在宅の字幕づくりは手帳がある人ほど納期の短い募集を選ばない

中西 直美
中西 直美
在宅の字幕づくりは手帳がある人ほど納期の短い募集を選ばない

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この記事のポイント

  • 障害者手帳を持つ方が在宅で動画の字幕づくりに取り組むための実務ガイド
  • 体と心の負担を減らす工程の分け方
  • 収入と制度の確認先までを丁寧に整理します

「障害者手帳を持っているけれど、在宅でできる仕事を探しています。動画の字幕づくりって、私にもできるでしょうか」

このご相談、最近とても増えています。

先に結論をお伝えしますね。動画の字幕づくりは、在宅で完結する仕事の中でも比較的取り組みやすい部類に入ります。特別な資格は要りません。パソコンとインターネット環境、そして音声を聞き取れる環境か、あるいは元の台本があれば、始めることは可能です。

ただ、「できるかどうか」と「無理なく続けられるかどうか」は別の話です。字幕づくりは細かい作業の積み重ねで、目と耳と集中力をそれなりに使います。何も工夫せずに始めると、数日で疲れきってしまう方もいます。

大丈夫ですよ。工夫の余地はたくさんあります。

この記事では、字幕づくりという仕事がどういう構造をしているのかをまず整理して、そのうえで体と心に負担をかけない進め方、そして安心して選べる募集の見分け方をお話しします。

なお、障害の内容も程度も、本当に人それぞれです。同じ手帳をお持ちでも、できることとつらいことは一人ひとり違います。ですので以下は「こういう方法もある」という選択肢としてお読みください。制度の適用については、必ずお住まいの自治体の窓口でご確認をお願いします。

動画の字幕づくりとはどんな仕事か

まず、言葉を整理しておきますね。「字幕」と一口に言っても、実は種類がいくつかあります。

3つの種類を知っておく

1つめが、いわゆるクローズドキャプションです。動画の音声内容を文字にしたもので、視聴者が表示・非表示を切り替えられます。話している内容だけでなく、「(拍手)」「(ドアが開く音)」といった音の情報も入れるのが基本です。聴覚に障害のある方が動画を理解するために必要な情報を、漏れなく文字にする仕事だと考えてください。

2つめが、テロップです。バラエティ番組やYouTube動画でよく見る、装飾された文字のことです。こちらは情報の伝達というより演出の要素が強く、動画編集の一部として扱われます。フォントや色、アニメーションの知識が必要になります。

3つめが、翻訳字幕です。外国語の動画に日本語字幕を付ける、あるいは日本語の動画に外国語字幕を付ける仕事です。語学力が前提になりますが、そのぶん単価は高めです。

このうち、在宅で取り組みやすく、需要も安定しているのが1つめのクローズドキャプションです。この記事では主にこれを想定してお話しします。

なぜ今、字幕の需要が伸びているのか

理由は3つあります。

1つめは、アクセシビリティへの意識の高まりです。企業が動画で情報発信するとき、聴覚に障害のある方や、日本語を母語としない方にも届く形にすることが求められるようになってきました。行政や教育機関の動画では、字幕付きが標準になりつつあります。

2つめは、視聴環境の変化です。電車の中や職場の休憩時間にスマートフォンで動画を見る人は、音を出せません。SNSのタイムラインに流れる動画は、多くが音声なしで再生されます。つまり字幕がない動画は、そもそも内容が伝わらない。企業がこれに気づいたことで、マーケティング目的での字幕需要が一気に増えました。

3つめは、動画そのものの量が増えたことです。企業の採用動画、社内研修、セミナーの録画、商品説明、ウェビナーのアーカイブ。ひと昔前なら文書で済ませていたものが、次々と動画になっています。作られる動画の本数が増えれば、字幕の仕事も増えます。

単価と作業時間の相場感

気になるところですよね。正直にお伝えします。

字幕作成の報酬は、動画の長さを基準に計算されることが多いです。相場としては、動画1分あたり100円から500円程度という案件が多く見られます。専門用語が多い分野や、話者が複数いて聞き分けが難しいもの、納期が短いものは単価が上がる傾向があります。

