デザイン発注時のNDAの結び方|個人デザイナーに求める範囲の目安 2026

中西 直美
中西 直美
デザイン発注時のNDAの結び方|個人デザイナーに求める範囲の目安 2026

この記事のポイント

  • デザイン発注時にNDA(秘密保持契約)をどう結べばよいか悩む発注者向けに
  • 費用相場までを具体的に解説します

「デザイナーに外注したいけれど、社外秘の情報をどこまで渡していいのか分からない」。そんなご相談を、私はこの数年、本当によく受けてきました。ロゴやパッケージ、Webサイトのデザインを外部の方に依頼するとき、自社の未発表商品や事業計画に触れてもらう場面は少なくありません。だからこそ、NDA(秘密保持契約)をどう結べばいいのか、迷うのは当然のことです。

この記事では、デザイン発注におけるNDAの結び方と、個人デザイナーに求める業務範囲の目安を、順を追ってお伝えします。大丈夫です。一つずつ整理すれば、決して難しい話ではありません。

デザイン発注でNDAが必要になる理由

まず落ち着いて考えていただきたいのは、NDAは「相手を疑うための書類」ではないということです。むしろ逆で、安心して情報を共有するための土台を作る書類だと捉えてください。

デザイン制作の現場では、発注者が想像している以上に多くの内部情報が外部デザイナーに渡ります。未発表の商品名、パッケージのコンセプト、事業計画のスライド、社内でしか使っていないブランドガイドライン。これらはすべて、競合他社に知られたくない情報です。

企業でNDAを結ぶ際、契約書を見るのは限られた上層部の人間のみで、実際に秘密情報に触れる社員には周知されていないケースは少なくありません。 出典: ai-con.lawyer

これは社内の話ですが、社外のデザイナーに発注する場合はさらに注意が必要です。相手は組織に属していない個人であることが多く、情報管理のルールも会社員とは違います。だからこそ、発注する側が最初にきちんと枠組みを示す必要があるのです。

在宅ワーク市場では、個人のデザイナーに業務委託でロゴやWebデザインを依頼するケースが年々増えています。中小企業庁の調査でも、フリーランスへの業務委託は中小企業のコスト最適化手段として広がりを見せていると報告されています。

この記事では、NDAの重要性とその要点を詳しく解説します。あわせて秘密保持契約に強いGVA法律事務所に聞いた、実際にNDAを結ばずトラブルに遭ってしまった事例、NDAを結んだ後に起こったトラブル事例とともに、NDA基本の様式が分かるテンプレートなど秘密保持契約のすべてをあますことなくご紹介。秘密保持契約の決定版です。 出典: ai-con.lawyer

デザイン発注は、契約書一枚を用意するだけの単純な話ではありません。「いつ結ぶか」「何を守ってもらうか」「破られたらどうなるか」を、発注者自身が理解しておくことが何より大切です。

NDAを結ぶタイミング。発注前か、発注後か

ここで多くの方がつまずくのが、「NDAはいつ結べばいいのか」というタイミングの問題です。

結論から言うと、具体的な情報を渡す前に結ぶのが基本です。順番としては次のようになります。

ステップ1:見積もり依頼の段階

この段階では、まだ機密情報を渡す必要はありません。「ロゴデザインを依頼したい」「予算はこのくらい」「納期はいつまで」という一般的な情報だけで見積もりは取れます。NDAはまだ不要です。

ステップ2:発注が決まり、詳細な情報を渡す段階

ここが分かれ目です。商品コンセプト、社内資料、既存のブランドガイドラインなど、外部に出したくない情報を渡すタイミングでNDAを締結します。契約書に署名を交わしてから、初めて詳細な資料を送るのが正しい順番です。

ステップ3:制作が始まってから

制作の途中で追加の機密情報を渡す必要が出てきた場合は、既存のNDAの範囲でカバーできているか確認してください。範囲外の情報であれば、追加の覚書を結ぶこともあります。

私自身、キャリアコンサルタントとして独立した直後、名刺やパンフレットのデザインを個人のデザイナーの方に依頼したことがあります。そのとき、恥ずかしながら見積もりの安さだけで相手を選んでしまい、契約書の話を切り出すタイミングを逃してしまいました。結果的に、資料をメールで送ってしまってから「あ、NDAを結んでいなかった」と気づいたのです。幸い大きなトラブルにはなりませんでしたが、あのときの冷や汗は今でも覚えています。順番を間違えると、こういう気まずさが生まれます。

