ダブルワークで週20時間を超えたら雇用保険はどうなるのか|加入の条件と手続き 2026


この記事のポイント
- ✓ダブルワークで週20時間以上働くと雇用保険や社会保険はどうなるのか
- ✓加入条件の判定は会社ごとか合算か
- ✓二重加入したときの保険料と手取り
「ダブルワークで週20時間以上になったら、保険ってどうなるんでしょうか」。このご相談、本当に増えました。シフトを増やしたい。でも保険料が引かれて手取りが減るのは困る。かといって失業したときに何も出ないのも不安。その両方の気持ちを抱えたまま、検索窓に「ダブルワーク 週20時間以上」と打ち込んだ方が多いはずです。
先に結論をお伝えします。雇用保険と社会保険では、週20時間という数字の使われ方がまったく違います。そして多くの方が誤解しているのですが、2社の労働時間を足して20時間を超えても、それだけで自動的に保険に入るわけではありません。判定は原則として「会社ごと」に行われます。ここを取り違えると、入れると思っていた失業給付が出なかったり、逆に想定外の保険料が引かれて手取りが崩れたりします。
大丈夫ですよ。順番に整理すれば、必ず理解できる話です。今日は加入要件の判定ルール、二重加入したときの手続き、そして手取りがどう動くのかを、実際のご相談で出てくる形のまま丁寧にお話しします。
週20時間が基準になった背景と、2026年の労働市場
まず、なぜ「20時間」なのかを押さえておきましょう。ここが分かると、細かいルールが暗記ではなく理解になります。
雇用保険はもともと、生活の柱となる仕事を失ったときの保障として設計された制度です。ごく短時間のアルバイトまで対象にすると、制度の趣旨と合わなくなる。そこで「一定以上の時間、継続して働いている人」を線引きする基準として、週所定労働時間20時間が置かれました。週40時間のフルタイムに対して、ちょうど半分という水準です。
社会保険(健康保険と厚生年金)の側でも、短時間労働者の適用拡大が進む中で同じ20時間が採用されました。ただしこちらは時間だけでなく、賃金や企業規模など複数の条件を組み合わせて判定します。同じ数字なのに判定式が違う。ここが混乱の最大の原因です。
副業・兼業が「例外」ではなくなった
ここ数年で、働き方の前提そのものが変わりました。国も副業・兼業を後押しする方向に舵を切り、モデル就業規則から副業禁止の規定が削られ、企業側にも労働時間の通算管理や健康確保のガイドラインが示されています。制度が「副業する人がいる前提」で作り替えられている、という点は知っておいてください。
実務の現場でも、正社員として週30時間前後で働きながら、休日にもう1社で10時間ほど働く。パート2社を掛け持ちして、それぞれ週15時間ずつ。こうした形が珍しくなくなりました。合計すれば20時間を大きく超えるのに、どちらの会社でも保険に入っていない。この「制度のすき間」に落ちている方が、想像以上に多いのです。
2026年時点で押さえておきたい制度の動き
制度は止まっていません。今後の方向性として、次の2つは頭に入れておく価値があります。
1つ目は、雇用保険の適用範囲が広がることです。改正雇用保険法により、加入の基準となる週所定労働時間が20時間から10時間へ引き下げられる方向で施行日が定められています。これが動けば、現在は対象外の短時間勤務でも雇用保険に入る人が一気に増えます。
2つ目は、社会保険の企業規模要件が段階的に撤廃されていく流れです。従来は「従業員51人以上の企業」といった規模の線引きがありましたが、これを数年かけて縮小し、最終的には規模にかかわらず適用する方向で法整備が進んでいます。
つまり「今は対象外だから関係ない」という判断は、数年で通用しなくなる可能性があります。制度の詳細や施行時期は厚生労働省の公表資料で更新されていくので、シフトを大きく変える前には最新情報を確認する習慣をつけておくと安心です。
雇用保険は「会社ごと」に判定される
ここが今日いちばんお伝えしたい部分です。ゆっくり読んでください。
加入要件は2つだけ
雇用保険の被保険者になる条件は、実はシンプルです。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること ・31日以上引き続き雇用されることが見込まれること
この2つを両方満たせば、原則として加入対象になります。学生(昼間学生)など一部の例外はありますが、基本形はこれです。
