サーバー・インフラ構築のもう一度頼まれる人|次に繋がる終わり方


この記事のポイント
- ✓サーバー・インフラ構築でリピートされる人は
- ✓構築の腕前ではなく案件の終わり方が違います
- ✓初期不具合の線引きまで
サーバー・インフラ構築の仕事で「リピートされる人とされない人の差は何か」を知りたい人は、たいてい技術の話を期待しています。ところが実際に契約を更新している人の共通点は、構築中の腕前ではなく案件の終わり方にあります。結論から書くと、次も頼まれる人は、引き渡す物が最初から決まっていて、検収の合否基準を着手前に文書で合わせ、運用が回り始めるところまでを工程に入れています。この記事では、その終わり方を手順と判断の基準に分解します。
依頼者側は、構築の途中でエンジニアの技量を正確に評価できません。設定ファイルの中身を読める発注担当者は少数です。評価が固まるのは、引き渡しを受けたあと、自分たちだけで運用を始めた最初の数週間です。ここで詰まらなかった相手にだけ、次の依頼が向かいます。これ、知らない人が本当に多いのです。
サーバー・インフラ構築でリピートされる人が握っている条件
まず前提として、インフラの仕事は成果物が目に見えにくいという特徴があります。Webサイトの制作なら画面を見せれば済みますが、サーバーやネットワークは「動いていて当たり前」の領域です。動いている状態は誰の目にも同じに見えるため、良い構築と雑な構築の差は、障害が起きるまで表面化しません。
依頼者が本当に恐れているのは構築の失敗ではない
発注する側の恐怖は「作れないこと」ではありません。作った人がいなくなったあと、誰も触れない箱が社内に残ることです。前任のベンダーが去ったあとにパスワードもドキュメントも残っておらず、OSの更新ひとつ怖くて踏めない、という状態は珍しくありません。この不安は、次の発注先を選ぶときの最優先事項として効いてきます。
つまり、リピートの判断基準は「この人に任せると、あとが楽か」という一点に集約されます。技術的に高度なことをやったかどうかではなく、引き継ぎ可能な形で残したかどうかで決まります。
構築と運用は担当者が変わるという前提を持つ
構築を請け負う人が運用まで面倒を見るとは限りません。むしろ、構築は外部に出して運用は社内に戻す、という形が多数派です。この断絶をどう埋めるかが、終わり方の設計そのものになります。
テストに問題がなければ、実際にITインフラの運用を開始します。なお、ITインフラ構築担当者と運用担当者が異なる場合がありますので、運用担当者を構築時点からプロジェクトに参画させるなど、運用習熟期間の設定を含め運用開始をスムーズにおこなうための取り組みが必要になります。常時インフラの安定稼働を保つためには、サーバやネットワークの監視を欠かさずおこなうことが必要です。 出典: dx.nid.co.jp
ここに書かれている「運用担当者を構築時点からプロジェクトに参画させる」は、受注側から提案できる項目です。依頼者から言われるのを待つ必要はありません。着手時の打ち合わせで「運用を担当される方はどなたですか。設計レビューの段階から同席いただけますか」と聞くだけで、終盤の引き継ぎコストは大きく下がります。そして、この一言を最初に言える人は、そう多くありません。
評価が確定するのは引き渡しから最初の1か月
構築が終わった直後は、依頼者側もまだ判断材料を持っていません。評価が固まるのは、月次のバッチが一巡し、最初のセキュリティ更新を当て、想定外のアラートが1回鳴った頃です。おおむね1か月を見ておけば足ります。この期間に「聞けば答えが返ってくる」状態を維持できたかどうかが、次の依頼の有無を分けます。
次に繋がる終わり方を作る引き渡し物の作り方
終わり方は気持ちの問題ではなく、成果物の設計です。何を渡すかを着手前に決めておけば、終盤に慌てることはありません。以下は、サーバー・インフラ構築の案件で渡すべき物の標準的な内訳です。
構成図は論理と物理を分けて描く
構成図を1枚で済ませようとすると、どちらの用途にも使えない図になります。ネットワークの経路や名前解決の流れを示す論理構成図と、機器やインスタンスの実体と接続を示す物理構成図は、読む人も使う場面も違います。論理図は障害の切り分けに使われ、物理図は増設や更改の見積もりに使われます。