一方で、作業時間はどのくらいかかるか。慣れないうちは、10分の動画に2時間から3時間かかることも珍しくありません。慣れてくると、自動文字起こしを下地に使うことで大幅に短縮できます。

ここで大事なのは、最初から効率を求めないことです。慣れる過程で必ず時間はかかります。それは能力の問題ではなく、誰もが通る道です。

実際の作業の流れとツール

具体的に何をするのか、順を追って見ていきましょう。

5つの工程に分かれています

字幕づくりは、大きく5つの工程に分けられます。

第1工程が、素材の受け取りと確認。動画ファイル、あるいは動画のURLを受け取り、長さ、話者の数、音質、専門用語の有無をざっと確認します。ここで「これは自分に無理そうだ」と判断できれば、着手前に断ることもできます。

第2工程が、文字起こし。音声を文字にします。今はほとんどの現場で、自動文字起こしツールが下地として使われています。

第3工程が、修正。自動文字起こしの誤りを直します。固有名詞、専門用語、同音異義語のあたりは機械が間違えやすいので、ここが人間の腕の見せどころです。

第4工程が、タイミング合わせ。文字が画面に出る時刻と消える時刻を、音声に合わせて調整します。

第5工程が、体裁の整形。1行あたりの文字数、改行位置、表示時間などを、依頼者のルールに合わせて整えます。

この5工程は、必要とする集中力の質がそれぞれ違います。ここが後でとても大事になりますので、覚えておいてください。

使うツールと費用

始めるにあたって、高価なソフトは必要ありません。

自動文字起こしについては、無料で使えるツールが複数あります。動画共有サービスに標準で備わっている自動字幕生成機能を下地にする方法もありますし、専用の文字起こしサービスを使う方法もあります。精度は年々上がっていて、静かな環境で1人が明瞭に話している動画なら、かなりの割合が正しく変換されます。

字幕ファイルの形式としては、SRTやVTTと呼ばれる形式が一般的です。これは中身がただのテキストファイルで、「何秒から何秒まで、この文字を表示する」という情報が並んでいるだけのものです。専用ソフトがなくてもメモ帳で開けます。仕組みが分かってしまえば怖くありません。

編集用のツールとしては、無料の字幕編集ソフトがいくつも公開されています。動画を再生しながら波形を見てタイミングを合わせられるものを選ぶと、作業が楽になります。

依頼者が動画編集ソフトでの納品を求める場合は、そのソフトのライセンスが必要になることもあります。案件を受ける前に、どの形式で納品するのかを必ず確認してください。

品質の基準を知っておく

字幕には、読みやすさのための一般的なルールがあります。これを知っているかどうかで、仕上がりの評価がまったく変わります。

1行あたりの文字数は、日本語なら13文字から16文字程度に収めるのが読みやすいとされています。長すぎると視線の移動が大きくなり、読み切る前に消えてしまいます。

同時に表示する行数は2行までが基本です。3行以上になると画面を覆ってしまい、映像が見えなくなります。

表示時間は、短すぎると読めません。目安として、1つの字幕が画面に出ている時間は1秒以上、長くても6秒程度に収めます。

改行位置も大切です。文の意味の切れ目で改行する。「私は昨日、駅前の / 書店に行きました」ではなく「私は昨日、/ 駅前の書店に行きました」のほうが読みやすい。この感覚は、やっているうちに身につきます。

話者が複数いる場合は、誰が話しているかを示します。名前を付ける方法、色を変える方法など、依頼者ごとにルールが違いますので確認してください。

そして音の情報。クローズドキャプションでは「(笑い声)」「(電話が鳴る)」「(音楽)」といった、音声はあるが言葉ではない情報も文字にします。これを入れるかどうかは案件次第ですが、入れる案件では省略できません。

