個人事業主 不妊治療 経費|医療費控除と経費の境界線


この記事のポイント
- ✓個人事業主が不妊治療を受ける際
- ✓費用は経費にできるのか医療費控除なのか
- ✓確定申告での書き方まで客観的データで解説します
個人事業主として働きながら不妊治療を受けている方から、「治療費は経費に計上できますか?」という相談を受けることが増えています。結論から言うと、不妊治療費は事業の経費にはならず、確定申告の医療費控除で取り戻すのが正解です。ただし、保険適用と自由診療の混在、助成金との関係、家族分の合算など、論点が多い領域でもあります。この記事では、個人事業主が不妊治療と仕事を両立するうえで知っておくべき税務の判断軸と、実務での申告手順を整理しました。
なぜ不妊治療費は「経費」ではなく「医療費控除」なのか
最初に押さえておきたいのは、所得税法上の「必要経費」と「医療費控除」の根本的な違いです。必要経費とは、事業所得を得るために直接必要な支出を指します。たとえば打ち合わせ用のカフェ代、業務で使うソフトウェアのサブスク料金、取引先への手土産代などが該当します。一方、不妊治療は事業ではなく「治療を受ける本人」のための支出であり、事業活動との直接的な対応関係がありません。
つまり、どれだけ高額な治療を受けても、事業の損益計算書に「医療費」という勘定科目で計上することはできません。これは病気の治療や歯科治療と同じ扱いで、フリーランスや個人事業主であっても給与所得者と同じく「医療費控除(所得控除)」のルートで処理することになります。
医療費控除は、年間の医療費が10万円(または総所得金額等の5%のいずれか低い方)を超えた場合に、超過分(最大200万円まで)を所得から差し引ける制度です。所得から控除されるため、所得税と住民税の両方で負担が軽くなります。ここを「事業の経費にした方が得そう」と勘違いして、開業届を出した直後の個人事業主が顧問税理士に指摘されるケースは正直なところ少なくありません。
不妊治療は医療費控除の対象となります。医療費控除とは、治療にかかった費用(10万円以上)を確定申告で申請することで、所得税の負担を軽減できる制度です。2022年から不妊治療が保険診療となり、さらに医療費控除の制度を利用することで、費用負担を軽減することが可能となりました。ただし、不妊治療に関連するすべての費用が控除の対象となるわけではありません。申請の際には、対象となる費用を事前に確認することが大切です。
2022年4月から人工授精・体外受精・顕微授精などの基本治療が公的医療保険の適用対象になったことで、自己負担は原則3割になりました。それでも自由診療の併用や通院回数が増えれば年間数十万円から100万円超の自己負担になることもあり、医療費控除を確実に取りに行く意味は大きいといえます。確定申告はe-Taxを使えば自宅から完結します。詳細はe-Taxの利用案内を確認してください。
個人事業主の不妊治療と仕事の両立、マクロな現状
厚生労働省の調査によると、不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は4.4組に1組とされています。働きながら治療を受ける人の割合も増えており、通院頻度の高さから、会社員であれば有給休暇や時間単位休暇の取得、テレワークの活用などで凌ぐケースが一般的です。
ただし個人事業主の場合、有給休暇という概念がなく、通院した時間はそのまま売上機会の喪失に直結します。とくに採卵周期や移植周期は短期間に複数回の通院が必要となるため、納期がタイトな案件と重なるとスケジュール調整がかなりシビアになります。
加えて、フリーランスは収入の上下が大きいため、医療費がかさむ年と売上が落ち込む年が重なると家計へのインパクトが大きくなります。傾向としては、治療開始の数年前から事業のストック収入(継続案件・サブスク的な顧問契約・印税など)を意識的に増やしておくと、通院期間の所得安定に効きます。在宅で完結する仕事を中心に据えるのも有効な戦略で、たとえば著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、ライティング・編集職は単価レンジが広く、稼働量の調整余地があることが分かります。
通院日の付帯コストも見過ごせません。クリニックまでの交通費、待ち時間に発生する託児代わりのコワーキング利用料、注射のために早朝・夜間に通う際のタクシー代など、間接的な出費は積み上がります。これらは原則として事業の経費にはならず、後述する医療費控除の対象になるかどうかも費目ごとに判定が必要です。
不妊治療費のうち、医療費控除の「対象になるもの」
国税庁の通達と各クリニック・税理士事務所の解説を総合すると、医療費控除の対象となる不妊治療関連の費用は以下のように整理できます。
