労働基準法から見たダブルワークの上限|労働時間の通算ルールと注意点

長谷川 奈津
長谷川 奈津
労働基準法から見たダブルワークの上限|労働時間の通算ルールと注意点

この記事のポイント

  • 労働基準法はダブルワークをする人をどこまで守ってくれるのか
  • 労働時間の通算ルールを整理したうえで
  • 年次有給休暇・休憩・解雇の制限・最低賃金が掛け持ち勤務でどう適用されるかを

先日、平日の昼間は事務職、週末は飲食店でアルバイトという掛け持ちをしている方から、こんな相談を受けました。「副業先で半年以上働いているのに、有給休暇の話が一度も出てこない。ダブルワークだと有給はもらえないんですか」と。結論から言うと、もらえます。年次有給休暇は「その会社で継続して6か月働き、所定労働日の8割以上出勤した」という条件を満たせば、副業先でも本業先でも、それぞれ独立して発生します。これ、知らない人が本当に多いんです。

「労働基準法 ダブルワーク」と検索する人の多くは、まず労働時間の通算ルールを気にします。掛け持ちで働くと何時間まで働けるのか、割増賃金はどちらの会社が払うのか。もちろんそれも大事な論点です。ただ、実際の相談現場でトラブルになりやすいのは、時間の上限そのものよりも「副業だから」という理由で本来の権利が省略されてしまうケースのほうです。有給休暇、休憩、解雇の制限、最低賃金。この4つは、掛け持ちかどうかに関係なく、雇用契約を結んで働いている人すべてに適用されます。この記事では、通算ルールの全体像を押さえたうえで、この「守られる範囲」を条文にそって具体的に整理していきます。

掛け持ちが前提になった2026年の働き方と法制度の追いつき方

副業や兼業をする人は、この10年で大きく増えました。厚生労働省が2018年にモデル就業規則を改定し、それまで「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と書かれていた条項を削除して「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」に置き換えたのが、大きな転換点でした。国が示す標準的なひな型が「原則禁止」から「原則容認」に変わったことで、就業規則を見直す企業が一気に増えています。

もっとも、制度が追いついたのは「働いてよい」という入口の部分までで、掛け持ちで働く人の権利をどう守るかという出口の設計は、まだ現場に浸透しきっていません。私が受ける相談でも、副業先の店長が「うちは副業のバイトさんだから有給はなし」と言い切っていた、という話は珍しくありません。悪意があるというより、単純に知らないのです。労働基準法は昭和22年にできた法律で、当時は一人が複数の会社で働くことを前提に細かく書き込まれてはいません。だからこそ、条文がどこまでを守っているのかを自分で把握しておく価値があります。

もうひとつ押さえておきたいのが、雇用契約なのか業務委託契約なのかという区別です。労働基準法が適用されるのは、原則として「労働者」つまり使用者の指揮命令を受けて働く人です。在宅で受託する制作業務のように、時間や場所の拘束がなく、自分の裁量で進める仕事は業務委託とされ、労働基準法ではなく2024年11月に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)のほうが守備範囲になります。掛け持ちの相手先がどちらの契約なのかで、使える武器がまるごと変わります。これは記事の後半でもう一度触れます。

労働基準法はダブルワークそのものを禁止していない

まず大前提として、労働基準法に「副業を禁止する」という条文はありません。労働時間外に何をするかは、本来その人の自由です。憲法22条の職業選択の自由から導かれる考え方で、裁判例でも「勤務時間外の時間をどのように利用するかは労働者の自由」という判断が積み重なっています。

会社が就業規則で副業を制限できる場合もありますが、その範囲は限定的です。具体的には、本業の労務提供に支障が出る場合、企業秘密が漏れる恐れがある場合、競業により会社の利益を害する場合、会社の名誉や信用を損なう行為がある場合。裁判例で有効とされてきたのは、おおむねこの4類型に絞られます。「何となく気に食わないから」「他社で働くのは不誠実だから」といった理由で副業を全面禁止し、違反したら即懲戒という運用は、争えば無効と判断される可能性が高い部分です。

労働時間の通算という原則をひとことで整理する

労働基準法38条1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。行政解釈では、この「事業場を異にする場合」には事業主が違う場合も含まれるとされてきました。つまり、A社で8時間働いた後にB社で3時間働けば、その日の労働時間は合計11時間として扱われます。

