どちらも週20時間未満のダブルワークと社会保険|加入の条件と手取りへの影響 2026

長谷川 奈津
長谷川 奈津
どちらも週20時間未満のダブルワークと社会保険|加入の条件と手取りへの影響 2026

この記事のポイント

  • ダブルワークの社会保険はどちらも20時間未満なら加入しなくてよいのか
  • 事業所ごとに判定される仕組み
  • 4分の3基準の落とし穴

先日、2つのパート先を掛け持ちしている方から、こんな相談を受けました。「A社で週18時間、B社で週15時間働いています。合計すると週33時間なので、社会保険に強制加入させられて手取りが減るのでしょうか」と。結論から言うと、この心配はほぼ不要です。健康保険と厚生年金の加入判定は、勤務先ごとに、その勤務先での労働時間だけで行われます。2社の時間を足して判定するルールは存在しません。

つまり、ダブルワークで社会保険がどちらも20時間未満という状態なら、原則としてどちらの勤務先でも被保険者にはならない、というのが答えです。これ、知らない人が本当に多いんです。ただし「原則として」と書いたのには理由があります。20時間という数字だけを見て安心していると、4分の3基準という別ルールに引っかかったり、扶養の判定では収入が合算されて想定外の請求が来たり、2026年10月からの制度改正で前提が変わったりします。

この記事では、なぜ合算されないのかという仕組みの部分から、20時間未満に抑えたときに実際どうなるのか、手取りはいくら変わるのか、そして20時間の枠を守りながら収入を増やすにはどう設計すればいいのかまで、順番に整理していきます。法律はあなたの味方です。仕組みを知れば、無用な不安に振り回されずに働き方を決められます。

ダブルワークが当たり前になった今、社会保険の判定はどう変わったか

まず、なぜこの疑問がこれほど増えているのかという背景から押さえておきます。制度そのものが、ここ数年で大きく動いているからです。

副業・兼業を認める企業が増え、掛け持ち前提の働き方が主流になった

厚生労働省は2018年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、その後も改定を重ねています。それ以前のモデル就業規則には副業を原則禁止とする条項が入っていましたが、これが「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」という方向に改められました。この方針転換以降、就業規則を見直して副業を解禁する企業が着実に増えています。

同時に、人手不足を背景にした短時間勤務の求人が増え、1社でフルタイムを確保するよりも、複数の勤務先を組み合わせて生活を組み立てる人が増えました。とくに子育て中の方や介護をしている方、体調に波がある方にとって、週15時間から18時間程度の勤務を2つ組み合わせる形は、シフトの融通が利く現実的な選択肢になっています。

その結果、「1社あたりでは短時間だが、合計するとそれなりの時間になる」という人が大量に生まれました。この層が制度上どう扱われるのか、というのが本記事のテーマです。

社会保険の適用範囲は段階的に広がり続けている

もう1つの背景が、短時間労働者への社会保険適用拡大です。2016年10月に従業員501人以上の企業を対象にスタートし、2022年10月に101人以上、2024年10月に51人以上へと、対象企業の範囲が段階的に下げられてきました。

さらに2025年に成立した年金制度改正法により、この流れは続きます。月額8.8万円以上という賃金要件は2026年10月から撤廃される予定で、企業規模要件についても2027年10月以降に段階的に引き下げられ、最終的には撤廃される方向が示されています。施行日や細かい条件は今後の政省令で確定する部分もあるため、実際の判断にあたっては日本年金機構の最新情報を必ず確認してください。

ここで重要なのは、これだけ適用が広がっても、週20時間という労働時間の要件は維持されているという点です。賃金要件が外れ、企業規模の縛りがなくなっていくということは、裏返せば「週20時間以上かどうか」が加入を分ける最大の分岐点として、これまで以上に重みを増していくということです。だからこそ、20時間という数字の意味を正確に理解しておく価値があります。

検索する人の本音は「手取りを減らしたくない」

この疑問を調べている方の多くは、制度の勉強がしたいわけではありません。実際、Q&Aサイトにも同じ趣旨の質問が繰り返し投稿されています。

パートでダブルワークで働こうと思うのですが たとえば、2ヶ所の勤務先の勤務時間がそれぞれ 週20時間未満だったら、両方とも社会保険に加入しなくても良いですよね? 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

