鍼灸師を辞めたいと思ったとき|立ち止まって確かめる順番


この記事のポイント
- ✓鍼灸師を辞めたいと感じたときに確かめる順番を整理しました
- ✓業界内で移る道と外へ出る道
- ✓それぞれの現実的な条件をまとめています
結論から書きます。「鍼灸師を辞めたい」と思ったとき、最初にやるべきは求人を探すことではありません。辞めたい理由を分解することです。
理由を分解しないまま動くと、辞めた先で同じ壁にぶつかります。収入が理由なら職場を変えれば解決するかもしれませんが、身体が理由なら業務内容を変えないと意味がない。人間関係が理由なら、次の職場でも同じことが起きる可能性を潰しておく必要があります。この記事では、辞めたい気持ちを4つに分解して、それぞれに対して現実的な選択肢を並べます。感情ではなく条件で判断できる状態を作るのが目的です。
「辞めたい」の中身は、だいたい4つに分かれる
相談や体験談を並べていくと、鍼灸師が辞めたいと感じる理由は次の4つに集約されます。
1つ目は、収入です。 施術は1日にこなせる人数に上限があるため、単価と歩合の条件が悪いと、腕を上げても収入が伸びません。年数を重ねても待遇が変わらないことに気づいた時点で、辞めたい気持ちが生まれます。
2つ目は、身体です。 手指、手首、腰。施術を続けるほど負担が蓄積します。「あと10年このペースで続けられるだろうか」という問いが浮かんだとき、多くの人が進路を考え始めます。
3つ目は、人間関係と職場の体制です。 労働時間の記録がない、研修が時間外で無給、指導が属人的で説明がない。こうした環境の問題が、人間関係の問題として表面化することがあります。
4つ目は、仕事の中身です。 施術がしたくて資格を取ったのに、実際は集客や物販の比重が大きい。あるいは、想像していた症例と違う。理想と現実のずれです。
この4つは、解決策がまったく違います。1つ目と3つ目は職場を変えれば解決する可能性が高い。2つ目は業務内容そのものを変える必要がある。4つ目は、業界を出るか、領域を変えるかの判断になります。
まず紙に書き出して、自分がどれに当てはまるのかを確かめてください。複数該当する場合は、優先順位をつける。全部を同時に解決しようとすると、どの選択肢も中途半端に見えてきます。
離職率のデータから、自分の立ち位置を確かめる
「この業界は離職率が高いから、自分が続かないのも当然だ」と考える人がいます。逆に「みんな続けているのに自分だけ辞めたがっている」と思い込む人もいます。どちらも、データを見ずに感覚で判断しています。
今、鍼灸師を目指しているけれど離職率は高いのではないか、あるいは鍼灸師として就職したけれど辞めたいと不安に思うこともあるかもしれません。実際にはどの業界でも3割ほどは離職しており、鍼灸師の離職率だけが際立って高いということではなさそうです。 出典: kurohon.jp
正直なところ、この指摘は重要です。鍼灸師の離職を「業界特有の問題」として語る記事は多いのですが、他の業界と並べると、際立って高いわけではないという整理になります。
ここから読み取るべきことは2つあります。1つは、辞めたいと感じること自体は特別ではないということ。もう1つは、業界のせいにしても解決しないということです。同じ業界の中に、続いている人も辞める人もいる。その差は、業界そのものではなく、職場と働き方の設計にあります。
つまり、「鍼灸業界だからダメだ」という結論に飛ぶ前に、「いまの職場だからダメなのか、施術という仕事そのものが合わないのか」を切り分ける必要があるということです。この切り分けができていない状態で異業種に出ると、資格を活かせないまま数年が経ってから後悔することになります。
収入が理由なら、報酬の決まり方を分解する
収入で悩んでいる場合、まず確かめるのは金額ではなく、金額の決まり方です。
チェックする項目は次の通りです。
- 基本給と歩合の比率はどうなっているか
- 歩合の分母は何か(総売上か、手技の売上のみか、材料費を引いた後か)
- 歩合の率が変わる条件はあるか
- みなし残業が基本給に含まれていないか。含まれるなら何時間分か
- 賞与の支給条件は明示されているか
- 昇給の判断基準は何か
