ダブルワークで週40時間を超えるとどうなるか|割増賃金と申告の扱い 2026

長谷川 奈津
長谷川 奈津
ダブルワークで週40時間を超えるとどうなるか|割増賃金と申告の扱い 2026

この記事のポイント

  • 週40時間超のダブルワークは
  • 労働時間が通算されるため「どちらの会社に何を伝え
  • どの順番で契約するか」で結果が変わります

先日、あるコールセンター勤務の方から相談を受けました。「平日フルタイムの仕事に加えて、土日だけ別の会社で働き始めたら、副業先から突然『契約を打ち切りたい』と言われた」と。理由を聞くと、副業先が後から本業の存在を知り、自社に割増賃金の支払い義務が生じることに気づいたからでした。結論から言うと、これは本人が悪いわけでも副業先が意地悪なわけでもありません。2社の間で情報のやり取りが設計されていなかったことが原因です。

週40時間超のダブルワークで実際にトラブルになるのは、法律の条文そのものではなく、雇用先どうしの調整です。どちらの会社に、いつ、何を伝えるか。そして、どちらを先に契約するか。これ、知らない人が本当に多いんです。この記事では、割増賃金の計算方法やシフトの組み方ではなく、2社間の情報伝達と契約順序の設計に絞って、実務手順を解説します。

週40時間超のダブルワークで本当に揉めるのは「会社間の調整」

労働基準法第38条第1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。つまり、A社で週32時間、B社で週12時間働けば、合計44時間として扱われ、法定労働時間の週40時間を4時間超えることになります。ここまでは多くの記事が書いていることです。

問題は、この「通算」という仕組みが、労働者本人ではなく雇用主に義務を課している点にあります。会社は自社の勤怠システムしか見ていません。他社で何時間働いているかは、本人が申告しない限り一切わかりません。それなのに、法律上は「他社の労働時間を把握したうえで、自社が割増賃金を払うかどうか判断せよ」と求められている。この構造的なズレが、ダブルワークのトラブルの震源地です。

正社員とダブルワークで週40時間を超える労働は、労働基準法上の時間外労働となり、副業先には割増賃金の支払い義務が生じます。ルールを知らずに始めると、思わぬトラブルにつながる可能性があります。 出典: theport.jp

実際に起きるトラブルは、次のような形をとります。副業先が労働基準監督署の是正指導を受けて、遡って割増賃金を支払うことになった。副業先が「うちだけが損をする」と考えて契約更新を断った。本業側が就業規則違反を理由に懲戒処分を検討した。いずれも、本人が悪意を持って隠していたわけではなく、単に「言う必要があると知らなかった」ケースがほとんどです。

だからこそ、週40時間を超えるダブルワークを始めるなら、最初に設計すべきは働き方ではなく情報の流れです。誰に、何を、いつ伝えるか。その順番を間違えなければ、多くのトラブルは起きません。

労働時間の通算で「後から契約した会社」が負担するという原則

会社間の調整を設計するうえで、絶対に押さえておくべき原則が1つあります。時間外労働の割増賃金を負担するのは、原則として「後から労働契約を締結した会社」だということです。

厚生労働省が示している副業・兼業の考え方では、所定労働時間の通算は労働契約の締結順に行います。先に契約したA社の所定労働時間が週40時間で埋まっていれば、後から契約したB社の労働時間は、その最初の1時間目から法定外労働時間になります。したがって、B社が25%以上の割増率で賃金を支払う義務を負います。

つまり、契約の順番が変わるだけで、支払い義務を負う会社が入れ替わるということです。ここが実務上いちばん重要なポイントで、同時に交渉材料にもなります。

「後から契約」の判定は入社日ではなく契約日

ここで誤解されやすいのが、判定の基準日です。実際に働き始めた日ではなく、労働契約を締結した日で判定します。41日に雇用契約書に署名し、勤務開始が51日という場合、契約締結日は41日です。

この違いが効いてくるのは、転職と副業開始が近い時期に重なるときです。たとえば、新しい本業の内定承諾書に署名した後に、既存のアルバイト先と契約を更新した場合、更新契約の締結日次第で「後」の会社が入れ替わることがあります。有期契約の更新は新たな契約締結として扱われるのが実務上の一般的な理解ですから、更新のたびに順序が動く可能性があるわけです。