図の中に「なぜそうしたか」を書き込む必要はありません。ただし、図の外に短い設計意図のメモを添えると、数年後に更改を検討する人が助かります。ここで手を抜くと、次の更改案件は別の会社に流れます。
パラメータシートは実機から出力して作る
設定値の一覧を手で書き写すと、必ずどこかがずれます。OSやミドルウェアの設定は、可能な限り実機から出力したものを整形して残します。手作業の転記は、渡した瞬間から嘘になり始めるためです。
シートには、既定値のままの項目も含めます。「触っていない」という情報自体が、次に触る人にとっての判断材料になるからです。変更した項目だけを書いたシートは、変更していない項目が既定値なのか、それとも記録漏れなのかを区別できません。
手順書は構築手順と復旧手順を分冊にする
構築手順書は、同じ環境をもう一度作るための文書です。復旧手順書は、壊れたときに元に戻すための文書です。この2つを1冊にまとめると、深夜に障害対応をしている人が、必要なページに辿り着けません。
復旧手順書には、判断の分岐を入れます。「サービスが応答しない場合」「ディスクが逼迫している場合」「特定のノードだけ切り離したい場合」といった入口を用意し、そこから該当するコマンド列に飛ばす構成にします。上から順に読ませる文書は、緊急時には機能しません。
監視の閾値には根拠を添える
監視ツールを入れて通知を設定するところまでは、多くの人がやります。差が出るのは、その閾値をなぜその値にしたかを残しているかどうかです。根拠のない閾値は、鳴りすぎれば無視され、鳴らなければ意味を失います。
「このバッチが動く時間帯は使用率が上がるため、継続15分を超えた場合のみ通知する」といった一文があれば、運用担当者は自分で調整できます。逆に根拠がなければ、担当者は怖くて値を触れず、鳴り続けるアラートを無視する運用に落ちます。
アカウントと権限の棚卸しをして去る
構築の過程で作った作業用アカウント、一時的に付与した管理者権限、検証のために開けたポート。これらの後始末は、退場時にまとめてやるのではなく、一覧として渡します。「作ったもの」ではなく「消したもの」の一覧を渡すのがポイントです。
依頼者側から見ると、外部の人間が持っていた権限が確実に閉じられたという証跡は、社内の情報セキュリティ報告にそのまま使えます。この一枚を用意できる相手は、次も安心して呼べます。
検収から保守へ繋げる手順
引き渡し物を揃えても、検収の合意ができていなければ案件は綺麗に終わりません。もめる案件のほとんどは、合否の基準が言葉でしか共有されていません。
テストの合否基準は着手前に文書化する
テスト仕様書を作るタイミングは、テストの直前ではなく着手直後です。何をもって「完成」とするかを、依頼者の署名または承認メールの形で残します。ここが曖昧なままだと、終盤に「思っていた性能が出ていない」という話が出てきたときに、追加作業なのか瑕疵なのかを切り分けられません。
具体的には、正常系の動作確認、異常系のフェイルオーバー確認、負荷をかけた状態での応答確認、バックアップからの復元確認、この4種類を最低限の枠として置きます。復元確認は省かれがちですが、バックアップは取れているのに戻せない、という事故が実際に起きる領域です。
運用習熟期間を工程表に書き込む
構築完了日と契約終了日を同じ日に置くと、引き継ぎが雑になります。テスト完了から契約終了までの間に、運用担当者が実際に手を動かす期間を確保します。この期間中は、受注側は主体ではなく後ろに立つ立場になります。
期間の中身は、定例の確認会を数回入れる形が扱いやすいです。1回目で手順書を見ながら通常運用を一巡させ、2回目で復旧手順を机上で追い、3回目で残った疑問を潰します。ここまでやると、契約が切れたあとの問い合わせが激減します。問い合わせが減ることは、受注側にとっても利益です。
初期不具合の扱いを契約書で線引きする
引き渡し後に発覚した不具合を、無償で直すのか有償で直すのか。これを曖昧にしたまま終わると、善意で対応しているうちに関係が悪化します。対象範囲と期間を先に決めておくのが正しい形です。
線引きの考え方はシンプルです。契約時に合意した仕様を満たしていない部分は、受注側の責任として無償で修正する。仕様に含まれていなかった要望や、引き渡し後に依頼者側が加えた変更に起因する不具合は、別途の作業として扱う。この2行を契約書に入れておくだけで、判断に迷う場面がほとんどなくなります。