タイミング法、人工授精、体外受精、顕微授精といった一般的な治療行為の自己負担分は、保険診療・自由診療を問わず控除対象です。検査費用(精液検査、子宮卵管造影、ホルモン検査、AMH検査など)も医師の診療や治療のために行われたものであれば対象となります。投薬(排卵誘発剤、黄体ホルモン剤、点鼻薬など)の処方箋に基づく薬代も同様です。
通院のための公共交通機関の交通費(電車・バス)は、家族の付き添いも含めて対象になります。これは領収書が出ないので、家計簿アプリやスプレッドシートで通院日・経路・金額を記録しておくのが実務的です。マイカー通院のガソリン代や駐車場代は原則として対象外、タクシー代は公共交通機関の利用が難しい場合(深夜・早朝・体調不良時など)に限って対象となります。
注射のための通院、採卵・移植の費用、麻酔代、入院費(部屋代・食事代の基本部分)、不妊治療と並行して行われた漢方薬の処方料(医師の指示によるもの)なども対象です。先進医療として認定されているPGT-A(着床前胚染色体異数性検査)やタイムラプス、SEET法、ERA検査などについては、保険診療と併用できる範囲では先進医療部分が自己負担となりますが、これも医療費控除の対象になります。
医療費控除の「対象外」になる費用に注意
一方で、対象外となる費用も明確にあります。実務でよく混同されるのは次のような項目です。
健康増進・体調管理のためのサプリメント、ビタミン剤、葉酸サプリ、健康食品は基本的に対象外です。鍼灸・マッサージは、医師の指示や治療目的が明確で、医療類似行為として認められる場合のみ対象になります。一般的なリラクゼーション目的では対象になりません。
差額ベッド代(個室を希望して入院した場合の追加料金)、入院中の特別な食事サービス、見舞客用の飲食物などは対象外です。診断書の作成費用や、保険会社へ提出するための証明書発行料も、原則として治療費そのものではないため対象になりません。
クリニックまでの自家用車のガソリン代・駐車場代・有料道路代は対象外です。これは「治療のための通常の交通手段」と認められないためで、私の周りでも「自分の車で通っていたのでガソリン代を医療費控除に入れていた」というケースで税務署から指摘を受けた話を聞いたことがあります。
不妊治療と直接関係のないオプション検査、美容目的の処置、生殖補助医療の卵子凍結のうち「将来の妊娠のための備え」として行う社会的適応のもの(医学的適応の卵子凍結は対象になる場合あり)も注意が必要です。判断に迷う場合は、クリニックの会計窓口で「これは保険診療か自由診療か」「医療費控除の対象となる治療か」を都度確認しておくと、確定申告時に整理が楽になります。
医療費控除でいくら戻ってくるか、計算方法と試算
医療費控除の計算式は次のとおりです。
「(その年に支払った医療費の合計)−(保険金などで補填された金額)−(10万円または総所得金額等の5%のうち低い方)= 医療費控除額」
控除額は所得から差し引かれるため、実際に戻ってくる金額(還付額)は、控除額に「所得税率+住民税率(10%)」を掛けた金額になります。所得税率は課税所得によって5%〜45%まで段階的に上がるため、所得が高い人ほど還付額が大きくなる仕組みです。
例として、「年間医療費30万円、保険金等で補填される金額10万円の場合」の実際の医療費控除額を試算してみましょう。
具体例で見てみましょう。課税所得400万円の個人事業主が、年間で不妊治療費を含めて80万円支払い、助成金や保険金等で10万円の補填を受けたケースを想定します。
医療費控除額は「80万円 − 10万円 − 10万円 = 60万円」。所得税率20%+住民税率10%の合計30%を掛けると、節税効果は18万円になります。所得税の還付として約12万円、住民税の翌年度減額として約6万円、というイメージです。
ここで重要なのは、医療費控除は生計を一にする家族全員分を合算できるという点です。配偶者やお子さん、同居の親の医療費をまとめて、最も所得税率の高い人が申告するのが基本セオリーです。共働き夫婦で配偶者が会社員、本人が個人事業主の場合、どちらの所得が高いかを試算した上で申告者を決めるのが合理的です。
なお、課税所得が200万円未満の場合は、10万円ではなく総所得金額等の5%が控除のしきい値になります。所得が落ち込んだ年に医療費がかさむと、しきい値が下がる分、医療費控除を取りやすくなる仕組みです。
助成金・両立支援等助成金との関係
不妊治療に関する公的支援は2022年の保険適用拡大で大きく変わりました。かつての特定不妊治療費助成金(国の制度)は原則として廃止され、保険診療への移行が進んでいます。ただし、自治体独自の助成金は依然として継続しており、東京都の不妊検査等助成事業はその代表例です。
保険医療機関にて行った不妊検査及び一般不妊治療に要した費用(保険薬局における調剤を含みます。)について、 5万円を上限 に助成します。 ・ 助成回数は夫婦1組につき、1回 に限ります。 ・保険医療機関とは、保険診療を行う病院・診療所です。 ・保険薬局とは、保険診療に基づいて医師の出す処方箋に従い調剤を行う薬局です。 ・ 申請には期限があります。
