経済産業省が進めるリスキリングとは何か


この記事のポイント
- ✓経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業について
- ✓公式サイトの記載をもとに仕組みを整理しました
- ✓補助の金額と2段階の条件
経済産業省リスキリングと検索してこのページにたどり着いた方の多くは、「講座が安く受けられるらしい」という断片的な情報だけを持っている状態だと思います。結論から書くと、この制度は講座の割引制度ではありません。キャリア相談から転職までを一体で受ける仕組みで、しかも対象になる人の条件がかなり絞られています。この記事では、経済産業省の公式事業サイトに書かれている内容をもとに、制度の中身、補助される金額と条件、対象になる人とならない人、そして厚生労働省の似た制度との違いを、数字で整理します。
正式名称は「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
まず、制度の正体をはっきりさせます。経済産業省が実施しているこの事業の正式名称は「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」です。公式サイトには、事業の目的がこう説明されています。
リスキリングと労働移動の円滑化を一体的に進める観点から、在職者が自らのキャリアについて民間の専門家に相談できる「キャリア相談対応」、それを踏まえてリスキリング講座を受講できる「リスキリング提供」、それらを踏まえた「転職支援」までを一体的に実施する体制を整備します。 出典: careerup.reskilling.go.jp
ここに書かれている「労働移動の円滑化」という言葉が、この制度の性格をすべて説明しています。学び直しそのものが目的ではなく、学び直しを通じて人が別の会社へ移ることを後押しする。それが国の狙いです。
だから、講座を受けるだけでは制度の趣旨を満たしません。転職まで進むことが前提に組み込まれています。ここを理解しないまま申し込むと、「思っていた制度と違った」ということになります。
なお、事業の運営体制も公開されています。経済産業省より採択され、経済産業省および一般社団法人環境パートナーシップ会議の監督のもと、株式会社野村総合研究所が事務局業務を運用しています。補助金の公募や事業者の採択は経済産業省が行い、実際の窓口業務は事務局が担う形です。
補助されるのは個人ではなく、講座を提供する事業者
ここが最も誤解されている点です。この制度では、補助金が個人に直接振り込まれることはありません。公式サイトのよくある質問には、本補助事業の直接的な補助対象は個人ではない、と明記されています。
仕組みはこうです。国に採択された事業者、つまり補助事業者に対して補助金が支給されます。補助事業者はその分だけ受講料を安く設定します。受講する個人は、最初から安くなった価格で講座を受けられる、という流れです。
補助される金額は2段階に分かれています。
| 段階 | 条件 | 補助額 |
|---|---|---|
| 第1段階 | リスキリング講座の受講を修了した場合 | 受講費用(税別)の1/2相当額、上限40万円 |
| 第2段階 | 受講を経て実際に転職し、その後1年間継続して転職先に就業していることが確認できた場合 | 追加で受講費用(税別)の1/5相当額、上限16万円 |
2つを合わせると、受講費用の70%、上限56万円になります。よく見かける「最大70%補助」という表現は、この合計値のことです。
注意したいのは、第2段階が「1年間継続して就業していること」を条件にしている点です。転職した直後ではなく、1年後に確認されます。短期間で辞めてしまうと、この部分は支給されません。
また、この事業でいう「転職」には定義があります。補助事業で実施された職業紹介による転職か、転職支援を実施する職業紹介事業者が自社で雇用する転職により、新たな雇用契約を締結したことを指します。自力で見つけた求人に応募して転職した場合が該当するかどうかは、事業者によって扱いが変わる可能性がありますので、利用する前に補助事業者へ確認してください。
対象になる人、ならない人
制度の対象者は、かなりはっきり絞られています。公式サイトのよくある質問によると、サービスへの登録時とキャリア相談対応における初回面談時に在職者であり、雇用主の変更を伴う転職を目指している方が対象です。
この条件を分解すると、次のようになります。
| 状況 | 対象になるか |
|---|---|