※契約書の条項の作り方に不安がある場合は、業務委託契約に詳しい専門家に一度目を通してもらうことをおすすめします。特に損害賠償の上限や再委託の可否は、後から効いてくる項目です。
最終報告は書面で残す
口頭の報告会だけで終わらせず、A4で数枚の報告書を渡します。実施した作業、確認した項目、残課題、推奨する次のアクション。この4項目が入っていれば十分です。
報告書の「推奨する次のアクション」は、次の案件の種になります。ここに書くべきは、営業文句ではなく、技術的に必然性のある提案です。証明書の有効期限が来る時期、サポート期限が切れるOSのバージョン、現状の構成では耐えられなくなる利用者数の目安。事実として書けば、依頼者は自分で判断して相談してきます。
リピートされない人がやっている失敗
現場で繰り返し見られる失敗には、はっきりした型があります。技術力の不足が原因のものは、実は多くありません。
手順書が自分向けのメモになっている
自分が思い出すために書いた文書は、他人には読めません。前提となる知識、作業の目的、実行してよいタイミングの条件が省略されているためです。他人が読む文書かどうかは、一文ごとに「主語が省略されていないか」を確認すると判定できます。
判定の簡便な方法として、その職種を知らない人に手順書の最初のページだけ読ませ、何をする文書なのかを説明させる、というやり方があります。説明できなければ、前提の記述が足りていません。
引き渡し後に連絡が取れなくなる
案件が終わった翌週から返信が遅くなる相手には、次は頼めません。契約が切れている以上、無償で対応する義務はありませんが、返信すること自体は義務ではなく態度の問題です。
現実的な運用としては、契約終了時に「契約は終了しますが、この構成についての簡単な質問には引き続きお答えします。作業が発生する内容の場合は改めてお見積りします」と伝えておく形が扱いやすいです。線を引いたうえで窓口は開けておく、という姿勢が信頼になります。
属人的な運用を残したまま去る
自分だけが知っている手順、自分の個人アカウントに紐づいた設定、自分のPCにしかないスクリプト。これらを残して去ると、短期的には次も呼ばれます。ただし、それは信頼ではなく人質です。依頼者は不便を感じているため、機会があれば別の会社に切り替えます。
長く続いている人は逆をやります。自分がいなくても回る状態を作り、そのうえで「新しいことをやるときに呼ばれる」位置に立ちます。これが最も再現性の高い形です。
進捗の共有が「問題がないこと」の報告だけになっている
週次の進捗報告が「予定通りです」の一言で終わる案件は、終盤で必ず揺れます。依頼者側の担当者は、社内で説明する材料を持てないためです。順調であっても、今週やったこと、来週やること、判断が必要な事項の3点を分けて書く形にします。
特に「判断が必要な事項」の欄は、空でも欄ごと残します。この欄があると、依頼者は自分が判断すべきことがある関係だと理解します。何も相談されないまま進んだプロジェクトは、完成時に「聞いていない」という話が出やすくなります。逆に、小さな判断を何度も預けた相手には、依頼者側にも当事者意識が生まれます。この積み重ねが、引き渡し後の協力関係に繋がります。
依頼者の言葉をそのまま設計に落とす
「とりあえず冗長化してほしい」「セキュリティを強化してほしい」といった要望を、確認せずに実装すると、必ず認識のずれが出ます。冗長化と一口に言っても、どこまでの障害を許容し、切り替えに何秒かけてよいかで構成は変わります。
要望を受けたら、達成したい状態を数量で聞き直します。「停止が許されるのは何分までですか」「直近で困った事象は何でしたか」。この確認を挟まずに作ったものは、使い始めてから「思っていたのと違う」と言われます。
自社構築と外部委託の比較から見える、外部に求められる役割
依頼者が外部に発注するかどうかを決めるとき、比較されているのは費用だけではありません。社内で構築する場合、担当者は他の業務と兼務になり、構築が長期化します。一方で、社内には環境の経緯が蓄積されます。