このように、自治体ごとに対象範囲、上限額、申請期限、所得要件などが異なります。お住まいの自治体の母子保健担当課や福祉局のサイトで最新情報を確認してください。先進医療部分への助成、保険適用外の治療への独自助成、年齢制限の緩和などを設けている自治体もあります。
ここで税務上の注意点があります。助成金を受け取った場合、その金額は「保険金などで補填される金額」として、医療費控除を計算する際に医療費の合計から差し引く必要があります。たとえば年間80万円の治療費に対して10万円の助成金を受けたなら、医療費控除の計算上は70万円から10万円のしきい値を引いた60万円が控除対象、という流れです。
なお、厚生労働省の両立支援等助成金(不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース)は、不妊治療と仕事の両立に取り組む「事業主」に対する助成金で、個人事業主本人が治療目的で受け取れるものではありません。ただし、従業員を雇用している個人事業主が、従業員の不妊治療支援のために制度を整えた場合は対象になり得ます。自分の事業規模で適用可能か、社会保険労務士に確認しておく価値はあります。
確定申告での書き方と必要書類、5年遡及のチャンス
医療費控除を受けるには、確定申告書に「医療費控除の明細書」を添付します。2017年分以降は、領収書の現物添付が不要となり、明細書の提出だけで足りるようになりました(ただし領収書は5年間保管する必要があります)。
明細書には、医療を受けた人ごと・医療機関ごとに、支払った医療費の合計額と、保険金などで補填される金額を記入します。健康保険組合や協会けんぽから送られてくる「医療費通知(医療費のお知らせ)」を使えば、記入の手間が大幅に省けるので積極的に活用してください。
実務的な手順としては、(1)1月から12月までの治療費の領収書を月別・医療機関別に整理する、(2)通院のための交通費を日付・経路・金額でメモにまとめる、(3)助成金や保険金の入金記録を整理する、(4)家族全員分の医療費を合算する、(5)e-Taxまたは確定申告書作成コーナーで明細書を作成する、という流れになります。
ここで覚えておきたいのが、医療費控除は過去5年分まで遡って申告できるという点です。「前年は確定申告で医療費控除を入れ忘れた」「数年前にまとまった治療費を払ったのに申告していなかった」という場合、今からでも「更正の請求」または「還付申告」で取り戻せます。
筆者が運用している例では、開業から数年経った個人事業主の方が、過去にさかのぼって医療費通知を集め直し、5年分の医療費控除をまとめて還付申告したケースがありました。事務作業は煩雑ですが、トータルで数十万円の還付が出ることもあるため、思い当たる方は税務署か税理士に相談してみることをおすすめします。詳細な手続きは国税庁のサイトに案内があります。
セルフメディケーション税制との選択、どちらが有利か
医療費控除には、特例として「セルフメディケーション税制」があります。これは、健康診断や予防接種など「健康の維持増進および疾病の予防への取組」を行っている人が、対象のOTC医薬品(スイッチOTC等)を年間1万2,000円超購入した場合、その超過分(上限8万8,000円)を所得控除できる制度です。
通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか選べません。不妊治療を受けている年は、医療費の自己負担が10万円を超えることが多いため、通常の医療費控除を選ぶ方が有利になるケースが大半です。ただし、治療を一旦中断している年や、保険適用で自己負担が大きく下がった年などは、セルフメディケーション税制の方が有利になる可能性もあります。両方を試算してから選ぶのが鉄則です。
確定申告ソフトを使えば、自動でどちらが有利か判定してくれる機能があるので、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを活用すると判断が楽になります。
個人事業主が治療と仕事を両立するための実務的な工夫
通院スケジュールが読みにくい時期は、案件の受け方を意識的に調整することが重要です。納期の柔軟性が高い継続案件、在宅で完結する業務、自分のペースで進められるストック型の仕事を中心に据えるのが現実的な戦略になります。
スキル面でも、対面打ち合わせが必須の業種から、リモート完結型の業種へシフトすることで通院との両立がしやすくなります。たとえばAI・マーケティング・セキュリティのお仕事はリモート完結型の案件比率が高い分野です。データ分析、コンテンツマーケティング、SEO支援などはオンライン会議とドキュメント納品で完結することが多く、通院日の前後でも稼働を組みやすい傾向があります。
