条件を決めずに始める在宅動画の字幕づくりの商談は差し戻しを生む

長谷川 奈津
長谷川 奈津
条件を決めずに始める在宅動画の字幕づくりの商談は差し戻しを生む

この記事のポイント

  • 在宅の動画字幕づくりで差し戻しや報酬トラブルが起きる原因は
  • 商談段階で条件を決めていないことにあります
  • フリーランス保護新法が定める発注者の義務

在宅で動画の字幕づくりを受けたものの、納品後に何度も差し戻されて終わらない。あるいは「これは想定と違う」と言われて報酬を減らされた。そういう状態で読んでいる方に向けて書きます。結論から言うと、原因のほとんどは商談の段階で条件を決めていないことにあります。そして、決めていないまま始めた仕事は、法的にも自分を守りにくくなります。

先日、ある在宅ワーカーの方から相談を受けました。動画10本分の字幕を納品したところ、「テロップの位置が想定と違う」という理由で全本の差し戻しを求められ、その作業は無償だと言われたというものです。話を聞くと、商談の段階で「字幕」としか決めておらず、字幕ファイルの納品なのか動画への焼き込みなのかが曖昧なままでした。これ、知らない人が本当に多いんです。この記事では、商談で決めるべき項目を1つずつ挙げたうえで、2024年11月に施行されたフリーランス保護新法が発注者に課している義務まで整理します。

条件を決めない商談が、差し戻しを生む構造

差し戻しは、作業の質が低いから起きるわけではありません。発注者の頭の中にある完成イメージと、受注者の理解がずれているまま作業が進むから起きます。

字幕づくりで差し戻しが起きる3つの典型

実際の相談で多いのは、次の3パターンです。

1つ目は、納品物の形が食い違うパターンです。 受注者はSRTファイルを納品するつもりでいて、発注者は動画に字幕が焼き込まれた状態を期待している。焼き込みは動画編集の作業なので、字幕テキストの作成とは工数がまったく違います。ところが商談で「字幕をお願いします」としか言っていないと、どちらの解釈も成り立ってしまいます。

2つ目は、表記ルールが後出しになるパターンです。 納品後に「社内の表記ルールに合わせてほしい」と言われ、全文の修正を求められる。表記ルールが存在すること自体は正当なのですが、それを商談で共有しなかったのは発注者側の情報提供不足です。つまり、後出しのルールに基づく全文修正は、本来は追加の作業として扱われるべきものです。

3つ目は、修正の回数と範囲が無制限になっているパターンです。 「ご満足いただけるまで対応します」と自分から書いてしまうケースもあります。字幕は主観の入る余地が大きい成果物なので、上限がないと際限なく戻ってきます。私が相談を受けたケースで最も長かったのは、10分の動画1本で修正が9回続いたというものでした。

「イメージと違う」は支払い拒否の理由にならない

ここは法律の話になるので、丁寧に説明します。

2024年11月に施行されたフリーランス保護新法、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。この法律は、従業員を雇っていない個人が業務委託を受ける場面で、発注側に一定の義務を課しています。

その中に、受領拒否の禁止報酬の減額の禁止という項目があります。つまり、受注者に責任がないのに納品物の受け取りを拒んだり、あとから報酬を減らしたりすることは禁じられているということです。「イメージと違う」という発注者側の主観だけを理由に支払いを拒むことは、この禁止事項に触れる可能性が高い行為です。

また、やり直しの強制も制限されています。受注者に責任がないのに無償でやり直しをさせることは、法律上の問題になり得ます。商談で表記ルールを共有していなかった発注者が、後出しのルールで全文修正を無償で求めるのは、まさにこの類型に当たります。

法律の運用や個別の判断については、公正取引委員会が制度の説明を公開しています。実際に揉めたときは、この枠組みを知っているかどうかで交渉の立ち位置が変わります。※ただし、個別の事案で法的手続きを検討する段階になったら、弁護士に相談してください。この記事は一般的な枠組みの説明にとどまります。