- 朝の準備、片付け、研修は労働時間に含まれるか
この7項目を書き出すと、いまの収入がどこで頭打ちになっているのかが見えます。歩合の率が低いのか、そもそも売上が伸びないのか、労働時間が長すぎて時給換算で沈んでいるのか。原因によって、次にやることが変わります。
歩合の率が低いだけなら、同じ業界内で条件のよい職場に移れば改善します。売上そのものが伸びないなら、来院数の多い職場か、保険の取扱いがある事業所を検討する。労働時間が長すぎるなら、業務範囲の狭い職場を選ぶ。
もう1つ、他業種の相場を知っておくことも判断材料になります。文章まわりの仕事の水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、技術系の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場に職種別のデータがまとまっています。異業種に出るかどうかを考えるとき、「隣の芝生」を感覚ではなく数字で見ておくと、判断を誤りません。
年収の話を、感情抜きで組み立てる
年収の不満は、金額の絶対値より「上がる見通しがあるかどうか」で決まります。同じ年収でも、3年後に上がる道筋が見えていれば人は続けますし、見えなければ辞めたくなる。ここを分けて考えてください。
見通しを作る道は、大きく4つあります。
1つ目は、歩合の比率が高い職場に移ることです。 基本給が低くても歩合の率が高い職場は、来院数が伸びれば収入が伸びます。ただし、来院数は自分の努力だけで決まるわけではありません。立地、広告、既存の患者数といった、職場側の条件に強く左右されます。面接では「いま在籍している施術者の平均的な担当人数」を聞いてください。歩合の率だけを見て移ると、分母が小さくて結局伸びない、ということが起きます。
2つ目は、保険の取扱いがある事業所に移ることです。 自費のみの施術所と、保険の取扱いがある事業所では、収入の安定性が変わります。ただし、施術に関する保険の取扱いには複数の要件と手続きがあり、内容は見直されることもあります。詳細は厚生労働省の案内や、加入している保険者の説明で確認してください。事務作業の量も事業所によって大きく違うので、面接で必ず聞いておきたい項目です。
3つ目は、管理側に回ることです。 店長や施設の管理者、教育担当。施術の時間が減るぶん身体の負担も減り、役割に応じた手当が付く場合があります。ただし、責任の範囲が広がるので、労働時間が伸びる職場もあります。ここは求人票では分からないので、現任者の働き方を聞いてください。
4つ目は、収入源を分けることです。 施術一本で収入を伸ばそうとすると、稼働時間の上限が天井になります。執筆、監修、講師、事務代行といった、身体を使わない収入を並行して持つと、天井の位置が変わります。
この4つのうち、どれを選ぶかは、いま抱えている理由によって変わります。身体の負担が理由なら1つ目は逆効果ですし、施術を続けたいなら3つ目は物足りない。年収の話は、単独で解くのではなく、他の3つの理由と組み合わせて解いてください。
身体が理由なら、業務内容を変えるしかない
身体の負担で悩んでいる場合、職場を変えるだけでは解決しないことが多い。同じ業務内容なら、どこへ行っても同じ負荷がかかるからです。
現実的な選択肢は3つあります。
1つ目は、1日あたりの施術数が少ない職場に移ることです。 自費中心の施術所は、1人あたりの時間を長く取るぶん、担当人数が減ります。回転の速い現場から移ると、身体の負担は明確に軽くなります。ただし、集客に関わる業務が増えることが多いので、そこは織り込んでおいてください。
2つ目は、施術以外の比重が大きい職務に移ることです。 介護保険領域の機能訓練の担当者は、施術というより運動指導と計画書の作成が中心になります。訪問系でも、事業所によって1日の件数はかなり違います。なお、どの資格でどの職務に就けるかは制度上の要件が定められており、改定もあるため、応募前に厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/)の情報と、事業所の所在する自治体の窓口で確認してください。