体と心の負担を減らす進め方

ここからが、私が一番お伝えしたいところです。

字幕づくりは、始めることより続けることのほうが難しい仕事です。そして続かなくなる理由の多くは、能力ではなく、負担の設計を誤ったことにあります。

工程を分けて日をまたぐ

さきほど、字幕づくりは5工程に分かれると書きました。この5工程は、それぞれ使う力が違います。

文字起こしと修正は、耳と集中力を強く使います。長時間は続きません。

タイミング合わせは、細かい操作の繰り返しです。集中力よりも根気を使う作業で、疲れていてもある程度こなせます。

体裁の整形は、ほぼ機械的な作業です。ルールに沿って文字数を数え、改行を入れ直すだけ。頭が回らない日でも進められます。

つまり、「今日は聞き取りだけ」「明日はタイミング合わせだけ」と工程で区切って予定を立てれば、体調の波があっても稼働できる日が増えます。

逆に「今日中に1本仕上げる」と決めてしまうと、途中で疲れた瞬間にその日の成果がゼロになってしまいます。

こういうご相談を受けたことがあります。ある方が字幕の仕事を始めて、最初の1か月で体調を崩されました。話を聞くと、毎日「1本を最後まで」やろうとしていた。工程で区切る発想がなかったんです。区切り方を変えてから、同じ作業量でも消耗が明らかに減りました。

耳への負担を減らす

音声を繰り返し聞く作業は、耳に負担がかかります。

イヤホンやヘッドホンの音量は、聞き取れる最小限に抑えてください。聞こえにくいところは音量を上げるのではなく、再生速度を落とす。多くのプレーヤーは0.75倍0.5倍での再生に対応しています。速度を落としたほうが、音量を上げるより聞き取りやすくなることがほとんどです。

同じ箇所を何度も聞き直すのは、精神的にも消耗します。どうしても聞き取れない箇所は、いったん印を付けて飛ばし、後でまとめて確認する。1か所で立ち止まらないことが、作業全体の負担を下げます。

そして、どうしても聞き取れなかった箇所は、正直に依頼者に伝えてよいのです。「この部分は音声が不明瞭で判読できませんでした」と報告するのは、間違った文字を入れて納品するよりずっと誠実です。

目と姿勢への負担を減らす

画面を見続ける作業なので、目の負担も無視できません。

画面の明るさを部屋の明るさに合わせる、文字サイズを大きくする、ダークモードを使うといった調整で、疲れ方は変わります。字幕編集ソフトの多くは表示設定を変更できますので、最初に自分が見やすい状態を作ってから作業を始めてください。

姿勢については、机と椅子の高さが合っているかを一度確認してみてください。長時間の作業が難しい方ほど、短い作業時間の質が大事になります。同じ30分でも、姿勢が悪いと消耗が倍になります。

休憩の取り方も、一般的に言われる方法が自分に合うとは限りません。25分作業して5分休むという型が合う方もいれば、10分で区切ったほうが結果的に進む方もいます。いくつかの方法を比べた内容が在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックにまとまっていますので、自分に合う型を探す材料にしてください。

孤独への対処も忘れずに

在宅の仕事、特に字幕づくりのように一人で黙々と進める作業は、孤独になりやすいという特徴があります。

朝から晩まで誰とも話さない日が続くと、気分が沈みやすくなります。これは特別なことではなく、在宅で働く人の多くが経験することです。

対策としては、作業の合間に短くても人と接点を持つこと。オンラインの勉強会に参加する、同じ仕事をしている人のコミュニティに顔を出す、家族と食事の時間を共有する。何でも構いません。

私自身、オンライン中心で仕事をするようになった時期に、気づいたら数日誰とも話していなかったことがあります。作業に集中できていると思い込んでいましたが、実際には判断力が落ちていました。それ以来、意識的に人と話す時間を予定に入れるようにしています。