商談で必ず決めておく7項目

差し戻しを防ぐには、作業を始める前に条件を確定させるしかありません。字幕づくりの場合、次の7項目を押さえれば、トラブルの大半は防げます。

作業範囲をどこからどこまでにするか

最初に決めるのはここです。字幕づくりという言葉は、実務では複数の工程を含みます。

音声の文字起こし、タイムコードの付与、改行と文字数の調整、言い淀みの削除、表記の統一、字幕ファイルの書き出し、動画への焼き込み、そしてサムネイル用のテキスト抽出。このうちどこからどこまでを担当するのかを、商談で明示します。

特に焼き込みの有無は必ず確認してください。焼き込みが入ると動画編集ソフトでの作業になり、レンダリング時間も含めて工数が大きく変わります。「字幕」の一言で済ませず、「文字起こしからSRT書き出しまで、動画への焼き込みは含みません」と言葉にします。

納品形式を具体的なファイル名で決める

SRT、VTT、Excelのタイムコード表、あるいは動画編集ソフトのプロジェクトファイル。どの形式で納めるかを決めます。

複数形式が必要な場合は、それも先に確認します。後から「YouTubeにアップする形式でも欲しい」と言われて追加作業になるのを防げます。

表記ルールを商談の時点で受け取る

これが最も差し戻しの原因になりやすい項目です。発注者に表記ルールの資料があるなら、商談の段階で共有してもらいます。

資料がない場合は、こちらから基準を提示して合意を取ります。「1行は13文字から16文字、最大2行。数字は半角。英字は原則そのまま表記。言い淀みは削除し、意味が変わる箇所は残します。この基準でよろしいでしょうか」。この確認を1通送っておくだけで、後出しのルール変更は追加作業として扱いやすくなります。

私自身、独立した当初はこの確認を面倒に感じて省いていました。結果として、納品後に「弊社では西暦は全角です」と言われて全文を直す羽目になったことがあります。5分で済む確認を省いたせいで、3時間の無償作業が発生しました。

修正の回数と、修正の定義を決める

回数だけでなく、何を修正と呼ぶかを決めるのが重要です。

誤字脱字や聞き取り違いの訂正は、受注者側の責任なので回数に含めません。一方、発注者の意向による表現の変更や、動画そのものの内容変更に伴う書き直しは、別の話です。

「誤りの訂正は回数に関係なく対応します。ご意向による表現変更は2回まで無償、それ以降は別途お見積りとさせてください」。この線引きを商談で置いておくと、際限のない差し戻しを止められます。

納期を、素材の受領日を起点にして決める

カレンダー上の日付だけで納期を決めると、素材の到着が遅れたときに自分の首が絞まります。

「素材受領から48時間以内に初稿を提出します」という書き方にすれば、素材が遅れた分だけ納期も後ろにずれます。これは受注者を守るための書き方であると同時に、発注者にとっても素材を早く出す動機になるので、双方にとって合理的です。

報酬額と支払期日を明示する

報酬は、分単価か本単価かを明確にします。相場のレンジは動画1分あたり100円から300円程度で、専門分野や外国語混じりの案件では1分500円を超えるものもあります。

支払期日については、フリーランス保護新法が発注者に対して、納品物を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めることを求めています。つまり、「支払いは3か月後」といった条件は、法律の求める枠を外れる可能性があります。商談で支払期日を確認し、書面やメールに残してください。

権利の帰属と守秘の範囲を決める

字幕テキストの著作権をどう扱うか、納品後に実績として公表してよいかを決めます。

多くの案件では、納品と同時に権利が発注者に移る形が取られます。それ自体は一般的ですが、実績として公表できるかどうかは別に確認する価値があります。「クライアント名は伏せ、ジャンルと本数のみ公表可」といった合意が取れれば、次の商談で使える材料になります。

守秘義務については、公開前の動画内容を扱う以上、当然に負うものと考えてください。NDAを結ぶ案件もありますが、結ばない場合でも公開前の内容を外部に漏らさないのは前提です。

