナリオ40本以上、恋愛系ショートストーリー30本以上を担当」といった形です。一件ずつの詳細は出さずに、経験の量だけを伝える。
この見せ方は、量が担保されている書き手にとって強力です。ただし、数字は正確に。盛った数字は、面談で細部を聞かれたときに崩れます。
実績がまだ少ない段階の見せ方
始めたばかりの段階では、そもそも公開できる実績が存在しません。この場合の見せ方には、別の設計が要ります。
サンプル原稿を用途別に用意する
過去作を並べるのではなく、想定される案件の型に合わせたサンプルを作ります。動画向けの構成台本、恋愛系のショートストーリーの冒頭、企業のブランドストーリー。それぞれ800字程度の短いもので構いません。
重要なのは、サンプルに条件を添えることです。「想定:5分尺の解説動画向けナレーション原稿/視聴者は30代のビジネス層/専門用語は使わない」。条件を自分で設定し、それに応えた原稿を見せる。これが「指定どおりに書ける」という証明になります。条件のないサンプルは、ただの自作品で、再現性の証明にはなりません。
提案文で実績の不足を補う
実績が少ない段階では、提案文の比重が上がります。実際、応募文の書き方を公開している記録の中には、実績の少なさを正直に述べつつ、書くことへの姿勢と応募理由を丁寧に伝えている例があります。
ライターとしての実績はまだありませんが、幼い頃から書くこと・読むことが大好きで、書籍化を目指し小説サイトにて執筆を続けてきました。そのため、文書を書くことやストーリーを作ることには慣れております。 出典: note.com
この書き方には、学ぶべき点と、改善できる点の両方があります。学ぶべきなのは、実績がないことを隠さずに、代わりとなる経験を具体的に示している点です。改善できるのは、その経験が案件にどう効くのかまでは踏み込んでいない点です。「小説サイトで書き続けてきた」経験は、連載の継続力や読者の反応を見て調整する力として言い換えられます。経験は、案件に必要な能力に翻訳して初めて実績になります。「小説サイトで執筆を続けてきた」で止めず、「読者の反応を見ながら一話あたりの分量と展開の速度を調整してきた」まで書くと、依頼側は自分の案件に当てはめて読めるようになります。
習作を「工程つき」で見せる
実案件ではない習作でも、工程を添えれば実績に近づきます。「自主制作/原案から構成、本文執筆まで/制作期間2週間/想定媒体は縦読み形式のアプリ」。工程が書かれていれば、作業の進め方が伝わります。
正直なところ、実案件でない習作を実績として並べることに抵抗を感じる方は多いと思います。ただ、隠す必要はありません。「自主制作」と明記したうえで並べれば、誠実さも同時に伝わります。問題になるのは、実案件のふりをすることだけです。
ポートフォリオの構造
見せ方の器そのものも設計が必要です。
冒頭に要約を置く
ポートフォリオの一番上には、自分が何を書ける人なのかを三行で書きます。得意なジャンル、対応できる媒体、対応できる工程。ここで案件の型が合わないと分かれば、読み手はそれ以上読みませんし、それは双方にとって効率的です。
要約に入れるべきなのは、実績の総量と、対応可能な範囲です。「動画向け台本と恋愛系ショートストーリーを中心に、構成から本文執筆まで対応。長期連載の実績あり」。この三行で、案件の適合判断ができます。
一件あたりの記載項目を統一する
案件ごとに書く項目を揃えます。媒体、ジャンル、分量、担当範囲、制作期間、公開可否。統一されていると、読み手は比較しやすくなります。バラバラだと、情報が多いのに読みにくいという状態になります。
抜粋を載せる場合は、長さを揃えます。400字程度が目安です。長すぎると読まれませんし、短すぎると文体が伝わりません。そして、抜粋には必ず「どういう指定に対して書いたものか」を添えます。
技術の言葉を使えると、伝わり方が変わる
作品の説明をするとき、感覚的な表現ではなく技術の名前を使うと、専門性が伝わります。脚本の指導現場では、映像的な表現を作る技法についてこう説明されています。