※ 契約更新の扱いは個別の契約形態によって判断が分かれる場合があります。判断に迷うケースでは、労働基準監督署の相談窓口か社会保険労務士に確認してください。

所定労働時間と所定外労働時間で扱いが分かれる

もう1つ、順番の話には続きがあります。あらかじめ決まっている所定労働時間は契約の締結順に通算しますが、突発的に発生した所定外労働時間、いわゆる残業については、実際に労働が行われた順に通算します。

たとえばA社の所定が16時間、B社の所定が2時間で、その日はまず8時間の枠に収まっていたとします。そこにA社で急遽1時間の残業が入れば、その1時間はA社が割増賃金を払います。逆にB社で残業が発生すればB社が払います。契約の順番は所定分の話であって、突発的な残業までは決めてくれません。

この二段構えの仕組みを知っていると、副業先との会話が変わります。「所定分についてはそちらが後の契約なので割増の対象になります。ただ、残業が発生した側が負担するルールなので、双方で残業を出さない運用にしませんか」という提案ができるようになるからです。

本業に伝えるべきこと:申告のタイミングと文面

会社間の調整は、本業への申告から始まります。ここを飛ばして副業先と契約すると、後から取り返しがつかなくなります。

就業規則の該当条文を先に特定する

最初にやるのは、就業規則の副業に関する条文を探すことです。多くの企業では「副業・兼業」「兼業禁止」「服務規律」のいずれかの章に規定があります。確認すべきは次の4点です。

1つ目は、副業が届出制か許可制かの区別です。届出制なら会社に伝えれば足りますが、許可制なら承認が下りるまで契約してはいけません。2つ目は、届出書の様式が指定されているかどうか。3つ目は、届出の提出先が直属の上司か人事部かという窓口の問題。4つ目は、禁止される副業の類型です。競合他社での就労、会社の信用を傷つける業務、労務提供に支障をきたす長時間労働などが典型的に挙げられます。

就業規則が社内イントラにしか掲載されていない場合でも、労働基準法第106条により会社には周知義務があります。見当たらなければ人事部に「就業規則を確認したい」と依頼して問題ありません。理由を聞かれたら「副業の可否を確認したい」と正直に答えるほうが、後から発覚するより圧倒的に安全です。

申告書に書く項目は5つに絞る

届出の様式が指定されていない場合、次の5項目を書けば実務上は十分です。

第一に、副業先の事業者名と所在地。第二に、従事する業務内容。第三に、雇用契約か業務委託契約かという契約形態。第四に、所定労働日と所定労働時間。第五に、勤務の開始予定日です。

特に第三の契約形態は、必ず明記してください。業務委託であれば労働時間の通算対象外になるため、会社側の管理義務が大きく変わります。ここを曖昧にすると、会社が過剰にリスクを見積もって不許可にしてしまうことがあります。

第四の所定労働時間は、週あたりの合計時間まで書くのが親切です。「土曜9時から17時、日曜9時から15時、週13時間」といった書き方です。会社が通算計算をする手間を減らせば、それだけ承認は早く出ます。

申告のタイミングは「契約前」が鉄則

申告のタイミングについて、私が相談を受けるなかで最も多い失敗が、副業先と契約してから本業に申告するパターンです。この順番だと、本業が不許可を出したときに副業先との契約を解除しなければならず、副業先に迷惑をかけることになります。信用を失うだけでなく、契約内容によっては違約金の議論に発展する可能性もあります。

正しい順番は、就業規則の確認、本業への申告、承認の取得、副業先との契約締結、という流れです。許可制の会社では承認まで2週間から1か月かかることも珍しくありません。副業先の採用面接を受ける段階で、「本業の承認手続き中で、承認後に契約させていただきたい」と先に伝えておくと、待ってもらいやすくなります。

副業先に伝えるべきこと:面接段階で開示する3項目

本業への申告と同じくらい重要なのが、副業先への開示です。ここを隠すと、副業先を法違反に巻き込むことになります。

開示しないと副業先が法違反になるという構造

副業先は、あなたが他社で働いていることを知らなければ、通算した労働時間を把握できません。その結果、本来支払うべき割増賃金を支払わないまま雇用を続けることになり、労働基準監督署の調査で是正勧告を受ける立場に置かれます。

この構造上、副業先にとって「知らされていなかった」という状態は最悪です。是正勧告を受けてから遡及して支払うことになれば、金額も事務負担も膨らみます。だから、副業先が後から本業の存在を知ったときの反応は、たいてい厳しいものになります。冒頭で紹介した相談も、まさにこのパターンでした。

