簿記2級を活かせる仕事を在宅で見つける道と、求められる経験

長谷川 奈津
長谷川 奈津
簿記2級を活かせる仕事を在宅で見つける道と、求められる経験

この記事のポイント

  • ✓簿記2級を活かせる仕事を在宅で探すときに
  • ✓求人票が本当に求めている経験は何かを整理しました
  • ✓在宅で需要がある5つの業務

簿記2級を取ったあと、いちばん多いつまずきは「資格はあるのに実務経験がないので応募できない」という壁です。求人票の必須条件に「経理実務3年以上」と書かれていて、資格の欄は歓迎条件にしか出てこない。この並び方を見て、簿記2級は転職には弱いと結論を出す人が少なくありません。結論から書くと、その読み方は半分だけ正しい。正社員の経理職に未経験から入る競争では確かに弱いのですが、在宅の業務委託では資格の位置づけが逆になります。この記事では、簿記2級が在宅の仕事で実際にどう評価されるのか、求人票の「経験」が何を指しているのか、報酬がどう決まるのか、そして最初の1件をどう取るのかを、順番に整理します。

簿記2級は何ができると見なされる資格なのか

まず、資格を出している側がこの級をどう位置づけているかを押さえます。日本商工会議所は、簿記2級のレベルを「高度な商業簿記と工業簿記を修得し、財務諸表の数字から経営内容を把握できる」段階と説明しています。3級が個人商店や小規模な事業の記帳を対象にしているのに対し、2級は株式会社の決算と原価計算まで範囲に入ります。つまり「伝票を起こせる」段階ではなく、「決算書ができる過程を追える」段階だと見なされています。

難易度の位置も数字で確かめられます。2級の統一試験は、2026年6月14日の第173回で実受験者4,821名に対し合格者728名、合格率は15.1%でした。パソコンで随時受けられるネット試験は、2025年4月から2026年3月までの1年間で受験者141,072名に対し合格者46,351名、合格率32.9%です。

商工会議所の簿記検定試験は、簿記の普及向上を通じて、企業経営の健全化と経済社会の発展に寄与することを目的として1954年から施行しています。2026年6月14日(日)の試験で173回目となり、これまで2,900万人以上の方にご受験いただきました。 出典: 商工会議所の検定試験

統一試験とネット試験で合格率が2倍ほど違うのは、受験する層と出題の構成が違うためです。この差を知らずに「2級の合格率は15%だから難関」とだけ覚えると、自分の到達度の説明を誤ります。履歴書と応募書類には、どちらの方式で取ったかまで書く必要はありませんが、面接で試験範囲の話になったときは、連結会計と原価計算のどこまで手が動くかを具体的に言えるようにしておきます。

そして重要なのは、この資格が「実務ができる証明」ではなく「用語と処理の型が通じる証明」だという点です。発注する側から見ると、簿記2級を持っている人には、勘定科目の説明が要りません。仕訳の意味、貸借の対応、減価償却の考え方、月次と年次の締めの違い。これらを1から説明しなくて済むことが、発注側にとっての価値です。ここを理解して書類を書くと、経験の書き方が変わります。試験範囲そのものの確認は日商簿記2級で、先に3級から整えたい人は日商簿記3級の範囲を見てから順番を決めると無駄がありません。

在宅で簿記2級が効く仕事は5つに分かれる

在宅で募集されている経理系の仕事は、業務の切り出し方で5つに分けられます。求められる経験の重さがそれぞれ違うので、自分がどこから入れるかを先に決めます。

1つ目は記帳代行です。領収書と請求書のデータを受け取り、会計ソフトに入力していきます。仕訳の判断が要るので3級の範囲だけでは足りず、2級の知識がそのまま効きます。未経験でも入りやすい代わりに、1件あたりの単価は控えめです。

2つ目は月次決算の補助です。試算表を作り、前月との差を拾い、担当者に確認事項を返します。ここから「経験」を問われる領域に入ります。差が出たときに、どこを見に行けばよいか分かるかどうかで速さが変わるためです。

3つ目は給与計算と社会保険の手続き補助です。簿記の範囲とは別の知識が必要ですが、経理と同じ窓口で募集されることが多く、掛け持ちで受けられます。毎月の締めが固定なので、予定を組みやすい仕事です。

4つ目は経費精算と証憑のチェックです。社員が上げた申請を見て、規程に合っているか、証憑がそろっているか、税区分が正しいかを確かめます。判断の基準が社内規程にあるので、覚えれば早い段階から回せます。

