英語・多言語翻訳の修正を何回まで受けるか|先に決めておく


この記事のポイント
- ✓英語・多言語翻訳の修正対応は
- ✓回数を決めていないと終わりません
- ✓好みの言い換えをどう扱うか
英語や多言語の翻訳を請け負っていて、最も消耗するのが修正対応です。納品したあとに「もう少し自然にしてほしい」と戻され、直して出すとまた別の箇所を指摘され、いつまでも終わらない。この状態に入ると、作業時間だけが伸びていきます。結論から書きます。修正対応で決めるべきなのは回数だけではありません。「何を修正とみなすか」を先に定義しないと、回数を決めても意味を持ちません。
修正回数を2回と決めていても、依頼側が「1回目の指摘」として100か所を送ってくれば、実質的に上限は機能しません。逆に、修正の定義がはっきりしていれば、回数の話をしなくても対応は収束します。この記事では、英語・多言語翻訳の修正対応について、定義の作り方、回数の決め方、着手前に潰しておく項目、そして機械翻訳が絡む場合の線引きまでを順に整理します。
翻訳の修正対応が終わらなくなる構造
翻訳は、他の制作物と違って「正解が1つに定まらない」性質があります。同じ原文から、文法的にも意味的にも正しい訳文が複数作れる。この性質が、修正対応を無限に伸ばす原因です。
デザインなら「この色をこう変えてほしい」という指示は具体的で、直せば終わります。翻訳では「この言い回しをもっと自然に」という指示が来て、直した結果に対してまた「うーん、少し違う」と返ってくる。依頼側に悪意はありません。自分でも何が正解か分かっていないだけです。
修正と再翻訳は別物である
まず整理しておくべき区別があります。修正と再翻訳は違います。
修正とは、納品した訳文に含まれる誤りを直すことです。誤訳、訳抜け、数字の写し間違い、用語の不統一。これらは受注側の責任であり、回数を問わず直すのが筋です。
再翻訳とは、訳文としては成立しているものを別の方向性で作り直すことです。文体を変える、対象読者を変える、堅い文章を柔らかくする。これは新しい作業であり、最初の依頼には含まれていません。
この2つを同じ「修正」という言葉で扱っているから、話が混乱します。見積もりや条件の提示の段階で、この2つを別のものとして書き分けるだけで、対応はかなり整理されます。
「もっと自然に」は指示ではない
依頼側から届く指摘で最も困るのが、「もっと自然にしてほしい」「硬い気がする」「しっくりこない」という種類のものです。これらは感想であって、指示ではありません。この状態のまま直すと、当てずっぽうで書き直すことになり、何度やっても収束しません。
この種の指摘が来たときの正しい対応は、直すことではなく、質問することです。「どの箇所が硬いと感じられましたか」「参考になる文体の例はありますか」「読み手はどなたを想定していますか」。質問して具体化してから直す。この一手間が、往復の回数を大きく減らします。
質問することを遠慮する必要はありません。依頼側にとっても、曖昧な指摘を出して意図と違うものが返ってくるのは損です。質問は、双方の時間を守る行為です。
修正回数を決める前に定義すること
回数の話をする前に、定義を作ります。ここが本題です。
何を修正とみなすかを4つに分ける
届く指摘は、次の4種類に分けられます。この分類を自分の中に持っておくと、届いた指摘への対応が即座に決まります。
第一に、誤訳と訳抜けです。原文の意味を取り違えている、一文まるごと訳されていない、数字や固有名詞が違う。これは受注側の誤りであり、回数に数えず直します。ここで回数を主張すると、専門家としての信用を失います。
第二に、用語や表記の不統一です。同じ語が箇所によって違う訳語になっている、全角と半角が混ざっている、日付の書式が揃っていない。これも品質の問題として直します。ただし、事前に用語集や表記のルールが渡されていなかった場合、依頼側が後から示したルールに合わせる作業は、修正ではなく追加の作業です。
第三に、好みによる言い換えです。「この単語をこちらの言い方にしてほしい」「もう少し柔らかく」。訳文として誤りではないが、依頼側の好みに合わせる作業です。ここが回数の対象になります。
第四に、原文の変更です。原文が差し替わった、追加された、削られた。これは完全に新しい作業であり、修正ではありません。分量に応じて別扱いにします。
この4分類を、条件を提示するときにそのまま書きます。「誤訳と訳抜けは回数を問わず対応します。表現の調整は2回までとします。原文の変更は別途となります」。この書き方なら、依頼側も納得しやすい。
修正の起点をいつにするか