面接時に伝える3項目

副業先には、採用面接または契約締結の前に、次の3項目を伝えてください。

1つ目は、他社で雇用されている事実と、その所定労働時間です。「平日5日、週40時間の雇用契約があります」と数字で伝えます。2つ目は、本業の会社から副業の承認を得ていること。承認書の写しを見せる必要はありませんが、承認済みだと明言するだけで副業先の不安はかなり減ります。3つ目は、通算により割増賃金の対象になる可能性を認識していることです。

3つ目を自分から言うのは勇気がいります。相手にコスト増を認識させる話ですから、採用を見送られるのではと不安になる。ただ、隠したまま契約して後で発覚するほうが、はるかにダメージが大きい。実務的には、この開示ができる人のほうが「管理しやすい人材」として評価されることも多いんです。

副業先に36協定があるかを確認する

もう1つ、面接段階で確認しておきたいのが、副業先に36協定があるかどうかです。

副業・兼業やダブルワーク(Wワーク)で40時間以上働きたい労働者も少なくないでしょう。法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて従業員に労働させる場合には、事前に労働基準法第36条に基づき、いわゆる「36(サブロク)協定」を労使間で締結し、所轄労働基準監督署へ届け出る必要があります。 出典: hcm-jinjer.com

つまり、後から契約する副業先にとって、あなたの労働時間は最初の1時間目から法定時間外です。したがって、副業先が36協定を締結・届出していなければ、あなたを1時間働かせた時点で法違反になってしまう。これ、知らない人が本当に多いんです。

小規模な事業所では36協定を届け出ていないことも珍しくありません。確認の仕方はシンプルで、「他社での雇用があるため、こちらでの勤務は時間外労働の扱いになると思うのですが、36協定は届出済みでしょうか」と聞けば足ります。この質問ができるだけで、相手はあなたを「制度を理解している人」として見ます。届出がない場合は、締結・届出が済むまで勤務開始を待つのが正しい対応です。

なお、36協定には時間外労働の上限があります。原則として月45時間、年360時間が上限です。副業先での勤務がこの枠に収まるかも、あわせて確認しておくと安心です。

※ 36協定の届出状況は労働者側から労働基準監督署に照会することもできます。回答を渋られた場合は、そちらの窓口に相談してください。

副業先の会社名を本業に伝えるべきか

逆方向の情報についてもよく質問を受けます。本業に副業先の会社名を伝える必要があるかという問題です。

就業規則で届出事項として指定されていれば、伝える義務があります。競合他社での就労を禁止する規定がある以上、会社が競合性を判断するには社名が必要だからです。指定がない場合でも、業種と業務内容までは伝えたほうが安全です。「都内の飲食店でホール業務」程度の粒度でも、競合性の判断には足ります。

一方、副業先の賃金額を本業に伝える必要は、原則としてありません。ただし、社会保険の適用要件を満たす場合には別の話になります。この点は後述します。

契約の順番を設計する3つのパターン

ここからが本題です。誰にどう伝えるかが決まったら、次は契約の順番をどう設計するかです。実務でよく出会う3つのパターンを見ていきます。

パターン1:本業を維持したまま副業を後から契約する

最も一般的なケースです。すでに週40時間の雇用契約がある状態で、副業先と新たに契約します。この場合、副業先が「後の契約」になるため、副業先の労働時間はすべて法定外労働時間として扱われ、副業先が25%以上の割増賃金を支払う義務を負います。

この構造を、契約交渉の材料にしてください。副業先に「割増分を含めた時給を提示してもらう」ことを、契約前に確認するのです。たとえば基本時給1,200円の求人であれば、割増後は1,500円になります。この確認を契約書に明記してもらえば、後から「そんな話は聞いていない」という争いが起きません。

雇用契約書には、割増賃金の算定基礎となる時給と、時間外割増率を明記してもらうよう依頼します。多くの企業は雛形の契約書を使っているため、口頭で言うだけでなく「契約書に記載していただけますか」と依頼するのがポイントです。

パターン2:2社と同時期に契約する

転職と同時に副業を始めるような場合、2社との契約が同じ時期に発生します。この場合、契約締結日の前後で「先」「後」が決まるため、意図的に順番をコントロールできる余地があります。

たとえば、時給の高い会社を「後」にしたほうが、割増賃金の額は大きくなります。基本時給1,000円の会社と2,000円の会社があり、それぞれ週20時間ずつなら、合計週40時間で法定内に収まります。しかし週48時間になる設計なら、超過8時間分の割増を高時給側が負担するほうが、手取りは増えます。