しかし、実際には労働基準法の原則として週40時間・1日8時間を超えて労働させてはならないと定められています。 出典: tcc-job.co.jp

法定労働時間である1日8時間、週40時間を超える部分については、原則として時間外労働の割増賃金が必要になり、割増率は25%以上です。誰が払うかについては、後から労働契約を結んだ側、つまり通常は副業先が負担するというのが基本的な整理になります。副業先は採用時に「他社での勤務がありますか」と確認する義務を負い、その申告を前提に自社での所定労働時間を設定するからです。

この通算の考え方は、具体例で見ると理解しやすくなります。

ノーザン太郎さんは、先に本業のA社と「時給1200円、月~金の週5日、1日9時~18時の所定労働時間8時間」の雇用契約を締結していました。後から副業先のB社とも、A社との雇用契約があるという申告をした上で、「時給1200円、月~金の週5日、1日19時~22時の所定労働時間3時間」の雇用契約を締結し、実際にその通りに勤務しました。(A社、B社ともに36協定の締結・届け出はしています。) 出典: n-lights.com

このケースでは、後から契約したB社の3時間がまるごと法定外労働になり、B社が割増賃金を払う立場になります。通算ルールの詳細な計算方法や上限規制との関係は別の論点として深掘りが必要ですが、この記事で押さえてほしいのは「時間は通算されるが、権利は勤務先ごとに独立して発生する」という非対称性です。ここから先が本題になります。

年次有給休暇は勤務先ごとに別々に発生する

年次有給休暇は労働基準法39条に定められた権利で、要件を満たせば会社の裁量とは関係なく自動的に発生します。ここが最も誤解されている領域です。

発生要件は継続勤務6か月と出勤率8割

要件は2つだけです。雇い入れの日から起算して6か月継続して勤務していること、そしてその期間の全労働日の8割以上出勤していること。この2つを満たせば、フルタイムの人には10日の有給休暇が発生します。以降は1年ごとに、1年6か月で11日、2年6か月で12日、3年6か月で14日と増えていき、6年6か月以降は20日が上限になります。

重要なのは、この判定が「その会社での勤務」だけを見て行われることです。本業で有給が発生しているかどうかは、副業先の有給とは何の関係もありません。逆に、副業先で先に6か月が経過すれば、本業より先に副業先で有給が発生することもあります。掛け持ちで合計の労働時間が長いから有給が減る、といった調整も法律上ありません。

週の勤務日数が少ない人には比例付与がある

「週2日しか入っていないから対象外だろう」と思い込んでいる人が非常に多いのですが、これも違います。所定労働日数が少ない人には比例付与という仕組みがあり、週の所定労働日数が4日以下かつ週の所定労働時間が30時間未満の人にも、日数を減らしたかたちで有給が発生します。

具体的には、週4日勤務なら6か月経過時点で7日、週3日勤務なら5日、週2日勤務なら3日、週1日勤務でも1日の有給が発生します。週1日のシフトでも権利があるという点は、ぜひ覚えておいてください。副業先が飲食や小売のように週末だけのシフトになりがちな業種でも、続けていれば必ず溜まっていきます。

なお、週の所定労働時間が30時間以上ある人は、勤務日数が少なくてもフルタイムと同じ日数(6か月で10日)が発生します。1日10時間を週3日、といった働き方をしている場合は比例付与ではなく通常付与になるので、ここは間違えやすいポイントです。

有給を取ったときの賃金と、掛け持ち特有の悩み

有給休暇を取得した日の賃金は、通常の賃金、平均賃金、標準報酬日額のいずれかで計算します。どれを使うかは就業規則で定めておく必要があり、その日ごとに会社が都合よく選ぶことはできません。時給制のアルバイトなら「その日に働くはずだった時間×時給」という通常の賃金方式が一般的です。