ざくざく切っている絵があって、炒めている絵があって、ドレッシングをかけている絵があって、というふうに映像で見せていくと、観客が「おいしそうだな」って思う、香りが感じられるような見せ方ができると思います。この表現方法は「カットバック」というシナリオの技術です。“絵”をたたみかけるようにして見せていく。この技術を使うと、より映像的に表現できるようになるし、小説を書くときもこれを意識すると文章のリズムやテンポが良くなりますよ。 出典: scenario.co.jp
ポートフォリオの説明文で「テンポ感を意識して書きました」と書くのと、「情報の提示順を映像的に組み替え、視聴者の理解が追いつく設計にしました」と書くのでは、受け取られ方が違います。前者は感想、後者は技術の説明です。発注者は後者を求めています。自分がやったことを技術の言葉で説明できると、出せない案件についても中身を語れるようになります。
案件の型ごとに、書き分けるポイントが違う
同じ抽象化の四項目を使うにしても、案件の型によって「発注者が知りたい一点」は変わります。
映像用の台本では、尺の実績が最も重視されます。何分の映像を何本担当したのか。ナレーション原稿なのか、キャラクターの会話劇なのか。テロップ用テキストまで納品したのか。「8分尺の解説動画向け構成台本を継続で担当。ナレーション原稿とテロップ案まで納品」という書き方であれば、作品名を一切出さずに実務の中身が伝わります。
ゲームシナリオでは、分岐の規模と設定資料の扱いがポイントになります。分岐のあるシナリオを書いた経験は、直線的なストーリーの経験とは別の技能として評価されます。「選択肢分岐を含むイベントシナリオを担当。既存の世界観設定に沿った整合確認まで対応」と書けば、設定管理ができる書き手だと伝わります。指定ツールへの入力作業まで担当したのであれば、それも書いておく価値があります。
企業のPR動画やブランドストーリーでは、承認プロセスへの対応力が評価されます。法務チェックが入る案件を経験しているかどうかは、発注側にとって大きな判断材料です。「複数部署の確認が入る進行で、指摘反映まで一貫して対応」という一文は、内容を一切明かさずに進行力を示せます。
小説の代筆やライトノベルでは、文体の再現力が問われます。既存シリーズの続編や、指定された文体での執筆経験があるなら、そこを明示します。「既刊の文体に合わせた執筆。口調と語彙の統一のため、既刊分の読み込みを含めて対応」。読み込みの工程まで書くと、作業の丁寧さが伝わります。
漫画の原作であれば、納品フォーマットが評価軸になります。ネームまで担当したのか、プロット形式で渡したのか。作画者にとって扱いやすい形式で書けることは、それ自体が技能です。
実績を積み上げるための、記録の取り方
実績の見せ方が上手い人は、記憶で書いていません。案件が終わるたびに記録しています。
記録すべきなのは六項目です。案件の型、媒体、ジャンル、分量と話数、担当した工程、制作期間。これに公開可否のメモを添えます。所要時間も残しておくと、後で見積もりの精度を上げる材料になります。
記録のタイミングは、納品直後です。24時間以内に書く。時間が経つと、分量も期間も曖昧になります。表計算ソフトでもメモアプリでも構いませんが、後で並べ替えられる形にしておくのがコツです。案件の型ごとに絞り込めるようにしておけば、提案のたびに関連する実績だけを抜き出せます。
この記録には、もう一つの効用があります。自分がどの型の仕事に偏っているかが見えることです。動画向けの台本ばかりが並んでいるなら、その領域では強い実績になりますし、逆に幅を広げたいなら次に何を取るべきかが分かります。実績表は、営業資料であると同時に、自分の現在地を示す地図になります。
この記録を取らずに一年ほど走ると、ポートフォリオを作る段階で行き詰まります。担当した本数も分量も思い出せず、メールの履歴を遡って再構成することになるためです。復元にかかる時間を考えれば、案件ごとに五分の記録を残すほうが圧倒的に安上がりです。
提案文の中に、実績をどう埋め込むか