フリーランス保護新法が発注者に課している義務

商談の立ち位置を強くするために、法律が何を求めているかを押さえておきます。法律はあなたの味方です。

取引条件の明示が発注者の義務になっている

この法律の中心にあるのが、業務委託をした際に取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務です。つまり、口頭だけで発注して条件を書き残さないのは、発注者側の義務違反になり得るということです。

明示すべき事項には、業務の内容、報酬の額、支払期日などが含まれます。ここで重要なのは、条件を書き出すのは発注者の義務であって、受注者がお願いして書いてもらうものではないという点です。「条件を書面でいただけますか」と聞くのは、遠慮すべきことではありません。

実務上は、メールやチャットのテキストでも電磁的方法として成立します。オンライン会議で決めた内容を、こちらから議事メモとして送り、「相違があればご指摘ください」と添えるやり方が現実的です。

支払期日と、報酬の支払い遅延

先ほど触れた通り、支払期日は納品物を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間内に定めることが求められます。

在宅ワークの相談で多いのが、「支払いは検収完了後」という条件で、検収がいつまでも完了しないケースです。検収を引き延ばして支払いを遅らせるやり方は、実質的に支払期日の規定を空文化させます。商談の段階で「検収期間は納品から7日間、それを過ぎた場合は検収完了とみなす」といった条項を入れておくと、この抜け道を塞げます。

受注者に責任がないのに不利益を課すことの禁止

一定の期間以上継続する業務委託では、受領拒否、報酬の減額、返品、著しく低い報酬の設定、正当な理由のない物品購入の強制、不当な経済上の利益提供の要請、そして受注者に責任がないのにやり直しをさせることが禁止されています。

字幕づくりの現場に当てはめると、次のような行為が問題になります。表記ルールを共有していなかったのに全文修正を無償で求める。動画の内容を変更したのに、それに伴う書き直しを無償で求める。納品後に「予算が減った」として報酬を下げる。いずれも受注者に責任がない事象です。

こうした場面で、「法律ではこうなっています」と切り出せるかどうかで結果が変わります。実際の相談でも、根拠を示して丁寧に伝えたところ、発注者が態度を改めたケースは少なくありません。多くの発注者は悪意があるのではなく、単に義務を知らないだけです。

非対面での商談を、実務としてどう進めるか

在宅の仕事なので、商談も対面ではありません。テキストかオンライン会議のどちらかになります。

テキストで進めるか、会議で話すか

結論から言うと、条件の確定はテキストで行うのが安全です。オンライン会議は認識合わせには有効ですが、記録が残りません。

会議をした場合は、必ず終了後に議事メモを送ります。「本日の内容を下記の通り整理しました。相違があればご指摘ください」という一文とともに、決めた7項目を箇条書きにする。これで会議の内容が電磁的な記録になります。

このメモには、決まらなかった項目も書きます。「表記ルールは後日ご共有いただく」と明記しておけば、共有されないまま作業が進む事態を防げます。

商談で聞きにくいことを聞く順番

条件確認を切り出しにくいと感じる方は多いのですが、順番を工夫すると自然に聞けます。

最初に作業内容の確認から入ります。「正確なお見積りのため、いくつか確認させてください」と前置きすれば、質問は自然です。作業範囲、素材の条件、納品形式まではこの流れで聞けます。

次にスケジュールを聞きます。素材の受領予定日と公開日を確認すれば、納期の設計ができます。

最後に報酬と支払期日を聞きます。ここまでの流れで作業量が共有されているので、金額の話がしやすくなっています。いきなり報酬から入ると交渉色が強く出ますが、作業量の確認を経てからなら見積もりの一部として自然に扱えます。

商談で相手を見極めるポイント

条件を確認したときの反応は、その発注者と続けるかどうかの判断材料になります。

条件を聞かれて丁寧に答える発注者は、制作フローを持っている可能性が高い。逆に「細かいことは追々」「まずはやってみましょう」と流す発注者は、後から差し戻しが増えます。ここで違和感を持ったら、小さい規模から始めるか、見送る判断も必要です。