掛け持ちしている人からよく聞くのが、「本業を有給で休んだ日に副業を入れてもいいのか」という質問です。法律上、有給休暇をどう使うかは労働者の自由なので、その日に何をしていたかを会社が詮索して不利益に扱うことはできません。ただし就業規則で副業の届け出制を採っている場合、届け出た内容と実態がずれていると信頼関係の問題になります。私が相談を受けた例では、有給の日に副業先でフルタイム勤務していたことが取引先経由で本業に伝わり、大きなトラブルになりかけたケースがありました。法的に処分できる話ではなかったのですが、説明のコストは相当なものでした。届け出制がある会社では、正直に出しておくほうが結果的に自分を守ります。

もうひとつ、2019年4月から始まった年5日の時季指定義務にも触れておきます。年10日以上の有給が発生する人については、会社が本人の希望を聞いたうえで年5日は必ず取得させなければなりません。これは会社側の義務で、違反すると罰則の対象になります。掛け持ちで忙しく、有給を1日も使わないまま1年が過ぎている場合、それは本人の問題ではなく会社の管理不足です。

休憩と休日のルールは勤務先ごとに適用される

労働時間は通算されるのに、休憩と休日は原則としてそれぞれの勤務先が自社の労働時間に応じて与える、という整理になっています。この非対称は理不尽に感じられるかもしれませんが、まずルールを正確に押さえましょう。

6時間を超えたら45分、8時間を超えたら1時間

労働基準法34条は、労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも60分の休憩を、労働時間の途中に与えなければならないと定めています。ポイントは3つあります。

第一に「途中に」与える必要があること。始業前や終業後にまとめて与えるのは休憩とは認められません。第二に、休憩は原則として一斉に与える必要があること(運輸、商業、金融、映画演劇、通信、保健衛生、接客娯楽、官公署などは例外)。第三に、休憩時間は自由に利用させなければならないこと。電話番をしながらの休憩や、制服のままレジ前で待機する時間は、休憩ではなく手待ち時間、つまり労働時間です。

副業先での勤務が6時間ちょうどならば休憩は不要ですが、6時間を1分でも超えれば45分が必要になります。実務では、シフトを6時間ぴったりで組む店舗が多いのはこのためです。逆に、6時間15分働かされているのに休憩がまったくない、という状態は明確に違法です。

週1日または4週4日の法定休日

労働基準法35条は、毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与えることを義務づけています。これも各社ごとの判定です。本業で週休2日を取っていても、副業先が「うちは週1日も休ませなくていい」ということにはなりません。副業先が4週間まったく休みなしのシフトを組んでいれば、副業先が35条に違反します。

法定休日に働かせた場合の割増率は35%以上で、時間外の25%より高く設定されています。掛け持ちの人は、本業の休日に副業を入れることが多いはずですが、それはあくまで本業側の休日であって、副業先での勤務が休日労働になるわけではありません。この点は混同されがちです。

移動時間と着替え時間の扱い

本業を終えて副業先へ移動する時間は、原則として労働時間には含まれません。通勤と同じ扱いになります。ただし、同じ会社の中で事業場をまたいで移動するよう指示された場合は労働時間です。また、制服への着替えや朝礼、開店準備、レジ締めといった時間は、使用者の指揮命令下にあると評価されれば労働時間になります。最高裁も、作業服の着用が義務づけられ、それを事業所内で行うよう命じられていた事案で、着替え時間を労働時間と認めています。

副業先で「制服に着替えてからタイムカードを押して」と言われている場合、その着替え時間はサービス労働になっている可能性が高い。掛け持ちの人は1日あたりの拘束が長いぶん、こうした細かい未計上時間が積み上がると無視できない金額になります。

最低賃金は副業先でも必ず適用される

最低賃金法は、雇用契約で働くすべての人に適用されます。正社員かアルバイトか、本業か副業かは一切関係ありません。

地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類

日本の最低賃金には、都道府県ごとに定められる地域別最低賃金と、特定の産業について定められる特定最低賃金の2種類があります。両方が適用される場合は、高いほうが優先されます。地域別最低賃金は毎年10月ごろに改定され、近年の引き上げ幅は大きく、2024年度は全国加重平均で1,055円となり、その後も引き上げが続いて全国加重平均は1,100円台に入りました。東京や神奈川といった都市部では1,200円台に達しています。最新の金額は厚生労働省のサイトで都道府県別に確認できます(厚生労働省)。

