刺繍の内職はどこで募集されているか|必要な道具と受け方


この記事のポイント
- ✓縫製会社の直接委託・求人検索サービス・労働局の窓口の3経路に分けて解説します
- ✓内職商法の見分け方までを整理しました
刺繍の内職を探している方が最初に直面するのは、「募集が見つからない」という壁です。結論から書くと、刺繍の内職は一般の求人サイトにほとんど載りません。委託する側が地域の縫製会社や刺繍加工業者で、募集を広く出す習慣がないためです。だから探し方を変える必要があります。
この記事では、募集がどこに出ているのかを3つの経路に分けて示し、受けるときに自分を守る法律の中身、必要な道具、工賃の測り方、そして内職を装った勧誘の見分け方までを整理します。正直なところ、刺繍の内職を扱う記事には、工賃の水準や法律の守りについて曖昧に書かれたものが多い。ここでは公開された資料に当たって、確かめられることだけを書きます。
刺繍の内職は3種類ある。混ぜて考えると判断を誤る
「刺繍の内職」という言葉は、性質のまったく違う3つの働き方をまとめて指しています。求められる道具も、法律上の扱いも、収入の作り方も違うので、最初に切り分けておきます。
手刺繍の委託
布や製品に、針と糸で手作業の刺繍を施す仕事です。企業から材料が届き、指定どおりに刺繍して返送します。ネームの刺し入れ、ワンポイントの装飾、着物や和装小物の仕上げ、制服の校章など。1点あたりの工賃が決まっている出来高制が一般的です。この形は、後で述べる家内労働法の対象になることが多い働き方です。
ミシン刺繍の委託
家庭用の刺繍機能付きミシン、あるいは工業用の刺繍ミシンを使って加工する仕事です。手刺繍より短時間で数をこなせるため、1点あたりの工賃は低く設定される一方、量で収入を作れます。刺繍データを作る工程まで任される場合は、専用のソフトを扱う技術が必要になり、単価が上がります。設備投資が前提になるので、始める前に回収の見込みを立てる必要があります。
自分の作品を作って売る形
刺繍作品やキットを自分で制作し、通販のプラットフォームやイベントで販売する形です。これは内職ではなく、自分で商売をする形です。誰かから委託を受けるわけではないので、家内労働法の守りは及びません。その代わり、価格を自分で決められます。
この3つは「刺繍で収入を得る」という点だけが共通していて、あとは別物です。手刺繍の委託を探している方が、作品販売の記事を読んでも答えは見つかりません。自分がどれを目指しているのかを先に決めてください。
募集はどこに出ているか。3つの経路
正直なところ、この分野の求人情報は絶対数が少ないです。それでも経路は3つあります。
縫製会社・刺繍加工業者への直接の問い合わせ
最も確実な経路です。制服、ユニフォーム、タオル、和装、袋物を扱う地域の会社が、繁忙期に手作業を外へ出しています。こうした会社は募集を広告として出さず、既存の内職者からの紹介で回していることが多い。だから、こちらから問い合わせる以外に入口がありません。
問い合わせるときに用意するものは3点です。刺繍の見本(写真で可)、対応できる技法と1日にこなせる量の目安、そして連絡が取れる時間帯。電話よりも、見本を添えたメールのほうが判断してもらいやすい傾向があります。
求人検索サービス
数は少ないものの、刺繍に関連する募集が掲載されることはあります。検索するときは「刺繍 内職」だけでなく、「刺繍 在宅」「縫製 内職」「手作業 内職」「ミシン 在宅」といった複数の言い方で探します。地域名を組み合わせると、通える範囲の会社が見つかることもあります。
検索のヒント:「営業」「アパレル」「カフェ バイト」といった職種・業種・働き方のほか「営業 未経験」のような条件でも検索できます。 出典: 求人ボックス
なお、検索の結果件数と実際に表示される件数が一致しないことがあります。類似する求人をまとめて非表示にする仕組みが働くためです。件数が多く見えても、中身は重複していることがあるので、表示された求人を1件ずつ確かめてください。
都道府県労働局と市区町村の窓口
これが最も見落とされている経路です。家内労働は労働局が所管しており、家内労働に関する相談窓口が設けられています。地域によっては、市区町村が内職の相談窓口や紹介の仕組みを持っている場合もあります。募集の情報そのものを持っていることもあれば、地域の委託者の状況を教えてもらえることもあります。