この質問文には、検索する人の本音がそのまま出ています。知りたいのは「加入しなくてもいいですよね」という確認であり、その背後にあるのは保険料負担で手取りが減ることへの警戒です。ですので本記事も、制度の説明で終わらせず、実際に手取りがどう変わるのかという数字まで踏み込みます。

社会保険の加入判定は「勤務先ごと」に行われる

ここが最も大事な原則です。ここさえ理解すれば、9割の疑問は解けます。

健康保険・厚生年金は事業所単位で被保険者資格を判定する

健康保険と厚生年金保険は、事業所(適用事業所)を単位として運営されている制度です。加入手続きをするのは勤務先の事業主であり、「その事業所で働く人が、その事業所での働き方において要件を満たしているか」を、事業所ごとに個別に判断します。

したがって、A社の担当者はB社での勤務時間を知る立場にありませんし、知る必要もありません。A社は「うちで週何時間働くか」だけを見て、被保険者にするかどうかを決めます。B社も同様です。2社の労働時間を合算して20時間を超えたから加入、という取り扱いは制度上存在しません。

これ、知らない人が本当に多いんです。税金(所得税・住民税)は原則としてすべての所得を合算して計算するので、社会保険も同じだろうと思い込んでしまう方が非常に多い。ですが税と社会保険は、そもそも判定の単位が違う別の制度です。

加入判定の2つのルート

事業所ごとの判定は、大きく2つのルートで行われます。どちらか一方に当てはまれば被保険者になります。

ルート1:4分の3基準(一般の被保険者)

1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、その事業所で同じような仕事をしている通常の労働者(いわゆる正社員)の4分の3以上である場合、企業規模にかかわらず被保険者になります。正社員が週40時間勤務の会社なら、週30時間以上が目安です。日数のほうも、正社員が月20日勤務なら月15日以上が目安になります。時間と日数の両方を満たす必要があります。

ルート2:短時間労働者の適用拡大

4分の3基準を満たさなくても、以下の要件をすべて満たすと被保険者になります。

・1週間の所定労働時間が20時間以上 ・月額賃金が8.8万円以上(2026年10月から撤廃予定) ・2か月を超える雇用の見込みがある ・学生ではない ・勤務先が一定規模以上の特定適用事業所である(規模要件は段階的に縮小予定)

この2ルートを並べると分かりますが、どちらの入口も「週20時間」が最低ラインになっています。4分の3基準は通常30時間前後が目安ですから、20時間未満で引っかかることはまずありません。適用拡大のほうも明確に20時間以上と定めています。

だから「どちらも20時間未満」なら、原則どちらでも加入しない

以上を踏まえると、答えは明快です。A社での所定労働時間が週20時間未満、B社での所定労働時間も週20時間未満であれば、それぞれの事業所で加入要件を満たさないため、どちらの勤務先でも健康保険・厚生年金の被保険者にはなりません。合計が週33時間だろうと週38時間だろうと、この結論は変わりません。

競合記事でも、この点は同じ整理がされています。

一方、A社で週22時間、B社で週18時間の場合。 A社では20時間以上なので加入条件を満たす可能性があります(他の条件も満たす場合)。 B社は20時間未満なので加入対象外です。 出典: leadbrain.co.jp

つまり判定は完全に勤務先ごとで、片方が20時間を超えていればその会社だけで加入し、両方が20時間未満なら両方とも対象外、ということです。

両方で加入する場合は「二以上事業所勤務届」が必要

参考までに逆のケースにも触れておきます。もし2社の両方で加入要件を満たしてしまうと、二重加入の状態になります。この場合は「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、要件を満たした日から10日以内に提出し、どちらの保険者を主とするかを選択する必要があります。

保険料は2社の報酬月額を合算して標準報酬月額を決め、それぞれの報酬額に応じて按分されます。手続きは本人が行う必要があり、放置すると後からまとめて請求が来ることもあります。20時間未満に抑える働き方には、この手続きの煩雑さを回避できるという地味なメリットもあります。