あなたは一人じゃありません。孤独は性格の問題ではなく、環境の問題です。環境は変えられます。

案件をどう探し、どう見分けるか

ここは慎重にお話しします。

雇用で始める道と業務委託で始める道

字幕づくりの仕事に就く道は、大きく2つあります。

1つは、企業に雇用されて在宅勤務で字幕・動画関連の業務を担当する道です。給与が保証され、研修を受けられることが多く、機材を貸与される場合もあります。

実際にどのような募集があるかを見ておくと、イメージがつかめます。

未経験からIT・クリエイティブスキルを習得できる、障がい者雇用を支援する就労継続支援A型事業所でのアルバイト・パート募集です。SNSマーケティング、Webデザイン、動画編集、Webライティングといったスキルを、初心者の方にも丁寧に指導します。充実の就職サポート、医療連携サービス、定期面談、髪・服装自由、在宅支援制度、昇格・正社員登用制度など、安心のサポート体制が整っています。10:00~15:00の実働4時間勤務で、残業はほぼありません。土日定休で、週2日しっかり休めます。 出典: 求人ボックス

このように、実働4時間、残業ほぼなし、定期面談あり、といった配慮を前提に設計された募集は実際に存在します。未経験からの受け入れを明示しているところも増えています。

もう1つが、業務委託で案件ごとに受ける道です。こちらは自分で稼働量を決められる代わりに、収入は不安定になります。

どちらが良いという話ではありません。体調の見通しが立てにくい時期は雇用で土台を作り、慣れてきたら業務委託を並行させる、という進め方もできます。

避けたほうがよい募集の特徴

残念ながら、在宅ワークを探す人を狙った不適切な募集も存在します。次のような特徴があるものは、避けてください。

1つめ、入口でお金を求めてくるもの。「字幕作成講座を受講すれば案件を紹介する」「ソフトの購入が必須」といった構造は、仕事ではなく商品の販売です。まっとうな案件は、着手前に費用を求めません。

2つめ、条件が文面で示されないもの。業務範囲、報酬の計算方法、支払い時期、修正対応の回数。これらが書かれていない、あるいは聞いても曖昧にされる募集は避けたほうが安全です。「体調に合わせて自由に」という優しい言葉と、曖昧な条件はしばしばセットで現れます。

3つめ、相手が特定できないもの。SNSのダイレクトメッセージ経由で持ちかけられ、法人格が確認できず、契約書もない。この3つが揃ったら関わらないでください。データだけ納品させて支払わない手口は昔からあります。

4つめ、報酬の受け取り方が不自然なもの。暗号資産での支払い、別口座の開設を求められる、といった話が出てきたら、仕事とは別の目的が疑われます。金融取引に関する注意喚起は金融庁が随時公表していますので、不安なときは確認してください。取引上の不当な扱いについては公正取引委員会が窓口を設けています。

応募のときに確認しておきたいこと

安心して働くために、応募前か契約前に確認しておきたい項目を挙げます。

納品形式(SRTなのか、動画編集ソフトのプロジェクトファイルなのか)。音の情報を入れるかどうか。1行の文字数ルール。修正対応は何回までか。納期はいつか。報酬の計算基準(動画の分数か、完成字幕の量か)。支払いのタイミング。

これらを文面でやり取りできる相手かどうか自体が、判断材料になります。丁寧に答えてくれる依頼者は、その後のやり取りも丁寧です。

こうした確認のメールを書く力は、在宅ワーク全般で役に立ちます。過不足なく情報を並べて相手が判断できる文面を作る技術は、ビジネス文書の基本そのものです。体系的に学びたい方にはビジネス文書検定が指標になります。

収入が出たときに確認する先

ここは断定を避けさせてください。制度の運用は自治体や個々の状況によって異なるため、この記事で「大丈夫です」とも「影響します」とも申し上げられません。確認先だけをお示しします。

税金のこと

業務委託で得た収入は、給与ではなく事業所得または雑所得として扱われるのが一般的です。会社員として働きながら副業として取り組む場合、給与以外の所得が一定額を超えると確定申告が必要になります。基準や手続きは国税庁の案内で確認してください。

経費になり得るものとしては、ソフトの利用料、通信費の一部、参考書籍などがあります。売上と支出の記録は最初から付けておくと、後が楽です。会計ソフトを使うならfreeeマネーフォワードが個人向けのプランを用意しています。

障害年金や手当のこと

障害年金、自治体独自の手当、医療費助成、就労継続支援の利用など、制度と収入の関係は制度ごとに考え方が異なります。同じ制度でも、等級や個別の事情によって扱いが変わります。

