企業の産業保健の1日の流れ|朝から終業までの動き方を追う

中西 直美
中西 直美
企業の産業保健の1日の流れ|朝から終業までの動き方を追う

この記事のポイント

  • ✓企業の産業保健で働く保健師や看護師の1日の流れを
  • ✓訪問型の保健師の4つの場面で追いました
  • ✓健診やストレスチェックの時期に変わる1日の中身

「企業の保健師って、実際は1日中何をしているんですか」。病院で働いている看護師さんから、こういう質問をよく受けます。

夜勤が無くて、土日が休み。そこまでは知っていても、朝出社してから帰るまで、どんな順番で何をしているのかは、なかなか想像しにくいですよね。病院のように勤務表や申し送りがあるわけではないので、なおさらです。

先にお伝えすると、企業の産業保健の1日は、職場の体制によって驚くほど違います。チームで分担する本社の健康管理室と、1人で工場を担当する保健師とでは、同じ「9時から18時」でも中身がまったく別物です。この記事では、よくある4つの場面に分けて、朝から終業までの動き方を順番に追っていきます。

企業の健康管理室は、誰と、どんなリズムで動いているのか

1日の流れを見る前に、まず職場のリズムを知っておきましょう。

企業の健康管理室は、多くの場合、人事部や総務部の中に置かれています。勤務時間は会社の就業規則に合わせて、9時から18時、あるいは8時半から17時半といった日勤が基本です。フレックスタイム制や在宅勤務を取り入れている会社もあります。

一緒に働く相手は、病院とはかなり違います。

・産業医:専属なら毎日社内にいますが、嘱託の場合は月に1回から数回、決まった日に来社します ・人事や総務の担当者:休職や復職、就業上の配慮の相談で、毎日のようにやり取りします ・各部署の上司:部下の体調について相談を受けたり、配慮の内容を話し合ったりします ・健診機関:健康診断の日程調整や結果のやり取りで連絡します ・社員本人:面談、電話、メール、チャットで相談を受けます

病院では、同じ看護職や医師とチームを組んで動きますよね。企業では、医療職ではない人と話す時間のほうがずっと長くなります。これが、1日の流れを大きく形づくる特徴です。

もう1つのリズムは、「計画された仕事」と「突然来る相談」の2つが重なっていることです。健康診断の事後措置や、研修の準備、衛生委員会の資料づくりは、年間の予定に沿って進みます。一方で、社員からの体調の相談や、上司からの「部下の様子が気になる」という連絡は、いつ来るか分かりません。

大丈夫ですよ。最初は、この2つをどう組み合わせればいいのか戸惑う人がほとんどです。でも、午前に計画の仕事、午後に面談と相談、というように自分なりの型ができてくると、1日がぐっと回しやすくなります。

働く場所の面でも、病院とは違いがあります。健康管理室は、面談室と事務スペースが一体になった小さな部屋であることが多く、白衣を着ずに、社員と同じようなオフィスの服装で働く職場も少なくありません。社員が相談に来やすいように、あえて「医務室らしくない」雰囲気にしている会社もあります。

在宅勤務を取り入れている会社では、オンラインで面談を行う日もあります。ただ、体調不良の人への対応や、対面での復職面談があるため、完全な在宅はまれで、出社の日と在宅の日を組み合わせる形が一般的です。では、具体的な1日を見ていきましょう。

場面1:本社の健康管理室で、チームの一員として働く1日

大企業の本社で、専属の産業医1人、保健師3人、看護師2人、事務スタッフ1人というチームに所属する保健師の、健診の結果が落ち着いた時期の1日を追ってみます。

時間 動き
8:45 出社。メールと社内チャットを確認し、夜間や早朝に届いた相談を拾う
9:00 チームの朝の打ち合わせ。当日の面談の予定と、急ぎの案件を共有する
9:30 健診の事後措置。受診が必要な人の受診状況を確かめ、未受診者に連絡する
11:00 保健指導の面談(生活習慣の改善が必要な社員、1人30分)
12:00 昼休み
13:00 復職予定の社員との面談。生活リズムや通勤の練習の状況を聞く
14:00 人事担当者と打ち合わせ。復職後の業務の段階的な調整を相談する
15:00 管理職向けのメンタルヘルス研修の資料づくり
16:30 面談の記録を作成し、産業医への報告事項をまとめる
17:30 翌日の予定を確認し、終業

