マンション管理士の実務経験なしで受けられるか|受注できる案件の線引き


この記事のポイント
- ✓マンション管理士に合格したが実務経験がない人が
- ✓在宅の副業でどこまで受けられるのかを整理しました
- ✓判断責任が依頼者に残る作業なら経験なしでも入れます
結論から書きます。マンション管理士の実務経験がなくても、在宅で受けられる仕事はあります。ただし「どんな案件でも経験不問」ではなく、受けられるものと受けてはいけないものの線がかなりはっきり引けます。この線を知らずに応募すると、取れないか、取れても後で行き詰まるかのどちらかになります。
線を引く基準はひとつです。最終的な判断責任が依頼者側に残る作業かどうか。残るなら経験なしでも入れます。判断そのものを引き受ける案件は、経験がないうちは避けたほうがいい。この記事では、その基準を具体的な案件に当てはめて、合格直後の人が現実的に狙える範囲を整理します。
「実務経験なし」が壁になるのは、知識ではなく3つの別のもの
まず誤解を解いておきます。試験に受かっている以上、区分所有法やマンション管理適正化法の知識、標準管理規約の構造、長期修繕計画の考え方は頭に入っています。知識量が足りないから仕事が取れないわけではありません。
実際に壁になるのは、次の3つです。
1つめは、信用の証明手段がないこと。管理組合も、士業事務所も、メディアも、依頼前に「この人に任せて大丈夫か」を判断したい。資格の登録番号は名乗る資格があることを示しますが、仕事ができることの証明にはなりません。ここが最大の障害です。
2つめは、判断の場数がないこと。規約の条文に問題があると分かっても、それが「今すぐ直すべき問題」なのか「気にしなくていい形式上の差異」なのかは、実際の運用を見た経験がないと重み付けができません。指摘が正しくても、優先順位が付いていない報告書は現場では使われません。
3つめは、資料の欠落に慣れていないこと。実際の管理組合は、教科書のように資料が揃っていません。議事録が数年分ない、規約の改定履歴が追えない、修繕の記録が担当理事の記憶しかない。この状態から作業を始める段取りは、経験がないと組み立てにくい。
正直なところ、この3つのうち1つめは経験がなくても埋められます。2つめと3つめは案件を通してしか埋まりません。だから最初は、2つめと3つめが問われない仕事から入るのが合理的です。
経験がなくても受けられる仕事の共通点
受けられる案件には共通する特徴があります。作業のアウトプットが「事実の整理」で完結し、そこから何をするかの判断は依頼者が下す、という構造です。以下、具体的に見ていきます。
議事録の整形と理事会資料の作成
理事会や総会の録音、あるいは担当理事の手書きメモを受け取り、議事録の体裁に整える仕事です。次回の理事会用に、前回の決定事項と持ち越し案件を一覧にする作業も含まれます。
この仕事に判断は要りません。求められるのは、議論の流れを正確に追い、決まったことと決まっていないことを分けて書くことです。ただし、区分所有法にもとづく決議事項の種類(普通決議か特別決議か)を理解していないと、議事録の書き方を間違えます。つまり、試験知識がそのまま品質に効く仕事です。合格直後の人に向いています。
報酬は1回あたり5,000円から2万円程度。高くはありませんが、毎月発生するため継続案件になりやすい。作業効率が実質時給を左右するので、文字起こしと整形の手順を早い段階で固めておくと差が出ます。この種の在宅事務作業の相場観はデータ入力・文字起こしの副業は稼げる?在宅ワークの始め方と相場にまとまっています。
現行規約と標準管理規約の差分洗い出し
管理組合の現行規約を、国土交通省が公表しているマンション標準管理規約と条文単位で突き合わせ、違っている箇所を表にする作業です。
これは照合作業なので、経験がなくても精度が出せます。むしろ、試験勉強で標準管理規約を条文レベルで読み込んだ直後の人のほうが速い。ここで重要なのは、「差分の一覧を作る」ところで止めることです。その差分がリスクなのかどうか、どう直すべきかの評価に踏み込むと、判断責任が自分に移ります。
依頼を受けるときは「差分の抽出まで」と範囲を書面で切ってください。評価や改定案の作成は、経験を積んでから別料金の別案件として受けるほうが安全です。差分表だけでも組合には価値があります。何が標準と違うのかを誰も把握していない組合は珍しくないからです。
修繕積立金のシミュレーション表の作成