| 会社に在籍しながら、別の会社への転職を目指している | 対象 |
| すでに退職していて、現在は働いていない | 対象外(登録時に在職者である必要がある) |
| フリーランスや自営業として働いていて、独立を続けたい | 対象外(雇用主の変更を伴う転職が前提) |
| 在職中だが、同じ会社の中で別の部署に異動したい | 対象外(雇用主の変更が必要) |
| 在職中で、将来的に独立したい | 制度の趣旨と合わない |
在宅で働いている方、副業から独立を考えている方にとって、この条件は厳しく感じられるはずです。国の事業として労働移動の円滑化を掲げている以上、雇用から雇用への移動が前提になっているためです。
正直なところ、これはどうかと思う部分もあります。働き方の選択肢が広がっている中で、雇用契約を結ぶ転職だけが支援の対象になっているのは、制度設計としては古い前提に立っているように見えます。ただし、制度は制度として割り切って使うしかありません。今が在職中で、別の会社への転職を考えているのであれば、使える条件が揃っています。
また、受講するリスキリング講座によっては、事前知識が求められるケースもあると案内されています。未経験からいきなり高度な講座を受けられるとは限らないので、各事業者が応募を開始した段階で確認が必要です。
受けられる3つのサービスと、無料になる範囲
この事業で受けられるサービスは3つです。しかも、そのうち2つは無料だと明記されています。
1つ目はキャリア相談です。キャリアコンサルタント等の専門家に、自分のキャリアについて相談します。内容は、これまでのキャリアの棚卸し、キャリアゴールの設定、スキルの棚卸し、そして自分に適したリスキリング講座の検討のサポートです。
2つ目はリスキリング、つまり講座の受講です。ここだけが有料で、前述のとおり補助事業者経由で費用が軽減されます。
3つ目は転職支援です。キャリア相談と講座受講を踏まえて、転職に向けた伴走支援や職業紹介を受けられます。
公式サイトのよくある質問には、このうちキャリア相談と転職支援は無料で受けることができる、と書かれています。つまり、講座代だけを払えば、その前後のキャリア相談と転職支援は追加費用なしで付いてくるということです。
制度の価値を金額だけで見ると講座の割引に見えますが、実務的にはこの「前後が無料」という部分のほうが大きいかもしれません。キャリアコンサルタントへの相談を個人で申し込むと、1回あたり数千円から1万円台の費用がかかることが一般的です。それが講座とセットで無料になるのですから、使わない手はありません。
学べる分野はデジタルだけではない
経済産業省の事業と聞くと、プログラミングやデータ分析といったデジタル分野だけを想像しがちです。実際にはもっと広い範囲が対象になっています。
公式サイトのよくある質問には、プログラミングやWebデザイン等のデジタル分野の専門的な知識を身につけるための講座に加えて、医療や介護・福祉、保育分野に関係する講座など、多様な講座を受講できると記載されています。
これは重要な情報です。人手不足が深刻な分野へ人を動かすという政策的な意図が読み取れますし、デジタル分野に関心がない人にとっても選択肢があるということだからです。
体験者として公式サイトに掲載されている事例も、分野に幅があります。ソフトウェアやインターネット分野への転職、Webデザインのスキルアップ、未経験からITエンジニアへのキャリアチェンジ、マーケティングや商品企画からテック系コンサルタントへの転身など、職種の移動を伴う事例が並んでいます。
どの講座を選ぶべきかは、キャリア相談の中で専門家と一緒に決める設計になっています。逆に言うと、受けたい講座が先に決まっている人にとっては、相談の工程が回り道に感じられるかもしれません。ただ、自分が本当にその分野に向いているかを第三者に確認してもらえる機会だと考えれば、無駄ではないはずです。
実際の利用者に何が起きたのか
制度を使った人がどうなったかのデータも、公式サイトで公開されています。2023年6月から2025年10月の期間に事業に参加した人のうち、転職完了者に絞って集計したものです。
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 転職後に給料が上昇した人の割合 | 約63% |
| 未経験の職種に転職した人の割合 | 約75% |
| 「自分の目指すべきキャリアが明確になった」と回答した割合 | 約50% |
| キャリア相談や転職支援に満足していると回答した割合 | 約80% |