東京労働局は、家内労働法の概要や最低工賃の資料を公開しています。こうした資料を読んでから問い合わせると、話が早く進みます。
手作業の内職とは別に、パソコンを使って自宅で働く形は、厚生労働省が「自営型テレワーク」として整理しており、総合支援サイトも運営されています。刺繍データの作成を請け負う形は、こちらの考え方が参考になります。
家内労働法が守ってくれる範囲を知っておく
刺繍の内職を受けるときに、最も重要な知識がこれです。家内労働法という法律があり、委託する側に義務を課しています。
まず、誰が対象になるのか。法律の定義は次のとおりです。
この法律で「家内労働者」とは、物品の製造、加工等若しくは販売又はこれらの請負を業とする者その他これらの行為に類似する行為を業とする者であつて厚生労働省令で定めるものから、主として労働の対償を得るために、その業務の目的物たる物品について委託を受けて、物品の製造又は加工等に従事する者であつて、その業務について同居の親族以外の者を使用しないことを常態とするものをいう。 出典: e-Gov 法令検索
長い条文ですが、要点は3つです。物品の加工を委託されていること。労働の対価を得るために従事していること。そして、同居の親族以外の人を使っていないこと。企業から材料を受け取り、自宅で1人で刺繍をして納める形は、この定義に当てはまる可能性が高い働き方です。
当てはまる場合、委託する側には家内労働手帳を交付する義務があります。
委託者は、委託をするにあたつては、家内労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、家内労働手帳を交付しなければならない。 出典: e-Gov 法令検索
この手帳には、委託のたびに業務の内容、工賃の単価、工賃の支払期日が記入されます。さらに、物品を受け取るたびに数量が、工賃を支払うたびに支払った額が記入されます。つまり、口約束で始まって後から条件が変わる、という事態を防ぐための仕組みです。
ここが実務で最も大事な点です。手帳が交付されないまま仕事が始まったら、それは法律が求める形になっていません。工賃の単価と支払期日を文書で示すよう求め、応じてもらえないなら労働局の家内労働に関する窓口に相談してください。手帳があるかどうかは、その委託者が法律を知っているかどうかの目印にもなります。
厚生労働省の家内労働概況調査によれば、家内労働者の数は令和7年10月1日現在で85,177人、委託者は6,249者とされています。決して大きな市場ではありませんが、制度としては現に運用されています。
最低工賃という仕組みと、刺繍の実情
家内労働法には、最低工賃という仕組みもあります。地域と業種を定めて、これを下回る工賃で委託してはならない額を決めるものです。
法律の条文では、最低工賃は、その地域で同じような業務に従事する労働者に適用される最低賃金との均衡を考慮して定められなければならないとされています。そして最低工賃額は、家内労働者が製造または加工する物品の一定の単位によって定めるものとされています。時間あたりではなく、1点あたりや1ダースあたりのように、物の単位で決まるということです。
ここで押さえておきたいのが、最低工賃はすべての業種に定められているわけではないという点です。東京労働局が公開している家内労働に関する資料を見ると、東京都内の家内労働者に適用される最低工賃は3業種です。電気機械器具製造業、革靴製造業、婦人既製洋服製造業。刺繍そのものを対象とした最低工賃は、この一覧に含まれていません。同じ労働局のページでは、家内労働法の概要をまとめたしおりや、委託状況届の提出についての案内も公開されており、受ける前に読んでおくと交渉の土台になります。
つまり、刺繍の内職の工賃には、多くの地域で法律上の下限が設けられていないということです。これは正直なところ、受ける側にとって厳しい事実です。ただし、婦人既製洋服製造業のように衣料の加工が対象になっている業種もあるため、自分が受けようとしている仕事がどの業種に当たるかによって扱いが変わります。判断に迷うときは、住んでいる都道府県の労働局に確認してください。
最低工賃の定めがない場合、工賃の水準は交渉と相場で決まります。だからこそ、次の章の測り方が効いてきます。
工賃は「1点いくら」ではなく「1時間いくら」で測る
刺繍の内職で失敗する最大の原因は、1点あたりの工賃だけを見て受けることです。判断に使うべき数字は、時間あたりに換算した額です。