障害年金の制度概要は日本年金機構が公開しています。ただし、ご自身のケースでどうなるかは、年金事務所やお住まいの自治体の障害福祉窓口に直接ご確認ください。

インターネット上の体験談は、その方の自治体、その方の等級、その時点の制度に基づくお話です。そのまま自分に当てはまるとは限りません。始める前に一度窓口で相談しておくと、あとで慌てずに済みます。

雇用や就労に関する制度全般は厚生労働省が所管しています。障害者雇用の枠組みや在宅就業の支援制度についても、こちらで確認できます。

自分の得意な工程を、先に見つけておく

先ほど、字幕づくりは5つの工程に分かれるとお話ししました。ここをもう一歩進めて考えてみましょう。

工程ごとに使う力が違うということは、あなたにとって得意な工程と、負担が大きい工程があるということです。そして、その組み合わせは人によってまったく違います。

3日間の記録で、自分の傾向が見えます

おすすめしているのは、練習でも実案件でも構わないので、3日間だけ記録を取ってみることです。

書くのは3つだけ。今日やった工程、かかった時間、終わったあとの疲れ具合を5段階で。手帳でもスマートフォンのメモでも構いません。

これを3日続けると、傾向がはっきり出ます。「タイミング合わせは1時間やっても疲れが2だったのに、聞き取りは30分で4になっている」。こういうことが、数字で見えるようになります。

感覚だけで判断すると、「全部しんどい」で終わってしまいます。でも実際には、しんどさの中身は工程ごとに違う。分けて記録すると、そこが見えてきます。

そして、見えたら次はそれを設計に使います。疲れが大きい工程は、体調のいい日の最初に短く。疲れが小さい工程は、余力の少ない日に回す。この配分ができるようになると、稼働できる日が増えます。

苦手な工程は、外して受けられます

ここが大事なところです。

字幕の案件は、必ずしも全工程がセットとは限りません。実際の現場では、工程が分かれて発注されることがよくあります。

たとえば、自動文字起こしの結果が渡されて修正だけを担当する案件。文字起こしは済んでいて、タイミング合わせと体裁の整形だけを担当する案件。台本があって、それを字幕の形に整えるだけの案件。

聞き取りに負担がある方であれば、文字起こしを含まない案件を選べばいい。細かい操作の繰り返しがつらい方であれば、修正と整形に寄った案件を選べばいい。

募集要項に「文字起こしから納品まで一貫」と書かれていれば全工程です。「修正」「校正」「タイミング調整」といった言葉が中心なら、部分的な担当の可能性が高い。

書かれていない場合は、応募のときに聞いてください。「担当する工程を教えていただけますか」。この質問は、条件を確認したいだけの自然な問い合わせですので、遠慮は要りません。

得意な工程だけの案件は、実際に存在します

「そんな都合のいい案件があるのか」と思われるかもしれません。ありますよ。

理由は、依頼する側の事情にあります。動画を大量に扱う会社では、工程を分けて複数の人に振ったほうが、全体として早く仕上がります。1人に全部任せると、その人が止まったときに全部止まってしまう。

だから、工程ごとに担当を分ける形は、依頼側にとっても合理的なんです。

そして、ひとつの工程だけを繰り返し担当していると、その工程の速度が上がります。全工程を浅く回している人より、ひとつの工程を深くやっている人のほうが、その部分では確実に速い。これは、単価の交渉材料にもなります。

苦手なことを克服してから始める必要はありません。得意なところから入って、余裕ができたら範囲を広げる。この順番のほうが、続きます。

納品前の見直しと、修正依頼が来たときの受け止め方

続けるうえで、もうひとつお伝えしておきたいことがあります。

見直しは、順番を決めてしまう

納品前の確認を、その日の気分でやっていると、見落としが出ます。順番を決めて、上から潰していく形にしてください。

1つめ、表示時間。短すぎる字幕、長すぎる字幕がないか。

2つめ、1行の文字数と行数。ルールを超えているものがないか。

3つめ、改行位置。意味の切れ目で切れているか。

4つめ、表記のゆれ。同じ言葉が違う書き方で混ざっていないか。

5つめ、聞き取れなかった箇所の印が残っていないか。作業中に付けた仮の印を消し忘れたまま納品する事故は、意外と多いんです。

この5つを、毎回同じ順番で確認する。順番が決まっていると、疲れている日でも抜けません。逆に、順番を決めずに「全体をざっと見る」をやると、疲れている日ほど見落とします。