修正の受付期間を決めます。納品から何日以内に指摘をまとめて送ってもらうか。期間を決めていないと、数か月後に「あの翻訳ですが」と連絡が来ることになります。
実務的には、納品から7日から14日程度を受付期間とし、それを過ぎたものは別の依頼として扱う形が現実的です。依頼側の社内確認に時間がかかる場合もあるため、期間は相談して決めます。重要なのは、期間があると明示することです。
誰の指示を修正として受けるか
多言語案件や企業案件では、指摘を出す人が複数いることがあります。担当者、その上司、現地法人の担当者、営業部門。それぞれが別々に指摘を送ってくると、内容が矛盾することも起こります。
これを防ぐには、窓口を1人に決めてもらいます。「社内でご意見をまとめたうえで、まとめてお送りください」と最初に伝える。この一言があるかないかで、往復の回数はまるで違います。矛盾した指示を受け取ったときは、直す前に「どちらを優先しますか」と確認します。
回数をどう決めるか
定義が固まったら、回数を決めます。
表現の調整は2回を基本にする
好みによる言い換えの受付は、2回を基本にすると運用しやすい。1回目で依頼側の好みの方向性が分かり、2回目で微調整して終わる。この流れが自然です。1回だけだと、方向性の確認だけで終わってしまい、依頼側の不満が残ります。3回以上にすると、確認を先延ばしにする習慣がつきます。
回数を提示するときは、「2回まで」と切るより「表現の調整は2回を目安としています」と書いたほうが角が立ちません。実際に3回目が必要になる場面はあります。柔軟に応じつつ、明らかに範囲を超える場合は別途とする。この運用が現実的です。
回数ではなく期間で切る方法
もう一つの考え方が、回数ではなく期間で切る方法です。「納品後2週間は表現の調整に応じます」という形にします。この方式のメリットは、細かい指摘が複数回に分かれて届いても揉めないことです。デメリットは、期間内であれば何度でも来る可能性があることです。
長い文書や継続的な取引では期間方式、単発の短い案件では回数方式が向いています。案件の性質で使い分けます。
分納の場合の数え方
長い案件を分けて納品する場合、回数の数え方を決めておきます。分納のたびに2回ずつなのか、全体を通して2回なのか。ここを決めていないと、後半になって「もう回数を使い切っています」という話になり、揉めます。
分納の場合は、各回ごとに修正を完結させる形が扱いやすい。前半の修正内容を後半に反映させる仕組みにしておけば、後半の修正は自然に減ります。
修正を減らすために着手前にやること
修正対応の最善策は、修正が発生しにくい状態を作ることです。着手前にやることが5つあります。
用語集を作る、またはもらう
固有名詞、製品名、役職名、業界用語。これらの訳し方を先に確定させます。依頼側に既存の用語集があるなら必ずもらう。ないなら、こちらで抽出して確認を取ります。
用語集の確認は、翻訳を始める前に行うのが要点です。訳し終えてから用語の指摘が来ると、全文を修正することになります。着手前なら、確認のやり取りは1往復で済みます。
多言語に展開する案件では、この作業の重みがさらに増します。翻訳を扱う会社では、対応言語の幅が広くなるほど用語の管理が要になります。
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扱う言語が増えるほど、言語ごとに別の担当者が入り、用語の揺れが起きやすくなります。個人で複数言語の案件に関わる場合も、用語集がないまま進めると、あとから全言語分の修正が必要になります。
文体の見本をもらう
依頼側が過去に作った訳文、他社の類似資料、社内の文書。何でも構わないので、目指す文体の見本をもらいます。「自然な日本語で」という指示は人によって想定が違いますが、見本が1つあれば方向性は共有できます。
見本がない場合は、こちらから短い部分を試訳して確認を取ります。全文を訳す前に、冒頭の数段落だけを送って方向性を確認する。この段階を入れるだけで、納品後の大規模な直しはほぼ消えます。
用途を確認する
同じ原文でも、用途によって訳し方は変わります。字幕なら文字数の制限があり、話し言葉として成立させる必要があります。IR資料なら定型の表現に従う必要があります。Webサイトなら検索を意識した語の選び方が求められます。社内資料なら、多少ぎこちなくても正確さが優先されます。
映像の翻訳では、用途によって作業の内容そのものが変わる例があります。