どちらも20時間未満のとき、健康保険と年金はどうなるのか

勤務先の社会保険に入らないということは、別の方法で健康保険と年金に加入する必要があるということです。日本は国民皆保険・皆年金ですから、無保険という選択肢はありません。ここを誤解している方がときどきいます。

パターン1:配偶者や親の被扶養者になる

最も負担が軽いのがこのパターンです。配偶者や親が会社員・公務員で健康保険の被保険者であれば、その被扶養者として認定を受けることで、自分の保険料負担なしに健康保険証を持てます。配偶者の扶養に入る場合、20歳以上60歳未満であれば国民年金の第3号被保険者となり、年金保険料の自己負担もゼロになります。

ただし認定には収入基準があります。原則として年間収入130万円未満(60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者は180万円未満)で、かつ被保険者の年収の2分の1未満であることが求められます。同居していない場合は、収入が仕送り額より少ないことなど別の基準になります。

ここが最大の落とし穴です。この130万円は、すべての勤務先の収入を合算して判定します。 社会保険の加入判定は事業所ごとなのに、扶養の判定は合算。この非対称性が、ダブルワークで最も事故が起きやすい箇所です。

ダブルワークで特に注意すべきなのは社会保険の扶養。 年収130万円を超えると扶養から外れ、自分で保険料を支払うため、手取りが大きく減ってしまいます。 出典: leadbrain.co.jp

しかも扶養の収入判定は、税金の「1月から12月の暦年」ではなく、健康保険組合ごとに定められた基準(多くは今後1年間の見込み収入、直近3か月の平均月収を年換算する方式など)で行われます。月収10万8千円を超える月が続くと、その時点で扶養から外れる判断がされることもあります。加入している健康保険組合の基準を、必ず事前に確認してください。

パターン2:国民健康保険と国民年金に自分で加入する

扶養に入れる家族がいない場合、または130万円を超えてしまった場合は、市区町村の国民健康保険と国民年金に自分で加入します。

国民年金の保険料は全国一律の定額で、2025年度(令和7年度)は月額17,510円でした。2026年度は1万8千円弱の水準になる見込みです。年間にすると21万円前後の固定費です。

国民健康保険料は自治体と前年所得によって大きく変わりますが、年収150万円程度の単身者で年10万円から15万円程度が一つの目安になります。2つを合わせると年31万円から36万円前後。これを全額自分で負担することになります。

ここで気づいてほしいのは、社会保険に入らない=保険料がゼロ、ではないということです。扶養に入れない人の場合、厚生年金・健康保険に加入したほうが、労使折半で会社が半分負担してくれるぶん、むしろ手取りが増えるケースすらあります。「加入を避ける」が常に正解とは限りません。

パターン3:主たる勤務先だけで加入する

片方が20時間以上、もう片方が20時間未満というケースです。この場合は20時間以上のほうの勤務先だけで社会保険に加入し、20時間未満の勤務先では加入しません。保険料は加入している勤務先の報酬だけを基に計算され、もう1社の給与は保険料計算に反映されません。

この構造を知っていると、「加入するならどちらの会社で加入するのが有利か」という設計もできます。時給や待遇が良く、標準報酬月額が高くなる勤務先で加入したほうが、将来の厚生年金額や傷病手当金の額が大きくなるからです。

20時間未満に抑えるつもりで失敗する5つのパターン

ここからは実務で実際に起きているトラブルを紹介します。相談を受けていて、繰り返し出てくる型があります。

失敗1:契約は19時間なのに、残業込みで恒常的に20時間を超えている

加入判定に使うのは「所定労働時間」、つまり契約上定められた労働時間です。ですので、たまたま繁忙期に残業して週20時間を超えた月があっても、それだけで即加入にはなりません。

ただし例外があります。実際の労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、3か月目以降も続く見込みがある場合は、実態に合わせて所定労働時間が20時間以上であると判断され、3か月目の初日から被保険者資格を取得することになります。契約書上は週19時間でも、毎週22時間働いている状態が続けば、契約書は守ってくれません。