チーム体制のいいところは、担当が分かれていることです。この保健師は健診の事後措置とメンタルヘルスの研修を担当し、別の保健師が長時間労働者の面談を担当する、というように分担が決まっています。急な相談が入っても、その日の手の空いている人が対応できるので、1人で抱え込まずに済みます。

朝の打ち合わせは、病院の申し送りに近い役割を持っています。「昨日の夕方、営業部の上司から相談があった」「今日の午後、休職中の方から電話が来る予定」といった情報を共有し、誰が対応するかを決めます。

この1日で、時間の多くを占めているのは、面談そのものよりも「記録」と「調整」です。面談をしたら、その内容を健康管理のシステムに記録し、就業上の配慮が必要なら産業医に報告し、人事と話し合う。1件の面談の前後に、同じくらいの時間がかかると考えておくと、1日の見通しが立てやすくなります。

こういう相談がよくあります。「病院では1日に何十人も看ていたのに、企業では面談が1日に3件や4件しかない。暇だと思われないか心配」。心配しなくて大丈夫です。企業の面談は、1件ごとの重さが違います。1件の復職面談の裏には、主治医の意見の確認、上司との調整、人事との合意づくりがあり、それを丁寧に進めることが仕事の質そのものです。

場面2:工場で、1人の保健師として働く1日

次は、従業員数百人規模の工場に、保健師が1人だけ配置されている場合です。産業医は嘱託で、月に2回来社します。交代勤務のある製造業の工場を例にします。

時間 動き
8:00 出社。夜勤明けの社員から体調不良の連絡が無いか確認する
8:15 工場の朝礼に参加し、熱中症予防や感染症の注意を短く伝える
8:45 健康管理室を開ける。けがや体調不良の社員の一次対応に備える
9:30 特殊健康診断の対象者の名簿を更新し、健診機関と日程を調整する
11:00 夜勤のある社員への保健指導の面談
12:00 昼休み。社員食堂で現場の人と話すことも、情報を集める大切な時間
13:00 衛生管理者と一緒に職場巡視。暑さ対策や休憩場所の状況を確かめる
14:30 腰痛を訴える社員の相談を受け、作業の方法を上司と話し合う
15:30 次回の衛生委員会の資料づくり(健診の受診率、休業者の状況など)
16:30 本社の健康管理部門にメールで月次の報告を送る
17:00 終業

1人職場の1日は、本社のチーム体制とはまったく違います。まず、「一次対応」が仕事に含まれます。工場では作業中のけがや、暑さによる体調不良が起こりえます。産業医が社内にいない時間に誰かが倒れたら、最初に駆けつけて状態を見極め、救急車を呼ぶかどうかを判断するのは保健師です。臨床での経験が、ここで直接生きてきます。

もう1つの特徴は、現場との距離の近さです。朝礼に顔を出し、昼休みに食堂で話し、午後は巡視で職場を回る。数字だけでは見えない「最近、あのラインは残業が続いている」「あの人は顔色が悪い」といった情報は、こうした日々の接点から集まってきます。

一方で、相談できる同じ職種の人が社内にいないことが、1人職場の一番の大変さです。判断に迷ったとき、隣の席の先輩に聞くことができません。私自身、周りに同じ立場の人がいない環境で仕事をしていた時期に、「この判断で本当に合っているのか」と1人で抱えて、夜に何度も考え込んでしまったことがあります。結局、外の勉強会で同じ立場の人とつながったことで、ずいぶん気持ちが楽になりました。1人職場で働くなら、外に相談先を持つことが、仕事を続けるための大切な備えになります。

