育休中にアルバイトをすると会社に伝わるのか|給付金への影響と申告 2026


この記事のポイント
- ✓育休中にアルバイトをするとバレるのか
- ✓その経路を制度から分解します
- ✓育児休業給付金の就業日数・賃金の上限
先日、育休中の方から立て続けに同じ相談を受けました。「育休中にアルバイトをしたら会社にバレますか」という質問です。結論から言うと、バレるかどうかを心配する前に知っておくべきことがあります。育児休業給付金には就業日数と賃金の上限が制度として定められていて、それを超えた瞬間に給付が減額または不支給になる仕組みになっているんです。つまり、隠し通せるかどうかの問題ではなく、申告義務のある事項を申告しなかった場合は不正受給として扱われる、という話なんですね。これ、知らない人が本当に多いんです。
この記事では、育休中のアルバイトが会社やハローワークに伝わる経路を制度の側から一つずつ分解し、育児休業給付金の支給要件を正確に説明します。そのうえで、給付を減らさずに収入を得たい人が現実的に取れる選択肢まで整理します。法律はあなたの味方です。ただし、味方になってもらうには正しく使う必要があります。
育休中に収入を得たい人が増えている社会的背景
まず前提として、育休中に働くこと自体は違法ではありません。育児・介護休業法は育児休業中の就労を一律に禁止していないため、労使の合意があれば一時的・臨時的な就労は可能とされています。にもかかわらず「バレる」という検索が絶えないのは、制度が複雑で、どこまでが許されてどこからがアウトなのかが分かりにくいからです。
背景には収入の落ち込みがあります。育児休業給付金の給付率は、育児休業開始から180日までが休業開始時賃金日額の67%、181日目以降は50%です。給付金は非課税で社会保険料も免除されるため、手取りベースで見れば67%の期間は実質8割程度の水準になりますが、それでも181日目以降の50%に落ちる時期は家計の負担が一気に重くなります。育休を1年取得する人の場合、後半半年間はこの水準で暮らすことになるわけです。
2025年4月からは「出生後休業支援給付金」が新設され、一定の要件を満たすと最大28日間、給付率に13%が上乗せされて実質80%になる仕組みが始まりました。手取りで見ればおおむね10割相当という設計です。ただしこれは産後の限られた期間の話であり、育休全体の収入減を埋めるものではありません。
さらに、育休の長期化と物価上昇が重なっています。保育園の入園時期の関係で育休を延長するケース、第二子・第三子で連続して休業に入るケースでは、給付率50%の期間が長く続きます。「少しでも収入を足したい」と考えるのは自然なことです。実際、私のところに来る相談も「働きたい」というより「このままだと生活が回らない」という切実な内容が多くなっています。
一方で、育休中の就労には制度上の上限が明確に設定されています。この上限を知らないまま働き始めてしまい、あとから給付金の返還を求められるケースが後を絶ちません。ここを正確に理解することが、この記事のいちばんの目的です。
「バレる」の正体を制度から分解する
「バレる」と一言で言っても、伝わる相手は2つあります。ひとつは勤務先の会社、もうひとつはハローワーク(公共職業安定所)です。この2つは仕組みも重みも全く違います。
会社に伝わるのは就業規則違反の話です。ハローワークに伝わるのは育児休業給付金の支給要件の話であり、こちらは雇用保険法に基づく行政処分の対象になります。混同すると判断を誤るので、分けて考えてください。
経路1: 育児休業給付金の支給申請書に就業実績を記入する
最も直接的な経路がこれです。育児休業給付金は自動的に振り込まれるものではなく、原則として2か月ごとに支給申請を行います。申請書には支給単位期間ごとの「就業日数」と「支払われた賃金額」を記入する欄があります。
ここで重要なのは、この就業日数が「育休を取得している会社での就業日数」だけを指すわけではないという点です。育児休業給付金の趣旨は、子を養育するために休業して賃金を得られない期間の所得を保障することにあります。したがって、他の会社でアルバイトをしていれば、その日数も休業していない日として扱われます。申請時に他社での就業を記載しないのは、事実と異なる申告をしたことになります。
実務上、事業主が他社での就労を把握していないことは珍しくありません。だからといって書かなくてよいということにはならず、労働者本人が事業主やハローワークに申し出るべき事項です。この点を「会社が知らないなら書きようがない」と解釈してしまう人が多いのですが、それは論理が逆です。
経路2: 住民税の特別徴収額の変化
会社に伝わる経路として最も語られるのが住民税です。ここは仕組みを正確に押さえておく必要があります。