在宅の仕事は、動画まわりに限らず研修つきの雇用型募集も存在します。

SNS動画編集スタッフ募集!未経験からプロを目指せるフルリモートワークで、残業ゼロの18時退勤です。スマホやPCを使い、動画のチェックやテロップ・BGM挿入などの簡単な編集から始め、ゆくゆくは企画アイデア出しにも携わります。入社後はPC操作から丁寧な研修があり、先輩がしっかりサポートするので安心です。土日祝休みで年間休日120日以上、各種社会保険完備、在宅勤務手当、ノートPC貸与、サブスク補助など充実した待遇をご用意しています。 出典: 求人ボックス

雇用型であれば労働法の枠組みで守られ、業務委託であればフリーランス保護新法の枠組みになります。適用される法律が違うので、自分がどちらの立場で契約しているかは常に意識してください。契約書のタイトルではなく、実態で判断されます。

実際に揉めたときの手順

条件を決めていても、揉めることはあります。そのときの動き方を順番に書きます。

手順1: やり取りの記録を時系列で整理する。 メール、チャット、議事メモを日付順に並べます。何をいつ合意したかが分かる形にするのが目的です。

手順2: 感情を書かずに事実だけで問い合わせる。 「◯月◯日のメールで、表記ルールについては御社からご共有いただく旨で合意しておりました。今回のご指摘は当該ルールに基づくものと理解しております。追加作業となりますので、別途お見積りをお送りいたします」。この形で、事実と結論だけを書きます。

手順3: それでも解決しない場合、公的な相談窓口を使う。 フリーランスの取引に関する相談を受け付ける窓口が整備されています。制度の枠組みは公正取引委員会の情報で確認できます。労働者性が問題になるケースでは厚生労働省の情報も関係します。

手順4: 損害が大きい場合は弁護士に相談する。 ※金額が大きい、悪質性が高いといったケースでは、早い段階で専門家に相談してください。相談のタイミングが遅れるほど、証拠が散逸します。

大事なのは、揉めている最中も作業の記録を残し続けることです。どの時点で何を納品し、どの指示に基づいて何を修正したか。これが後で効きます。

条件確認メールのひな型と、各段落が果たしている役割

実際に送る文面がないと動けない、という方が多いので、ひな型を示します。丸写しではなく、各段落が何のためにあるかを理解して組み替えてください。

冒頭は目的の提示から入ります。「このたびはご連絡をありがとうございます。正確なお見積りとスケジュールをお出ししたく、下記について確認させてください」。この一文があるだけで、以降の質問が交渉ではなく見積もりの前提確認として読まれます。ここを省いて質問だけ並べると、警戒されることがあります。

次に作業範囲の確認を置きます。「今回のご依頼は、音声の文字起こしからタイムコード付与、SRT形式での書き出しまでという理解でよろしいでしょうか。動画への焼き込みが必要な場合は、別工程としてお見積りいたします」。イエスかノーで答えられる形にするのが要点です。オープンな質問にすると回答が返ってこず、曖昧なまま進みます。

続いて素材条件を聞きます。「動画1本あたりの尺、話者の人数、収録環境、専門用語の有無をお教えいただけますでしょうか。これらによって所要時間が変わるためです」。理由を添えると、質問の意図が伝わり回答率が上がります。

その次に表記ルールです。「表記ルールの資料がございましたらご共有ください。ない場合は、1行13文字から16文字、最大2行、数字は半角、言い淀みは削除という基準で作成いたします」。基準を自分から出すのが重要で、これがあると「ルールなし」で始まる事態を避けられます。

最後に条件の確認を置きます。修正の回数と定義、素材受領日を起点にした納期、報酬額、支払期日。ここは箇条書きにして、相手が上から確認できる形にします。「以上、相違がございましたらご指摘ください」で締めると、返信そのものが合意の記録になります。