英国で行われた、ウイスキー・コンクールの授賞式の映像の音声を翻訳した案件をご紹介します。 この案件の特徴は、参加された方が英語、または日本語で話すため、[英語→日本語][日本語→英語]へ同時に翻訳が必要だったことです。翻訳したテキストは「映像の字幕として使用される」という用途を伺い、授賞式の各シーンに対応する翻訳内容であることにも留意が必要でした。 映像は、トータル約3時間、文字量にして25,000~30,000文字程度。記録として残すため、不要な会話や「(話し始めの)あー」などの意味をなさない言葉を削除することもご要請にありました。
用途を確認していなければ、意味をなさない発話をそのまま訳して納品し、全面的な修正になっていたはずです。用途の確認は、修正回数を減らす最も効率のよい手段です。
読み手を確認する
誰が読む文書なのかを確認します。専門家か一般の人か、母語話者か非母語話者か、日本の読者か海外の読者か。英語の資料でも、母語話者向けと、英語を第二言語として使う人向けでは、適切な語彙の水準が違います。
この確認をしていないと、「難しすぎる」「くだけすぎている」という指摘が後から来ます。どちらも訳文の誤りではないため、修正の回数を消費することになります。
参照資料をもらう
原文が何かの一部である場合、全体の資料をもらいます。製品マニュアルの一章だけを訳す場合、他の章の訳文があれば表現を揃えられます。プレスリリースなら、その企業の過去のリリースを見れば表現の癖が分かります。
参照資料がないまま訳すと、依頼側の社内基準と違う表現になり、修正が発生します。資料の依頼は、遠慮せずに行います。
多言語案件で特に注意すること
英語だけでなく複数言語を扱う案件では、修正対応の構造が変わります。
言語ごとにチェック体制が違う
依頼側の社内に、英語を確認できる人はいても、他の言語を確認できる人がいないことは普通です。この場合、英語版だけ細かい指摘が来て、他の言語は無風のまま通過します。
これは一見楽ですが、あとから現地の担当者が確認して大量の指摘が来る危険があります。納品時に「現地での確認予定はありますか」と聞いておきます。予定があるなら、その確認が終わるまでが修正の対象期間だと合意しておきます。
現地確認者が入るときの扱い
現地の担当者が入ると、指摘の質が変わります。文法や訳語の誤りではなく、「現地ではこの表現は使わない」「この言い回しは失礼にあたる」といった指摘が来ます。これらは受け入れるべき指摘ですが、修正の回数として数えるかは別の問題です。
現地確認が前提の案件では、その確認を工程として最初から組み込みます。翻訳、現地確認、反映、という3段階の工程として提示し、反映作業を別の工程として扱う。この形にすれば、修正回数の話をせずに済みます。
機械翻訳とAIが入ることで変わったこと
近年、依頼側が機械翻訳やAIツールで下訳を作ってから依頼してくるケースが増えています。この状況は、修正対応の考え方に影響します。
ポストエディットは修正の話と切り分ける
機械翻訳の出力を人が直す作業は、ゼロから訳す作業とは性質が違います。原文と訳文を突き合わせて誤りを探す作業であり、判断の連続です。分量あたりの負荷は、案件によってはゼロから訳すのと変わりません。
この作業を引き受けるときは、「どこまで直すか」を先に決めます。意味の誤りだけを直すのか、読みやすさまで整えるのか、原文と同じ水準の訳文にするのか。この水準を決めずに引き受けると、依頼側の期待と食い違い、納品後に大量の指摘が来ます。
AIツールを使う場合の守秘
自分の作業でAIツールを使う場合、守秘の問題があります。依頼側の資料を外部のサービスに入力してよいかは、契約によって異なります。未公開の情報、個人情報、開発中の製品情報を含む文書では、明示的な許可なく外部サービスに入力するのは危険です。
着手前に、AIツールの使用可否を確認します。使用可の場合も、どのサービスなら許容されるかを確認します。この確認を怠ると、修正どころか契約違反の話になります。※守秘義務の範囲が読み取りにくい契約の場合は、弁護士に相談してください。
技術用語を多く含む案件では、その分野の知識が訳文の質を左右します。ネットワーク関連の文書を扱うならCCNA(シスコ技術者認定)の範囲にある用語体系を押さえておくと、訳語の判断が速くなります。文書としての構成の基本を確認したい場合はビジネス文書検定で問われる型が、日本語側の品質を安定させる助けになります。
費用の考え方をどう提示するか
修正対応の費用については、金額の話をする前に構造を示します。
修正込みか別かを明示する