外部委託する場合、短期間で構築が終わり、経験の蓄積された設計が入る一方で、社内に知見が残りにくいという弱点があります。つまり外部の受注者に求められている役割は、構築そのものに加えて、社内に知見を残すことです。この構造を理解している人は、ドキュメントを「おまけ」ではなく成果物の中心に置きます。
メリットとデメリットを整理すると、外部委託の最大の利点は立ち上がりの速さ、最大のリスクは属人化です。受注側がリスクの方を潰しに行けば、依頼者にとって外部委託の弱点が消えます。この状態を作れた相手が、継続的に呼ばれます。
終わり方を支えるスキルと、証明の仕方
文書を書く力は技術力の一部
インフラの現場では、文書作成能力が技術力と同列に扱われます。設計書、手順書、報告書のいずれも、読み手の行動を変えるために書かれる文書です。感想文ではありません。
文書の基本形を体系的に押さえたい場合、ビジネス文書の基礎を扱う検定が参考になります。ビジネス文書検定は、社外文書の型や敬語の使い分けを扱う検定で、報告書や見積書の体裁を整える土台になります。資格そのものが評価されるというより、型を知っていることが文書の速度を上げます。
基礎の証明にはネットワーク系の資格が効く
インフラ領域では、ネットワークの基礎知識があるかどうかで会話の速度が変わります。CCNA(シスコ技術者認定)は、ルーティングやスイッチングの基礎を体系的に扱う認定で、サーバー側から入った人が経路やセグメントの話を扱えるようになるうえで役に立ちます。障害の切り分けで「サーバーの問題ではない」と説明する場面で、根拠を持って話せるかどうかは大きな差です。
隣の領域を1つ持っておく
サーバー・インフラ構築だけを続けていると、依頼の波に左右されます。監視やセキュリティ、クラウドの運用最適化など、隣接する領域を1つ持っておくと、同じ依頼者から別の相談が来るようになります。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事では、セキュリティ診断や運用支援を含む在宅の業務委託がどのような形で募集されるかを確認できます。インフラの知見はそのまま横に伸ばせる分野です。
案件の全体像を掴みたい場合は、サーバー・インフラ構築・保守のお仕事が参考になります。構築だけでなく保守や監視まで含めた依頼がどのような粒度で出てくるかが分かると、終わり方の設計もしやすくなります。
引き渡し物を「実際に読まれる文書」にする書き方
作った文書が読まれなければ、引き渡しは成立していません。分量を増やすほど読まれなくなるという逆説があるため、書き方には型が要ります。
冒頭に「この文書で何ができるか」を書く
技術文書の一行目に目的を書く習慣は、意外に定着していません。「本書はxxxシステムの構築手順を記載する」という書き出しは、目的ではなく分類です。読み手が知りたいのは「この文書を読めば何ができるようになるのか」です。
「本書に従えば、同一構成の環境をゼロから再構築できます。障害時の復旧手順は別冊を参照してください」と書けば、読み手は自分が今開くべき文書かどうかを一行で判断できます。文書が複数ある案件では、この一行の有無が全体の使い勝手を決めます。
更新履歴と版数を必ず付ける
引き渡した文書は、そのあと依頼者側で更新されていきます。版数と更新履歴がない文書は、更新された瞬間に「どれが最新か分からない資料」になります。表紙に版数、末尾に更新履歴の表を置くだけで、文書は生き続けます。
更新履歴の欄には、日付と変更内容に加えて、変更した人の所属を書く欄を用意します。受注側が書いた行と、依頼者側が書いた行が混ざるためです。誰が書いた記述かが分かれば、疑問が出たときの問い合わせ先が明確になります。
スクリーンショットに頼りすぎない
管理画面の操作手順をスクリーンショットで説明すると、その時点では分かりやすい文書になります。ただし、クラウドサービスの管理画面は頻繁に変わるため、画像は数か月で古くなります。画像が古い文書は、読み手に「この文書全体が古い」という印象を与えます。
対策は単純で、操作の意図を文章で書き、画像は補助に留めることです。「セキュリティグループの受信規則に、特定の送信元からの接続だけを許可する規則を追加する」と書いてあれば、画面の配置が変わっても手順は追えます。画像しかない文書は、画面が変わった瞬間に価値がゼロになります。