私が以前相談を受けたケースでは、「シフトを足してもらっているだけだから大丈夫」と考えていた方が、半年後に遡って加入手続きをされ、まとまった額の保険料を一度に控除されて驚いた、ということがありました。シフトが恒常的に増えているなら、早めに勤務先と契約内容を整理し直してください。

失敗2:4分の3基準の「日数」を見落としている

週20時間ばかり気にして、もう一方の入口である4分の3基準を忘れているケースです。とくに注意が必要なのが、正社員の所定労働時間が短い会社です。

たとえば正社員が週25時間という短時間勤務を基本にしている事業所の場合、その4分の3は週18.75時間です。この会社で週19時間働いていれば、20時間未満であっても4分の3基準を満たしてしまい、企業規模に関係なく被保険者になります。「20時間未満だから絶対に大丈夫」という思い込みは危険です。自分の勤務先の通常の労働者が何時間働いているのかを、一度確認しておきましょう。

失敗3:扶養の130万円を勤務先ごとに数えていた

これが最も件数が多い失敗です。A社で年80万円、B社で年70万円。それぞれは130万円を大きく下回っていますが、合計は150万円で完全に超過しています。

扶養から外れる判定がされると、その時点まで遡って被扶養者資格が取り消され、その間に使った健康保険の医療費(保険者が負担した7割部分)の返還を求められることもあります。さらに国民健康保険・国民年金にも遡って加入することになり、保険料を一括で請求されます。金額が大きくなりやすく、家計へのダメージが深刻です。

※このケースで返還請求の額が大きい場合や、保険者との見解が食い違う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。個別事情によって扱いが変わる余地があります。

失敗4:2026年10月以降の制度改正を知らないまま計画を立てている

前述のとおり、月額8.8万円以上という賃金要件は2026年10月から撤廃される予定です。これまで「週20時間以上だが月収8万円台だから対象外」という位置取りで働いていた方は、賃金要件が外れた瞬間に加入対象になります。

「どちらも20時間未満」を維持している方には直接の影響はありませんが、片方を20時間ちょうどに調整している方は要注意です。また企業規模要件の縮小により、これまで対象外だった中小規模の勤務先が特定適用事業所になっていくため、「うちの会社は小さいから関係ない」という前提も年々崩れていきます。制度の前提が動くときは、必ず厚生労働省や日本年金機構の一次情報にあたってください。

失敗5:雇用保険と労災保険を社会保険と同じルールだと思っている

広い意味での社会保険には、健康保険・厚生年金のほかに雇用保険と労災保険も含まれます。この2つはルールが違います。

労災保険は、労働時間の長短にかかわらず、雇用されて働くすべての人に適用されます。週5時間のアルバイトでも対象です。保険料は全額事業主負担なので、本人の手取りには影響しません。通勤中や業務中の事故は、それぞれの勤務先の労災でカバーされます。なお2020年9月からは、複数の勤務先で働く人の給付基礎日額を全勤務先の賃金額を合算して算定する仕組みになりました。ダブルワーカーにとっては重要な改善です。

雇用保険は原則として、週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合に加入します。ここでも合算はされないため、どちらも20時間未満なら雇用保険にも入りません。つまり失業給付も育児休業給付も教育訓練給付も受けられない状態になります。これは20時間未満戦略の、見落とされがちな代償です。

例外として、65歳以上の方には「雇用保険マルチジョブホルダー制度」があります。2つの事業所での労働時間を合算して週20時間以上(各事業所で週5時間以上20時間未満)などの要件を満たせば、本人からの申し出により雇用保険に加入できる仕組みです。この制度は本人が手続きしないと適用されないので、該当する方は覚えておいてください。

さらに、2024年の雇用保険法改正により、2028年10月からは週所定労働時間の要件が10時間以上に引き下げられます。この改正が施行されると、「どちらも週20時間未満」であっても、それぞれ週10時間以上なら両方で雇用保険に加入することになります。健康保険・厚生年金の話とは別枠で、この変更は多くのダブルワーカーに直接影響します。