このデータを読むときに気をつけたいのは、集計の対象が「転職完了者」に絞られている点です。途中で離脱した人や、講座は受けたが転職に至らなかった人は含まれていません。ですから、この数字は「制度を最後まで使い切った人の結果」であって、「申し込んだ人全員の結果」ではありません。
そのうえで見ると、未経験の職種への転職が約75%という数字は注目に値します。リスキリング講座を受けたという事実そのものが、未経験分野への挑戦の説得材料になっている可能性があります。主体的に学ぶ姿勢を示せることが、書類選考や面接で効いているという説明が公式サイトにも書かれています。
給料が上昇した人が約63%という数字も、転職全般の平均と比べれば高い水準です。ただし、上昇幅までは公開されていないため、どの程度増えたかは分かりません。制度を使えば必ず年収が上がるという話ではない点は、はっきりさせておきます。
厚生労働省の教育訓練給付金との違い
学び直しの支援制度として、厚生労働省の教育訓練給付金と混同されることがよくあります。この2つは別の制度で、仕組みも条件も違います。
| 項目 | 経済産業省のリスキリング事業 | 厚生労働省の教育訓練給付金 |
|---|---|---|
| 支給先 | 補助事業者(受講者は安い価格で受講) | 受講者本人に支給 |
| 主な条件 | 在職者であること、雇用主の変更を伴う転職を目指すこと | 雇用保険の加入期間などの要件 |
| 支援の範囲 | キャリア相談、講座、転職支援を一体で | 講座の費用の一部 |
| 補助や給付の上限 | 受講費用の70%、上限56万円 | 訓練の種類による |
厚生労働省の教育訓練給付金は、訓練の種類によって給付率が変わります。中長期的なキャリア形成に資する専門実践教育訓練であれば、教育訓練経費の50%(年間上限40万円)が訓練受講中の6か月ごとに支給されます。さらに資格取得等をして訓練修了後1年以内に雇用保険の被保険者として雇用された場合は70%(年間上限56万円)まで、そのうえで訓練修了後の賃金が受講開始前と比べて5%以上上昇した場合は80%(年間上限64万円)まで引き上げられます。速やかな再就職に資する特定一般教育訓練は40%(上限20万円)、その他の一般教育訓練は20%(上限10万円)です。
2つの制度は狙いが違います。経済産業省の事業は転職までを一体で支援する仕組みで、厚生労働省の給付金は講座の費用を個人に戻す仕組みです。在職中で転職を目指しているなら前者、資格取得やスキル習得が主目的で今の会社に残る可能性もあるなら後者、という使い分けになります。
ただし、どちらの制度も個別の要件があり、自分が対象になるかどうかは事情によって変わります。教育訓練給付金の条件は厚生労働省の教育訓練給付金のページで確認したうえで、居住地を管轄するハローワークに問い合わせてください。併用の可否についても、制度の扱いを事務局や窓口に確認する必要があります。
利用するまでの流れ
実際に使うまでの手順は、公式サイトに3段階で示されています。
第1に、補助事業者を探すページへ進みます。公式サイトの転職を検討している方向けのページに、補助事業者の検索ページへのリンクがあります。
第2に、講座と事業者を検索します。希望する職種や取得したいスキルから絞り込める仕組みになっています。自分に合う分野が分からない人向けに、4つの質問に答えると職種の候補が出る診断も用意されています。
第3に、補助事業者のサイトから申し込みます。検索結果の詳細ページから各事業者のページへ移り、そこで申し込みや問い合わせを行います。
ここで確認すべきことが1つあります。公式サイトには、各補助事業者によって受講金額や負担軽減の金額は異なると明記されています。つまり、同じような内容の講座でも、事業者によって自己負担額が変わる可能性があるということです。
ですから、1社だけを見て決めないでください。複数の補助事業者を比べて、講座の内容、自己負担額、転職支援の中身の3点を並べて判断する。これが最も現実的な使い方です。比較するときは、講座の時間数と、転職支援でどの業界の求人を扱っているかを必ず聞いてください。
なお、事業者側から見ると、この事業は公募によって採択される仕組みです。2025年8月4日から9月16日正午までを公募期間とする六次公募が実施されており、応募は補助金申請システムのjGrantsを通じて行われ、gBizIDプライムの取得が必要とされています。事業者の顔ぶれは公募のたびに変わる可能性があるため、検索するタイミングによって選べる講座も変わります。