5つ目は会計ソフトの導入支援と運用の整備です。勘定科目の設計、補助科目の付け方、他のシステムとの連携、締めの手順書づくり。ここは簿記の知識と道具の知識の両方が要るため、単価がいちばん高く出ます。

5つのうちどこから入るかを決めるときの目安は、締め切りの重さです。記帳代行と経費精算のチェックは、月に1回か2回の締めに合わせて動くので、他の仕事と組み合わせやすい。月次決算の補助は、月初の数日に作業が集中します。給与計算は支給日が動かないので、その週の予定を空けておく必要があります。会計ソフトの整備は締め切りが緩い代わりに、打ち合わせの時間帯を相手に合わせることになります。自分の生活のどこに固定の時間を作れるかで、選ぶ入口が変わります。

この5分類を知っておくと、求人票の見え方が変わります。「経理事務」という同じ名前でも、1つ目なのか5つ目なのかで求められる経験が別物です。応募先を選ぶときは、募集文の中の動詞を見ます。「入力」「仕訳」なら1つ目、「試算表」「月次」なら2つ目、「精算」「チェック」なら4つ目、「設計」「移行」なら5つ目です。資格を副業につなげる全体像は簿記資格で始める副業5選|3級・2級それぞれの活かし方で級ごとの活かし方が整理されているので、入口を決める前に一度見ておくと選びやすくなります。

求人票の「経験」が指しているものの実体

求人票の必須条件と歓迎条件を読み比べると、簿記2級がどこに置かれているかが見えます。実際に出ている募集では、経験のほうが必須で、資格は歓迎に回ることが多いです。

【経験・資格】<必須(MUST)>・税務業務経験3年以上(法人の税務申告を1人で完結可能な方)・日商簿記検定3級合格者、あるいは同程度の簿記知識がある方<歓迎(WANT)>・税理士科目合格者の方・商簿記検定1級あるいは2級合格者の方 【給与】年収:400万円〜800万円 【求人番号】7392896 【都道府県】東京都 【雇用形態】正社員 出典: 求人ボックス

この書き方を見て落ち込む必要はありません。ここで必須になっているのは「1人で完結できるか」であって、年数そのものではないからです。求人票の年数は、発注側が「これくらい経験があれば1人で回せるだろう」と見積もった代替の指標です。だから、同じことを別の形で示せれば通ります。

示し方は3つあります。ひとつは、範囲を狭く切って完結を示すことです。「法人の申告を全部」ではなく、「月次の記帳から試算表の作成まで」なら1人で完結できる、と範囲を明示します。ふたつめは、扱った量を数字で書くことです。仕訳の件数、扱った勘定科目の数、担当した社数。量は年数の代わりになります。みっつめは、使える道具を書くことです。会計ソフトの名前、表計算での処理、電子取引データの扱い。道具が合う人は、受け入れる側の教育コストが下がります。

もうひとつ、求人票に出てくる資格手当の欄も見る価値があります。企業が資格をどう評価しているかが金額で出るためです。実際の募集には、資格に応じた手当を月額で明示しているものがあります。

...Oracle Master Bronze:5000円/月Oracle Master Silver:1万円/月TOEIC 700点以上:1万円/月TOEIC 800点以上:2万円/月日商簿記検定2級:5000円/月日商簿記検定1級:1万円/月年収イメージ: IT業界未経験:367.2万円 入社34年目:450500万円程度 入社78年目:600700万円程度 2026年より基本給与の月2万円のベースアップを行いました... 出典: 求人ボックス

資格手当の額そのものは大きくありませんが、評価の順番が見えます。2級と1級で倍の差がつく一方、他の資格と横並びで扱われている。つまり企業側は、簿記2級を「基礎ができている印」として扱っていて、それ以上の評価は実務で見る、という構えです。この構えに合わせるなら、資格を取った直後にすべきことは、次の資格ではなく小さな実務です。

在宅の経理でいま需要が動いている理由

在宅の経理の募集が増えている背景には、制度の変更が2つあります。どちらも「紙で回していた処理を、データで回す形に変える」方向の変更です。

1つ目は、電子取引のデータ保存です。メールやサイトで受け取った請求書や領収書は、印刷して紙で保存する形ではなく、データのまま決まった要件で保存することが原則になりました。保存の要件には、日付や金額や取引先で探せるようにすること、改ざんを防ぐ仕組みを入れることが含まれます。この整備を、社内の人手だけで進められない会社が外に出しています。国税庁は電子帳簿保存法の特設サイトで、対象になる取引と保存の要件を整理しています。