20時間未満に抑えるメリットとデメリットを数字で比べる

「入らないほうが得」という単純な話ではありません。両面を並べて判断してください。

メリット:手取りが目に見えて増える

社会保険料の本人負担は、健康保険がおおむね報酬の5%前後(都道府県・組合により異なる)、厚生年金が9.15%、40歳以上はこれに介護保険料が加わります。合計すると報酬の14%から15%程度です。

月収12万円の場合で試算すると、本人負担は月1万7千円前後、年間で20万円を超えます。扶養に入れる立場の人にとって、この差は小さくありません。

状況 健康保険 年金 本人の保険料負担(月額目安)
どちらも20時間未満・配偶者の扶養内 被扶養者 国民年金第3号 0円
どちらも20時間未満・扶養に入れない 国民健康保険 国民年金第1号 2万6千円前後
片方で加入(月収12万円) 健康保険 厚生年金 1万7千円前後

この表を見ると、扶養に入れる人と入れない人で、20時間未満を選ぶ意味がまったく違うことが分かります。扶養に入れない単身者の場合、国民健康保険と国民年金を全額自己負担するより、勤務先の社会保険に入って労使折半にしたほうが負担が軽くなる可能性が高いのです。

メリット:手続きと管理の負担が軽い

二以上事業所勤務届の提出、標準報酬月額の按分、保険者の選択、住所変更や氏名変更のたびに複数の届出。両方で加入するとこうした事務が発生します。20時間未満に揃えておけば、これらは一切不要です。実務的な煩わしさを避けたいという理由でこの働き方を選ぶ方も、実際にいます。

デメリット:将来の年金が増えない

厚生年金に加入している期間は、国民年金(基礎年金)に上乗せして報酬比例部分の年金が積み上がります。加入しなければ、この上乗せはゼロです。

たとえば月収12万円で厚生年金に10年間加入した場合、報酬比例部分として年8万円前後(月6千円台)が生涯にわたって上乗せされる計算になります。20年受給すれば160万円前後です。目先の保険料負担と、この将来価値を天秤にかける必要があります。正確な見込み額は、ねんきんネットの試算機能で自分の記録に基づいて確認するのが確実です。

デメリット:傷病手当金と出産手当金が使えない

これは意外と知られていない、しかし影響の大きいポイントです。健康保険の被保険者であれば、病気やけがで4日以上働けなくなったときに傷病手当金(標準報酬日額の3分の2相当)が最長1年6か月支給されます。出産で休むときには出産手当金も出ます。

ところが、被扶養者や国民健康保険の加入者には、これらの給付が原則ありません。国民健康保険にも傷病手当金の規定を置く自治体はありますが、任意給付で実施していない自治体が大半です。つまり20時間未満で働き続けるということは、働けなくなったときの所得補償が制度としてない状態を選ぶということです。ここは民間の就業不能保険などで自衛するか、加入する働き方に切り替えるかの判断が要ります。

デメリット:失業給付が受けられない

前述のとおり、雇用保険にも入りません。勤務先の一方が急に閉店した、シフトが激減したという場合でも、失業給付は出ません。ダブルワークは収入源が分散しているぶんリスクヘッジになっている面もありますが、公的なセーフティネットからは外れます。

20時間の枠を守りながら収入を増やす現実的な設計

ここが本記事で最もお伝えしたい部分です。「20時間未満に抑えたい、でも収入は増やしたい」という要望は、実は両立できます。鍵は、雇用契約の時間と、雇用契約でない働き方を分けて考えることです。

業務委託の在宅ワークは所定労働時間にカウントされない

社会保険の加入判定に使う「1週間の所定労働時間」は、雇用契約に基づく労働時間のことです。業務委託契約(請負・準委任)で受けた仕事は、労働時間という概念そのものがありません。成果物に対して報酬が支払われる関係だからです。

つまり、A社でパート週18時間、B社でパート週15時間という組み合わせを、A社でパート週18時間+在宅の業務委託、という形に組み替えれば、雇用契約はA社の18時間だけになります。業務委託でどれだけ稼いでも、社会保険の加入判定には影響しません。