キャリア相談で何を話すのか、準備しておくこと
無料で受けられるキャリア相談は、この制度でいちばん価値のある部分だと考えられます。ただし、準備なしで臨むと「何となく話して終わった」になりがちです。事前に用意しておくとよいものを挙げます。
1つ目は、これまでの仕事を時系列で書き出したメモです。会社名、期間、担当した業務、使ったツール、関わった人数。相談の中でキャリアの棚卸しを行う設計になっているので、手元に素材があると話が早く進みます。
2つ目は、今の仕事で「やりたくないこと」のリストです。やりたいことは考えてもなかなか出てきませんが、やりたくないことはすぐ出ます。深夜の対応が多い、出張が多い、数字だけで評価される。こうした条件を先に外していくと、候補が絞れます。
3つ目は、譲れない条件の優先順位です。年収、勤務地、在宅勤務の可否、勤務時間。全部を満たす求人はまず存在しないので、何を優先するかを決めておかないと、転職支援の段階で判断が止まります。
キャリア相談では、これまでのキャリアの棚卸し、キャリアゴールの設定、スキルの棚卸し、そして自分に適したリスキリング講座の検討のサポートが受けられると案内されています。つまり、ここで講座の方向が決まるということです。相談の質が講座選びの質を決め、講座選びが転職先を決める。この連鎖を意識して臨んでください。
相談相手はキャリアコンサルタント等の専門家です。合わないと感じた場合に担当を変えられるかどうかは事業者ごとの運用によるため、気になる方は申し込む前に確認しておくとよいでしょう。
講座を選ぶときの3つの基準
講座の選択は、補助率ではなく次の3点で判断してください。
第1に、修了までにかかる時間です。在職しながら受講する前提ですから、週に何時間割けるかを先に決めて、その範囲で修了できる講座を選ぶ必要があります。公式サイトに掲載されている体験者の事例を見ると、約4か月で未経験からテック系コンサルタントへ移った例や、半年間のリスキリングを経て未経験からITエンジニアになった例があります。おおよそ4か月から6か月が1つの目安になりそうです。
第2に、転職支援で扱っている求人の分野です。この制度は講座と転職支援がセットになっているため、講座の内容がよくても、その事業者が持っている求人の分野が自分の希望と合わなければ意味がありません。申し込む前に、どの業界のどんな職種を紹介しているかを必ず聞いてください。
第3に、講座の形式です。オンラインで完結するのか、通学が必要なのか、質問できる仕組みがあるのか。在職中に受けるなら、自分の生活時間に合う形式であることが最優先です。内容がどれだけ優れていても、続けられない形式では修了できません。第1段階の補助は修了が条件ですから、途中で離脱すると補助そのものが受けられなくなります。
この3点を、複数の補助事業者について表にして比べる。手間はかかりますが、数十万円と数か月を投じる判断なので、ここは省略しないほうがよいと考えられます。
申し込みから転職までにかかる期間の見積もり
制度を使うと決めたら、全体でどのくらいの期間がかかるのかを見積もっておきましょう。段階ごとに並べると、次のようになります。
| 段階 | 目安の期間 | 在職の必要 |
|---|---|---|
| 補助事業者の比較と申し込み | 2週間から1か月 | 必要 |
| キャリア相談と講座の決定 | 数週間 | 必要(初回面談時) |
| 講座の受講と修了 | 4か月から6か月程度 | 事業者の運用による |
| 転職活動と内定 | 1か月から3か月 | 事業者の運用による |
| 転職先での継続就業の確認 | 転職から1年 | 転職先に在籍 |
第2段階の補助まで含めると、申し込みから完了まで2年近くかかる計算になります。この長さを最初に理解しておかないと、途中で「まだ終わらないのか」と感じて離脱することになります。
とくに注意したいのが、在職者であることが求められるのは登録時と初回面談時だという点です。その後に退職した場合の扱いは事業者や状況によって変わる可能性がありますので、受講中の働き方について不安がある方は、申し込む前に補助事業者と事務局に確認してください。ここは制度の条文だけでは判断できない領域です。
また、講座の受講と転職活動を同時に進めるのか、修了してから転職活動に入るのかも、事業者によって設計が違います。在職しながら両方を回すのは負担が大きいので、進め方の設計についても事前に聞いておくことをおすすめします。
制度を使う前に押さえておきたい3点
ここまでの内容を踏まえて、申し込む前に確認してほしいことを3つに絞ります。