全体で600文字前後に収まります。長くなりすぎると読まれないので、質問は多くても7つまでに絞ってください。

初回だけ条件を緩めたいときの、安全な緩め方

実績がない段階では、条件を厳しくすると受注できない、という悩みは現実的です。ただし、緩め方を間違えると後で効いてきます。

緩めてよいのは、単価と本数です。 初回だけ単価を相場の下限に寄せる、初回は1本だけ受ける。これらは後から戻せます。「初回は様子見として1分120円でお受けし、2本目以降は改めてご相談させてください」と、期限つきで提示するのが安全です。

緩めてはいけないのは、修正の定義と支払期日です。 修正を無制限にすると、単価がいくらであっても時給換算が崩壊します。支払期日を曖昧にすると、そもそも入金されないリスクを抱えます。この2つは、実績のあるなしに関わらず必ず決めてください。

無償のテスト作業を求められた場合も、判断が要ります。受けるかどうかは自由ですが、少なくとも「何分の動画を、いつまでに、どの形式で」を確認してから着手してください。実尺3分以内、1本まで、というラインを自分の中に持っておくと、無償作業が膨らむのを防げます。テスト後に採用されなかった場合でも、作ったものはサンプルとして手元に残ります。※ただし、素材に権利がある動画のテスト成果物を、そのまま他社への応募サンプルに転用するのは避けてください。

継続案件になったあと、条件を見直すタイミング

条件は一度決めたら終わりではありません。見直すべき節目が3つあります。

1つ目は、本数が増えたときです。 月2本だった依頼が月10本になったら、作業の性質が変わります。単発の受注から継続的な稼働に移るので、月ごとの上限本数と、それを超える場合の扱いを決め直します。ここを放置すると、断れないまま稼働が膨らみます。

2つ目は、作業範囲が広がったときです。 字幕だけだったのが、章立ての作成や説明文の下書きも頼まれるようになる。これは単価を見直す正当な機会です。「担当範囲が広がっておりますので、次回分から改めてお見積りをお送りしてもよろしいでしょうか」と切り出します。正面から値上げを求めるより、範囲の変化を根拠にするほうが通りやすい傾向があります。

3つ目は、素材の条件が変わったときです。 1人語りだったチャンネルが対談形式を始めた、専門的な内容が増えた。作業倍率が変われば、同じ単価では割に合いません。素材の変化は客観的な事実なので、説明しやすい根拠になります。

見直しを切り出すのは気が重いものですが、切り出さないまま続けると、条件の不利さが固定されます。抱え込んだまま消耗していく構図とその外し方は、在宅ワーカーのメンタルヘルスケア|孤独・燃え尽きを防ぐ5つの習慣【2026年版】に具体的にまとまっています。条件交渉を避け続けることは、精神的な負荷としてじわじわ効いてきます。

見直しを切り出すときの、具体的な言い回し

切り出し方が分からず先延ばしにする方が多いので、そのまま使える形を示します。

「いつもありがとうございます。直近3か月で、当初のお話より本数と作業範囲が広がっておりますので、次回分から条件を整理させていただけますでしょうか。現在の内容ですと1本あたりの所要時間が当初想定の1.5倍ほどになっております。改めてお見積りをお送りしますので、ご確認いただけますと幸いです」

この文面は、値上げを要求する形ではなく、実態と条件のずれを整理する提案の形になっています。根拠として挙げているのは所要時間という客観的な事実だけで、感情や不満を書いていません。発注者側も社内で説明しやすい材料になるため、通りやすくなります。

もし断られた場合も、それはそれで情報です。条件を見直せない相手と長く続けるかどうかは、稼働の総量と相談して決めてください。

20年この市場を見てきた立場からの観察

在宅ワークと業務委託の市場を運営者として長く見てきた立場から、商談について感じていることを書きます。

長く続いている受注者ほど、商談で聞く質問の数が多いです。作業範囲、素材条件、表記ルール、修正の定義。最初のやり取りで確認事項が5つも6つも並びます。一見すると面倒な相手に見えそうですが、実際には逆で、こういう受注者は発注側から重宝されます。理由は単純で、確認しない受注者ほど、後で発注側の手間が増えるからです。条件を詰める行為は、値切り交渉ではなく、双方の手戻りを減らす作業だという理解が共有できている関係は長続きします。