ただし、これは倫理的にも実務的にも慎重に扱うべき論点です。契約日を意図的にずらして特定の会社に負担を寄せる行為は、企業側から見れば不誠実に映ります。私が推奨するのは、順番を操作するのではなく、両社に対して「もう一方の契約時期はこうなる予定です」と正直に伝え、それぞれが納得したうえで契約日を決めることです。法律はあなたの味方ですが、信用を失う使い方をすると味方でなくなります。

パターン3:本業を辞めて2社の雇用に切り替える

フルタイムの本業を退職し、パートタイムの雇用を2社掛け持ちするパターンです。この場合、退職と新規契約の順序で混乱が起きやすくなります。

注意すべきは、退職日と新契約の締結日の関係です。在職中に次の2社と契約すれば、一時的に3社と労働契約がある状態になります。この期間に実際に働いていなくても、契約上の所定労働時間は通算対象です。退職日をまたぐ設計にするなら、各社に「何月何日から本格稼働」と明示しておくと、通算計算の混乱を避けられます。

また、このパターンでは社会保険の扱いが大きく変わります。2社ともで適用要件を満たすと、二以上事業所勤務の届出が必要になります。これは後ほど詳しく説明します。

会社間で情報が食い違ったときに起きること

順番を設計しても、運用の途中で情報が食い違うことがあります。実際にあった事例を、匿名化して2つ紹介します。

1つ目は、本業の残業が急増したケースです。副業先には「本業は週40時間ちょうど」と伝えていたのに、繁忙期に本業の残業が月30時間発生した。副業先は当初の申告どおりに計算していたため、実際の割増賃金額とズレが生じました。後から差額を精算することになり、副業先の経理に余計な手間をかける結果になっています。

2つ目は、本業のシフトが変更されたケースです。所定労働時間が週40時間から週32時間に減ったのに、副業先に伝えていなかった。この場合は副業先が過払いしていたことになり、返還請求の話になりました。もらいすぎていた分ですから返すのが筋ですが、すでに使ってしまっていて、生活に穴が空いた。

どちらも、変更が起きたときに伝える運用がなかったことが原因です。そこで実務としておすすめしているのが、次の3つの変更を「必ず両社に伝える」とルール化することです。所定労働時間の変更、勤務日の恒常的な変更、そして月10時間を超える残業の発生です。

伝え方は難しく考える必要はありません。メールで「8月より、もう一方の勤務先の所定労働時間が週32時間に変更となりました。通算計算にご反映ください」と1行送るだけです。記録が残る手段で送っておくと、後で争いになったときに自分を守ってくれます。

※ 賃金の返還請求や差額精算でこじれた場合は、労働基準監督署の総合労働相談コーナーか、弁護士への相談を検討してください。

業務委託を組み合わせるという選択肢

ここまで雇用契約どうしの調整を説明してきましたが、そもそも通算の対象にならない働き方もあります。業務委託契約です。

労働時間の通算は労働基準法の適用を受ける労働者に対する規定です。フリーランスとして業務委託契約で働く場合、それは労働ではなく請負や準委任にあたるため、通算の対象外になります。つまり、本業で週40時間働いたうえで業務委託の仕事をしても、発注者に割増賃金の支払い義務は生じません。

この違いは、会社間の調整という観点でも大きな意味を持ちます。業務委託なら、発注者に対して「他社での雇用があります」と伝える法的な必要性は基本的にありません。本業への申告は就業規則の定めに従って必要ですが、発注者側との調整はぐっとシンプルになります。

ただし、契約書の名称が「業務委託契約書」でも、実態が労働者性を備えていれば労働契約と判断されます。判断要素は、業務の依頼に対する諾否の自由があるか、業務遂行上の指揮監督を受けていないか、勤務時間や場所の拘束がないか、報酬が労務の対価として時間で計算されていないか、といった点です。「毎日9時に出社して指示どおりに作業し、時給で支払われる」なら、契約書の表題が何であれ労働契約と見られる可能性が高いです。

※ 労働者性の判断は個別具体的に行われます。実態に不安がある場合は、契約締結前に社会保険労務士か弁護士に確認してください。

在宅で完結する業務委託の仕事を探すなら、職種ごとの相場観を先に持っておくと交渉しやすくなります。ソフトウェア開発の分野で相場を確認するならソフトウェア作成者の年収・単価相場が参考になります。文章まわりの仕事であれば著述家,記者,編集者の年収・単価相場に業界全体の単価水準がまとまっています。時間の切り売りから抜けるうえで、単価の把握は最初の一歩です。

