よくある失敗は納品直前ではなく在宅文字起こしの受注時にある


この記事のポイント
- ✓在宅の文字起こしで失敗する原因は
- ✓作業の腕ではなく受注時の確認漏れにあります
- ✓表記ゆれといった典型例を
「在宅の文字起こしで失敗してしまいました」。このご相談、本当に多いんです。
納品したら大量に修正が返ってきた。納期に間に合わなくて謝った。次から声がかからなくなった。そのどれもが、自分の能力不足のせいだと感じてしまう。
大丈夫です。あなただけではありません。
そして、もう少し正確に言います。在宅の文字起こしで起きる失敗のほとんどは、納品直前の作業ミスではなく、受注した瞬間にすでに決まっています。何を確認しないまま引き受けたか。そこがすべての分かれ目です。
この記事では、失敗の型をひとつずつほどきながら、受注の段階で何を確認すれば防げたのかを整理します。そして最後に、もう失敗してしまった人が、どう立て直せばいいかもお伝えします。
失敗の大半は、納品直前ではなく受注の瞬間に決まっています
まず、いちばん大事なことをお話しします。
文字起こしの失敗を相談される方の多くは、「聞き取りが下手だった」「タイピングが遅かった」と自分の技術を責めています。でも、実際に何が起きたのかを一緒に振り返っていくと、原因は別のところにあることがほとんどです。
音声の長さしか見ずに引き受けていた。仕上げのレベルを聞いていなかった。話者が何人いるか把握していなかった。聞き取れない箇所をどう書けばいいか決めずに始めた。
つまり、作業を始める前の情報が足りていなかった。これは技術の問題ではなく、段取りの問題です。
そして段取りは、練習しなくても今日から直せます。ここが救いです。
受注時に起きている3つの見落とし
ひとつめは、作業量の見積もりです。音声60分と聞くと、多くの方は「1時間の作業かな」と受け取ります。実際は違います。未経験の方だと、音声1分につき6分から10分かかりますから、音声60分は6時間から10時間の作業になります。ここを取り違えると、納期の設定そのものが最初から破綻します。
ふたつめは、仕上げのレベルです。素起こし、ケバ取り、整文。この3つは、必要な時間がまったく違います。整文まで求められている案件を素起こしの感覚で受けてしまうと、想定の倍近く時間がかかります。
みっつめは、音質と話者の人数です。1対1のインタビューと、6人が同時に話す座談会では、難易度が別物です。会場のマイクが遠い録音では、聞き取れない箇所が全体の1割を超えることも珍しくありません。
この3つを聞かないまま引き受けたとき、失敗は受注の時点で確定しています。
なぜ、聞かずに引き受けてしまうのか
ここは心理の話になります。
初めて仕事を受けるとき、多くの方が「たくさん質問したら、面倒な人だと思われるのではないか」と不安になります。特に、実績がないうちは、そう感じやすい。断られたくないという気持ちが、確認を飲み込ませてしまうんです。
でも、発注する側の立場に立ってみてください。着手前に確認してくる人と、納品後に「聞いていませんでした」と言う人。どちらに次も頼みたいと思うでしょうか。
答えははっきりしています。確認は、面倒がられる行為ではなく、信頼される行為です。
私自身、独立して最初に受けた文書作成の仕事で、同じ失敗をしました。細かい仕様を聞くのが怖くて、「たぶんこういうことだろう」と自分で解釈して進めた。結果、納品後に全面的な作り直しになりました。あのとき、最初に10分の確認をしていれば、2日分の作業を失わずに済んだんです。
聞くのは、勇気ではなく手順です。手順にしてしまえば、感情の問題ではなくなります。
受注時に必ず確認したい7つの項目
ここからは具体的にいきます。次の7つを、着手前に必ず確認してください。テンプレートとして使えるように、そのまま送れる言い回しも添えます。
音声の長さと、想定される実作業時間
まず、音声の総時間を分単位で確認します。「およそ1時間」ではなく「62分」まで聞きます。数分の差が、納期のぎりぎりで効いてきます。
あわせて確認したいのが、録音時間と対象時間が同じかどうかです。会議の録音には、開始前の雑談や、休憩中の無音が含まれていることがあります。「録音120分のうち、文字起こしが必要なのは本編90分」という案件では、報酬の計算根拠がどちらなのかで金額が変わります。
送る文面はこうです。「音声の総時間と、文字起こしの対象範囲を教えてください。開始前の雑談や休憩部分を含むかどうかも確認させてください」。
話者の人数と、話者表記の形式