ポートフォリオを整えても、提案文でうまく使えなければ意味がありません。提案文における実績の役割は、応募先の案件との一致を示すことです。
構成としては、冒頭で応募先の案件の型を言い換え、次にそれと同じ型の実績を一件だけ挙げ、続いてその実績で得た知見を一つ書く。この三段構成が最も伝わります。実績を並べ立てる必要はありません。一致する一件のほうが、十件の羅列より効きます。
たとえば、縦読み形式のショートストーリーの募集であれば、「縦読み形式では一画面あたりの情報量を絞る必要があるため、一文を短くし、場面転換の頻度を上げる設計で対応してきました」と書く。実績があることだけでなく、その媒体特有の設計を理解していることまで示せます。
そして、出せない案件を引き合いに出すときは、必ず秘匿の理由を添えます。「守秘義務のため媒体名は控えますが、同種の縦読み形式で全24話の連載を担当しました」。この形であれば、情報の欠落が不誠実には見えません。
面談で実績を聞かれたときの答え方
書面で通過すると、次は面談です。ここで実績について聞かれたとき、作品の内容を語り出すと話が長くなります。答えるべきなのは、進行の話です。
聞かれるのはたいてい三つです。どういう指定を受けたか、どこでつまずいたか、どう解決したか。この三点で答える型を作っておくと、守秘義務のある案件でも中身に踏み込まずに話せます。「分量の指定が途中で変わり、構成を組み替える必要が出ました。プロットの段階で分岐を想定していたので、大きな手戻りなく対応できました」。作品名も企業名も出ていませんが、対応力は十分に伝わります。
やってはいけない見せ方
三つあります。
一つ目は、守秘義務のある案件の本文を、無断で抜粋すること。バレないだろうという判断で載せる書き手がいますが、業界は狭く、見つかります。そして、一度その評判が立つと、守秘が前提の案件は二度と来ません。
二つ目は、担当範囲を曖昧にすること。チームで作ったものを、自分一人で作ったかのように見せる。面談で工程を聞かれた瞬間に崩れます。「構成のみ担当」「本文執筆のみ担当」と正確に書いたほうが、結果として信頼されます。
三つ目は、量だけを誇示すること。本数だけが並んでいて、一件ごとの条件が書かれていないポートフォリオは、読み手が判断材料を得られません。数は補助情報であって、主役ではありません。
「実績なし」と書くくらいなら、条件を書く
実績欄に何も書かない、あるいは「実績なし」とだけ書くのは、最ももったいない見せ方です。読み手にとっては情報がゼロなので、判断のしようがありません。
書けることは必ずあります。対応できる分量、対応できるジャンル、一週間あたりに確保できる作業時間、連絡が取れる時間帯、修正のやり取りに使えるツール。これらはすべて、発注者が知りたい情報です。実績が能力の証明であるのに対し、条件は稼働の証明です。稼働の見通しが立つ書き手は、実績の少なさを補って選ばれることがあります。
とくに効くのが、作業時間の提示です。「平日の夜と週末に、週15時間程度を確保できます」と書けば、納期の現実味が伝わります。実績がない段階では、この種の具体性が唯一の差別化になります。
媒体ごとの使い分け
プラットフォームのプロフィール欄は文字数に制限があるので、要約と代表的な実績三件に絞ります。自分のサイトを持っている場合は、案件の型ごとにページを分けて、全件を並べます。PDFで送る形式なら、相手の案件に近い実績を上に並べ替えて渡す。同じ内容でも、並べ替えるだけで通過率は変わります。
海外の発注者に向けて実績を示す場合は、成果の書き方が異なります。Upworkの使い方ガイド|日本人フリーランスが海外案件を取る方法では、プロフィールと提案文で何を強調すべきかが整理されており、国内向けのポートフォリオを組み直すときの参考になります。
市場の側から見た、実績の意味
文章を扱う職種の収入水準には幅があり、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認できる公的統計上の差は、書く能力だけでは説明がつきません。差の一部は、実績の見せ方から生まれています。同じ経験量でも、条件つきで整理されたポートフォリオを持つ人と、作品を並べただけの人では、案件の獲得効率が変わるからです。