3つ目は、施術から離れて資格と経験を使う道です。 受付や事務、教育、執筆、監修。身体を使わずに、現場を知っていることが価値になる仕事はあります。
避けたいのは、身体が理由なのに「もっと稼げる職場」を探してしまうことです。稼げる職場はたいてい担当人数が多いので、負担が増えます。理由と対策がずれていると、辞めても状況は悪化します。
人間関係と体制が理由なら、環境の問題を切り分ける
人間関係で辞めたくなったとき、多くの人は「相性の問題」として片付けようとします。ですが、よく聞いていくと、体制の問題であることが少なくありません。
体制の問題とは、たとえばこういうものです。
- 業務の手順が言語化されておらず、指導が人によって違う
- 労働時間の記録がなく、残業の実態が把握されていない
- 評価の基準が示されないまま、待遇が決まる
- 相談する窓口がなく、問題が個人の関係の話になる
この4つがある職場では、誰が相手でも同じ摩擦が起きます。つまり、特定の人が問題なのではなく、問題が起きたときに調整する仕組みがないということです。
ここを見極めるのは重要です。人の問題なら、その人が辞めれば解決する可能性があります。体制の問題なら、待っても解決しません。判断の目安は、直近1年でどれだけ人が入れ替わったかです。入れ替わりが激しいなら、個人の相性ではなく構造の問題である可能性が高い。
なお、労働条件が書面で示されない、労働時間が記録されていないといった状態は、待遇の交渉以前の問題です。個別の未払いなどが絡む場合は、労働基準監督署や専門家への相談を検討してください。
仕事の中身が理由なら、領域を変える手がある
「思っていた仕事と違った」という理由は、実は最も打ち手が多い。鍼灸師が働く現場は、想像以上に幅があるからです。
- 自費中心の鍼灸院(施術時間が長く、技術を深めやすい)
- 整骨院や接骨院(来院数が多く、症例の数をこなせる)
- 訪問鍼灸マッサージ事業所(高齢の利用者が中心。記録とリスク管理が重要)
- デイサービスや介護施設(機能訓練の担当。運動指導と計画書が中心)
- スポーツ、美容、産前産後などの専門領域(対象を絞った施術)
- 医療機関の関連施設(他職種との連携と、厳密な記録)
いま辞めたいと感じている職場が、この中の1つに過ぎないことを確認してください。整骨院の回転の速さが合わないだけで、自費の施術所なら続く人はいます。逆に、1人で向き合う時間が長いのが苦痛なら、チームで動く現場のほうが合う。
実際の求人でも、専門領域を学べることを前面に出した募集があります。産前産後や美容の施術を扱う現場では、経験者を対象にしつつ、その分野は未経験でも学べる形の募集が出ています。領域を変えることは、キャリアの断絶ではなく、専門の再設定です。
辞める前に、必ず確かめる5つの数字
感情が強いときほど、数字を出してください。これをやるかどうかで、辞めたあとの安定感がまったく変わります。
1つ目は、実質の時給です。 年間の手取りを、年間の総労働時間で割ります。総労働時間には、朝の準備、片付け、研修、移動を含めてください。この数字が、いまの職場の本当の条件です。
2つ目は、生活に必要な月額です。 家賃、食費、光熱費、通信、保険、税。最低いくらあれば回るのかを出します。ここが分かっていないと、次の職場の条件を判断できません。
3つ目は、貯蓄で何か月持つかです。 転職活動の期間や、収入が下がる期間を支える体力です。目安が分かると、焦って決めることが減ります。
4つ目は、いまの職場で改善を要求した場合の余地です。 歩合の見直し、勤務日数の調整、業務範囲の変更。要求したことがないなら、辞める前に一度は話してみる価値があります。断られたなら、それも判断材料です。
5つ目は、移行にかかる期間です。 別の領域に移るなら研修が要りますし、異業種なら学習の時間が要ります。何か月を投資として使えるのかを決めておきます。
この5つを出したうえで、それでも辞めるという結論になるなら、その判断は感情ではなく条件によるものです。
異業種に出るという選択と、その現実
鍼灸師の資格を持ちながら、異業種に出る人もいます。逆に、異業種から鍼灸の世界に入って、また戻る人もいます。ここは、綺麗事なしで書きます。
実際に、こういう投稿があります。