話者が何人いるか。名前を書くのか、記号で書くのか。ここは必ず聞いてください。
話者2人までなら、聞き分けは比較的簡単です。4人を超えると、声の判別に時間を取られ、作業時間が体感で3割ほど伸びます。相づちが重なる座談会は、さらに難しくなります。
表記についても、「発言者A」「山田」「〇〇部長」のどれで書くかは案件によって違います。後から一括置換すればいいと思われがちですが、敬称の付け方や役職の表記が混在すると、置換では直しきれません。
仕上げのレベル
ここが最大の分岐点です。素起こし、ケバ取り、整文のどれなのかを、言葉の定義ごと確認してください。
素起こしは、聞こえたままをすべて書く形です。「えー」「あのー」も、言い間違いも残します。ケバ取りは、意味を持たない言いよどみを削る形です。整文は、話し言葉を読みやすい書き言葉に整える形です。
議事録や会社の会議録などの文字起こしを発注する場合、「整文」という作業を行うことになりますが、初心者にありがちな失敗として整文の加減が分からないということが挙げられます。 出典: transcribespl.com
この「加減が分からない」という状態が、いちばん危ないんです。やりすぎれば発言のニュアンスが消え、足りなければ読みにくいままになる。どちらも修正指示が返ってきます。
防ぎ方はひとつです。着手前に、サンプルを見せてもらうこと。過去の納品物が1ページあるだけで、加減の基準は一目でわかります。「参考にできる過去の成果物を1ページ分いただけますか」と聞いてみてください。断られることは、まずありません。
表記ルール
数字は算用数字か漢数字か。英数字は半角か全角か。固有名詞の表記はどう揃えるか。年月日の書き方は。
こうした細かい部分がそろっていないと、内容が正しくても「雑な納品物」という印象になります。逆に、ここが揃っているだけで、読み手の信頼はぐっと上がります。
指定がない場合は、自分で決めて構いません。ただし、決めたことを納品時に一言添えてください。「数字は算用数字、英字は半角で統一しています。ご希望があれば合わせます」。この一文があるだけで、印象がまるで変わります。
聞き取れない箇所の処理方法
どんなに耳のいい人でも、聞き取れない箇所は必ず出ます。ここでの失敗は、「聞き取れなかったこと」ではなく「処理が統一されていないこと」です。
ある箇所は空欄、ある箇所は「(聞き取り不能)」、別の箇所は推測で書いてしまう。これが混ざると、読み手は何を信じていいかわからなくなります。
決めておくべきは3つです。ひとつ、記号の形式。「(不明瞭)」「(※)」など、ひとつに決めます。ふたつ、タイムスタンプを添えるかどうか。「(不明瞭 00:14:32)」と書いておくと、発注者が該当箇所をすぐ確認できます。みっつ、推測で書く場合の印。確信が持てない語には「(〇〇か)」のように印を付ける、というルールにしておけば、後から検証できます。
この3つを最初に決めておくだけで、修正依頼はぐっと減ります。
レイアウトと納品形式
意外と見落とされるのがここです。ファイル形式はWordかテキストか。改行のルールはどうするか。発言者ごとに空行を入れるか。タイムスタンプの間隔は何分ごとか。
レイアウトが雑然としていると、中身の正確さに関係なく評価が下がります。読む人は、まず見た目で判断するからです。
指定がない場合は、シンプルに統一してください。発言者名の後に全角コロン、発言本文、発言の間に空行を1つ。これだけで十分読みやすくなります。凝ったレイアウトは不要です。
納期と、途中経過の共有タイミング
最後に納期です。ここでは、最終納期だけでなく「途中で一度見せるタイミング」を提案してください。
たとえば音声60分の案件なら、「まず冒頭10分ぶんを2日後にお送りして、方向性をご確認いただけますか」と提案します。
これは、失敗を防ぐうえで最も効く一手です。仕上げの加減がずれていた場合、冒頭10分の段階なら修正は軽く済みます。全部仕上げてから指摘されると、60分ぶんを直すことになる。この差は決定的です。
発注する側も、途中で確認できるほうが安心します。双方にとって得のある提案なので、遠慮なく出してください。
納品後に発覚する典型的な失敗と、その根
受注時の確認をしていても、作業の途中で崩れることはあります。ここでは、実際に多い失敗を型として並べます。
納期に間に合わない
いちばん多く、いちばん信頼を損なう失敗です。