1つ目は、転職する意思が固まっているかどうかです。この制度は転職を前提に設計されており、第2段階の補助は転職して1年間継続就業したことが条件になります。今の会社に残る可能性が高いのであれば、厚生労働省の教育訓練給付金のほうが目的に合います。
2つ目は、在職中に手続きを始められるかどうかです。登録時と初回面談時に在職者であることが条件なので、退職してからでは間に合いません。辞める前に動き出す必要があります。この順番を間違えると、制度そのものが使えなくなります。
3つ目は、自己負担額を事業者ごとに確認したかどうかです。補助の上限は決まっていますが、講座の定価は事業者が決めます。定価が高ければ、補助を受けても自己負担は大きくなります。補助率だけを見ずに、実際に自分が払う金額で比べてください。
そして、リスキリング講座の受講を経て実際に転職し、その後1年間継続的に転職先に就業すると、講座の受講費用(税別)の20%相当額(上限16万円)を追加で受け取れる仕組みです。 出典: skillupai.com
この2段階の仕組みは、受講者から見れば「最初から70%引きで受けられるわけではない」ことを意味します。事業者によって価格の設定の仕方が違うため、最終的にいくら払うのかは個別に確認するほかありません。
なぜ国がここまでやるのか
制度の背景を知っておくと、使うときの判断がぶれません。この事業の根っこにあるのは、人手が足りない分野へ人を動かしたいという政策の意図です。
事業の説明に出てくる「労働移動の円滑化」という言葉は、要するに、働く人が会社をまたいで移りやすくすることを指します。同じ会社に長くいることが前提だった働き方から、必要な技能を身につけて移っていく働き方へ。その移動の途中で生じる費用と不安を、国が一部肩代わりする。それがこの制度の構図です。
デジタル人材の育成も大きな柱になっています。AIを使った製品やサービスが次々に出てくる中で、それを使いこなす人の数が足りていない。この状況が制度の追い風になってきました。
国全体として、デジタル推進人材を「5年間で230万人育成する方針」が2022年に発表されてから、約2年が経過しようとしています。 出典: scskserviceware.co.jp
一方で、この事業の講座にデジタル分野だけでなく医療や介護・福祉、保育の分野が含まれているのは、デジタル以外にも人手が不足している領域があるからです。制度の対象分野を見れば、国がどこに人を動かしたいと考えているかが読み取れます。
この構図を理解すると、制度の使い方も見えてきます。国が人を動かしたい方向と、自分が行きたい方向が重なっているなら、制度は強い追い風になります。重なっていないなら、無理に制度に合わせず、自分で費用を出して学ぶほうが早いということもあります。補助が出るからその分野を選ぶ、という順番だけは避けてください。
対象外の人が取れる選択肢
在職者ではない方、フリーランスとして働き続けたい方、独立を目指している方は、この制度の対象外です。ではどうするか。
まず、厚生労働省の教育訓練給付金は雇用保険の加入期間が要件になるため、こちらも条件次第です。過去に雇用保険に加入していた期間がある方は、対象になる可能性がありますので、ハローワークで自分の記録を確認してみてください。個別の判断は事情によって変わるため、窓口で確認するのが確実です。
次に、自治体が独自に行っている職業訓練や学び直しの支援があります。内容は地域によってまったく違い、対象者の条件も異なります。国の制度だけを見て諦める前に、お住まいの自治体の窓口で相談してみてください。デジタル分野の講習を無料または低額で提供している自治体もあります。
制度に頼らず学ぶ道もあります。技術系であれば、比較的費用を抑えて実力を示せる資格があります。ネットワークの分野ならCCNA(シスコ技術者認定)が実務での通用度が高く、事務や文書作成の技能を証明したいならビジネス文書検定が出題範囲として整理されています。
学んだあとにどの分野へ進むかを考えるときは、報酬水準を先に見ておくと判断がぶれません。技術系の相場はソフトウェア作成者の年収・単価相場に、文章を扱う仕事の相場は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっています。仕事の中身はアプリケーション開発のお仕事やAI・マーケティング・セキュリティのお仕事といった職種ガイドで確認できます。AIの導入支援のように、業務理解と技術知識を掛け合わせる領域に関心があるならAIコンサル・業務活用支援のお仕事も見ておくとよいでしょう。