用語を1つに統一する
同じものを、ある章では「サーバー」、別の章では「ホスト」、さらに別の章では「インスタンス」と呼ぶ文書は、読み手を消耗させます。案件の最初に用語の対応表を作り、文書全体で統一します。表記の揺れは、内容の正しさとは別に、文書の信頼度を下げます。
対応表は引き渡し物の1つとして渡します。依頼者側で文書を更新する人が、同じ語彙を使い続けられるためです。
案件の種類ごとに終わり方は変わる
サーバー・インフラ構築と一口に言っても、案件の性質によって引き渡しの重心は変わります。同じ型をそのまま当てはめると、過剰になったり不足したりします。
新規構築の案件
ゼロから作る案件は、設計意図の記録が最も重要です。なぜその構成にしたのか、検討して見送った案は何だったのか。この情報がないと、数年後の更改時に、全ての判断をやり直すことになります。
見送った案を書き残すのは、面倒に見えて効果が大きい作業です。「コストの制約でこの構成にしたが、利用者数が一定を超えたらこちらの案に切り替える」と書いておけば、次の相談は自然にこちらに来ます。
移行・更改の案件
既存環境から新環境へ移す案件では、切り戻しの条件を明文化することが引き渡しの中心になります。どの時点まで戻せるのか、戻す判断は誰がするのか、戻したあと再挑戦するまでの猶予はどれくらいか。
移行案件は、当日の作業手順書に注目が集まりますが、実務上の価値は「移行後に旧環境をいつ止めるか」の計画にあります。旧環境を止める日程と、その前に確認する項目の一覧を渡しておくと、依頼者は安心して移行に踏み切れます。旧環境が惰性で動き続け、費用だけがかかっている状態は、現場でよく見かけます。
保守・運用を含む継続的な案件
構築から運用まで一貫して受ける場合、引き渡し物の考え方は変わります。渡す相手が自分自身になるため、文書の目的は「引き継ぎ」ではなく「継続性の担保」になります。自分が体調を崩したときに、代わりの人が最低限の対応をできる状態を作るのが目的です。
この場合でも、依頼者に対しては定期的に状況の報告を出します。何も起きていない月に報告が届くことが、契約を継続する理由になります。何もなかったから報告しない、という運用は、依頼者側から見ると「費用の根拠が分からない」状態です。
スポットのトラブル対応
一度きりの障害対応で呼ばれた場合こそ、終わり方が次に効きます。原因、暫定対応、恒久対応の3点に分けた報告書を渡すのが基本形です。恒久対応の部分に、今回は範囲外だが将来必要になる作業を書いておけば、それが次の依頼の入口になります。
急いで直して口頭で説明して帰る、という対応は、感謝はされても記憶には残りません。書面が残っている相手だけが、半年後に思い出されます。
市場を長く見てきた立場からの観察
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、長く続く人ほど、単発の作業ではなく「この人に任せると楽」という関係づくりに時間を使っています。作業の速さで選ばれた関係は、より速い人が現れれば終わります。楽さで選ばれた関係は、乗り換えるコストが依頼者側に発生するため、そう簡単には切れません。
もう一つ、運営者として見てきた限りでは、中間マージンが乗らない直接取引の効き方は、受注者の手取りが増えるという一点だけではありません。同じ予算で依頼者はより多く頼めるため、依頼の頻度そのものが上がります。手数料0%の意味は、金額の大小より、依頼と受注が続きやすくなるという関係の質にあります。終わり方を丁寧に設計する人ほど、この構造の恩恵を受けやすい。次の依頼が来る前提があってはじめて、引き継ぎに時間をかける投資が回収されるためです。
年齢とキャリアの後半でこの働き方に入る人も増えています。長く企業のシステム部門にいた人が独立するケースでは、構築の技術より、社内調整と文書化の経験が武器になります。定年後のフリーランス独立|退職金を活かした起業プランと注意点では、独立時の資金計画と契約形態の選び方を扱っています。インフラ領域は経験の蓄積が効く分野であり、終わり方の設計は経験のある人ほど得意です。
報酬の水準を確認しておきたい場合は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場で職種ごとの統計的な傾向を見られます。ただし、統計値はあくまで分布の話です。個々の契約で効いてくるのは、次の依頼が来るかどうかという継続性の方です。