長期修繕計画に書かれた工事予定と金額をもとに、積立金の残高推移を年次で表にする作業です。計算ロジックは決まっているので、表計算ソフトが扱えれば経験は問われません。
ここでも線引きは同じです。表を作るところまでは経験不問。「この計画は破綻するので値上げが必要」という結論を出すところからは、技術的な妥当性の判断が入ります。工事費の積算や建物の劣化診断に踏み込む部分は建築士法にもとづく設計・工事監理の領域と重なる可能性があり、どこまでを自分の名前で述べてよいかは事前に確認が必要です。計算結果を提示し、判断は組合と専門家に委ねる形にしておいてください。
記事・セミナー資料のファクトチェック
不動産系メディアや管理会社のオウンドメディアが、記事の事実確認を外部に依頼することがあります。監修者として名前を出す仕事とは別に、名前を出さずに事実誤認だけを指摘する作業の依頼が存在します。
条文の引用が正しいか、制度の説明に古い情報が混じっていないか、数字の出典が確認できるか。これは知識で判断できるので、実務経験がなくても品質を担保できます。報酬は1本あたり5,000円から2万円程度が中心帯です。名前を出す監修になると責任の重さが変わるので、単価も条件も別物になります。
文章まわりの仕事の単価水準を横に見ておくと、自分の設定が浮いていないか確認できます。著述家,記者,編集者の年収・単価相場は、文書作成やチェックを主とする仕事の物差しとして使えます。
アンケート集計と住民説明資料の作成
大規模修繕やペット飼育の可否など、住民の意見を集める場面で、集計と資料化を外注する組合があります。集計は事実の整理であり、資料作成は情報の並べ替えです。ここも判断は組合に残ります。
この仕事の価値は、住民が読んで分かる形にできるかどうかにあります。専門用語をそのまま並べた資料は、説明会で紛糾のもとになります。噛み砕く力が問われるという意味では、資格の知識だけでは足りない領域でもあります。
管理費・修繕積立金の滞納状況の整理
滞納が発生している組合で、いつから、いくら、どの住戸で滞納が積み上がっているのかを一覧に整理し、時効の起算点や督促の履歴と突き合わせて表にする作業です。督促そのものや相手方との交渉には関与しません。
区分所有法にもとづく先取特権や、承継人に対する請求の扱いといった論点は試験範囲に含まれているので、知識としては対応できます。ただし、ここは境界が近い領域です。整理した資料をもとに督促文書を作成したり、滞納者と直接やり取りしたりすると、法律事務に踏み込む可能性が出てきます。作業を受けるときは「現状の整理と時系列の可視化まで」と範囲を書面で区切り、その先の対応は弁護士に引き継ぐ形にしてください。
この案件は、経験がなくても品質が出せるうえに、組合にとっての価値が明確です。滞納の全体像を誰も把握していない状態は珍しくなく、表にするだけで理事会の議論が進みます。合格直後の人が受けやすい仕事のひとつです。
逆に、経験がないうちは受けないほうがいい案件
線の反対側を見ておきます。次のような案件は、経験がない段階では避けてください。断ることは信用を落としません。範囲外を抱え込んで失敗するほうが、はるかに大きく落とします。
理事会での合意形成の支援。これは知識ではなく場のさばき方の仕事です。反対意見が出たときにどう扱うか、誰の懸念が本質的かをその場で判断する必要があり、場数がないと組合を混乱させます。
紛争が既に起きている案件。滞納、騒音、専有部分の使用方法をめぐるトラブルなどで、当事者間に対立が生じている状態での関与は、法律事務との境界が近づきます。他人の法律事件に関して報酬を得る目的で法律事務を扱うことは弁護士法第72条で制限されており、資格があるからどこまでも助言してよいという構造ではありません。関与の可否は弁護士に確認するのが筋です。
管理会社の選定支援。相見積もりの比較表を作るところまでと、どこを選ぶべきかを助言するところでは責任が違います。組合が何千万円単位の判断をする材料になるため、経験がない段階では比較表の作成にとどめるのが妥当です。
名前を出す意見書。総会で配布される、行政に提出される、対外的に公表される。この種の書類に自分の氏名と登録番号を載せる仕事は、後日その内容について説明を求められる立場になることを意味します。最初の1年は避けて構いません。
案件の「経験が要る度」を測る4つの質問