もうひとつ、有効な方法があります。字幕ファイルを動画に載せずに、テキストだけで通し読みすることです。映像が見えていると、そちらに気を取られて文字の粗が見えなくなります。文字だけで読むと、表記のゆれや不自然な改行がよく拾えます。

修正依頼は、否定ではありません

修正の連絡が来たとき、強く落ち込んでしまう方がいらっしゃいます。「やっぱり自分には向いていなかった」と受け取ってしまう。

そのお気持ちは、よく分かります。慣れない仕事で、初めての納品で、指摘が返ってくる。誰でも堪えます。

でも、少し違う見方をしてみてください。

字幕には、依頼者ごとのルールがあります。文字数も、音の情報を入れるかどうかも、話者の示し方も、案件によって違う。初回でそれが完全に一致することは、経験のある人でもまずありません。

つまり、初回の修正依頼は、能力の評価ではなく、基準のすり合わせです。むしろ、指摘してもらえるということは、次も頼むつもりがあるということでもあります。もう頼まないつもりの相手には、わざわざ細かい指摘を送りません。

こういうご相談を受けたことがあります。初納品で7か所の修正依頼が来て、その方は「もう続けられない」とおっしゃっていました。でも内容を一緒に見てみると、7か所のうち5か所は同じルールの話でした。実質2種類です。それを直して次に出したら、指摘はゼロだったそうです。

件数に見えるものが、実は種類としてはとても少ない。落ち込む前に、指摘を種類でまとめてみてください。

同じ指摘を繰り返さない仕組みを作る

指摘を受けたら、その内容を1行でメモに残してください。

「この依頼者は音の情報を入れない」「話者名は括弧付きで前に置く」「数字は半角」。

このメモを、案件ごとに1枚ずつ作っておきます。次に同じ依頼者から仕事が来たとき、作業を始める前にそれを読む。これだけで、同じ指摘は二度と来なくなります。

そして、このメモが増えていくこと自体が、あなたの経験の記録になります。3件分たまれば、初めての依頼者にも「こういう点は最初に確認したほうがいい」と分かるようになる。

覚えておこうとしなくて大丈夫です。書いて、読み返す。それだけで足ります。

独自データから見た字幕づくりの位置づけ

在宅ワークの求人・案件データを横断して見ていくと、いくつかの傾向が浮かび上がります。

第1に、在宅で完結する仕事のうち、成果物が明確なもの(字幕、記事、画像、データ入力など)は、時間拘束型の仕事より参入しやすい傾向があります。評価の基準が「何時から何時までいたか」ではなく「何を納めたか」だからです。字幕づくりはこの典型で、納品したファイルの品質だけで評価されます。

第2に、長く続いている方は、収入源を1つに絞っていません。字幕だけ、文字起こしだけ、という状態より、2つから3つの領域を持っている方のほうが、体調による稼働の波を吸収できています。

第3に、字幕づくりで身につく技術は、隣接領域に自然につながります。音声を正確に文字にする力は文字起こしや議事録作成に、読みやすい改行と文字数の感覚は編集やライティングに、それぞれ転用が利きます。文章を扱う職種の単価水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認できますので、次の一歩を考えるときの目安になります。

技術寄りに広げていく道もあります。動画配信の仕組みやWebサイトへの字幕組み込みに関わるようになると、開発寄りの案件が視野に入ってきます。その領域の全体像はアプリケーション開発のお仕事にまとまっており、単価水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場で把握できます。ネットワークやインフラの基礎を証明する資格としてはCCNA(シスコ技術者認定)があります。

また、自動文字起こしの精度が上がったことで、「AIの出力を人が整える」という工程そのものが仕事になりました。この構造は字幕に限らず、多くの業務で起きています。企業の業務にAIをどう組み込むかを支援する仕事の輪郭はAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、マーケティング周辺の案件はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事にそれぞれ整理されています。

