フリーランスチームへの一括発注の契約設計|代表者契約と連帯責任 2026


この記事のポイント
- ✓フリーランスチームへ一括発注する際の契約設計を行政書士視点で解説
- ✓代表者契約と個別契約の違い
- ✓失敗しない選び方までを具体的に整理します
先日、ある店舗オーナーさんから相談を受けました。「SNS運用と広告運用をまとめて外注したくて、フリーランス3人のチームに一括発注したら、途中で1人だけ音信不通になり、残り2人が『自分は担当外だから』と対応してくれなかった」と。結論から言うと、これは契約書の設計段階でほぼ防げるトラブルです。フリーランスチームへの一括発注は、正しい契約設計さえできれば代理店経由より安く、しかも柔軟に動いてもらえる有効な手段です。この記事では、発注者の立場で「誰と」「どういう契約形態で」「どこまでの責任範囲を」取り決めるべきかを、行政書士の視点から具体的に解説します。
フリーランスチーム一括発注とは何か、なぜ今注目されているのか
フリーランスチームへの一括発注とは、複数のフリーランスが緩やかに連携して構成するチームに対し、発注者が業務をまとめて依頼する形態を指します。従来は「制作会社に依頼する」か「フリーランス個人に業務を細切れに依頼する」かの二択が一般的でしたが、近年はその中間にあたるこの形態を選ぶ発注者が増えています。
背景には、中間マージンへの意識の高まりがあります。制作会社や広告代理店を経由すると、実際に手を動かすフリーランスへの支払額に加えて、会社の管理費・営業費が上乗せされます。つまり、同じ予算でも制作会社経由だと実働時間が減り、フリーランスへ直接発注すれば同じ予算でより多くの作業時間を確保できる、という構造です。
一方で、フリーランスチームへの一括発注には制作会社にはない固有のリスクもあります。チームといっても法人格を持たない任意の集まりであることがほとんどで、誰が責任を負うのかが曖昧なまま契約してしまうケースが後を絶ちません。この記事の主眼は、まさにその「責任の所在をどう契約書に落とし込むか」にあります。
フリーランス市場の現状と一括発注が広がる背景
まず、マクロな数字から見ていきましょう。フリーランス人口はここ数年で大きく伸びています。
2020年1月の調査ではフリーランス人口は1,062万人、経済規模は17.6兆円だったことを踏まえると、コロナ禍がフリーランス市場の拡大に大きな影響を与えていることがわかります。コロナ禍でフリーランスになった人の背景には、リモートワークが一般化したことで時間的なゆとりが生まれた人もいれば、会社の将来に不安を感じ、会社に依存しない生き方を実行に移し始めた人もいるでしょう。 出典: caroa.jp
さらにその後の調査では、フリーランス人口はさらに増加していることが分かっています。
2021年11月にランサーズが発表した「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」によると、2021年10月時点で国内のフリーランス人口は1,577万人、経済規模は23.8兆円となっています。 出典: caroa.jp
フリーランス人口が増えたということは、それだけ「1人では請け負えない規模の案件を、複数人のフリーランスで分担する」動きも増えるということです。つまり、発注者側から見れば、単発の業務を1人に頼むだけでなく、SNS運用・広告運用・経理事務・EC運営代行などをまとめて複数のフリーランスに任せる選択肢が、以前より現実的になってきているということです。
実際、大手クラウドソーシング事業者もこの需要を早くから見込んでいました。
株式会社クラウドワークス(本社:東京都渋谷区 代表取締役社長:吉田浩一郎 以下「当社」)は、複数人のフリーランスチームを企業へご紹介するサービス「TeamWorks」を開始致しましたのでお知らせいたします。 出典: kyodonewsprwire.jp
このように、フリーランスチームへの一括発注は決して新しい発想ではなく、市場としてはすでに一定の実績がある領域です。だからこそ、契約設計の型を知っておくことが重要になります。
一括発注の契約設計:代表者契約方式と個別契約方式
フリーランスチームへ一括発注する際、契約の組み方は大きく分けて2つあります。それぞれの仕組みと、発注者側のメリット・デメリットを整理します。
代表者契約方式の仕組みとメリット・デメリット
代表者契約方式は、チームの中の1人(または法人化しているメンバー)を契約相手とし、その代表者がチーム内の他メンバーへ業務を再委託する形です。発注者は代表者とだけ契約書を交わし、報酬も代表者にまとめて支払います。
メリットは、契約事務が1本化されることです。発注者側は請求書のやり取り、進捗確認、支払い処理をすべて代表者経由で完結できます。窓口が1人に絞られるため、コミュニケーションコストも下がります。