鍼灸師42歳です。 今年の3月に20年間勤めたIT会社を退職して、鍼灸接骨院で働いています。 年収は900万から300万円に激減しました。 生活が苦しいので転職を考えています。 IT企業に就活したところ、前職と同程度の年収で内定をもらいました。 でも鍼灸にも興味があるので、今の勤め先に日曜だけ働かせて貰えないか、 と考えています。 実際、土日に鍼灸需要があり、土日に出れる鍼灸師が... 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
これは個人の投稿であり、この金額が鍼灸師やIT職の相場を示すものではありません。ただ、示唆的なのは、この方が出した結論です。どちらか一方を選ぶのではなく、収入の柱を本業に置き、鍼灸を週末に残すという設計に向かっている。
正直なところ、この発想は多くの人が見落としています。「辞める」か「続ける」かの二択で考えると、どちらを選んでも失うものが大きくなる。ですが、比率を変えるという第3の選択肢があります。週5日の施術を週3日にして、残りを別の仕事にあてる。あるいは逆に、別の仕事を主にして、施術を週末だけ残す。
資格は失効しないので、比率はあとから何度でも変えられます。ここを知っているかどうかで、辞めるという決断の重さが変わります。
施術以外に、資格と経験を活かす道
辞めたいと考えている人が見落としがちなのが、施術以外で資格と経験が価値になる仕事です。
- 健康や身体に関する記事の執筆と監修
- 養成校や講座の教材づくり、講師
- 施術所向けの事務代行や、書類作成の支援
- 施術所の運営管理、店舗の立ち上げ支援
- オンラインでの相談対応
こうした仕事は、身体の仕組みを一般の人に分かる言葉で説明できる人でないと成立しません。専門用語を正確に扱えて、なおかつ噛み砕ける人は、実は多くない。ここは、資格職の強みがそのまま出る領域です。
こうした仕事に踏み出すとき、最初のハードルは技術ではなく、書類とやりとりの型です。文書の基本を体系的に確認できるビジネス文書検定のような資格ガイドは、施術以外の仕事に手を伸ばすときの共通言語を整えるのに使えます。オンラインでの打ち合わせが前提になる仕事も多いので、ツールの使い分けを整理したZoom・Teams・Google Meetを比較|フリーランスの打ち合わせに最適なのは?【2026年版】も、始める前に一度目を通しておくと戸惑いが減ります。
同じ論点は、他の職種でも扱われています。
本記事では、鍼灸師をやめたいと感じる理由や、筆者が実際に同業者に聞いた「やめてよかったポイント」「後悔するかもしれないポイント」などのほか、さらに筆者のリアルな開業経験なども紹介します。 出典: co-medical.mynavi.jp
辞めた人の話を読むときは、「やめてよかった点」と「後悔するかもしれない点」の両方が書かれているものを選んでください。片方しか書いていない情報は、判断材料としては使えません。
開業を選択肢に入れるなら、確かめること
「雇われているのが嫌だから独立する」という動機で開業すると、たいてい苦しくなります。開業は、雇用の不満から逃れる手段ではなく、別の種類の負担を引き受ける選択だからです。フェアに、両面を書きます。
開業で得られるのは、施術の方針を自分で決められること、働く時間を自分で組めること、そして売上がそのまま自分の判断の結果として返ってくることです。中間の取り分が乗らないぶん、同じ施術でも手元に残る割合は変わります。
引き受けることになるのは、集客、経理、税務、保険、清掃、備品の管理、そして予約が入らない日の不安です。施術以外の時間が想像以上に長く、開業してから「施術している時間が1日の半分もない」と気づく人は少なくありません。
判断のために確かめたいのは、次の5点です。
- 開業に必要な資金と、そのうち自己資金がいくらか
- 売上がゼロでも生活が回る期間はどれくらいか
- 集客の手段を、雇われているあいだに1つでも試したことがあるか
- 施術以外の業務(経理、書類、広告)を、誰がやるのか
- いまの雇用契約に、競業避止や退職後の制約がないか