条件の提示で書くのは、どこまでが依頼に含まれるかです。誤訳と訳抜けの修正は含む。表現の調整は2回まで含む。それを超える調整、原文の変更、用途の変更、文体の全面的な変更は別途。この4行を書くだけで、費用の話の大半は整理されます。
含まれる範囲を明示することは、依頼側にとっても有益です。予算を組むとき、あとから追加が発生するかどうかが分からない状態が最も困るからです。範囲が明確な提示は、それだけで比較のときに有利になります。
追加が発生する条件を先に書く
追加になる条件を先に列挙しておきます。原文が変更された場合、用途が変わった場合、指摘の内容が最初の指示と矛盾する場合、受付期間を過ぎた場合。列挙しておけば、実際に発生したときに説明する必要がありません。書いてあるものを指し示すだけで済みます。
なお、取引条件を書面で明示することは発注側の義務として整理が進んでいます。条件が口頭のまま進みそうなときは、書面での提示を求めて構いません。制度の内容はe-Govで法令の本文を確認できます。
翻訳支援ツールを修正対応に活かす
修正対応の負担は、使うツールによって大きく変わります。手作業で全文を見直す運用を続けている限り、指摘のたびに全体を確認することになります。
翻訳メモリと用語ベース
翻訳支援ツールの中核は、過去に訳した文を蓄積する翻訳メモリと、訳語を固定する用語ベースです。この2つを使うと、同じ表現が別の訳になる事故が構造的に減ります。用語の不統一は修正指摘の中で最も多い種類の一つなので、ここを機械的に潰せる効果は大きい。
用語ベースには、依頼元ごとに設定を分けて登録します。同じ英単語でも、依頼元によって指定の訳語が違うのは普通です。依頼元ごとに分けておかないと、前の案件の訳語を持ち込んで指摘を受けることになります。
翻訳メモリは、修正内容を反映させてこそ価値が出ます。指摘を受けて直した箇所を、そのままメモリに戻す。この運用を続けると、同じ依頼元の次の案件では、前回の指摘が最初から反映された状態で訳せます。3回も同じ依頼元の案件を受ければ、修正の量は目に見えて減ります。
変更箇所を示して返す
修正版を返すとき、全文をそのまま送るのは効率が悪い。依頼側は再度全文を確認することになり、その過程で新しい指摘が生まれます。変更した箇所だけを示す形で返すと、確認の範囲が絞られ、余計な指摘が出にくくなります。
方法はいくつかあります。文書ソフトの変更履歴機能を使う、変更箇所を色で示した対訳表を添える、修正内容の一覧を別ファイルで添える。どの形でも構いませんが、依頼元ごとに好みがあるため、最初に確認しておきます。
ツールを選ぶときの見方
翻訳支援ツールを選ぶときの基準は、機能の多さではありません。依頼元が指定するファイル形式に対応しているか、翻訳メモリを他の形式に書き出せるか、この2点が実務では効きます。
書き出せることが重要なのは、依頼元やツールを変えるときに資産を持ち運べるからです。特定のサービスの中にしかデータがない状態は、長く続けるほど不利になります。無料で使える範囲から始めるのは問題ありませんが、書き出しができるかどうかだけは最初に確認します。
修正が多い依頼元とどう付き合うか
記録を続けていると、修正の多い依頼元と少ない依頼元がはっきり分かれてきます。この差は、翻訳の質より依頼側の体制に由来することが大半です。
社内に確認できる人が複数いる、決裁者が最後に登場する、原文が確定しないまま発注される。こうした体制の依頼元は、構造的に修正が増えます。ここで質を上げようと努力しても、修正の量は減りません。
対応は2つです。1つは、条件の提示を変えること。表現の調整の回数を明示し、窓口を1人にまとめてもらい、原文の確定を着手の条件にする。もう1つは、工程を分けること。訳文の作成と、社内確認への対応を別の工程として提示し、後者を独立した作業として扱う。
どちらも受けないという選択もあります。修正の量が読めない依頼元との取引を続けると、他の案件に使える時間が削られます。判断の材料になるのは、記録です。記録がなければ、この判断はできません。
修正依頼が届いたときの進め方
実際に指摘が届いたときの手順です。
まず分類して返す
届いた指摘を、前述の4分類に振り分けます。誤訳と訳抜け、用語の不統一、好みの言い換え、原文の変更。振り分けた結果を、一覧にして依頼側に返します。
この一覧を返すことが重要です。「ご指摘のうち、5件は訳の誤りでしたので修正します。8件は表現の調整として対応します。3件は原文が変更されているため、別途のご相談とさせてください」。この整理を示せば、依頼側は納得します。整理せずに全部直すと、次も全部直してもらえると思われます。
反映しない場合の書き方