デメリットは、代表者に何かあった場合(体調不良、連絡不通、廃業など)にチーム全体が機能不全に陥りやすいことです。また、代表者と他メンバーの間の再委託契約の内容を発注者が把握していないと、「発注者が期待していた品質基準がメンバーまで伝わっていなかった」というトラブルが起きやすくなります。
つまり、代表者契約方式を選ぶなら、発注者は代表者との契約書に「再委託先にも本契約と同水準の品質基準・秘密保持義務を課すこと」という条項を必ず入れる必要があります。これを入れていないと、代表者が再委託先に何を求めているか発注者側からは確認できず、トラブル時の責任追及も曖昧になります。
個別契約方式の仕組みとメリット・デメリット
個別契約方式は、チームの各メンバーと発注者が個別に契約書を交わす形です。SNS運用担当、広告運用担当、経理事務担当それぞれと直接契約するイメージです。
メリットは、責任の所在が明確なことです。誰がどの業務を担当し、どこまでの責任を負うかが契約書ごとにはっきりします。トラブルが起きた場合も、どの契約のどの条項に違反したかを特定しやすく、法的な対応も取りやすくなります。
デメリットは、契約書の本数が増えて事務負担が大きくなることです。3人のチームなら3本、5人なら5本の契約書を管理する必要があります。また、メンバー間の連携がうまくいかない場合、発注者が間に入って調整せざるを得ない場面も出てきます。
冒頭で紹介した店舗オーナーさんのケースは、実はこの個別契約方式に近い形でありながら、契約書自体は口頭合意に近い簡易なものでした。誰が最終責任を持つのかが契約書に書かれていなかったため、1人が離脱した際に残りのメンバーが「自分の契約範囲外」として動かなくなってしまったのです。
連帯責任条項をどう設計するか
代表者契約方式・個別契約方式のどちらを選ぶにせよ、複数人が関わる一括発注では「連帯責任条項」の設計が最も重要です。連帯責任条項とは、チームメンバーの誰かが業務を果たせなかった場合に、他のメンバーがその責任をどこまで肩代わりするかを定める条項です。
具体的には、次のような内容を契約書に盛り込みます。
・納期遅延が発生した場合、代表者(または他メンバー)が代替対応を行う義務があるか ・特定メンバーの離脱時に、残りのメンバーが業務を引き継ぐ努力義務を負うか ・損害が発生した場合の賠償責任を、チーム全体で連帯して負うか、担当者個人が単独で負うか
※このケースでは、賠償責任の範囲によっては保証内容が大きく変わるため、契約金額が大きい案件では弁護士に相談することをおすすめします。行政書士は契約書の作成支援はできますが、紛争が発生した後の代理交渉は弁護士の業務範囲になります。
これ、知らない人が本当に多いんです。「チームで受けているのだから、何かあったらチーム全員で責任を取ってくれるはず」と発注者が思い込んでいても、契約書に連帯責任の条項がなければ、法的にはメンバー個人がそれぞれ自分の担当範囲についてのみ責任を負う、という扱いになります。つまり、連帯責任を期待するなら、それを明文化しなければ意味がないということです。
一括発注の費用相場と見積もりの内訳
フリーランスチームへの一括発注では、見積もりの内訳を分解して確認することが失敗を防ぐ最大のポイントです。相場感の目安は次の通りです。
・SNS運用代行(週3投稿程度):月3万円〜10万円 ・広告運用代行(広告費とは別の運用手数料):広告費の15%〜20%程度 ・経理・事務代行(記帳代行含む):月2万円〜8万円 ・EC運営代行(受注処理・在庫管理含む):月5万円〜15万円
これらを個別に発注すると窓口が分散しますが、チームへ一括発注すればこの合計額に近い水準で、かつ窓口を1つに集約できるケースが多くあります。ここで重要なのが、代理店・仲介会社を経由した場合との比較です。代理店に依頼すると、実際に作業するフリーランスへの支払額に加えて、代理店の管理費・営業利益が上乗せされるため、総額が20%〜40%ほど高くなる傾向があります。フリーランスチームへ直接発注すれば、この中間マージンが発生しない分、同じ予算でより多くの作業量を依頼できる計算になります。
見積もりを受け取ったら、次の3点を必ず確認してください。
- 稼働時間ベースの単価か、成果物ベースの固定料金か
- 修正対応が何回まで含まれているか、追加料金が発生する条件
- 交通費・ツール利用料などの実費が別途請求されるか
私自身、初めて外注を依頼した際に見積もりの比較で失敗した経験があります。3社(3チーム)から見積もりを取ったのですが、金額の安さだけで比較してしまい、最も安いチームを選んだ結果、修正対応の回数制限が厳しく、追加料金がかさんで結局は他のチームより高くついてしまいました。見積書は総額だけでなく、内訳と条件を横並びで比較しないと、本当の安さは分からないというのを痛感した経験です。