線引きを毎回考えるのは大変なので、問い合わせが来たときに使える判断基準を用意しておきます。次の4つに答えるだけで、受けてよい案件かどうかがほぼ決まります。
1つめ。成果物を読んだ人が、そのあと自分で判断するのか、それとも成果物がそのまま結論になるのか。差分表や集計表は前者です。意見書や推奨案は後者です。後者は経験が要ります。
2つめ。作業の途中で、誰かと合意を作る必要があるか。理事同士の意見が割れている場面に立ち会う必要がある案件は、知識ではなく場の運び方の仕事です。オンラインであっても同じで、経験がないうちは避けたほうがいい。
3つめ。対立している当事者がいるか。滞納者、騒音の当事者、施工不良をめぐる業者。相手方が存在する構図に入る案件は、法律事務との境界が近づきます。関与の可否は個別に確認が必要です。
4つめ。成果物に自分の氏名と登録番号が載るか。載るなら、内容について後日説明を求められる立場になります。載せる案件は、同じ作業でも別の仕事だと考えてください。
この4つのうち、後ろ2つに該当する案件は、経験の有無にかかわらず慎重に扱うべきものです。前2つに該当するだけなら、条件次第で受けられます。全部に該当しない案件が、合格直後の人が最初に狙うべき範囲になります。
正直に言うと、この基準を作らずに走り出す人がとても多いです。問い合わせが来た嬉しさで全部受けてしまい、3件目あたりで手に負えない案件に当たる。そこで信用を失うと、やり直しに時間がかかります。基準は先に作っておいたほうが安い。
データが示す、この市場の空き方
もうひとつ、市場側の事情を見ておきます。マンション管理士として実際に活動している人の年齢分布には、はっきりした偏りがあります。
また、試験合格・登録後、実際にマンション管理士として本業または副業を行っている人を年齢別に見ると、7割が60~79歳というアンケート結果も発表されています。 出典: studying.jp
活動者の7割が60代から70代という分布です。これは、定年後のセカンドキャリアとして選ばれている資格だという実態を示しています。同時に、40代以下の活動者が薄いということでもあります。
この偏りには実務上の意味があります。管理組合のオンライン化が進み、理事会をオンライン会議で開く組合、資料をクラウドで共有する組合が増えました。ところが、それに対応できる助言者が足りていない。オンライン総会の運用、電磁的方法による議決権行使の手続き、共有ドライブでの資料管理といった論点は、比較的新しい話題です。
つまり、実務経験の長さが有利に働かない領域が生まれているということです。ここは合格直後の人でも入れる余地があります。管理組合のデジタル運用を支援する仕事は、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事で扱われているような業務効率化の領域と接点があり、資格知識と組み合わせると独自の立ち位置になります。
副業として活動している人の割合そのものも、資格取得者全体の8%ほどにとどまります。
その中で副業でマンション管理士の業務を行っている人の割合をみると、資格取得者全体のうちの8%ほどです。 出典: studying.jp
競争が激しい市場ではありません。問題は競合の多さではなく、依頼者が資格者を見つける手段を持っていないことのほうです。
経験が浅いときの単価をどう決めるか
経験がないから安くする、という発想は捨ててください。安く受けると、依頼者は「安いなりの品質」を前提に扱います。そして一度提示した単価は上げにくい。最初の値付けは、その後2年くらいを縛ります。
代わりに調整するのは、範囲と納期です。同じ差分抽出でも、対象を規約全体ではなく主要な章に絞れば作業量は減ります。納期を2週間ではなく4週間もらえれば、確認に時間をかけられます。金額を下げずに、こちらのリスクだけを下げる方法があるということです。
下限の単価は計算で出しておきます。副業として年間に得たい金額を、実際に請求できる時間で割ります。週に平日夜6時間と土日8時間を確保できるなら週14時間、年45週で630時間。ただし見積もり作成や問い合わせ対応など請求できない時間が3割ほど乗るため、請求ベースは440時間程度です。年60万円を目標にするなら、必要な時間単価は約1,360円。ここに経費と税の分を見て1.3倍すると、下限は1,800円前後になります。