転職という選択肢を取る場合、書類の作り込みで結果が変わります。職務経歴書の書き方完全ガイド|転職成功率を上げるコツ【2026年版】に、実際に通る書き方が整理されています。
市場を20年見てきた立場からの観察
運営者としてフリーランスと在宅ワークの市場を20年見てきた立場から、制度の使われ方について気づいていることを書いておきます。
学び直しの制度を使って成果を出している人に共通するのは、講座を受ける前の段階で「誰の、どの仕事を引き受けたいのか」が決まっていることです。逆に、何を学ぶか決まらないまま補助が出る講座を選んだ人は、修了後に手が止まります。無料のキャリア相談が制度に組み込まれているのは、この順番を守らせるための設計なのだと考えられます。
運営者として見てきた限りでは、長く続く人は単発の作業をこなすのではなく、「この人に任せると楽だ」という関係を作ることに時間を使っています。スキルの習得はその入り口にすぎません。制度で講座代が安くなることより、相談を通じて自分の方向が決まることのほうが、長い目で見れば価値が大きいはずです。
お金の構造にも触れておきます。仲介手数料が差し引かれる取引では、同じ報酬額でも手元に残る金額が目減りします。手数料0%の直接取引であれば、依頼する側は同じ予算でより多くを頼め、受ける側は手取りが厚くなります。20年この市場を見てきて実感するのは、この違いは金額の大小というより、同じ仕事量に対してどれだけ残るかという質の差として効いてくる、ということです。リスキリングで単価の高い分野へ移るのと同じくらい、手取りが厚くなる取引の形を選ぶことにも意味があります。
それから、学んだことを証明する方法についても一言。講座の修了証は、転職支援の中では材料になりますが、その先の仕事の現場では「何を作れるか」のほうが見られます。講座の課題で作ったものを手元に残し、説明できる状態にしておいてください。修了証と作ったものが揃って初めて、学び直しは実績になります。
制度は道具です。対象になるなら使えばいいし、ならないなら別の道を選べばいい。大切なのは、制度に合わせて自分の進路を決めないことだと考えています。
よくある質問
Q. 経済産業省のリスキリング事業はいくら補助されますか?
講座の受講を修了すると受講費用(税別)の1/2相当額(上限40万円)、さらに受講を経て転職しその後1年間継続して就業していることが確認できると追加で1/5相当額(上限16万円)が補助されます。合計で受講費用の70%、上限56万円です。補助は個人ではなく補助事業者に支給され、受講者はその分安い価格で受講します。
Q. フリーランスや離職中でも利用できますか?
できません。サービスへの登録時とキャリア相談の初回面談時に在職者であり、雇用主の変更を伴う転職を目指していることが条件です。すでに退職している方、フリーランスとして働き続けたい方、同じ会社内での異動を考えている方は対象外になります。退職を考えている場合は、辞める前に手続きを始める必要があります。
Q. どんな講座を受けられますか?
プログラミングやWebデザインなどのデジタル分野に加えて、医療や介護・福祉、保育分野に関係する講座など、多様な講座が対象になっています。どの講座を選ぶかは、無料で受けられるキャリア相談の中で専門家と検討する流れです。講座によっては事前知識が求められる場合があるため、各事業者に確認してください。
Q. 厚生労働省の教育訓練給付金とは何が違いますか?
経済産業省の事業はキャリア相談、講座、転職支援を一体で提供する仕組みで、補助は事業者に支給されます。厚生労働省の教育訓練給付金は受講者本人に給付され、専門実践教育訓練なら経費の50%(年間上限40万円)から、条件を満たすと最大80%(年間上限64万円)まで引き上げられます。要件が異なるため、対象になるかは窓口で確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを運営。生成AIで作成した下書きを、一次情報と照らし合わせて確認したうえで公開しています。

この記事を書いた人
@SOHO編集部
フリーランス・在宅ワークの専門メディア
@SOHOは2004年から続く、日本のフリーランス・在宅ワーク向け案件サイトです。記事は生成AIで下書きを作り、数値・固有名・出典を一次情報と照らし合わせる確認の手順を経て公開しています。
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