場面3:嘱託の産業医が来社する日

嘱託の産業医がいる職場では、産業医の来社日が1か月の中で一番密度の濃い日になります。月に数時間しかない産業医の時間に、面談や委員会を集中させるからです。

時間 動き
8:45 出社。当日の面談の対象者の資料を最終確認する
9:30 面談の対象者に、時間と場所をリマインドの連絡
10:00 産業医が来社。前回からの変化と、当日の予定を5分で共有する
10:15 長時間労働者の面接指導(産業医)。保健師は事前の問診結果を渡す
11:00 休職中の社員の復職面談(産業医、本人、保健師)
12:00 昼休み
13:00 衛生委員会。健診の結果と、職場の健康課題を報告する
14:00 産業医と職場巡視
15:00 産業医が健診結果に基づく就業上の意見を記入。保健師は必要な資料をそろえる
16:00 産業医が退社。意見書の内容を人事に伝え、今後の対応を整理する
17:30 面談の記録と、次回来社日までの対応事項をまとめて終業

産業医の来社日は、保健師にとって「準備の日」でもあります。数時間のあいだに、面接指導、復職面談、衛生委員会、職場巡視、健診結果の意見聴取を詰め込むので、事前の段取りがすべてを決めます。

たとえば、長時間労働者の面接指導の前には、対象者の労働時間のデータ、疲労の蓄積度をたずねる問診票、過去の健診結果を1つの資料にまとめておきます。産業医は、限られた時間でそれを読み、面談に入ります。資料がそろっていないと、面談の時間がそのまま資料の確認で終わってしまいます。

来社日の後の仕事も大切です。産業医が「残業を月20時間までに制限することが望ましい」と意見を述べたら、それを人事と上司に伝え、実際に残業が減っているかを翌月まで追いかけます。意見を聞いて終わりではなく、実際に職場で配慮が行われているかを確かめるところまでが、保健師の仕事です。

来社日の前日は、「明日、何を産業医に判断してもらうか」を1枚の紙にまとめる時間を取ると、当日が驚くほど楽になります。これは、どの職場でも共通して使える工夫です。

場面4:産業保健サービスの会社から、複数の企業を訪問する1日

企業に直接雇われるのではなく、産業保健のサービスを提供する会社に所属して、契約している複数の企業を訪問する保健師もいます。健康管理の専門職を自社で雇うのが難しい中小企業などに、面談や研修のサービスを届ける働き方です。

こうした会社では、保健師が企業に出向いて行うセミナーの仕事も多く、たとえば産業保健サービスを提供するドクタートラストは、自社のサイトで次のように紹介しています。

また、企業のご担当者さま向けの無料セミナーをドクタートラスト東京本社で毎週開催しています。 講師役を務めるのは、実際に企業に出向いてセミナーを行う、弊社の保健師です! 出典: doctor-trust.co.jp

訪問型の1日は、次のような流れになります。

時間 動き
9:00 自社のオフィスまたは在宅で業務開始。当日訪問する企業の資料を確認
10:00 A社を訪問。社員3人と面談し、人事担当者に対応事項を報告
12:00 移動と昼休み
13:30 B社を訪問。管理職向けのメンタルヘルス研修の講師を務める
15:30 移動しながら、面談の記録の下書き
16:30 自社に戻るか在宅で、記録の作成と、企業ごとの報告書づくり
18:00 終業

この働き方の特徴は、1日のうちに違う業種、違う規模の企業の課題に触れられることです。IT企業の在宅勤務の悩みを聞いた午後に、小売業の多店舗の健康管理を考える。幅広い経験が早く積める一方で、1社ごとに社員との関係を深める時間は限られます。移動が多いので、記録や報告書を移動の合間に進める段取りの力が求められます。

企業の中に入り込んでじっくり取り組みたいのか、多くの企業の課題に触れて経験の幅を広げたいのか。どちらが自分に合うかは、こうした1日の違いから考えてみてください。

季節によって、1日の中身は大きく変わる

ここまでの1日は、比較的落ち着いた時期のものです。企業の産業保健には、年間の繁忙期があり、その時期は1日の中身ががらりと変わります。

定期健康診断の時期

春から夏にかけて定期健診を行う会社が多く、この時期は健診の運営そのものが1日の中心になります。社内に健診車が来る日は、朝早くから会場の準備、受付の段取り、受診の漏れが無いかの確認に追われます。健診が終わった後は、結果が届き次第、所見のある人の抽出と受診勧奨が始まり、数か月にわたって事後措置が続きます。