発注前に確認すべきチェックリスト
一括発注を検討する際、契約前に必ず確認しておくべき項目を整理します。
・チーム内の指揮命令系統は誰が持っているか(発注者からの指示は誰に伝えればよいか) ・各メンバーの担当業務と、担当外の業務が発生した場合の対応フロー ・進捗報告の頻度と方法(週次ミーティング、日次チャット報告など) ・契約解除時の引き継ぎ義務(マニュアル・アカウント情報の返却など) ・秘密保持義務(NDA)が全メンバーに及んでいるか ・業務委託契約における報酬支払いのタイミング(フリーランス保護新法の規定を踏まえているか)
これらは発注前の打ち合わせで必ず口頭確認するだけでなく、契約書または業務委託の基本合意書に明記しておくことが重要です。口頭合意は、後になって「言った・言わない」の水掛け論になりやすく、トラブル時の解決を長引かせる原因になります。
失敗しない一括発注先の選び方
フリーランスチームを選ぶ際、発注者が確認すべき視点は次の4つです。
実績とチームとしての稼働年数
個々のメンバーの実績だけでなく、「このチームとして」どれくらいの期間、どんな案件を継続してきたかを確認しましょう。結成されたばかりのチームは、個人のスキルは高くても連携面で未成熟な場合があります。
契約形態の透明性
代表者契約方式なのか個別契約方式なのかを最初にはっきり説明できるチームは、契約リテラシーが高い傾向にあります。逆に、契約形態について曖昧な返答しかできないチームは、後々のトラブル時に責任の所在が不明確になるリスクが高いといえます。
コミュニケーションツールと報告体制
チャットツール、タスク管理ツール、オンラインミーティングツールなど、どのような体制で進捗を共有するかを事前に確認します。ツールが整備されているチームほど、途中でメンバーが変わった場合の引き継ぎもスムーズです。
見積もりの内訳の明確さ
前述の通り、総額だけでなく内訳を明示できるチームを選ぶことが、後からの追加費用トラブルを防ぐ最大のポイントです。
業務範囲・NDA・SLAの決め方
一括発注では、業務範囲(スコープ)の線引きが曖昧だと、必ずと言っていいほど「これは追加料金の対象か」という揉め事が起きます。契約書には、担当業務を箇条書きで具体的に列挙し、「含まれないもの」も明記しておくことをおすすめします。
秘密保持については、NDAをチーム全体に及ぼす形で締結する必要があります。代表者契約方式の場合、代表者とだけNDAを結んでも、再委託先のメンバーには効力が及ばないことがあります。必ず「再委託先にも本契約と同等の秘密保持義務を課す」旨を契約書に明記してもらいましょう。
SLA(サービス品質保証)についても、対応時間や修正回数、緊急時の連絡フローを事前に取り決めておくと、稼働開始後の認識齟齬を防げます。特にEC運営代行や広告運用代行のように売上に直結する業務では、SLAの有無がトラブル発生時の損害範囲に直結します。
フリーランス保護新法と一括発注の関係
2024年に施行されたフリーランス保護新法は、フリーランスチームへの一括発注においても適用対象になります。特に注意すべきは報酬の支払期日です。発注者は、成果物やサービスの受領日から60日以内に報酬を支払う義務があります。つまり、代表者契約方式でまとめて支払う場合でも、この60日ルールは代表者への支払いに適用されるということです。
さらに、業務委託の内容(業務内容、報酬額、支払期日など)を書面またはメールなどで明示する義務も課されています。口頭のみでの一括発注は、フリーランス保護新法の観点からもリスクが高い行為です。
※フリーランス保護新法の詳細な適用範囲や、チーム発注時の代表者・メンバー間の扱いについては、案件の規模や契約形態によって解釈が分かれる場合があります。契約金額が大きい、または継続的な取引になる場合は、行政書士や弁護士に事前相談することを強くおすすめします。
法律はあなたの味方です。ただし、味方にしてもらうためには、契約書という形で権利義務を明文化しておく必要があります。「信頼しているから契約書は簡単でいい」という考え方は、フリーランスチームへの一括発注では特に危険です。
一括発注に使えるツールと管理体制
一括発注を円滑に進めるためには、次のようなツールの活用も検討しましょう。
・タスク管理:進捗と担当者を可視化できるツール(誰が何をいつまでにやるかを一元管理) ・チャット:日次の連絡と週次の定例報告を分けて運用する ・契約書管理:電子契約サービスを使い、メンバーごとの契約書・NDAを一元保管する ・請求書管理:代表者経由での請求か、個別請求かを明確にし、経理処理のフローを統一する
ツールを整備すること自体が目的ではなく、「誰がどの業務を、どこまでの責任で行っているか」を発注者側からいつでも確認できる状態を作ることが本質です。この点は、フリーランスチームを一括発注のパートナーとして選ぶ際に、契約書の内容と同じくらい重視すべきポイントです。