在宅でどんな仕事が成立するのかを俯瞰しておくと、自分に合う入口が見つけやすくなります。職種別の整理は在宅でできる仕事おすすめ【2026年版】|スキル別ランキングにまとまっています。

20年この市場を見てきた立場からの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を長く運営してきた立場から、2つお伝えします。

1つは、長く続く方ほど、単発の作業をこなすことより「この人に任せると楽だ」と思われる関係づくりに時間を使っているということです。字幕の仕事で言えば、聞き取れなかった箇所を正直に報告する、納品時に「この部分は表記を統一しました」と一言添える、といった小さな配慮の積み重ねが、次の依頼につながります。技術より先に、相手の手間を減らす姿勢が評価される。これは20年変わらない構造です。

もう1つは、手取りの厚さという観点です。仲介が何段も入る構造では、依頼者が出した予算のうち相当な割合が中間で消えます。運営者として見てきた限り、中間マージンが乗らない直接取引のほうが、同じ予算でも依頼者はより多く頼めますし、受け手の手元に残る額は厚くなります。手数料0%という条件が意味するのは「単価が上がる」ことではなく、「同じ作業量でも手元に残る質が変わる」ということです。稼働時間を増やせない事情がある方ほど、この差は効いてきます。

最初の3か月の目標の置き方

現実的な進め方として、最初の3か月は収入額を目標にしないことをおすすめします。

この期間の目標は3つで十分です。1つめ、字幕ファイルを1本、最後まで完成させること。形式やルールを体で覚えるのが目的です。2つめ、自分にとって無理のない1日の作業量を把握すること。30分なのか2時間なのか、実際に測ってみてください。3つめ、工程を分けた作業パターンを自分の体調に合わせて確立すること。

生活の中にどう作業を配置するかについては、他の在宅ワーカーの1日の流れが参考になります。まとまった時間が取れない前提での組み立て方は在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開に具体例があり、通院や体調の波を抱える方にも応用できる考え方が含まれています。

3か月で収入が少なくても、この3つができていれば十分に前進しています。続けられる形が見つかっていることのほうが、短期間の金額よりずっと価値があります。

焦らなくて大丈夫です。ゆっくりで構いません。あなたのペースで積み上げていけば、それは必ず力になります。

よくある質問

Q. 障害者手帳を持っていると字幕づくりの案件に応募できませんか?

応募できます。業務委託の案件は納品物の品質で評価されるため、手帳の有無は選考基準になりません。障害者雇用枠で在宅の動画関連職を募集している企業もあり、実働4時間・残業ほぼなし・定期面談ありといった配慮を明示した求人も実際にあります。雇用と業務委託のどちらから入るかは、体調の見通しに合わせて選んでください。

Q. 字幕づくりの報酬はどのくらいが相場ですか?

動画の長さを基準に計算されることが多く、1分あたり100円から500円程度の案件がよく見られます。専門用語が多い分野、話者が複数いるもの、納期が短いものは単価が上がる傾向があります。慣れないうちは10分の動画に2時間から3時間かかることもあるので、最初は時給換算せず、作業に慣れることを優先してください。

Q. 特別なソフトや機材を買う必要はありますか?

基本的には不要です。無料の字幕編集ソフトや自動文字起こしツールで始められ、字幕ファイル(SRTやVTT)は中身がテキストなのでメモ帳でも開けます。ただし依頼者が動画編集ソフトでの納品を求める場合はそのライセンスが必要になるため、受注前に納品形式を必ず確認してください。購入を前提に費用を求める募集は避けましょう。

Q. 体調に波があっても続けられますか?

工程を分けて日をまたぐ設計にすれば続けやすくなります。字幕づくりは素材確認、文字起こし、修正、タイミング合わせ、体裁の整形の5工程に分かれ、それぞれ使う集中力の質が違います。聞き取りは調子の良い時間に、タイミング合わせや整形は疲れている日に、と振り分けると稼働できる日が増えます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年3月15日最終更新:2026年9月11日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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