ストレスチェックの時期

秋から冬に実施する会社が多いストレスチェックの時期は、受検の案内、未受検者への声かけ、高ストレス者への面接指導の案内が重なります。結果が出た後の集団分析と、職場環境の改善の話し合いは、年明けまで続くことがあります。

夏の暑さの時期

工場や屋外作業のある職場では、夏は熱中症対策が1日の大きな割合を占めます。朝礼での注意喚起、休憩や水分補給の状況の確認、体調不良の人への一次対応が増えます。

年度の変わり目

4月は新入社員の受け入れで、雇入れ時の健康診断の確認や、新入社員研修での健康の講話が入ります。人事異動で上司が変わった部署では、配慮が必要な社員の情報の引き継ぎも必要です。

冬の感染症の時期

秋から冬は、インフルエンザの予防接種を社内で行う会社では、接種の申込の取りまとめ、医療機関との日程調整、当日の会場運営が入ります。感染症が流行する時期には、発熱した社員の出社の目安を人事と確認し、社内に周知する仕事も増えます。

こうして並べてみると、1年のうちで「何も季節の仕事が無い時期」はほとんどないことが分かります。だからこそ、年間の予定表を最初に作り、その上に日々の面談や相談を重ねていく、という考え方が大切になります。入社したら、まず前任者や先輩に「去年の今ごろは何をしていたか」を聞いてみてください。それだけで、次の数か月の1日の姿がかなり見えてきます。

こういう相談もよくあります。「繁忙期に残業が続いて、思っていた働き方と違った」。企業の産業保健は、病院と比べれば残業が少ない職場が多いのは確かです。けれど、健診とストレスチェックの時期は、ある程度忙しくなると考えておいてください。応募の段階で、繁忙期がいつで、その時期の残業がどのくらいかを聞いておくと安心です。

1日の中で、時間を取られやすい仕事

1日の流れを追ってみると、表には出にくいけれど時間を取られる仕事があることに気づきます。事前に知っておくと、段取りを組むときに役立ちます。

記録を残す仕事

面談の内容、受診勧奨の履歴、就業上の配慮の経過。企業の健康管理では、あとから誰が見ても経過が分かるように記録を残すことが欠かせません。健康情報は特に配慮が必要な個人情報なので、誰がどこまで閲覧できるかにも気を配ります。面談1件ごとに、記録に15分から30分程度かかると見込んでおくと、1日の予定が崩れにくくなります。

メールとチャットの相談

社員からの「健診の再検査はどこで受ければいいか」「最近眠れない」といった相談は、メールや社内チャットで届くことが増えています。気軽に相談してもらえるのはよいことですが、返信の文面には慎重さが要ります。医療的な判断に踏み込みすぎず、必要なら面談につなげる。1通の返信に意外と時間がかかります。

関係者との調整

1人の社員への配慮を決めるのに、本人、上司、人事、産業医、場合によっては主治医と、5者の意見を合わせる必要があることもあります。それぞれの予定を合わせ、伝える内容を整理し、合意した内容を書面に残す。この調整の時間は、1日の予定表には「打ち合わせ30分」としか書かれませんが、実際にはその前後の準備に倍の時間がかかります。

急な呼び出し

体調不良の社員の一次対応や、上司からの緊急の相談は、予定に関係なく入ってきます。1日の予定をぎっしり詰めるのではなく、午後に1時間程度の空白を残しておくと、急な対応があっても他の予定を崩さずに済みます。

1人で抱え込まないために、外の支援を1日に組み込む

企業の産業保健、特に1人職場で働く人にとって大切なのは、社内に相談相手がいなくても、外に頼れる場所があると知っておくことです。

各都道府県には、産業保健の関係者を支援する公的な窓口があります。厚生労働省のメンタルヘルスのポータルサイト「こころの耳」では、次のように紹介されています。

独立行政法人労働者健康安全機構が運営する、全国47都道府県の産業保健総合支援センター(さんぽセンター)では、経験豊富な専門スタッフが、産業医、衛生管理者、産業看護職、人事労務担当者等の産業保健関係者の皆様へ、メンタルヘルス対策をはじめとする産業保健に関する相談、研修、情報提供等の支援を原則として無料で行っています。 出典: kokoro.mhlw.go.jp