このうち3番目が要です。集客をやったことがない状態で開業すると、技術があっても人が来ません。雇われているあいだに、施術所のSNS運用や紹介の仕組みづくりに関わっておくと、開業後の立ち上がりがまったく違います。逆に言えば、集客に一度も関わったことがないなら、いまの職場でそこを経験してから独立するほうが安全です。
また、開業に関わる手続きや、事業を始めるときに使える公的な支援制度は、地域や時期によって内容が変わります。日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/)や中小企業庁(https://www.chusho.meti.go.jp/)の案内で、最新の情報を確認してください。この記事で断定的に書くべき性質のものではありません。
お金をかけずに、次を探す方法
辞めるかどうか迷っている段階では、費用をかけずに情報を集めるのが合理的です。無料で使える手段を並べます。
求人媒体で相場を見る。 応募しなくても、条件を読み比べるだけで自分の待遇の位置が分かります。同じ地域の同じ職種で、歩合の率や勤務時間がどう書かれているかを10件ほど並べてください。それだけで、いまの職場が相場のどこにいるかが見えます。
紹介サービスの面談を受ける。 応募を前提にしなくても、面談だけ受けることはできます。担当者が医療や介護の資格職に詳しいかどうかは、歩合の計算式や保険取扱いについて質問すれば分かります。即答できない担当者は、求人票以上の情報を持っていません。
職場見学に行く。 見学は応募の意思表示ではありません。1時間で、求人票からは読み取れない情報が手に入ります。施術スペースの広さ、記録の方式、スタッフ同士の会話のトーン。ここで違和感があれば、応募しなければよいだけです。
公的な就労相談の窓口を使う。 職業相談や求人の紹介は無料で受けられます。利用できる支援の内容は地域や時期によって異なるので、お住まいの自治体の案内で確認してください。
勉強会や研究会に出る。 他院で働く人と話すと、自分の職場の常識が業界の常識ではないことに気づきます。これがいちばん効きます。
こうした行動は、辞めることを決めていなくてもできます。むしろ、決める前にやるべきものです。情報がない状態で決めた結論は、たいてい感情に引っ張られています。
辞めたい気持ちが強いときに、やらないほうがよいこと
3つ挙げます。どれも、あとから取り返しがつきにくいものです。
1つ目は、感情のピークで退職を口にすることです。 衝突の直後に伝えると、条件の交渉ができなくなります。引き継ぎの計画も作れず、円満に終われません。伝えるのは、次の見通しと引き継ぎ案を用意してからにしてください。2週間置いても気持ちが変わらないなら、それは状況による判断です。
2つ目は、次を決めずに勢いで辞めることです。 収入が途切れると、次の職場を条件ではなく速さで選んでしまいます。その結果、同じ理由でまた辞めることになる。貯蓄で何か月持つかを先に出しておけば、この失敗は避けられます。
3つ目は、業界そのものを否定して考えるのをやめることです。 「この業界はもうダメだ」という結論に飛ぶと、そこで思考が止まります。実際には、同じ業界の中に続いている人がいて、その差は職場と働き方の設計にある。業界を主語にするのではなく、自分の条件を主語にしてください。
もう1つ付け加えるなら、SNSや掲示板の書き込みだけで判断しないことです。不満を持つ人ほど発信するので、そこに集まる情報は偏ります。判断材料にするなら、良かった点と後悔した点の両方が書かれているものを選んでください。
辞めると決めたときの、実務の手順
決断したあとは、実務です。順番を間違えると余計な負担が生まれます。
- 就業規則で、退職の申し出の時期を確認する
- 契約書と誓約書を読み返す(競業避止や研修費用の返還の取り決めがないか)
- 退職の意思を伝える。引き継ぎの計画を先に作って持っていく
- 有給休暇の残日数を確認し、消化の計画を立てる
- 離職票、雇用保険被保険者証、源泉徴収票の受け取りを確認する
- 健康保険と年金の切り替えを手配する(次が決まっていない場合は特に)