指摘を反映しないという判断もあります。訳語として誤りではなく、変更すると別の箇所と矛盾する場合など。この場合、単に「反映しません」と返すのではなく、理由を書きます。
「ご指摘の語は、第3章で使用している訳語と統一するため現行のままとしました。全体を変更する場合は、該当する12か所すべてを揃える必要があります」。このように書けば、依頼側は判断できます。理由のない拒否は関係を悪くしますが、理由のある提案は専門性の証明になります。
記録を残す
やり取りの記録を残します。いつ、どの指摘を受け、どう対応したか。この記録は、後で「言った言わない」になったときの拠り所になります。また、次の案件の見積もりを作るときの根拠にもなります。
同じ依頼元から繰り返し受注する場合、記録は特に価値を持ちます。この依頼元は表現の指摘が多い、この依頼元は原文の変更が多い、という傾向が見えてきます。傾向が分かれば、次の条件提示を調整できます。
納品時に添える一文をあらかじめ作っておく
修正の条件は、契約や見積もりの段階で示すのが基本ですが、納品のたびに改めて添えると効果が上がります。読み返す場面が最も多いのが、納品のメールだからです。
添える内容は4行で足ります。誤訳や訳抜けは期間を問わず対応すること、表現の調整の受付回数、受付の期間、それを超える場合は別途相談になること。これを定型文として保存しておき、案件ごとに数字だけ差し替えます。
この4行を添えることには、副次的な効果もあります。依頼側が社内で確認を回すとき、その4行がそのまま社内向けの案内になるからです。「表現に関するご意見は今週中にまとめてください」と担当者が社内に伝えられる。結果として、指摘が小分けに届く事態が減ります。
あわせて、指摘の出し方の希望も書いておきます。該当箇所の行番号または該当文を引用して送ってほしい、複数の意見がある場合はまとめて1通で送ってほしい。この2点を書くだけで、届く指摘の扱いやすさが変わります。書かないと、文書全体に赤字が散らばったファイルが返ってきて、整理に時間を取られます。
断るべき修正依頼を見分ける
すべての修正依頼に応じる必要はありません。応じるべきでないものが3種類あります。
1つ目は、最初の指示と矛盾する依頼です。「専門用語はそのまま残してほしい」と指示されて訳したのに、納品後に「専門用語が多くて読めない」と指摘される。この場合、直す前に最初の指示との矛盾を示します。示したうえで方針を変えるなら、それは新しい作業です。
2つ目は、訳文としての誤りを含む修正の要求です。依頼側が指定してきた訳語が明らかに誤りである場合、そのまま反映すると成果物の品質に責任を持てなくなります。指摘の理由を書いて確認を取ります。それでも指定通りにするよう求められたなら、その旨を記録に残したうえで反映します。記録が、後の責任の所在を分けます。
3つ目は、受付期間を大きく過ぎた依頼です。数か月後に届く指摘は、その間に原文や状況が変わっている可能性が高い。断るのではなく、新しい依頼として扱う提案をします。この扱いが最も揉めにくい形です。
よくある失敗
修正対応でよく見る失敗を挙げます。
1つ目は、条件を示さずに納品する失敗です。修正の範囲を書かないまま納品すると、どこまでが依頼に含まれるかは依頼側が決めることになります。納品時に条件を添えるだけで防げます。
2つ目は、曖昧な指摘をそのまま直す失敗です。「もっと自然に」に対して当てずっぽうで直すと、往復が無限に続きます。質問して具体化してから直します。
3つ目は、全部の指摘を無条件に受け入れる失敗です。誤りでないものまで直していると、訳文の一貫性が崩れます。専門家として反対意見を出すのは、義務でもあります。
4つ目は、記録を残さない失敗です。口頭やチャットで流れてしまい、何回目の修正なのかが分からなくなる。回数を決めていても、数えていなければ意味がありません。
5つ目は、修正のたびに全文を再送する失敗です。どこを直したかが分からないと、依頼側は再度全文を確認することになります。変更箇所を示した形で返すと、確認の負担が減り、次の指摘も減ります。
6つ目は、感情的に対応する失敗です。何度も戻されると苛立ちますが、感情が文面に出ると関係が終わります。整理して事実を並べる。それだけで、たいていの状況は前に進みます。
運営者として見てきた、修正で消耗しない人の共通点
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、翻訳の仕事を長く続けている人には共通点があります。着手前の確認に時間を使っていることです。訳し始めるまでに用途を聞き、読み手を聞き、用語を確認し、文体の見本をもらう。この工程を省く人ほど、納品後の修正で時間を失っています。