2つ目は、消費税のインボイス制度です。取引先が適格請求書発行事業者かどうかで、消費税の処理が変わります。受け取った請求書の登録番号を確かめ、税区分を分けて記録する作業が毎月発生するようになりました。件数の多い会社では、この確認だけで担当者の時間が埋まります。

どちらの作業も、場所を問いません。データを扱うので、社内にいる必要がない。ここが在宅の募集が増えた直接の理由です。20年この市場を見てきた運営者の視点から言えば、在宅の経理の募集は「人手が足りないから外に出す」段階から、「制度の変更に追いつくために外の手を借りる」段階に移っています。前者は単純作業の切り出しですが、後者は判断を含むので、簿記2級の知識が直接効きます。

制度の変更は続くので、覚えるべきは個々の数字ではなく、変更を追う手順です。所管する官庁のページを定期的に見る、改正の施行日を手帳に入れる、取引先から届く通知を読む。この3つを習慣にしている人は、変更のたびに仕事が増えます。会計ソフトを入れる側の相談に乗る立場を目指すなら、業務の進め方そのものを見直す依頼にも広がります。その広がり方はAIコンサル・業務活用支援のお仕事で扱っている領域が近く、経理の知識を業務の設計に使う形の仕事がどんなものか分かります。

報酬の数え方は3種類。手取りで比べる

在宅の経理の報酬は、3つの決め方に分かれます。それぞれ向く人が違います。

ひとつは月額の固定です。記帳代行と月次の補助で多い形で、担当する会社ごとに1か月あたりの金額を決めます。仕訳の件数の上限を決めておくのが普通で、上限を超えたら追加の料金にします。上限を決めずに受けると、決算期や繁忙期に作業量が2倍になっても金額が変わりません。契約書の中で、件数の数え方と超過の扱いを必ず文字にします。

ふたつめは時間あたりです。会計ソフトの導入支援や整備の仕事で使われます。作業の範囲が読みにくい仕事に向いていて、調べ物の時間も報酬になります。時間を記録して報告する手間があるので、記録の形を最初に決めます。

みっつめは件数あたりです。経費精算のチェックや証憑の確認で使われます。1件いくらの形なので計算は簡単ですが、難しい1件と簡単な1件の差を吸収できません。難易度の幅が大きい案件では、2段階の単価にしてもらうよう交渉します。

どの形でも、比べるときは手取りで見ます。受発注サイトを通す形だと、報酬から仲介手数料が引かれます。仮に月額3万円の記帳代行を3社から受けて合計9万円のとき、手数料が2割なら手元に残るのは7万2千円です。年間で見ると21万6千円の差になります。同じ作業で同じ時間を使っているのに、取引の形だけで差が出ます。運営者として市場を見てきた限りでは、この差に気づいた人は、実績づくりの場と本命の取引先を分けています。最初の数件はどこで取ってもよく、継続する取引だけを手数料0%で直接つながる形に移す。依頼する側も同じ予算でより多く頼めるので、両方が続けやすくなります。

単価の水準を考えるときは、近い職種の幅も見ておきます。経理単体の統計はまとまりにくいのですが、在宅で完結する職種の年収と単価の広がりはソフトウェア作成者の年収・単価相場のような形で職種別に確かめられます。自分の作業が「入力」に近いのか「設計」に近いのかで、狙う水準が変わります。

未経験から在宅で最初の1件を取る手順

資格を取った直後の人がいちばん知りたいのはここだと思います。手順は4段階に分けられます。

第1段階は、自分の手を動かして作った成果物を用意することです。架空の会社を1つ設定し、1か月分の取引を30件ほど作って、仕訳から試算表までを会計ソフトで通します。使ったソフトの画面、作った試算表、気づいた点のメモ。この3つがあれば「実務経験はないが、通したことはある」と言えます。無料で試せる期間のあるソフトで足ります。

第2段階は、範囲を狭くした売り文句を1行で作ることです。「経理全般できます」は弱い。「小規模な法人の月次記帳と試算表作成まで、仕訳100件程度まで対応」のように、量と範囲を切ります。範囲が狭いほど、発注側は判断しやすくなります。