測り方は単純です。まず、実際に10点作業して、かかった時間を測ります。ここで数えるのは、針を動かしている時間だけではありません。材料を受け取って確認する時間、糸の色を合わせる時間、枠に張る時間、仕上がりを検品する時間、糸の始末をする時間、梱包して発送する時間。これらを全部足します。そのうえで、受け取る工賃を総時間で割ります。
この計算をすると、最初のうちは時間あたりの額がかなり低く出ます。慣れていないので当然です。見るべきなのは、10点目と100点目で数字がどう変わるかです。伸びていれば続ける価値があり、横ばいのままなら単価の設定に無理があります。
工賃以外に、自分が負担している費用も差し引いて考えます。糸や針の消耗品、返送の送料、梱包材、電気代。これらを委託者が負担するのか自分が負担するのかは、契約によって違います。家内労働手帳に記載される条件の中に、この扱いが書かれているかを確かめてください。負担が自分側なら、その額を工賃から引いた残りが実際の手取りです。
ミシン刺繍の場合は、設備の減価も計算に入れます。刺繍ミシンの購入費を、何年で、何点作業して回収するのか。この計算をしないまま設備を買うと、回収できないまま終わります。始める前に、委託が継続して見込めるかを確かめてから買うのが順番です。
交渉の材料になるのは、この実測の記録です。「1点あたりの手間がこれだけかかっている」と数字で示せると、単価の話ができます。感覚で「安いと思う」と伝えても、話は進みません。
必要な道具。手刺繍とミシン刺繍で揃えるものが違う
道具の話は、3種類のどれを目指すかで変わります。
手刺繍の委託を受ける場合、必要なのは刺繍針、刺繍糸、刺繍枠、糸切りばさみ、チャコペン、指ぬき、そして十分な明るさの照明です。糸と針は委託者から支給される場合と、自分で用意する場合があります。支給される場合でも、消耗品として自分で補う分が出ることがあるので、最初に確認してください。
意外に効くのが照明と拡大鏡です。細かい作業を長時間続けると、目の疲れが作業速度を落とします。手元を明るく照らすライトは、道具として優先度が高い。拡大鏡付きのスタンドがあると、細かい刺繍の負担がかなり減ります。
ミシン刺繍の場合は、刺繍機能付きの家庭用ミシン、または工業用の刺繍ミシンが必要です。価格の幅が大きく、家庭用でも数万円から数十万円、工業用になるとさらに上がります。あわせて、刺繍枠、安定紙、専用の糸、そして刺繍データを扱うソフトが必要になる場合があります。設備の種類は、委託者が求める仕様によって決まるため、購入前に必ず確認してください。仕様が合わないミシンを先に買ってしまうと、使えません。
作業環境も準備のうちです。刺繍は材料を預かる仕事なので、汚さずに保管できる場所が要ります。ペットや小さなお子さんがいる家庭では、作業と保管の場所を分ける工夫が必要です。預かった材料を汚損した場合の扱いも、最初に確認しておく項目です。
体への負担も考えておきます。同じ姿勢で細かい作業を続けると、首、肩、腰、目に負担が集まります。作業の区切りを時間ではなく点数で決めておくと切り上げやすくなります。20点ごとに立ち上がる、といった単純な決めごとで十分です。なお、家内労働の分野では労災保険の特別加入が認められている作業がありますが、これは限定して列挙された作業に限られ、ミシン縫製はその中に含まれていません。加入できるかどうかは作業の内容で決まるので、労働局に確認してください。
始めるまでの5つのステップ
順番を整理します。
ステップ1。3種類のどれを目指すか決める
手刺繍の委託、ミシン刺繍の委託、作品販売。この3つで、必要な準備がまったく違います。ここを決めずに動くと、情報が混ざって前に進めません。
ステップ2。見本を作る
技法の違う3点を用意します。写真は明るい自然光の下で、真上から撮影します。斜めから撮ると布が歪んで見え、それだけで評価を下げます。見本には、使った糸の種類、所要時間、対応できる技法を添えます。
ステップ3。問い合わせ先を10件並べる
地域の縫製会社、刺繍加工業者、和装関係の店、ユニフォームを扱う会社。地図サービスと業種別の一覧から拾います。1件で決まることはまずないので、最初に数を確保します。あわせて、住んでいる地域の労働局と市区町村の窓口にも問い合わせます。
ステップ4。条件を文書で確認する
工賃の単価、支払期日と支払方法、材料と消耗品の負担、送料の負担、納期、検品の基準、材料を汚損した場合の扱い。この7点を文書で確かめます。家内労働法の対象になる委託なら、家内労働手帳が交付されます。