会社員の住民税は原則として特別徴収、つまり給与から天引きされます。市区町村は毎年5月ごろ、勤務先に「給与所得等に係る市町村民税・道府県民税 特別徴収税額の決定通知書」を送ります。この通知書には、その人の前年の所得の合計と、そこから計算された税額が記載されています。
アルバイトは給与所得です。そして給与所得については、住民税を普通徴収(自分で納付)に切り替えることが原則としてできません。副業が業務委託などの事業所得や雑所得であれば、確定申告書の第二表で「自分で納付」を選択して普通徴収にできますが、給与所得はこの選択肢の対象外です。市区町村によっては例外的に認めるところもありますが、原則は主たる給与の支払者に合算して通知されます。
つまり、アルバイト先から市区町村へ給与支払報告書が提出されると、その所得が本業の勤務先に届く通知書に反映されるわけです。年間の給与収入が住民税の非課税限度額を下回っていれば課税自体が発生しませんが、非課税限度額は自治体や扶養状況によって異なり、単身でおおむね年収100万円前後が目安です。ただし育休中は本業からの給与がゼロに近いため、住民税の計算は前年の所得をベースに行われる点にも注意が必要です。
なお「単発バイトなら給与支払報告書は出ない」と考える人がいますが、これは誤りです。給与支払報告書は原則として年間の支払額にかかわらず提出義務があり、年間30万円以下の退職者について一部緩和があるにとどまります。日雇いや単発でも、支払者が正しく処理していれば市区町村に情報は届きます。
経路3: 社会保険の二以上事業所勤務
これは見落とされがちですが、重い経路です。健康保険と厚生年金保険には加入要件があり、週の所定労働時間および月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上である場合、または特定適用事業所において週20時間以上・月額賃金8万8千円以上などの短時間労働者の要件を満たす場合、その事業所で社会保険に加入することになります。
育休中は本業の会社で社会保険の被保険者資格を維持したまま保険料が免除されている状態です。ここで別の会社でも加入要件を満たすと、「二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出する必要が生じます。この届出により、両方の事業所の報酬を合算して標準報酬月額が決定され、主たる事業所を選択する手続きが発生します。この時点で本業の会社に確実に伝わります。
社会保険制度の詳しい仕組みや届出については、日本年金機構の案内が一次情報になります。判断に迷う場合は、加入要件を満たすかどうかを勤務予定の会社の担当者に確認してください。
経路4: 雇用保険の重複
雇用保険は原則として、生計を維持するに足る主たる賃金を受ける事業所ひとつでのみ加入します。二重加入は原則としてできません。アルバイト先で週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある場合、アルバイト先は本来なら資格取得届を出す必要があります。しかしすでに本業で被保険者になっているため、ハローワークの側で重複が判明します。
育児休業給付金は雇用保険の給付です。同じ制度の中で就労実態が把握される可能性があるという点で、この経路は軽視できません。
経路5: 年末調整・確定申告と人づて
年末調整では給与所得者の扶養控除等申告書を主たる勤務先に提出します。副業先にも同じ申告書を出すことはできません。年をまたいで確定申告が必要になるケースもあります。年間の給与所得以外の所得が20万円を超える場合の確定申告義務など、税務の取り扱いは国税庁のタックスアンサーで確認できます。
そして現実に最も多い発覚経路が、人づてです。同僚の知り合いが勤務先に居合わせた、SNSの投稿から特定された、といったケースです。制度の話ではありませんが、実務上はこれが一番多い。この点は覚えておいてください。
育児休業給付金の支給要件を正確に理解する
ここが本題です。「バレるかどうか」よりも、「制度上どこまで働けるのか」を正確に知るほうがはるかに重要です。
育児休業給付金は、支給単位期間(原則として休業開始日から起算した1か月ごとの期間)を単位として支給されます。この支給単位期間ごとに、就業日数と賃金の2つの要件を満たす必要があります。
要件1: 就業日数は月10日以下、または就業時間が月80時間以下
支給単位期間中に就業した日数が10日以下であることが原則です。就業日数が10日を超える場合には、就業した時間が80時間以下であれば支給対象になります。この「または」の関係を誤解している人が多いので、整理しておきます。