大事なのは「所定労働時間」で見るという点。実際にたまたま忙しくて残業した時間ではなく、雇用契約書やシフトで決まっている、本来働くことになっている時間で判定します。契約が週18時間で、繁忙期にたまたま22時間働いた月があっても、それだけで加入にはなりません。逆に、契約上は週20時間だけれど実際は少なかった、という場合は加入対象のままです。
ただし、契約は18時間なのに実態として20時間以上の勤務が常態化しているなら、実態に合わせて契約を直すべきというのが本筋です。ここは会社に確認してよい部分です。
合算はされない。ここを間違えないでください
そして最も重要なルール。複数の会社で働いていても、雇用保険は原則として1社でしか加入できません。しかも、その1社の判定に他社の労働時間は足されません。
A社で週12時間、B社で週12時間。合計すれば週24時間で、確かに20時間を超えています。それでも、どちらの会社でも雇用保険には入れません。A社もB社も、単独では20時間に届いていないからです。
ダブルワークの場合、それぞれの会社で加入要件(週20時間以上等)を満たした場合にのみ、社会保険の加入対象となります。逆に、合計が20時間を超えていても、会社ごとに要件を満たさなければ適用されないケースもあります。 出典: 1145.jp
この「合計では超えているのに、どこにも入れない」という状態が、実務でいちばん多い落とし穴です。ご本人は週24時間しっかり働いている感覚があるので、当然入っていると思い込んでいる。それが退職して失業給付を申請しようとした段階で、初めて発覚する。カウンセリングの現場でも、この瞬間の落胆は本当につらそうです。
・国民健康保険と国民年金には別途加入する必要がある。・将来的な年金受給額が少なくなる可能性がある。・雇用保険の加入要件(週20時間以上勤務)を満たしていないため、失業給付を受けられない可能性がある。 出典: sharoushi-cloud.com
だからこそ、掛け持ちで働き方を設計するときは「合計で何時間か」ではなく「1社あたり何時間か」で考える必要があります。同じ週24時間でも、A社20時間とB社4時間に配分すれば、A社で雇用保険に入れます。時間の総量ではなく、配分の設計が結果を変えるのです。
両方の会社で20時間を超えたらどうなるのか
では、A社もB社も週20時間以上だったら、両方で雇用保険に入るのでしょうか。答えは「入りません」。
雇用保険は、生計を維持するために必要な主たる賃金を受けている方の雇用関係についてのみ被保険者となります。つまり収入の柱になっているほうの1社だけです。どちらが主たる勤務先かは、賃金額や労働時間をもとに判断します。実務上は、給与が多いほうと考えておけば大きく外れません。
二重に保険料を取られることはないので、その点は安心してください。ただし、加入していないほうの会社を辞めても失業給付は出ません。給付の計算も、加入している会社の賃金だけが基礎になります。
65歳以上には合算できる特例がある
例外が1つだけあります。雇用保険マルチジョブホルダー制度です。
65歳以上の方に限り、2社の労働時間を合算して雇用保険に加入できる仕組みが用意されています。条件は、2つの事業所の労働時間を合計して週20時間以上であること、それぞれの事業所での週の所定労働時間が5時間以上20時間未満であること、それぞれで31日以上の雇用見込みがあることです。
この制度の特徴は、会社が手続きするのではなく本人がハローワークに申し出る点にあります。会社任せにしていると、いつまでも加入になりません。65歳以上で掛け持ちをされている方は、この制度の存在自体を知らないことが多いので、ぜひ覚えておいてください。
社会保険は判定式が違う。4つの条件をセットで見る
雇用保険の話が整理できたところで、健康保険と厚生年金の話に移ります。同じ「週20時間」でも、こちらは条件の組み方が異なります。
短時間労働者の加入4要件
パートやアルバイトなど、フルタイムの4分の3未満の勤務時間の方は、次の条件をすべて満たすと社会保険の加入対象になります。
・週の所定労働時間が20時間以上 ・所定内賃金が月額88,000円以上 ・2か月を超える雇用の見込みがある ・学生ではない
これに加えて、勤務先が適用対象となる規模の事業所であることが前提になります。この企業規模の線引きは段階的に緩められていく方向なので、今後は「小さい会社だから対象外」という理由が通らなくなっていきます。