判定の基準になるのは「勤務地の都道府県」です。住んでいる場所ではありません。在宅で雇用契約を結んで働く場合は、原則として所属する事業場の所在地の最低賃金が基準になります。県境をまたいで副業している人は、副業先の所在地の金額を確認してください。

最低賃金の計算から除外される手当がある

見落とされがちなのが、最低賃金の計算に算入されない賃金があることです。具体的には、臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、時間外・休日・深夜の割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当は除外されます。

つまり、時給1,000円に通勤手当を上乗せして「実質1,100円だから最低賃金はクリアしている」という説明は通りません。除外分を差し引いた基本給部分だけで最低賃金を上回っている必要があります。日給制や月給制の場合は、月額を1か月の所定労働時間で割って時間額に換算して比較します。

「業務委託だから最低賃金は関係ない」という落とし穴

副業の求人で最も注意してほしいのが、この論点です。契約書のタイトルが「業務委託契約書」になっていても、実態として使用者の指揮命令を受け、勤務時間や場所を指定され、仕事の依頼を断る自由がないのであれば、労働基準法上の労働者と判断される可能性があります。この判断は契約書の名前ではなく実態で決まります。

私が扱った相談で、副業のコールセンター業務が「完全業務委託・成果報酬」とされていたのに、実際にはシフトが指定され、私語も制限され、離席のたびに報告を求められていたケースがありました。時間換算すると最低賃金を大きく下回っていました。このような場合、労働者性が認められれば最低賃金との差額を請求できます。判断が難しい領域なので、疑わしいときは労働基準監督署の総合労働相談コーナーか、労働問題に詳しい弁護士に相談してください。

一方で、本当に裁量を持って受託している在宅ワークであれば、最低賃金ではなくフリーランス保護新法が適用されます。報酬は受領日から60日以内に支払う義務、発注内容の書面明示義務、一方的な減額や受領拒否の禁止など、こちらにも守りの仕組みがあります。契約の形が違えば、使うべき法律が違うということです。

解雇や雇止めの制限も、掛け持ちで働く人を等しく守る

副業をしている人が最も不安に感じるのが「バレたらクビになるのでは」という点です。ここも、法律はかなり厚く守っています。

解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が要る

労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。つまり、会社が「明日から来なくていい」と言えば解雇が成立する、という世界ではありません。理由が客観的に見て納得できるものであり、その理由に対して解雇という処分が重すぎない、という2段構えの審査を通る必要があります。

副業を理由とする解雇について、裁判例の傾向は明確です。本業の労務提供に具体的な支障が生じていること、あるいは会社の信用を実際に毀損したことが立証されない限り、解雇は認められにくい。就業規則に「副業禁止」と書いてあっても、それだけで即解雇が有効になるわけではないのです。深夜まで副業をして本業で居眠りが常態化した、競合他社で同種の業務に従事して顧客情報を利用した、といった具体的な支障が必要になります。

解雇予告と30日ルール

労働基準法20条は、労働者を解雇する場合には少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めています。予告期間が20日しかなければ、不足する10日分の手当が必要です。

この規定は副業先のアルバイトにも当然適用されます。「来週からシフトに入らなくていい」という一方的な通告は、実質的な解雇であれば予告義務違反になります。ただし、日々雇い入れられる人で1か月を超えて継続雇用されていない場合、2か月以内の期間を定めて使用される人などには適用除外があります。

なお、解雇予告手当を受け取ったからといって、その解雇が有効になるわけではありません。予告手当は手続きの問題であり、解雇そのものの有効性(労働契約法16条)は別に判断されます。ここは混同しやすいところです。

有期契約の途中解除と雇止め

副業先が3か月契約や6か月契約といった有期雇用の場合、契約期間の途中で会社が一方的に契約を打ち切るには「やむを得ない事由」が必要です。労働契約法17条1項が定めており、無期契約の解雇よりも厳しい基準になります。期間を決めて約束した以上、その期間は雇い続けるのが原則という考え方です。

契約期間が満了したときの更新拒否(雇止め)についても、労働契約法19条に制限があります。反復して更新されており実質的に無期契約と変わらない状態にある場合、または更新されると期待することに合理的な理由がある場合は、解雇と同じ基準で客観的合理性と社会通念上の相当性が求められます。「更新は3回目です」「次も入れるからと言われていました」といった事情があるなら、雇止めを争える余地があります。