原因はほぼ例外なく、見積もりの甘さです。音声1分あたりの所要時間を実測せずに引き受けている。あるいは、初日に順調だったペースが最後まで続くと思い込んでいる。実際には、集中力は後半で必ず落ちますし、聞き取りにくい箇所が固まって出てくることもあります。
防ぐには、着手初日に音声5分ぶんを仕上げて、かかった時間を測ってください。そこから全体を逆算します。5分に40分かかったなら、音声60分は8時間です。ここに見直しの時間を2時間足して、10時間で計画を組む。
そして、間に合わないと気づいた時点で、すぐ連絡してください。前日に言われるのと、3日前に言われるのとでは、発注者の対応可能な選択肢がまったく違います。遅れそうだと伝えるのは、失敗の告白ではなく、リスク管理の共有です。
ケバ取りの加減が合っていない
「えー」「あのー」をどこまで削るか。ここには絶対的な正解がありません。案件ごとの正解があるだけです。
よくあるのは、削りすぎるパターンです。言いよどみを全部消した結果、発言者が迷いながら答えた部分が、断言したように読めてしまう。インタビュー記事の素材としては、これは致命的です。書き手が本来伝えたかったニュアンスが消えるからです。
逆に、残しすぎるパターンもあります。議事録として使う原稿に「えーっとですね、あの、まあ」が全部残っていると、読む人の時間を奪います。
判断に迷ったら、原稿の使われ方から逆算してください。記事の素材になるなら、ニュアンスを残す方向。社内の記録になるなら、読みやすさを優先する方向。用途を聞いておくと、迷いが減ります。
整文が中途半端で終わっている
整文を頼まれたのに、前半だけしっかり整えて、後半は疲れて素起こしに近くなっている。これも実際によく見る失敗です。
原因は、体力配分です。整文は、聞き取りより頭を使います。文の構造を組み替え、主語を補い、重複を整理する。集中力の消耗が激しいので、通しで作業すると必ず後半が雑になります。
対策は、作業の順番を変えることです。全体を素起こしで通してから、二周目で整文する。この二段構えなら、整文の作業は同じ集中状態でまとめてできます。一周目と二周目を別の日に分けると、さらに精度が上がります。時間はかかるように見えますが、修正のやり直しがなくなるぶん、結果的に早く終わります。
作業を区切って集中を保つ工夫は、在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックに、時間の区切り方や環境の整え方がまとまっているので、自分に合う方法を探してみてください。
表現のゆらぎを潰していない
同じ言葉が、原稿の中で違う表記になっている状態です。「お客様」と「お客さま」、「行なう」と「行う」、「Web」と「ウェブ」。
これは、聞き取りの能力とはまったく関係のない失敗です。にもかかわらず、納品物の印象を大きく下げます。
対策は単純で、納品前の検索置換です。自分がゆれやすい語を10個ほどリスト化しておき、毎回機械的にチェックする。文書の表記ルールを体系的に押さえたい方には、ビジネス文書検定のような資格の学習範囲が、そのまま実務のチェックリストになります。
レイアウトが雑然としている
改行の位置がばらばら、空行が入ったり入らなかったり、タイムスタンプの書式が途中で変わっている。
中身が正確でも、これだけで「丁寧に仕事をしていない人」という印象になります。読む人は、内容を読む前に見た目を見ます。
納品前に、原稿を全画面表示にして、上から下まで一度スクロールしてください。文字を読まず、形だけを見る。ずれている箇所は、必ず目で気づきます。この作業に必要なのは3分です。
機材が足りないまま作業している
ノートパソコンの内蔵スピーカーだけで作業していると、聞き取れない箇所が確実に増えます。人の声の低い成分が再生しきれないからです。
密閉型のヘッドホンがあるだけで、聞き取れる範囲は目に見えて広がります。高価なものは要りません。3,000円台のもので十分効果があります。
再生ソフトも同じです。ショートカットで3秒戻し、速度変更、自動巻き戻しができる無料ソフトを使うだけで、作業時間は目に見えて縮みます。汎用の音楽プレーヤーで巻き戻しを繰り返している方は、ここを変えるだけで失敗の半分が減ります。
AI文字起こしを使ったときに起きる特有の失敗
最近のご相談で増えているのが、AIの出力を修正する形の案件です。ここには、手作業とは違う種類の落とし穴があります。
AIの誤りは、自然な日本語の形で出てきます。人間が聞き取れなかった箇所は自分で「怪しい」と気づけますが、AIは自信ありげに違う単語を出力します。社名、人名、専門用語、方言。文章として成立しているので、目で追うだけでは見つかりません。