社会保険と労働保険の届出は「どちらの会社が主か」で変わる

会社間の調整で、労働時間の次に手続きが必要になるのが社会保険です。ここも順番の設計が絡みます。

二以上事業所勤務届の仕組み

2社ともで健康保険と厚生年金保険の適用要件を満たすと、本人が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を日本年金機構に提出する必要があります。提出期限は、要件を満たした日から10日以内です。

この届出では、どちらの会社を「主たる事業所」として選択するかを本人が決めます。選択した事業所を管轄する年金事務所が、両社の報酬月額を合算して保険料を決定し、それを各社の報酬額で按分します。つまり、2社がそれぞれ保険料を負担する形になります。

適用要件の目安は、週の所定労働時間および月の所定労働日数が、その事業所の通常の労働者の4分の3以上であること。または、特定適用事業所において週20時間以上勤務し、賃金月額が8.8万円以上などの短時間労働者要件を満たすことです。詳細な要件と届出様式は日本年金機構の案内で確認できます。

雇用保険は原則1社のみ

雇用保険は社会保険と扱いが異なります。原則として、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている1社でのみ被保険者になります。2社で二重に加入することはできません。

ただし、65歳以上の労働者については、2社の労働時間を合算して週20時間以上になる場合に本人の申出により適用される仕組みがあります。制度の詳細は厚生労働省の案内を確認してください。

労災保険は両社の賃金を合算して給付される

労災保険は2社ともで自動的に適用されます。20209月の法改正により、複数の事業所で働く労働者が労災に遭った場合、給付基礎日額はすべての就業先の賃金額を合算して算定されるようになりました。

これは、ダブルワーカーにとって明確な保護強化です。以前は事故が起きた会社の賃金だけで給付額が決まっていたため、副業先で被災すると給付が著しく低くなっていました。現在は合算されるので、生活の実態に近い給付が受けられます。

この給付を受けるには、両社の賃金がわかる資料が必要です。だからこそ、それぞれの会社に他社での就労を伝えておくことが、いざというときの自分の保護につながります。隠すことのコストは、割増賃金の問題だけではないんです。

2社体制を長く続けるための情報管理の実務

制度の話が続いたので、日々の運用に落とし込みます。2社体制を破綻させずに続けている人が共通してやっていることが3つあります。

労働時間の自己記録を1本にまとめる

会社の勤怠システムは2つに分かれています。だから、通算した労働時間を把握できるのは本人だけです。スプレッドシートでも手帳でも構わないので、両社の実労働時間を1か所に記録してください。

記録する項目は、日付、会社名、始業時刻、終業時刻、休憩時間、実労働時間の6つで十分です。週単位と月単位の合計が自動計算されるようにしておけば、週40時間をどれだけ超えているかが常に見えます。この記録は、割増賃金の計算に疑問が生じたときの根拠資料にもなります。

変更が起きたら48時間以内に両社へ連絡する

前述した3つの変更、つまり所定労働時間の変更、勤務日の恒常的な変更、月10時間超の残業発生については、48時間以内に両社へ連絡することをルールにしてください。

「後でまとめて伝えよう」と思うと、たいてい伝え忘れます。そして伝え忘れたまま数か月経つと、精算の話がややこしくなる。1行のメールを送るだけの手間を、その場で払っておくほうが安いです。

年に1回、契約条件を棚卸しする

1年に1回でいいので、両社の雇用契約書を並べて確認する時間を作ってください。所定労働時間が契約書どおりになっているか。時給が更新されていないか。割増率の記載があるか。契約更新のタイミングで「後の契約」の順序が変わっていないか。

特に有期契約の更新は要注意です。更新のたびに契約締結日が新しくなるため、両社の順序が入れ替わることがあります。順序が変われば、割増賃金を負担する会社も変わります。棚卸しのタイミングで気づけば、静かに整理できます。

長時間の掛け持ちは、体力よりも段取りで消耗します。限られた時間で密度を上げる工夫については在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックに具体的な手法がまとまっているので、時間設計の参考になります。家庭と両立している人の実際の時間配分を知りたければ在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開が現実的なモデルになります。