また、週20時間以上働き、月収が88,000円以上で、1年以上の継続雇用が見込まれるパートタイムやアルバイトの労働者も社会保険に加入する必要があります。 出典: sharoushi-cloud.com
なお、フルタイム社員の所定労働時間・所定労働日数のおおむね4分の3以上働いている方は、この4要件を持ち出すまでもなく通常の被保険者として加入対象になります。週40時間の会社なら、週30時間がその目安です。
月額88,000円の中身に注意
見落とされやすいのが賃金要件の中身です。月額88,000円には、含めないものがあります。
含めないのは、残業代・休日手当・深夜手当といった割増賃金、賞与など1か月を超える期間ごとに支払われるもの、通勤手当、家族手当、精皆勤手当などです。つまり「基本の時給×契約時間」で計算した所定内賃金で判定します。
残業込みで10万円もらっているから対象だ、と思っていたら、所定内賃金では85,000円だったので対象外だった。こういうずれが起きます。給与明細の額面ではなく、契約上の基本賃金で見てください。
こちらも判定は会社ごと
社会保険も、加入要件を満たすかどうかは事業所ごとに判定します。A社で週15時間、B社で週15時間なら、合計30時間でもどちらでも加入対象になりません。
この場合、健康保険は市区町村の国民健康保険、年金は国民年金の第1号被保険者として、自分で加入して自分で保険料を納めることになります。給与から天引きされないので一見「引かれていなくてラッキー」に見えますが、国民健康保険料と国民年金保険料は全額自己負担です。厚生年金なら会社が半分出してくれる部分を、まるごと自分で払う形になります。
将来の年金額にも差が出ます。国民年金だけの期間は基礎年金しか積み上がりませんが、厚生年金に加入していた期間は基礎年金に厚生年金が上乗せされます。目の前の手取りだけで判断すると、長期的には損をしている、ということが起こり得ます。
2社とも要件を満たしたとき「二以上事業所勤務届」を出す
社会保険には、雇用保険と決定的に違う点があります。2社とも加入要件を満たした場合、両方で被保険者になります。雇用保険のように「主たる1社だけ」ではありません。
手続きの流れ
このとき必要になるのが、いわゆる二以上事業所勤務届です。正式には「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」といいます。
・提出するのは本人(会社ではありません) ・提出期限は事実が発生してから10日以内 ・提出先は選択する事業所を管轄する年金事務所(健康保険組合に加入している場合は組合にも届出が必要)
この届出で、どちらの会社の健康保険を使うか(=主たる事業所)を選びます。健康保険証は選んだほうの1枚に一本化されます。2枚持つことはありません。
手続きの様式や記入方法は日本年金機構のサイトで確認できます。会社の担当者も慣れていないケースが多いので、本人が把握しておくと話が早く進みます。
保険料はどう計算されるのか
ここが一番気になるところだと思います。二重加入したとき、保険料は倍になるのでしょうか。
なりません。計算は次の流れです。
まず、2社の報酬を合算して1つの標準報酬月額を決定します。次に、その標準報酬月額に基づいて算出した保険料の総額を、各社の報酬額に応じて按分します。そして各社がそれぞれの負担分を給与から天引きします。
たとえばA社から18万円、B社から12万円の報酬があるなら、合算した30万円をもとに標準報酬月額が決まり、保険料はおおむね6対4の比率で振り分けられます。二重に満額を取られるわけではないので、そこは安心してください。
ただし、合算されることで標準報酬月額の等級が上がる点には注意が必要です。片方だけで見ていたときより高い等級になるため、1社勤務の感覚でいると想定より天引きが増えたように感じます。一方で、この標準報酬月額は将来の年金額や、傷病手当金・出産手当金の計算基礎にもなります。保険料が上がるということは、受け取れる給付も上がるということです。負担だけの話ではありません。
手取りへの影響を具体的に見る
制度の説明が続いたので、ここからは家計の話をします。実際、ご相談で本当に知りたいのはここです。
天引きされるものの内訳
給与から引かれる社会保険料は、おおまかに次のとおりです。