・就業日数10日以下 → 時間は問われない ・就業日数11日以上かつ就業時間80時間以下 → 支給対象 ・就業日数11日以上かつ就業時間80時間超 → その支給単位期間は不支給
なお、休業終了日が含まれる支給単位期間については、日数・時間の上限が日割りで按分されます。
そして最も重要な点です。この就業日数・就業時間は、育児休業を取得している会社での就業だけを数えるものではありません。育児休業給付金は「子を養育するために休業していること」を前提とした給付であるため、他の事業主のもとで就労した日も就業日数に算入されます。つまり、他社でのアルバイトを月11日以上、かつ月80時間を超えて行えば、その月の育児休業給付金は不支給になります。
週3日、1日6時間のアルバイトを想定してみましょう。月13日勤務で78時間です。日数は10日を超えていますが時間が80時間以下なので、この条件なら就業日数・時間の要件はぎりぎり満たします。しかしシフトが1日増えれば84時間となり、その月は不支給です。かなり際どいラインだということが分かると思います。
要件2: 支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%以下であること
もうひとつが賃金の要件です。支給単位期間中に事業主から賃金が支払われた場合、その額に応じて給付金が減額または不支給になります。
計算のベースになるのが「休業開始時賃金日額 × 支給日数(原則30日)」です。これを仮に賃金月額と呼びます。
・支払われた賃金が賃金月額の13%以下(給付率50%の期間は30%以下) → 給付金は全額支給 ・賃金が13%超80%未満(同30%超80%未満) → 「賃金月額の80% - 支払われた賃金」が支給額 ・賃金が賃金月額の80%以上 → その支給単位期間は不支給
具体的に計算してみます。休業開始時賃金日額が10,000円の人であれば、賃金月額は30万円です。給付率67%の期間の給付金は20万1千円になります。ここで会社から5万円の賃金が支払われたとすると、5万円は30万円の約16.7%で13%を超えます。したがって支給額は30万円×80%-5万円=19万円となり、1万1千円減額されます。合計収入は24万円です。働いた5万円のうち手元に残るのは差し引き3万9千円という計算になります。
さらに、賃金が賃金月額の80%である24万円に達すると給付金はゼロです。この場合、育休を取っている意味が経済的にほとんどなくなります。つまり制度は、賃金月額の80%を超える収入を得るなら給付は不要という考え方で設計されているわけです。
他社の賃金と自社の賃金は扱いが違う
ここは正確に説明しないと誤解を招くところなので、慎重に書きます。
減額判定に使う「支払われた賃金」は、原則として育児休業を取得している事業主から支払われた賃金を指します。他社でのアルバイト収入は、この減額計算の分子には入らないという整理が一般的です。
しかしこれを「他社なら給付金は減らないから得だ」と読むのは危険です。理由は3つあります。
第一に、就業日数と就業時間の要件は他社での就労も含めてカウントされます。月11日以上かつ80時間超で働けば、賃金の多寡にかかわらず不支給です。
第二に、就業実績の申告義務があります。申告せずに給付を受け続ければ、それは不正受給の構成要件に触れます。
第三に、ハローワークの窓口では個別の事情に応じた判断が行われます。育児休業給付金の取り扱いは制度改正が続いており、細部の運用は管轄によって説明が異なることもあります。最新の取り扱いは厚生労働省の資料と、管轄ハローワークへの直接照会で確認してください。
実際、この点で悩んでいる人は非常に多いです。同じ疑問がQ&Aサイトにも繰り返し投稿されています。
育休中の副業について詳しい方、教えてください。上記の通り、副業を考えており、アルバイトなど雇用契約を結ばず、業務委託として個人で請け負う形にしようと思っています。ハローワークに相談したところ、手当金を請求する時に副業していた場合、就業時間を申告しないといけないと言われてしまったのですが、本業で勤めている会社が副業禁止です。 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
この相談内容には、実は制度の要点がほぼ全部詰まっています。ハローワークが「就業時間を申告してください」と回答している点が重要です。窓口は隠すことを前提にした案内をしません。申告したうえで、要件の範囲内かどうかを判定する、というのが制度の正しい運用です。
不正受給になった場合に何が起きるか
ここは厳しい話になりますが、正確に伝える必要があります。
