個人事業主の退職金制度|小規模企業共済vs中小企業退職金共済の比較


この記事のポイント
- ✓個人事業主が自らの退職金を準備する際
- ✓筆頭に挙がるのが「小規模企業共済」です
- ✓従業員向けの「中小企業退職金共済(中退共)」との違いや併用ルールに悩む方も少なくありません
「会社員なら退職金があるけれど、フリーランスになったら将来が不安……」。そんな悩みを抱えていませんか?
フリーランスの採用コンサルタントとして多くの独立支援を行っている私、加藤りさも、独立当初は全く同じ不安を抱えていました。結論から言えば、個人事業主には「退職金」という名目の制度はありませんが、「小規模企業共済」を活用することで、会社員以上の節税効果を得ながら退職金を自ら作り出すことが可能です。
本記事では、個人事業主の最強の味方である「小規模企業共済」と、混同されやすい「中小企業退職金共済(中退共)」の違いを徹底比較。2026年現在の最新データを基に、賢い出口戦略までを解説します。
1. 個人事業主が知っておくべき退職金準備の基本と「小規模企業共済」の役割
個人事業主にとって、退職金は「誰かが用意してくれるもの」ではなく、「戦略的に積み立てるもの」です。その中核を担うのが「小規模企業共済」です。
そもそも小規模企業共済とは?
小規模企業共済は、国の機関である独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、経営者のための退職金積み立て制度です。1965年の発足以来、数多くの個人事業主や小規模企業の役員を支えてきました。
小規模企業共済の在籍件数は、2023年度末(令和5年度末)時点で約164.5万件となっており、多くの個人事業主や小規模企業の経営者に支持されています。
— 出典: 中小機構「共済制度の現況(小規模企業共済)」
この制度の最大の特徴は、「掛金が全額所得控除になる」という点です。これは、単なる貯金とは一線を画す強力な節税メリットです。
なぜ個人事業主の「第一選択」なのか
採用市場のデータを見ても、優秀なフリーランスほど「マネーリテラシー」が非常に高い傾向にあります。具体的なキャリア設計については、コンサルタントの仕事内容・スキル・将来性を詳しく見るなども役立ちますが、彼らがまず加入するのが、この小規模企業共済です。
- 全額所得控除による節税: 年間最大84万円(月額7万円)が、そのまま課税所得から差し引かれます。
- 受け取り時の優遇: 将来受け取る際も「退職所得」または「公的年金等控除」の対象となり、税負担を極限まで抑えられます。
- 契約者貸付制度: 急な資金繰りが必要になった際、積み立てた範囲内で低金利の融資を受けることができます。
2. 【徹底比較】小規模企業共済と中小企業退職金共済(中退共)の違い
「退職金共済」と名前が似ているため、小規模企業共済と「中小企業退職金共済(通称:中退共)」を混同している方をよく見かけます。しかし、この2つは「誰のための制度か」という根本が異なります。
比較テーブル:小規模企業共済 vs 中退共
| 項目 | 小規模企業共済 | 中小企業退職金共済(中退共) |
|---|---|---|
| 対象者 | 個人事業主本人、共同経営者、会社役員 | 従業員(パート・アルバイト含む) |
| 運営主体 | 中小機構 | 勤労者退職金共済機構 |
| 掛金の負担者 | 加入者本人 | 事業主(雇用主) |
| 節税メリット | 全額「所得控除」(本人の税金が減る) | 全額「福利厚生費」または「損金」(事業の経費になる) |
| 掛金月額 | 1,000円 〜 70,000円 | 5,000円 〜 30,000円(※例外あり) |
| 目的 | 経営者自身の老後・廃業への備え | 従業員の福利厚生・定着率向上 |
決定的な違いは「対象」と「目的」
個人事業主の方が「自分のために」入るなら、小規模企業共済一択です。独立行政法人 勤労者退職金共済機構が運営する中退共は、あなたが従業員を雇った際、その従業員に退職金を出すための仕組みです。
採用コンサルタントの視点で見ると、中退共への加入は「福利厚生の充実」として求人票に記載できる強力なアピールポイントになります。しかし、事業主本人が中退共から退職金を受け取ることはできません。ここを間違えると、将来の設計が大きく狂ってしまいます。