2番目は、飛ばさないでください。退職後に近隣で開業する予定がある場合、競業避止の条項の有無で動き方が変わります。こうした条項が常に有効になるわけではありませんが、揉める材料にはなります。開業を具体的に考えているなら、契約書を持って専門家に相談してから動くのが安全です。
6番目も見落としが多い。退職日と入職日のあいだが空くと、その期間の健康保険をどうするかを自分で選ぶ必要があります。選択肢ごとに手続きの期限が違うので、退職日が決まった時点で日本年金機構(https://www.nenkin.go.jp/)や市区町村の窓口で確認してください。
そして、患者情報は持ち出さない。これは徹底してください。担当していた患者に個人的に連絡を取る行為は、秘密保持の面でも個人情報の面でも問題になります。気持ちは分かりますが、ここで線を越えると、その後のキャリア全体に影響します。
次の職場を絞るときの、優先順位のつけ方
候補が複数出てきたら、優先順位をつけないと決められません。おすすめの手順を書きます。
まず、条件を「譲れないもの」「あれば嬉しいもの」「どうでもいいもの」の3つに分けます。譲れないものは3つまで。4つ以上あると、条件を満たす求人がほぼ存在しなくなります。
分けるときの目安を挙げます。
- 譲れないものになりやすい項目 勤務日数、通勤時間、業務範囲(施術か機能訓練か周辺業務か)、社会保険の加入
- あれば嬉しい項目 賞与の有無、研修の充実、専門領域を学べるか、直行直帰の可否
- 後回しでよい項目 施設の新しさ、制服のデザイン、休憩室の設備
意外に多いのが、「年収」を譲れないものの筆頭に置いてしまうケースです。年収は結果であって、条件ではありません。譲れないのは、その年収を成立させる仕組み(歩合の率、担当人数、労働時間)のほうです。ここを取り違えると、年収の高い求人に飛びついて、実質の時給では前より下がるという結果になります。
そして、比較するときは同じ表に並べてください。求人票を見た順に判断すると、直前に見たものが基準になってしまいます。譲れない3項目を列にして、候補を行にした表を作る。それだけで、感覚のブレがかなり減ります。
最後に、応募する順番です。第1志望から受けるのではなく、志望度の低いところを先に受けてください。面接で自分がどこに引っかかるのか、どの質問に答えづらいのかを把握してから本命に行くほうが、結果は良くなります。これは、どの業界の転職でも変わらない基本です。
辞めないと決めるなら、何を変えるか
最後に、辞めないという選択についても書いておきます。
同じ職場に残ると決めた場合でも、何も変えなければ半年後に同じ気持ちになります。変えられるものを3つ挙げます。
1つ目は、業務範囲です。 「施術に集中したい」「集客の担当を外れたい」といった要望は、伝えなければ通りません。伝えて断られたなら、それはそれで判断材料になります。伝えずに我慢する期間が長いほど、辞めるときの摩擦が大きくなります。
2つ目は、勤務日数と時間です。 週5日を週4日にするだけで、身体の状態はかなり変わります。収入は下がりますが、続けられる年数が伸びるなら、生涯の総額では逆転することもあります。
3つ目は、外との接点です。 同じ職場だけを見ていると、そこが世界の全部に見えてきます。勉強会に出る、他院を見学する、求人を月に一度眺める。これだけで、いまの職場が相対化されます。相対化できると、「辞めるしかない」という思い込みが緩みます。
そして、変えると決めたことには期限をつけてください。「3か月後にもう一度考える」と決めておくと、変化があったかどうかを判断できます。期限がないと、我慢が続いているだけの状態を「様子を見ている」と言い換えてしまいます。3か月経って何も動いていないなら、それは職場の側に変える意思がないということです。そのときは、辞めるという判断に迷いがなくなります。
要求を伝えるときは、感情ではなく事実で伝えてください。「つらいので減らしたい」ではなく、「1日の担当人数が増えた週は翌週まで疲れが残るので、上限を決めたい」と具体的に言う。数字で伝えると、相手も具体的な返答をしやすくなります。ここでも、感情を条件に翻訳する作業が効きます。伝えた内容と、返ってきた答えは、日付とあわせて書き残しておいてください。あとで判断するときの材料になります。