もうひとつ、額面と手取りの話をします。同じ報酬額でも、仲介手数料が引かれる経路と引かれない経路では、手元に残る金額が変わります。手数料が乗らない直接取引であれば、発注側は同じ予算でより多くの本数を頼めますし、受け手は1本あたりの手取りが厚くなります。手数料0%の意味は、金額が増えるという話ではなく、同じ労力に対する手取りの質が変わるということです。ただし直接取引は、仲介が担ってくれていた条件確認を自分でやる必要があります。この記事で挙げた7項目を自分で詰められるかどうかが、直接取引に移れるかの分かれ目になります。

職種データから見る、商談で詰めるべき項目の違い

在宅で完結する職種を横断して見ると、商談で詰めるべき項目は職種ごとに重心が違います。

エンジニア系では、要件定義の粒度と受け入れ基準が最大の争点になります。単価の水準感はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっていて、この職種では仕様変更の扱いを契約時に決めておくのが定石です。字幕づくりで言えば、動画の内容変更に伴う書き直しの扱いに相当します。

編集や執筆系では、修正の回数と、修正と誤りの線引きが争点になります。相場のレンジは著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認でき、字幕づくりはこのグループに近い位置にあります。表記ルールを先に受け取るという実務も、ライティング案件とほぼ共通です。表記の基準を体系的に押さえたいなら、ビジネス文書検定のような資格が実務に直結します。

専門資格が前提になる職種では、商談の作法そのものが違います。法律事務所のパラリーガルの働き方|在宅・時短勤務の現状【2026年版】のような分野では、守秘義務の範囲が契約の中心になります。税理士試験合格者の在宅ワーク事情|科目合格が武器になる理由【2026年版】でも、扱う情報の機微さから守秘と責任範囲の取り決めが優先されます。字幕づくりでも公開前の動画を扱う以上、この感覚は持っておくべきです。

AI関連の業務支援に広げる場合、AIコンサル・業務活用支援のお仕事では成果物の定義がさらに曖昧になりやすく、商談での言語化がより重要になります。字幕づくりで7項目を詰める練習をしておくと、この領域に移ったときに効きます。

条件を決めずに始めた商談は、必ずどこかで差し戻しを生みます。逆に言えば、最初の1通で7項目を確認するだけで、防げるトラブルの大半は防げます。確認を面倒がるのは発注者ではなく、たいてい受注者側です。聞きにくいと感じたら、「正確なお見積りのため」と前置きしてください。それだけで、質問は自然な業務連絡になります。

よくある質問

Q. 在宅の字幕づくりの商談で、最初に確認すべきことは何ですか?

作業範囲です。文字起こしからSRT書き出しまでなのか、動画への焼き込みまで含むのかで工数がまったく違います。次に納品形式、表記ルール、修正回数と修正の定義、素材受領日を起点にした納期、報酬額と支払期日、権利と守秘の範囲。この7項目をテキストで残してください。

Q. 納品後に「イメージと違う」と言われて報酬を減らされそうです?

フリーランス保護新法では、受注者に責任がないのに報酬を減額したり受領を拒否したりすることが禁止されています。発注者の主観だけを理由にした減額は問題になり得ます。まずやり取りを時系列で整理し、事実だけを書いて問い合わせてください。解決しない場合は公的な相談窓口や弁護士への相談を検討します。

Q. 報酬の支払いはいつまでに受けられますか?

フリーランス保護新法は、発注者に対して納品物を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定めるよう求めています。「検収完了後に支払う」という条件で検収が引き延ばされる例があるため、検収期間を7日間と定め、経過したら完了とみなす条項を入れておくと安全です。

Q. 修正の回数はどう決めればいいですか?

回数より先に「何を修正と呼ぶか」を決めてください。誤字脱字や聞き取り違いの訂正は受注者側の責任なので回数に含めません。発注者の意向による表現変更や動画内容の変更に伴う書き直しは2回まで無償、それ以降は別途見積り、という線引きが実務的です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月19日最終更新:2026年9月15日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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