この下限が出ていれば、件数単価の案件も検証できます。差分抽出を3万円で受けるとして、作業に12時間かかるなら時間単価は2,500円。下限は超えています。20時間かかったなら1,500円で、下限を割っています。感覚ではなく数字で判断できるようになると、断る理由も説明できるようになります。
専門職の時間単価の水準を横に見ておくと、自分の設定が市場から外れていないか確認できます。ソフトウェア作成者の年収・単価相場のような職種別のデータは、在宅の専門作業がどのくらいの水準で取引されているかの目安になります。
依頼者はどこで資格者を探しているか
案件が取れない理由の多くは、競合に負けているからではなく、見つけてもらえていないからです。依頼者側の探し方を知っておくと、置く場所が決まります。
管理組合が探す場合、最初に当たるのは自治体の相談窓口とマンション管理士会です。理事長が個人で検索することもありますが、組合として外部専門家を入れる話になると、公的な窓口を経由する流れが多くなります。ここへの登録は無料か低額で、経験の有無を問われないことが多いので、まず済ませておくべき手続きです。
士業事務所や設計事務所が探す場合は、紹介が中心です。彼らは自分の顧客に責任を負っているので、知らない人には振りません。つまり、つながりを作る以外に入口がない。地域の勉強会や、資格者団体の研修に顔を出すことが、遠回りに見えて最短になります。
メディアや事業会社が探す場合は、オンラインでの検索と、業務委託案件が流通しているサービスの利用が中心です。この経路では「マンション管理士」という肩書きで探されるより、「規約チェックができる人」「不動産分野の記事を確認できる人」といった作業の切り口で探されます。だから、肩書きだけでなく、できる作業を言葉にして並べておく必要があります。
相談やアドバイスを仕事にする形の広がりはキャリア・副業・人生相談のお仕事に整理されていて、専門知識を相談という形で提供する仕事がどう成立しているかの参考になります。マンション管理士の知識も、突き詰めれば区分所有者と管理組合の困りごとに答える仕事なので、構造としては近い領域です。
3つの経路のうち、合格直後に最も早く結果が出るのは3つめです。公的窓口は登録から依頼までに時間がかかり、紹介は関係づくりに時間がかかります。オンラインの経路だけが、今日から動かせます。
実務経験の代わりになる3つの証明
信用の証明がないという1つめの壁は、経験を積む前でも埋められます。使えるのは次の3つです。
自分が住んでいるマンションでの関与
区分所有者として理事や監事を務めた経験があるなら、それは実務経験として書けます。輪番制で回ってきた1年でも構いません。総会の運営、管理会社との折衝、修繕の検討といった場面を、区分所有者の側から見た経験は、助言者としての視点に直結します。
これを実績として書くときは、守秘の範囲に注意しつつ、条件を抽象化して書きます。「築25年・120戸・単棟型の管理組合で理事を1期担当。管理委託契約の更新と、駐輪場の使用細則改定に関与」といった形です。組合名は出しません。
士業や設計事務所との協業
行政書士、司法書士、建築士、管理業務主任者といった隣接する専門職と組むと、案件の一部を担当する形で入口ができます。彼らの側にも、マンション管理の制度面を確認したい場面があるからです。
たとえば行政書士は、書類作成や許認可の実務で管理組合と接点を持つことがあります。業務範囲の重なりと違いを把握しておくと、どこを分担できるかの話がしやすくなります。行政書士の業務範囲は一度確認しておく価値があります。協業では、自分がどこまでを担当し、どこからを相手に渡すのかを最初に書面で決めておいてください。曖昧なまま進めると、責任の所在が分からなくなります。
書ける形にした知識のアウトプット
記事、資料、チェックリストといった成果物そのものを、実績の代わりに使う方法です。管理組合向けに「総会の準備チェックリスト」「規約点検の観点一覧」を自作して公開しておくと、依頼者はそれを見て判断できます。
これは実務経験の代替として、意外に強く効きます。依頼者が知りたいのは「何年やったか」ではなく「この人は何ができるか」だからです。成果物があれば、そこを直接見せられます。資格を取得した直後にできることを整理する考え方は、1ヶ月で取れる副業に役立つ資格8選|短期集中で即戦力になるでも触れられている、資格を仕事に変える発想と共通します。
最初の1件を取るまでの手順
具体的な順序を書きます。