辞めるか続けるかは、いつでも決め直せます。決め直せる状態を保っておくことが、実はいちばん大事です。
在宅ワーク市場から見た、資格職の選択肢
ここからは、フリーランスと在宅ワークのマッチングを長く見てきた運営者の視点で書きます。
20年この市場を見てきて感じるのは、資格職の人ほど「資格の外側」を選択肢から外してしまうということです。国家資格を取るまでに時間と費用をかけたぶん、それを使わない仕事を選ぶことに強い抵抗が生まれる。気持ちは分かりますが、資格は使い方が1通りではありません。施術の現場に立つことだけが「活かす」ではないのです。
運営者として見てきた限りでは、長く仕事が続く人には共通点があります。単発の作業を安く早くこなす人ではなく、「この人に任せると自分の手間が減る」と思われる関係を作った人です。鍼灸の現場でも、執筆や監修の仕事でも、これは変わりません。次の職場で評価されるのは、技術の速さより、記録が正確で、申し送りが分かりやすく、周りが動きやすくなる人でした。
もう1つ、額面と手取りの話をしておきます。仲介が入る働き方では、依頼する側が支払う金額と、働く側が受け取る金額のあいだに必ず差が生まれます。紹介手数料であれ、プラットフォームの利用料であれ、その差は集客や事務の代行という価値と引き換えなので、それ自体は悪いものではありません。ただし、自分で契約を結び、請求まで完結できる段階になれば、中間の取り分が乗らない直接取引に移す意味は大きくなります。同じ予算で依頼する側はより多く頼めますし、受ける側の手取りは厚くなる。手数料0%という条件が支持されるのは、金額の大小ではなく、この手取りの厚さという質の部分です。
在宅で成立する仕事の幅も、以前とは比べものになりません。求人サイトの職種ガイドを見ると、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように近年生まれた分野もあれば、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事やアプリケーション開発のお仕事のような専門性の高い分野もあります。ネットワーク領域の入口となるCCNA(シスコ技術者認定)のような資格ガイドもあり、学び直しの経路自体は用意されています。
辞めたいという気持ちは、否定するものではありません。ただ、その気持ちを「業界を出るか、我慢するか」の二択に押し込めないでください。分解して、数字を出して、比率を変える。この順番で考えれば、選べる道はかなり多いはずです。
よくある質問
Q. 鍼灸師の離職率は、他の業界より高いのですか?
どの業界でも一定の割合で離職があり、鍼灸師だけが際立って高いという整理にはなっていません。辞めたいと感じること自体は特別なことではないので、業界のせいにして結論を急ぐより、いまの職場が原因なのか、施術という仕事そのものが合わないのかを切り分けることが先です。
Q. 辞める前に、最低限やっておくことは何ですか?
実質の時給(年間の手取り÷総労働時間)、生活に必要な月額、貯蓄で持つ月数、いまの職場で条件改善を要求できる余地、移行にかかる期間。この5つを数字にしてください。感情ではなく条件で判断できる状態を作ってから動くと、辞めたあとの後悔が減ります。
Q. 身体がつらいのですが、職場を変えれば解決しますか?
同じ業務内容のままでは、どこへ行っても負荷は変わりません。1日あたりの施術数が少ない職場に移る、機能訓練など施術以外の比重が大きい職務に移る、施術から離れて資格と経験を使う仕事に移る、という3つが現実的な方向です。理由と対策がずれると状況は悪化します。
Q. 施術を完全にやめないと、他の仕事はできませんか?
そんなことはありません。免許は失効しないので、週の比率を変えるという選択肢があります。施術を週3日にして残りを別の仕事にあてる、あるいは別の仕事を主にして施術を週末に残す、といった形です。比率はあとから何度でも変えられます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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