第3段階は、単発の案件で3件通すことです。記帳代行と経費精算のチェックから選びます。ここで得たいのは金額ではなく、実務の言葉です。取引先がどんな言い方で依頼してくるか、どこでつまずくか、確認事項をどう返すと喜ばれるか。この3つは、やってみないと分かりません。

第4段階は、3件の内容を数字にして書き直すことです。担当した社数、月あたりの仕訳件数、使ったソフト、対応した期間。ここまで来ると、求人票の「経験3年以上」に対して別の形で答えられます。

この4段階は、早い人なら2か月から3か月で通ります。逆に、次の資格の勉強から始めると1年が過ぎます。2級を取った直後の人が1級に向かうのは、事業会社の経理で上を目指す場合には合理的ですが、在宅の仕事を増やす目的では遠回りです。実務の1件が、資格1つより強く効きます。

簿記2級に足すなら何を、どの順番で

在宅の仕事の幅を広げる目的で資格を足すなら、順番があります。

先に足す価値が高いのは、会計ソフトの認定です。クラウドの会計ソフトには、使い方を認定する制度があります。取得にかかる時間が短く、募集の条件に名前が出ることもあるので、費用と時間に対する効果が高い。導入の相談に乗る立場を狙うなら、ここが入口です。

次に、給与計算と社会保険の知識です。経理の仕事と同じ窓口で募集されるため、両方できる人は継続の依頼が増えます。制度の改正が多い領域なので、追う手間はかかりますが、その手間の分だけ替えが利きません。

3番目は、個人の資産と保険に関する知識です。経理の相手は会社ですが、依頼してくる相手は人です。数字の相談を受ける立場では、税と保険の基本を知っていると会話が続きます。簿記と組み合わせたときの効き方は簿記×FPのダブルライセンスで副業の幅が広がる|組み合わせの相乗効果で具体的に整理されています。

4番目が、決算書を読んで評価する方向の知識です。作る側から読む側へ回ると、経営の相談に近い仕事に届きます。その道の入口はビジネス会計検定で経理副業のスキルアップ|簿記との違いと活かし方で、簿記との違いと重なりが分かります。

逆に、急いで取らなくてよいのが簿記1級です。1級は範囲が広く、合格率も統一試験で10%台から20%台に収まる水準で、到達までの時間が長い。事業会社で経理の責任者を目指すなら価値がありますが、在宅の受注を増やす目的では、実務の件数を積むほうが先です。資格の順番を決めるときは、「その資格が書かれている募集が実際に出ているか」を検索して確かめるのが確実です。募集に出ていない資格は、取っても応募先が増えません。

業務委託で受けるときの契約と守秘と税金

在宅の経理は、他人の会社のお金の情報を扱います。だから契約の作り方が、他の在宅の仕事より重くなります。確かめる点は5つです。

1つ目は、秘密保持の取り決めです。扱うのは取引先の口座、取引相手の名前、社員の給与。漏れたときの影響が大きいので、秘密保持の条項は必ず書面で交わします。作業に使うパソコンの管理、データの受け渡し方法、作業が終わったあとのデータの扱いまで決めておきます。データは案件ごとのフォルダに分けて保存でき、期間を決めて消す運用にしておくと、あとで困りません。

2つ目は、業務の範囲です。記帳までか、試算表までか、申告書の下書きまでか。税務の代理と税務相談は税理士の領域なので、越えないように線を引きます。ここを曖昧にしたまま依頼を受け続けると、法律上できない範囲の作業を求められる場面が出ます。判断に迷う依頼が来たときは、引き受ける前に税理士に確認するのが安全です。

3つ目は、報酬の支払期日です。納品から何日で振り込まれるかを数字で確かめます。会社が個人に継続して発注する形では、支払いの遅れや一方的な減額を禁じる法律の対象になります。

4つ目は、確定申告の線です。会社に勤めながら在宅の経理を受ける場合、給与のほかの所得の合計が20万円を超えると所得税の確定申告が必要になります。

給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額( 給与所得 、 退職所得 を除く。)の合計額が20万円を超える人 出典: 国税庁

数えるのは売上ではなく、経費を引いた後の金額です。特定の相手から継続して仕事を受ける形の人には、実際の経費が少なくても必要経費を69万円まで認める特例があります。令和7年分までは65万円だったので、古い解説と数字が違います。20万円以下で所得税の申告が不要な場合でも、市区町村への住民税の申告が別に必要になることがあります。金額や事情で扱いが変わるので、自分の場合は税務署か市区町村の窓口で確認してください。