ステップ5。最初の10点で時間を測る
受け始めたら、前の章の方法で時間あたりの額を測ります。この数字がないまま量を増やすと、忙しいのに手元に残らない状態になります。
この5つのステップは、順番を入れ替えないほうがいいです。とくに多いのが、ステップ2を飛ばして問い合わせてしまう例です。見本がないと、委託する側は腕を判断できません。返事が来ないことを「募集がない」と受け取って探すのをやめてしまう方がいますが、判断材料を渡していないだけ、という場合が少なくありません。
問い合わせて断られたときも、理由を1行だけ聞いてみてください。「いまは足りている」なら時期の問題で、数か月後に再度連絡する価値があります。「この技法には対応していない」なら、練習の方向が分かります。断られた理由は、次の応募のための情報です。
もう一点、複数の委託先を同時に持つことを最初から前提にしてください。1社だけに依存すると、その会社の受注が減った時点で収入がゼロになります。2社から3社と関係を作っておくと、繁忙期の重なりを調整しながら量を保てます。ただし、同時に受けすぎて納期を落とすと信用を失うので、実測した時間あたりの処理量を基準に、受けられる上限を自分で決めておきます。
技法の幅が、受けられる仕事の幅を決める
委託を受けられるかどうかは、刺繍が「できる」かどうかではなく、どの技法にどこまで対応できるかで決まります。委託する側は、製品ごとに必要な技法を持っている相手を探しているからです。
基礎になるのは、輪郭を描く線の技法と、面を埋める技法です。アウトラインステッチ、バックステッチ、サテンステッチ、ロング・アンド・ショートステッチ。この4つが安定して均一に刺せると、ワンポイントの装飾やネームの刺し入れに対応できます。ここが最初の到達点です。
次に幅を広げるのが、素材ごとの扱いです。同じ図案でも、綿、ニット、革、デニム、絹では針の選び方も糸の張り方も変わります。伸びる生地は安定紙を当てないと歪みます。厚い生地は針が通らず、指を痛めます。素材ごとの経験があると、受けられる製品の種類が一気に増えます。制服やユニフォームの委託は、この素材対応の経験が前提になることが多いです。
さらに単価が上がるのが、専門性の高い領域です。和装の刺繍、金糸を使った加工、伝統的な技法による修復、企業のロゴの再現。いずれも数は多くありませんが、代わりが少ないぶん条件の交渉がしやすくなります。
ミシン刺繍では、技法の代わりにデータの扱いが幅を決めます。渡された画像から刺繍データを起こせるか、糸の切り替えを最小にした順序を組めるか、生地に合わせて縫い密度を調整できるか。ここまで対応できると、加工だけを請ける立場から、設計を含めて任される立場に変わります。
幅を広げるための練習は、闇雲にやらないほうがいいです。地域の委託者がどんな製品を扱っているかを先に調べ、そこで必要になる技法から順に練習する。制服を扱う会社が多い地域で、和装の技法を磨いても仕事にはつながりません。需要のある技法から埋めるのが、遠回りに見えて最短です。
検品で戻されないための確認の型
工賃の実額を下げる最大の要因は、検品で戻されることです。戻されると、修正の時間が加わるうえ、送料が二重にかかります。戻りを減らす型を作っておきます。
作業前に確かめるのは4点です。図案の向きと位置、糸の色番号、生地の表裏、仕上がりの寸法。とくに位置は、指示書に書かれた基準点がどこなのかを確認します。「胸元」という指示だけでは、襟からの距離が人によって変わります。基準が曖昧なら、作業前に質問します。この質問を面倒がると、100点作ってから全部戻ることになります。
作業中に気をつけるのは、1点目を仕上げた時点で止めることです。1点目を写真に撮って委託者に送り、これで進めてよいかを確認します。この一手間で、量産後の全戻しをほぼ防げます。急ぎの案件でも、この確認だけは飛ばさないほうが結果的に早いです。
作業後の検品では、5点を見ます。糸の始末が表に出ていないか、生地に針穴やほつれがないか、図案の歪みがないか、寸法が指示どおりか、汚れや手の脂が付いていないか。最後の1つは見落とされがちで、白い生地では特に目立ちます。作業前に手を洗い、作業台に布を敷く習慣を付けてください。
梱包も検品の一部です。折りじわが付くと、それだけで戻されることがあります。芯を入れて巻く、当て紙を挟む、防水の袋に入れる。委託者から指定がある場合はそれに従い、なければ最初に確認します。