引き継ぎに使う時間をどう確保するか
終わり方を整える作業には時間がかかります。その時間を、見積もりの中に入れておく必要があります。
引き渡しの工程を「作業が終わったあとの余り時間」で処理しようとすると、必ず削られます。工程表に文書作成と引き継ぎの期間を明示的に置き、そこも作業の一部として扱います。依頼者側も、資料の作成が無料の付属品ではないと理解していれば、時間の確保に協力します。
もう1つの方法は、文書を作業と同時に作ることです。設定を決めた直後に記録を残し、作業を終えた直後に手順を書く。まとめて書こうとすると精度が落ちるうえ、終盤に時間が足りなくなります。作業と記録を分けないほうが、結果として速く終わります。
終わり方から逆算した進め方
ここまでの内容を、案件の時間軸に沿って並べ直します。
着手前にやることは3つです。運用担当者を特定して設計レビューに同席してもらう。テストの合否基準を文書で合意する。引き渡し物の一覧を提示して過不足を確認する。この3つは、いずれも工数をほとんど使いません。
構築期間中にやることは2つです。パラメータシートと構成図を、作業と並行して更新する。決めた設定の理由を、その場で1行だけ残す。あとでまとめて書こうとすると、必ず精度が落ちます。
引き渡し期間にやることは3つです。運用担当者に手を動かしてもらう定例を複数回置く。アカウントと権限の後始末の一覧を渡す。最終報告書に残課題と次のアクションを書く。
契約終了後にやることは1つです。窓口を閉じない。作業が発生するものは見積もりを出す、という線を引いたうえで、質問には答える。
この流れを一度通しでやれば、次の案件でも同じ型が使えます。型を持っている人は、案件ごとに終わり方を考え直す必要がありません。そして依頼者から見ると、その安定感こそが「もう一度頼む理由」になります。法律も契約も、突き詰めれば同じ方向を向いています。決めておけば、揉めない。決めておけば、続く。
よくある質問
Q. 構築が終わったあと、どこまで無償で対応するべきですか?
契約時に合意した仕様を満たしていない部分の修正は、受注側の責任として無償で対応するのが原則です。仕様に含まれなかった要望や、引き渡し後に依頼者側が加えた変更に起因する不具合は、別途の作業として見積もります。この線引きを契約書に1行入れておくと、判断に迷う場面がほとんどなくなります。
Q. 引き渡し資料はどこまで作れば十分ですか?
最低限は、論理と物理を分けた構成図、実機から出力したパラメータシート、構築手順書、復旧手順書、監視設定とその閾値の根拠、アカウントと権限の後始末一覧です。復旧手順書は障害時に読まれるため、上から順に読ませる構成ではなく、症状から該当箇所に飛べる構成にします。
Q. 継続して依頼をもらうために、営業活動は必要ですか?
新規開拓には営業が要りますが、既存の依頼者に対しては最終報告書が営業の役割を果たします。証明書の有効期限、サポート切れが近いOSのバージョン、現構成で耐えられなくなる利用者数の目安などを事実として書いておけば、依頼者は自分で判断して相談してきます。売り込む文章より、事実の提示が効きます。
Q. 運用担当者が決まっていない場合はどうすればよいですか?
着手時の打ち合わせで、運用を担当する予定の部署と人を確認します。未定であれば、それ自体をリスクとして議事録に残し、決まり次第レビューに同席してもらう形にします。決まらないまま引き渡すと、資料が読まれないまま放置され、半年後に基本的な質問が大量に来る状態になります。
Q. インフラ以外のスキルは身につけるべきですか?
文書を書く力を最優先で伸ばすのが有効です。設計書も報告書も、読み手の行動を変えるために書く文書であり、この精度が引き継ぎの質を決めます。そのうえで、監視やセキュリティなど隣接する領域を1つ持つと、同じ依頼者から別種の相談が来るようになり、依頼の間隔が空きにくくなります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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