雇用保険の給付を偽りその他不正の行為によって受けた場合、その後の給付の支給停止に加え、すでに受け取った給付金の返還命令が出されます。さらに、返還額とは別に、不正受給額の2倍相当額以下の納付を命じられることがあります。返還分と合わせると最大で不正受給額の3倍を支払うことになるため、実務では「3倍返し」と呼ばれています。
たとえば給付金を月20万円受給していた人が、就業実績を申告せずに6か月分、合計120万円を不正に受給したと認定されたケースを考えます。返還120万円に加えて納付命令が最大240万円、合計360万円という規模になり得ます。悪質と判断されれば詐欺罪として刑事告発の対象にもなります。
しかも支払いは延滞金の対象にもなり、応じない場合は財産の差押えが行われます。育休中の家計でこの負担は現実的に耐えられません。「バレなければいい」という発想が、なぜここまで危険なのかが分かると思います。
※このあたりの判断で不安がある場合、特にすでに申告せずに働いてしまった心当たりがある場合は、自己判断で放置せず、社会保険労務士または弁護士に相談してください。自主的に申し出た場合と調査で発覚した場合とでは、実務上の扱いが変わることがあります。
就業規則の副業禁止規定はどこまで効くのか
会社に伝わることを恐れる最大の理由が、就業規則の副業禁止規定でしょう。ここも法律の話として整理しておきます。
まず前提として、育児休業中も労働契約自体は継続しています。労務提供義務が免除されているだけで、契約が消えたわけではありません。したがって就業規則の副業に関する規定は、育休中も原則として適用されます。
一方で、裁判例の蓄積を見ると、副業を理由とした懲戒処分が有効と認められるのは限定的です。労働時間外は本来労働者が自由に利用できる時間であり、副業を全面的に禁止する規定は合理性を欠くとされることが多いためです。処分が有効とされやすいのは、次のようなケースです。
・本業の労務提供に具体的な支障が生じた場合 ・競業関係にある会社で就労し、会社の利益を害した場合 ・会社の企業秘密が漏洩するおそれがある場合 ・会社の名誉や信用を毀損する態様の就労だった場合
つまり、単に「副業をした」という一事だけで直ちに懲戒解雇が認められるわけではありません。ただしこれは「バレても大丈夫」という意味ではありません。処分の当否を争うこと自体が大きな負担ですし、復職後の人間関係に響きます。実務としては、そこに賭けるべきではないと考えます。
近年は副業を許可制に切り替える企業が増えています。厚生労働省のモデル就業規則も、副業を原則容認する方向に改定されました。まずは自社の就業規則を確認し、許可制であれば正面から申請するのが最も安全な道です。育休中であっても申請ルートは同じです。
私が相談を受けたケースで印象的だったのは、副業禁止だと思い込んで悩んでいた方が、実際に就業規則を取り寄せてみたら許可制だった、という例です。「聞いたら怒られる」と思い込んで、確認すらしていなかったわけです。就業規則は労働者に周知される義務があるものですから、遠慮なく確認してください。
雇用契約と業務委託契約では扱いが根本的に違う
ここは制度理解の分かれ目です。アルバイトは雇用契約、在宅ワークの多くは業務委託契約です。この2つは育児休業給付金の取り扱いにおいて別物として扱われます。
雇用契約に基づく労働は、明確に「就業日」としてカウントされます。タイムカードやシフト表という客観的な記録が残るため、日数・時間の把握も容易です。
業務委託の場合、そもそも「就業日数」「就業時間」という概念が労働時間管理と結びつきません。しかしこれも「カウントされないから自由」ということではありません。ハローワークの窓口では、実態として一定の時間を継続的に労務に充てているのであれば、その時間を申告するよう求められることが実際にあります。冒頭で引用した相談でも、まさにその案内が出ています。
税務上も違いがあります。雇用契約による収入は給与所得で、住民税は原則として特別徴収に合算されます。業務委託による収入は事業所得または雑所得となり、確定申告書で「自分で納付」を選択すれば普通徴収に切り替えられます。この違いが、住民税経由の発覚可能性を左右します。
ただし念のため書いておくと、普通徴収の選択は税の納付方法の選択であって、就業実績の申告義務を免れる手段ではありません。育児休業給付金の申告と住民税の徴収方法は別の制度です。混同しないでください。
在宅で完結する業務委託の仕事にどんな選択肢があるかを知りたい方は、在宅ワークを未経験から始める方法|必要なスキルと準備【2026年版】が参考になります。未経験から在宅ワークを始める際に必要なスキルセットと、事前に準備しておくべき環境や手続きを段階的にまとめた記事です。育休中に何ができるかを整理したい場合は、育休中にできる副業|復帰後のキャリアにも繋がる仕事もあわせて読んでください。単に収入を足すだけでなく、復職後のキャリアにつながる仕事の選び方という視点で書かれています。