NDAで定めるべき5つの必須条項

NDAの中身について、発注者として最低限押さえておきたい条項は次の5つです。

秘密情報の定義

「何を秘密情報とするか」を具体的に書きます。「本契約に関連してデザイナーに開示する一切の情報」という広い書き方が一般的ですが、口頭で伝えた情報も含めるかどうかは明記しておいた方が安全です。書面や電子データだけを対象にすると、打ち合わせで話した内容が抜け落ちてしまう可能性があります。

目的外使用の禁止

デザイナーが受け取った情報を、依頼した制作物以外の目的で使わないことを定めます。例えば、あなたの会社のロゴ案を、別のクライアントの参考資料として使い回されては困りますよね。この条項があることで、そうした流用を契約上禁止できます。

第三者への開示禁止

デザイナーが、あなたの許可なく第三者(外注先、知人、SNSなど)に情報を漏らさないことを定めます。個人デザイナーの場合、作業の一部を別の人に再委託することもあるため、「再委託する場合は事前に発注者の承諾を得る」という一文を入れておくと安心です。

契約期間と情報の返却・廃棄

NDAには有効期間を設けます。一般的には1年から3年程度が多く見られますが、扱う情報の重要度によって延長することもあります。契約終了後、渡した資料やデータをどう扱うか(返却するのか、削除するのか)も明記しておきましょう。

損害賠償と競業避止義務

情報漏洩が起きた場合の損害賠償について定めます。あわせて、競業避止義務(同業他社の類似案件を一定期間受けないことを求める条項)を入れるかどうかも検討ポイントです。ただし、個人デザイナーに厳しすぎる競業避止義務を課すと、相手の生計手段を過度に制限することになり、契約自体が無効と判断されるリスクもあります。バランスの取れた設計が求められます。

個人デザイナーに求める業務範囲の目安

NDAとあわせて発注者を悩ませるのが、「どこまでの業務範囲を個人デザイナーに求めるべきか」という点です。ここは費用感と直結する部分なので、具体的に見ていきましょう。

ロゴデザインの相場と範囲

ロゴデザインを個人デザイナーに依頼する場合、相場はおおむね3万円から15万円程度です。この価格帯には、以下のような業務範囲の違いがあります。

・3万円台:ラフ案1〜2種類の提示、簡単な修正1回まで ・5万円から8万円:ラフ案3種類程度、修正2〜3回、ロゴ使用ガイドラインの簡易版 ・10万円以上:コンセプトヒアリングからのフルオーダー、複数パターンの展開(縦組み・横組み・モノクロ版など)、詳細なブランドガイドライン作成

見積もりを比較するときは、単に金額だけでなく「修正回数は何回まで含まれるか」「納品データの形式は何か(AI、PSD、PNGなど)」「著作権や利用権の扱いはどうなっているか」を必ず確認してください。私がカウンセリングの現場で聞く相談の中にも、「安いと思って発注したら、修正1回で追加料金を請求された」という声があります。安さだけで選ぶと、後から想定外の費用がかさむことがあるのです。

Webサイトデザインの相場と範囲

Webサイトのデザインは、ページ数や機能によって幅が大きく、目安として10万円から50万円程度が個人デザイナーへの発注相場です。トップページのみのランディングページであれば10万円前後から、複数ページのコーポレートサイトであれば30万円以上を見込んでおくと安心です。

コーディング(実際にブラウザで動く形にする作業)まで含めるかどうかで、業務範囲と費用は大きく変わります。デザインカンプ(デザイン案の完成形)のみの依頼であれば費用は抑えられますが、その分、別途コーダーへの発注が必要になります。

パッケージデザインの相場と範囲

商品パッケージのデザインは、5万円から20万円程度が目安です。この分野は特に、試作品や商品コンセプトといった機密情報を扱う場面が多いため、NDAの重要性が高い領域と言えます。発売前の商品情報がSNSなどで漏れてしまうと、競合他社に先を越されるリスクや、話題性が損なわれるリスクがあります。

