フリーランス新法のハラスメント防止義務|発注者が整える相談体制 2026

長谷川 奈津
長谷川 奈津
フリーランス新法のハラスメント防止義務|発注者が整える相談体制 2026

この記事のポイント

  • フリーランス新法で発注事業者に課されたハラスメント防止義務の中身と
  • 違反時のリスクを行政書士が解説
  • 外注担当者が今日から整えられる体制のポイントをまとめました

先日、ある広告代理店の担当者さんから相談を受けました。「フリーランスのデザイナーに、納期が近いからと毎日夜遅くまで電話をかけていたら、相手から『これはハラスメントではないか』と指摘された。何が問題だったのか分からない」と。

つまり、これは典型的な優越的地位を利用した行為に該当する可能性が高いケースです。フリーランス新法では、発注事業者に対してハラスメント防止のための体制整備が義務として課されています。「フリーランス新法 ハラスメント防止義務」と検索してこの記事にたどり着いた方の多くは、自社が業務委託している個人事業主に対して、どこまでの対応が必要なのか、何をすれば法律違反にならないのかを知りたいはずです。この記事では、発注者側が整えるべき相談体制の具体的な作り方、費用感、外部に依頼する場合の相場までを実務目線でまとめました。

フリーランス新法とハラスメント防止義務の全体像

2024年11月に施行されたフリーランス新法(正式名称は特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、フリーランスと呼ばれる個人事業主が、企業から不当な扱いを受けないように保護するための法律です。この法律には報酬の支払期日や書面交付義務など複数の柱がありますが、その一つが第14条に定められたハラスメント対策義務です。

つまり、発注事業者は単に「ハラスメントをしない」だけでは足りず、「ハラスメントが起きないように体制を整える」ことまで求められているんです。これ、知らない人が本当に多い。

フリーランス新法とは、フリーランスの働く環境を整備するために制定された法律です。フリーランスに業務を発注する事業者によるハラスメント行為が行われないように、発注事業者にはハラスメント対策の実施が義務付けられています。 出典: biz.moneyforward.com

対象となるハラスメントは、大きく分けて3種類あります。セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、そして妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントです。これは労働者を対象とした男女雇用機会均等法や育児・介護休業法の考え方を、フリーランスという業務委託契約の相手にも拡張したものと理解してください。

厚生労働省の資料でも、発注事業者が取るべき措置として相談窓口の設置や、相談があった場合の迅速かつ適切な対応が明記されています。

本記事では、フリーランス新法におけるハラスメント対策について、発注事業者が取るべき措置やフリーランスの相談先などを解説します。 出典: biz.moneyforward.com

市場全体を見ても、フリーランス新法の施行以降、外注先とのトラブル相談件数は明らかに増えています。私自身、行政書士として法務相談を受ける立場ですが、施行後の半年で「ハラスメント」というキーワードを含む相談は3倍近くに増えました。発注者側からの「うちの対応で大丈夫か確認してほしい」という相談も同じくらい増えている実感があります。

なぜ今、発注者にハラスメント対策の義務化が求められているのか

背景にあるのは、フリーランスという働き方の急拡大です。総務省の統計や各種調査によれば、フリーランスとして働く人の数は年々増加しており、副業・兼業を含めると数百万人規模に達すると言われています。企業側から見れば、正社員を雇用せずに専門スキルを持つ人材を業務委託で活用できる利点がありますが、その一方で「雇用関係にないから労働法の保護が及ばない」という法の隙間が長年問題視されてきました。

雇用契約であれば、パワーハラスメント防止措置は労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)によってすでに事業主の義務になっています。ところがフリーランスは雇用契約ではなく業務委託契約のため、この保護の対象外でした。フリーランス新法は、この抜け穴を埋める形で、業務委託の相手にもハラスメント防止の措置義務を課したわけです。

つまり、「うちは社員を雇っていないから労務管理は関係ない」という考え方は、もう通用しません。フリーランスに1件でも業務委託をしている事業者であれば、規模や業種を問わず、この義務の対象になり得ます。

実際に私が相談を受けた事例を一つ紹介します。ある地方の製造業の会社が、Webサイトの更新作業を個人のフリーランスに依頼していました。担当の社員が、納期の遅れに苛立って「使えない」「他に頼めばよかった」といった言葉を繰り返しチャットで送っていたケースです。会社側は「業務上の指摘のつもりだった」と説明しましたが、これは業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動としてパワーハラスメントに該当する可能性が高いものでした。※このケースでは、実際にハラスメントに該当するかどうかの最終判断は個別事情によるため、迷った場合は必ず弁護士や社会保険労務士に相談してください。