そして、いちばん怖いのが「聞かずに直してしまう」ことです。AI出力を読んで、文脈的におかしい箇所だけを修正する。これをやると、文脈的には自然だが事実と違う、という誤りがそのまま残ります。議事録なら、決定事項が逆になっていることさえあります。
防ぐ手順はひとつです。AI出力を使う場合でも、音声は必ず最初から最後まで通しで聞く。そのうえで、AIが正しく拾えていた箇所は入力の手間が省けた、と考える。時短の対象は「入力」であって「聴取」ではありません。ここを取り違えると、精度の低い納品物が量産されます。
AIを扱う仕事そのものに関心がある方は、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事に、AI関連の業務内容や求められる姿勢が整理されているので、どんな役割があるのかを掴む参考になります。
なお、守秘義務のある音声を外部のAIサービスに投入してよいかは、必ず契約条件を確認してください。ここは失敗では済まない領域です。
もう失敗してしまった方へ、立て直しの手順
ここからは、すでに失敗してしまった方に向けてお話しします。
まず、事実と感情を分けます
修正が大量に返ってきた。納期に遅れた。契約を切られた。
こういうとき、頭の中では「私には向いていない」「もうどこからも仕事が来ない」という言葉が回り始めます。これは、心理学では認知のゆがみと呼ばれるものです。難しい言葉ですが、要するに、ひとつの出来事を人生全体の評価に広げてしまう癖のことです。
紙に、起きた事実だけを書いてみてください。「音声60分の案件で、整文の加減が違うと指摘され、修正に4時間かかった」。これが事実です。
「私は文字起こしに向いていない」は、事実ではなく解釈です。この2つが混ざっているあいだは、次の一手が決められません。
分けて書くだけで、呼吸が少し楽になります。試してみてください。
発注者への連絡は、短く、早く、具体的に
失敗したときの連絡で大切なのは、長さではなく速さです。
謝罪の言葉を丁寧に組み立てているあいだに時間が経つと、相手の不安は増えます。次の3点だけを、できるだけ早く送ってください。
ひとつ、何が起きているか。ふたつ、いつまでに、どうするか。みっつ、相手にお願いしたいこと。
「整文の加減について認識に相違がありました。ご指摘いただいた基準で全体を修正し、明日18時までに再納品いたします。前半5分ぶんを先に本日中にお送りしますので、方向性をご確認いただけますでしょうか」。
これで十分です。言い訳は書かない。原因の説明も、聞かれてから書けばいい。相手が知りたいのは、いつ直るかだけです。
同じ失敗を二度としないための1枚のメモ
失敗のあと、多くの方が「気をつけよう」と思って終わりにします。これでは繰り返します。気をつけるという対策は、疲れているときに機能しないからです。
代わりに、確認項目のメモを1枚作ってください。この記事の7項目をそのまま書き写すだけでいい。案件を受けるたびに、そのメモを開いて上から埋める。
意志ではなく手順にすること。これが、失敗を減らすいちばん確実な方法です。
失敗しにくい案件の選び方
失敗を減らすもうひとつの道は、そもそも難しい案件を避けることです。
最初の3案件は、次の条件で選んでください。音声30分以内。話者2人以内。音質について記載がある。仕上げレベルが明記されている。この4つが揃っている案件は、失敗の確率が明らかに低くなります。
逆に、避けたほうがいいのは、シンポジウムや座談会のような多人数の音声、方言が強く出る対話、専門用語が多い技術系の会議です。これらは実力がついてから受けても遅くありません。
文字起こしの在宅バイトを始めたいのですが、経験も、実績もないので何から始めたらいいのでしょうか? タイピングは人並にできます 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
この質問に対する答えは、「タイピング速度より、条件の明確な案件を選ぶこと」です。タイピングは人並みで十分です。実際、作業時間の大半は入力ではなく、聞き取りと判断に使われます。速く打てる人が失敗しないわけではありません。
在宅で受けられる仕事の全体像を知っておくと、文字起こしが自分に合わないと感じたときにも次が見えます。データ入力・文字起こし・分類のお仕事には、入力や分類を含む周辺業務の種類がまとまっているので、同じ環境で受けられる仕事を探す起点になります。もう少し広く選択肢を見たい方は、在宅でできる仕事おすすめ【2026年版】|スキル別ランキングにスキル別の比較が整理されています。家事や育児と組み合わせた1日の回し方をイメージしたい方には、在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開が具体的です。