3. 採用コンサルタントが教える、従業員を雇う際の退職金設計
もしあなたが事業を拡大し、従業員を雇用するフェーズにいるなら、退職金制度の構築は「経営課題」そのものです。
「退職金あり」が採用力に直結する理由
最近のIT・Web業界の採用現場では、年収だけでなく「長く安心して働ける環境か」を重視する求職者が増えています。特に30代中盤以降のエンジニアやディレクターを採用する場合、「退職金制度(中退共など)の有無」が、大手企業との競合における決定打になることも少なくありません。
中小企業やスタートアップが、自前で数千万円の退職金原資を確保するのは困難です。そこで中退共を活用し、毎月少額(例えば5,000円〜1万円)を積み立てることで、「国が支援する退職金制度がある会社」という社会的信用を手に入れることができます。詳細は中小企業庁の公式サイトなどで、中小企業向けの支援制度と合わせて確認することをおすすめします。
事業主自身の戦略
- まずは小規模企業共済で自分の守りを固める: 月7万円を上限に、自身の退職金を確保。
- 次に中退共で従業員の福利厚生を整える: 優秀な人材の定着(リテンション)を図る。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)との併用: 余裕があれば、さらに3階建ての備えとしてiDeCoを活用する。
このように、制度の役割を明確に分けることが、持続可能な事業経営の鍵となります。
4. 小規模企業共済の強烈な節税メリットと2026年版の活用ポイント
2026年現在、インフレの影響や税制改正の議論が絶えませんが、小規模企業共済の「所得控除」というメリットの優位性は揺らいでいません。
節税効果の具体的シミュレーション
所得金額に応じた、年間の節税額(掛金月7万円の場合)の目安は以下の通りです。
- 所得400万円の場合: 約12万円の節税
- 所得800万円の場合: 約25万円の節税
- 所得1,500万円の場合: 約36万円の節税
所得が高いほど、所得税率が上がるため、節税効果は劇的に高まります。「利益が出すぎたから、何か経費を使わなきゃ」と考える前に、まずはこの共済の掛金を上限まで上げることが、最も効率的な資金留保です。
「12月駆け込み加入」の有効性
小規模企業共済は、1年分を前納することが可能です。12月に加入して、翌年1年分(最大84万円)を一括で支払えば、その年の所得から全額控除できます。これは個人事業主にとって、最も強力な「合法的な節税策」と言えるでしょう。
5. 注意点とリスク:元本割れや解約手当金の落とし穴
メリットばかりが強調されがちな小規模企業共済ですが、プロの視点からは「リスク」も正しく理解しておくべきだとお伝えします。
「20年未満」の任意解約は元本割れ
ここが最大の注意点です。自分都合で解約する「任意解約」の場合、加入期間が240ヶ月(20年)を下回ると、受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回ります。
ただし、以下の場合は期間に関わらず元本割れしません。
- 個人事業の廃業: 12ヶ月以上の掛金納付があれば、元本以上の「共済金A」を受け取れます。
- 法人の解散: 同様に、12ヶ月以上の納付で「共済金A」の対象です。
つまり、「事業を続ける限りは20年持つ」という覚悟か、「廃業する時まで辞めない」という戦略が必要です。
資金のロック(流動性の低さ)
一度積み立てたお金は、簡単には引き出せません。解約すれば前述の元本割れリスクがあります。 「来月の家賃が払えないから共済から引き出そう」という運用はできません。ただし、前述の「契約者貸付」を使えば、積み立てた範囲内で即日〜数日で融資を受けることは可能です。
6. 個人事業主の出口戦略:法人化(マイクロ法人)を見据えた選択
私のクライアントでも、売上が1,000万円を超えてくると「法人化」を検討する方が多くなります。この時、小規模企業共済はどうなるのでしょうか。
法人成りしても継続可能
個人事業主から法人成り(会社設立)して役員になった場合、小規模企業共済はそのまま引き継ぐことができます。これは非常に大きなメリットです。