5つ目は、開業の届出です。継続して仕事として受けるなら、税務署へ個人事業の開廃業等届出書を出します。提出期限は、事業を始めた日の属する年分の確定申告期限までです。「開業から1か月以内」と書いている解説が今も多く残っていますが、これは古い説明です。青色申告の承認申請は期限が別で、原則としてその年の3月15日まで、1月16日以後に始めた場合は開業から2か月以内になります。

転職で活かす場合と、在宅で活かす場合の分かれ道

同じ簿記2級でも、転職で使う場合と在宅で使う場合では、見せ方が逆になります。

転職で使う場合、資格は「足切りを通るための条件」に近い働き方をします。経理の求人では、応募者が多いほど書類で絞る必要があるので、資格の欄が選別に使われます。だから資格は必要ですが、それだけでは面接に進めません。転職で効くのは、前職の業務のうち経理に近い部分をどこまで具体的に語れるかです。請求書を出していた、入金を確認していた、経費の申請を見ていた。営業や事務の経験でも、お金の流れに触れた部分は必ずあります。そこを掘って、簿記の用語で言い換えます。

在宅で使う場合、資格は「説明の手間を省く材料」として働きます。発注側にとって重要なのは、任せたい範囲をこの人が1人で回せるかどうかだけです。だから在宅では、資格より先に「どこまでを、どの量まで、どのソフトで」が問われます。資格はその説明の背景として効きます。

この違いから、進め方が決まります。転職を狙う人は、まず経理に近い業務を含む職に移り、実務の年数を作る。在宅を狙う人は、範囲を狭く切った受注を3件通して、量とソフトの実績を作る。どちらも「実務」に向かうのですが、作り方の順番が違います。両方を同時に狙うと、書類の書き方が中途半端になります。

なお、在宅の経理から始めて数年後に企業の経理へ移る道は、実際にあります。受注で扱った社数と業種の幅は、事業会社の経理では得られない経験です。1社の中で深く見る経験と、複数社を横に見る経験は、市場での評価が別物です。どちらが上ということはなく、応募先が求めている形に合わせて出す順番を変えます。

在宅の経理でつまずく5つの場面と、その回避

実際に受け始めてから困るのは、簿記の知識で解ける問題ではありません。やり取りの段取りで起きる問題です。よく起きる場面が5つあります。

1つ目は、証憑がそろわないことです。領収書の写真が読めない、請求書の一部が届かない、金額と入金額が合わない。ここで止まると納期に影響します。回避の方法は、最初の依頼の時点で「不足していたときの連絡の出し方」を決めることです。作業を止めて全部の確認を待つのではなく、確認待ちの一覧を別枠にして、進められる部分を先に終わらせます。

2つ目は、勘定科目の付け方が取引先の過去の処理と合わないことです。同じ支出を前の担当者が別の科目で処理していると、比較ができなくなります。引き継ぐときは、まず前の年の総勘定元帳を見せてもらい、科目の使い方を写します。自分の正しさより、その会社の一貫性を優先します。

3つ目は、締めの日程が重なることです。複数社を受けると、月初に全部の締めが集まります。受ける段階で締めの希望日を聞き、月内で散らします。同じ日に3社の締めを抱えると、体力ではなく段取りで破綻します。

4つ目は、税務の判断を求められることです。「これは経費になりますか」という質問は毎回来ます。記帳の担当が税務相談に答えるのは、法律上できる範囲を越えます。一般的な扱いを説明した上で、判断は税理士か税務署に確かめてもらう形に戻します。ここを丁寧にやる人は、かえって信頼されます。

5つ目は、報酬の対象がずれることです。「ついでにこれも」が積み上がって、契約の範囲を超える作業が増えます。追加の依頼が来たときは、その場で受けるかどうかを決めず、範囲と金額を書いて返す癖をつけます。1回だけの好意が、翌月から前提になります。

この5つは、どれも簿記の勉強では出てきません。しかし在宅の経理で続くかどうかは、ここで決まります。最初の3件は、金額より段取りを覚えるために使うと後が楽になります。

1か月の作業の組み立て方

在宅の経理は、作業の量が月の中で偏ります。この偏りを前提に組み立てないと、忙しい週と手が空く週の差に振り回されます。

月の前半は、前月の締めが集まります。証憑を受け取り、記帳し、試算表を作り、確認事項を返す。ここに作業の6割が集まるので、他の予定を入れないようにします。取引先が複数あるなら、締めの希望日をずらして受けるのが前提です。