運営者として見てきた限りでは、間に業者が入らない直接の取引では、この着手前の確認が驚くほど速く終わります。用途も読み手も、依頼した本人が知っているからです。仲介を経由すると、確認のたびに伝言になり、答えが返るまでに日数がかかる。その間に納期だけが迫り、確認を省いたまま訳し始めることになります。手数料0%の直接取引が効くのは、受け取る額の話だけではありません。同じ予算で依頼側はより多くを頼めて、受け手は必要な確認を自分の言葉で行える。この情報の通りやすさが、修正の量そのものを減らしています。
掲載情報から読み取れる、依頼側が重視している点
在宅と業務委託の案件情報を横断して見ると、翻訳の募集で条件として挙がりやすいのは、対応できる言語の数よりも「専門分野の知識があるか」「継続して担当できるか」という点です。単発の依頼より、同じ製品や同じ分野の文書を継続して任せる形の募集が目立ちます。この傾向は、修正対応の設計にも影響します。継続を前提とするなら、初回で用語集を整備しておく投資が、2回目以降の修正を大きく減らします。
分野ごとの依頼の形は、英語・多言語翻訳のお仕事にどのような依頼が集まるかを見ると把握できます。語学の指導まで守備範囲を広げる場合は語学レッスン(英中韓など)のお仕事で扱われる依頼の条件が参考になり、マーケティングや情報セキュリティの文書まで扱うならAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で求められる知識の範囲が手がかりになります。
文章の品質が評価軸になる職種の報酬構造は著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっており、修正対応を工程として位置づける根拠になります。技術文書を扱う場合の評価軸はソフトウェア作成者の年収・単価相場からも読み取れます。独立の段階で契約条件を整えたい場合は定年後のフリーランス独立|退職金を活かした起業プランと注意点が参考になります。
修正対応は、翻訳の品質を守るための工程です。回数を決めるのは、対応を渋るためではなく、どこまでが約束の範囲かを共有するためです。範囲が共有されていれば、依頼側も安心して指摘を出せます。先に決めておくことが、結果として双方の手間を減らします。
よくある質問
Q. 翻訳の修正は何回まで受けるのが一般的ですか?
表現の調整については2回を目安にすると運用しやすくなります。1回目で依頼側の好みの方向性が分かり、2回目で微調整して終わる流れが自然だからです。ただし、誤訳や訳抜けは受注側の誤りなので回数に数えず直します。回数だけを決めても、何を修正とみなすかを定義していなければ機能しません。
Q. 「もっと自然にしてほしい」という指摘には、どう対応すべきですか?
直す前に質問します。どの箇所が硬いと感じたのか、参考になる文体の例はあるか、読み手は誰を想定しているか。これらは感想であって指示ではないため、そのまま直すと当てずっぽうになり、往復が終わりません。質問して具体化することは、双方の時間を守る行為です。
Q. 原文が変更された場合も修正回数に含まれますか?
含めません。原文の変更は新しい作業であり、既存の訳文を直す修正とは性質が違います。条件を提示する段階で、誤訳と訳抜けは回数を問わず対応する、表現の調整は回数を設ける、原文の変更は別途とする、という3段階で書き分けておくと、実際に発生したときに説明せずに済みます。
Q. 修正を減らすために、着手前に確認すべきことは何ですか?
用途、読み手、用語集、文体の見本、参照資料の5つです。特に用途の確認は効果が大きく、字幕、IR資料、Webサイト、社内資料では求められる訳し方がまったく違います。全文を訳す前に冒頭の数段落だけを送って方向性を確認する手順を入れると、納品後の大規模な直しはほぼ消えます。
Q. 機械翻訳の下訳を直す依頼を受けるとき、注意点はありますか?
どこまで直すかの水準を先に決めます。意味の誤りだけを直すのか、読みやすさまで整えるのか、ゼロから訳したのと同じ水準にするのか。水準を決めずに引き受けると、納品後に大量の指摘が来ます。また、自分がAIツールを使う場合は、依頼側の資料を外部サービスに入力してよいか事前に確認します。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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