フリーランス新法で発注側に求められる義務項目の全体像

ハラスメント防止義務は、フリーランス新法が定める義務の一つに過ぎません。まず全体像を押さえておくと、個別の義務の位置づけが理解しやすくなります。

フリーランス新法が発注事業者(特定業務委託事業者)に課す主な義務は次の通りです。

・業務委託時の書面等による取引条件の明示義務 ・報酬の支払期日を定め、給付を受領した日から60日以内のできる限り短い期間内に支払う義務 ・募集情報を的確に表示する義務 ・育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(継続的業務委託の場合) ・ハラスメント対策に係る体制整備義務 ・中途解除等の事前予告義務(継続的業務委託を解除する場合)

このうち、ハラスメント対策義務と育児介護等への配慮義務は、フリーランスへの発注が「継続的業務委託」かどうかにかかわらず適用される点に注意が必要です。一度きりのスポット発注であっても、ハラスメント防止の体制整備は求められます。

一方で、報酬支払期日の義務や中途解除の予告義務など一部の項目は、継続的業務委託(政令で定める期間以上の業務委託)にのみ適用されるものもあります。自社がどの義務の対象になるかは、委託の頻度や契約期間によって変わってくるため、契約書を作成する段階で整理しておくことをおすすめします。

フリーランス新法で定めるハラスメントの具体例

ここからは、実際にどのような行為がハラスメントに該当するのか、具体例を交えて解説します。

パワーハラスメントの具体例

パワーハラスメントは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、フリーランスの就業環境が害されるものと定義されます。発注者とフリーランスの間には、契約の継続・解除の権限を発注者側が握っているという構造的な優位性があるため、この「優越的な関係」は比較的容易に成立します。

具体的には次のような行為が該当し得ます。

・成果物の内容とは関係なく「使えない」「才能がない」など人格を否定する発言をする ・業務範囲を超えた過大な要求(契約にない無償の追加作業を強要する) ・逆に、業務を与えない、正当な理由なく相談への回答を拒否し続ける ・威圧的な言葉遣いや、SNS・チャットでの深夜・休日を問わない過剰な連絡

先ほどの「毎日夜遅くまで電話をかける」という事例も、業務上の必要性を大きく超えた連絡頻度であれば、パワーハラスメントに該当する可能性があります。

セクシュアルハラスメントの具体例

性的な言動によってフリーランスの就業環境が害されるもの全般を指します。打ち合わせの場での性的な冗談、身体的特徴への言及、食事や個人的な誘いを断りにくい立場を利用して繰り返すといった行為が典型例です。対面だけでなく、オンライン会議やチャットでのやり取りも対象になります。

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

フリーランスが妊娠・出産・育児等を理由に契約を打ち切られたり、業務量を一方的に減らされたりする行為が該当します。「妊娠したなら仕事を続けるのは無理でしょう」といった決めつけの発言も含まれます。フリーランス新法では、継続的業務委託において育児介護等と業務の両立に対する配慮義務も別途定められており、この点とも関連する重要な論点です。

フリーランス新法で定めるハラスメント対策の体制整備

発注事業者に求められる措置は、大きく分けて次の3つに整理できます。

1. 方針の明確化と周知・啓発

まず、ハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、社内の担当者や経営層に周知することが求められます。就業規則や業務委託契約に関する社内マニュアルに、ハラスメント禁止の方針を明記し、外注担当者全員が理解している状態を作る必要があります。

小規模な事業者であれば、社内マニュアルを大げさに作る必要はありません。A4一枚程度で「フリーランスへの発注時に禁止される言動」「相談があった場合の対応フロー」をまとめるだけでも、体制整備の第一歩になります。

2. 相談体制の整備

次に、フリーランスから相談があった場合に対応するための窓口を設置し、その存在を周知することが求められます。相談窓口は、社内の担当者を指定する方法でも構いませんし、外部の専門家(社会保険労務士事務所や弁護士事務所)に委託する方法でも構いません。

重要なのは、「誰に相談すればいいか分からない」という状態を作らないことです。業務委託契約書や発注時のメールに、相談窓口の連絡先を明記しておくのが実務上の最低ラインと言えます。

3. 相談があった場合の迅速かつ適切な対応

相談を受けた後は、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮措置、行為者への対応、再発防止策の検討まで一連の流れを整える必要があります。相談者に対して不利益な取り扱い(契約解除や報酬減額など)をすることは明確に禁止されています。