※ただし、契約書のタイトルが「業務委託契約書」でも、実態として時間や場所を指揮命令されていれば労働者と判断される(偽装請負)可能性があります。判断が微妙な場合は労働基準監督署や社会保険労務士に相談してください。

そしてもう1点、扶養の130万円判定には業務委託の所得も含まれます。健康保険組合によって「収入から必要経費を引いた額で見る」「売上そのもので見る」など扱いが分かれるため、事前に自分の組合の基準を確認するのが必須です。ここを確認せずに走り出すと、失敗3と同じ事故が起きます。

時間ではなく単価で伸ばすという発想

雇用の枠を20時間未満に固定するなら、収入を伸ばす方向は「時間を増やす」ではなく「単価を上げる」しかありません。ここで重要になるのが、市場の単価相場を知ることです。

たとえばソフトウェア作成者の年収・単価相場では、開発系の職種がどの程度の水準で取引されているかが職種別に整理されています。文章を書く仕事を検討している方であれば著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。自分のスキルが市場でいくらの値札を付けられているのかを把握しないまま案件を受けると、時間だけ消費して手取りが増えないという状態に陥ります。

在宅で始めやすい業務委託の分野としては、AI関連の需要が急速に伸びています。生成AIの業務導入を支援する仕事の内容や求められるスキルはAIコンサル・業務活用支援のお仕事で、マーケティングやセキュリティを含む周辺領域はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で整理されています。開発の経験がある方ならアプリケーション開発のお仕事のように、単価水準の高い領域を狙う選択肢もあります。

資格で単価を底上げする

社会保険の仕組みを調べているうちに制度そのものに興味を持った、という方は少なくありません。実際、この分野の知識は資格として体系化できます。社会保険労務士は、まさに本記事で扱った健康保険・厚生年金・雇用保険の実務を扱う国家資格で、企業の労務管理や手続き代行の需要があります。IT寄りの方であればCCNA(シスコ技術者認定)のようなネットワーク系の認定資格が、業務委託案件の単価に直結しやすい領域です。

資格は取ればすぐ稼げるという性質のものではありませんが、「この人に任せられる」という判断材料を相手に与える機能があります。時間を増やせない働き方をするなら、この判断材料を増やすことに投資するのが合理的です。

生活リズムと集中力の設計も収入に効く

雇用のシフトと在宅の作業を組み合わせると、時間の使い方そのものが難しくなります。実際にこの形で働いている方の1日の流れは在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開で具体的に紹介されており、シフトの合間にどう作業時間を確保しているかが分かります。細切れの時間で成果を出すための集中法については在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックが実践的です。案件の探し方そのものに不安がある方は在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説から始めるとよいでしょう。

税金の扱いは社会保険とは別物

社会保険の話と混同されがちなので、税金についても整理しておきます。判定単位が違う、という点をもう一度確認してください。

2か所以上から給与を受けると年末調整だけでは完結しない

給与所得者は、扶養控除等申告書を提出した1か所(主たる勤務先)でのみ年末調整を受けられます。2か所目以降の給与は源泉徴収税額表の乙欄が適用され、主たる給与より高い税率で源泉徴収されます。この乙欄の税率が高いことに驚いて相談に来る方は多いのですが、これは取られすぎているだけで、確定申告で精算すれば戻ってくることがほとんどです。

確定申告が必要になるのは、主たる給与以外の給与収入と、給与以外の所得の合計が年20万円を超える場合です。ダブルワークの2社目が年20万円を超えていれば、申告義務があると考えてください。詳しい要件は国税庁のサイトで確認できます。

業務委託の収入は事業所得または雑所得になる

在宅の業務委託で得た収入は給与ではないため、経費を差し引いた所得が年20万円を超えると確定申告が必要です。継続的・反復的に行っていて事業といえる規模なら事業所得、そうでなければ雑所得として扱われます。

事業所得として青色申告を選択すれば、最大65万円の青色申告特別控除が使えます。これは課税所得を圧縮する効果があり、住民税や国民健康保険料にも波及します。国民健康保険に加入している方にとっては、所得を適正に申告して経費を漏れなく計上することが、翌年の保険料負担に直結します。