文章を扱う仕事として先を見たい方は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で文章系職種の報酬レンジを確認しておくと、文字起こしをどこまで続けるかの判断材料になります。技術系の音声を扱えるようになると聞き取り精度そのものが上がるので、CCNA(シスコ技術者認定)のようなネットワーク分野の学習が、遠回りに見えて効くこともあります。開発分野の相場感はソフトウェア作成者の年収・単価相場で把握できます。音そのものを扱う方向に興味が出た方は、作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事のように、同じ在宅環境で受けられる別の道もあります。
案件のジャンル別に、起きやすい失敗は違います
同じ文字起こしでも、素材のジャンルが変われば、つまずく場所も変わります。自分がどのジャンルで失敗したのかを見極めると、次の対策がはっきりします。
インタビューと対談
比較的やさしいジャンルですが、独特の落とし穴があります。相づちの扱いです。聞き手が「はい」「なるほど」と挟む声を全部拾うと、原稿がぶつ切りになって読めなくなります。かといって全部消すと、話し手が誰に向かって話しているのかが見えにくくなる。
目安として、相づちは話の区切りに来るものだけ残し、発言の途中に重なるものは落とす。この基準を決めておくだけで、原稿の読みやすさが変わります。もうひとつ、インタビューでは笑い声や間の処理も聞いておくと安心です。「(笑)」を入れるかどうかは、記事の雰囲気を左右します。
会議と議事録
いちばん失敗が多いジャンルです。話者が多く、途中で発言が重なり、資料を見ながら「これ」「こちら」といった指示語で話が進みます。
音声だけでは意味が取れない箇所が必ず出るので、配布資料をもらえるか最初に聞いてください。資料が1部あるだけで、固有名詞の表記も数字の確認も一気に楽になります。資料がもらえない場合は、聞き取れなかった固有名詞をまとめて納品時に添え、確認をお願いする形にします。これは手抜きではなく、正確さを担保するための正しい手順です。
講演とセミナー
話者が1人なので簡単に見えますが、専門用語の密度が高く、下調べの時間が想定外にかかります。90分の講演で、調べ物だけに1時間使うことも珍しくありません。
対策は、着手前に登壇者の名前と所属、テーマの周辺用語を調べて、単語登録まで済ませておくことです。この準備に20分使えば、作業中の中断が大幅に減ります。準備を省いて本編に入ると、調べるたびに手が止まり、集中も切れます。
動画の字幕とテロップ
文字起こしに文字数の制限が加わるジャンルです。表示できる秒数に合わせて、意味を保ったまま文を刈り込む必要があります。
ここでの典型的な失敗は、話された言葉を全部入れようとして、読み切れない字幕を作ってしまうことです。字幕は読めなければ意味がありません。1行あたりの文字数と表示秒数の指定を最初に確認し、収まらない場合は削る、という前提で作業してください。刈り込みの判断は、要約の練習にもなります。
失敗を減らすために、作業の順番を組み替える
最後に、作業手順そのものの見直しをお話しします。多くの方は、音声の頭から順に、聞き取りと整文と表記統一を同時にやろうとします。これが失敗の温床です。
人間の頭は、性質の違う判断を同時に走らせると精度が落ちます。聞き取りは耳の仕事、整文は構成の仕事、表記統一は目の仕事です。この3つを混ぜると、どれも中途半端になります。
そこで、次の3周に分けてください。1周目は素起こしに徹する。聞こえたままを打ち、整文は一切しない。聞き取れない箇所は印を付けて飛ばす。2周目で整文する。文の構造を整え、主語を補い、重複を削る。3周目は音声を聞かず、目だけで表記統一とレイアウトを確認する。
一見遠回りですが、実際は速く終わります。1周目で迷わないぶん手が止まらず、2周目は同じ集中状態でまとめて処理でき、3周目は機械的に進むからです。修正のやり直しがなくなるぶん、合計時間はむしろ短くなります。
この3周法は、集中力が落ちやすい方ほど効果があります。1周目だけなら疲れていてもできる、というのが大きい。ゼロの日を作らずに進められるようになります。