仲介会社を通すか、直接依頼するか

デザイン発注の方法には、大きく分けて「制作会社や仲介会社を通す方法」と「個人デザイナーに直接依頼する方法」の2つがあります。

制作会社を通す場合、進行管理やディレクションを任せられる安心感がある一方、その分の手数料が価格に上乗せされます。一般的に、仲介手数料は20%から30%程度が相場と言われています。

一方、個人デザイナーへ直接依頼すれば、この中間マージンが発生しません。同じ予算であれば、より高いクオリティを求められますし、同じクオリティを求めるのであれば、予算を抑えられます。この差は、特にロゴやパッケージデザインのように単価が大きい案件ほど効いてきます。

ただし、直接依頼の場合は、NDAの締結や契約書の作成、進行管理をすべて発注者側で行う必要があります。ここは仲介会社との違いとして、事前に理解しておくべき点です。テンプレートを活用したり、契約に強いマッチングサービスを使ったりすることで、この負担は軽減できます。

NDAを結ぶ際の実務的な注意点

NDAの中身が決まったら、次は実際の締結プロセスです。ここでもいくつか気をつけたいポイントがあります。

電子契約を活用する

紙の契約書は印紙代がかかりますが、電子契約であれば印紙代は不要です。個人デザイナーとの契約は単価も高くないことが多いため、電子契約サービスを使うと手続きがスムーズになります。クラウドサインやGMOサインといったサービスが広く使われています。

テンプレートをそのまま使わない

インターネット上には多くのNDAテンプレートが公開されていますが、そのままコピーして使うのはおすすめしません。案件ごとに扱う情報の性質は異なるため、秘密情報の範囲や契約期間は、実際の案件に合わせて調整する必要があります。

これまで、NDAでチェックすべき多くのポイントを紹介していきました。しかし実際の契約時に条文をひとつひとつ細かくチェックするのは骨が折れる作業ですし、必要以上に時間を割いてしまうと事業スピードやプロジェクトの停滞にも繋がってしまいます。 出典: ai-con.lawyer

この指摘は、発注者にとって大切な視点です。完璧な契約書を作ろうとするあまり時間をかけすぎると、デザイン制作そのもののスケジュールが後ろ倒しになってしまいます。基本条項さえ押さえていれば、まずは前に進めることも大切です。

相手の状況にも配慮する

個人デザイナーの多くは、あなた一社だけと仕事をしているわけではありません。過度に厳しい競業避止義務や、長すぎる契約期間を一方的に求めると、相手が契約自体を断ってしまうこともあります。NDAはあくまで、双方が安心して取引を進めるための土台です。発注者の都合だけで条項を固めるのではなく、実務上バランスの取れた内容にすることが、結果的に良いデザイナーとの関係を長く続けるコツになります。

デザイン発注でよくある失敗パターン

ここまでの内容を踏まえて、発注者がつまずきやすい失敗パターンを整理しておきます。

失敗1:NDA未締結のまま資料を送ってしまう

先ほどお話しした私自身の経験のように、見積もり比較に気を取られて、契約書の締結を後回しにしてしまうケースです。資料を送る前に「NDAを結びましたか」と、自分自身に問いかける習慣をつけることをおすすめします。

失敗2:業務範囲の認識がずれている

「ロゴだけでなく、名刺のデザインも当然含まれていると思っていた」というような、業務範囲の認識のずれもよくある失敗です。見積もり段階で、成果物のリストを箇条書きで明文化しておくと、こうした行き違いを防げます。

失敗3:修正回数の上限を確認していない

安い見積もりに飛びついた結果、修正1回までしか含まれておらず、2回目以降は追加料金が発生して総額が想定より高くなってしまうケースです。見積もり比較の際は、必ず修正回数の条件をそろえて比較してください。

発注者データから見えるNDA締結の実態

在宅ワーク市場を長く見てきた立場から言えば、NDAをきちんと結んでから発注している企業ほど、後々のトラブルが少ない傾向があります。これは特別なノウハウではなく、「最初に決めるべきことを決めておく」という、当たり前のことの積み重ねです。