第1に、受ける範囲を紙に書き出します。受ける案件、受けない案件、条件次第の案件の3つに分けてください。この一覧がないと、問い合わせが来たときに判断できず、勢いで受けてしまいます。
第2に、成果物のサンプルを1つ作ります。架空の設定で構いません。80戸・築30年・単棟型という想定で、規約の差分表を1本作る。実際の依頼で納品する形式そのままで作ってください。これが提案時の説得材料になります。
第3に、入口を3つ用意します。所属するマンション管理士会や自治体の相談窓口への登録、士業とのつながり、業務委託案件が流通しているオンラインの経路です。1つだけに頼ると、そこが動かないときに何も起きません。
第4に、最初の1件は範囲を狭く、納期を長めに設定して受けます。安く受ける必要はありませんが、範囲を広げないでください。初回で守るべきは利益より完遂です。副業の立ち上げ方の全体像は副業 始め方ガイド!星野ゆいが教える失敗しない4ステップとおすすめに手順として整理されているので、進め方の型として参考になります。
第5に、納品後に自分用の記録を残します。どの条件の物件で、何時間かかり、どこでつまずいたか。この記録が、2件目の見積もり精度を決めます。
見積書と契約で、経験不足を補う
経験が浅いことによる不確実性は、契約条件の書き方でかなり吸収できます。逆に言えば、条件を詰めずに受けると、経験の浅さがそのまま損失になります。
まず、作業範囲を「やること」と「やらないこと」の両方で書いてください。差分抽出の案件なら、「現行規約と標準管理規約の条文単位の差分を一覧にする」がやること、「差分の法的評価、改定案の作成、総会での説明は含まない」がやらないことです。後者を書いておくと、追加の相談が来たときに、断るのではなく別案件として提案できます。
次に、修正回数の上限を決めます。管理組合は理事会が月に1回しか開かれないことが多く、指摘が返るたびに1か月が飛びます。修正2回まで、それ以降は1回あたりの追加料金という形にしておかないと、1件の案件が半年続きます。経験が浅いうちは初回の精度が読めないので、ここは特に効きます。
そして、資料が提供されなかった場合の扱いを書いておきます。「議事録の欠落分については、提供された範囲で作業する」「欠落が3年分を超える場合は、範囲と金額を再協議する」といった条件です。実際の組合は資料が揃っていないことが普通なので、この一文があるかないかで作業量が倍違うことがあります。
支払条件も確認してください。2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、発注者は業務委託の際に給付の内容・報酬額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示する義務を負い、報酬は成果物を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払うことが求められています。「総会の承認が下りてから支払う」といった条件を提示されたときは、それが60日を超える枠組みになっていないかを着手前に確認します。条件を求めることは発注者の義務にもとづくものであり、遠慮する話ではありません。
1年目に積む記録と、2年目の広げ方
経験がないことは、1年で解消できます。ただし、案件をこなすだけでは解消しません。記録を残した人だけが解消できます。
案件ごとに残しておくべき項目は5つです。物件の条件(築年数・戸数・棟の形態)、依頼された作業の範囲、実際にかかった時間、つまずいた箇所、次回改善する点。これを1件ごとに1ページ書いておきます。
この記録は3つの用途で効きます。1つめは見積もり精度です。3件目あたりから、条件を聞いた時点で作業時間が読めるようになります。2つめは実績の提示です。守秘義務があるので組合名は出せませんが、条件を抽象化した一覧は提案書にそのまま使えます。3つめは自分の得意領域の発見です。規約系が速いのか、数字系が速いのかは、記録を並べて初めて見えます。
2年目に広げる方向は、記録から決めます。規約や議事録まわりの案件で速度が出ているなら、改定案の作成や規約集の整備という上流に伸ばす。数字の整理が得意なら、修繕積立金の見直し検討や管理委託費の比較という方向に伸ばす。得意でない方向に無理に広げると、単価は上がっても実質時給が下がります。