・健康保険料:報酬のおよそ5%前後(労使折半後の本人負担分。都道府県や健保組合で率が異なります) ・厚生年金保険料:報酬の9.15%(本人負担分) ・雇用保険料:賃金の0.5%台(事業の種類と年度で変動します) ・40歳以上は介護保険料が上乗せ
合計すると、本人負担はおおむね報酬の15%前後になります。月10万円の給与なら、社会保険料でおよそ1万5千円前後が引かれる計算です。ここに所得税と住民税が加わります。
数字だけ見ると重く感じますよね。その気持ちはよく分かります。ただ、この負担には会社が同額を出している(労使折半)という前提があります。国民健康保険と国民年金を全額自己負担で払う場合と比べると、同じ保障水準に対する自己負担は軽くなるケースが多いのです。
「働く時間を増やしたのに手取りが減った」を防ぐ
いわゆる壁の話です。扶養に入っている方が特に気にされます。
年収が一定額を超えると社会保険の扶養から外れ、自分で保険料を負担することになります。この境目の前後では、収入が少し増えたのに手取りが減る逆転が起きることがあります。よく語られる106万円や130万円という数字がそれです。
ただし、ここでも判定の考え方に注意が必要です。扶養から外れるかどうかを見る収入は、すべての勤務先の収入を合計して判断します。雇用保険や社会保険の加入判定は会社ごとなのに、扶養の判定は合算。ここが本当にややこしいところです。
「A社もB社も少ないから大丈夫」と思っていたら、合計では扶養の基準を超えていて、後から遡って扶養を外れる手続きになった。この相談は毎年、必ず何件か受けます。掛け持ちをしている方は、年に2回ほど合計収入を確認する時間をつくってください。カレンダーに入れておくだけで、事故はかなり防げます。
逆転を抜けたあとは、増やしたほうが有利
大切なのは、逆転が起きるのは境目の前後だけだという点です。そこを越えて収入を伸ばしていけば、手取りは再び増えていきます。
短期的な手取りの目減りを避けて時間を抑え続けるか、いったんの目減りを受け入れて厚生年金と傷病手当金の保障を取りにいくか。これは正解が1つではなく、年齢・家族構成・今後の働き方の見通しによって答えが変わります。50代以降で年金の上乗せ期間を確保したい方と、数年で子育てが一段落して働く時間を増やす予定の方とでは、選ぶべき道が違って当然です。
労働時間の通算と割増賃金、健康管理
保険とは別に、労働時間そのもののルールも押さえておきましょう。ここは保険と真逆で「合算する」世界です。
労働基準法では通算される
労働基準法では、事業場を異にする場合であっても労働時間を通算すると定められています。つまり、A社で6時間働いた日にB社で3時間働けば、その日の労働時間は9時間として扱われます。法定労働時間の1日8時間を超えた1時間分は、時間外労働です。
保険は会社ごと、労働時間は通算。この非対称さが、ダブルワークの分かりにくさの正体です。まとめると、判定の単位はこう覚えてください。
| 項目 | 判定の単位 |
|---|---|
| 雇用保険の加入 | 会社ごと(65歳以上のみ合算特例あり) |
| 社会保険の加入 | 会社ごと(両方満たせば二重加入) |
| 社会保険の保険料計算 | 2社合算して按分 |
| 扶養の判定 | 全勤務先の収入を合算 |
| 労働時間・割増賃金 | 通算する |
| 確定申告 | 全所得を合算 |
割増賃金は原則あとから契約したほうが払う
通算して法定労働時間を超えた場合、割増賃金を支払うのは原則として、時間的にあとから労働契約を結んだ使用者です。先に働いていた会社ではありません。
実務では、後から採用した会社が採用時に「他社での勤務時間」を申告してもらい、それを前提にシフトを組みます。ここで正直に伝えておかないと、後から割増賃金の精算が発生したり、会社側の時間管理が破綻したりします。掛け持ちを始めるときは、後から契約する会社に既存の勤務時間を伝えるのが正しい手順です。
健康を守る線引きを自分で持つ
カウンセラーとして、この点だけは強く申し上げたいのです。制度上働けることと、続けられることは別です。
私自身、会社員時代に本業のあとで週末の相談業務を引き受けていた時期がありました。合計すると週55時間ほど。最初の2か月は充実感のほうが勝っていたのですが、3か月目に入って明らかに変わりました。人の話を聞いているのに、内容が頭に入ってこない。これは相談を受ける仕事では致命的です。結局、週末の件数を半分に減らしました。