在宅・業務委託の市場を20年運営してきた立場から言えば、実績が積み上がらない人の多くは、実績が少ないのではなく、記録していないだけです。案件が終わった直後に、媒体・ジャンル・分量・担当範囲・期間の五項目をメモしておく。この習慣がある人とない人では、一年後に手元に残る情報量が決定的に違います。運営者として見てきた限りでは、長く続く書き手は例外なく、この記録を持っています。
もう一つ、現場を見ていて確かなのは、中間手数料の乗らない直接の取引では、実績の意味が変わるということです。仲介プラットフォームの評価スコアに頼れない分、自分で整理したポートフォリオがそのまま判断材料になる。一方で、仲介コストが差し引かれないため、同じ予算でも発注者はより多くの分量を頼めますし、書き手の手取りも厚くなります。手数料0%という条件の実質的な価値は、額そのものよりも、同じ相手との仕事が続きやすくなることにあります。継続案件は、一件ごとの実績よりも強い実績になります。
実績づくりは、職種を移っても効く
実績を条件つきで記録し、抽象化して伝えるという技術は、書く仕事に固有のものではありません。アプリケーション開発のお仕事の領域でも、守秘義務のある受託案件が多く、使用技術と担当工程だけを書いた職務経歴が標準になっています。物語の仕事も、同じ形式で書けます。
生成AIを前提とした制作が増えている領域では、実績の書き方に一項目増えます。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事で扱われるような制作フローでは、どの工程を人が担い、どの工程をツールで補ったのかを明示することが、逆に信頼につながる場面が出てきています。隠すのではなく、工程を正確に書く。実績の見せ方の原則は、ここでも変わりません。
出せない仕事が多いことは、この職種の弱点ではありません。守秘を守れる書き手だという証明を、そのまま実績として使えるからです。
よくある質問
Q. 守秘義務がある案件は、実績として一切書けないのですか?
書けることは多くあります。固有名詞を出さずに、媒体の種類・ジャンル・分量と工程・担当範囲の四項目に抽象化すれば、案件の型は伝わります。「守秘義務のため詳細は非公開」と一行添えておけば、実績が薄いのではなく守秘を守っていることが伝わり、かえって信頼の材料になります。まずは契約書の秘密保持条項の定義範囲を確認してください。
Q. 実績公開の許可は、いつ・どう取ればいいですか?
最も通りやすいのは納品直後です。記載する範囲を具体的に示し、本文の転載はしないと明言し、断りやすい逃げ道を添えた短いメールを送ります。さらに良いのは、受注時の条件確認の段階で「制作実績としての公開可否」を項目に入れておくことです。後から交渉するより、最初に決めておくほうが確実に話が早く済みます。
Q. 実績がまだ一件もない場合、何を見せればいいですか?
用途別のサンプル原稿を用意します。動画向けの構成台本、恋愛系ショートストーリーの冒頭など、800字程度の短いもので構いません。重要なのは、想定尺・読者層・避ける表現といった条件を自分で設定し、それに応えた形で書くことです。条件のないサンプルは自作品であり、指定どおりに書けるという証明にはなりません。
Q. 抜粋を載せるとき、どのくらいの長さが適切ですか?
400字程度を目安に、全件で長さを揃えます。長すぎると読まれず、短すぎると文体が伝わりません。そして抜粋には必ず「どういう指定に対して書いたものか」を添えてください。発注者が見ているのは文章の巧拙よりも、条件どおりに書けるかどうかの再現性です。条件のない抜粋は、判断材料になりません。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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