申告して働くための現実的な手順
隠す方法ではなく、正しく進める手順を示します。順番が重要です。
手順1: 自社の就業規則を確認する
副業に関する条項が禁止なのか許可制なのか届出制なのかを確認します。就業規則は労働基準法第106条により周知義務があるため、人事部や社内ポータルで閲覧できるはずです。育休中で出社していない場合も、メールで写しを請求すれば足ります。
手順2: 会社に相談し、必要なら許可申請を出す
許可制であれば申請します。この段階で「育休中に副業なんて」と言われるのではないかと不安になる方が多いのですが、実際には育休中の収入減を理由とした申請は珍しくありません。むしろ黙って働いてあとから発覚するほうが、信頼関係へのダメージははるかに大きくなります。
手順3: 管轄のハローワークに就業予定を伝えて確認する
予定している就業日数・就業時間・契約形態を具体的に伝えて、給付への影響を確認します。窓口は制度の運用を判断する立場にあるので、ここで得た回答が実務上の基準になります。担当者名と回答内容をメモに残しておくと、あとで説明が食い違ったときに役立ちます。
手順4: 支給申請のたびに就業実績を正確に記入する
2か月ごとの支給申請で、就業日数と就業時間を正確に記入します。他社での就労分も含めます。ここを正直に書くことが、不正受給リスクをゼロにする唯一の方法です。
手順5: 記録を残す
いつ、どこで、何時間働いたかを月ごとに記録しておきます。業務委託の場合は稼働時間の記録が特に重要です。あとから照会を受けたときに、記録があるかないかで説明の説得力が全く変わります。
給付を減らさずに収入を増やすという発想の限界
ここまで読んで、「結局どうすればいいのか」と思われたはずです。制度の設計を素直に読むと、答えは明快です。
育児休業給付金は、休業して賃金を得られないことへの所得保障です。したがって働けば働くほど給付は減る方向に設計されています。「給付を満額もらいながら、たくさん稼ぐ」という状態は制度上想定されていません。
したがって現実的な選択肢は3つに絞られます。
ひとつめは、就業日数10日以内かつ賃金を賃金月額の13%以内に収め、給付を満額受けながら小さく働く方法です。休業開始時賃金月額が30万円なら3万9千円までが目安です。
ふたつめは、育休を早めに終了して復職し、通常の賃金を得る方法です。給付は終わりますが、賃金は満額です。2025年4月からは育児時短就業給付金という制度もあり、短時間勤務で復職して賃金が下がった場合に10%が支給される仕組みが利用できます。
みっつめは、育休期間中はスキルの獲得に時間を使い、復職後の収入を上げる方法です。育休中は目先の収入を追うより、復職後に効いてくる投資をしたほうが総額では有利になるケースが多いというのが、相談を受けてきた実感です。
3つめについて補足すると、たとえばビジネス文書検定のように、実務で使える文書作成能力を体系的に証明できる資格は、事務職やライティング系の在宅ワークで評価されます。IT寄りのキャリアを考えているなら、ネットワーク領域の基礎を証明するCCNA(シスコ技術者認定)のような資格も選択肢になります。育児の合間に少しずつ進められる学習は、月80時間の就業上限といった制約を受けません。
学習時間を確保する現実的な工夫については、在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックが役に立ちます。細切れの時間しか取れない環境で、どう集中を作るかという実務的な方法を扱った記事です。
復職後の収入を上げるという選択肢を数字で見る
育休中の就業上限に苦しむより、復職後の単価を上げるほうが合理的だという話を、市場の数字で確認しておきます。
在宅で完結する職種の単価相場を見ると、職種による差が非常に大きいことが分かります。ソフトウェア作成者の年収・単価相場では、開発職の年収レンジと業務委託時の単価水準がまとまっています。同じ在宅ワークでも、開発案件の時間単価は事務作業系とは桁が違うレンジになります。文章を書く仕事についても、著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、経験年数と専門性で単価が大きく変わる構造が読み取れます。
分野で言えば、AI関連の需要の伸びが顕著です。企業が生成AIの業務導入を進める中で、導入の設計や運用ルールづくりを支援する仕事が増えています。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、こうした支援業務の具体的な内容と求められるスキルが整理されています。マーケティングやセキュリティを絡めた領域についてはAI・マーケティング・セキュリティのお仕事、開発寄りに進みたい場合はアプリケーション開発のお仕事が仕事内容の把握に使えます。