究極の出口戦略「マイクロ法人」
最近注目されているのが、社会保険料の削減を目的とした「マイクロ法人」との組み合わせです。
- マイクロ法人: 社会保険加入のため、役員報酬を低く設定。
- 個人事業(副業扱い): こちらでしっかり稼ぎ、小規模企業共済に加入。
このように、個人の所得を小規模企業共済で圧縮しつつ、法人側で厚生年金や健康保険のメリットを享受するスタイルは、2026年のフリーランス・コンサルタント業界における「王道のスキーム」の一つになっています。
7. 共済金の受け取り方を最適化する「退職所得控除」フル活用術
小規模企業共済の本当の威力は、「積み立てる時」だけでなく「受け取る時」にこそ発揮されます。受け取り方を間違えると、せっかくの節税効果が半減してしまうため、出口戦略は加入時から逆算して設計すべきです。
一時金受け取りなら「退職所得」扱いで圧倒的に有利
共済金を一括で受け取った場合、税法上「退職所得」として扱われます。退職所得は、給与所得や事業所得と比べて、突出して優遇された計算方式が採用されています。
退職所得の金額は、原則として、次のように計算します。 (収入金額(源泉徴収される前の金額)- 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
出典: www.nta.go.jp
注目すべきは「× 1/2」の部分です。退職所得控除を差し引いた後の金額が、さらに半分になってから課税対象となります。事業所得や給与所得では絶対に味わえない、まさに「最強の所得分類」と言えます。
退職所得控除額の具体的な計算
退職所得控除額は加入期間に応じて以下のように計算されます。
- 加入20年以下: 40万円 × 加入年数(最低80万円)
- 加入20年超: 800万円 + 70万円 × (加入年数 − 20年)
例えば30年間加入していれば、控除額は「800万円 +(30−20)× 70万円 = 1,500万円」となります。共済金が1,500万円以下なら税金はゼロ、それを超えても課税対象は半額になるため、実質的な税負担はごくわずかです。
分割受け取り(年金形式)という選択肢
60歳以降に共済金A・Bを受け取る場合、「分割受け取り」または「一括と分割の併用」も選べます。分割で受け取る金額は「公的年金等控除」の対象となり、国民年金や厚生年金と合算して控除枠を使えます。
実務上は、「事業の引退時にまとまった資金が必要なら一括」「老後の生活費を細く長く確保したいなら分割」と、ライフプラン次第で選ぶのが正解です。私のクライアントには「住宅ローン残債がある人は一括、年金生活に余裕を持たせたい人は併用」と助言しています。
8. iDeCo・NISA・経営セーフティ共済との組み合わせ戦略
小規模企業共済は単体でも強力ですが、他制度と組み合わせることで「完全無欠の節税ポートフォリオ」を構築できます。フリーランスの採用市場で見ても、トップ層は必ず複数制度を併用しています。
4制度の役割を整理する
個人事業主が活用できる主な制度を、役割で整理すると以下のようになります。
- 小規模企業共済: 自分の退職金。所得控除で節税しながら老後資金を確保
- iDeCo(個人型確定拠出年金): 自分年金。掛金が全額所得控除、運用益も非課税
- 新NISA: 守りの貯蓄ではなく「攻めの資産運用」。非課税枠1,800万円
- 経営セーフティ共済(倒産防止共済): 取引先倒産時のセーフティネット。掛金は「必要経費」として控除可能
それぞれ「控除される枠」が独立しているため、併用しても枠が削られることはありません。
推奨する加入順序
私が支援している個人事業主には、所得規模に応じて以下の順序で勧めています。
- 年商500万円未満: まずは小規模企業共済を月1〜3万円から
- 年商500万〜1,000万円: 小規模企業共済を上限7万円に増額 + iDeCo(月6.8万円上限)を併用
- 年商1,000万円超: さらに経営セーフティ共済(月20万円・年240万円まで全額損金)を追加
この3階建てが完成すると、年間で最大「84万円 + 81.6万円 + 240万円 = 約405.6万円」を所得から圧縮できます。年商1,500万円のフリーランスなら、所得税・住民税合わせて約120万円以上の節税が現実的に可能です。