月の中ごろは、確認事項の回収と修正です。返した質問の答えが戻ってくるのを待つ期間なので、自分の手は空きます。ここに、新しい取引先の引き継ぎや、手順書の整備、資格の勉強を入れます。空いた時間に単発の案件を入れる人もいますが、前半に食い込む納期のものは避けます。

月の後半は、翌月の準備と請求です。自分の請求書を出し、入金を確認し、経費を記録します。自分の経理を後回しにする人が多いのですが、ここを毎月同じ日にやる習慣があるかどうかで、確定申告の重さが変わります。

年の中では、決算期と申告期が山になります。3月決算の会社を受けているなら、4月と5月は前半だけでなく月末まで作業が続きます。個人の確定申告の時期と重なる場合は、受ける件数を先に減らしておきます。年間の山を書き出したカレンダーを作り、受注の判断をそれに合わせると、断る理由を説明しやすくなります。

この組み立てができている人は、同じ作業量でも余裕が違います。発注する側から見ても、締めの週に連絡が付く人は安心して任せられます。時間の使い方そのものが、継続の依頼につながる材料です。

数字で見る簿記2級の使いどころ

最後に、この資格をどこに置くのがいちばん効くかを整理します。

合格率の数字から分かるのは、簿記2級が「持っている人がそれなりにいる資格」だという点です。ネット試験だけで年間14万人が受け、4万6千人が合格しています。つまり、資格そのものが希少なわけではない。希少になるのは、資格と実務と道具の3つが揃った人です。ここが、資格の勉強を終えた直後の人が見落としがちな点です。

そのうえで、在宅の仕事における簿記2級の立ち位置は明確です。発注側が説明を省ける範囲が広がるので、任せられる業務の幅が上がります。仕訳の判断を任せられる、試算表の差を自分で追える、税区分の誤りに気づける。この3つができる人と、入力だけの人では、頼まれる仕事の種類が変わります。単価の差は、作業の速さよりこの範囲の差から出ます。

仲介の取り分の話も、最後にもう一度書いておきます。継続する取引では、手数料の有無が年間の手取りに直接出ます。月あたりの金額が小さい記帳代行でも、3社を1年続ければ差は無視できません。運営者として長く見てきた立場から言えば、在宅の経理で長く続いている人は、単価の交渉を繰り返しているわけではありません。同じ取引先と長く続けて、手数料の乗らない形に移し、扱う範囲を少しずつ広げています。依頼する側から見ても、毎回新しい人を探すより、数字の癖を知っている人に続けて頼むほうが安全です。この「双方が得をする形」に落ち着くまでが、最初の1年の仕事です。

進め方の結論を1つに絞ると、「架空の1社で決算までを自分で通し、範囲を狭く切った売り文句を作り、単発の3件を通す」順番がいちばん早い。資格の欄はもう埋まっています。次に埋めるのは、量と範囲とソフトの欄です。

よくある質問

Q. 簿記2級だけで在宅の経理の仕事は取れますか?

資格だけでは取りにくく、範囲を狭く切った実績が1つあると変わります。架空の会社を設定して1か月分の取引を会計ソフトで仕訳から試算表まで通し、その画面と成果物を用意してから、記帳代行や経費精算のチェックのような単発の案件に応募する順番が現実的です。

Q. 簿記2級の合格率はどのくらいですか?

日本商工会議所の公表値では、統一試験は2026年6月14日の第173回で15.1%、パソコンで随時受けられるネット試験は2025年4月から2026年3月までの1年間で32.9%でした。方式によって合格率が2倍ほど違うので、どちらの数字を見ているかを区別して考えます。

Q. 求人票に「経理実務3年以上」とある場合、未経験は諦めるべきですか?

年数は「1人で完結できるか」を見積もるための代替の指標です。範囲を狭く示す、扱った仕訳の件数や社数を数字で書く、使える会計ソフトの名前を書く、という3つで代わりに示せます。正社員の募集より、業務委託の募集のほうが通りやすい傾向があります。

Q. 簿記2級の次に取るなら何がよいですか?

在宅の受注を増やす目的なら、会計ソフトの認定が費用と時間に対する効果が高く、次に給与計算と社会保険の知識が続きます。簿記1級は範囲が広く到達に時間がかかるため、在宅の仕事を増やす目的では実務の件数を積むほうが先になります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年9月12日最終更新:2026年10月1日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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