そして記録です。何点を、どの技法で、どれだけの時間で仕上げ、何点戻ったか。この記録を残しておくと、自分の弱点が見えます。戻りの理由が特定の工程に偏っているなら、そこだけを練習すれば改善します。感覚で「もっと丁寧にやろう」と考えるより、ずっと早く直ります。この記録は、次の委託者に実績を示すときにも使えます。
内職を装った勧誘を見分ける
刺繍の内職を探している方が巻き込まれやすいのが、仕事の紹介を前提に教材や機械を買わせる形の勧誘です。「研修を受ければ仕事を紹介します」「専用のミシンを購入すれば継続して発注します」という誘い方をします。
この形の取引は、特定商取引法で「業務提供誘引販売取引」という類型に整理されています。売る側には、契約前に事業の概要を記した書面を交付する義務と、契約後に契約内容を明らかにする書面を交付する義務があります。そして、その書面を受け取った日から数えて20日の間は、契約を解除できます。
第五十五条第二項の書面を受領した日から起算して二十日を経過したときを除き、書面又は電磁的記録によりその業務提供誘引販売契約の解除を行うことができる。この場合において、その業務提供誘引販売業を行う者は、その業務提供誘引販売契約の解除に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。 出典: e-Gov 法令検索
同じ条文には、商品が既に届いている場合の引き取り費用は事業者の負担とすること、これらに反する不利な特約は無効とすることも定められています。「解約時は違約金が発生します」という規約があっても、この類型に当たるなら効かない可能性があります。
見分け方は単純です。仕事を受けるために、こちらがお金を払う必要があるかどうか。まっとうな内職の委託では、受ける側が先に金銭を支払うことはありません。材料は委託者から届きます。教材費、登録料、機械の購入が前提になっている話が出てきたら、その場で決めずに持ち帰ってください。判断に迷うときは、局番なしの188で消費生活センターに相談できます。無料で、専門の相談員が対応します。
税金の扱い。知らないと損をする特例がある
刺繍の内職の収入は、事業所得または雑所得として扱われます。ここで知っておきたいのが、家内労働者等の必要経費の特例です。
国税庁の説明では、実際にかかった経費が少なくても、必要経費として一定額を認める仕組みがあります。令和8年分では、その額は69万円です。
家内労働者等の場合には、必要経費として69万円まで(令和7年分は65万円、令和2年分から令和6年分までは55万円。以下同じです。)認められる特例があります。 出典: 国税庁
同じページには、あわせて押さえておきたい数字が書かれています。この特例に該当する所得しかない人で、その年の総収入金額が173万円以下の場合は、総所得金額が基礎控除額の104万円以下となるため、本人に所得税は課されません。また、総収入金額が131万円以下の場合は、扶養者の所得税の計算上、配偶者控除または扶養控除の対象になります。
注意点が2つあります。1つは、給与の収入金額が69万円以上ある場合には、この特例は使えないことです。パートと組み合わせている方は、給与の額によって結果が変わります。もう1つは、世の中に「65万円」「160万円以下」と書かれた解説がまだ多く残っていることです。これは令和7年分の数字で、令和8年分の申告では使えません。必ず国税庁のページで年分を確かめてください。
なお、健康保険の扶養は税金とは別の基準で判定されます。年間収入130万円未満という基準があり、自営による収入は必要経費を控除した額で見られます。税金の扶養と健康保険の扶養は基準が違うので、両方を確かめる必要があります。個別の判断は事情で変わるため、税務署と加入している保険者に確認してください。
手作業の内職と、これからの在宅ワークの関係
在宅ワークの市場を20年にわたって見てきた立場から、ひとつ観察を書いておきます。手作業の内職は、時間あたりの額で見ると、パソコンを使う在宅の仕事より低くなることが多い。これは技術の差ではなく、作業が物理的な時間に縛られているからです。刺繍は、熟練しても1点にかかる時間がゼロには近づきません。
それでも手作業の内職に価値があるのは、始めるための前提が少ないからです。パソコンの環境も、専用のソフトも、オンラインでのやりとりも要らない。この入りやすさは、他では代えがたい強みです。