現場を長く見てきた立場からの観察
フリーランスと在宅ワークの市場を20年見てきた立場から言うと、失敗して消えていく人と、失敗しても残る人の差は、技術ではありません。差が出るのは、失敗したあとの初動です。
修正指示が来たときに、まず「どう直すか」を確認する人は残ります。「なぜそうなったか」を説明し始める人は、少しずつ声がかからなくなります。発注する側が求めているのは、原因の解明ではなく、原稿が使える状態になることだからです。
運営者として見てきた限り、長く続いている人ほど、単発の作業の完成度より「この人に任せると手間がかからない」という関係づくりに時間を使っています。着手前に確認し、途中で一度共有し、納品形式を毎回そろえる。これができる人は、多少の失敗をしても仕事が途切れません。
もうひとつ、額面と手取りの話をさせてください。同じ予算でも、間にいくつも仲介が入ると、依頼者が払った金額と受け手に届く金額の差は大きくなります。仲介の手数料が乗らない直接取引の形では、依頼する側は同じ予算でより多くを頼めますし、受ける側は手数料0%のぶん手取りが厚くなります。この差は、金額の大小というより、続けられるかどうかに効いてきます。手取りが薄いまま失敗を重ねると、心のほうが先に折れてしまうからです。20年見てきて、辞めていく方の多くは、技術の限界ではなく、割に合わない感覚の蓄積で辞めています。
在宅案件の傾向から読み取れること
在宅の文字起こし案件を横断して眺めると、募集要項の書き方に明確な差があります。仕上げレベル、話者数、音質、納品形式が明記されている案件と、「音声データの文字起こし」としか書かれていない案件です。
前者は、発注側が過去に何度も外注していて、必要な情報がわかっている。後者は、初めて外注する、あるいは外注のノウハウが社内にない。
失敗のリスクが高いのは、明らかに後者です。悪意があるわけではありません。何を伝えるべきか、発注側も知らないだけです。だからこそ、受ける側が確認の主導権を握る必要があります。
裏を返すと、確認事項を整理して聞ける人は、後者の案件でも安心して受けられるということです。そして、そういう発注者は、一度うまくいくと継続的に依頼してくれることが多い。外注のノウハウを一緒に作った相手だからです。
失敗は、避けるべきものであると同時に、次の受注の質を上げる材料でもあります。今回うまくいかなかったことを7項目のメモに書き足してください。そのメモが厚くなるほど、あなたの受注は安全になります。
焦らなくて大丈夫です。一度の失敗で決まる仕事ではありません。
よくある質問
Q. 在宅の文字起こしで、いちばん多い失敗は何ですか?
納期遅れです。原因のほとんどは見積もりの甘さで、音声60分を1時間の作業と誤解していることが多く見られます。未経験期は音声1分あたり6分から10分かかるため、音声60分は6時間から10時間の作業になります。着手初日に音声5分ぶんを実測してから全体を逆算してください。
Q. 整文はどこまでやればよいですか?
案件ごとに正解が変わるので、着手前に過去の納品物を1ページ分見せてもらうのが最も確実です。判断に迷う場合は原稿の用途から逆算し、記事の素材なら発言のニュアンスを残す方向、社内記録なら読みやすさを優先する方向に寄せます。削りすぎると迷いながらの発言が断言に読めてしまうので注意が必要です。
Q. 聞き取れない箇所はどう書けばよいですか?
記号の形式をひとつに決め、タイムスタンプを添え、推測で書いた語には印を付ける。この3つを最初に決めておきます。「(不明瞭 00:14:32)」のように書いておくと発注者が該当箇所をすぐ確認できます。失敗になるのは聞き取れないこと自体ではなく、処理方法が原稿内で統一されていないことです。
Q. 納期に間に合わないとわかったら、どうすればよいですか?
気づいた時点ですぐ連絡します。伝えるのは、何が起きているか、いつまでにどうするか、相手にお願いしたいことの3点だけです。言い訳や原因の説明は聞かれてから書けば十分です。前日に言われるのと3日前に言われるのとでは、発注者が取れる対応がまったく違います。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
中西 直美@SOHO編集部
産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。
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