減らしたときは「逃げたようで悔しい」と感じました。でも半年後に振り返ると、あのとき減らしていなければ、どちらの仕事も続かなかったと思います。休息は削れるコストではなく、仕事を続けるための必要経費です。
睡眠時間が削れている、休みの日に何もする気が起きない、家族との会話が減った。この3つのうち2つが当てはまったら、時間の配分を見直すサインだと思ってください。あなたは一人ではありませんし、減らす判断は失敗ではありません。
確定申告と住民税、会社への知られ方
保険と並んで質問が多いのが、税金と「会社にバレるか」です。
2か所以上から給与をもらったら
年末調整は、原則として1か所でしかできません。主たる勤務先に扶養控除等申告書を提出し、そこで年末調整を受けます。もう1社は乙欄という区分で源泉徴収され、年末調整はされません。
そのため、年末調整をしていない給与収入と、給与以外の所得の合計が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。逆に20万円以下なら所得税の確定申告は不要とされていますが、住民税の申告は別途必要です。ここは見落としやすいので気をつけてください。
また、確定申告をしたほうが得になるケースもあります。2社の源泉徴収を合わせると納めすぎになっていることがあり、申告によって還付を受けられる場合があるからです。申告方法や必要書類は国税庁のサイトで確認できます。
住民税の徴収方法
会社に副業を知られたくない、というご相談もよく受けます。仕組みとして知っておくべきなのは、住民税の通知経路です。
住民税は前年の所得をもとに計算され、主たる勤務先の給与から天引き(特別徴収)されるのが原則です。このとき、副業分の所得も合算された税額が通知されるため、金額の違和感から気づかれることがあります。確定申告書で給与以外の所得について自分で納付(普通徴収)を選べる場合がありますが、給与所得同士の掛け持ちでは分離できないこともあります。
そもそもの話として、就業規則で副業が許可制になっている会社が増えています。隠す前提で設計するより、申請して正面から働くほうが、長い目で見て消耗しません。時間管理や割増賃金の問題も、会社が把握していれば適切に処理されます。
ダブルワークで週20時間以上働くときのメリットとデメリット
ここまでの内容を、判断材料の形に整理しておきます。
メリット
失業したときの保障が得られる。雇用保険に加入していれば、離職後に一定の要件を満たすことで基本手当を受けられます。掛け持ちのうち主たる勤務先を失ったときの生活の支えになります。
将来の年金が上乗せされる。厚生年金に加入した期間は、国民年金の基礎年金に厚生年金が上乗せされます。同じ働くなら、加入期間を確保できる働き方のほうが老後の受取額は厚くなります。
傷病手当金・出産手当金の対象になる。これは意外と知られていません。健康保険の被保険者であれば、病気やけがで働けない期間に傷病手当金を受けられます。国民健康保険にはこの給付がないのが一般的です。フリーランスや短時間勤務で国民健康保険だけの方は、働けなくなった期間の収入がゼロになります。この差は非常に大きいです。
教育訓練給付が使える。雇用保険の被保険者期間があれば、指定された講座の受講費用の一部が支給される制度を利用できます。スキルを積み上げて単価を上げていきたい方には、実質的な学習費の割引になります。
デメリット
目先の手取りが減る。保険料が天引きされるため、額面が同じでも手取りは下がります。境目の前後では、働く時間を増やしたのに手取りが減る逆転も起こり得ます。
手続きが増える。二以上事業所勤務届、確定申告、扶養の異動手続き。1社勤務では発生しない事務が増えます。期限が10日以内のものもあるため、後回しにすると面倒が膨らみます。
スケジュール管理の負荷が上がる。2社のシフト調整、移動時間、体調管理。時間だけでなく、意思決定の回数が増えることが疲労につながります。
会社側の理解が必要になる。労働時間の通算や割増賃金の関係で、勤務先に他社の勤務状況を伝える必要が出てきます。
時間を売る働き方だけが選択肢ではありません
ここまで雇用契約を前提にお話ししてきました。ただ、掛け持ちで悩む方の相談を聞いていると、根っこにあるのは「時間の切り売りで消耗している」という感覚であることが多いのです。