ここで大事なのは、支援の対象に「産業看護職」が明記されていることです。つまり、企業で働く保健師や看護師が、仕事の悩みや判断に迷うケースについて相談したり、研修を受けたりできる場所が、全国にあるということです。

さんぽセンターの研修は、平日の日中に開かれるものも多くあります。会社によっては、業務の一環として研修への参加を認めているところもあります。1日の予定の中に、月に1回でも外の研修や勉強会を組み込んでおくと、新しい知識が入るだけでなく、同じ立場の人とのつながりができます。

また、常時50人未満の小規模な事業場には、地域産業保健センターという窓口があり、健康相談や面接指導などの支援を行っています。小規模な事業場の健康管理に関わる場合には、ここを頼ることも覚えておいてください。

外の支援は、公的な窓口だけではありません。日本産業衛生学会には産業看護の部会があり、研修会や学術集会を通じて、企業で働く看護職どうしが学び合う場があります。地域ごとに、企業の保健師が集まる自主的な勉強会が開かれていることもあります。入社したら、前任者や産業医に「近くにどんな勉強会があるか」を聞いてみると、思いがけないつながりが見つかることがあります。

判断に迷ったとき、「誰かに聞いていい」と思えるだけで、1日の重さはずいぶん変わります。あなたは一人じゃありません。

病院や行政と比べて、1日の感覚はどう違うか

病院や行政から企業に移った人が、1日の感覚の違いとして挙げやすい点をまとめておきます。

時間の流れ

病院では、検温、処置、ナースコールと、時間ごとにやることが決まっていて、1日があっという間に過ぎます。企業では、自分で予定を組み立てる時間が長くなります。自由度が高い反面、自分で優先順位を決めないと、急ぎではないけれど大切な仕事、たとえば研修の企画や、職場環境の改善の検討が後回しになりがちです。

休憩の取り方

病院では、昼休みが削られることも珍しくありませんよね。企業では、会社の就業規則どおりに休憩を取るのが基本です。「休憩をきちんと取れることに最初は戸惑った」と話す人も少なくありません。

夜勤と休日

多くの企業では夜勤が無く、土日祝日が休みです。ただし、交代勤務のある工場などでは、夜勤の社員の健康管理のために、早朝や夕方に面談の時間を設けることがあります。夜勤の無い働き方を軸に職場を選ぶときの注意点は、夜勤なしで働きたい産業保健師へ|職場の選び方と注意すべき点【2026年版】で詳しく整理しています。

成果の見え方

病院では、患者さんが回復して退院するという目に見える変化があります。企業では、健診の受診率が上がった、休職者が早く職場に戻れた、といった変化は、数か月から1年単位でしか見えてきません。1日の終わりに「今日は何ができたか」を小さく書き留めておくと、手応えを感じにくい時期も気持ちを保ちやすくなります。

相談の相手と、言葉の選び方

病院では、医師や看護師どうしで専門用語を使って話せますよね。企業では、話す相手の多くが医療職ではありません。人事担当者に「HbA1cが高い」と伝えても、何が問題なのかは伝わりにくいものです。「このままだと、数年のうちに通院や治療が必要になる可能性が高い状態です」のように、日常の言葉に置き換えて伝える場面が、1日のうちに何度もあります。

最初は、この言い換えに頭を使って、夕方にはどっと疲れを感じるかもしれません。私も、専門の言葉を使わずに説明しようとして、何度も言葉に詰まった経験があります。けれど、相手の立場で「何を知れば判断できるか」を考える習慣がつくと、説明はずっと短く、分かりやすくなっていきます。この力は、企業の産業保健で働くうちに自然と育つ、大きな財産です。

求人票から、1日の実態を読み取る

最後に、応募の前に、その職場の1日がどんなものになるかを求人票から読み取る方法をお伝えします。

・勤務時間とフレックスの有無:始業の時間が早い工場なのか、フレックスで柔軟に動けるオフィスなのか ・産業医が専属か嘱託か:嘱託なら、来社日に仕事が集中し、それ以外の日は保健師が一次対応を担う ・保健師や看護師の人数:人数の記載が無ければ、1人職場の可能性がある ・対象の社員数と拠点の数:拠点が多ければ、出張や電話での面談が1日に入る ・業務内容の最初に書かれている仕事:それが1日の中で一番時間を使う仕事であることが多い ・「応急対応」「救護」の記載:工場などで一次対応を担う職場かどうか ・残業時間の目安と繁忙期:健診やストレスチェックの時期にどのくらい忙しくなるか