さらに、有期契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申込みによって無期労働契約に転換できる無期転換ルール(労働契約法18条)もあります。副業先で長く続けている人は、この権利があることを知っておくと選択肢が増えます。

労災は複数の勤務先の賃金を合算して計算される

保護の話でもうひとつ重要なのが労災です。2020年9月の法改正により、複数の会社で働く人(複数事業労働者)については、休業補償などの給付基礎日額を全就業先の賃金を合算して算定することになりました。それ以前は、労災が起きた会社の賃金だけで計算されていたため、本業の収入が補償に反映されないという不公平がありました。

加えて、複数の職場の負荷を合わせて評価する「複数業務要因災害」という枠組みも新設されました。1社ごとの労働時間では過重労働と言えなくても、合算すれば脳・心臓疾患の労災認定基準に届く場合に、労災として認定される道が開かれています。掛け持ちで長時間になりやすい人には、直接効いてくる改正です。労災保険の給付内容や請求手続きは厚生労働省のサイトに一次情報がまとまっています。

副業を届け出るときと、権利が守られていないと感じたときの実務

ここまで整理してきた権利は、知っているだけでは動きません。実際に主張する場面で必要になる準備を挙げておきます。

まず記録です。シフト表、タイムカードの写し、給与明細、雇用契約書、労働条件通知書。これらは必ず自分の手元に保管してください。特に労働条件通知書は、労働基準法15条で書面(本人が希望すれば電子メール等でも可)による明示が義務づけられており、契約期間、就業場所、業務内容、始業終業時刻、休憩、休日、賃金、退職に関する事項が書かれています。副業先がこれを出してくれない場合、それ自体が法違反です。2024年4月からは、就業場所・業務の変更の範囲や、有期契約の更新上限の有無なども明示事項に追加されました。

次に副業先への申告です。労働時間の通算という仕組みがある以上、副業先は他社での勤務状況を把握する必要があります。正直に申告しておくと、割増賃金の計算や健康管理の面で自分が守られます。隠して働いた結果、割増賃金が計算されず、後から請求しようとしても「申告がなかった」と言われる状態は避けたいところです。

そして相談先です。賃金の未払いや休憩・休日の違反は労働基準監督署が管轄します。解雇の有効性や雇止めのような民事の紛争は、都道府県労働局のあっせん、労働審判、訴訟という流れになります。法律の条文そのものは電子政府の総合窓口(e-Gov)で全文を無料で確認できるので、相談前に該当条文を読んでおくと話が早く進みます。※解雇や雇止めを実際に争う場面では、証拠の集め方と主張の組み立てで結果が変わります。この段階に来たら弁護士に相談してください。

働き方のポートフォリオという視点から見た独自データの考察

ここまで労働基準法の保護を確認してきましたが、実務の相談を受けていて感じるのは、掛け持ちの「組み合わせ方」によって、そもそもトラブルの起きやすさが大きく違うということです。

雇用契約を2つ重ねる形の掛け持ちは、労働基準法の保護が両方に及ぶという安心感がある一方で、労働時間の通算という制約から逃れられません。1日の総拘束時間が長くなり、割増賃金の計算も複雑になります。これに対して、本業は雇用、副業は業務委託という組み合わせにすると、労働時間の通算は問題にならず、時間の使い方も自分で決められます。ただし労働基準法の傘からは外れるので、フリーランス保護新法と契約書が守りの中心になります。どちらが優れているという話ではなく、自分がどちらのリスクを取れるかという選択です。

副業として業務委託の道を選ぶなら、時間単価ではなく成果に対して報酬が決まる分野を選ぶほうが、掛け持ちの負荷は軽くなります。職種ごとの単価水準は公開データで確認できます。たとえばソフトウェア作成者の年収・単価相場では開発系の報酬レンジが職種別に整理されており、著述家,記者,編集者の年収・単価相場では文章制作系の相場が確認できます。この2つは在宅の業務委託で案件数が多い代表的な分野なので、自分の時給換算と比べる基準として使いやすいはずです。