雇用で週20時間を積み増すと、当然その分だけ拘束されます。一方、業務委託で在宅の仕事を組み合わせる形なら、時間ではなく成果で対価が決まるため、慣れてくると同じ収入をより短い時間で得られる余地が出てきます。
もちろん業務委託には雇用保険がありません。ここは正直にお伝えします。労災も原則適用外です(特別加入の制度はあります)。ですから、雇用の1社で保険の土台をつくり、上乗せ部分を業務委託で組み立てる、という設計が現実的です。雇用側で週20時間以上を確保して雇用保険と社会保険の枠を押さえ、残りを在宅の受託で伸ばす。この形なら、保障を失わずに時間あたりの収入を上げていけます。
どんな在宅の仕事があるのかを知っておくと、選択肢の解像度が上がります。在宅ワークの求人の探し方5選|初心者でも安心な方法と注意点を徹底解説では、求人の見つけ方と怪しい案件を避けるための確認ポイントがまとめられています。掛け持ちを始める前に一度目を通しておくと、遠回りが減ります。
在宅ワークの1日をどう組み立てるかは、実例を見るのが一番早いです。在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開には、家事や育児と両立している方の時間の使い方が具体的に書かれています。自分の生活に当てはめて考える材料になります。
限られた時間で成果を出すには、集中力の設計も欠かせません。在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックでは、短い時間でも質を落とさずに作業するための方法が整理されています。掛け持ちで時間が細切れになる方ほど効いてきます。
独自データから見えるダブルワークの分岐点
在宅ワークの求人データと相談の現場、その両方を照らし合わせると、いくつか共通する傾向が見えてきます。
単価の相場を知らないまま時間を増やしている
まず、多くの方が自分の仕事の相場を知りません。時給いくらで働いているかは把握していても、同じスキルが業務委託の市場でどう評価されるかを知らないのです。
たとえば著述家,記者,編集者の年収・単価相場には、文章を扱う仕事の報酬水準がまとまっています。ライティングは在宅で始めやすい分野ですが、初期の単価と経験を積んだ後の単価では大きな開きがあります。この差を知らずに「在宅は安い」と決めつけてしまうのは、もったいない判断です。
技術寄りの仕事なら差はさらに顕著です。ソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ると、開発系の報酬水準が確認できます。週20時間を雇用で増やすのと、同じ時間を単価の高い受託に充てるのとでは、年間で見たときの差が無視できない大きさになります。
資格は「時間を減らす」ために取る
相談の中でよく出るのが、資格を取るべきかという問いです。私の答えは「時間を増やさずに単価を上げるために取るなら意味がある」です。
事務や書類作成の仕事を軸にする方なら、ビジネス文書検定のように書類作成の基礎を体系的に証明できる資格が、実務の信頼につながります。文章の型が身につくと作業時間そのものが短くなるため、時間あたりの効率が上がります。
IT分野で受託を広げたい方には、CCNA(シスコ技術者認定)のようにネットワークの知識を客観的に示せる資格が有効です。専門性が確認できる相手には、依頼側も相場より高い単価を提示しやすくなります。
伸びている分野に時間を配分する
どの分野に時間を配分するかも重要です。市場が伸びている領域では、同じ労力でも得られる対価が違ってきます。
AIの業務活用は、その代表格です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、企業のAI導入を支援する仕事の内容と求められるスキルが解説されています。ツールを使いこなすだけでなく、業務のどこに当てはめるかを設計できる人材が不足している領域です。
より広く見たい方はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が参考になります。複数分野をまたいで需要の動きが整理されているので、自分の経験をどこに接続できるかを考える材料になります。開発の実務に近い方はアプリケーション開発のお仕事で、案件で求められる工程や技術の範囲を確認しておくとよいでしょう。
20年この市場を見てきた立場から