ただし、運営者として見てきた限りで言えることがあります。手作業の内職だけで収入を組み立てている方は、委託者が1社だと、その1社の都合で仕事が途切れます。実際、繁忙期と閑散期の落差で困るという相談が最も多い。対策は2つしかありません。委託先を複数持つか、別の形の仕事を組み合わせるかです。
組み合わせを考えるときに役立つのが、他の在宅の仕事の水準を知っておくことです。文字を扱う仕事の相場は著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、技術系の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場に、公開された統計をもとにした整理があります。刺繍の工賃を時間あたりに換算した数字と並べてみると、時間をどちらに寄せるべきかが見えてきます。
単価が上がる条件そのものは、どの職種でも共通しています。Webライターが文字単価を上げる方法【2026年版】|1円→5円のステップは、その条件を代わりの少なさ、手戻りの少なさ、納期の確実さに整理しています。刺繍でも同じで、難易度の高い技法に対応できること、検品で戻されないこと、納期を守ることが、次の委託を呼びます。制作系の仕事全体の収入の作り方はWebデザイナー 年収のリアル:30代フリーランスが語る稼ぎ方とキャリアパスにも整理があり、手を動かす仕事から設計する仕事へ移る道筋が参考になります。
依頼側とのやりとりの質も、実は効きます。見積もりや納品の連絡が整っていると、法人からの委託が受けやすくなります。ビジネス文書検定のように出題範囲が公開されている試験は、この部分を整える道具として使えます。手を動かす技術と、条件を文章で詰める力は別のものです。
そして仲介手数料の話です。中間で差し引かれる割合が小さい取引では、同じ予算で依頼側はより多く頼めて、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%の取引が効くのは、金額そのものより、この双方が損をしない関係が続くからです。工賃に下限のない分野では、この差がそのまま生活に響きます。
在宅で受けられる仕事の全体像を確かめておくと、刺繍を軸にしながら谷の時期を埋める組み合わせが見えてきます。企業の業務を外から支える仕事の広がりはAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、必要な経験と作業内容がまとめられています。手で作る仕事の価値は下がっていません。ただ、その価値を収入に変えるには、条件を確かめて記録を残す手間を惜しまないことが前提になります。
よくある質問
Q. 刺繍の内職はどこで募集されていますか?
経路は3つです。地域の縫製会社や刺繍加工業者への直接の問い合わせ、求人検索サービス、そして都道府県労働局や市区町村の家内労働に関する窓口です。委託する側が広く募集を出す習慣がないため、最も確実なのは1つ目です。刺繍の見本と対応できる技法、1日にこなせる量を添えて問い合わせてください。
Q. 家内労働手帳とは何ですか?
家内労働法で、委託する側に交付が義務づけられている手帳です。委託のたびに業務の内容、工賃の単価、工賃の支払期日が記入され、物品を受け取るたびに数量が、工賃を支払うたびに支払額が記入されます。口約束で条件が後から変わる事態を防ぐ仕組みです。交付されないまま始まったら、労働局の窓口に相談してください。
Q. 刺繍の内職に最低工賃はありますか?
最低工賃はすべての業種に定められているわけではありません。東京労働局が公開する資料では、東京都内の最低工賃は電気機械器具製造業、革靴製造業、婦人既製洋服製造業の3業種です。刺繍そのものを対象としたものは含まれていません。自分の仕事がどの業種に当たるかで扱いが変わるので、労働局に確認してください。
Q. ミシンや教材の購入を求められたのですが受けて大丈夫ですか?
まっとうな内職の委託では、受ける側が先に金銭を支払うことはありません。仕事を紹介すると言って先に購入させる形は、特定商取引法で業務提供誘引販売取引という類型に整理されています。この類型に当たる場合、法定の書面を受け取った日から20日間は解除でき、違約金も請求されません。局番なしの188で相談してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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