住民税の申告は20万円以下でも必要

所得税の確定申告が不要な20万円以下のケースでも、住民税の申告は別途必要です。この点を見落として、後から市区町村から問い合わせが来る方が毎年います。確定申告をすれば住民税の申告も兼ねるので、迷ったら申告しておくのが安全です。

トラブル事例から学ぶ、契約時に確認すべきこと

法律の知識は、トラブルが起きてから調べるより、契約する前に確認するほうがはるかに安く済みます。実際にあった相談を、匿名化して2つ紹介します。

事例1:口頭の「週18時間」が契約書に書かれていなかった

ある方は、面接で「週18時間でお願いします」と言われて働き始めました。ところが実際のシフトは週24時間前後で推移し、3か月後に社会保険の加入手続きが行われました。本人は扶養に入り続けるつもりだったので、想定外の展開です。

このとき問題になったのが、労働条件通知書に所定労働時間の記載がなかったことでした。労働基準法第15条は、労働契約の締結に際して労働時間に関する事項を書面で明示することを使用者に義務づけています。つまり、書面が交付されていない時点で会社側に法令違反があるわけですが、だからといって遡って加入を取り消せるわけではありません。実態が要件を満たしていれば、加入は加入です。

私がこの相談で痛感したのは、法律違反を指摘できることと、自分の望む結果が得られることは別だということです。契約時に書面で所定労働時間を確定させておけば、そもそもこの相談は発生しませんでした。労働条件通知書は必ず受け取り、週の所定労働時間の数字が入っているかを確認してください。

事例2:業務委託のはずが実質的に指揮命令下にあった

もう1つは、在宅の業務委託として契約したものの、実際には毎日決まった時間にオンラインで待機を求められ、作業手順も細かく指示されていたケースです。本人は「業務委託だから労働時間にカウントされない」と考えていましたが、実態は労働者性が強く、労働基準監督署に相談したところ雇用契約と評価される可能性が高いという見解が示されました。

契約書のタイトルが業務委託でも、労働者かどうかは実態で判断されます。判断の要素は、仕事の依頼を断る自由があるか、業務遂行の方法に具体的な指揮命令を受けているか、時間や場所の拘束があるか、報酬が時間に対して支払われているか、といった点です。※このあたりの判断は個別性が高いので、疑問があれば労働基準監督署の相談窓口や社会保険労務士に確認してください。無料で相談できる窓口があります。

在宅の仕事を選ぶときは、成果物ベースで報酬が決まっているか、作業時間を自分で決められるかを、契約前に確認しておきましょう。ここが曖昧なまま始めると、社会保険の前提も税金の扱いも崩れます。

市場を長く見てきた立場からの観察と、データが示すこと

最後に、フリーランス・在宅ワーク市場を20年運営してきた運営者としての観察を書いておきます。

20年この市場を見てきた立場から言えば、社会保険の加入を避けるために働く時間を削り続けるというアプローチは、長期的にはあまりうまくいきません。理由は単純で、時間を上限で縛る戦略には成長の余地がないからです。20時間未満に抑えて時給1,200円で働き続ける限り、収入の天井は最初から決まっています。実際に長く続いている方を見ていると、雇用の枠は最小限に固定したうえで、業務委託の側で単価を上げていく設計に切り替えた人が圧倒的に多い。制度の枠を回避することではなく、制度の枠の外側に収入の柱を作ることに時間を使っているわけです。

もう1つ、運営者として見てきた限りで確かなことがあります。それは、中間マージンが乗らない直接取引の効果が、金額そのものよりも「関係の続きやすさ」に出るという点です。仲介手数料が差し引かれない手数料0%の直接取引では、依頼する側は同じ予算でより多くの量を頼めますし、受ける側は同じ仕事で手取りが厚くなります。この双方が得をする構造があると、単発で終わらずに「またお願いします」が続く。長く続いている在宅ワーカーほど、案件を数多く探すことではなく、この関係を数本育てることに時間を使っています。週20時間未満という枠の中で収入を伸ばすなら、この積み上げが最も確実な道です。