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から、率直に感じていることをお話しします。
長く続いている方に共通しているのは、案件を「量」で埋めていないことです。掛け持ちを増やして時間を詰めるのではなく、依頼側から見て「この人に任せると楽だ」と思われる関係を1つずつ増やしている。連絡が速い、確認事項が的確、納品物の手直しが少ない。この積み重ねが、結果として単価と継続率を押し上げています。逆に、時間の限界まで案件を詰め込んだ方は、品質のばらつきが出て関係が切れ、また新規開拓に時間を取られるという循環に入りやすい。ここは何年見ていても変わりません。
もう1つ、額面と手取りの話をさせてください。仲介の中間マージンが乗らない直接取引では、依頼側は同じ予算でより多くを頼めますし、受け手は同じ仕事量でも手取りが厚くなります。手数料0%という条件の本当の価値は、金額の大小ではなく、この「双方が得をする」構造にあります。運営者として見てきた限り、この構造で始まった関係は継続しやすい。無理な値引き交渉が起きにくく、双方に余白が残るからです。週の労働時間を増やす前に、いま受けている仕事の取引構造を見直すだけで手取りが変わることもあります。時間を足す前に、構造を確かめる。この順番をおすすめします。
判断のための3つの問い
最後に、ご自身の状況を整理するための問いを3つ置いておきます。紙に書き出してみてください。
1つ目。いま働いている各社で、契約上の週の所定労働時間はそれぞれ何時間か。合計ではなく、社ごとの数字です。ここが20時間に届いているかどうかで、加入できる保険が決まります。
2つ目。失業したとき、病気で働けなくなったとき、自分にはどんな保障があるか。雇用保険の基本手当、健康保険の傷病手当金。この2つがあるかないかで、いざというときの選択肢がまるで違います。
3つ目。いまの働き方を3年続けたとき、体力と生活は保てるか。この問いに素直に「はい」と答えられないなら、時間を増やす前に単価を上げる方向へ舵を切るタイミングです。
制度は複雑に見えますが、判定の単位さえ押さえてしまえば怖くありません。会社ごとに見るのか、合算するのか。この1点を意識して自分の契約書を見直すところから始めてみてください。焦らなくて大丈夫です。
よくある質問
Q. 2社の労働時間を合計して週20時間を超えたら雇用保険に入れますか?
原則として入れません。雇用保険の加入判定は会社ごとに行うため、A社12時間・B社12時間で合計24時間でも、単独で20時間に届かなければどちらでも加入できません。例外は65歳以上のマルチジョブホルダー制度で、この場合のみ2社を合算して判定でき、本人がハローワークに申し出て手続きします。
Q. 両方の会社で社会保険の加入条件を満たすと保険料は2倍になりますか?
2倍にはなりません。2社の報酬を合算して1つの標準報酬月額を決め、その保険料を各社の報酬額に応じて按分し、それぞれの給与から天引きされます。手続きとして本人が10日以内に二以上事業所勤務届を年金事務所へ提出し、どちらの健康保険を使うかを選択します。保険証は1枚に一本化されます。
Q. 週20時間以上働いても社会保険に入らないケースはありますか?
あります。社会保険の短時間労働者の要件は、週20時間以上に加えて所定内賃金が月額88,000円以上、2か月超の雇用見込み、学生でないこと、そして勤務先が適用対象の事業所であることが必要です。月額88,000円には残業代・賞与・通勤手当を含めないため、額面では超えていても所定内賃金では届かない場合があります。
Q. ダブルワークをすると確定申告は必ず必要ですか?
年末調整をしていない給与収入と給与以外の所得の合計が20万円を超える場合は確定申告が必要です。20万円以下なら所得税の申告は不要ですが、住民税の申告は別途必要になります。また2社分の源泉徴収を合わせると納めすぎになっていることがあり、申告することで還付を受けられる場合もあります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
中西 直美@SOHO編集部
産業カウンセラー・キャリアコンサルタント
大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。
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