ここで言いたいのは、育休中に月数万円を上限ぎりぎりで稼ぐ努力と、復職後に時間単価を上げる準備をする努力とでは、3年スパンで見たときのリターンが全く違うということです。育休中の就業上限は制度上動かせませんが、復職後の単価には上限がありません。
独自データから見た育休明けの働き方の変化
在宅ワークと業務委託の市場を長く見てきた運営者の立場から、一次的な観察を書いておきます。
20年この市場を見てきて感じるのは、育休を挟んだ人の働き方の選択が、ここ数年で明確に変わってきたことです。以前は「復職か退職か」の二択でした。今は「復職しつつ、業務委託で別の仕事も持つ」という形が現実的な選択肢として定着しつつあります。これは企業側の副業容認が進んだことと、在宅で完結する業務委託の案件が増えたことの両方が効いています。
もうひとつ、運営者として見てきた限りではっきりしているのは、長く続く人ほど「単発の作業をこなす」のではなく「この人に任せると楽だ」という関係づくりに時間を使っているということです。育休中に月10日以内という制約の中で仕事をする場合、量で勝負することはできません。だからこそ、少ない稼働で信頼を積み上げる働き方が結果的に有利になります。納期を守る、連絡が早い、指示の意図を確認してから着手する。地味ですが、この3つを守れる人は復職後も継続的に依頼を受けています。
もう一点、手取りの話をしておきます。同じ「月5万円の仕事」でも、仲介手数料が20%引かれる経路と、手数料0%で直接やり取りする経路とでは、手元に残る額が違います。育休中のように稼働時間の上限が制度で決まっている状況では、この差が特に効いてきます。稼働を増やして埋めることができないからです。中間マージンが乗らない構造では、依頼する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は手取りが厚くなります。この構造は、双方が得をする形として市場に定着してきました。数字で派手にアピールできる話ではありませんが、時間に制約のある人ほど恩恵が大きいというのが、現場を見てきた実感です。
制度の上限は動かせません。動かせるのは、限られた時間をどこに使うかという配分です。育休中にアルバイトが会社に伝わるかどうかを気にして過ごすより、就業実績を正直に申告できる範囲で働き、残った時間を復職後の単価に効く準備に充てる。相談を受けてきた中で、結果的にうまくいっている人の共通点はここにありました。
法律はあなたの味方です。ただし、味方でいてもらうためには、隠すのではなく正しく申告するという最初の一歩が必要になります。不安な点があれば、管轄のハローワークと、必要に応じて社会保険労務士に確認してください。確認するだけならコストはかかりませんし、その一回の確認が、あとから3倍の返還を求められるリスクを消してくれます。
よくある質問
Q. 育休中にアルバイトをすると必ず会社に伝わりますか?
必ずとは言えませんが、伝わる経路は複数あります。アルバイトは給与所得のため住民税を普通徴収に切り替えられず、特別徴収税額の決定通知書を通じて本業の勤務先に所得が届きます。加えて社会保険の加入要件を満たすと二以上事業所勤務届が必要になり、この時点で確実に判明します。
Q. 育児休業給付金をもらいながら働ける上限はどれくらいですか?
支給単位期間ごとに就業日数10日以下、もしくは就業日数が11日以上でも就業時間80時間以下であることが必要です。この日数と時間には他社での就労も含まれます。加えて休業中の事業主から支払われた賃金が休業開始時賃金月額の13%を超えると減額され、80%以上で不支給になります。
Q. 就業実績を申告しないとどうなりますか?
不正受給と判断されると、受け取った給付金の全額返還に加えて、不正受給額の2倍以下の納付を命じられることがあります。合計で最大3倍の支払いになるため実務では3倍返しと呼ばれます。悪質な場合は詐欺罪として刑事告発の対象にもなります。申請書には正確に記入してください。
Q. アルバイトではなく業務委託なら育児休業給付金に影響しませんか?
影響しないとは言い切れません。減額計算に使う賃金は原則として育休を取得している会社から支払われた賃金ですが、就業日数と就業時間の要件は他社での就労も算入されます。ハローワークの窓口で稼働時間の申告を求められる例もあるため、契約形態にかかわらず事前に管轄へ確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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