長く続く発注関係ほど、単発の作業を発注して終わりにするのではなく、「この人に任せておけば安心」という信頼関係の構築に時間をかけています。NDAはその信頼関係の出発点であり、契約書を交わす行為そのものが、発注者としての姿勢を相手に伝えるメッセージにもなります。

また、中間マージンが発生しない直接取引には、双方にメリットがある構造があります。発注者は同じ予算でより多くの制作を依頼でき、受注するデザイナー側は手取りが厚くなります。金額の大小ではなく、「間に余計なコストが乗らない」という構造そのものが、双方にとっての得になっているのです。この構造を理解した上でNDAという土台を整えれば、個人デザイナーへの発注は、決して怖いものではありません。

デザイン発注の際は、AIコンサルティングや業務活用支援を依頼する場面でも同様の考え方が当てはまります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、社内データや業務フローという機密情報を扱う場面が多く、NDAの重要性がデザイン発注以上に高くなることもあります。あわせて、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように、セキュリティの観点が強く求められる分野の発注では、NDAの条項設計により慎重さが必要になります。

Webサイトのデザインからそのままシステム開発まで発注範囲を広げたいという場合は、アプリケーション開発のお仕事も参考にしてください。デザインとシステム開発では、扱う機密情報の種類も、NDAで守るべきポイントも変わってきます。

発注先となる個人デザイナーの単価感を知っておきたい方には、ソフトウェア作成者の年収・単価相場や、コンセプト文章の作成を依頼する場合の参考として著述家,記者,編集者の年収・単価相場も、発注前の相場感の把握に役立ちます。

より体系立ててNDAについて学びたい方には、フリーランスのNDA(秘密保持契約)|テンプレート付き解説ガイドで、契約書のひな型と条項ごとの解説を確認できます。実際に契約書を作成する段階では、フリーランスのNDA(秘密保持契約)テンプレート|書き方と注意点も、記入例とあわせて参考になるはずです。

デザイン以外の分野でもNDAの考え方は共通する

ここまでデザイン発注を中心にお話ししてきましたが、NDAの基本的な考え方は、他の専門分野への外注でも共通しています。例えば、クラウド関連の資格を持つ人材にシステム設計やインフラ構築を依頼する場合も、社内システムの構成情報という機密情報を扱うことになります。Azure Fundamentals(AZ-900)で始めるクラウド副業|Microsoft資格の価値で紹介されているような資格保有者への発注でも、同様にNDAの締結を検討する場面が出てくるでしょう。

「秘密情報とは何か」「いつ開示するか」「破られたらどうなるか」という3つの軸さえ押さえておけば、業種が変わっても応用が利きます。デザイン発注で身につけたNDAの結び方は、今後さまざまな外注シーンで生きてくる知識です。

最後にもう一度、大切なことをお伝えします。NDAは相手を疑う道具ではなく、安心して仕事を任せるための土台です。契約書一枚を交わす手間を惜しまないことが、結果的にあなたの会社の情報も、相手のデザイナーとしての信頼も、両方を守ることにつながります。焦らず、一つずつ整えていってください。あなたは一人でこの判断をする必要はありません。専門家に相談しながら、着実に進めていけば大丈夫です。

よくある質問

Q. デザイン発注のNDAはどのタイミングで結ぶべき?

見積もり依頼の段階では不要です。発注が確定し、商品コンセプトや社内資料など具体的な機密情報を渡す直前に締結するのが基本です。資料送付前に必ず契約を交わしてください。

Q. 個人デザイナーとのNDAに費用はかかる?

NDA自体の締結に高額な費用はかかりません。電子契約サービスを使えば印紙代も不要です。ただしテンプレートをそのまま使わず、案件に合わせた内容調整をおすすめします。

Q. NDAに競業避止義務を入れても問題ない?

入れること自体は可能ですが、期間や範囲を過度に厳しくすると、個人デザイナーの生計手段を不当に制限したとして契約が無効と判断されるリスクがあります。バランスの取れた設計が必要です。

Q. 制作会社経由と個人デザイナー直接発注、NDAの結び方は変わる?

基本条項は共通ですが、制作会社は組織としての管理体制があるのに対し、個人デザイナーは自身で情報管理を行うため、再委託の可否など個人特有の条項を明記しておくとより安心です。

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この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月6日最終更新:2026年7月31日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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