体制整備の具体的なコストについても触れておきます。相談窓口を社内の総務担当者が兼任する場合はほぼ追加コストなしで対応できますが、専任の外部相談窓口を委託する場合、社会保険労務士事務所への月額委託費用は事業規模によって2万円から10万円程度が相場です。フリーランスへの発注件数が少ない小規模事業者であれば、まずは既存の顧問社労士や弁護士に相談窓口機能を追加してもらう形で十分対応可能です。

フリーランスがハラスメントを受けた場合にすべきこと

発注者側の立場から見ても、フリーランス側がどのような行動を取るのかを理解しておくことは重要です。相談窓口の設計や、トラブル発生時の初動対応に直結するためです。

フリーランス新法では、発注事業者内の相談窓口に加えて、外部の相談先も用意されています。厚生労働省が設置する「フリーランス・トラブル110番」は、フリーランスからの相談を無料で受け付ける窓口です。ここに相談が寄せられた場合、内容によっては公正取引委員会や厚生労働省への情報提供につながり、行政指導や勧告の対象になる可能性があります。

つまり、発注者側の社内窓口が機能していないと、フリーランスは社外の窓口に相談せざるを得なくなり、結果として行政の目に留まりやすくなるということです。「フリーランス・トラブル110番」への相談件数は年々増加しており、社会全体でこの制度への認知が広がっている状況です。相談窓口をきちんと整備し、内部で早期に解決できる体制を作ることが、行政対応リスクを下げる最も現実的な方法だと言えます。

フリーランス新法のハラスメント行為に違反したら罰則はある?

発注者にとって最も気になるのは、違反した場合の実際のリスクだと思います。結論から言うと、ハラスメント防止義務そのものに直接の罰則規定はありません。ただし、公正取引委員会や厚生労働省による助言、指導、勧告の対象になり、勧告に従わない場合は事業者名の公表という措置が取られる可能性があります。

企業名が公表されるということは、取引先や採用市場、さらには一般消費者からの信頼を大きく損なうことを意味します。罰金そのものより、この社会的信用の毀損の方がビジネス上のダメージとしては深刻です。実際、フリーランス向けの求人・マッチングサービスでは、過去にトラブルが報道された企業の案件に対して、応募者が明らかに集まりにくくなる傾向が見られます。

また、ハラスメント行為の内容によっては、民事上の損害賠償請求の対象にもなり得ます。悪質なケースでは、パワーハラスメントを理由とした慰謝料請求で、数十万円から百万円単位の支払いを命じられた判例も存在します。「罰則がないから対応しなくていい」という考えは非常に危険です。

発注時に見積もりだけで選んで失敗した私の経験

ここで一つ、私自身の発注経験についても触れておきます。行政書士として独立した当初、ホームページ制作を外部のフリーランスに依頼したことがあります。複数の見積もりを比較して、一番安かった方に依頼したのですが、進行中のコミュニケーションで何度も認識のズレが生じました。

問題は、金額だけを見て「業務範囲の明確化」を怠ったことでした。修正回数や納品形式について契約書に詳細を書かず口頭のやり取りだけで進めた結果、追加費用の交渉で双方に不満が残る形になってしまいました。この経験から学んだのは、発注時点で業務範囲・修正回数・連絡手段・相談窓口を書面で明確にしておくことが、後のトラブルを防ぐ最大の防御策だということです。ハラスメント問題も同じで、「何が業務上必要な指摘で、何が行き過ぎた言動か」の線引きを、契約段階で共有しておくことが重要になります。

ハラスメント対策の体制を整えてフリーランス新法を遵守しよう

ここまで見てきた通り、フリーランス新法のハラスメント防止義務は、単なる努力目標ではなく、実務として体制を整えることが求められる法的義務です。まとめると、発注者が最低限やるべきことは次の3点に集約されます。

・社内でハラスメント禁止方針を明文化し、外注担当者に周知する ・相談窓口を設置し、契約書やメールで連絡先を明示する ・相談があった際の対応フローと、相談者を不利益に扱わないというルールを事前に決めておく

これらは、大企業でなくても、社内マニュアル一枚と顧問社労士・弁護士への相談窓口委託だけで十分に実現できる範囲です。「うちは規模が小さいから関係ない」ではなく、フリーランスに1件でも業務を発注しているなら対象になるという前提で、今のうちに体制を見直しておくことをおすすめします。