職種データが示す、時間あたり単価の差

在宅で受けられる仕事の単価は、職種によって大きく開きがあります。掲載されている職種ガイドと年収データを横断して見ると、いくつかの傾向が読み取れます。

第一に、専門性の高さと時間あたり単価は明確に相関しています。開発系やAI活用支援のような領域は、一般的な事務作業と比べて時間単価が数倍の水準になることが珍しくありません。週20時間未満という制約がある人ほど、この差は決定的です。同じ10時間を使うなら、単価の高い領域で使うほうが合理的だからです。

第二に、資格や認定が単価に効く領域と、実績のポートフォリオが効く領域が分かれています。ネットワークやクラウドの認定資格は前者の典型で、有無が案件応募の可否を分けます。一方、ライティングやデザインは後者で、資格より制作物の質が判断材料になります。自分が狙う領域がどちらのタイプかを見極めて、投資先を決めてください。

第三に、需要の伸びが著しいのはAI関連の周辺業務です。生成AIそのものを開発する仕事だけでなく、既存業務にAIをどう組み込むかを設計・支援する仕事の相談が増えています。この領域は、必ずしもエンジニア経験を必要としません。業務のフローを理解している人であれば参入余地があります。

制度改正を「制約」ではなく「前提」として設計する

社会保険の適用範囲は、今後も拡大方向で動きます。賃金要件の撤廃、企業規模要件の縮小、雇用保険の10時間への引き下げ。これらはすべて、短時間労働者を社会保険のネットに取り込む方向の改正です。

したがって、「加入を避ける」ことを軸にした働き方の設計は、年を追うごとに窮屈になっていきます。数年後には、今の20時間未満という調整が通用しなくなる可能性も十分あります。制度改正を追いかけて条件を調整し続けるより、雇用の枠を必要最小限に固定したうえで、業務委託の側で自分の値札を上げていく。この形のほうが、制度の変化に強い設計です。

制度を正確に知ることは、避けるためではなく、自分の選択肢を把握するために必要です。どちらも20時間未満という選び方も、片方で加入するという選び方も、どちらが正解かは扶養に入れるかどうか、将来の年金をどう考えるか、働けなくなったときの備えがあるかによって変わります。この記事の内容をもとに、自分の条件を紙に書き出して比べてみてください。法律はあなたの味方です。仕組みを理解した人から順に、選べる選択肢が増えていきます。

よくある質問

Q. 2社の勤務先で合計が週20時間を超えたら社会保険に加入することになりますか?

なりません。健康保険と厚生年金の加入判定は勤務先ごとに行われ、複数の勤務先の労働時間を合算するルールはありません。A社で週18時間、B社で週15時間なら合計33時間でも、どちらも20時間未満なので両方とも加入対象外です。ただし扶養の年収130万円の判定は合算するため、こちらは注意が必要です。

Q. どちらも20時間未満で働く場合、健康保険と年金はどうすればいいですか?

配偶者や親が会社員なら被扶養者として認定を受ける方法があり、この場合は保険料の自己負担がありません。扶養に入れない場合は市区町村の国民健康保険と国民年金に自分で加入します。国民年金は月額1万7千円台の定額、国民健康保険は所得と自治体で変わり、合計で年30万円前後になることもあります。

Q. 20時間未満に抑えるデメリットは何ですか?

厚生年金に加入しないため将来の年金の上乗せがなく、健康保険の傷病手当金や出産手当金も受けられません。雇用保険にも入らないため失業給付や育児休業給付の対象外です。扶養に入れない人の場合、国民健康保険と国民年金を全額自己負担するより、勤務先の社会保険に加入して労使折半にしたほうが負担が軽くなることもあります。

Q. 20時間未満を維持しながら収入を増やす方法はありますか?

業務委託契約で受ける在宅の仕事は、労働時間という概念がないため社会保険の加入判定に影響しません。雇用のシフトは20時間未満に固定し、業務委託の側で単価の高い分野に取り組むのが現実的です。ただし扶養の130万円判定には業務委託の所得も含まれるため、加入している健康保険組合の収入基準を事前に確認してください。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月6日最終更新:2026年8月2日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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