アプリケーション開発のお仕事も同様で、GitHub上のコードレビュー、Slackでのコミュニケーション、リモートデプロイで完結する開発体制が一般的です。エンジニア職の単価相場についてはソフトウェア作成者の年収・単価相場に詳細データがあります。
また、生成AIの登場で、ライティング・編集・調査業務の生産性が大きく変わりました。通院待ち時間にAIで下書きを作り、自宅で仕上げる、というワークフローを構築できれば、稼働時間の制約があっても売上を維持しやすくなります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事は、まさにそのノウハウを企業に提供する仕事として急成長している分野です。
長期的に治療と仕事を続けるなら、収支管理を強化することも欠かせません。同じ個人事業主向けの節税知識として個人事業主 節税 2026 テクニックも併せて読むと、医療費控除以外の節税策(小規模企業共済、iDeCo、経営セーフティ共済など)と組み合わせた最適化が見えてきます。
住宅購入を検討しているケースでは、収入の安定性が審査に直結します。治療開始前に住居を整えておきたいという方は個人事業主 住宅ローン 審査 通りやすいも参考になります。ふるさと納税についても、医療費控除を入れることで控除限度額が変わるため、ふるさと納税 上限額 個人事業主で計算ロジックを確認しておくと安心です。
特に文章作成・編集系、Webデザイン、コーディング、データ入力、オンライン秘書、SNS運用代行などのカテゴリーは、在宅で完結する案件が中心です。通院日は半日稼働、その他の日にまとめて作業、というスタイルも組みやすくなっています。
スキル証明の観点では、ビジネス文書検定などの汎用資格は、文章系の在宅案件を受注する際の信頼性を高めます。技術系であればCCNA(シスコ技術者認定)のようなインフラ系資格も、在宅対応可能な保守運用案件で評価されやすい傾向があります。
治療と仕事を両立する上で本当に大事なのは、「無理なく続けられる収入構造を作ること」と「税制度を最大限活用して手取りを守ること」の2点に尽きます。医療費控除は確定申告のタイミングで取り戻す制度ですが、日々の領収書整理と通院記録の習慣化が、いざ申告するときの精度を決めます。クラウド会計ソフトの医療費入力機能や、専用のレシート管理アプリを使って、月次で締める運用に切り替えることをおすすめします。
よくある質問
Q. 2026年に医療費控除を忘れずにやる最大のメリットは何ですか?
「住民税の劇的な軽減による、手取りキャッシュの増加」です。医療費控除を行うと、今年の所得税が還付される(春にお金が戻る)だけでなく、翌年6月以降に納める「住民税(一律10%)」の金額が確実に安くなります。フリーランスにとって重くのしかかる翌年の固定費(税負担)を削れることが、精神的にも財務的にも最大のメリットです。
Q. 医療費控除とセルフメディケーション税制、結局どっちがおすすめですか?
基本的には「医療費総額が10万円(または所得の5%)を超えるかどうか」が最初の分岐点です。超える場合は、診療費も含められる「医療費控除」の方が得になるケースが大半です。超えないけれど、薬局で買った対象の市販薬が1万2,000円を超えるなら、迷わず「セルフメディケーション税制」を選択しましょう。
Q. 予防接種や健康診断の費用は医療費控除に含まれますか?
原則として、病気の「治療」ではないため医療費控除の対象外です。ただし、健康診断の結果、重大な病気が見つかり、引き続き治療を行った場合には、その診断費用も治療費の一部として控除対象に含めることができます。一方、セルフメディケーション税制では、これらの費用自体は控除できませんが、制度を利用するための「一定の取組」の証明として活用します。
Q. 節税のために、とにかく経費を増やせばいいのでしょうか?
経費を増やすと利益が減り、税金は安くなりますが、手元の現金(キャッシュ)も減ってしまいます。不必要なものを買うのは本末転倒です。「事業の成長につながる投資」としての支出かどうかを基準に判断しましょう。
Q. 領収書やレシートは申告時に提出する必要がありますか?
いいえ、提出の必要はありません。ただし、青色申告の場合は7年間(一部書類は5年間)の保存義務があります。税務調査が入った際に提示できるよう、整理して保管しておきましょう。
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この記事を書いた人
朝比奈 蒼
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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