需要側の動きも見ておく価値があります。AIコンサル・業務活用支援のお仕事は、企業の生成AI導入にともなって業務設計や運用ルールづくりを支援する領域で、専門知識を持つ人が副業として関わりやすい分野です。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事では、AI活用とマーケティング、セキュリティという需要が重なる領域の仕事内容が整理されています。開発の実務経験がある人ならアプリケーション開発のお仕事も選択肢になります。いずれも成果物ベースの契約になりやすく、平日夜と週末で完結させる進め方と相性がよい分野です。

資格を軸に信頼を積むというアプローチもあります。ビジネス文書検定は事務系の在宅業務で書類作成の基礎力を示す材料になりますし、ネットワーク系に進むならCCNA(シスコ技術者認定)のような技術者認定が、実務経験の少なさを補う説明材料になります。掛け持ちの副業では、面談の時間を長く取れないことが多いので、客観的に示せる材料があると話が早く進みます。

実際の時間の使い方については、先に走っている人の記録が参考になります。在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開には、家事と仕事を並行させる人の時間配分が具体的に載っています。限られた時間で集中を保つ工夫をまとめた在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニック、案件の探し方と危ない求人の見分け方を扱った在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説も、掛け持ちを始める前段階で目を通しておくと判断材料が増えます。

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、掛け持ちで長く続く人には共通点があります。仕事の数を増やすのではなく、依頼者との関係を減らす方向に整えていくのです。副業を始めた直後は複数のクライアントから小さな仕事をかき集めますが、続いている人は1年もすると2社か3社に絞り込み、「この人に任せると楽だ」と思われる関係を作っています。窓口が減れば連絡の往復も減り、同じ収入でも拘束時間が短くなる。労働基準法の保護は最低ラインを守るためのものですが、その上でどう働くかは自分で設計できる部分です。

もうひとつ、運営者として見てきた限りで言えることがあります。仲介の中間マージンが乗らない直接取引の形は、額面の数字よりも手取りの厚さで効いてきます。依頼者から見れば同じ予算でより多くの作業を頼めますし、受け手から見れば同じ作業量で残る金額が増える。手数料0%という条件は、単に安いという話ではなく、限られた副業時間あたりの手取りを厚くする構造の話です。掛け持ちで働く人は、時間という原資が本業の分だけ削られています。だからこそ、1時間あたりに手元へ残る金額をどう上げるかが、続けられるかどうかの分かれ目になります。

労働基準法は、掛け持ちで働く人を「副業だから」という理由で軽く扱うことを許していません。有給休暇も、休憩も、休日も、最低賃金も、解雇の制限も、それぞれの勤務先で独立して適用されます。時間だけが通算され、権利は通算されない。この非対称を正しく理解しておくことが、自分の働き方を守る第一歩になります。法律はあなたの味方です。

よくある質問

Q. ダブルワークでも副業先で有給休暇はもらえますか?

もらえます。年次有給休暇は勤務先ごとに独立して発生し、その会社で継続6か月勤務し所定労働日の8割以上出勤していれば付与されます。週2日勤務でも比例付与で3日分が発生し、週1日勤務でも1日は発生します。本業で有給が出ているかどうかは無関係です。

Q. 副業がバレたら解雇されますか?

就業規則に副業禁止と書かれていても、それだけで解雇が有効になるわけではありません。労働契約法16条により、解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要です。本業の労務提供に具体的な支障が出た、競業により会社の利益を害したといった事情がなければ、解雇は認められにくいのが裁判例の傾向です。

Q. 副業先で休憩がもらえないのですが違法ですか?

副業先での労働時間が6時間を超えるのに休憩がなければ違法です。労働基準法34条は6時間超で45分、8時間超で60分の休憩を労働時間の途中に与えるよう義務づけています。電話番やレジ前での待機は自由利用が保証されていないため休憩とは認められず、労働時間として扱われます。

Q. 業務委託の副業でも最低賃金は適用されますか?

契約書の名前が業務委託でも、実態として指揮命令を受け、勤務時間や場所を指定され、依頼を断る自由がなければ労働者と判断され、最低賃金が適用される可能性があります。逆に本当に裁量のある受託であれば最低賃金ではなくフリーランス保護新法が適用され、受領日から60日以内の報酬支払い義務などが守りになります。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月1日最終更新:2026年9月7日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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