広げるときの注意点として、上流に行くほど判断責任が自分に寄ってきます。差分表から改定案に移る時点で、条文の効力について問われる立場になり、書類作成業務と行政書士法の関係、紛争性がある場合の弁護士法との関係を、あらためて整理する必要が出てきます。1年目に受けなかった案件を2年目に受けるときは、範囲の確認をもう一度やり直してください。
断る力が信用を作るという構造
在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見て、専門資格を持つ人が最初の1年でつまずく原因は、ほぼ共通しています。範囲外の依頼を断れないことです。
依頼者は、こちらの業務範囲を正確には知りません。マンション管理士に相談したついでに、滞納の督促や近隣トラブルの対応まで聞いてくる。ここで「それは私の範囲外なので、弁護士に相談してください」と言えるかどうか。運営者として見てきた限りでは、これを言える人ほど、その依頼者から別の案件で戻ってこられています。断ることは関係を切ることではなく、範囲を明確にする行為だからです。
もうひとつ観察していることがあります。長く続く人は、単発の作業ではなく「この人に投げると理事会が楽になる」という状態を作るところに時間を使っています。同じ差分表でも、理事会でそのまま配れる形になっているかどうかで、次の依頼が来る確率が変わる。経験の有無より、この一手間の有無のほうが、実際には結果を分けています。
そして額面の話も一度整理しておくべきです。仲介型のサービスを経由すると、成約額から一定割合の手数料が引かれます。年間で見ると無視できない額になります。手数料0%で直接やり取りできる導線を1本持っておくと、同じ予算で依頼者はより多く頼め、受け手は手取りが厚くなる。経験が浅いうちは単価を上げにくいぶん、この構造の差が効いてきます。
最後に、経験がないうちにやりがちな失敗をもうひとつ挙げておきます。無料で受けてしまうことです。実績を作りたい気持ちから「今回は勉強させていただくので無料で」と申し出る人がいますが、これは逆効果になることが多い。無料の作業は依頼者側でも優先度が下がり、資料の提供が遅れ、フィードバックも返ってきません。結果として、実績にも記録にもならない時間だけが消えます。金額を下げるなら、範囲を狭めたうえで有償にしてください。
実務経験がないことは、案件を選ぶ理由にはなりますが、始めない理由にはなりません。判断責任が依頼者に残る作業から入り、記録を残し、範囲を守る。この3つを回している人は、1年後には「経験なし」と名乗る必要がなくなっています。
よくある質問
Q. 合格したばかりで登録もこれからですが、仕事は受けられますか?
マンション管理士は名称独占資格なので、登録前に「マンション管理士」と名乗って仕事をすることはできません。ただし、議事録の整形や資料作成といった業務自体は資格の有無で制限されていないため、肩書きを使わない形での受注は可能です。名刺や提案書での名乗り方に直結するので、登録手続きは早めに済ませておくことをおすすめします。
Q. 実務経験なしで応募すると、やはり不利になりますか?
経験年数を条件に書いている募集では不利になります。ただし、議事録整形や差分抽出のように成果物の品質が確認しやすい仕事では、サンプルを提示できるかどうかのほうが効きます。架空の設定で構わないので、実際の納品形式と同じサンプルを1本用意しておくと、経験年数の話になる前に判断してもらえます。
Q. 管理組合の理事をやった経験は実績として書けますか?
書けます。輪番で回ってきた1期でも、総会運営や管理会社との折衝を見た経験は助言者としての視点に直結します。組合名は出さず、築年数・戸数・棟の形態・関与した議題という形で抽象化して書いてください。区分所有者の側から運営を見た経験は、外部の専門家にはない視点として評価されることがあります。
Q. 相談を受けているうちに、範囲外の話になったらどうすればいいですか?
その場で範囲外だと伝え、適切な専門家を案内してください。特に紛争が起きている案件での交渉や法律判断は弁護士法第72条との関係が問題になります。曖昧に答えると、後で責任を問われる立場になります。断ったうえで紹介先を示す対応は信用を落とさず、むしろ別の案件で戻ってこられることが多いです。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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