求人票だけで分からないことは、面接で「入社1年目の人の、ある1日の予定を教えてください」と聞いてみてください。具体的な答えが返ってくる職場は、仕事の中身が整理されている職場です。

求人をどこで探すと見つけやすいのか、応募の前に確かめておきたいことについては、企業の産業保健の求人はどこで探すのか|募集の出方と、応募前に確かめることで詳しくまとめています。また、看護師から産業保健師を目指すときに必要な資格と採用の考え方は、看護師が産業保健師を目指すための資格と採用のポイントが参考になります。

待遇の面では、病院の夜勤手当が無くなる代わりに、企業の給与体系で基本給と賞与が決まります。今の水準と比べるときは、看護師の年収・単価相場で年代や地域ごとの相場を確かめておくと、条件を落ち着いて判断できます。

企業の産業保健で面談の経験を重ねると、働く人の悩みに寄り添う力が育ちます。その力を、キャリアの相談という形で広げる人もいます。国家資格のキャリアコンサルタントは、働く人の職業生活やキャリアの相談に応じる専門職で、試験の概要をこのページで確認できます。相談の仕事が実際にどう行われているかは、職場・転職・キャリア相談のお仕事で紹介しています。

長くこの市場を見てきた立場から言えば、専門職が組織の外でも長く仕事を得続けるとき、決め手になるのは「この人に任せると記録が正確で、話が早い」という信頼です。仲介の手数料が間に入らない直接のやり取りであれば、依頼する側は同じ予算でより多くの面談や相談を頼め、受ける側は手取りが厚くなる。企業の健康管理室で毎日積み重ねる記録と調整の丁寧さは、その信頼の土台としてそのまま生きていきます。

企業の産業保健の1日は、派手ではありません。けれど、1件の面談、1本の連絡、1枚の記録の積み重ねが、働く人が明日も元気に出社できる状態をつくっています。自分に合った体制の職場を選べば、その1日はきっと、長く続けられる形になりますよ。

よくある質問

Q. 企業の産業保健師の勤務時間は何時から何時までですか?

会社の就業規則に合わせた日勤が基本で、9時から18時や8時半から17時半が一般的です。フレックスタイム制や在宅勤務を取り入れている会社もあります。交代勤務のある工場では、朝礼に参加するため始業が早かったり、夜勤の社員との面談のために時間を調整したりすることがあります。求人票の勤務時間の欄を確かめてください。

Q. 企業の産業保健は残業が多いですか?

病院と比べると残業が少ない職場が多い傾向ですが、年間の繁忙期があります。定期健康診断とその事後措置の時期、ストレスチェックの実施と集団分析の時期は忙しくなりやすいです。嘱託の産業医の来社日の前後も準備で時間が詰まります。応募の段階で、繁忙期がいつでその時期の残業がどのくらいかを聞いておくと安心です。

Q. 1人職場の産業保健師は、判断に迷ったとき誰に相談しますか?

社内では嘱託の産業医や人事担当者に相談しますが、同じ職種の相談相手がいないことが多いです。そのため、全国47都道府県にある産業保健総合支援センター(さんぽセンター)の相談や研修を活用する人が多くいます。産業看護職も支援の対象で、原則無料です。外の勉強会で同じ立場の人とつながっておくことも、仕事を続ける支えになります。

Q. 産業医の来社日には保健師は何をしますか?

面接指導や復職面談、衛生委員会、職場巡視、健診結果に基づく意見聴取を限られた時間に集中させるため、事前の資料づくりと当日の段取りが中心です。対象者の労働時間や問診結果、過去の健診結果をまとめておき、来社後は産業医の意見を人事と上司に伝え、配慮が実際に行われているかを翌月まで確かめます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年2月7日最終更新:2026年9月17日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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