経営セーフティ共済の隠れた使い方
経営セーフティ共済は本来「取引先倒産時の貸付制度」ですが、40ヶ月以上掛けていれば任意解約でも100%返戻されます。所得が高い年に積み立て、利益が落ちた年に解約することで、所得平準化のバッファとしても機能します。なお、加入要件や運営の詳細は中小機構の公式ページで必ず確認してください。
9. 加入手続きと「失敗しない」掛金設定の実務ポイント
最後に、実際に小規模企業共済へ加入する際の具体的な手続きと、現場で見てきた「失敗パターン」を共有します。知識として知っていても、行動に移さなければ1円の節税にもなりません。
加入に必要な書類と窓口
加入手続きは、商工会・商工会議所、または委託金融機関(都市銀行・地方銀行・信用金庫など)の窓口で行います。必要書類は以下の通りです。
- 契約申込書(中小機構から取り寄せ)
- 預金口座振替申出書
- 確定申告書の控え(個人事業主の場合)または開業届の写し(開業1年未満の場合)
- 本人確認書類
オンラインでの完結はできませんが、書類提出から約2ヶ月で「共済手帳」が届きます。掛金の引き落としは、申込月の翌々月から開始されるのが一般的です。
掛金は「無理せず、でも上限を目指す」
掛金は月1,000円から70,000円の範囲で、500円単位で自由に設定できます。よくある失敗が「最初から上限の7万円で設定して、資金繰りが苦しくなる」というケースです。
掛金は増額・減額が可能ですが、減額には「事業経営の著しい悪化」などの理由書が必要だった時代の名残で「減額しにくい」というイメージが残っています。現在は手続き上の難易度は下がっていますが、それでも「気軽に減額」はおすすめしません。
私の推奨は以下の順序です。
- 開業1〜2年目: 月1〜2万円で習慣化
- 軌道に乗ったら(3年目以降): 月3〜5万円に増額
- 所得が安定したら: 月7万円の上限に到達
「掛け止め」より「減額」を選ぶ
資金繰りが厳しい時、「掛け止め(払込中断)」という選択肢もありますが、原則として加入期間にカウントされません。一方、減額(月1,000円まで下げる)なら加入期間は継続されます。20年(240ヶ月)の元本割れラインを意識すると、「最低額で続ける」が正解です。
開業届や青色申告との関係、共済掛金の所得控除欄の書き方など、確定申告実務の最新情報は国税庁タックスアンサーを毎年確認する習慣をつけておきましょう。制度は微細に改正されるため、「去年の知識」で進めると思わぬ落とし穴にハマります。
よくある質問
Q. 小規模企業共済とはどのような制度ですか?
国の機関(中小機構)が運営する、フリーランスや個人事業主、中小企業役員のための「退職金制度」です。廃業時や老後の生活資金を積み立てる目的で利用され、掛金の全額が所得控除になるため非常に高い節税効果を得られます。
Q. 中退共の掛金は経営者自身にも支払えますか?
いいえ、中退共はあくまで従業員のための制度であり、事業主や家族従業員を対象とすることはできません。経営者自身の退職金は小規模企業共済で準備しましょう。
Q. 20年以内に解約した場合の元本割れはどのくらいですか?
加入期間によりますが、加入5年以内で約20%、10年で約15%、15年で約10%のマイナスになる目安です。節税効果(掛金の30%前後が税軽減)を考慮すると、実質的な損失は見かけよりも小さくなります。
Q. 法人成りしたら強制的に脱退になりますか?
小規模企業(役員1名以上の法人)の役員であれば、個人事業から法人への継続加入が可能です。ただし、会社規模が共済の要件(常時雇用従業員数)を超えると、加入資格を失います。
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この記事を書いた人
加藤 りさ
フリーランス採用コンサルタント
大手人材会社でRPO(採用代行)チームを率い、年間50社の採用を支援。フリーランスとして独立し、人事・採用・HR Tech系の記事を発信しています。
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