独自データ考察:契約設計が発注の成否を分ける
20年この市場を見てきた立場から言えば、フリーランスチームへの一括発注がうまくいく発注者ほど、契約書を「作業依頼のための事務手続き」ではなく「関係性を続けるための土台」として扱っています。単発の作業を安く済ませることだけを目的にすると、契約書は簡素になりがちですが、そのしわ寄せは必ずどこかのタイミングで表面化します。
運営者として見てきた限りでは、長く続く発注関係ほど、担当業務の線引きと連帯責任の範囲を最初にきちんと詰めています。逆に、契約が曖昧なまま走り出した案件ほど、途中でメンバーの入れ替わりが起きたときに大きく揉めます。これは金額の大小にかかわらず共通する傾向です。
また、中間マージンが乗らない直接取引の構造は、金額の話にとどまりません。代理店を通さずフリーランスチームへ直接発注すれば、同じ予算でより多くの稼働時間を確保でき、受け手側であるフリーランスにも手取りが厚く届きます。手数料0%という仕組みは、単に「安い」という話ではなく、発注者と受注者の双方にとって「同じ予算からより多くの価値を引き出せる」という質的な違いを生みます。契約設計さえきちんと整えれば、フリーランスチームへの一括発注は、代理店経由よりも柔軟で、かつコストパフォーマンスの高い選択肢になり得るというのが、長年この市場を見てきた実感です。
発注先を探す際には、業務内容に応じた専門領域の理解も欠かせません。例えばAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、社内のAI活用を一括で相談できる人材を探す際の参考になりますし、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事は複数領域を横断するチーム発注の業務範囲を検討する際に役立ちます。開発案件を一括発注する場合は、アプリケーション開発のお仕事で求められるスキルセットの傾向を把握しておくと、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。
報酬水準の相場観を確認したい場合は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場や著述家,記者,編集者の年収・単価相場のようなデータベースを参照すると、チーム内の各担当者への配分を検討する際の目安になります。また、業務委託契約書の作成にあたっては、ビジネス文書検定のような資格が示す文書作成の基礎知識を持つ担当者がチームにいるかどうかも、契約書の質を左右する要素です。IT関連の業務を含む一括発注では、CCNA(シスコ技術者認定)のようなネットワーク関連資格の有無が、セキュリティ面での信頼性を判断する材料になることもあります。
一人親方として業務委託契約を結ぶ側の視点についても、一人親方 持続化補助金で解説していますので、受注側の制度理解を確認したい発注者の方は参考にしてください。
契約書は「トラブルが起きたときのための保険」ではなく、「トラブルを未然に防ぐための設計図」です。フリーランスチームへの一括発注を検討している方は、金額交渉の前に、まず契約形態と責任の所在を明確にすることから始めてください。
よくある質問
Q. フリーランスチームへの一括発注は個人事業主でも依頼できますか?
可能です。契約主体が法人か個人事業主かは契約の可否に直接関係しません。ただし、業務委託契約書を交わす際は、発注者が個人事業主であっても報酬の支払期日など法律上の義務を守る必要があります。
Q. 代表者契約方式と個別契約方式、どちらを選べばよいですか?
契約事務の簡便さを重視するなら代表者契約方式、責任の所在の明確さを重視するなら個別契約方式が向いています。案件規模が大きく損害リスクが高い場合は、個別契約方式か、代表者契約に連帯責任条項を厚く盛り込む方法をおすすめします。
Q. チームメンバーが途中で離脱した場合、契約はどうなりますか?
契約書に離脱時の引き継ぎ義務や代替対応の条項がない場合、法的な強制力を持って対応を求めることは難しくなります。契約前に、離脱時の業務引き継ぎフローを必ず取り決めておくことが重要です。
Q. 一括発注の見積もりで確認すべき最重要ポイントは何ですか?
総額だけでなく、稼働時間ベースか成果物ベースかという料金の性質、修正対応の回数制限、実費の扱いの3点です。これらを比較しないと、一見安い見積もりが結果的に高くつくケースがあります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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