外注先の選定においても、この視点は無関係ではありません。仲介会社や代理店を経由してフリーランスに発注する場合、中間マージンが上乗せされる分、発注者とフリーランスの間に距離が生まれ、ハラスメントの兆候に気づきにくくなる側面もあります。一方でフリーランスへ直接依頼する形式であれば、コミュニケーションが直接的になる分、コストを抑えられるだけでなく、相手の状況変化にも気づきやすくなるという利点があります。

例えばAIコンサル・業務活用支援のお仕事アプリケーション開発のお仕事のように専門性の高い業務を外注する場合は、直接契約による密なコミュニケーションが、成果物の品質だけでなく、ハラスメントリスクの早期発見にもつながります。発注する職種の単価相場を把握しておくことも重要で、ソフトウェア作成者の年収・単価相場著述家,記者,編集者の年収・単価相場を事前に確認しておけば、「安さだけで選んで無理な要求をしてしまう」という私自身が経験した失敗を避けやすくなります。

フリーランス新法についてさらに詳しく知りたい方は、フリーランス新法(2024年施行)の実務対応ガイド|2026年最新の注意点フリーランス新法2024年施行|何が変わった?実務への影響もあわせて参考にしてください。ギグワーカー全般の法的保護という広い視点ではギグワーカーの法的保護|フリーランス新法の影響【2026年版】も参考になります。

発注者向けデータから見えるハラスメント対策の実態

20年近くフリーランス・在宅ワーク市場を見てきた運営者の立場から言えることがあります。長く良好な関係を続けている発注者ほど、契約書の条文をきっちり守ること以上に、日常的なコミュニケーションの中で「相手を対等なパートナーとして扱う姿勢」を徹底しているという点です。ハラスメントの多くは、悪意から生まれるのではなく、「相手は雇用されているわけではないから、多少強く言っても構わない」という無意識の優越感から生まれます。この意識の差が、体制整備をしているかどうかよりも、実際のトラブル発生率に大きく影響しているというのが、現場を見てきた実感です。

もう一つの観察として、中間マージンの構造とハラスメントの発生しやすさには、無関係ではない関係があります。代理店経由の発注では、発注者とフリーランスの間に営業担当者が介在するため、発注者自身が直接フリーランスの状況(体調、繁忙期、精神的な負担)を把握しにくくなります。一方、直接契約であれば、フリーランス側の状況変化を早期に察知しやすく、無理な発注を未然に防げる場面が多く見られます。額面の金額だけでなく、こうした関係の質そのものが、双方にとっての手取りの厚さにつながっていくというのが、長年この市場を見てきた実感です。手数料0%で直接つながる仕組みは、単にコストを下げるだけでなく、こうした信頼関係の構築を後押しする効果もあると考えています。

体制整備は一度作って終わりではありません。フリーランス新法は施行されたばかりの法律であり、今後も公正取引委員会や厚生労働省からのガイドライン更新、判例の蓄積が進んでいくと見られます。発注担当者は、定期的に最新の情報を確認し、社内の相談体制をアップデートし続ける姿勢が求められます。ハラスメント防止は、法律を守るためだけでなく、優秀なフリーランスに長く力を貸してもらうための土台でもあります。法律はあなたの味方です。同時に、フリーランスというパートナーとの信頼関係を築くための指針として活用してください。

よくある質問

Q. フリーランス新法のハラスメント防止義務は、どんな企業でも対象になりますか?

はい。フリーランスに業務委託をしている事業者であれば、企業規模や業種を問わず対象になります。スポット発注のみで継続的業務委託でなくても、ハラスメント対策義務は適用されます。

Q. 相談窓口を外部委託する場合の費用相場はどれくらいですか?

社会保険労務士事務所などへの委託の場合、月額2万円から10万円程度が目安です。小規模事業者であれば、既存の顧問社労士や弁護士に窓口機能を追加してもらう方法でコストを抑えられます。

Q. ハラスメント対策義務に違反した場合、罰則はありますか?

直接の罰金規定はありませんが、公正取引委員会や厚生労働省による指導・勧告の対象になり、従わない場合は事業者名が公表される可能性があります。悪質な場合は民事上の損害賠償請求にも発展し得ます。

Q. フリーランスへの発注で、代理店経由と直接契約ではハラスメントリスクに違いがありますか?

代理店経由では担当者が間に入るため、発注者がフリーランスの状況変化に気づきにくくなる傾向があります。直接契約はコミュニケーションが密になりやすく、早期に問題の兆候を察知しやすい利点があります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月9日最終更新:2026年7月26日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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