独自データから見えるダブルワークの構造変化

在宅ワークと業務委託の市場を長く運営してきた立場から、いま起きている変化について触れておきます。

20年この市場を見てきた立場から言えば、週40時間を超えるダブルワークの相談内容は、この数年ではっきり変わりました。以前は「働く時間を増やして収入を増やしたい」という相談が中心でした。いまは「時間あたりの単価を上げて、働く時間はむしろ減らしたい」という相談が明確に増えています。労働時間の通算ルールを調べる人の多くが、調べた結果として雇用の掛け持ちではなく業務委託への切り替えを検討し始める。この流れは、掲載される案件の性質にも表れています。

運営者として見てきた限りでは、長く続く人ほど、雇用の枠を増やすのではなく1件あたりの単価と再依頼率を上げることに時間を使っています。時間を売る働き方は、上限が24時間で固定されているうえに、週40時間を超えた瞬間に会社間の調整コストが乗ります。一方、成果に対して報酬が決まる働き方は、上限が能力と信用で決まる。同じ「収入を増やす」でも、後者のほうが伸びしろが大きいんです。

そしてもう1つ、額面と手取りの話をしておきます。仲介会社を経由する働き方では、依頼者が支払った金額から中間マージンが引かれた残りが、働き手に渡ります。中間マージンが乗らない直接取引なら、依頼者は同じ予算でより多くを依頼でき、受け手は手数料0%で手取りが厚くなる。この構造は、単純に「稼げる」という話ではなく、双方が納得しやすい関係が長く続くという質の話です。継続案件が生まれやすいのは、この構造を持つ取引だという実感があります。

需要が伸びている分野を具体的に知りたい人向けに、職種別の解説もまとまっています。生成AIの導入支援は企業側の需要が急増している領域で、AIコンサル・業務活用支援のお仕事に業務範囲と求められる知識が整理されています。マーケティングやセキュリティを含めた周辺領域を見渡すならAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が概観をつかむのに役立ちます。開発職の方であればアプリケーション開発のお仕事に案件の種類と必要スキルがまとまっています。

資格を掛け合わせて単価を上げる方向も有効です。事務系の業務委託であればビジネス文書検定のように文書作成の基礎を証明できる資格が、提案時の説得力になります。インフラ寄りの技術者であればCCNA(シスコ技術者認定)がネットワーク領域の案件で評価されやすい資格です。実際に案件を探し始める段階では在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説に、募集の見極め方と危険な求人の特徴がまとまっています。

40時間を超えるダブルワークは、法律で禁止されているわけではありません。ただ、2社に対して正しい順番で正しい情報を渡すという、地味な設計作業が必要になります。この設計をきちんとやれば、割増賃金は正しく受け取れますし、労災の給付も合算されます。どちらもあなたを守るために用意された仕組みです。法律はあなたの味方です。ただし、味方として働いてもらうには、こちらから情報を渡す必要がある。それだけの話なんです。

よくある質問

Q. 副業先に本業のことを伝えないまま働き続けるとどうなりますか?

副業先が労働時間を通算できず、本来支払うべき割増賃金を支払わない状態になります。労働基準監督署の調査で是正勧告を受けるのは副業先ですが、発覚後に契約更新を断られたり、本業側で就業規則違反を問われたりするリスクは本人が負います。労災の給付額算定でも両社の賃金を合算するため、開示しておくほうが自分の保護につながります。

Q. 本業と副業、どちらの会社に先に伝えるべきですか?

必ず本業が先です。就業規則で副業の可否と手続きを確認し、届出または許可を得てから副業先と契約します。副業先と先に契約してしまうと、本業が不許可を出したときに契約を解除することになり、副業先に迷惑をかけます。許可制の会社では承認まで2週間から1か月かかることもあるため、面接段階で「承認手続き中」と伝えておくと待ってもらいやすくなります。

Q. 契約の順番によって割増賃金を払う会社が変わるというのは本当ですか?

本当です。所定労働時間の通算は労働契約を締結した順に行うため、原則として後から契約した会社が割増賃金を負担します。判定は勤務開始日ではなく契約締結日です。有期契約の更新も新たな契約として扱われるため、更新のたびに順序が入れ替わる可能性があります。年1回は両社の契約書を並べて順序を確認しておくと安全です。

Q. 業務委託なら労働時間の通算は不要ですか?

業務委託は労働基準法の労働時間規制の対象外なので、通算されず発注者に割増賃金の義務も生じません。ただし契約書の名称が業務委託でも、勤務時間や場所を拘束され、指揮監督を受け、時間で報酬が決まっているなど実態が労働者であれば労働契約と判断されます。本業への届出は就業規則の定めに従って必要なので、その点は別途確認してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年3月20日最終更新:2026年9月6日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド

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SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方